ただ実際に文章にすると思ったより文字数多いとかの問題があり、少し迷走気味に。
情報量多い作品は気を付けなければいけないなと思い知りましたが、とりあえず投稿だけはしておきますね。
『異なる二つの正義が対立するとき、その間には“滑稽さ”という奇形児が産まれる』
という言葉を残した人物が、CE元年以前の人類にはいたらしい。
その皮肉な評語が正鵠を射た正論だったかは不明だが、少なくとも発言者の子孫が今も生き続けている土地名は、《オーブ連合首長国》ではなかったようである。
プラント議長デュランダルから要請された、セイラン親子引き渡しに拒否する旨を公式見解として回答してから2時間弱。
オーブ国防総省は刻一刻と悪化し続ける状況と、敵軍の動きに振り回され、混乱の坩堝に叩き落とされていた。
『第一、第二護衛艦群、出動を完了。攻撃命令はまだでありますか!?』
『モビルスーツ隊発進準備よろし。第一から第四小隊は、イザナギ海岸防衛戦への配備を予定。発進準備完了。繰り返す、発進準備は完了ッ!』
『ザフト軍艦隊、完全に展開を完了されてしまいました! モビルスーツ部隊の発進準備も完了し、後は出撃命令を待つばかりかと――』
『マラマツバラ、第一次防衛ラインのギリギリまで制海権を押さえられてしまいました!
本島はザフト艦隊によって完全に孤立させられた模様です・・・っ』
オーブへの要求を携え、拒否するときは一戦もやむなしという強気な姿勢でカーペンタリアより出動してきたザフト艦隊は、オーブ周辺の主要海路を完全に制圧してしまい、島国であるオーブは完全包囲下に置かれつつあったにも関わらず、領海内へと侵入していたザフト艦隊に『敵から通告された猶予期間が終わってないから』という理由で攻撃許可が未だ下りないことが混乱の理由だった。
国防本部ビル内にある司令室では、兵士たちが慌ただしく各地からの報告を分析して、時には秒単位でリアルタイムに指揮官の下へと送り続けている。
刻一刻と悪化し続けている状況の報告を。
改善の見込みは一切なし、という但し書きまで正直に付け足した上で。
――まだ、“戦闘になってもいない”にも関わらず・・・・・・。
「ソガ一佐! すでにザフト軍――いえ、“敵軍”はオーブ本島を完全包囲し、攻撃準備を完了させ、いつ侵攻が始まってもおかしくありません! なのに何故、まだ何の命令もないのでありますか!?」
「分かっている! とにかく今は、行政府を呼び続けろ!!」
それら部下たちから挙げられてくる報告の行間に添付された「先制攻撃の許可」という無言の突き上げに晒されながら、それでも臨時でオーブ防衛戦の指揮を任されているソガ一佐は部下たちを押さえつけ、無秩序な戦闘開始に訴え出てる暴挙だけは防いでいた。
先年にクレタ沖での戦いで、ザフト軍のミネルバ隊に敗れて敗死したトダカ一佐に代わって、最高司令官『ユウナ・ロマ・セイラン』の補佐役を任され、彼が不在の今は臨時に本土防衛戦の指揮を任されてもいる青年士官だ。
若いながら、古参のトダカやキサカと同じ階級を有するだけあって優秀な人物だったが・・・・・・そんな彼でも、この状況下で兵士たちを押さえ続けるのは限界があった。
ウナトやユウナたちセイラン家も、この事あるを覚悟だけはしていたのか、護衛艦群の出動と市民たちの避難指示が許可されたことだけは幸いだったかもしれなかったが、それでさえ敵の戦略によって混乱を助長する理由になっていたのでは意味がない。
「それよりも、市民たちの避難状況はッ!?」
「・・・思わしくありません。タイムスケジュールに大きな乱れが生じています。現時点で実行できたのは、避難計画の40パーセント程かと・・・・・・」
「くっ・・・・・・それにしても巧妙なッ!!」
パシン!と、ソガ一佐は手のひらに拳を打ち付け、ザフト軍の策謀に怒りを露わにする。
彼の怒りは、プラント評議会からのセイラン家の引き渡し要求をセイラン家がオーブの公式見解として正式に拒絶する旨を返答を返した、その直後にプラントから『返答に対する返答』として返してきた、迅速かつ苛烈な対応によってオーブという国そのものの動きを制してしまった策略のことを指していた。
「この期に及んで、このような茶番によって我らの思いに応ずるセイラン家の不誠実さに、我らはこれ以上つき合えるわけもないっ。
私は正義と、切なる平和への願いをもって断固、彼らの虚偽に立ち向かう!!」
そう断言して、セイラン家を引きずり出すためザフト軍をオーブへと侵攻させることを宣言した映像はロゴスの時と同様に、街頭テレビの中継によってデュランダル議長から直接オーブ全市民へと訴えられる形でおこなわれた。
その中でデュランダルは、セイラン家がロゴス幹部のもとでジブリ―ルと親交があったという証拠を示し、ロゴスに貸しを作るためにこそオーブ首脳陣を扇動して連合との同盟を推し進めたのだと断定し、今現在も『セイラン家を救援するための援軍』がオーブに向かって接近中である戦況報告も市民たちの前に晒してしまった。
ジブリ―ルからウナトに送られていた長交信と、その中で語られていた「オーブへの遷都と領土割譲」という会話内容も温存しようとはしなかった。
「な、なななんだ!? これは一体、どういうことなんだッ!?」
官邸にある代表の私室で、その映像を見せつけられていた大元帥の軍服をまとった姿のユウナ・ロマ・セイランは、滑稽なほど慌てふためいて映像の中で明かされた自分たちの隠してきた真相の暴露に度肝を抜かれていた。
彼の背後では、父親であるウナト・エマ・セイランが固定電話に飛びつき広報担当と国内大手のマスメディア社長を呼び出し、放送を止めるよう大声で唾を飛ばしながら命じている。
「止めさせろ! 今すぐ、あの映像を止めさせるのだ! そのために貴様らマスコミには多額の金を払い続けてやってきたのだろうが! いったい幾ら払ってやったと思っている!?」
『で、出来ないのです! 我らも先ほどより必死にアクセスし続けているのですが、どこか外部から繋がっている回線が仕掛けられていたらしく、まずそれを見つけ出しませんと・・・』
「だったら電源を切れ! 電波発信施設の通信網を破損させれば、予備電源があってもオーブ全体の電波発信を止めることが出来るはずだ!!」
『オーブ全体に情報を伝えている発信施設を!? しょ、正気ですかッ!?』
「国を守るためには必要なのだ! 国が滅びれば電波だけ残っても意味はない!!」
暴論であると同時に正論でもある、怒りと混乱で冷静さを失いつつあったウナトからの命令であり、わめき声でもあったが・・・・・・どちらにせよ既に手遅れでもある命令だった。
デュランダルは、連合軍艦隊によるオーブ占領を阻止するためザフト軍艦隊を出動させたこと、連合軍と結託し続けるセイラン家の逮捕と征伐を断行することを宣言した後。
セイラン家を省いた、オーブ市民たちに向けての言葉で、彼はこう続けたのである。
「ですが、如何にセイラン家が争いの源泉であるロゴスと通じていたとはいえ、彼らの悪を正すための攻撃に、罪なきオーブ市民の皆さんを巻き込むのは我々の本意ではありません。
――ですので私はオーブの同胞たちに対して、攻撃開始まで今から3時間の猶予を与えます。
それまでに出来るだけ遠くへ逃げて頂きたいのです! 時間が少ないことは理解していますが、セイラン家の関連施設と軍事施設から遠ざかるだけなら可能なはず。
私はザフト軍に対して、その二カ所だけに攻撃対象を限定することを、プラント評議会議長の名に誓って確約いたしますっ!!」
そして議長の演説は、最後の“とどめ”として、この言葉で締めくくられる事になる。
「無論、この約束を交わすことはセイラン家を始めとして、彼らの共犯者たちが逃げ出す機会をも与えることになるでしょう。
ですが、それでも我々プラントの民は、長年の同胞だったオーブの人々を傷つけたくない。巻き込みたくないのです! 皆さんはセイランに騙され、利用されていただけなのですから!
出来ることなら現政権の人々にも、オーブの民衆を無意味な戦いに巻き込まないため、出頭して頂けることを切に願います。
我々は皆さんの国を撃ちたくない! 撃ちたくなどないのです! 我々を恨む気持ちは当然ですが、どうか私と我々プラント全市民が共有する、その気持ちだけは理解して頂きたい――」
こうしてオーブ首長国連邦は――大混乱に陥らせる無形の爆弾を投下されることになる。
オーブが争いに巻き込まれる寸前にあることを突然に知らされた市民たちがパニックを起こして、無秩序に避難と逃亡と騒乱を拡大させる役を買って出てしまったからである。
ある者は自分たちだけでも助かるため車を飛ばして渋滞を作りだし、またある者は都市部から少しでも離れようと道のない山中を逃げ場所に選び、安全な場所を求める市民たちが港や空港に殺到した。
先の戦争を経験した者の中には、戦後の生活に備えるため無人となった店舗から略奪を働く者も現れている。
到底、秩序だった避難など可能な状態ではない。移動先と移動手段ごとに中小のグループに分かれた市民たちがバラバラな方角に落ち延びようとして、互いに邪魔しあう状態が各所で発生してしまう有様だ。
「情報の開示時期と、避難場所の確保を討議し始めた矢先の宣告でしたからね・・・・・・議員たちが混乱して慌てふためくのも理解はできますが、しかし・・・・・・」
「ああ。下が混乱しているときに、上まで混乱すれば収拾がつけられなくなってしまう・・・クソッ! あの演説は、これを狙ってのものだったか!
これでは我らが艦隊を出動できても、満足な迎撃態勢など構築できん!」
苛立たしげに吐き捨てるのは、数としては最大であろう市民グループが向かっていった先が、『オーブ行政府』や『セイラン家の私邸』だった暴徒の群れと化した者達のことだ。
ザフト軍の目的がセイラン家だと、デュランダル議長の口から直接名指しで指名されたことで、「セイラン親子さえ差し出せばオーブは戦いに巻き込まれずに済む」と考えてしまった人たちが押し寄せて警官隊と揉み合いになってしまっていたのである。
正直に言えばソガたち自身も、セイラン家を差し出してオーブを守ろうという選択肢に誘惑を感じないわけではない。
だが、大前提として彼らが嫌々ながらもユウナたち、セイラン家の指示に今日まで従ってきたのは『他に候補がいなかったから』だ。
先の戦争が終わって再建なった後のオーブには、戦後復興を始めとして数多くの課題が山積しており、オーブという国のトップという地位は、権力の甘い汁だけ吸って責任は他者に押しつけられる恵まれた席では全くなくなっており、誰もがその地位を押しつけ合うだけで自分がなりたいと望む者はほとんどいない状況の中。
その数少ない例外として、先々代の代表だったウズミ・ユラ・アスハの娘であるカガリと、成り上がりの官僚一族たるセイラン。この二者だけしか候補は誰も存在しなかったのだ。
二つしかないトップ候補の内、カガリが地位を投げ捨て出奔してしまったため、ソガたち残された者にはセイランに従う以外に国を率いたがる者が誰もいなくなっていただけなのである。
もし今、仮に彼らを自分たちで逮捕してザフト軍に差し出したとして――その後どうなる?
他人の失敗責任への追及と、命令されたことを果たすだけなら優秀な二流、三流のカスと出涸らしだけが残った首長たちに、オーブという国の自主独立を守ろうとする気概があるものだろうか?
自分たちでは治められないからと、デュランダルなり連合に下って、誰かに命令されて従ってさえいれば現在の地位を維持できる立場に志願したがるのがオチだろう。少なくともソガは彼らの戦後をそう読んでいた。だから同調しなかったわけだが・・・・・・それも全てはオーブが今の危機を乗り越えられた場合はの話でしかない。
そんな中、ようやく到着した全体の方針を決定できる人物がエレベーターの扉が開くとともに入室してくる。
「あああァッ、もう!! どうしてこうなるんだァッ!?」
そして怒鳴る。
髪をかきむしりながら司令室に入ってきたユウナ・ロマ・セイランが、さも不本意そうにソガに向かって問いを投げかけてきた。
あるいは別のナニカに対して訴えた世の不条理を、手近にいたソガに尋ねたように見えただけかもしれない。
「ボクたちだって好きでロゴスと繋がってたわけじゃない! それは他の国の奴らだって同じじゃないか! なのに何でボクたちの国だけ討たれなきゃいけないのさ!? ええェッ!?」
ややもすれば、正気を失ったにも見える表情を浮かべて悲痛な叫び声を上げるユウナの叫びに、ソガ一佐は思わず「泣きたいのはコッチの方だ!」と怒鳴りつけて殴り飛ばしたい衝動に駆られたが、なんとか堪えるのに成功することができた。
それは相手が仮にも国防の最高指令で上官でもあるから、という理由だけではなく、ユウナと共に入ってきた数人のサブマシンガンで武装した無表情な男たちが最大の理由だった。
最近ユウナたちセイラン家が新設させた護衛部隊で、彼ら専属のSPとして司令室内でさえ銃火器を持ち込むことが許可されている者達だ。
表向きは、今回のような暴徒に紛れた危険分子に襲われたときのため、という名目ではあったが、真の目的が自分たちオーブ軍の司令室要員に背後から銃口を突きつけ威圧する役割を仰せつかった督戦隊であることは現状の光景を見るだけで聞かれずとも理解できる。
自分たちの立場が危うくなり、味方でさえ裏切られる危険性を強くもっていることに気づかされてしまった彼らは生来の臆病癖も手伝って、このような部隊を新設しないと精神の均衡を保つことさえ難しい心理状態に陥りつつあったのだ。
「そもそも政府はなぜ、あんなバカげた回答をしたのです? 回答を引き延ばすなり、時間稼ぎの手はいくらでもあったはず――」
「そんな手が、あのデュランダルに通じるわけないだろう!? どーせ市民を焚きつけてボクたちを殺させて、オーブだって乗っ取ってたに決まってるんだ!!」
そう返されてしまうと、ソガとしても反論の余地がない。
あの議長ならやりかねないという思いもある。差し当たって今問題にすべきは別の事柄だった。
「とにかく、ユウナ様。ご決断と、ご指示を!
既にザフト艦隊は我が国の領海を侵しており、ニュートロンジャマーによるジャミングも一部で確認され、明確な侵略行為と認定される条件は整いました。
今からなら、我が軍から撃っても非道には当たりません! どうか、ご決断をッ!!」
ソガに迫られ、ぐっと詰まり。今度はユウナが返答に窮する番になった。
ユウナとしても、現状のままではマズいことぐらい流石に理解している。
だが一方で、自分たちの方から先制攻撃を指示することが、状況を良くしてくれるという確信を持つことも出来ているわけではなかったのだ。
彼には元々そういう部分があった。
本質的に臆病で、小心者なのである。
古くさい表現を使うとすれば、『肝が据わっていない』・・・という事になるのだろう。
そのためユウナは、この状況下にあって碌な作戦指示を下すことはできず、ソガたち参謀格の意見を採用することも、また出来ない。
自分の考えた作戦に自信が持てず、失敗することは恐ろしいのだが、他人の意見を採用したせいで失敗するのも怖いのだ。
「え、ええいもうッ! う、うう、うるさいッ! とにかくほら、通告された猶予時間が過ぎた瞬間に攻撃開始できるよう、こっちも防衛態勢を強化するんだよ!!」
「ですから、それでは間に合わないと今申し上げたばかりで――」
「うるさい! これは父さんが決めた方針なんだ! 猶予時間が終わるまで待ってからの開戦を、オーブの指導者が決めたことなんだぞ!? それをお前らは逆らうっていうのか! 総意で決まった国のトップの決定には従えないって言うのかァッ!?」
「それは・・・・・・」
ソガは再び言葉に詰まった。
たしかにユウナの言っていることは正しい。たとえ正論を語る動機が自己正当化か、はたまた錯乱しただけの戯言でしかなかったとしても、言っている言葉の正当性まで損なわれるというものではない。
とは言え、現在の状況下で「意見の正しさ」が何ほどの意味を持たせられ、なにを守ることが出来るのか?
その疑問に答えられる正答の正しさは、今のソガにとって苦さしかない代物でしかないものかもしれなかったが・・・・・・。
「とにかく! そ、そういうことはボクの父さんたちが、ちゃんと確認した上で決めてくれてる事なんだから、ボクたち現場で指揮を執る人間は、そこから先のことを考えてればいいんだよ!」
再びの正論に、ソガ一佐は黙り込んで一礼し、大人しく命令を受領した。
たしかにそれもユウナの言うとおりであり、軍人である自分たちは司令官の言葉と政府の決定を信じて戦うのが仕事。
連合にすり寄り、おもねるばかりの不快な政府からの命令と決定とはいえ、自分が軍人として道を外れる理由にはならない――少なくともソガは、この時そう考えて反論意見を飲み干していた。
それを間違った選択だったとまでは、ソガは今後も思うことはなかったが・・・・・・だが今ユウナが語った正論が、クレタ沖で戦死したトダカ一佐の意見を退け、自分の意見をゴリ押しさせた時のものを自分自身にも当てはめただけの内容だった事実を、当時は留守部隊を任されていたソガが知ることが出来ていた時には・・・・・・また違った選択肢もありえていたかもしれなかったが・・・・・・。
一方で、当事者の片割れになってしまっていた人物たちも、事態の状況変化に戸惑いながら道に迷う気持ちは、ソガたちオーブ軍の一般兵士と変わるものではなかったところに、この戦いの厄介さがあったかもしれない。
ユウナ・ロマ・セイランには、本気で全く訳がわからなくなっていたのだ。
何故このような状況に自分たちは立たされてしまう羽目になったのか?と、先ほどから頭の中でリフレインし続ける疑問は、それ一つばかりだった。
自分たち親子に、なんの落ち度や失敗もなかったとまでは言わない。確かに自分たちには悪いところや過ちは多くあったんだろう。
黒海で、ストライク・ルージュに乗り、カガリを名乗って戦闘停止命令を出してきたフィアンセを偽物呼ばわりして貶めたのも良い判断では決してなかった。
ただ、別に自分にはカガリを貶めようという気持ちまではなかった。それなりに大事には思っていたし、彼女の家系がもつ権力は魅力的だったけど彼女自身に魅力がないという訳でもない。綺麗に着飾ったドレス姿が好みに合っていたのだって嘘じゃなかったのだ。
――ただ、あの時は突然の出来事に驚いてしまっただけで・・・っ、どうすればいいのか咄嗟に判断できなくなって言っちゃった言葉を、連合のネオなんとかとかいう仮面の指揮官に聞かれてしまって追求されてしまったから仕方なく・・・・・・!
悪気があって言ったわけじゃない! 権力を奪ったから用済みになって切り捨てた訳でもない! た、ただその・・・っ、失言問題を先送りするため必要なことだったから! 相手から追求の矛先をかわすには断言する必要があったから! それだけだ!
ボクたちは悪くない! あの仮面の嘘つき司令官に弱味を握られて利用されてしまった!それだけなんだよォーッ!!
「ほ、ほらッ! なにボーッとしてるの! 護衛艦群の出動は完了してるんだろ!? だったら次、モビルスーツ隊順次発進して防衛ラインに配置させるんだよ! ヤツらの侵攻を許さないため準備を急がせろォッ!!」
混乱する心理が、過去の過ちを罪悪感と共に増幅させてクローズアップし、目の前に迫りつつある現実の敵と、自己の内側から襲い来る形なき脅威に襲いかかられ、恐怖から逃れるようにユウナは顔を真っ赤にさせ両腕を振り回し、癇癪を起こした子供のように喚きながらも必要最低限度の指示だけは指揮官として果たすことが出来ていた。
とは言え、危機的状況の中で到着を待ち続けていた司令官の狂態を間近で目撃させられた将兵たちの彼を見る目は冷たい。
この場でユウナ以外には最高位であるソガ自身も、その思いは共有するところではあったが、この状況下に至ってからの政権交代だのトップの交代劇だのが出来るはずもない。
もし彼らが、この圧倒的不利な状況を打破できる可能性を得られるとしたら・・・・・・
――――カガリ様。
それが、オーブ国防本部詰めの将兵たち全員が、この時抱いた共通の想いだった。
政治家としては様々な問題があった彼女だが、危機に陥ってからユウナたちが示した醜態と比べれば、彼女の方が遙かにマシだったと断言できる。
この状況下で、政治的トップの交代劇が可能にでき、失望を重ね続けたセイランと違ってオーブ全軍から進んで指揮下に入ることを希望するような、そんな奇跡を可能にできる条件を備えた唯一の存在。
そんな彼女の帰還を、彼らは心から望むようになっていたのだ――――。
一方で、ユウナが司令部に赴いて、ソガ一佐たち軍服組から無言の責任追及を視線だけで集中砲火を浴びせられていたのと同じ頃。
もう一人のセイランも、行政府の執務室内でオーブ国の閣僚でもある首長たちから責任追及の集中砲火を浴びせられていた。
「ヤツらは今にも侵攻を始めようとしているそうではないか! どうする気なのだ!? 一体どうしてくれるのだ!?」
「連合と同盟し続ければオーブは二度と侵攻されることはないと、あなたは言ったはずよ! あの大言壮語をどこに置き忘れたの!?」
首長たちは口々に、自分たちが担いできたリーダーであり、オーブの政治的トップの地位にあるウナト・エマ・セイランを詰り続け、なんとかしろと先程からずっと騒ぎ立てていた。
糾弾してくる言葉の内容が、軍服組のソガたちより背広組の彼らの方が舌鋒鋭く攻撃的なのは、彼らがそういう類いの人間たちだったからだろう。
責任を糾弾するのが自分の仕事で、責任を取るのは仕事ではないと思っているタイプの政治屋こそが、彼らの正体だった。
現オーブ政権には、前大戦の経験者はおろか、まともに自分の意見を考えれる政治家として優秀な人材は一人もいない。
当時に指導的な立場にあった首長たちの多くは先々代ウズミと運命を共にし、残った者達も戦後処理の後に引責辞任して地位を退き、各首長たち一族の後継も含めて新しい若手世代に入れ替わっている。
・・・・・・ただ、言われた仕事をこなすことに優れた能力を発揮し、金と権力に弱く、与えられた任務を果たして相応の地位を与えてもらえば満足して、それ以上の地位を目指すため奮起しようとは思わない。そういう連中で占められていたのだ。
今までは、それで良かった。あるいは途中までは、それで何とかなっていた。
――だが途中から、歯車の向きが軋み始めるようになってくる・・・。
カガリが政治的トップにいた頃には、彼らはカガリの意見の問題点を指摘し、失態を犯せば国のトップとして当然のように責任を被せて騒ぎ立て、ウナトたち親子が考えた政策を命じられたとおりに実行するだけでよかった。
しかしカガリが出奔し、ウナトたちセイラン家が政治的トップに立つと、意見の問題点を指摘されるのは自分たちになり、失敗の責任を追及されるのも自分たち親子になり、騒ぎ立てられ矢面に立たされるのは常に国のトップである自分たちの役割へとシフトしてしまう羽目になってしまっていく。
それでも尚、ジブリ―ルたち連合軍が戦争に勝ってくれれば我慢する甲斐はあった。
勝つならば、勝利した後を考えるなら、誰であっても恩を売っておいて損はない。そう思っていた。
だが、飼い犬は餌をもらえるから飼い主に懐くもの。餌を与えてもらえなくなれば飼い主に噛みつくのに躊躇いはない
もっとも、彼らのことだけ責める立場にウナト達はない。
成り上がり一族であるセイラン家が、事実上オーブの主導権を握るためには、そういう飼い犬のような連中だけがライバルの地位にいてくれた方が都合が良かったから、重用し続けてきたのは自分たち自身だったのだから・・・・・・。
「と、とにかくシェルターの対策本部へ! 国防本部にはユウナをやらせた! まずは自分たち自身の安全確保が最優先だ、責任問題は死んでしまった後で気にしても意味はないっ」
咄嗟の言い訳であり、追求を逸らしたいだけの方便でしかなく、彼らは今までそういうやり方しか知らなかったから思いつかなかっただけではあったが、言葉自体は尤もだった。
首長たちも、不承不承ではあったもののウナトの指示に従って行政府を出て、分厚い装甲に覆われた地下に掘られた安全な対策本部へと移動を開始していく。
その途中でウナト一人だけが列から外れ、
「息子に現在の状況を聞きに行く」
と、見咎めた一人に答えて納得させることに成功して、近くにあった予備の電話回線を手にすると太い指で番号を入力する。
だが入力された数字は、ユウナたちがこもる国防本部ビルの番号ではなく、セイラン家の私邸への直通回線でもなく。
―――表向き、オーブ国内にある建造物には割り当てられた対象が存在していないことになっている秘密の地下シャトル発射場にだけ通じている特別な番号を、専用のカードロックキーを入れて呼び出した後。
ウナトは受話器に向かって小さな声で、確認を取るように囁く。
「・・・脱出用シャトルの発進準備は完了したのだな? よし、しばらくしたら私も行く。ユウナにも危ないと感じたら即座に避難させるようSPたちには言い含めてある。
我らさえオーブを脱出して連合艦隊と合流して援軍を頼めば、たとえオーブが占領されても取り戻すことが可能になるのだから・・・・・・っ」
人それぞれの悲喜こもごもが無数に発生し、消えていこうとしている中。
ザフト軍オーブ制圧部隊に援軍として派遣されてきた艦の艦橋で、彼女はモニターに向かって一人ため息を吐いて、独語する。
『・・・・・・時間のようですわね』
「そのようだな。通告した期限までにオーブから返答がなかった以上、我らとしても手ぶらで帰るわけにはいかん。――コンディション・レッド発令!
ウナト・エマ・セイランと、ユウナ・ロマ・セイランを引きずり出せ!
旗艦セントヘレンズより全軍に通達。ザフト艦隊、攻撃を開始せよッ!!」
こうしてザフト艦隊からオーブ首長国連邦に向かって最初に放たれた砲火が発射された瞬間。
遙か西方のザフト軍ジブラルタル基地もまた、連合軍分艦隊から最初の砲火を浴びせられていた皮肉すぎる運命を、現在進行形で両軍に分かれて生きるしか出来ぬ者達は、まだ知らない。
連合軍臨時司令官セレニアが仕掛けた、艦隊を二分させての二正面作戦という希有壮大な『派手なだけのハッタリ戦略』はこうして始まる。
つづく