いい夫婦の日記念
これから書く話は、ライターである僕、豊永 明信による、ひと組の 超大型恋人同士
が揺るぎなき信頼を気づくに至った記録である。
11月22日は、語呂合わせ的に
「いい夫婦の日」
と言われている。
皆さんは、いい夫婦と聞いて、どんな夫婦を想像するだろうか?
言いたいことを気兼ねなく言える夫婦だろうか?
‘’バカップル‘’、‘’万年新婚夫婦‘’などと 揶揄されても、友達だった頃、あるいは付き合い始めた頃のように、仲良しでいられる夫婦だろうか?
常にお互いを敬い、家事なども当然のように分配できる夫婦だろうか?
どれも正しいが、僕はそれ以上に必要な条件があるのではないかと考えている。
その考えに至るまでの経緯を、ちょっとだけ書かせていただきたいと思う。
話は僕が高校の終わり頃にさかのぼる。
東京の下町、モチノキ町。
渋谷や原宿、新宿など23区に比べると華やかではなく、どちらかといえば地方都市に近い規模だが、緑豊かで住み良さや近所のネットワークは都内トップクラスの町だ。
この町には、僕の高校時代から今日まで縁がある友人が住んでおり、時たま同級生と遊びに来ていた。
駅や商店街が近いところに住宅街があり、二階建てで、レンガの門に庭があるごく普通の一軒家が友人の家。
彼の家の近くでドアホンを押すと、穏やかな雰囲気の婦人がドアを開けてくれた。
「あら…いらっしゃい、豊永君!」
笑顔で出迎えてくれたのは、友人のママさんである華さん。普段は
「こんにちは、ママさん。いつもお世話になります」
「ちょっと待ってて」
僕の用件を察知したかのように二階から大声で華さんが呼びつける。
「清麿〜、豊永君がいらしたわよ!?すぐ降りて来なさい!?」
しばらくすると、黒髪に細身の青年が呆れたように降りてきた。背はそこそこ高く、顔も羨ましいくらいイケメンである。
「ったく、大声でうるさいな〜。豊永、お前来るなら携帯に一通くらい連絡いれろよ」
彼こそが高校から知り合い、三年間同じクラスで勉強した友人、
モチノキ町で生まれ育った清は小学校の頃から、外国の博士が書いた論文をスラスラ解読できてしまう天才少年であり、中学、高校と常に成績は学年トップ3に入っていた。
おまけに生身での喧嘩もジムのトレーナーに
『このまま鍛えれば複数階級で世界チャンピオンになれる』
とまで言わしめるほど強いし、人柄も頭の良さを鼻にかけず謙虚な人気者だった。
「ぼやかないの。せっかく来てくれたんだから、お部屋に入れてあげなさい。
アルバイトもお休みなんだし、出かけてきてもいいわよ?」
華さんからのお許しをいただいて、僕は清の部屋に入れてもらった。
部屋はとても綺麗に整とんされており、ぶ厚い本が棚にたくさん並んでいる。Hなモノどころか、芸能人のポスターもない、悪くいえば超がつくほど地味な部屋だった。
そんな清の机には一枚の写真があった。遊園地の観覧車をバックに、彼とロングヘアーが特徴でモデル級のスタイルを持つ美人が並んでいる。隣に並んでる女の子が、僕らの2学年上の先輩であり、今をときめくスーパーアイドル…、
歌や演技はもちろんだが、スポーツ万能で料理も上手。弟しかいない僕にとっては優しいお姉ちゃんのような存在で、清にとって何よりも大切な恋人だ。
1年生の秋に高校の文化祭があり、それが終わってからお付き合いが始まった。
卒業してからは仕事が忙しいのでなかなか会えないそうだが、お互いの誕生日やクリスマスは一緒に過ごしているらしい。
僕は大好きな格闘技を中心に記事を書くライターに、清は日本最難関の東映大学(東京大学)への特待生として進学がきまっている。しかもアパートやマンション暮らしではなく、アルバイトとクイズ大会で手に入れたお金で家まで建ててしまったんだから驚きだ。
「よかったね〜!!」
「あぁ、いろいろあったけどな」
今をときめく芸能人と天才高校生の交際発覚で、当然世間はざわついた。それが元で関係が終わりそうになったこともある。
あげくの果てには、恵ちゃんの卒業後に闇営業報道まで出たくらいで、学校でも当然その話題で持ちきりになった。
『まさか大海先輩までやってたなんて…』
『写真まで出たら、擁護のしようがないよね…』
クラスではもちろん、学校中で心ない声が聞こえた。しかし、僕の真後ろの席にいた清がすくっと立ち上がり、話していた集団の方に向かっていった。
『なぁ、本当に
『写真まで雑誌やネットに出回ってるんだ。仕方ないだろ?』
次に出たあるクラスメイトの言葉が、僕がライターを志す動機にもなった。
『高嶺、先輩の彼氏だから庇ってるだけなんじゃないのか?アイドルが恋人だからって、自分も有名人気取りでいるとはいいご身分だよ』
その言葉に清が声を荒らげたのは、言うまでもない。
『そんなんじゃない!週刊誌の記事やSNSの内容だけで決めつけて、それで本当のファンだって言えるのか!?
お前らもめ…、大海さんの歌や演技に勇気や元気をもらったんだろ?なのにどうして自分でもっと考えようとしねえんだ!!』
席で眠っていた僕にもはっきりと熱い気持ちが伝わった。
清は仲間思いで、筋が通らないことに黙っていられない男なうえ、誰にでも優しくて何にでも一生懸命な恵ちゃんがデマで追い詰められていることが我慢できなかったのだと思う。
ましてそれが自分の愛する女の子なら、なおさらだろう。
それに同調するかのように、クラスメイトの エータこと
『記事だけで決めつけるのは、ナンセンスだな。やったことは許されないことだけどよ、何があっても応援し続けるのがファンじゃねえのか?』
それから2人と隣のクラスにいる
それとなく、僕は尋ねた。
「清が真剣になるのはわかるけど、なっつみーはどうしてそこまで真剣になれるの?」
「メグ先輩の
一瞬、沈黙に包まれた。
「あんたが、いじめられるリスク背負ってまで高嶺とメグ先輩の恋を応援し続けてるのはどうして?」
その質問に、一瞬面食らってしまった。
確かに、僕は出会った時から清には時々うっとおしく思われていたが、なんだかんだ言われても泳太やなっつみーと一緒にいる。
天才高校生の名を欲しいままにしているし文武両道で外見も良い。
そして恵ちゃんという高嶺の花を彼女にしている。
でも僕はそんな事は正直言って、どうでも良かった。
何回かモチノキ高校の
恵ちゃんもテレビで見せる笑顔やラジオで聴く声とは全く違う。別れる時も、お互い寂しそうにしていた。
その光景がたびたび目に焼き付いていたことと、なっつみーの質問で僕は思い出した。
(清と恵ちゃんが2人でいる時心から幸せそうな感じだし、そんな2人には絶対に結ばれてほしい)
そんな思いから僕は色々なところに電話をし、聞き込みを始め、騒動に関わっていた関西の有名コンビ『晴れ晴れ突撃隊』の2人に真相を聞くことができた
2人ともファンサービスが大変よく、小さな子供や車イスの観客を目にすると嫌な顔を決してせず必ず目線を合わせて会話をするので冠番組でいっぱいの売れっ子コンビだった。
ボケの
『知り合いが経営するバーの創立記念会でライブをやってほしいと頼まれて、会社(2人の所属事務所)のオーナーから命じられて
色々な事務所の人たちに声をかけ、恵ちゃんにもオファーを出したのやけど、仕事が立て込んどるよってに断られたんや。
しゃあないなと思って俺たちと事務所や賛成してくれた芸人達で歌や漫才などをやったんやけどな、それから数ヶ月後に、知り合いと店全体が陰で半グレの詐欺グループと
そのライブの出演料もグループに上納した金の余り物やったんや。
仕事がなくなることが怖なってそれを言えんと、オーナーに嘘の報告をしてもうて、今のようなありさまになって訳や。』
ツッコミの宮本さんも続いた。
『それで逮捕を免れた従業員が逆恨みをしたのか、恵ちゃんや他の断った芸能人のスキャンダルを事務所や雑誌に流したらしいんや。
最初の段階でほんまのことを言わなあかんかった。
後輩達が‘’ファンのみんなのためにも、ほんまのことを言うて、世間の皆さんにお詫びしましょう。‘’
って声を上げてくれたちゅうのに、俺たちが人気に溺れて良心を忘れて、ほとぼりが冷めるまで誤魔化そうとしたばっかりにこんなことになってしもうた。
恵ちゃんもオファーを蹴ったみんなも、ほんまに人気を鼻にかけへんええ子ばっかりやのに…。ほんまに情けない』
2人とも神妙な様子だった。テレビや営業で見せる笑顔はそこにはなく、ただうつむくばかりだった。
例え犯罪を犯した訳ではないにせよ、一つのスキャンダルや失敗でこれほどまでに非難を受ける…。
だからこそ人一倍普段の言動に責任や品が求められる。
恵ちゃんや突撃隊の2人のような有名人は、それほど心身ともに厳しい環境に身を置いているのだということを、まざまざと感じた。
そして、僕がこれから進む道は華やかな部分だけではなく、厳しさや葛藤などありのままを追いかけなくてはいけない職業なのだと、改めて確認したことを思い出す。
最後に2人から真実を話すきっかけをくれたとお礼を言われ
『記者会見で公にするまでは絶対に、誰にも今日話したことを他言しないでほしい』
と懇願され、その日は解散になった