その“剣”に負けぬ“剣”をご覧に入れましょうと...。
「いいわ、あんたに見せてあげる!私の最高傑作を!」
壁にへたり込んでいる俺に向けて笑顔で言い放つリズベット。一瞬何のことかと惚けてしまうが、元々俺がここに来た目的を思い出す。
笑顔というものは本来攻撃的なものだと誰かが言っていた気がするが、確かにこれは強烈な精神攻撃(マインドアタック)だ。
「御眼鏡に適いましたか、鍛冶屋(ブラックスミス)さん?」
「ええ、それはもう。その生意気な鼻っ柱へし折って差し上げますわ、鍛冶屋(ブラックスミス)さん」
俺の[挑発/隠蔽工作]に対して更に攻撃的な笑顔で返答し、リズベットは店内へと去って行く。「それに御代は既に貰っていたしね」と背中越しにつぶやく彼女に苦笑する。義理堅いというかなんというか。
「ブラックスミスって皆こうなのかしら...」
「さぁ?単に二人が負けず嫌いってだけじゃないのか?」
言ってろ。
ややあって店内から一本の鞭を持って来たリズベット。彼女は俺の「あれ、両手剣は?」という疑問を口が発する前に人差し指を立ててこういった。
「悔しいけど、あの両手剣を見れば私の作った両手剣を見る必要は無いわ。おそらくあんたの期待には応えられるだけの物はウチの店には無い」
そういうと<イミテイトソード>を弄っていたキリトを強引に引っ張って俺の前に連れてくる。「なんだよリズ、まだ見てるのに...」と不貞腐れるキリトなどお構いなしだ。
「<エリシュデータ>と<ダークリパルサー>を出して」
キリトは背中に背負っていた黒い片手剣、俺のイミテイトソードを壊した剣をリズベットに渡すとアイテムストレージから更にもう一本の純白に輝く片手剣を取り出す。全身黒ずくめの彼には不似合いだな等と思いつつも、まずは差し出されたエリシュデータを鑑定する。
手にズッシリとくる重量感に相応しい攻撃力と耐久度、ドロップ品の中でも相当の上物、いや魔剣クラスの代物だ。
これを基に一本生成してみたい...という欲求をどうにか押さえ込む。別に俺の作った武器を潰したこの剣を製造という名の行為をもってこの世から永遠に抹消したいという意味ではない、あしからず。
その思考がSAOの稼動しているサーバーを介してキリトに伝わったのだろうか、鑑定が終わると彼はそそくさとエリシュデータを装備しなおし、背中の鞘に収めてしまった。
「あんた、今すごく悪い顔してたわよ」
「顔が悪いのは元からだ」
次は白い片手剣を受け取る。Dark Repulser、<闇の撃退者>いや、<闇を祓うもの(ダークリパルサー)>といったところか...。
これが彼女の最高傑作らしい。銘に刻まれたリズベットという名がより一層誇らしく映し出されているように思えた。
先ほどの魔剣に勝るとも劣らないステータス、これだけを見ても彼女が一級の鍛冶屋職人であることの証左となろう。
だが、この剣を持ったとき先ほどの魔剣には無い“暖かさ”を感じた。そして、それは彼女の作った他の武具達とも異なる感覚だ。恐らくは彼の為だけの剣なのだろう。ちらっとリズベットの方を見ると視線が合った。彼女がすぐに逸らすところを見るとそういうことなのだ。
鑑定を終えて丁重にキリトへ返す。
「いい剣だ、俺には作れん。キリト君、大事に使えよ」
「やけにあっさり認めるのね」
好敵手のあっけない敗北宣言に拍子抜けしたかのような反応を見せるリズベット。
「俺は“そういう気持ち”で剣を作ったことはないし、今のところ“そういう気持ち”を込める人間もいない」
「な゛っ!?」
SAOでは感情表現がオーバーになる仕様を最大限に利用した俺の反撃に燃え滾る炉もかくやという顔になるリズベットと鼻をかくキリト、頭にクエスチョンマークを浮かべるアスナ。
「どういうこと?」
「何、彼女がいかに素晴らしい鍛冶屋かということを褒め称えているだけさ」
「それは当然よー!なんたって私がもっとも信頼する友達なんだから!」
アスナの<究極神拳(フェイタリティ)>が決まりダメージは更に加速、いやリズベットのライフはとっくに0になっているから、そこにはズタズタにされたピンク髪の乙女がいた。が正しいか。俺は彼女に力なく握られていた鞭も鑑定し、いまだに動けぬ彼女に近づきこう囁いた。
「ジュースをおごってやろう(大人を舐めるな)」
その後リズベットに襟首をつかまれた俺は工房の裏口から外に叩き出され、決闘を申し込まれる羽目になる。初撃決着モードだったのは彼女が心優しい乙女である事の証であり、彼女の性格に付け込んで大人気ない真似をした俺は人の風上にも置けない屑野郎です。
彼女の鬼気迫、もとい美しいメイス捌きに一歩も動けず一撃で半殺、もといヒットポイントの半分を持っていかれるという恐ろしい目に遭いましたとさ。
「で、結局参考になったわけ?」
ヒットポイントが回復しきってない状態の俺が町のNPC商人が経営する雑貨屋で購入した果物の搾り汁を啜りながら問うリズベット。調子ぶっこき過ぎてた結果を十二分に味わった俺はそれに応える。
「おかげさまで、なんとか8通りまで組み合わせを絞り込めた。鞭の形状や耐久度から逆算すると<ノブレス・ローズブランシュ>か、さっき見せてもらった<スピリットオブエッジ>と同系統を使用するのがよさそうだ。」
右手に持った木炭で大判用紙かかれた数多の計算式と文字の羅列から蛇腹剣が製作出来そうものに印をつけていく。
「特に<ダークリパルサー>を見せてもらったのは大きいね。ここに書かれた数値を見てもらえば分かるけど合成時の武装ステータス差異によるジャンル分別を行う閾値の穴に大分迫れた。両手剣だとステータスは満たされるんだけど、鞭と相性が悪くてな。どの融合補助素材使っても駄目で、正直もうお手上げだったところだ。ただそのままでは使えないから何かしらの加工かこいつの原料素材を使って別の剣を...っと失礼」
俺は顔を計算用紙から上げると、矢継ぎ早に喋るあまりついて来れなかった面々を視界に捕らえて赤面する。
「つまり、リズベットのお陰で今まででは考えられないぐらい蛇腹剣が製作できる可能性が高まったってこった」
ちなみにこれが経験則から導き出した合成製造時に使う秘伝の略式な。と別の紙にそれを書いて3人に渡す。
「なるほど、この式の結果が±2未満の範囲になると合成した武器の双方の属性を合わせ持った武器が出来るわけですね」
そう言ってキリトは俺が書き殴った方の紙を見ては頷きながら俺の理論を理解し始める。頭の回転はかなり速いようだ。
基本的にゲームというもののステータス関係は四則演算が出来れば求めることができる内容であることが多い。何故ならば複雑にしすぎるとプログラム製作時にバグが出やすくなるだけでなく、プレイヤーの理解と回答が得られなくなるからだ。
ゲームとは製作者からの問いであり、製作者はプレイヤーからの答えを求める生き物である。ナーヴギアによる圧倒的臨場感と今までに無い体感型戦闘が可能なMMORPGであるソードアート・オンラインでもそれは変わらない。
“遊び”ではないが、これは“現実”ではなく“ゲーム”である。
様々な要素に非常に緻密なランダム要素が入るが、各種判定に使用される根幹は到って単純なものが多い。
「大雑把に言うと直刀系と曲刀系の剣を合成して日本刀を作ると思ってくれればいい。実際そこでの経験でこの式を導き出した訳だ」
比較的合成製造での難易度が低い日本刀の製作、それを4ヶ月続けてゲーム上での処理法則の解析を行ってきた。多少のランダムや武器別に色々係数こそ変われど基本は同じである事も確認済みだ。
問題は剣同士ならこの数値の調整が容易なのだが、異種武器同士の合成となると中々成功しない。理由は簡単、合成後の武器が実装されてるかどうかは分からないのだ。つまり、ゲームシステム上に蛇腹剣、もしくは同種の武器が存在しない限り俺は一生夢を適える事が出来ないといえる。
「あとは実際作ってみて出来るか出来ないかだ。こればっかしはSAO製作者、茅場晶彦の作ったプログラムに賭けるしかない。本来なら憎悪すべき対象に自分の夢が懸かってると思うと心中複雑だがな」
創造主の敷いたレールを必死になって見つけようとする俺のような存在は創造主にとってはさぞ滑稽な存在だろう。そしてまるで自分が新しい物を編み出しているかのような錯覚に捕らわれるほどこの“ゲーム”はよく出来ている。
そんな後ろめいた思考の渦は即座に中断させられた。
「でも、それだけじゃない。私の<ダークリパルサー>はそんなものだけで出来た“剣”じゃないわ!」
「そうよ、私のこの“剣”だってリズの気持ちがちゃんと籠ってる!プログラムで生成されただけの産物、そんなくだらないものなんかじゃ決してない!」
リズベットとアスナが叫ぶ。
確かにそうだ。武器を作った人間の想いはプログラムではない。リズベットの武器に籠った“暖かさ”は作られたステータスでもランダム生成された数値が作り出す幻影などでは断じてない。彼女が作り、封じ込めた想いだ。
考えれば考えるほど暗い方向に傾く思考を彼女達は容易く払いのける。ならばそれに応えなくては男が廃るというもの。
この場で俺は改めて決意を固める。
「そうだな...その通りだ。ならば俺は“執念”で創ろう。この想いで必ず“剣”を創り上げてやる!」
この駄文に最後まで目を通して頂き感謝感激、恐悦至極。
是でリズベット武具店編は終了。アスナが空気だったのは私の力量の無さの故に...。
また次話にて御目にかかれれば幸い。