機動戦士ガンダム 死のデスティニー   作:ひきがやもとまち

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久しぶりの投稿となってしまいましたが更新です。
本当はちゃんと戦闘シーンも書く予定の回だったんですけど、文字数が予想以上に多くなり過ぎました。
コレで戦闘シーンまで書くと、読む方が大変そうでしたので、今回も政治面でのお話しがメインです。

ただ、作者が考えてたザフト軍によるオーブ侵攻での政治ネタは、今回ので全部尽きました。新しいのが思いつかない限りは戦闘しか次は書けそうにないと自分でも思います。


PHASE-19

 シン・アスカは先の戦役の中で、連合軍によるオーブ侵攻作戦によって家族を奪われた後、プラントへと渡ってザフト軍へと仕官した難民出身の少年兵である。

 軍に入るまでの経緯との関連性から、同時代に名を馳せたエースパイロットとして戦いの最終局面まで《キラ・ヤマト》や《アスラン・ザラ》と敵対する陣営に身を置き続けたことでも知られている。

 

 だが同じエースでありながら、彼への評価はキラやアスラン達とは異なり、やや暗い。

 それは最終的な戦いの帰結や、彼を取り立てた指導者の行動などが影響したものでもあったし、彼を取り立てたデュランダルの敵手であるクライン派を美化するため『比較対象として利用された結果』と主張する者も少なくない。

 

 ――ただ少なくとも、ザフト軍によるオーブ侵攻作戦に参加した当時の彼は、本来の入隊目的から逸脱しはじめた時期であったことは、おそらく事実だったと思われる。

 

 シンは連合のオーブ侵攻で殺された家族の死に憤った末に、ザフト軍へと志願入隊した少年兵として軍人としての人生をスタートさせていた。

 それは自分の家族のような犠牲者が生み出されるのを阻止し、同じような悲劇をくり返させないで済むだけの力を欲した故での行動だった。

 

 『身勝手でバカな理由で普通の人の生活を壊させてはならない』

 

 それが彼の志願動機であり、軍人を志して力を求めてでも叶えたがった目標でもある。

 

 

 

 

 

「フリーダム・・・だって・・・? 何でだよ!? そんな・・・・・・何でッ!?」

 

 そんな事情を有する彼が今、目の前に降り立ってきた一度は倒したはずの宿敵とも呼ぶべき機体《フリーダム》と酷似したシルエットを持つ後継機と思しきMSに立ちはだかれ、しばしの茫然自失と化していた。

 

 ・・・・・・一度は倒したと思った機体。自分が相手を超えることが出来たと思った敵機。

 そして何より――自分が救おうとした哀れな被害者だった少女ステラ・ルーシェを殺した・・・敵ッ!!

 

「いつもいつも! そうやって高見から人を見下して・・・、自分だけが分かったようなつもりになって! なにも知らないことも分かってないくせにっ!!」

 

 天高くから降り立ってきたばかりであるが故に、自分より高い位置から自機を見下ろして、銃を構えながらも銃口を向けようとしない相手の行動。

 いつも通り、今までと全く同じ、自分が倒す前までのフリーダム同様に、傲慢そのものな上から目線の挙動。

 

 ――いつも圧倒的な力の差を見せつけるだけで不殺を装う偽善。

 今まで何人もの人命を奪ってきた癖して、自分だけは汚れてない、綺麗なままだと信じているかのように、超然とした態度で他者全てを見下ろす、その傲慢。

 

 レイが言っていた。『フリーダムは決して、コクピットを狙わない』と。

 狙うのは決まって、武装かメインカメラと手足だけだ、と。

 

 ――ふざけるなとシンは思った。

 手足を失って落下したモビルスーツの中にも、結局は助からなかったパイロットだって大勢いた。

 直接その手でトドメを刺していないだけで、フリーダムもまた立派に一方的な殺戮の片棒を担いできたのだ。

 それに何より。他の誰より――

 

「ステラを・・・、なにも知らないあの子を殺したくせに!!」

 

 そう。フリーダムは、連合に利用されていただけの悲しき少女ステラ・ルーシェを殺した機体だ。シンにとって、自分がおそらく愛していた少女を殺した仇でもある機体がフリーダムなのである。

 絶対に許すことが出来ない。出来るはずがない。

 

 

 ――『連合軍に襲われ逃げ惑うベルリンの人々を、殺戮していったデストロイのパイロットを殺した』――そんなフリーダムを、シンは許せない。

 

 

「あんたがステラを殺したんだッ! 止めようとしたのにッ! それなのに・・・っ!!」

 

 そう、シンは止めようとして、救い出せる寸前までいったのだ。

 ――『自分と同じ子供達から、両親や妹を奪うために砲火を放つデストロイのパイロットを救い出せる』その寸前まで。

 

 守ろうとした命を守れるところまできて、それをフリーダムによって邪魔された。その結果としてステラは死んだ。死んでしまった。・・・・・・少なくとも、そうシンは信じた。

 自分は救えたはずだったと。守ると誓った命を守ることができるところまで来ていたのだと。

 

 ザフト軍の技術では、ステラを回収しても死なせることしか出来なかったからこそ、連合軍へと戻すことしか出来なかった。

 その結果として、ステラは回復してデストロイに乗り込んでベルリンを焼いた。

 たとえベルリンでステラを再び取り戻せても、自分たちに彼女の身体を癒やせる技術はなく、それを持つロゴスを滅ぼすことは彼女の死を確定させる未来に直結している。

 

 ・・・・・・それら縦糸に繋がる現実の事象を、この時シンの頭にはない。

 ただ、救えたと思ったステラをフリーダムによって殺されたこと。守ろうとした命が手の中からすり抜けていったときの絶望。

 損失の悲しみ、痛み、後悔。

 それら全てを敵への憎しみに収束させて――それらと矛盾する事柄は、すべて「無かったこと」にして、「無かったことにした自分自身」さえも意識しようとはしないままに。

 

 

「くっそォォォォォォォッッ!!!」

 

 シンは、それら整合性の取れない、どーしようもない現実を断ち切りたい想いをぶつけるように、《MMI-714アロンダイト対艦刀》を構えると、フリーダムに向かってデスティニーを突貫させていく。

 

 この世すべての理不尽の《象徴》としてイメージするようになっていたフリーダムさえ倒せば何かが解決するのだと信じているかのように。

 あるいはフリーダムこそが、自分を取り巻く戦争の不幸を守るために戦っている、《戦争と加害者達の守護者》だと思っているかのように真っ直ぐと―――自分にとっての絶対的な壁として立ちはだかり続けている存在に、自機の刃を向けて一直線に・・・・・・

 

 

 ――だが流石に今は、天と時と人は、彼に味方しない状況だったようである。

 

 

 

『シン! 何をやっている!?』

「!! レイ・・・っ!?」

 

 敵に向かって機体を突貫させようとした動き出そうとした直後だっや。

 突然コクピット内に響き渡った叱責する声によって、澄み渡りかけていたシンの頭は冷静さを取り戻すことを強制させられ、急速に意識がクリアになっていく。

 

『今のお前が倒すべきなのはフリーダムじゃない! 連合の巨大兵器だ! そいつは俺に任せて早く行くんだ! 時間はもう余り残っていないんだぞ!?』

「~~ッ、分かってるよ! だけど、コイツは今までずっと! ステラだって・・・ッ!」

『分かっている! だが今は耐えるんだ! 今あの巨大兵器は俺たちの機体では倒すことができない! お前だけが皆を守れる力を持たされているんだ! だから今だけは俺に任せて早く行け! 時間が惜しいッ!!』

「~~~~~ッッ!!!! わ、わかったよッ!!」

 

 同僚からここまで言われて、シンとしても我を通し続けることは不可能だった。

 《皆を守れるのは自分だけ》という表現が、シンにとっては効果的なフレーズだったのも大きかっただろう。

 かつて連合の《カルナハン・ゲート》を攻略する作戦において、アスランが使った論法を応用したものではあったが、誰かを守りたいとする願望の強いシンに対しては今なお効果的であり続けている。

 

 謂わば、議長が見いだしてレイと共同で作り上げた《天然のエクステンデッド》とも呼べるシン・アスカにとっての《ブロック・ワード》その一つを効果的な場面で用いたわけだ。今後も使う場面はいくつもあるだろう。

 

 ――だが、とは言え。

 

「・・・・・・お前との事にだけは、“次”を残すのは気に入らんのだがな・・・。

 キラ・ヤマトッ!!」

 

 フリーダムの牽制として一人残ったレイとしては、キラ・ヤマトとの決着をシンに付けさせることなく、今ここで自分の手で『仇を取りたい』という欲求を抑えるため苦労しなければならないのが厄介でもあったのだが。

 

「人の夢、人の未来、その素晴らしき結果――“キラ・ヤマト”

 ならばお前は、生まれ変わる世界にために今度こそ消えなければならない・・・っ。

 その為にも、まだ討つ訳にはいかない・・・・・・今度こそお前が消える時には、あと少しだけ・・・ッ」

 

 血を吐く思いでコントロールレバーを握りしめながら、それでもレイが乗る《レジェンド》はフリーダムの進路を塞ぐように立ち塞がるだけで、ライフルを向けて撃とうとしない。

 

 “今”“この時だけ”には、撃ってはならない理由と事情と目的が、レイたちザフト軍と、ギルバート・デュランダル議長にはあったから。

 そして思うのだ。

 

 恐らく、天から舞い降りてより戦場に姿を現しただけで、碌な戦闘を行おうとしないフリーダムに乗るキラ・ヤマトたちの行動も、自分たちと同様の理由によるものなのだろうと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シンの位置からは見上げる位置へと降り立っていたフリーダムの後継機《ストライク・フリーダム》

 

 その機体は、元々ザフト軍がナチュラルとの最終決戦用に開発されていた新型機の内1機を、ラクス・クラインからキラへ譲渡される形で愛機となっていたことから、『キラが使うことを想定して造っていた機体ではなかったフリーダム』と異なり、最初からキラ・ヤマトの専用機として開発が始められ、新しい愛機として一騎当千の性能を発揮できるよう特別に設え直された真の意味でのキラ専用フリーダムと呼んでいい高性能MSだった。

 

 ・・・・・・だが今、その機体のコクピット中でキラ・ヤマトは困惑の声を上げていた。

 

「攻撃しちゃいけないって・・・・・・どういう事なんですか!? マリューさん! それだと、このままじゃオーブは――!」

『分かってるわ! 分かってるけど・・・、私達にはどうしようもないのよ! ここは堪えてちょうだい、キラくん!』

「・・・・・・くッ!」

 

 悔しげに奥歯を噛みしめながら、「ギュッ」と拳でコントロールレバーを握りしめるキラ・ヤマト。

 シンの予測とは裏腹に、悔しげな表情を浮かべて自らの無力さを痛感せずにはいられない思いを彼が抱かされていたのは、当然ながら理由あってのことだった。

 

『私達アークエンジェルは、先の戦闘で完全にザフト軍から《アンノウン》と公認されてしまっているわ・・・・・・そして今オーブは、ザフト軍に対して休戦条約を締結するよう交渉している・・・。

 ザフト軍にとって敵艦となっている私達がオーブ艦隊を救援するのは、“オーブがザフト軍の敵と手を組む意思表示だ”って、そう言ってきているらしいのよ!』

「そんな!? 無茶苦茶だ、そんな理屈・・・っ」

 

 コクピット上部に設置されているモニター画面に映し出されたアークエンジェルに座するマリューからの通達に、キラは思わず愕然とさせられてしまうしかなかった。

 確かに自分たちはアイスランド沖での戦いにおいて、ミネルバを含めたザフト軍からの本格的な大攻勢を初めて受けさせられ、明らかに今までと待遇が異なる《敵艦》として殲滅されそうになった記憶がある。

 

 自分たちにしたところで、ベルリンではロゴスの脅威から町の人を守るため協力したとは言え、それまでの戦闘では多くの被害をザフト軍の側に及ぼしてしまってきた自覚ぐらいはある以上、いくら何でも『敵ではなく味方として扱え』などと要求できると思えるほど厚かましくはなれないが・・・・・・それでも今この戦場で『戦うべき相手』と『倒すべき敵』は自分たちではないはずだった。

 

「――なら、僕だけでも行きます! フリーダムは元々ザフト軍の機体ですし、アークエンジェルだって連合軍から抜けて反逆した船ですし、今はオーブとも関係のない立場にある! だったら問題ないはずでしょう!?」

『ダメなのよ! カガリさんからも、そう言ってみたらしいのだけど・・・・・・でも駄目だったって報告が今届いて!

 “そんな詭弁が通用する立場に今のオーブはない”――それがザフト軍派遣部隊からの正式回答だったそうだわ・・・』

「そんな・・・!? それじゃオーブは! このままだと皆・・・ッ」

『分かってるわ! だから今カガリさんが、デュランダル議長に直接直談判して、連合と戦うための一時共闘を持ちかけているらしいの! その了承が得られるまで、それまでは抑えて! キラくん!!』

「くぅ・・・っ! こんな・・・こんな事って・・・・・・ッ!!」

 

 あまりにもあまりな事態の展開に、キラ・ヤマトは優しげだが神経質そうにも見える美麗な風貌に様々な感情をにじませながら、それでも自分だけが勝手に動くことができず、ただただ目の前に立ち塞がる敵機と向き合ったまま睨み合いを続ける以外にできることは何もなかったのだ。少なくとも今はまだ。

 

 互いの遙か後方で、互いの仰ぐ主同士が、武器なき戦いの結果として、何らかの合意か、あるいは破局という結果が下されるまでは。

 

 キラ・ヤマトも、そしてレイ・ザ・バレルも。

 自分一人の感情によって、多くの人達を戦火に巻き込み続ける結果をもたらす選択を、選ぶことができない性格の持ち主だったから・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――キラ・ヤマトが母艦の艦長との間で、前線を預かる味方同士だけで不毛な会話がおこなわれるより、しばらく前。

 

 キラ・ヤマトやマリュー・ラミアスらの後方を預かる者として、レイ・ザ・バレルたちザフト軍の後方を預かる者との間でも、実り少なく不毛な、だが“やらなければならない交渉”を激しく戦わせ合っていた二人の男女が存在していた。

 

 

「お気持ちは分かりますが、姫。どうか落ち着いて下さい。どうか、ご冷静に」

 

 真摯な表情を浮かべながら、感情に逸りそうになる自分を諭すよう、画面の向こう側から語りかける言葉は、この場において暴れ牛の前で振られる赤布をカガリに連想させる。

 相手をイラ立たせるだけだと承知の上で、わざと言っている挑発と侮蔑の言葉を言いたがっているとしか思いようがなかったのである。

 自分の方だけが冷静な口調と冷静な態度でもって、「落ち着いて冷静に」などと見え透いた言葉を述べてくる目的に、挑発以外の理由が何かあると、この切れ者の議長は本気で思っているのだろうか?

 

 そうは思えない相手である以上、わかった上でやっている挑発と解釈するより他にカガリには受け取りようがなかったが、一方で挑発に乗って激情に身を委ねる訳にもいかないのが今の自分の立場であることを自覚している彼女としては、自分の方から折れるより他に道がない。

 

『・・・デュランダル議長はそう仰るが、我が国としては冷静さを保ちかねない窮状にあることを、どうか議長にはご理解いただきたい。

 ――それとも未だに、この案件について貴国からの明確なご返答が得られないと言うことは、プラントにとってオーブはやはり「所詮は地球の一国に過ぎない」という程度の問題に過ぎないということなのでしょうか?』

「・・・・・・」

 

 燃えるような瞳で睨み付けながら、糾弾する口調で告げてくるカガリからの要請に対して、デュランダルは即座に返答しようとはしなかった。

 ただ、無言で微笑み返すだけである。

 

 とは言え、心の中で相手に対する評価を多少、見直した方向に上方修正したのも事実ではあったが。

 

 ――しばらく会わなかった間に、なかなか言えるようになったものだ、と。

 教師が、出来の悪かった教え子の成長を喜ぶような視線と心境で、デュランダル議長は名実共にオーブ代表となったカガリ・ユラ・アスハと画面越しに向き合っている。

 

 今回の大戦が、正式に勃発する直前の時期に《アーモリー・ワン》で初めて本人自身と対面したときのことが思い出される。

 当時と今とでは立場があまりにも違いすぎるが、なればこそデュランダルの側には慎重で、かつ人道的な対応が求められた。

 

 『先に同盟を破棄したのはオーブである』と。

 『プラントを守るためナチュラルを討て』と。

 

 ・・・・・・声高に相手の非をならして糾弾するのも一つの手ではあるが、それではパトリック・ザラを始めとする旧政権と同じになってしまう。

 ザフト軍内部やプラント内の右翼勢力や過激な者達からの支持は得られるかも知れないが、『シン・アスカ』からは恐らく離反されてしまう危険性が高まってしまう可能性が高い。

 『レイ・ザ・バレル』も残留はするだろうが、不信感を買うかも知れない。

 

 「人道主義」と「講和路線」は、ロゴスに率いられた非人道な地球連合軍や、過激すぎるザラ派などが存在している状況下において、自身の優位性と上位性を守るためのデュランダルにとって便利な政治的道具という側面を有している。

 このような場で相手からの要請を蹴るためだけに、軽々に捨て去ってしまう危険を冒すことを議長は有効打とは思わなかった。

 

『議長もご報告を聞いておられると思うが、連合軍はニュートロンジャマーを搭載した巨大MAを爆走状態に陥らせて、我らのオーブへ向けて直進させる暴挙に打って出てきているのです!

 もはやザフト軍とオーブ軍とが、互いに争い合っていられる状況ではなく、今だけでも共闘し合って連合とロゴスの悪意を打ち砕くことこそ我々人類にとって共通の目的であると私は考えるが、議長はそうお考えにならないのか!?』

 

 熱く激しい口調で、カガリによる画面の向こうからの訴えかけは続いている。

 ――デュランダルとて、連合軍の取ってきた意外な手に対して、驚かされなかった訳ではなかった。

 こんな手があったかと感心したし、自分の予測を大きく裏切る敵将のアイデアには感嘆させられもする思いだった。

 

 だが、敵の作戦に驚かされても、それによる『自軍の不利』を受け入れてやる正直さは、デュランダルと無縁な人の美徳でしかない。

 むしろ、『敵が自分を倒すために使ってきた作戦の内訳』にこそ、利用価値を見つけ出して有効活用できるよう調整して用いる――それこそが戦略家としてのデュランダルが持つ特徴といって良い。

 

 その彼が、連合軍の援軍として出現し、オーブへと向かって進軍している爆走状態の巨大MA部隊という報告を聞かされた瞬間。

 

 

 ―――好機だ。

 

 

 と、驚きと同時に歓喜したのは、彼の思想と思考からすれば、矛盾した考えではなかったのだろう。

 

 連合が再び核を使ってきた。

 それも、味方であるはずの同盟国オーブに対して。

 

 ――これは人道主義と講和を主張するデュランダルにとって悪い報告では全くなかったからである。

 この一件を受けて、世界は再び自分への支持に傾き直すことだろう。

 

 今までと全く同じレベルの盲信ぶりは、もはや期待できないだろうが、少なくともロゴスの非人道性と、味方についた者の末路としてアピールするには充分すぎる宣伝材料を敵の方から提供してくれるというのだ。

 これを喜びもせず、感謝もせずにいられるほど、自分は人でなしになった覚えはデュランダルにない。

 

 敵が自分に勝つため、非情手段を使えば使うほど、非人道的手段に訴え出れば出るほどに、却って自分への支持は高まりを増し、より有利な立場と戦況へと兵を進める大義名分を得られるようになっていくのが、デュランダルの十八番とした戦い方だった。

 

 敵の悪性こそ、自分の善性と勝利をもたらす最高の武器になる。

 

『それとも議長は、我らオーブの民のことなどどうでもいいとお考えなのか!? 一度は地球連合に与した国の民衆達など、国諸共滅んでしまえと、そうお考えておられると!!

 連合の放った核の炎で、オーブの民衆は焼き殺されても良いと仰られるのか!?』

 

 ―――その通り。オーブの民衆は連合の放った核の炎で焼き殺されて欲しいと言うのですよ。

 デュランダルは心の中でだけ、カガリからの言葉にそう答えた。

 

 ロゴスと連合の非道性を分かりやすくアピールするには、多大な犠牲者たちの死体が、一番伝わりやすく人心にも訴えかけやすい。

 大量の無意味な死。政治のため、権力のため、支配者達のために民衆達が強いられた多くの犠牲。それこそが最も人々を突き動かし、現状の世界と社会からの変革を求めさせる原動力となりえる存在。

 

 ・・・・・・敵が非道な手段を使ってきた、というだけでも既に宣伝効果は得られているが、今までに自分の明かされてしまった秘め事へのマイナスイメージを払拭させ、全面的な正義でなくともロゴスと連合と比較すれば間違いなく正義たり得るような、その程度のイメージまで印象を回復させるためには、やはり犠牲を払わせるべき時か・・・・・・そうデュランダルは心の中で冷たい計算による答えを導き出す。

 

「姫は――いや、失礼。アスハ代表。どうか冷静にお考え下さい。

 あの連合軍の兵器を相手に、オーブ軍の兵力は太刀打ちできるものとお考えですか?」

『・・・!! そ、それは・・・・・・だが、それならアークエンジェルだけでも参戦する許可を――!』

「それは私も考えましたが――あの船とフリーダムには、我が軍は今まで多くの犠牲を払わされてきたのも事実ではあるのです。

 その彼らとの共闘を命じたとして、ザフト軍の将兵たちの皆が理によって納得してくれるものではないことを、代表もよくご存じのはずです。

 《ユニウス・セブン落下事故》を、ミネルバと共に経験された代表こそが、他の誰より正確に・・・・・・」

 

 

 そう返された瞬間、今度はカガリが返す言葉を失って沈黙させられる番だった。

 あの時の戦いでのやり取りを、彼女は現場で見聞きする機会こそ得られなかったが、そこに至るまでの過程で、そして事が終わった後にアスラン等から伝え聞かされた内容によって、当事者たち以外では最も深く『理屈だけでは生きていけない人の不条理な一面』を、イヤと言うほど思い知らされ、その行動の結果をも身に染みて叩き込まされる形となっていたのだ。

 

 アレを知っていて尚、議長の言葉を否定できる主張を、カガリは持ち合わせることが出来ていない。

 

「無論、アークエンジェルに乗って戦っていた彼らにも、相応の理由と目的あっての行動であり、決して無意味に戦線を拡大していただけではなかったことは、今では私も理解しています。ですが、残念ながら誰しもが同じように考えられる訳ではない。

 特にアスハ代表も存じておられる、シン・アスカ君――《連合のオーブ侵攻作戦》により国と家族を失った難民としてプラントに渡ってきた彼の心情は、余人には察しきれない深い慟哭と怒りがまだ燻りつづけている。

 その彼が最新鋭機《デスティニー》のパイロットとして、今回の作戦でも連合軍迎撃の主力をつとめています。

 彼の心情を刺激するかもしれない決定を下すことは、オーブの民衆を守るためにも得策ではなく、避けるべきかと思われるのですが・・・・・・如何でしょう? オーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハ殿」

 

 ニコやかな笑みを浮かべたまま述べられた長広舌の説明に、カガリは一切の反論が不可能になった事実を思い知らされる。

 それでも何とか反論をと口を開きかけた彼女を制するように、デュランダルは言葉をかぶせて柔らかい笑顔を浮かべながら、『戦い終わった後の出来事“だけ”』に確約と甘い条件とを追加させて決着とする。

 

「無論のこと、この戦いが終わった後、我々プラントにはオーブ連合首長国との休戦条約を正式に締結することはお約束いたします。

 あくまで、“勝つため”に“守るため”に“生き残るため”に必要な措置でしかないことを、どうか代表にはご理解いただきたい。

 それ程までに一度穿たれた傷は深く、失われた絆と信頼の回復には時間がかかるのだと言うことを。

 前線に立ちつづけ、アークエンジェルとの悲しき擦れ違いから始まった戦いを、継続してきた者達の心情は、そう簡単には溶かすことは出来ないのだと・・・・・・どうか彼らの気持ちを分かってやっていただければ幸いです、姫。いや――アスハ代表」

 

 

 

 いつも通りの詭弁と正論を、人道主義を加えて完璧なものへと仕立てあげながら、デュランダルは結局この戦いの中でフリーダムとアークエンジェルの参戦を、オーブから自主的に辞退させることに成功した。

 

 これでいい―――と、デュランダルは満足気に窓際へと歩み寄り、外の風景を眺めやりながら心中でソッと呟く。

 

 ――こうする為にこそ、艦隊司令がアークエンジェルとの共闘を選ばぬよう、即興の対処で誘導した甲斐があったというもの。

 

 これから始まる新しい世界を生み出すためには、犠牲が必要なのだ。

 今の世界を生まれ変わらせるには、今の世界には一度死んでもらう必要がある。

 

 こんな世界は、もうイヤだ。うんざりだと。

 誰もが思って、新世界の誕生と、旧世界の終わりとを心から希求する心を共有するほど嫌気が差す人々で満ちてこそ、この世界はようやく終わって、新しい世界へ変わっていける人々の住む世界へと生まれ変われる。

 

 そう考え、薄笑いを口元に閃かせた瞬間。

 

 ビシューン!と、遠方からビームが発射された音と光が走る光景が視界に映し出されて、一瞬だけデュランダルの全身を白色に染め上げる。

 

 連合軍艦隊から発砲されたビームの一弾が、流れ弾でしかなかったものの、デュランダルが座するジブラルタル基地のVIPルームにほど近い距離を通り過ぎていった瞬間だった。

 

 有効射程距離外から放たれた艦砲射撃が、マグレ当たりの流れ弾で付近にまで届いて着弾したところで、要塞の外壁を突破して自分を傷つけるまでには至りようがなかったものの、自分を照らしたビーム光の存在そのものがある事実に、デュランダルは多少の不機嫌さを込めて唇の角度を微妙に曲げて、小さな小さな声での呟きを漏らしていた。

 

 

「・・・・・・意外に手間取るな」

 

 

 自分がいる部屋の外側に広がる光景を評して、デュランダルはそう呟いた。

 オーブへの援軍を阻止されぬため、ジブラルタル基地へと攻撃を仕掛けていた連合軍分艦隊との戦闘は一進一退を続けたまま、今だ二つの戦線での決着はついていないまま戦闘は継続し続けていたのである――。

 

 

 

つづく

 

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