今話を最初から見たい方は、1話前にお戻りください。
少し頭冷やした方がいいのかもしれませんね。
アンケートじゃないですけど、ご意見募集~。
「いったい、どういう茶番だ! これは!?」
洋上にあるザフト艦隊の背後から突如として索敵範囲内に姿を現した連合軍艦隊からの通達を受け取ったカガリ・ユラ・アスハは、国防本部内にある司令室で猛る声で吠えていた。
長々と連ねたカガリ政権への糾弾と、セイラン政権に対する友情の表明は、要約すると自分たちの行為を正当化しているだけの詭弁でしかなかったからだ。
「ヘブンズベースまで追い詰められ、落とされかける寸前までいっていながら、まだ奴らは何も学ぶことができないのか!?
敵と味方に、どうあっても世界を二分しなければ気が済まないと言うのかッ!? 地球連合の連中はッ!!」
役者が違っているだけで、やっていることは先の大戦時におけるオーブ攻略戦となにも変わっていない相手の進歩のなさにカガリは呆れ、激高し、同席しているオーブ軍の士官たちも呆れて物も言えない体で黙り込むしかない。
そんな通告文を送ってきた相手国に対して、カガリが抱かされた怒りは尤もだったが、それは同時に彼女がセレニアの真意を全く読み切れていない事実を証明するものにもなっていたことには気付いていなかった。
「声明を発表した後、連合軍艦隊はどう動いている? またオーブ本島への攻撃を開始する気でいるのか?」
「それが・・・ザフト艦隊の背後から出現した後は目立った動きはなにもしておりません。
我らに向かって勢いよく拳を振り上げて見せただけで、それ以降は長距離からのミサイル攻撃と艦砲射撃を散発的に行うだけで、示威行動を取り続けているだけなのです」
「チィッ! これ見よがしに・・・・・・」
カガリは激しく舌打ちして、連合軍がとってきた戦略に憤りを示す。
司令室に集っていた他のオーブ軍将校たちも同様で、連合軍がただ口実としてのみセイラン家への救援を語っているだけで、実際の目的はオーブとザフト軍の対立状況を維持させる事そのものにあり、敵と味方に分かれたまま講和するのを避けたがっているだけだと。そう看破していたからだ。少なくとも彼らは敵の狙いを、そう信じていた。
――どうやらアスハ家には天性のセンスのようなものを有している部分があったらしく、最高のタイミングで登壇して、その時の人々が求めている言葉を情熱を込めて叫ぶことで、人々の心に戦う意志を宿して戦へと駆り立てる『狂奔』の才能を、カガリもウズミも先天的に持っていたらしい。
平和国家の長としては疑問がある才能だったが、今オーブ国民が指導者に求めていたのはそれだったのだ。
そして連合司令セレニアが、カガリの存在を失念しつつも低く評価してはいなかった理由も、そこにあった。
そういう効果を得られる行動を、考えて実行せずとも出来てしまうところが、アスハ家の血には流れているようなのである。
この場合、言っている言葉の正当性や、時代感覚といったものは関係ない。
自身の叫びを聞いた人の心を揺さぶり、熱狂的な戦意を駆り立てられる方に作用できれば、それでいい。
したがってカガリが部下たちに向けて放った発言が、主権を国民に委譲された近代的な民主国家の元首には不適切な血統主義的なものだったとしても、オーブの人々が“今”求めているものが法律上の手順や義務を守ることではなく、自分たちと国を守れる力と資格を持つ者であると信じさせてくれる根拠だけだった現状では有効に作用することができる。
・・・・・・だが反面、カガリの発言と行動内容は言い換えれば、『形式化した社会に失望した人々を観客受けする雄弁で熱狂させた』というだけであって、彼女が政治レベルで判断できる能力を有することを証明するものではなかった。
もともとカガリは、先の大戦において連合軍によるオーブ攻略と敗戦を経験しており、素性を隠したゲリラ兵としてMSを擁するザフト軍相手に装甲車で挑んでいった事すらある。
自分たちの方が圧倒的に不利な戦力差で戦うことにも、勝てない戦の指揮も慣れがある一風変わった経歴の持ち主ではあったのだが、政治家としては正攻法と一般的な政権運営をしただけで独自の見解や意見を述べたことは一度もなく、先見性やオリジナリティーなどの面では大きく亡き先々代の代表に見劣りする。
この戦い後にセレニアが、カガリ・ユラ・アスハについて、皮肉交じりに評した言葉が残っている。
『オーブにとって惜しむらくは、カガリ・ユラ・アスハさんの政治家としての性質はアジテーター・・・・・・扇動演説家でしかなかったという点でしょうかね』
「・・・カガリ。いま行政府の制圧に向かった部隊から報告があった。セイランに買収されていた取り巻きの閣僚である首長たちは逮捕拘束することは出来たそうなのだが・・・・・・ウナトの姿だけは発見できなかったとのことだった」
「ウナトがいないだと!?」
「ああ。どうやら地下シェルターにある対策本部に我らが突入する前に、一人だけ逃げていたらしい。自分に味方する首長たちは全て見捨ててな・・・・・・」
報告のためカガリの前に戻ってきたキサカの顔は苦々しい。
カガリからの要請を受け、ザフト軍が一時後退して戦闘が中断したため他の部隊を上空支援するためムラサメ隊の一部を率いて前線から戻ってきていた彼だったが、状況は改善したものの戦闘終結に至らせるには条件が足りていないことも理解していたからだ。
国防本部ビルにある無数のモニターの一つには、逮捕されて手錠をかけられた姿で俯きながら歩かされている、セイラン家に買収されて飼い犬に成り果てていたいた首長たちの悄然とした姿が映し出されていたが、主犯格のウナトに切り捨てられた彼らを差し出したところで状況が変わった今となってはザフト軍が撤退すべき理由になるわけもない。
「事態を知ったらしいデュランダルからも通達が来ている。
“ジブリールが合流している恐れがあるウナト捜索にザフト軍も協力するため本土内への上陸を許可して欲しい。敵が同じなら我らは進んで協力し合えるはずだ”・・・・・・ということだった。
提案としては、あながち間違っていないのだがな・・・」
「・・・・・・デュランダル議長が・・・」
その話を聞かされ、今度はカガリが顔をしかめる番だった。
プラントの議長としてデュランダルの言っていることは分からなくはない。
本来は他国の軍隊を国内に進駐させることは大いなるタブーの一つではあったが、カガリには彼らに信義で応えれる実績がなく、プラントにとっての脅威であるジブリールと共にウナトを探すためザフト軍とオーブ軍が共闘するのは双方の融和を図るアピールとしては有効だろう。
だがアスランやラクスなどから話を聞かされているカガリにとって、デュランダルの提案を額面通り素直に受け取っていいものなのか?と疑問視する癖がつくようになっていた。
信用して国内に入れたはいいものの、事故に見せかけて応戦せざるを得ない状況へと引きずり込まれる策略に利用される危険性を警戒せずにはいられなかったのだ。
と言って、提案している内容そのものは完全に無茶な言い分と言うほどではない。相変わらず、対応のしづらい部分を突いてくる男だった。
(せめてウナトさえ、私たちオーブ人の手で発見して捕らえられれば、今日の危機だけは避けることが出来るのに・・・・・・ッ!!)
カガリとしては、そう思わずにはいられない。
既にオーブ国内の各所に手を回し、ウナトが使えそうな逃げ道だけでなく、一時的な隠れ場所になりそうな場所まで徹底的に捜索させているが未だに逃亡者一人を発見することさえ出来ていないオーブ軍とオーブ元首の言葉を、逃走を許せば核攻撃に晒される恐れのある相手国に信じてもらえないのは当然と言えば当然の対応である。
『自国の法を犯した犯罪者は、自分たちで裁く』――と言うのであれば、それが自力で出来ることを示す義務がオーブには生じることを意味している。
言っている言葉を実行する意志はあっても、実現できる能力がない、という状態では今のような時に相手国がオーブの『無能ぶりを尊重したせいで国民が殺されるリスク』を背負ってやるべき理由はどこを探してもある訳がないのだから・・・。
「か、カばぁリぃ~っ!」
そんな状況の中、両脇を兵士たちに押さえられている姿で、ユウナ・ロマ・セイランが司令室へと戻されてきた。
発音が微妙にくぐもっていたのは、晴れ上がった頬と大きなアザがついた綺麗だった顔が原因になっている部分だった。
「ひボいよ、こればァ! あんばりだァ! カバリ、ボク達はきみの留守を守って一生懸命やってきふぁのに、ふぉれなのに・・・・・・」
なよなよと言いつのり、一片の後悔も覚えている様子のない態度と口調にカガリは思わず怒りに駆られ、拳を叩きつけてやろうとユウナの顔を「キッ!」と睨みつけ――そして怯む。
「ひビィッ!?」
と、相手の思わぬ剣幕におびえて腰を抜かした元婚約者の――涙を流して血を流し、腫れ上がった顔の一部が両目のバランスをおかしくさせている、現在の相手の顔を見せつけられて思わず怯みを覚えずにいられなかったのだ。
てっきり、一片の後悔を覚えている様子もない、例の取り繕った澄まし顔を見せつけられるものだとばかり思っていた。
元が軟弱ではあっても貴公子的な容貌を持ってはいたユウナを知るだけに、カガリとしては現在とのギャップで冷や水を浴びせられた気分になり、多少の冷静さを取り戻す理由になったようでもある。
・・・おそらくウナトの居場所を吐かせるため、尋問する役割を任せた将校の一部がやった行為の結果なのだろう。
カガリとしては、セイラン家だけが悪かったわけではないことを今では理解していたし、やりすぎて死なせてしまっては元も子もない。拷問という手段には抵抗もあった。
何よりオーブの法では、拷問などという手段は、たとえ犯罪者相手でも取っていいことにはなっていないのだ。
法を犯した罪で犯罪者を裁くために法を犯すというのでは、法の秩序は成り立たない。
だからカガリも、ユウナの尋問を委ねた者たちには「やり過ぎ」は控えるよう厳命していたのだが、逼迫した状況故の焦りから過剰な暴力を振るってしまった者がいたらしい。あるいは今までにされてきたことの私怨、という側面もあったかも知れない。
(――だが、それでも今は・・・・・・!)
それらの事情を承知した上で、カガリは国を守るため今一時は心を鬼にする覚悟を決めて拳を下ろし、代わってユウナの胸倉を力尽くで掴みあげて顔を寄せさせると、激しい激情を込めた瞳で睨みつける!
「か、カう゛ぁリッ・・・!?」
「・・・おまえ達だけを悪いとは言わないっ。ウナトやお前や、首長たちと意見を交わそうともせず、ただただ愚かな判断と選択を「バカだバカだ」と罵るだけで、代表としての己の任をまったく全うできていなかった私にも罪がある。十分に悪い、私も悪い!!」
相手を掴みあげる腕に力を込めながらも、再度叩きつけたくなる拳を握り込まないよう、怒れる力を懸命に押さえ込み、「自分にそんな資格はない」と必死に己の中で自制を促す言葉をかけ続けた。
実際カガリは今まで、相手を責められるほど碌な事はしてこれなかった自覚がある。
皆が協力してくれないからなにも出来ないと嘆くばかりで、協力が得られる状況作りをしようとはしなかった。
愚かな判断や選択をすべきではないのにと皆の正気を疑って、そういう判断をおこなう理由や事情を考えたことが一度もなかった。
ただ、政治家ならば、国と民達を率いる者ならば、国のため民のために尽くすのが当然で、己のことや家族のことを優先して全体の平和貢献を怠ることは許されないのだと、自己犠牲を強いるのが政治を担う者の義務なのだと、自己の認識を押しつけて受け入れない者は否定する。・・・・・・それだけが今までのカガリが政治家としてやってきたことの全てだった。
挙げ句、連合と手を組む以外に選択肢のない状況下で、それをすべきではないと叫びながら、その手を選ばずに済ませるため自分が何かしたという訳でもなく、ただイヤな決断をする役割をセイラン家に押しつけて浚われた立場のまま、帰れるのに帰ろうともしなかったのがアークエンジェルに同乗していた頃のカガリだったのだ。
自分が言っていたことが間違っていたとは、今でも彼女は思っていない。
ただ、自分が言っていたことを実現するため自分自身は何もせず、相手に妥協ばかりを求めているだけだった他人よがりでしかなかった己の行動は間違っていたと、今では確実にそう思う。
言うは易い正論を述べるばかりで、具体的な解決案を何一つ述べようとしない。
『国の理念を守る』と言いながら、権謀術数で挑んでくる相手に正攻法で押し通そうとするだけ。
・・・・・・それは、自分が望むとおりに相手や世界が動いてくれると信じ込んでいるのと全く同じ。
ユウナたちセイラン家と同じことしか出来ていなかったのが、政治家として今までのカガリ・ユラ・アスハだったのだ。
そんな今までの自分に、今までのセイラン家がやってきたことを責める資格などあるわけがない。
だが、だからこそカガリは、自分にユウナを殴る資格はないと知りながらも、セイラン家が“今やっている行動”を許すことがどうしても出来ない激情に駆られずにはいられなかった。
「だが、これは何だ!? 先の大戦と同じく敵に攻められ、国土を焼かれている現状は!?
たとえ意見は違っても、国を護ろうという想いは同じだと信じていた! 国を護るためには私の方が間違っていて邪魔なのではと思うこともあったのに! それなのに・・・ッ!!」
「い、いや、だからふぉれは・・・・・・っ!」
「お前たちは私に言っていたはずだッ!
“国は私のオモチャではない”と。“感傷でものを言うのはやめろ”と。
“地球の国々と手を取り合わず、プラントのみを友と呼んで地球上で孤立するのか”と。
そう言ってお前たちは私に、恩人の船であるミネルバを見捨てることを受け入れさせ、大西洋連邦との同盟調印を認めさせたはずだ。
“またオーブを戦火の炎で焼かせない為には仕方がない”と・・・・・・それなのになんだ!? この状況は! 今のオーブが置かれた現状は!?」
「ふぉ、ふぉへは・・・・・・ふぉの状況はァ・・・・・・ッ!?」
相手の剣幕を前にしてユウナは蹈鞴を踏み、なんとか話を逸らして丸め込もうと必死に矛先を探して視線をさまよわせるが、目に映るものは自分を憎々しげに睨みつけてくる味方“だった者たち”ばかりで、適当な口実など何一つ見つかりそうもない。
「見捨てるべきだったじゃないか! 連合を!
お前たちが言っていたことが正しい正論だったからこそ、連合のみを友と呼んでオーブを孤立させることなく、他の国々と歩調を合わせて連合との同盟を破棄して、プラントと新たな条約を締結してオーブを護る道を選ぶべきだったはずだ! その機会もあった!
それなのに何故だ!? なぜ頑なに子供じみた態度で連合との同盟に固執して、国を戦渦に巻き込むリスクをわざわざ背負い込むような真似をした!? お前たちが私に言っていた言葉を、今こそお前たち自身が実行すべき時だったんじゃないのか!? 違うか!? ユウナ!!」
「そへはァ・・・ッ、だふぁらァ・・・・・・ッ!?」
ユウナはもはや返す言葉がなにも見つからず、口をパクパク開けて意味のない単語を繰り返すだけしか出来なくなってしまっていた。
返しようがなかったからだった。
相手の言っていることは完全に正しく、反論も詭弁も入り込ませる余地が見いだせない。
きっとカガリの中で自分たちセイラン家は、本気で国を守ることを考えてもいないまま、当時は代表だった相手に受け入れさせるために中身のない正論を言っていただけの詭弁家で、自分たちが招いてしまった事態になんの痛痒も感じていない無責任極まる人でなしと見えているのだろう。
そう思われても仕方のない行動と結果が、現在のオーブの窮状という形で『答え』として出されてしまっているのだから、ユウナたちとしては反論の余地は微塵もない。
――だが違うのだ! そうではないんだ!!と、ユウナの心は悲鳴のように叫び声を上げていた。
たしかに今みたいな結果を招いてしまったのは悪いと思ってはいる。
だが自分たちが選んだ選択のせいで、こんな結果になるなんて誰が予測できる!? 自分たちの利害もあったが、あの時点では本当にオーブを守るためには有効な手だと信じて実行したのだって嘘ではなかったのだ。
それに・・・・・・カガリにはセイラン家に関することで誤解している点が幾つかありもしていた。
そもそもの始まりにおいてセイラン家は、オーブの政治面を牛耳る際、先の敗戦から代替わりした首長たちを金で買収して自分たちの手駒で議会を固め、事実上の出来レースで多数決の結果のみを総意として代表に認めさせる――そういう手法をとっていたのだが・・・・・・。
――それほどの大金を、セイラン家はいったいドコから手に入れていたのだろう?
如何に彼らがオーブの経済面を牛耳れる地位にあり、オーブが両大国の対立によって莫大な富を築いた中立国で、軍事技術の高さで知られる技術立国であったとしても。
大前提としてオーブという国そのものが、先の大戦後期に地球連合の侵略をうけて占領され、戦後になってしばらく後に独立を回復したばかりの『敗戦国』なのである。
セイラン家がオーブ経済を支配しようとも、ない袖を振るうことは出来ない。賄賂をもらうにせよ、それほど旨味のある市場や土地が焦土と化した連合占領下のオーブに多く残っている訳もない。仮にあったとしても国費の大半を首長たちを買収する賄賂に横流しできるというものでもない。
では、どうするか? 簡単だ。
後進国に落ちぶれた元先進国が、再び先進国に復帰するためには、『大国と結んで優遇措置をとってもらう』・・・・・・昔ながらの方法論を選び取ればいい。
セイラン家はそれをやった。
オーブに対して貿易関連の権益を優先的に回してもらい、その見返りとしてロゴスから送られた金で首長たちを買収して連合寄りの政策や意見を主張し続けてきたのだ。
言ってみればセイラン家は、オーブ国内に関連企業はあっても支社を持たないロゴスが、自分たちのダミー会社として確保した経済的な侵略拠点という立場になる代わりに国内権力の頂点を極めることと、オーブの戦後復興を早期に完了させることを可能にした。
子会社の社長一家が、親会社のグループ・オーナーに頭が上がるわけもない。
だからセイラン政権下でのオーブは、地球連合との同盟破棄に踏み切れず、ロゴスとの繋がりを切ることも出来なかったのである。ジブリールとの、ではなくロゴスとの繋がりを。
・・・・・・だが、そのことを正直に言うわけにはいかない。
主権国家に属する官僚一族が、他国の外資企業に買収されて言いなりになってました、など言えるわけもなかったのだ。まして国家元首を前にしては尚更に――
「言え! ユウナ! ウナトはどこだ!? 国を守る立場にある者として、せめてそれがお前にできる責任の果たし方じゃないのか!」
「だ、だふぁら! ボクは知らないんばっふぇッ!? ウソじゃなひッ!?」
「ユウナッ! この期に及んで、お前はまだ・・・ッ!!」
「ホンふぉうなんだよ!? ホンふぉに知らないんだッへば! たひかに父さんからは、いざというふぉき逃げる準備がしてふぁるって言われてたけど、それを教えられてふぁのは護衛隊の隊長で、彼に案内してもらへって・・・・・・っ」
「――なッ!? しまったッ!!」
ユウナからの証言を聞かされた瞬間、ソガ一佐が慌てた様子で大声を上げたが時既に遅かった。
てっきり飼い主を捕らわれた今となっては、凶暴なだけの番犬どもなど何ほどのことも出来ないだろうと高をくくってしまい、ザフト軍の攻撃に対処することで手一杯だったこともあり、逃げるに任せて捜索隊すら出そうとしなかったのだ。
今から追わせたところで、どうにもなるまい・・・・・・だが追わせる以外に手段もない。今更ながら自らの軍人偏重で権力の犬を侮って軽視しやすい心理的傾向は悔やんでも悔やみきれない。
「探せ! 草の根を分けてでも例の黒服どもを見つけ出してウナトの居所を吐かせるんだ! もう時間はない・・・最悪の場合、抵抗するようなら何人かは発砲しての殺害も許可する!! 何としても奴らを見つけ出して捕らえるんだ!!」
「ニシザワ! イケヤ! お前たちも行って上空から捜索を支援しろ! ムラサメがもつ地上支援用の観測機能は、歩兵の補足にも転用できるはずだ!」
「「ハッ! 了解ですキサカ一佐っ」」
背後では事態を知った部下たちが、即座に対応するため各の部下に指令を出している中で、カガリだけは未だユウナの胸倉を掴みあげたまま、睨みつける目を外すことが出来ていなかった。
彼女としても判断が難しいところだったのが、そうしていた理由だった。
もし仮に、ウナトと共にジブリールが逃亡している可能性が事実であると確定していたなら、彼女はユウナからの証言や態度をそれほど疑うことはなかったかもしれない。
そこまで頑強に、自らが囮になってまで他人をかばうような人間とは思えないからだ。
今の媚びるような瞳を自分に向けてくる姿を見せつけられれば尚更に、そう思わずにはいられない。
だが今、自分たちが逃亡者として追っているのはジブリールではなく、彼の実父ウナト・エマ・セイランなのである。
いくらカガリがお人好しと呼ばれる元首でも、相手の証言を鵜呑みにして信じられる立場ではなかった。
ただ一方で、ウナトが緊急時の脱出法法をユウナに教えていない可能性は多分にあると思っていたのも事実ではあった。
ウナトにはそういう所があり、溺愛する息子ユウナのため『自分がしてやろう』という姿勢で応じていることが少なくなかったことを、カガリ自身もよく知っていたからだ。
「・・・本当に知らないんだな? お前はウナトが今いる隠れ場所の情報も、いざという時の脱出手段もなに一つとして、何も・・・?」
「し、ししし知らなひッ! ホントにボふは何も知らないんぶぁ! 信じてよカう゛ぁリ!お願いだよォーッ!?」
「・・・・・・わかった」
そう呟いてから、やっとカガリは相手の胸倉から手を離す。
ユウナはいきなり支えを失って尻餅をつき、「あ痛ァッ!?」と無様な悲鳴を上げていたが、その時には既にカガリの心にも誰の心にも、ユウナの無様さを笑う気持ちは1ミリグラムも残ってはおらず、ただただ『目の前に迫りつつある危機への対処法』それのみで頭も心もいっぱいになっていた。
「ユウナ、お前の言葉を信じよう・・・・・・だが、私の代理とはいえオーブ政治を担ってきた者としての責任は取ってもらうぞ!
ザフト軍の要請に応じて、セイラン家の片割れだけでも今すぐ引き渡す! 後の弁明はプラントの法廷でもデュランダル議長の前ででも好きなだけ振るうがいいッ!」
「へ?・・・・・・ええェェッ!? ちょ、カガリ! そんな! そんな事されたらボクはッ!?」
「憲兵! 連れて行け! ザフト軍に攻撃を再開されない内に早くッ!!」
この引き渡し作業によって、少しでも戦闘停止の時間が長引かせることが出来れば、ウナトの捜索と発見は飛躍的に確率を上げることができる。
デュランダルが本心でなにを企んでいるにしろ、今のところは建前を無視してゴリ押しする気はない態度を見せている状況の間は、ユウナを引き渡してオーブ軍がウナトを確保することさえ出来れば交渉することは可能だということを意味していた。
だが、それもウナトを確保できたらの話であり、ジブリールと共に行動しているかも知れない彼の逃亡する姿がザフト軍の目にも明らかになってしまった時には、彼らは『核ミサイルの脅威への積極的自衛』のためオーブ政府の許可など無視して軍を進めることすら厭わなくなる可能性は否定できない。
そうなってしまってはカガリとしても、オーブ軍に手を出すなと命じることは難しくなるのだ。まして相手が本当に『積極的な自衛“だけ”が目的』とは言い切れないデュランダル率いるザフト軍とあっては尚更に―――
「ユウナの引き渡し交渉によって、少しでも多く時間を稼ぐ! 皆その間になんとしてもウナトを見つけ出すため全力を挙げてくれ! なんとしても私たちの国オーブを守るんだ!
皆に、ハウレアの加護があらんことをッ!!」
切迫した状況に焦る兵士たちに向かって、カガリは自分自身がかつて滅びいくオーブを脱出する際にかけられた言葉を使い、あの時の苦難と国の復活を想起するよう呼びかけ奮起を促す。
こうして、三勢力はそれぞれに理由と事情は異なりながら、時間稼ぎを求めるという点では図らずも一致した状態で、奇妙な停滞をオーブ海の戦場にもたらすことになる。
オーブ軍は、独力だけで逃亡者ウナトを発見し、ザフト軍にちょっかいを出させぬ為に。
ザフト軍は、オーブを自主的に戦争に巻き込んで滅ぼしたい最高権力者の理想実現の為に。
地球連合は、本命の作戦完了と、切り札であるデストロイ部隊到着までの場繋ぎの為に。
それぞれがそれぞれの目的の下、状況の一時停止と継続を望んでいた。
ただ一方で、三者の内、稼いだ時間の使い道を決めているのは一者だけで、残る二者は継続そのもを当面の目的とし、状況の変化に応じて臨機応変に対応しようという受け身の姿勢だったという違いは持っていた。
そしてまた、対立抗争を続ける勢力たち同士が争い合う状況下で、全ての勢力が状況変化を望んでいない状況にあったとして。
戦渦に巻き込まれる者たちの全てが、現在の戦闘が停止している状況の継続を望んでいると決まっているわけでもない。
――この頃、セイラン家の私兵部隊を捜索するため兵士たちが慌ただしく動き回っていた国防本部ビル内にある司令室付近の喫煙所で、一人のオーブ軍兵士が寝転んでいた。
正確には、オーブ軍兵士と思しき男性が寝転がって寛いでいるのだ。
公的身分を示すものを何一つ身に纏わない姿で、床に横になって寝転んでいたのである。
軍服も纏わず、下着だけしか身につけていない薄着姿のまま、冷たい床の上でジッと動かぬまま寝転がっている青年。
血を流して倒れていた――という訳ではない。
身体からは一滴の血も流れていないし、戦闘が行われた形跡も見当たらない。
だが一方で、寝ているわけではないことだけは確実だった。
両目を見開いたまま、“顔と背中が同じ方向を向いた姿勢”で、睡眠がとれる人間など人体の構造上ありえるはずがないのだから・・・・・・
今、その青年の周囲には何人かのオーブ軍人たちが集まってきていた。
軍から与えられた身分証を胸に光らせ、決して偽造ではない汚れがほとんど付いていないパリッとしたオーブ軍の軍服を着こなしながら、彼らの中で最も高い階級章をつけた上官が部下達に対して、こう質問を投げかけていた。
「これで全員分そろったな? 軍籍証明と軍服とを他人のヤツと間違える凡ミスは犯してくれるなよ」
「分かってますよ隊長ォ。しっかし本気でやる気なんですかい?
俺たちだけでユウナ坊ちゃんを助け出すなんざ無謀すぎやしまんかねェ。逃げ延びてウナト様に援軍でも頼んだ方が賢いとオレなんかには思われますが?」
三尉の階級章をつけた目つきの悪い部下に問い返されると、隊長と呼ばれた人物は両目を眇めて只一言「アホウ」とだけ答えて部下の筋肉バカさ加減を罵倒した。
「オレたちだけで逃げ帰って、“守るべきご子息様は前代表の小娘様に捕らわれて命惜しさに見捨ててきました~”・・・・・・なんて報告してきた無能すぎる部下を生かしておいてやる理由が、ドコの誰にあると思ってんだテメェは?
せいぜい他の部下どもが怖じ気づいて寝返られねぇよう、見せしめとして処刑され役を押しつけられるだけに決まってんだろうが。少しは考えてからものを言え、このバカ」
「は、ハァ・・・・・・すんません。以後気をつけます・・・」
恐縮して引き下がり、恐るべき隊長への畏怖を新たにした部下の男達を見渡して、隊長と呼ばれた「一尉」の階級章をつけた青年は宣言した。
その一尉の男と、ソガ一佐がもし出会う機会があったとしたら、彼の顔に見覚えがあるものを感じて声をかけていたかも知れない。
つい宣告まで自分たちと同じ部屋で、不愉快そうな面を付き合わせていた味方として。
先日来から、部屋の壁際から自分たちの背中をジッと見つめ続けていた気色の悪い新参のオーブ兵として。
「両手を挙げて降伏しろ」と、銃を抜いて構えながら警告するという形での声がけを――セイラン家が最近雇い入れた私兵部隊を率いる隊長に、ソガ一佐が出会うことが出来た時にはやっていた可能性は極めて高い人物だったから――。
「オレたちはユウナ様を、ザフト軍に移送される途中で襲撃して奪還した後、ウナト様が待つシャトルに合流する。
その手柄によってシャトルに同乗させてもらってオーブを脱出する。それ以外に俺たちが助かる道はねぇ。
いいか? 命捨てでもユウナのお坊ちゃん様を絶対に取り戻すんだ。それが出来なきゃ、オレたちゃ全員あの世行きか一生ブタ箱行きかのどっちかしかねェんだ。
取り戻すまでは自制しろ、取り戻したら遠慮はいらねぇからブッ放しまくってブッ殺しまくって逃げるために何でも利用しろ。・・・・・・行くぞ」
『応――』
こうして黒服を脱いでオーブ軍服を纏い直した、元黒服の男たちはユウナ奪還のために動き出す。
逃げ出したと見せて、一端は近くの空き部屋に隠れてやり過ごし、その後の混乱の中で単独で行動していたオーブ軍士官を数人がかりで羽交い締めにして口を塞ぎ、二人がかりで首の骨を折って殺すと軍服を奪い、その軍服を纏った一人が誘い役となって別の兵士を誘き出すと数人がかりで襲いかかる。
・・・・・・それを人数分そろうまで繰り返し、人の出入りが激しくなった国防本部内から、何人かの兵士が出て行ったまま戻らなくとも誰も不思議がらない状況を利用して用意を調え、今こうしてビルの外へとクーデター発生以来はじめて外出する。
「い、嫌だよォ、こんな輸送機なんふぁ! ボクはあんふぇんな本島にあふセイラン家のシェルターにィ~・・・・・・ッ!」
「いいからお入りください! ほら、大人しくして・・・ッ!!」
「うるふぁッい! お前ら誰ふぉ相手にしてると思っへるんだッ!? ボクふぁオーブの最高司令官へ、セイランの跡取りなんだふぉッ!」
「ですから! ええい、もう手間のかかる! ――ん? なんだ貴官らは? 応援がくる連絡などもらっていないぞ・・・・・・」
「カガリ様の命により警備強化のため急きょ派遣された者だ。セイランの私兵部隊に殺されたと思しき兵の死体が、軍服を奪われた姿で発見されたのだ。おそらくユウナ・ロマの奪還を狙ってのものだろう」
「なに!? あのセイランが雇った黒服の奴らがか!?」
「ああ、そうだ。奴らはいつ襲ってくるか分からん。ユウナ様の周囲を固めて、決して警戒を怠るな」
「了解したッ! オーブを守るためにも、ザフト軍に引き渡すまでユウナ・ロマの身柄は俺たちが死守して見せる! たとえ命を捨てることになってでも家族の住む国を護らなきゃならんからな! アンタらだって同じようなもんなんだろう!?」
「――ああ、そうさ。アンタと同じでオレたちも、“命を捨てでも死守する覚悟”はとっくに出来た後の連中さ・・・・・・」
そう言って、「ニカリ」と笑って周囲を警戒して銃口を向け直す味方の兵達の背後から、「ニヤリ」と嗤って拳銃を抜いた男達の手元に発砲音が響き渡ることはなく。
サイレンサー付きの銃身から発射された弾丸によって命を奪われた護国の英霊達の亡骸が、本当の味方に発見されるのは戦闘が終結して大分たった後の話を待たなければ行けなくない事となる・・・・・・。
そして、この時。
ほとんどの参加者達が想像だにしない事態が発生しつつあったことを知る者は、一部の脚本家たち以外には誰もいなかった。
それはザフト艦隊の外縁部に配置されていた、他の地球国家が連合に再度の寝返りのためザフト派遣軍を背後から襲おうとする万が一の可能性に備えて、念のため索敵を任されていた一隻の潜水艦でCICを務める若い兵士が奇妙な反応を発見したことからはじまる。
「・・・?? 艦長、レーダーに妙な反応があります。なんでしょう、コレ・・・・・・熱量がやたら大き過ぎる上に、サイズも通常のものとは思えない・・・」
「まさか! 連合軍艦隊の別働隊か!? それとも例のベルリンを襲った悪魔がまた・・・!」
「いえ・・・戦艦にしてはサイズが小型ですし、ベルリンの悪魔にしては熱量が大きすぎます。それに敵だったならニュートロンジャマーを散布して発見できない距離からの反応ですので、今のところアンノウンとしか・・・」
「確かに妙な話だな・・・・・・まぁいい。こちらに向かってきていることが間違いなければ、もう少しで目視できる距離に入るはずだ。それを待って確認してからでも遅くはあるまい」
妨害されることなく、レーダーに映るからには敵性因子をもった危険物ではない。
ニュートロンジャマーでの電波妨害が当たり前になりすぎた世代故の油断が、このとき艦長の判断を誤らせたことを彼は数分後に知ることとなる。
潜望鏡深度で、または海上を映し出すモニターに表示された光景によって、目視できる距離まで接近してしまった“ソレ”の姿形を目撃した瞬間。
古参で年かさの艦長と、若い戦後世代の新米兵士はともに絶句し、青ざめて、顔面蒼白になりながら、階級も年齢も超えて一瞬だけ言葉を失い合う。
全身にスパークを纏わせながら、ただ真っ直ぐに向かうべき場所と定められた目的へ進み続けることだけを最後の任務として全うするため、人生最期の戦場へと到着を果たした悪魔たちが姿を現す。
――二度と夜明けを見ることの出来なくされた少年たちの嘆きを、最期の歓喜へと昇華してくれることを願って戦いの女神が与えた、燃えさかる炎を纏わせた暁の車・・・・・・
「ヒャ~~ッハッハッハぁッ!!! さぁ、行くぜェッ!!
こんな最高のオモチャを殺らせる奴らァ、み~んな殺っちまって愉しめばいいんだよォォォォッ!!!」
――デストロイ小隊が、オーブを巡って三勢力が争い合う戦場へと、遂に到着した。してしまった――。
つづく
*遅まきながら今話の内容について補足する必要があるかもと思い至ったため説明を追加しました。
今作におけるロゴス・セレニアは、【キラ・ヤマトの存在】には辿り着きましたが、【スーパーコーディネイター キラ・ヤマト】のことまでは把握していません。
そんな計画があった事だけならキョウヤ・ヒグチから聞かされて知ってるかもですが、唯一の成功例があることまでは知りようがない為、知らない。
ただキラが、他の一般的コーディネイターでは有り得ない性能を持ってるのは戦果を見れば分かる。…それで十分。
あくまでセレニアの仕事は【強敵に対処すること】です。
【強い敵の種族名】など知ったところで敵が弱くなる訳でも、味方が強くなれる訳でもないならどーだっていい。
スーパーが付こうと付くまいと、【強い敵は強い】
それだけが敵の指揮官であるセレニアの考え方です故に…