色々あって当初考えていた描写と幾つか変えてったら時間かかってしまいました。
皮肉表現多めな内容に変えてしまいましたが……吉と出るか凶と出るかで毎回ビクビクものな今作ですよ…。
『敵にとっての不幸は、味方にとっての福音である』・・・という類いの言葉は、洋の東西を問わず、時代や状況さえも関係なく、人類社会の中で長く使われ続けてきた戦時下と平和な時代との違いを現す表現の一つであり、これから先も人類の歴史上で長く使われ続ける真理の一つであるのかもしれない。
だが戦争というものは往々にして、通俗的な戦争の悲惨さを現す警句を裏切ることが多いもので、敵にとって不幸な出来事が、味方にとっても大して幸福という訳でもなかった事例が山ほどあるのが戦争の現実というものである。
この時の作戦もまた例外ではない。
オーブに派遣されたザフト艦隊を挟撃させるため、艦隊に牽引されて長躯侵攻してきていた《X-1デストロイ》の巨砲により、命の叫びを上げながらザフト軍パイロットの肉体をミクロサイズにまで蒸発して消滅させられた直後のこと。
艦隊にワイヤーを繋いで牽引させていた連合艦隊の旗艦ブリッジでは、先刻のスティング・オークレー“だったモノ”が成した戦果を、悲鳴混じりの声で上官に報告をあげていたのである。
「艦長! ザフト偵察機と思しき飛行MSを感知、1号機が発砲して撃墜した模様です!」
「エネルギー回路の出力状況は!? 回線は負荷に耐えられそうなのか!?」
「出力87パーセントまで上昇して停止! 安定しました、先の砲撃で臨界まで至る心配はありません!」
「・・・・・・なんとか、凌げたか・・・・・・だが、そろそろ限界だな」
旗艦の狭いブリッジ内の左側が当てられていた、即席のデストロイ移送作業指揮センターで数人の作業員たちがモニターに表示される数値を血走った目で睨み付け、報告を受けた艦長が顔色を回復しきれていない表情のままで軍帽を脱ぐと、顔を一煽ぎする光景が展開されていた。
今の彼らの会話を見ても分かるとおり、地表の7割近くを覆う大海原をザフト軍の警戒網を掻い潜ってデストロイを輸送することは然程難しくはなく、むしろ移送中にデストロイが暴発するより先に目的地まで送り届ける移送作業それ自体の方が遙かに難易度が高い作戦だったのが、今回セレニアが立案したオーブへの援軍派兵だった。
もともとデストロイは、これほどの航続距離を単独移動することを念頭に造られた機体ではなく、先のヘブンズベース戦では少ないながらも損傷を受けている。
自分たち牽引艦隊の限界、デストロイパイロットたちの限界。
そして・・・・・・他の何より機体の限界はすぐそこまで迫ってきていた。
これ以上は側に居続けることは、他の誰より彼ら自身にとって危険すぎる域に達していたのである。
現状ザフト軍の目は、事実上の離反されてしまっている地球上の国々すべてに対して向けられており、少数の彼らで地表のすべてをカバーすることは不可能ではあったものの、もし発見されてしまった際には極度の興奮状態になったままのエクステンデッドたちを押さえる術が彼らにはない。
まるで、残り時間が表示されない超巨大な時限爆弾を運ばされているような状況に、艦長を初めとする艦隊クルーたちは胃の痛い思いを味わい続けさせれる航海だったのだ。
実際、ヘブンズベース戦に投入されて生き残ったデストロイは5機だったが、今の彼らが切り離し作業を行っているのは3機のみ。移送中に2機までが脱落している。
過半数以上が目的地まで到達できたのは奇跡と言っていい。最悪、1機だけでも残ってくれれば行幸だという前提で運んできたほど危険極まりない代物になった後の存在が、今のデストロイ部隊なのだから・・・・・・。
だが、それも遂に終わりの時きが訪れたらしい。
「アンカーを切り離せ! 《Xー1デストロイ》1号機からパージ!」
「続いて、2号機、3号機のパージを開始せよ! 急げ! 一度でも高エネルギー砲に火を入れてしまった今のデストロイは、いつ爆発するか分からないんだぞ!?」
甲板に響き渡る部下たちの悲鳴にも似た指示を聞きながら艦長は、ここまでの苦難に満ちた航海を共にしてきた自分たちに背を向け、敵が現れるであろう方向へ向かって突き進んでいく、最期には自爆特攻という形でしか人生を終えることが出来なくされてしまった少年たちに感傷を覚えずにはいられなかった。
「・・・運が悪かったな、少年たちよ。
今少し早く現司令が着任していたら、今よりはマシな状態で戦いに臨むことが出来たかもしれなかったが、その状態にされた後ではどうすることも出来んそうだ。
ワシらを恨むなとは言わん、存分に恨め。君たちにはその資格がある。
だができれば、地獄へ引きずり込むのは二十年ほど先に願いたいものだがね・・・・・・」
勝手な言い分と承知で、司令官はスティングたちの背中に向かって、そう呟き。
彼らの乗る機体群にとって、最後の栄光ある出発式をブリッジクルー総員で敬礼と共に見送った。
ファントム・ペインは、連合軍内部にブルーコスモスが確保した私的使用するための戦力であり、ジブリールにとっては自分個人の私兵部隊と言った方が正しい存在であり。
古今、独裁者というものは自分を守る最後の盾となるべき子飼いの親衛隊だけは、決して手元から離したがらないのが一般的な人類史のパターンでもある。
当時はまだ【地球連合軍の臨時司令官代理】という肩書きを与えられながらも、なんら目立った功績を上げていなかった時点でのセレニアには、指揮権をよこすよう求めるには危険すぎる立ち位置だったのがスティングたちエクステンデッドの少年少女で、ジブリールに依頼するという形で作戦に組み込むことまでは可能だったが、それ以上を求めて要らぬ不興と不信感を買うのは避けたい時分に【人間を辞めさせられる最終調整】が行われてしまった以上、セレニアが彼らにしてやれる事はなにも無かった。
彼らの死と自壊を『無駄死』ではなく、『敵と戦って道連れにして倒した相打ち』という形で終わらせてやるのが、せめて彼らの改造された人生と役割に価値を与えてやれる道であろうと、セレニアは今回の作戦に彼らを使うことを思いついた。
今のままではスティングたちエクステンデッドは、ただ『戦争の被害者』『悲劇の少年少女たち』で終わってしまい、彼らが成した軍人としての強さも貢献も誰の目にも賞賛されること無きまま、人道色で飾り付けられた安っぽいヒューマンドラマの一説として語られる未来が訪れるだけであろう。
それも彼らにとって人生の一部ではあろうが・・・・・・彼らが強制的に奪われ、与えられた『戦士としての彼らの人生』にも価値はあり、他者にはマネのできない凄みがある。
それを示させてやってから死なせたくて、セレニアは今回の作戦に彼らを組み込む策を思いついた。
丁度、目立つ“陽動”が必要だったという事情もある。その点で彼らのインパクトは最適だった。
そして無論のこと、セレニアが行っていたデストロイを用いたオーブへの援軍派遣を、敵に気取られぬため打っておいた策は、これ一つだけではない。
ヘブンズベースからアフリカ方面を通って先行突入させた、少数の先遣艦隊もその一つだ。
少数で警戒網を突破して赤道近くに出没した、この艦隊をカーペンタリア基地が感知して、ジブラルタル基地へと敵発見の報を送ったものこそが、デュランダルの受け取った最初の一通目の報告だったのである。
デュランダルは情報収集と索敵の拡大を命じると共に、ジブラルタルに駐留する戦力の中枢要員たちを急ぎ作戦会議の場へと招集をかけた。
その中には、アイスランドでの死闘を殿として生き残ったばかりのミネルバの艦長タリア・グラディス。
――そして、フェイスに昇進したばかりのシン・アスカも含まれていた。
居並ぶ将兵たちを前にして、デュランダルは重々しく聞こえないよう配慮した声音で、こう宣言する。
「ともかく我々はオーブ政府に対して、彼らセイラン父子の引き渡し要求を優先する」
――と。
その方針をデュランダルが将兵たちに宣言するため招集をかけ、参集するまでに僅かな空白時間が生じていた頃。
プラント議長としてカーペンタリア基地が傍受した報告の内容と同じものを、別の場所で受け取っていた別の国の国家元首が一人いた。
「なんだと!? ジブリールがセイランに援軍を!?」
父親とは似つかぬ黄金の髪を靡かせながら、オレンジ色の瞳に激情を宿らせた凜々しい表情でカガリは、敵中に侵入して情報収集に当たってくれていた部下――いや、同士の一人から母国にまつわる報告を聞かされ、思わず声を荒げて叫び声を上げていた。
オーブ首長国連邦代表『カガリ・ユラ・アスハ』というのが、彼女の名である。
先の大戦で死んだ先々代の国家元首ウズミ・ナラ・アスハの娘であり、今次大戦初期におけるオーブ国家元首の地位を継承していたはずの姫君。
そして現在は、友好国スカンジナビア王国の海底秘密ドックに身を潜めているアークエンジェルと行動を共にするため、オーブ連合首長国の国家元首という立場を一度は捨てた少女でもあるのが彼女だった。
「本当か!? それはっ」
『ああ、間違いない。そしてその通信内容は、もうザフトにも知られているだろう』
カガリが見上げる先のモニター画面に映し出された、オーブ軍服をまとう浅黒い肌の男が厳しい表情を崩さぬまま、無き主君の後継者であり、世話のかかる今の主人でもある少女からの質問に短く返答する。
『レドニル・キサカ』というのが、この国籍が曖昧な風貌を持つ男の姓名だ。
オーブ陸軍の一佐という公的な地位身分を有していたが、一方で前大戦時から中立国の姫君という素性を隠して、反ザフトのゲリラ組織に参加していたカガリの護衛兼スポンサーとの繋ぎ役という役割を果たしていたダーティーな任務を主に担当してきた人物でもある。
その在り方は今次大戦でも変化しておらず、対ロゴス大同盟軍を結成してヘブンズベース攻めのために連合からの寝返り組までもを含んだ大艦隊によって攻略作戦をおこなう寸前に他国の軍人と偽って大同盟軍の一員として内部情報を調査して持ち帰り、今なおザフト勢力内の何処かに潜んで情報収集のため隠密活動を続けてくれている。
また、ヘブンズベース戦の直前に行われた大包囲作戦の中で、シンによってフリーダムを失わされ、艦そのものにも大きな痛手を負わされたことで、修復作業が完了するまでは見つからぬ事を最優先して穴蔵の底で大人しくしている事しかできなくなっていたアークエンジェル隊にとって、現在唯一の外の情報源を持ってこれる位置にいる人物であり、敵の最新情報に最も明るいのも彼なのは間違いようのない男性軍人でもあった。
その彼が言うのだから、この情報に間違える余地はないということだろう。・・・もっとも・・・
『既にオノゴロ沖合に、カーペンタリアから発信した艦隊が展開するため急行中らしい。
・・・まぁ、あれだけ長ったらしく勿体ぶった長交信をおこない続けていたのではな。
余程のアホウでもない限り盗聴するだろうし、知れば艦隊を出撃させるのが妥当な判断というものだ』
「そんな! ウナト・・・何故そんな愚かなマネを! なぜだッ!?」
拳を手のひらに打ち付けながら、オーブの宰相にして自分が国内にいる間は政策を手厳しく批判されることが多かった人物たちの、あまりにも浅はかすぎるだけと思える行動にカガリは本心から怒りと憤りを感じさせられていた。
ジブリールからセイラン親子への長交信が、“察知させるため”わざとやらせていた誘いの手であったことに、彼女は全く思い至ることができない人物だったからだ。
正直に想いを伝えることはできるが、腹芸が全くできないのが、政治家としての彼女がもつ大きな欠点だった。
それは一人の人間として生きるなら、単なる一民間人女性として生涯を終えるなら、賞賛に値する美徳となりえる特質ではあったものの、大勢の上に立つ者としては『部下から好かれやすい』それ以上の長所にはなりようのない側面も有している事実を認められない人間なのだ。
対極に近い立場にいるロゴスの姫君セレニアが、もし会談することがあったとしたら、肩をすくめて賞賛だけはしながらも、問題点の指摘は痛烈を極める展開が待っていたかもしれない。
「正面からバカ正直に、力ずくで城壁を突き破ろうとばかりしていたら戦争になるしかない。
オーブの姫君は専守防衛を唱えながら、血をお望みか?」
――と。
とはいえキサカは、セレニアではない。
傍らに立って彼女を支えるオーブ軍人アマギ一尉も同様だろう。
『まだ戦闘になるとは限らない。セイランはザフトに何の回答もしていないのだからな』
「しかしっ! このままではオーブが! また先の戦争と同じように・・・・・・っ!!」
『落ち着け。ひとまずはセイランの対応を見てから出ないと、こちらも動けん。
彼らとて、もはや当事者の立場にあることは自覚せざるをえん状況である以上、なにか考えがあるかもしれんのだ。だから今は待て、いいな?』
「くっ・・・・・・!!」
歯がゆさに唇をかみしめる彼女の前で通信は切られ、その会話を横で聞いていたマリュー・ラミアスは危機感を強めさせられ、整備班のマードックを呼び出させるとアークエンジェルの修復状態について確認を取る。
「すべての修復作業が終わるのに、あとどのくらい掛かりそうなの?」
『んー・・・・・・エンジン、電気系、補給、もろもろ含めると最低でも二日は・・・』
二日間――この時間が宝石よりも貴重な状況下で、アークエンジェルが出航できるようになるだけに、それだけ掛かるのだ。
しかも虎の子のフリーダムを失った今のアークエンジェルには、最強のパイロットであるキラもいない。先日ラクスからの交信を受けて宇宙へと飛び立ったまま帰ってきていない。
その際に、前大戦時からカガリの愛機だった《ストライク・ルージュ》を使って打ち上げを可能にしているため、現在のアークエンジェルにはオーブ軍から脱走してきた一部部隊用の可変MS《ムラサメ》が数機分しか空きがない。
ムラサメは決して悪い機体ではないが、可変機ゆえに構造上の特性として防御力に難がある。
オーブを救うためには、オーブ全軍で立ち向かわなくてはならず、カガリに死なれてはそれが不可能になってしまう。
アマギやキサカ、オーブ軍に残留しているソガ一佐なども部下からの人望こそあれ、全軍の指揮権を正式に与えられた人物ではない。
兵たちの中にはウナトたち政府の命令と、現場のキサカたちの命令のどちらに従えばよいかで判断に迷う者も必ず出てくる。
そうなっては勝てない。いや、守り切ることすら不可能になってしまうだろう。
なんとかしてオーブ全軍が一枚岩になり、ザフト軍の侵攻に対抗しなければ勝ち目は0になってしまうしかないのが、現在のオーブ軍とザフト軍が置かれた状況の差だったのだから・・・。
その頃、今一人の当事国の長たる人物もまた、部下たちを前にして『連合からオーブへの援軍派兵』という情報に対する自軍の方針を語っていた。
「ともかく我々はオーブ政府に対して、彼らセイラン父子の引き渡し要求を優先する。
彼らが結託しているロード・ジブリールには、ヘブンズ・ベース戦の前に明かした行為への責任。また既に得られた様々な証言から、彼の罪状は明らかなのだ。
そのような人物と、政権を維持するため手を組むなどという行為は到底許せるものではない」
現場指揮官レベルの前では初めて語られた、議長からのオーブに対する痛烈な批判に、居並ぶ将兵たちにも動揺が走る。
そんな議長の前であるにも関わらず、隣の同僚と私語する姿を晒す部下たちの混乱を収めるようジブラルタル基地司令は一歩前に出て皆の注目を集めると、厳かな口調で具体的な作戦案を説明し始めた。
「既にカーペンタリア基地から、こちらの要求を携えた艦隊が出動しているが、万一に備えて我らも非常態勢を取る。先駆けてミネルバには、ただちに発進してもらいたい」
「本艦が――ここジブラルタル基地からでありますか?」
「連合がオーブに援軍艦隊を派遣したことが確認されているのだ。奴らも本気だということだろう。こちらも相応の戦力を以て応じなければ、オーブに対して交渉のテーブルにも着かせられん」
「それは・・・・・・まぁ、たしかに」
タリアが多少、不満ありげな声音で語った反論を、ジブラルタル基地司令の言葉で押さえつけられ、曖昧な言葉ながらも納得して引き下がる彼女。
たしかに、正論ではあろう。
自分がオーブと戦うことを、感情的な理由によって嫌がっている部分があるのは認めざるを得ない。
アイスランドから戻って間もない自分たちを出動させるより、地理的に近いカーペンタリアから基地防衛用の戦力も追加で出させた方が早い。・・・それらの理屈が口実でしかないことも自覚しているところでもある。
だから黙り込む。
そして、自分たちの艦長までもが黙り込んでしまった状況の中。
オーブからの難民出身者である、シン・アスカが受けた衝撃は大きかった。
今までは確かに幾度もカガリやアスランと衝突することがあったとはいえ、もともと彼がオーブを捨ててザフト軍に入った理由は『守るため』であり、オーブの掲げる『他国を侵さず侵略せず』という理想では、いざというとき身勝手でバカな相手の侵略国から普通の人たちを守り抜けない現実を目の当たりにしたからこそ、『身勝手でバカなことをする連中を叩き潰して戦争を辞めさせられるザフト軍』に志願入隊する道を選んだのが彼だったのである。
それは見方を変えれば、オーブの理念では『守り切れない』と判断したのであって、『オーブの理念は間違っている』と否定した訳ではなかった。
ただ、『力が足りない』『力があっても、悪い奴らを倒すために使えないと守れない』
そういう方向での『守り方の違い』によって、自分の家族を救えなかった父の意志を継ごうとするアスハ政権とは相容れなかったが、『オーブという祖国』まで一緒くたに罵倒したことは一度もない。
それが今までのシンが、オーブに対して放ってきた罵倒の総論であり、抱いてきたイメージの総括だった。
そんなシンにとっては、初めて『祖国の汚い部分』を断罪する立場で見せつけられて語られて、表情を強張らせたまま言葉を失わずにはいられない彼の反応を“確認した後”
デュランダルは堅くなった心を解きほぐすように、穏やかな表情と口調を作り直して自らのオーブ評を部下たちの前で披露した。
「――だが今回のことは、セイラン親子と彼らに追従する一部の楽観主義者たちによって引き起こされた凶行でしかないと私は考えている。
少なくとも、ジブリールに絡んだ事々の数々は、オーブ国の総意ではないだろう」
ハッとなって俯かせていた顔を上げたシンは、示し合わせていたかのように真っ直ぐ自分の瞳を直視して微笑みかけてくれた議長の言葉に、憎しみに染まりかけていた心の方向性が“別方向へと逸らされる”のを強く感じ取って、暖かいものが胸の奥でジワジワと広がっていくのを実感させられていた。
――実のところ、デュランダルは他の上級将校たちと違って、オーブへと派遣された連合の援軍艦隊そのものは、左程重視しているという訳ではない。
ヘブンズベースから大艦隊を南下させてオーブへと援軍に赴かせようとすれば、ジブラルタル基地かマハムール基地の索敵網を完全にすり抜けることは不可能だからである。
おそらく、警戒網では探知しきれない程度の小部隊だけで先行出撃させ、わざとカーペンタリア基地にオーブへの援軍に向かうよう見せかける姿を目撃させたのだろう。
その証拠に、発見された敵艦隊がその後、両軍どちらかを攻撃したという被害報告は一切届いていない。
ならば、オーブへの援軍艦隊発見の報は、自分たちを釣り上げるための餌と見るのが妥当だった。
オーブのセイラン家に対する冗長な長交信も、自分に探知させるためを目的として、わざとやらせていたと考える方が状況的にも説明が付きやすい。
そして敵が、このような手段を使ってきた理由と目的は、現在の戦況から見て二つに一つ。
1つは、艦隊を餌にしてプラント最高指導者の地位にある自分を誘き出し、戦場で倒すことで戦局を一気に決しさせる、戦争の早期終結を狙ってのもの。
2つめは、援軍艦隊を迎撃させるため軍を出撃させ、軍の主力部隊と敵拠点とを分断して個別に攻略するヘブンズベースの再現を意図してのものの、二つに一つである。
どちらも有り得そうに感じられ、どちらを想定して対処するかは悩ましい所でもあった。
まさにセレニアの要求通りの状況に、デュランダルは陥らされていたのだ。
敵が打ってきた一つの手だけで、自分は選択を強要されざるを得ない立場に立たされていたのである。
敵の書いたシナリオ通りに動かされるのは愉快なことではなかったものの、現実に敵の動きと兵力数は脅威であり、対処しないわけにはいかない。
かといって、安易にどちらかの道だけを選んで大兵力を移動させるのはリスクが伴う。・・・・・・どうするか?
そう考えたデュランダルが選んだ最善の一手が、ミネルバ隊のオーブ派遣艦隊増援だった。
ミネルバ一隻だけなら、他の艦艇は敵奇襲に備えて拠点防衛戦力として残せる。
一方で、少数の兵力を援軍として向かわせるなら少数精鋭でなければ意味が無い。
そのどちら共を両立させる存在が、ミネルバ隊だった。
彼らであれば、敵にとっても易々と突破できる戦力ではなく、またジブラルタルに残る自分を殺すことが目的だった場合でも、彼らならば内側と外側で挟撃することが可能になる。
その為にも、今この場にフェイスとはいえパイロットでしかないシンを同席させるため呼び出しておいたのだ。
相手にとっては祖国であり、一度は捨てたとはいえ生まれ育った故郷でもある。敵対するだけならともかく、討つとなれば相応の覚悟なり割り切りなりが必要になってこざるを得ない関係性の場所だ。
だが逆に、セイラン家の脅威から『普通に暮らしてる民間人たち』を守るため、戦争に巻き込まぬため、『身勝手で馬鹿なセイラン家』だけを潰すというなら精神的敷居の壁は格段に低く見積もることが可能となる――。
「たとえ、その国家の軍隊がおこなった暴虐が事実だったとしても、それを国民たち全員が指導者の意思に賛同し、理解し、正しく情報を伝えられた上で自主的に従った結果とは限らない。
ただ与えられる情報をコントロールされ、無知な状態に置かれた人々を、為政者たちが操っているだけの場合があることを、我々は知っているはずだ。
そう。あの『パトリック・ザラ元議長』という悪しき前例を、我々は忘れていないのだから――」
“その名前”を議長の口から聞かされて、幾人かのザフト軍将校たちが動揺を顔に現し、逃げるように視線をあらぬ方へ逸らす様を、デュランダルは真剣な表情のまま冷めた感情で冷静に観察した。
彼の名を出せば、この結果になることは最初から分かり切っていた事なのだから・・・。
パトリック・ザラは、先に大戦において途中から政府首班の座をシーゲル・クラインから引き継いで戦争を継続させた人物として知られている。
そして同時に、戦争を拡大させ、戦果を広げ、最終的には味方まで巻き添えにする大量破壊兵器の使用まで踏み切ってしまった戦争犯罪人として、一般にも広く知られるようになってしまった現状にある人物でもあった。
その目的と動機が、『個人的復讐心を晴らすためだった』という事情も含めて――。
「2年前、彼は確かに、やり方を間違えてしまった人物だったかもしれない。
どうしようもないまでに戦争を拡大させ、愚かとしか言いようのない憎悪を世界中に撒き散らせた責任の多くは、彼が意図して行わせていたものだったことは残念ながら否定できない。
――だが、この場にいる君たちとて、ザラ議長を初めから“ああいう方だ”と思っていた訳ではないだろう?」
『それは・・・・・・』
「彼の言葉を正しいと信じ、戦場を駆け、敵の命を奪い、間違いと気づいても何一つ止められず、多くのものを失ってしまった者が、この場にも大勢いるはずだ。
しかし、それもみな元はと言えばプラントと我々を守り、より良い世界を創ろうとしてのことだったはずでもある。
彼らとて、その思いは同じはず。だからこそ我々はユニウスセブンの件があるまで友好国として親しく付き合い続けてくることができていた間柄なのだから。
彼ら今のオーブ市民たちは、2年前の我々自身であるかもしれないことを、どうか分かってあげて欲しい」
『・・・・・・む、むぅぅ・・・』
呻くように、ザフト軍士官たちの各所から理性と感情がせめぎ合う声を聞き流しながら、デュランダルは内心で微笑みを浮かべていた。
“今は亡き友人に対して”穏やかな笑みを向けていたのである。
今では学校の近代史ですら語られている、パトリック・ザラの取捨選択による情報操作と印象操作による、オーブと連合の結託などへの過剰なまでに危機感を煽らせた扇動演説の件は史実であったが・・・・・・その陰で暗躍して貢献を果たした、仮面のザフト軍指揮官がもつ裏仕事について知る者は多くない。
そして、そこまで説明してやる義理も“友人に対する薄情さ”も、デュランダルは持ち合わせていなかったので、素知らぬ顔で演説を続けるだけだった。
「その上で私は、ジブリールと手を組んだセイラン家を許すことはできない。
現にオーブ国は、ジブリールやロゴスの力を借りようとしている。我々が彼を探していることを、あの国だけ知らないはずがないにも関わらずだ。
これは明らかに、現オーブの政治を牛耳っているセイラン家と取り巻きたちが、真実を市民に伝えないよう情報統制をおこなった結果と見て間違いない。だから我々の呼びかけにも応えることがなかったのだ。
彼らセイラン家は、行き場がなくなろうとしている自分たちの悪行を正当化するため、ジブリールの甘言を利用しているに過ぎない。
“自分たちは悪くない。何故ならロゴスやジブリールが言ってきたから仕方なく受け入れただけだから”――と」
「ぎ、議長・・・・・・」
今度は喘ぐように呟いたのは、シンだった。
彼としては突然の状況の変転に頭が付いていくことができず、混乱することしかできなくなっていたからだった。
昨日まではどーしようもなく、憎しみと祖国への愛情と失われた家族への哀切とで複雑な感情を抱いていた相手を、今度は「市民たちは悪くない。ただセイラン家に利用されているだけだ」と言われたところで、即座に切り替えができるほど融通の利く精神性は、彼から最も遠い位置にあるものの一つだったのがシン・アスカという少年だったから。
そんな彼に対してデュランダルは微笑みを向ける。
相手の感情的なしこりに整合性を取らせるのは簡単だという事を知るが故の微笑みであった。ただ一言、あの話をすれば、それで済む。
それだけの相手だと、彼はシンの事情をよく知っている――。
「シン、君がご家族の不幸から旧祖国であるオーブのことを、どうしても否定的に考えてしまうのは仕方の無いことなのかもしれないが・・・・・・だが、本当にそれでいいのかね?
このままジブリールとセイランの結託を許せば、オーブで普通に暮らしている人々は、また戦渦に巻き込まれて吹き飛ばされてしまうかもしれない。
連合軍艦隊が放った砲火によって、“君の家族と同じ目にあう人々”を、今度は君の手で救ってあげてもらいたい。私はそうなることを願っているのだよ、シン君」
「――ッ!!!」
その言葉を言われた瞬間、シンは過去のフラッシュバックと共に、自身が探し求めていた救済の在り方をハッキリと自覚した。
あるいは、ようやく求めていた答えを得られたと、彼自身はそう信じたのである。
それがトラウマを癒やすために、過去の悲劇の代償行為を求めたがっているだけの、心理的逃避であるなどとは露とも思わぬまま、シン・アスカは今までの蟠りと、此度のオーブ援軍艦隊迎撃任務との間に広がる隔たりに整合性を付けることを受け入れたのである。
オーブの民間人たちを連合艦隊の戦闘に巻き込まぬために、オーブに派遣されたザフト軍艦隊からオーブ政府を守るための連合援軍艦隊を迎撃する任務を、心の底から了解してしまったのである。
もし彼が感情によって賛成するのではなく、理性によって考えることができる人物だったなら気づくことができたであろうが・・・・・・彼はあいにく、そういう思考が得意な人間ではなかった。
根が単純なものを好む性質の持ち主なのである。
考えることができない少年ではなかったし、考えさえすれば深く高尚なことまで洞察できる知能も持ってはいる。
ただ基本的に、考えることが“好きではない”というタイプではあり、思ったこと感じたことをストレートに表現してぶつけているだけでいい状況を好むタイプの少年でもあったのだ。
そこら辺をデュランダルに読まれた。
タリアとしては苦虫を噛む想いで、部下の純粋無垢さに頭を抱えずにはいられない。
もはや、こうなっては彼女にはどうすることも出来なかった。
先だって授与されたばかりとはいえシンと、そしてレイは既に《フェイス》の一員なのである。
議長からの命令と決定である以上は、艦長が拒否しても議長直々の命令を二人だけが受諾したところで何の問題もなく、それを受けなかったところでタリアが何か得することは一つもないのだ。
行くしかあるまい。
厭も応もなく、感情的な抵抗感も度外視して、どうにも気になる随所随所の矛盾点に対する疑問も後回しにして、オーブへの援軍艦隊を阻害する今回の任務だけは受けるしかない。
「・・・我々は、オーブに迎う連合の援軍艦隊を迎撃することで、オーブ政府と交渉する遊軍を間接的に支援する。そういう任務内容であると解釈してよろしいでしょうか? 議長」
「ああ、グラディス艦長。その解釈で間違っていないよ。
しいて付け加えることがあるとすれば、オーブは軍事技術の高さを誇るだけでなく、マスドライバーなどの宇宙へ上がる道も持っている国だ。
だからこそジブリールも目を付けたのだろうが・・・・・・私としては、それも気になる部分ではある・・・」
その返答に、タリアの顔が僅かに強張り、弛緩し掛かっていた軍事的頭脳が急速に回転を速めはじめて、その条件から予測される最悪の事態のシミュレーションを瞬時に終わらせ、心胆を寒からしめる思いを抱かされずにはいられなくされてしまった。
「――オーブの力だけを彼が奪って、宇宙に上がる危険性があると・・・!?」
「現に彼は、オーブの領土割譲と遷都まで要求したという情報まで入っているのだ。
ジブリールがセイランを抱き込んだまま宇宙へと上がり、オーブの軍事力をもって月の連合軍艦隊と合流するようなことにでもなれば、もはやオーブでの勝敗になど意味はなくなってしまうしかないっ。
それどころかプラント本国は、またしてもブルーコスモス盟主の脅威にさらされる羽目にもなるだろう。
彼こそが争いの大本であり全ての元凶、ロゴスのメンバーであるということを忘れるわけにはいかないんだ艦長。
連戦で疲れていることも分かってはいるが・・・ここは足自慢のミネルバが頼りだ。頼む、グラディス艦長」
こうまで言われてしまっては、ザフト軍の軍人として否やは言えない。
「オーブ市民たちをセイラン家に騙された被害者だ」とするならば、セイランに地位を奪われる形で国外脱出を果たしたカガリ・ユラ・アスハと、彼女が身を寄せていたらしいアークエンジェルを完全包囲してまで撃沈することに拘った一件は、どう説明するのかとも聞いてみたくはあったが・・・・・・どうせ綺麗に取り繕った形式で言い逃れるに決まっていると思うと脱力して、実際に聞こうという気力までは沸いてこない。
実際、なんらの証拠があるわけでないのも事実ではあるのだ。
彼女自身が知っていて確認した事象も、『カガリ・ユラ・アスハを名乗るパイロット』がオーブ軍艦隊に向けて停戦命令を発する通信をおこなっていたこと。
その声“だけ”の通信内容が『カガリ・ユラ・アスハ本人のものと同じ声だ』という証言を得られたこと。
その事件の後、カガリの婚約者で、彼女が逃亡後に現オーブの首長代行へと就任したユウナ・ロマ・セイランが『あのカガリは偽物だ』と連合軍司令官に公式見解として断言した。・・・・・・それだけである。
極端な話、あれが真実カガリ本人からの呼び掛けだったとしても、カガリ代表がアークエンジェルの捕虜となり、人質となって言わされているだけという可能性も0ではないのだ。
先の大戦では実際に、そういう手で窮地を脱したことがあった艦だとも聞いたことがある。
あるいは、ルナマリアに命じて尾行させた時の録音記録は使えるかもしれないが、盗聴した内容が証拠能力を持たないのは司法の常識であり、密かに尾行させた側として相手が自分に聞かせるための「ヤラセ」だった可能性を否定する術はない。
どちらかと言えば、政治面での部分が強い内訳の出来事であり、自分のような無骨者の軍人が美辞麗句の得意な議長殿にかなう分野の話とも思えない。
とりあえずは与えられた任務を全うして、ジブリールたちブルーコスモスの脅威が再び故郷のコロニー群へ迫るのを阻止するため全力を尽くそうと割り切って、ミネルバの艦長タリア・グラディスは軍帽を被り直し敬礼する。
なにより本国コロニーには、家に残してきた幼い息子がいるのだ・・・。
パトリック・ザラではないが、あの子がコロニーごと核の炎で焼き殺される光景など、想像するだけで気が狂いそうな恐怖に襲われる。
その危機を未然に防げるのなら、聞きたい疑問や不審な矛盾点の百や二百は、無視して議長の命令絶対の頭が固い軍人をやっても構うまい。
それが息子を守るため役立つことが出来るのならば。
引いてはそれがプラントを――プラントで暮らしている大勢の子供たちや、自分と同じ母親を守ることにも繋がっているなら素直によいことだと賞賛できるから――
「微力を尽くします」
「頼む。ロゴスの暗躍、これ以上は許すわけにはいかん。
今度こそ必ず、彼らを押さえるのだっ。諸君らの故郷への愛情と奮闘を期待する!!!」
高らかに発せられたデュランダルの命令に、タリアやシンたち集められたザフト軍人は背筋を正して敬礼と共に受け入れた。
今は、そうするしかないと自らに言い聞かせながら。
この状況がいつまで続くかは見当も付かぬまま、敵が待つ海域へと自分たちも迎撃部隊を発進させていったのであった―――。
――そしてまた、当事国たる三つ目の勢力の姫君も、部下たちを前にして似たような「敵に関する報告」を読みながら、ボンヤリとした表情のまま自軍の対処方針について語り聞かせる地点に到着しつつあった。
「『――貴艦らの国家代表引き渡し要求は不当であり、従うことはできない。オーブ連合首長国は今後も連合傘下の基で独立主権を貫く意志に変わりはない』・・・・・・だそうな」
あの時とは違う新司令官の口から、あの時と同じような内容の文章を、あの時と同じようなタイミングで聞かされながら、あの時の敵を助けるために味方として援軍に赴く途上にある艦隊指揮官の男性は、あの時より更に後退が進んだ頭髪を撫で上げる仕草とともに素直な心情を新たな上官殿に感想として語ってみせる。
「・・・どこかで聞いた覚えのある内容の返答ですな。
彼らには時間の流れというものがないのでしょうか?」
「公式発表なんて、そんなもんなんじゃありません? 気の利いたオリジナリティー溢れる内容で返されたところで、ザフト軍が文章力を褒めてくれるとも思えませんしね。
形式だけ守っておくって感じがして、如何にも官僚的答弁っぽくて悪くない」
褒めているのか、敵より悪く酷評しているのか判断に迷う感想を逆に司令官から返されてしまった無骨者軍人の艦隊指揮官は憮然とした表情になり、無言のまま正面を睨んだ。
部下たちにも上官の感情が伝播したのか、オーブ援軍艦隊の旗艦ブリッジ内には妙に居心地の悪い雰囲気が漂っていて、気楽そうに過ごしているのは“あの時と同じ部外者”でしかないはずのオブサーバー席に座った、あの時とは違う役職の正式な司令官殿一人だけ。
――まったく!!と、艦隊を率いる初老の指揮官としては内心で嘆かずにはいられない。
オーブと関わってから、妙な上官ばかりが寄ってくるようになってしまった。やはり彼の国は自分にとって疫病神だったに違いない・・・・・・
迷信深いと言われる海軍らしく、そんなことを思いながら指揮官は話題を転換して現状の“敵と対峙している味方国”の現状について話を持ち込む。
「・・・オーブ政府はいまだ市民たちになにも発表していないようですな。報道も抑えられているようですし、避難勧告も出されていないまま。
艦隊も、オノゴロ沖に展開はさせているものの動きは見られず。・・・・・・ウズミ政権時代に我らが攻めたときより、更に酷くなった国防体制へと移行させていたようですな。いったい行政府はなにをしているのでしょう? まだなにも命令を下そうとする気配が見られないのは何故なのか、小官には分かりかねま――」
「反乱を警戒してるんですよ。だから軍を出撃させたくても、容易に出撃命令を下す覚悟が定まらない、そんなところです」
「反・・・乱・・・・・・?」
キョトンとしながら指揮官は、信じられない思いで新司令官が紅茶を自分で煎れて飲んでいる姿を凝視する。
2年前の戦いを経験した者にとっては、受け入れるのが難しい新司令官セレニアの見解だったのだ。
実際、オーブの国防を担うユウナ・ロマ・セイランと政治的実権を握っているウナト・エマ・セイランの親子は、ジブリールから危機的状況の現実を思い知らされたことで、却って行動と決断の自由を奪われてしまう悪循環を発生させてしまうだけに陥ってしまっていた。
今までは何も疑わずに盲信できていたことが、信じるに値しない幻想だった事実を見せつけられ、改めて現実的な侵略に際しての防衛計画を練ろうと現場の状況を把握するところから始めたところ、軍内部での自分たちの評判と反抗的な態度と命令不服従と士気の低下などの不快な現実ばかりを見せつけられ、スッカリ人間不信気味になりつつある心理状態に昨今のセイラン親子はなってしまっていたからである。
もともと無神経ではないが、弾性の乏しい精神を有するユウナ・ロマ・セイランと、太鼓持ちに囲まれた無自覚なお坊ちゃん育ちのウナト・エマ・セイランたちは、周囲から責められるばかりで叩かれっぱなしの立場というものに慣れがない。
彼らの繊細すぎる精神の糸は、常人より遙かに細く、摩耗するのも人並み外れて早かった。
そして、自分たちが今置かれている立場こそ、自分たちが追い詰めて四面楚歌の状況へと追いやった末に、欠点ばかりを論って批判していた旧代表のカガリと全く同じになっているだけだという事実に気づくことまでは出来ていない。
それが彼らの持つ精神性の特徴であり、それらを支える想像力の乏しさこそが今日に至る彼らの没落のレールを敷かせた一番の理由だったのだが・・・・・・その事実にさえ気づけていないのは、プライドが高すぎる彼らにとって細やかな幸運だったのか否か。判断の難しいところではあっただろう。
「セイランさんたちとしても難しいところではあるのでしょう。
ザフト軍を迎撃させるため艦隊を出動させた後、自分たちに砲口を向け直してくる可能性もありますし、市民たちもいつ敵になって暴徒化するか分かったものではないから国内にも銃口を向けておく必要がある。
そしてオーブ軍の大半は市民たちです。セイラン家が抱える少数の私兵部隊だけでは抗しきれません。
自分たちの命と、自分たちが権力を持つ国と、どちらかしか選べる選択肢がないと信じている人たちにとっては難しい選択と言わざるを得ないでしょうねぇ~」
あの時、連合の圧力に各国が屈して世界中から孤立した中で、たった一国だけで勝ち目のない無謀な抵抗を断行し、最後には国家指導者自らによる壮絶な自爆によって決着が付くまで諦め悪く降伏を拒否し続けた国が、兵士たちの反乱を恐れて迎撃艦隊を発進させられぬまま、市民たちに危機的状況を知らせる時期すら推し量れないまま、ただ手をこまねいて事態の推移を見守っているだけになる。たった2年だけで?
・・・・・・現場の指揮官としては信じがたい思いを抱いてしまっても不思議ではないほど、オーブの変化は内側も外側も変わりすぎるものに変質していたようである。
「挙げ句、ザフト軍の方にはセイランさんたちの事情に頓着してやる義理も必要性も全くないわけですからねぇ~。
“自分たちの攻撃に巻き込まないための避難勧告”って形を取って政府が隠してる真相を暴露するだけで、市民と政府は対立勃発。
敵が攻めてきてるって状況の中で、市民と軍隊までもが啀み合うような悲喜劇を簡単に作れてしまう条件を、わざわざ自分たちの手で敵のために用意してあげてた訳ですからねぇ。
いやはや、見た目と違ってお人好しすぎる奉仕精神と自己犠牲を尊ぶ善人だったみたいですね、ウナトさんって」
「・・・・・・そろそろ向こう側の艦隊から発した、例のモノが到着する頃合いですかな」
政治の世界での汚いやり取りとやり口を、これ以上聞きたくなくなっていた指揮官は、適当な口実を探して見つかったものを、事務的な口調と不機嫌そうな表情に貼り付けながら、事務的に新司令官に伝達して指示を待った。
少なくとも、この司令官は前のよりはマシそうだが、はたして・・・・・・そう思って自分より二十歳以上も年少者の女の子からの下知を待つ彼に向かって、新参の司令官は旧オブザーバーと同じ言葉を用いて、同じ命令を同じ部下たちに向かってく出した。
――あの時とは全く違う目的を達成するための作戦開始を。
―――あの時とは全く違う人員を用意して、あの時とは全く違う敵たちを相手に、『やっても損にはならないから』という理由を持つが故に。
「時間です。
連合艦隊全軍、オーブへ侵攻を開始したザフト軍の迎撃を開始して下さい」
つづく