機動戦士ガンダム 死のデスティニー   作:ひきがやもとまち

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最新話の更新です。
……実は完成自体は少し前から出来てたんですけど、どうにも自信が湧かずに躊躇い続けてまして……結局は何かしら出さないといかんのだしと、ようやく納得して投稿した次第。
最近どうも自信損失中で臆病になってるっぽい作者……作風に影響してないか心配です。


PHASE-17

 艦隊外縁部の潜水空母が、接近中の《デストロイ》小隊を発見した頃。

 ――だが一方で、その正体と脅威を目視によって確認するには僅かなタイムラグが生じていた時間。

 

 ミネルバのパイロット待機室では、ノーマルスーツ姿になったシン・アスカが、やり場のない想いを抱えたまま悶々とした時を無為に過ごしていた。

 気を紛らわすため、ソファに横になり雑誌を広げてはいるが、内容を読んでいないことは誰の目にも明らかだった。

 

 錯綜する複雑な感情を、荒れ狂う怒りという激しくはあっても単純な、一つだけの激情に変換して集約することも出来ぬままに、混乱した心情を統合することも出来ず、ただイライラすることしか出来なくなっていたからだ。

 

 オーブを併呑しようとしているジブリールを阻止して国を守る。その命令をはじめて聞かされた時、シンは戸惑う気持ちを抑えることができないほどの衝撃を受けさせられていた。

 一度は捨て去り、もう二度と訪れまいと思っていたあの国に、また近づいている。

 それも今度は連合の脅威から守り抜くために。

 

 当時の自分から全てを奪った砲火を放った者たちから、あんな事を繰り返させないための力を求めて手に入れた今の自分が、その願いを現実にできる日が遂に訪れたのである。喜びこそすれ、戸惑うべき理由など自分には一つも持ち合わせている訳がない。

 

 ・・・だが、にも関わらずシンの心は戸惑っていた。

 今まで信じてきたものが再び失われたような気がしてイライラしていた。

 

「――クソッ! 一体、なんでこんな・・・・・・っ」

 

 思わず苛立たしげに悪態を吐く。意味のない呟きだった。

 いったい自分がなにに苛立っているのか? 何が不満なのか? 願っていたことが実現しようとしているのに何で・・・・・・それらの理由が分からぬまま口にする不満に、明確な意味など与えられる訳もない。

 

 議長が言うことは尤もな正論だったが、理屈通りに人の心が動けるなら苦労はない。

 一度は、自分の想いに自分でケリをつけようと、セイラン家を引き釣り出すため自ら愛機で出撃しようと決意したが、その直後に機種不明な金色のモビルスーツが敵増援に現れてオーブ国防本部ビルに降下したと報告がもたらされ、その後に続く形で“敵”から届けられたのが例の提案と戦闘停止命令だ。

 

 シンとしては肩すかしを食らわされたようなもので、決意した想いが空転してしまって、振り上げた拳の落とし所すら得られぬまま、やり場のない思いを押さえつけながら戦闘再開まで待機し続けるしか出来ることが何もない立場を甘受するしかなくなっていたのである。

 

(なんで! いつも、あの国は俺を裏切り続けるような真似をするんだ!? 一体なんで・・・!)

 

 現状の現実とは、やや矛盾し始めてきた理由での怒りを、シンは無意識に心の中だけに押さえつけて罵る言葉を放っていた。

 今までは、自分の家族が連合の侵略によって殺されたのは、オーブに力が無いからだと思っていた。

 亡きウズミ・ナラ・アスハは、オーブの理念は守り抜けたが自分たちの家族を守ってはくれなかった。カガリ・ユラ・アスハが言うような綺麗事を口にするだけで何も守れる力が無いのでは意味が無いと。

 

(アスハが、もっとしっかり国を守れるようにしてくれたら俺の家族は! 父さんも母さんも! そしてマユは死なずに済んでたはずだったんだ! それなのに――ッ!!)

 

 そういう想いで、怒りで今日まで力を求めて戦い続けてきた。

 だが今のような状況下で、今の自分のような立場になって、考える時間を得てしまうと・・・・・・

 

 ――本当にそうだったんだろうか――?

 

 そんな疑問が頭の中にもたげてきて、それを消すことが出来なくなってしまってくる・・・。

 あの戦いの中で、もしオーブが勝ち目のない連合軍相手に抵抗することなく降伏していたら―――今の自分たちがオーブを攻めようとした理由は、オーブが連合と同盟関係にある敵だからだ。敵は討たねばならない。

 

 では、当時のオーブが国を守るためプラントと同盟していれば――連合軍がオーブを攻め込んだのは『地球の一国としてザフトと戦わないオーブはザフトと手を組んでいるからだ』という難癖をつけて、追い詰められた連合が逆転のため形振り構わなくなったからだった。

 

 連合からの言いがかりでしかなかった嘘が、事実になるだけでは意味がない。

 ザフトの方も、今のデュランダル議長と違ってトップに立っていたザラ議長という人はナチュラル否定の急先鋒だったという。その人は本当にオーブを守ってもらえただろうか?

 

 どう考えても、オーブが滅ぼされずに戦争が終われたヴィジョンが思い浮かべない。

 どう足掻いても、戦火に焼かれる祖国の姿しか想像できない。砲火を放つ国の姿が変わるだけだ。

 

 では・・・・・・自分の父さんは、母さんは、マユは・・・・・・

 

 

 ―――死ぬべき運命にあった―――

 

 

「~~~~~ッ!?」

 

 そこまで考えてしまった瞬間、シンは慌てて頭を振って不愉快すぎる予想を追い払う。

 顔色は蒼白に染まって、無意識に逸らしていた絶望の一端に手をかけてしまった恐怖に心底から襲われて、心臓の動悸を鎮めるために激しく呼吸せざるを得なくなる。

 

 彼自身は自覚していなかったか、あるいは自覚するのを避けていたが・・・・・・シンが本心から否定して恐怖を感じているモノの正体は、ソレだったのだ。

 

 両親の死が、マユの死が、明確な誰かの望みを叶えるため、理不尽な死を押しつけただけで、ソイツさえ止めれば、ソイツさえ余計な事を考えなければ、妹と家族たちは幸せな人生が送れて死ななくて済んだ――“訳ではなかった”としたら。

 

 偶然にも巻き込まれて世界中で死んでる大勢の人たちの一人が、“たまたま”自分の家族だっただけだったとしたら。

 

 ・・・・・・それではシンの家族は、『世界に殺された』という事になってしまう。

 人の中に、家族を殺した犯人がいなければ、この世界が自分の家族に『死ぬ運命』を与えたから死んだ事になる。

 自分の家族は『生きている資格がない』と世界に判定されたから、だから死んだ。誰も悪くない、運命だから仕方がない――そういう事になってしまう。

 

 そんな認識は到底、シンに受け入れられるものではない。

 だから彼は犯人を求めたし、「その犯人は奴らだ」と指し示してくれて根拠を語り、様々な証拠を見せてくれるデュランダルに心酔した。

 実態のない世界を怨むよりも、特定の人間だけを怨んで、報復するのではなく裁きを与えているだけなのだと、一般認識だけで処理できる範囲に問題を収めてしまった方が遙かに気が楽だったから・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 ――一方で、シンとは異なる理由で荒れ狂う怒りを抑えきれなくなりつつある人物も一人いる。

 

「・・・・・・ウナト・セイランと、ユウナ・セイランは?」

「まだウナトの方は見つかってないようね。なかなか頑固に抵抗して逃げ回ってるらしくて、オーブ軍も艦隊司令も捜索には苦慮してるみたい」

「くッ・・・! ユウナを落として自白は得られなかったのか! セントヘレズは何をやっている!?」

 

 パイロットアラートで、レイがイライラしながらルナマリアに尋ねて、聞かされた答えに抑えようとした怒りを御しきれぬまま感情を迸らせる。

 いつもは冷静なレイが、初めて見せる感情的な言動にルナマリアは意外性を禁じ得ず、シンが内心の複雑さを表に出さぬよう努力していた事も相まって、驚きに意識が集中して彼の方に目が行っていなかったのは誰にとっての幸いであり不幸だったろうか?

 

 アスハの娘がセイラン家を引き渡し、ロゴスと手を切ろうとしている――その提案を初めて聞いたとき、レイは頭を殴られたような衝撃を受けさせられていた。

 

 余人に話せる事ではなかったが、彼には他の者にはない条件が課せられているからだ。

 彼には、時間が無いのである。

 

 ヘブンスベースで破れた後、世界の再統一の妨げとなるオーブを先んじて処理しておく。

 抵抗するための旗頭となる国がなければ、他の国々はバラバラのままギルバートが示す世界に屈する事になるだろう。

 あの国がロゴスと手を組んでいることは、ギルバートから聞かされて早くから承知していた。だからこそ口実として利用できるということも含めて理解した上で協力していたのだ。

 

 ――自分のような子供を二度と生み出させないためにも、世界は新たに作り直されなければならない。

 そのための準備が、やっと全てが終わろうとしている思ったところで、ヘブンズベースで失敗し、今度はオーブに仕掛けた調略を邪魔されてしまった。

 

 オーブ! 他でもない、またしてもオーブが自分の前に立ちはだかる!!

 

(何故だ! 何故いつも、いつも、あの国は俺たちの計画を邪魔し続けるんだ!?)

 

 “もう一人の自分”を殺した共犯者の国が! 自分たちを生み出す大本となる狂った研究の成功例が守った国が!!

 またしても自分たちの前に立ちはだかろうとしているのだ!

 キラ・ヤマト亡き今では、もう二度と邪魔されることはない国だと思っていたのに!!

 

「レイ・・・・・・」

 

 事情は分からぬまでも、同僚が常からは想像できぬほど焦燥に駆られているのを察したルナマリアが、気遣わしげな声をかけた。――その時だった。

 

 突如として艦内に、エマージェンシーが響き渡り、パイロット待機室のモニター画面にグラディス艦長の姿が映し出され、三人だけのミネルバ隊パイロットたち全機の出撃と連合からの援軍艦隊迎撃とが命令されたのは。

 

 

「・・・俺たち三人全員が出るんですか?

 オーブを刺激しないよう、“こっちに領土的野心はない”ってアピールするため連合軍が大人しくしてる間だけは手を出さないって話だったと思いますけど」

 

 その命令を言い渡された後、シンは口を尖らせながら反問する。

 命令内容に反対、とまでは言わないまでも反感を抱いていることは、口調と態度から明らか過ぎる内容だった。

 

 オーブ近海に到達して、声明を発表した連合軍からの援軍艦隊は、それ以降は目立った動きを示していない。

 それがシンたちが待機命令を言い渡されたまま、戦闘停止を提案してきたオーブだけでなく明確な敵国である地球連合からの援軍艦隊にも手を出さないまま待ちぼうけを食らい続けていた理由だったからである。

 

 現在、地球各地の世界国家は混迷から脱し切れておらず、未だに進むべき道を決められずに迷っている状態にあり続けていた。

 世界に吐いていたデュランダルの嘘が白日の下に晒されたことによって、一時期ほどの信望は回復不能なまでに落ち込んでしまっているとは言え、完全に彼とプラントに袂を分かったかと言えば、そういうわけでもない。

 

 状況に流されて疎遠になってしまったものの、議長が示した『ロゴスの欲望とエゴに満ちた今までの世界』に逆戻りすることを望んでもいない彼らとしては、一時期と同じは無理でもプラントの傘の元での世界秩序の再構築と統一という道を、利害損得によって選んでも良いのではないかとする声も一定数は残留しているのが実情だったからだ。

 

「シンの意見に俺も賛成いたします。初手から三機出るまでもないでしょう、俺一人だけで十分です」

 

 艦長からの作戦指示にレイはそう答えて、おもむろに立ち上がろうとする。

 ギルバートから指示されていた内容と、現時点までの戦況報告とが彼に行動方針を決めさせていたのだ。

 

 オーブは現在、戦闘を停止してウナト・セイランの捜索に全力を傾けてはいるものの、援軍にやってきた連合軍艦隊を殲滅するためザフト軍が大きく動けば、敵もまた激しい反応を示してオーブ国内に残留しているであろう、セイラン派の残党やプラントとの講和を危険視する者などが過剰反応する恐れがある。

 

『いたずらに戦火を拡大させ、普通に暮らしている民間人まで被害に巻き込むべきではない』

 

 かつてマハムール基地の司令官ヨアヒム・ラドルに自制を命じていた時と全く同じ論法で、デュランダルは今回のオーブからの停戦という提案を受け入れていた。

 だが無論、彼の本心は別のところにあったのは言うまでも無く、時間稼ぎによって連合軍がまた何か卑劣な手段で仕掛けてきてくれることを期待してのものだった。

 

 相手が『勝つためには必要』という現実論によって悪辣な手を使ってくればくるほど、正義の王道を歩む人道主義者として支持を集められるのは自分自身なのだから。

 ナチュラルの力では、コーディネイター相手に正面から戦っては勝ち目がない。今回もまた何か卑劣な手を使ってくるに決まっている。そうデュランダルは考えていた。

 

 その為には、明らかに何かを目論んでいるらしき連合軍の動きは、世界の耳目が集まるところで白日の下に晒された後に叩き潰すのが一番効果的な勝ち方というもの。

 前回は敵拠点を攻める側であったが故にしてやられたが、はるばる遠征してきた大海原の戦場で小細工を仕掛けるにも限度があろう。

 実力勝負となれば多少の不利を覆してでも勝利しうるだけの性能を、《デスティニー》と《レジェンド》には与えられているとデュランダルは自負していた。

 

 その予測自体は正しかったが―――敵の取ってきた策は、デュランダルの予測を大きく超えるものだったことが状況を一変させる。

 

 レイからの返答を聞かされ、画面に映っていたタリアは思わず、『バカ!』と吐き捨ててしまうほどの状況変化が、既に彼らがいる戦場では発生しつつあったのである。

 

 

『状況をよく見てからものを言いなさい! 敵の援軍は先に到着していた西側からきた艦隊だけじゃなかったの! 北から大回りするルートを使ってオーブまで進軍してきていたのよ! 

 それも例のベルリンで見た機体が三体も! おそらくヘブンズベースで現れたものを、そのままに!!』

「ベルリンの奴と同じ機体だって!? だとしたら中に乗ってる奴は全員、ステラと・・・・・・っ」

 

 バカという単純な言葉で罵られた衝撃で唖然とさせられ呆けてしまっていたレイに代わって、シンがタリアからの話に激しい反応を示して食いつく。

 敵として出会って、おそらくは愛してしまっていたのであろう少女が、改造された体で乗せられていた機体の登場にシンとしては虚心でいられるわけがない。

 

 まして、ヘブンズベースでは彼らを殺すことでしか救えない自分の無力さを嘆きながら、それでも自分に出来る救いとして苦しみに満ちた生を終わらせてやろうとした寸前で邪魔が入り、それすら果たせぬまま撤退せざるを得なくなったことは彼の心に悔いとして残り続けている過去の一つではあったのだ。

 自分が救う力が無かったから助けられなかったせいで、また彼ら罪なき子供たちが戦場へ連れ出されて人を殺させられていると思えば、シンにとっては命令がなくとも出撃する理由として十分である。

 

 だが、この時。タリアの話には続きがあった。

 シンの怒りに燃える純粋な瞳で見返された彼女は激しく頭を振って、「そういう問題ではない」と全身を使ってジェスチャーし―――恐るべき事実をシンたち三人のミネルバ隊パイロットたちに通達したのだ。

 

 

『ただ倒すだけではダメなのよ! もう既に、それが可能な状態からは突破してしまっているようなの!

 遠距離移動を無理矢理やらせた結果として、敵は完全に爆走している状態におちいっている!

 もう倒しただけでは、あの巨体を空に浮かせるためニュートロンジャマーキャンセラーを搭載した核エンジンまで爆発させてしまって、倒した側もただでは済まないわ!

 しかも、計算させてみたところ三機の機体はオーブ近海をかするようなコースを取りながらも、最終到達地点にはカーペンタリア基地を目指してまっすぐ突き進んでしまっている! 一刻も早く止めさせなければ、いつ爆発するのかさえ分からない代物なのよ!!』

 

「「なん・・・だって・・・・・・!?」」

 

 その説明を聞かされた瞬間、さしものレイもシンも異口同音に驚きの言葉を発止させられ、思考が完全に一瞬、機能停止を余儀なくされる。

 それは一瞬のことでしかなかったし、意識が戻った一瞬後には三人とも即座に行動を開始して愛機に向かって全速力で駆け出し、艦長から指示の続きを聞かされたのはコクピットシートに飛び乗って機能を立ち上げていく作業を続行しながら片手間の形になってしまったが、それを注意する余裕など艦長の側にさえあるわけもない。

 

 ――連合軍は一体なにを考えているんだ!? 正気の沙汰とは思えない!

 まさかモビルスーツを核弾頭に見立てて、同盟国の援軍として敵に突っ込ませてくるなんて、頭がどうかしてしまってるとしか思えない!!

 

『敵の自爆特攻を止めるには、敵を一撃で破壊した後、超高速で敵機から距離を置いて離脱して爆発に巻き込まれるのを避ける、ヒット&アウェイ以外に手段がないわ!

 そして、それが出来るのはシンの《デスティニー》だけ! 連合も本格的に動き出して、モビルスーツ部隊の出動も確認されたわ!

 レイとルナマリアは彼を援護して活路を開いて、シンを阻止しようとする敵機を近づけさせるな! 全機出動! 敵巨大モビルスーツ部隊がザフト艦隊に接近される前に全機撃墜しろッ!!』

 

「「「了解ッ!!!」」

 

 

 艦長からの悲鳴にも似た怒号に、三人のパイロットたちは想いを同じくして異口同音に答えを返し、自分たち全てに向かって放たれたモビルスーツ爆弾という砲火から自ら自身を守るため大空へと飛び立っていく。

 

 

「チィッ! なんなんだよ!? この状況はッ!!

 そんなもんにやらせて堪るもんか―――――ッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時を同じくしてザフト軍艦隊と同様にオーブ軍でも、北方より接近してくる巨大な存在を感知して驚愕と混乱と、対応するための指示とで錯綜させられつつあった。

 

「カガリ様! お気をつけください! 連合の新手が北からもッ!?」

「アレはッ!? 止めろ! いや、落とすんだ! コイツに来られたらオーブは・・・ッ!?」

 

 レーダーに写る数値だけでも異常としか言い様がない代物の接近にカガリたち、オーブ国防本部ビルに詰めている首脳陣は慌てふためき、再び指示と報告とが錯綜する混沌の渦へ逆戻りさせられる羽目に陥っていた。

 

 落ち着いてよくよく観測すれば、三機のデストロイ部隊はオーブ本国をかすめはしても、爆発圏内からはギリギリ外れているコースを通ってカーペンタリアへと向かうようセットされていることが分かったかもしれないが、今この時だけは誰一人そんな冷静さを残している者は存在しなかった。

 

 

「モビルスーツ隊はザフト軍を支援するため海上へ出撃、三機の連合軍機撃墜に向かえ!

 陸上戦力はウナトの捜索を続行せよ! 急げ! 諦めるな!!

 奴を捕まえてザフトに引き渡し、ウナトたちの救援にきた連合軍を押し返せば、停戦が可能になる! とにかく今は、その二事だけに集中するんだ!!」

 

『『『りょ、了解しました! カガリ様ッ!!』』』

 

 

 戸惑いを心に大きく宿しながらも、自分ではどうすればいいのか見当も付かない状況へと急転直下で叩き落とされたオーブ兵たちは、とにかく自分に与えられた役目を果たそうと割り当てられた任地へと急ぎ急行し、一方で各々の確認チェック作業はオーブ兵の移動に関してのみ疎かになった。

 

 “負傷したオーブ政府官僚の一人”を、病院へと搬送させようとしている救護兵の一団を見ても、誰一人怪しむ者がいなくなってしまっていた事実に、指示を下していたカガリ本人が気づいてヘルメットを床に叩きつけるのは翌日になって後のこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それと前後して、オーブ近郊の地下に造られていた秘密ドックでは、一応の修復作業を終えて離水可能となったアークエンジェルが戦線へと参戦するため、艦長マリュー・ラミアスより出航の指示が出されていた。

 

「メイン・ゲート解放、拘束アーム解除、機関20パーセント、前進微速ッ。

 進路フタマル、アークエンジェル出撃!!」

 

 ・・・・・・もっとも、当初考えていた想定とは全く異なる戦場へと出撃していくことになったのは、いったい誰に向けての皮肉と言うべきなのか彼女たちにも判然としなかったが・・・・・・それでも彼女が率いる白き大天使は混沌とした戦場へと帰還を果たしたことだけは確かだった。

 

「オノゴロ島、光学映像出します! 続いてオーブ領海内の映像解析を開始!」

「敵陣、熱紋照合。ザフト軍艦隊の陣容、《ボスゴロフ級》2、《ベーレンベルク級》4、《ミサルコ級》8、それと・・・・・・《ミネルバ》です! ミネルバが、この戦場にも!!」

「えっ!? あの船がッ!」

「ミネルバ!? ジブラルタルじゃなかったのか!」

「セイラン捕縛のため派遣されてきてたのかよ!?」

 

 因縁がある敵の新鋭艦との予期せぬ再会に艦内は一瞬、騒然となって緊張が走るが――それをマリューは一喝して宥め賺す。

 

「今は敵とか味方とか言っていられる状況じゃないでしょう!? 敵を間違えないで!

 あの状態に陥ったアレが相手では、戦力的に彼女らにとっても苦しいはず・・・・・・不確定な相手の理性を決めつけないで確認を! 通信開け、私がミネルバと話します!

 あの敵を倒して守るという一点に関してだけでも共闘できないか、打診してみるわ!」

「は、はいッ!!」

 

 所属の違いにこだわりが薄い、というよりドコに所属しているのが自分たちなのかが曖昧な時間が長かったマリュー・ラミアスは、こういう状況下に気づかぬ内に慣れていたのかもしれない。

 

 本来は敵艦でしかないはずのミネルバに向けて限定的共闘の提案を持ちかけようという発想は、この世界のこの時代において可能だった者は数少なく、今の戦場において可能だったのは彼女の他に一人だけしかいなかったかもしれない。

 

 そして、その人物がその提案を思いついても決して行わない勢力に属していたという事実こそが、この戦争がここまで歪な形に推移してしまっていた理由を現すものだったのかもしれなかったが・・・・・・

 

 

 

 だが結局、この提案は現実となることなく可能性の段階で死を迎えることになる。

 混戦の中、まだ距離のある相手艦との通信回線を開くためアークエンジェルのブリッジクルーが四苦八苦している最中。

 

 ミネルバの索敵を担当するバート・ハイムが、直上から急速降下してくる高速飛翔物体の接近をレーダーが感知したことをタリア・グラディスに報告していた内容が、その理由だった。

 

「上空より、接近する物体あり!」

「なに!? 何なの!」

「モビルスーツ・・・いや、速い! これは――まさか!?」

 

「なにぃっ!? あれは・・・・・・フリーダム!? なんで! なんでお前がまだここに・・・ッ!?」

 

 

 沈めたはずだった敵艦、落としたと思っていた機体の再登場によって混迷の度を増すことになっていくオーブを巡る三つの勢力の戦い。

 連合、オーブ、ザフト軍が争い合う戦場に、スーパーコーディネイター キラ・ヤマトと平和の歌姫ラクス・クラインが降り立ったことで、戦局は混乱と秩序のいずれに傾くのか、もはや誰にも予想不可能な状況へとステージを更に進めることになっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして・・・・・・一度は倒されたはずの、前大戦最強の機体フリーダムの復活と戦線復帰というセンセーショナルな出来事によって混迷の度を増してしまった戦場だったからこそ。

 

 ほとんどの人たちは忘れてしまう結果にも繋がってしまうことになる。

 

 そもそも、この戦いは『誰を助けるため』始められたものだったかということを。

 この戦いで、『誰を確保するため』派遣されてきた討伐艦隊だったかということを。

 

 誰もが忘れていた。失念してしまっていた。

 些細な些事だと誰もが切り捨て、カガリでさえ目の前の戦闘という現実に目を奪われて、そもそもの全体を見ようという意識も心も損失してしまっていた自分に気づけなくなってしまっていたのだ。

 

 情報が錯綜し、モビルスーツが再び宙を飛び交い、軍人たちが右へ左へ走り回って相手の顔など碌に見ている余裕も失われた状況の中。

 

 オーブ国防本部ビルから多少離れた位置にある、市街地へと続いている街路の一つを、負傷したオーブ官僚を中心にひた走っているオーブ兵の一団が存在していた事実に気づけた者は、この時オーブ軍にもザフト軍にもアークエンジェルにも誰一人として存在してはいなかった。

 

 

 

「ユウナ様、お急ぎくださいませ!

 本島のセイラン家邸宅地下にあるシェルターへと続く隠し通路がコチラに!」

「あ、ああ・・・分かってる、分かっているさ! いちいちボクにうるさく言うな!」

 

 偽装のためオーブ正規軍に変装している私兵部隊に護衛されながら、父ウナトとの合流を急いでいるユウナ・ロマ・セイランは、部下からの言葉に最初は弱々しく返事を返しながらも途中でいきり立ち、癇癪を起こした子供のように反発すると再び走り出すという行為を先程からずっと繰り返し続けていた。

 

 彼にとって、今の立場も、傷つけられてボロボロにされた今の体も、全くもって納得のいかない理不尽なことばかりが連続して起きていて、彼のプライドと弾性の乏しい精神は破綻寸前にまで追い込まれつつあったからである。

 

(くそっ! クソぅッ! なんでボクがこんな酷い目にあって、こんな痛い想いをしなくちゃいけないんだ!?

 ボクは選ばれた人間のはずなのに! 特別な人間だったはずなのに、それなのに何で!?)

 

 彼の頭の中では、その疑問が何度も何度も繰り返され、満足できる答えが出せないままリフレインし続け、彼を混乱した心理へと自分自身で貶めさせていた。

 今まで苦労少ない人生を、半ば他人の足で歩ませてもらってきたユウナには元から逆境に対する耐性が少なく、こういう状況下に陥らされたときに自分自身を維持できるような手段を彼は持ち合わせる機会を得られぬまま今日まで生きてこられてしまっていた。

 

 そんなユウナには、今の事態が未だに理解し切れていなかった。

 

 たしかに自分にも悪い部分はあったかもしれないが、それでもここまで酷い目に遭わなければいけないほど悪いことを犯した記憶は一度もない!

 結果的にオーブを危機的状況に陥らせてしまったのも悪いとは思っている! だけど最初からこうなると分かっていたなら、こんな選択を自分たちは選びはしなかったし、未来の全部を予測するなんて人に出来るわけがない!

 

 自分のとった行動が間違っていたわけじゃない! ただ結果的に予測した未来にたどり着けなかっただけで、それは自分の責任じゃない! 自分がどんなに優秀でも、その指示を実行する部下たちが無能ばっかりじゃ上手くいける訳なんてないんだから!!

 

 ・・・・・・そういう理屈で、ユウナは自分の中の幻想と目の前の現実との隔たりに整合性を取ろうとしていた。

 社交界で浮名を流していた自分の顔が腫れ上がり、見るも無惨な不細工な面に変えられてしまっている現実から目を逸らすために。

 オーブの最高司令官にして、オーブ権力の頂点に立ったセイラン家の跡取りである自分が、手錠をかけられ自由を奪われた姿で銃を突きつけられながら歩かされていた、近い過去の惨めな境遇を記憶から閉め出すために。 

 

(そうだ! この危機が過ぎたらカガリだってボクの功績を認めてくれる! 認めさせてみせるさ! なんとでも言いくるめてやる!

 そうとも、ボクは天才だ! ボクなら出来る! なぜならボクは選ばれし者、超越者に祝福された普通の人間とは違う存在の一人なんだから!!)

 

 そこまで思うことで、ようやくユウナの精神は落ち着きを取り戻しはじめていた。

 他人が聞けば、開いた口が塞がらなくなるほどの誇大妄想としか言いようのないユウナの自意識過剰な幻想だったが・・・・・・彼がそう信じたとしても不思議ではない状況に彼ら親子があったことは事実ではあったのだ。

 

 

 ユウナは先の大戦前まで、オーブ議会に座を占めていた五大首長の一家にも数えられていなかった、官僚一族セイラン家の跡取り息子として生を受けた青年だった。

 平和な時代であれば、彼が今の地位に就くことは決してあり得ず、順当通りに官僚の息子は官僚の一人になる程度が関の山だったろう。

 あるいは先々代の代表ウズミから評価される立場にすらなれなかったかもしれない。

 

 だが、先の大戦が自分たち親子の人生を一変させた。

 国民から人気の高かった代表のウズミは、マスドライバー・カグヤと共に自爆して、閣僚たちの多くも一緒に吹き飛ぶ道を自主的に選んで永遠に失脚していった。

 残された首長たちも、大戦後にオーブを連合から独立させた後に、敗戦の責任を取って辞任してくれて、ほとんど全ての家は代替わりを余儀なくされたのが戦後のオーブだった。

 

 上に立っていた者たちが戦火によって次々と死んでいく中、自分たちは生き残り、繰り上げ人事によって手を汚すことなくオーブ権力の座を一気に駆け上がることが可能になったのがセイラン家だったのである。

 

 もし仮に格下の家柄しか持たぬセイラン家が、平和な時代に現在の地位を欲するなら、血で血を洗う権力争奪の末に血まみれの玉座を手にする以外に、他の手段は存在しなかったのは間違いない。

 しかも父であるウナトは最高権力の座に着いた時には既に老境に手が届きつつある年齢だったのに対して、ユウナはセイラン家の跡取り息子として生まれた若者の世代。

 

 オーブに暮らす誰もにとって不幸でしかなかったオーブの敗戦と、連合による占領支配ですら、その後に訪れる独立という栄光と、独立後のセイラン一極体制の確立へと繋がっていく過程だったと考えれば、セイラン家だけには幸福をもたらす行幸として機能した。

 

 全てが全て、自分に栄光の階段を上らせるために誰かが舗装された道を用意してくれていたとしか思えないほど出来過ぎな境遇は、ユウナに人知を超えた守護者の実在を信じさせるに十分すぎるほどの富と栄光を彼にもたらし続けてきたのだ。

 

 斯くしてユウナは、自らを選ばれた者の一員と認識して、その人間が就くに相応しい地位へと上り詰めるため人生を歩む速度を速めていったわけであるが・・・・・・その末に待っていた現実が、現在の惨めな立場だった。

 

 今まで自分を『特別な存在』と信じて疑わなかったユウナにとって、こんな現実は受け入れられない。受け入れられるわけがなかったのだ。

 彼は必死になって頭の中で、自らの境遇と認識と願望と、現実との隔たりに整合性をつけられるような理屈を考え、それを信じることによって自らの精神的均衡を守ろうとした。

 そうすることでしか、彼は辛い現実を許容する手段が思いつけない青年に育ってしまっていたから・・・・・・。

 

(そうさ、そうとも! ボクは選ばれた人間で特別な人間なんだ! それなのにどーして他の奴らには、そんな当たり前のことが分からないんだ!?

 バカだ! バカだ!! どいつもこいつもボクの周囲には当たり前のことすら分かろうとしないバカばっかりしかいなかったから、ボクがこんな目に遭わなきゃいけない状況に陥らされてしまっただけなんだ! そうだ、そうに違いない!

 特別な人間であり、間違ったことや悪いことなんて一度もしたことが無いボクが、こんな目に遭わなきゃいけなくなってる理由なんて他には何も考えられな―――)

 

「ゆ、ユウナ様! アレを! アレをぉぉぉぉッ!?」

「・・・・・・はぇ?」

 

 走りながら思考の海に頭の先まで沈み込んでいたユウナは、部下の一人から悲鳴のように叫んで名前を呼ばれ、なにかと思って顔を上げた先でソレを見て――――完全に思考を停止してしまった。

 

 

 落ちてくる・・・・・・。

 本格的な戦闘を開始した連合軍のモビルスーツ部隊とザフト軍との戦いの中で、主戦場から遠く安全だと思っていたオノゴロ島上空を飛ぶムラサメの一機が、流れ弾に当たってブースターをやられてしまい、自分たちの方へと真っ直ぐに落下しながら―――目前まで落ちてきていた。

 

「嘘だ・・・」

 

 他の部下が言葉を失い、絶望に顔色を染める中。

 ユウナだけが呟きを発していた。嘘だ、と――。

 

 こんな事はあり得ないと。

 ドラマのように自分の望みを実現してくれるために存在している世界で、こんな事はあり得ないと。

 

「嘘だ・・・・・・」

 

 先程より近づいてきたモビルスーツを前に、ユウナは再び同じ言葉を呟く。

 自分は助かる。普通なら絶対に助かるはずのない大ピンチでも、自分は死なない。自分だけは助かるのだ。

 なぜなら世界は、そういう風に出来ているのだから。世界は自分を祝福してくれているはずなのだから。

 こんなところで主演男優が死ぬなんてことは、ドラマだとありえない。だから自分は死なない。助かる。助かる。タスカ、ル・・・・・・

 

 

「嘘、だ・・・嘘だ・・・・・・嘘、だ・・・あ、ア、あぁぁぁ、アう゛ぁぁぁ、ァァァ・・・ッ!?」

 

 

 そして遂に発した命の叫び。

 自分は助かると信じ切れなくなったが故の悲鳴。

 自分が自分のことを特別な存在だと信じていても――世界は自分を特別な存在として見てくれていなかったのだと。

 

 『死』によって、ユウナは生まれて初めて現実を思い知らされることになる・・・・・・。

 その瞬間――――

 

 

 

 ズガガガガガガッ!!!!

 

 

 突如として、ユウナたちが立っていた位置の横合いから猛烈な銃声が連続して響き渡り。

 既に頭上まで落下してきていたオーブ軍のムラサメを、横合いから滅多打ちにして爆発四散させるほどのダメージは与えず、ただただ連射によって軽い損傷のみを負わせ続けることで落下する方向を横へとズラし。

 

 

 ズシャァァァァァ!!! ドガギィン!!

 ソレを見計らっていたかのように、猛スピードで地を這うような挙動で接近してきた機体がムラサメを、巨大な足で蹴り飛ばし、地面に落下して大きな音を立てて転がったところで、ブジシュバ!!・・・・・・と音を立ててコクピットに巨大な刃が突き立てられ、完全に動く可能性を消滅させられる。

 

 

「あ、う・・・? あ・・・・・・? な、なんで助、け・・・・・・?」

 

 ユウナには訳が分からなかった。

 当然の反応だろう。なにしろ事故とは言え、自分たちを殺しかかったオーブ軍のムラサメという危機的状況から自分たちを救ってくれたのは三機のモビルスーツたちの姿が、あまりにも異様過ぎたのだから。

 

 

 4連装ビームガンを乱射してムラサメの落下速度を遅らせた機体。

 《ZGMFーX2000 グフ・イグナイテッド》

 

 一時的に動きを止まったムラサメを蹴り飛ばした、重量級の機体。

 《UMF-5 ゾノ》

 

 最後に攻防一体のシールド複合防盾MA-MV05で、コクピットのみを貫いてメインエンジン誘爆をありえなくした機体。

 《ZGMF-601R ゲイツR》

 

 

 ・・・・・・3機ともザフト軍のモビルスーツだ。

 敵であるザフト軍が、なぜオーブ最高司令官の自分を助けるような真似をするのか? 人質にでも取るつもりか?

 混乱するユウナの心理を、さらに混乱させるような行動をモビルスーツたちは取り始める。

 

 なんとザフト軍のモビルスーツたちがユウナの前に降り立つと膝をつき、オーブ宰相の息子の前に跪いて臣下の礼を取って見せたのである。

 訳が分からず、混乱したまま、誰一人として答えを持たずに遠巻きに逃げようとしていた足を止めて見守っていた私兵部隊の見守る中。

 

 三機のモビルスーツの一機から―――おそらく中心に座したゲイツRだろう―――乗っているパイロットの声がユウナの元へ届けられる。

 

 

『お迎えに上がりました、ユウナ・ロマ・セイラン様。どうぞ、我らと共に安全な場所へご移動を』

「は・・・? はひ・・・・・・?」

 

 間の抜けた声でユウナは返事になっていない、それどころか人の言語か否かさえ怪しい言葉を相手に返して、呆けた顔と態度を晒すだけ。

 ただ、その責任を彼だけに問うのは酷かもしれなかった。声をかけてきたパイロットの方にも僅かながら責任のある反応だったからだ。

 

『このように無様な姿で馳せ参じた無礼をお許しください。敵の目を欺くため、必要な偽装でして。

 ―――我らファントム・ペインの主、ロード・ジブリール“先生”は、あなた様のご無事をいたく気にしておられます。どうか我らと共にジブリール様の元へお急ぎを。さぁ』

 

 そう言って機体の右手を差し出してくるよう動かした相手の声は、間違いなく女性のもの。

 妖艶で、微かに甘ったるい印象を声だけで感じさせられてしまう、思わずゾッとするような色気のある声音の持ち主だったが・・・・・・一方で声質から察するに、年齢的には二十代にも達していない少女のように感じさせられた。

 

 パイロットとしては若すぎる部類に入る人物が示したばかりのモビルスーツ操作の神業に、ユウナは見た目の印象と戦いぶりとのギャップで整合性がとれずに戸惑うことしか出来なくなっていたのだった。

 

 

「ジブリール氏、が・・・・・・ボクたちを、迎え、に・・・・・・?」

『はい、ユウナ様。なにしろ、あなた様は“選ばれた特別なお方”ですから。

 この様なところで死んでいい方ではありません。今の世界には、あなた様のような方こそ必要とされているのです』

 

 

 ユウナの砕け散った幻想を抱く心に、深く甘く、鋭く入り込んでくる言葉の毒。

 甘美で優しい、“お世辞”の毒に、ユウナの弱くて脆い心は救いを求めてフラフラと、相手から差し伸べられた『栄光へと続く道』を掴み取るため、震える片手で、引きつった笑顔を浮かべながらユウナ・ロマ・セイランは、再び悪魔からの使者の握手を受け入れる――

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼の、腰を抜かしたまま呆けた表情で自分を見上げてくるだけの不細工なツラを、コクピットに写るモニター画面で確認しながら、パイロットである切れ長の瞳をした若い女性は鼻を鳴らして不快そうに論評する。

 

「――随分とブッサイクな男ねェ~。任務とは言え、こんなの助けるため歯の浮くオベッカ言って、出張ってこなきゃいけないだなんて、アタシらも運がないわよねホントにさぁ」

 

 ウザったそうに、画面に映る光景から目を逸らした彼女の耳元に、下品な笑い声で同僚の一人から通信が届けられる。

 

『そいつもミューディとよろしくヤリたくて、腰突き出したまま固まっちまってんじゃねェ~の?

 “ママぁ、こんなにボクやりまくりたいのぉ~♪”ってさァ。ハハハッ!』

「やめてよ、コーザ。笑えないジョークは、アンタの顔だけにして。アタシは男は選ぶ性質なんだから、あんなのと寝るなんてまっぴらゴメン。

 ――まっ、アンタの方なら考えてもいいんだけどね? どうする? スウェン」

『さぁな――』

 

 最後の一人から聞こえてきた、いつも通りのCOOLな声音に舌を「ペロリ」と出して唇を舐める。

 思わずゾクゾクしてきちゃうほどに・・・・・・もし自分が死ぬときが来るとしたら、こういう男に抱かれながら二人だけの場所でヤクやってハイになって、キモチよく死んでいきたい。

 野良犬みたいな宇宙の人間モドキ共にムシャブリつかまれくって、メチャクチャにされながら死ぬのはゴメンだ。死んでもゴメン。“二度と”ゴメン。

 

 もう二度と、あんな怖い思いをさせられるのだけは絶対にイヤだ。

 だから、あんな思いをさせてくる人間モドキなんて一匹残らず殺し尽くしてやる・・・!!

 

『俺たちに与えられた任務は、その男たちを確保して無事に連れ帰ることだ。

 “生きて帰ってこれなければ意味が無い”――と。

 敵を殲滅しろとも、テロリストを排除し尽くせとも命じられていない。なら任務は完了だ。帰還する』

『もう一人のブタちゃんの方は回収してやらなくてイ~のかい?』

 

 コーザと呼ばれた、三人チームで二人いる男性パイロットの片割れから、笑い声での質問がもたらされる。

 答えが分かり切っていると承知の上での質問モドキだ。質問でないならスウェンはいちいち答えない。代わりに相手をしてくれる、男心には聡い女性の同僚が健在なら尚更に。

 

「別にイイんじゃない? 私たちが受けた命令は『セイラン家の救出』を連れ帰ること。

 セイランだったら“どっちだって構わない”って事らしいし。私らの見分けに意味なんかないわよ。

 後は自己責任で、自分の力だけで何とかしてもらいましょうヨ。運さえ良ければ生き残れるわよ、きっと」

 

 

 冷徹に、あっけらかんとした口調でアッサリと、グフもどきのMSを操る少女パイロットはユウナが持つ『人間としての価値』を正しく査定し、正しい対応を冷然とおこなう。

 

 そう。ユウナは特別な人間だ。特別な価値を持つ『セイラン家の跡取り息子』だからだ。

 普通の人間では換えが利かない、特別な政治的価値を持っているのは『セイラン家に生まれた子供だから』なのだ。・・・・・・セイラン家であれば別に彼でなくても特別になり得る。

 

 

『まァっ、そーなるわな。

 そんじゃま、お坊ちゃんの手下どもも回収してやって、置き土産でも残してから派手に帰るとしますかネっと』

 

 

 そう答えてコーザは、ゾノの姿をした自分が乗るモビルスーツの腕を上げて―――適当な方向へ向けて発砲させる。

 

 《ザフト軍MSゾノ》の姿をした機体から発射された《フォノンメーザー砲》が、戦闘停止中のオーブの町並みを焼き払い。

 爆発四散した焼け跡に、ゲイツRに撃墜されたオーブ軍MSムラサメ1機の残骸だけを置き土産として残した状態で・・・・・・・・・

 

 

 

つづく

 

 

 

 

【今作版のオリジナル設定解説】

『第81独立起動群ファントム・ペイン特殊戦MS小隊』

 

 「CE73 STARGAZER」の登場人物たちである「スウェン・カル・バヤン」「ミューディー・ホルムロフト」「シャムス・コーザ」の3人組その本人たちを、そのまま登場させた部隊。

 

 時期的には、デストロイが投入される少し前の時期に『フェイ・ウォン』や『キョウヤ・ヒグチ』の採用試験がおこなわれており、ミューディーが戦死したはずの戦場に増援として派遣することで、当時は指揮権を有していなかったファントム・ペインの役立ちそうな人材に顔繋ぎと恩を売っておくことの一石二鳥を狙って成功した結果として今作に参戦することになる。

 

 一方で、スターゲイザーという機体そのものにも連合軍の無意味な作戦にも興味はなかったため、彼らを救っただけで他は何もしていないし、する気もなかったのがロゴス・セレニアと彼らの馴れ初めになる。

 

 

 ファントム・ペインの上役でありながら、彼らを消耗品として扱おうとせず、ブルー・コスモス思想の洗脳教育を『支配するなら別だが、戦闘には役立たない』とブッた斬って突き進むセレニアの考え方には、一部だけだがセレーネとも共通する部分があるにはあり、スウェンが彼女に協力している理由の一つにはなっている。

 

 ロゴス・セレニアにとって、ステータス面でコーディネイターと競い合うことには余り意義を見出せておらず、消耗戦になった末に負ける理由になるだけと考えていた。

 自分たちが一人の子供を改造してエース級コーディネイター並のエクステンデッドなりブーステッドマンを造って、専用設備で調整維持し続けたとしても、一般のナチュラル兵五人分は戦える一般コーディネイター兵が十人も量産可能になれば、数の差で経済的に失血死するのは避けられない。

 

 そのため、経験と工夫によって『結果的にコーディネイター部隊に勝利できる能力』こそが重要と考え、その点でスウェンたちのように薬漬けで思考を抑制されていないナチュラルのMSパイロットたちは貴重であり、彼女が彼らを救い出させた大きな理由の一つにもなっている設定。

 

 原作における本来の愛機は健在で、今回は任務の性質上で乗り換えての初登場となってしまった。

 

 

 尚、原作での戦いの結果は当然ながら傭兵2人の圧勝で幕を閉じることになる。

 

 《ケルベロス・バクゥ・ハウンド》の小隊は、血を流させるのを見たいだけなフェイに笑いながら切り刻まれて全滅させられ。

 

 《ジン・タイプ・インサージェント》に乗るコーディネイターの反連合ゲリラたちは、出来損ないとはいえスーパーコーディネイターが持つキョウヤの圧倒的性能を前にして為す術もなく壊滅させられてしまった。

 

 この戦果により、2人の好待遇な採用が決定され、後のヘブンズベースへと続く始まりの一段目をコーディネイターゲリラたちの屍によって踏み固められる事になっていく・・・・・・。

 

 

 

 

 

【オリジナル機体設定】

『グフ』『ゾノ』『ゲイツR』

 

 スウェンたちが乗って登場したザフト軍MS部隊だが、言うまでもなく敵からの鹵獲機“ではない”

 コーディネイター用のOSが搭載されている機体は、手に入れても流石に使うことが出来ないからだ。

 

 ただ『飾りとしての装甲や武装』などは転用可能なので、使えそうな部品は全て引っぺがし、足りない部分は形だけ同じに見えるものを造らせただけのハリボテMS。

 コクピットも内部構造も、ほぼ全てが連合製のものをそのまま流用しているため、本当に『見た目だけ』しか騙しようがなく、性能的にもMS戦で用いるのは狂気の沙汰といったほどの低スペックな代物でしかない。

 

 ただ、混乱した戦況で一時的にだけでも騙せればいい、という状況下でのみ使用するため用意だけはしておいた機体で、今回の任務用に急きょ造らせた、という訳ではないが二度と登場する方法を思いつけないという点では同じようなものかもしれない。

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