間が空きましたが雪山編開始。
第五話 俺は冒険のプロだぜ!
唐突な話になるが、雪山登山を行う人間は馬鹿か、自殺志願者か、自分に対してよっぽどのサディズムに満ちている人間であるかのどれかだろう。
インドア派で精神的ヒキコモリのモヤシである現実の俺とは違い、外見こそ変わらないが筋力重視のステータスを持つこの世界の俺でも辛いのだ。
あたり一面美しい銀世界を堪能したのは山に入っての数分だけで、後は己の足を前に出すことに精一杯で景色を楽しむ余裕は消えうせ、むしろこの銀世界に対して憎悪にも似た感情を抱くようになった。
「雪が降った日の大人達の気持ちがよく分かった。あれは憎悪だ。これから雪かきをしなければならなくなってしまう原因に対しての...」
さて、どうしてこんな雪山にNotアウトドア派な俺が居るのかというと、2日前にリズベットの元を訪ねたところに話を戻す必要がある。
このときリズベットが製作した片手剣<ダークリパルサー>について彼女から直々に教えて貰った訳だが、剣はもとより製作に必要な素材も未だ市場に出回っておらず、その素材を入手するには大型ドラゴン系のモンスターの寝床(ご丁寧にも転移結晶の使用が不可能)に侵入する必要があること。
侵入方法はモンスターからの吹き飛ばし系ブレス攻撃を喰らい、ヒットポイントが危険域になるほど深い穴を落下する必要があること。
脱出方法は巣穴に帰ってきたモンスターに剣を突き刺して飛び乗り、十二分に上昇したところでドラゴンから飛び降りた後に転移結晶を使用すること。
聞いた際...そりゃ誰も気が付かないってと呆れ返ってしまった、普通はモンスター倒して戦利品としての入手が素材調達の手法なのだ。
本当はキリト達にもう一回行ってもらいたかったが、彼らの新婚生活をお邪魔するのは気が引ける。
話を伺うと彼らも相当に大変な目に遭って、結婚を機にしばらく休息しようと思っているらしい。それを聞いたら益々手伝ってくれとは言えなかった。(よりにもよって俺が潜伏していた第二十二層に居を構えるそうだ)
しょうがないので、事件以降顔を合わせていなかったある男に協力を依頼した。
ゲーム上での名前はSparrow(スパロー)、本名を鈴木一(すずきはじめ)という。
コイツも中学時代からの付き合いがある古い友人の一人だ。
「スズキハジメ...お前はスズメだな!」とケラケラ笑いながら付けられた渾名で呼ばれる度に不機嫌な面を作っていたが、キャラクターネームに採用している所をみるとある程度は気に入っているらしい。
アイツによって攻略組に誘われた際、スパローはギルドによる束縛を嫌ってソロプレイヤーとなり、攻略組への参加だけでなくこの世界を探検して回っているらしい。
よくお土産といって市場に出回っていない希少な武器製作用素材を持って俺の店に寄ってくれた。
事件が起きた際もエギルと同じく「誰か別の人間が作ったショーもない剣に殺られるぐらいなら、お前が作った最高の剣で死ねたんだ、本望だろう」と不器用ながら慰めてくれた男だ。
久しぶりに連絡をとって、用件を話すと二つ返事で来てくれた。
「俺は素材という形で供えることにしよう、楽でいい」と照れ隠しをする素振りを見て相変わらずだと安心した。
素材の入手方法を教えると「あー五十五層の...あれ俺も討伐したことあるぜ。そんな方法じゃねーと出ねぇのかよ、製作者の悪意を感じるな!」と言っていた、まったくもってその通り。
ここまでならばコイツに任せておけばいいだけの話に聞こえるが、素材入手時の状況を再現する為にはマスタースミス級プレイヤーとパーティを組む必要があった。
こういう理由で俺も雪山登山をする破目になったということだ。
「まぁそう言うな。俺という経験者がいるんだ、お前にとっての苦行は直ぐに終わるさ」
スパローは俺と違い苦も無く雪道を進みながら「俺は冒険のプロだぜ!」と前で能天気に叫んでいる。
実際その台詞は伊達ではなく既に俺はコイツによって助けられている。今羽織っているこの雪上迷彩柄のマントも、彼から借り受けたものだ。
高い冷気耐性だけでなく雪中での隠密度に補正をかける優秀な装備のお陰で殆どモンスターと遭遇することなくここまで来れた。
この装備はレアなモンスタードロップらしいが、何故か同じものを4枚も所持しており、その理由を聞くと「壊れた際の保険でもあるが、ソロで冒険してると遭難者と遭遇することも多くてな、彼らの為に余分に持つことにしている」とのこと。
<グラン・サン・ベルナール峠の救助犬(セント・バーナード)>か貴様は...。
お陰でお前も楽できているだろうと返されることが分かりきっているので口から出かかったこの言葉はぐっと飲み込んだ。
そもそも殺人剣を作っていた俺と比べれば数多の人命を救ってきた彼は聖人に等しい。
始まりこそ一緒だが、この2年で俺達が進んできた道は余りに異なることを認識させられる。
一人は正義感からこの世界に捕らわれた人々の解放を願い、一人は自由を求めて流離いの日々を続け、一人は己の探究心と好奇心から魔剣を作り出した。
自分の為に生きた二人が生き残り、他人の為に生きた一人が死ぬという結果。なんという皮肉。神様がいたとして、俺達を見たら悲劇と悲しむのだろうか、悪質な喜劇と笑うのだろうか。
この劇を楽しんでいるであろう[神/茅場晶彦]、お前は一体どう思う?
「にしてもフクローよ、死んでは居ないと分かっていたがどこにいたんだ?少し探したんだぜ、俺」
不意に声を掛けられる、第二十二層の森の中と応えるとあそこかーいいところだよなーと返ってきた。
別段涙もろくない俺だが、久々に会った心配してくれている旧友の台詞に目頭が熱くなる。
「お前に作ってもらった剣がついぞ折れてな、今も代用品なんだがいまいちシックリこねーんだわ。また作って」
周囲の冷気も手伝って急速に冷める。そういえばコイツはこういう奴だった。表情が消え去った顔で俺はアイテムストレージに収納していた<インドミタブルソード>を取り出し、渡す。
「今手元にある両手剣はこいつだけだ」
「お、懐かしい。フクローお手製キ印良品。そうそう、これこれこの感じ。ありがたく使わせて貰うぜー」
そう言いながらスパローは高い筋力要求値をものともせずインドミタブルソードを振り回し、最後にウムと頷いて装備しなおした。
コイツは高い耐久値を誇るタンク型プレイヤーには珍しい両手剣士であり、この剣を最初に見た時、「これぞ俺の求めていた剣!」と言って俺にもう一振り作ることを要求してきたのだった。
あれからコイツに渡した方の剣はどのような使われ方をし、どのような最後を迎えたのだろうか。
「人助けだ」
「え?」
「お前が作ってくれたあの馬鹿みたいに硬い剣。それが折れた理由だ」
顔に出ていたのだろう、コイツはこれで結構鋭いところがある人間だ。
「あれはお前から連絡を貰う前に行った第六十八...」
突如話を中断し、辺りを伺う。どうしたと尋ねようとするも人差し指を突きつけられ黙れと制止させられる。
「女の声だ...そう遠くないぞ」
「俺にはまったく聴こえなかったが...」
「隠遁鍛冶屋のお前と俺とじゃ索敵スキルに差があるだろーが、雪に音が吸われちまって何言ってるかは分からねーけど確かに聴こえた」
そういってマップを開くと指で丸印を描く。恐らくは聴こえた声の主が居るであろう場所だ。
俺が聴き取れなかった音を聴き取り、即座に場所に当たりをつける、派手では無いが一線級プレイヤーの実力を目の前で見せ付けられ、俺はコイツを頼って正解だったなと今更ながら思った。
「少し寄り道になるが放っておく訳にもいかねー、行くぞ」
「お人よしめ!」
「何か言ったかー?」「何も!」
駆け出したスパローの後を追う。剣が折れた理由を聞きそびれたが、今はそんなことを言っている場合ではない。
この世界で人が死ねば、現実では病院のベットで眠っている人間の脳にナーヴギアからマイクロ波が照射される。脳みそをレンジでチンされた人間の結果は言うまでも無いことだ。
助けられる状況ならば助けたいと思う。それに他人を見捨てて作った剣を供えたところでアイツは喜ばないだろう。
そう考えながら俺は疲労が蓄積している両足に鞭を打ち、雪道を駆ける。背中に背負った<イミテイトソード>をいつでも抜刀できる様、右手を柄に掛けながら。
この駄文に最後まで目を通して頂き感謝感激、恐悦至極。
リアルの立て込み、プロットの修正、色々あって遅くなりました。
待っていて下さった方々、遅くなって申し訳ありません。作者は基本的に劣化富樫だと思って下さい。
また次話にて御目にかかれれば幸い。