あくまで「前話の一部」として考えてた戦いのため、シンたちは関係ない戦闘シーンですけど、「一般兵同士の戦い」が好きな作者的には力入った内容になっております。
オーブ連合首長国とザフト軍派遣艦隊と連合からセイラン政権への援軍艦隊、そして《アークエンジェル隊》という細分すれば四つの勢力がぶつかりあったザフト軍による《オーブ侵攻作戦》は、最終局面を迎えつつあった。
プラント議長デュランダルと、オーブ代表カガリとの交渉中断によって政治的条件が整えられたことで軍政レベルの彼らに出来ることは終了し、あとは現場での実戦における勝敗という結果ごとに選択肢を選んでいくしかない段階へと至ったからである。
ザフト軍ジブラルタル基地を攻める連合軍分艦隊とザフト軍基地防衛部隊。
連合からオーブ・セイラン政権への援軍艦隊とザフト軍からオーブへの派遣艦隊。
そしてキラ・ヤマトを含めたクライン派に所属する戦艦《アークエンジェル隊》
それぞれの部隊が各々の戦場を舞台として、異なる戦闘を展開していた中。
その中で最も注目度と知名度が低いものと後世から見なされることになるのは、ザフト軍《ジブラルタル基地》へと攻め込んでいた連合軍分艦隊と基地守備隊との戦いであろう。
連合にとって彼らの部隊は、オーブへ向かう援軍本体の後背を襲わせないための牽制として攻めていただけの部隊であり、謂わばオーブ戦のための陽動に過ぎない戦闘でしかない。
特に目立った戦術や新兵器、高名なエースパイロット同士による一騎打ちが繰り広げられた訳でもなかったため、南海のオーブを舞台を主力同士がぶつかり合った本番と比べれば“ド派手さ”に欠けて見られてしまうのも無理からぬことではある。
―――だが、一部の軍事史研究家からは、この戦いこそ『地球連合軍にとって新たな戦い方が確立された最初の戦い』として高く評価する声がある。
それまでの戦いでも奇策によってザフト軍に痛手を与えてきた連合軍ではあったものの、それは『新司令セレニア個人の個性』によって演出されただけの結果であるに過ぎず、連合軍という組織全体が新たな在り方と戦い方で『新・地球連合軍』とでも称すべき組織として、ザフト軍と交戦して引き分けに持ち込んだのは、この戦いが初めてであり始まりだった――というのが彼らの主張だ。
実際この時の戦闘で、新司令セレニアはオーブへと赴いており、ジブラルタル基地を攻撃していたのは彼女なしの連合軍部隊だけで編成された分艦隊で、ヘブンズベース以来では初めてとなる『新司令以外の指揮のもとで行われた戦い』それが地球連合によってのジブラルタル基地陽動攻撃作戦だった。
その戦いでの内訳は、火力に優れた連合軍製のMA《ザムザザー》を横一列に並べての一斉砲撃から幕を開ける。
『敵大型機からビーム発射を確認! 来ますッ』
「各機散開ッ! 敵ビーム攻撃を回避した後は、個々の判断で周囲の味方と隊伍を組み直し、反撃に移る! いつものパターンだ、慌てることなく冷静に対処すればそれでいいッ!」
『了解ッ!!』
小気味いい同僚達からの応答を聞き届け、赤いノーマルスーツを纏ったジブラルタル基地守備隊に属するザフト軍エースの一人は、コクピットの中で満足の笑みを浮かべていた。
敵が代わり映えしない攻撃方法に対処するため、自分たちが編み出した必勝戦術の優位性に自信と自負と信頼とを、高く持ち合わせていた故で確信した《勝利の笑み》であった。
――今次大戦が始まってより数ヶ月、地球連合軍の戦い方には一定のパターンが確立されるようになっていた。
大火力による超遠距離からの砲撃が放たれた後、モビルスーツ隊を随行させたモビルアーマーを突入させて乱戦に持ち込ませる――という戦法をである。
これはモビルスーツ操縦技術でもOSの性能でも、コーディネイターに平均値で劣るナチュラルの軍隊である地球連合軍が彼らなりに試行錯誤した末に編み出した、自分たちの能力不足を補うためには有効な戦術と言えなくもない。
だが一方で、彼ら連合がMS登場より以前に採用していた《艦隊を主力として宇宙戦闘機を支援兵器》として用いていた従来の戦法を復活させただけとも評することが出来るものでもある。
宇宙戦艦をMAに、宇宙戦闘機や突撃艇をMSに。
それぞれに置き換え直して、コンパクトな規模で数多く使えるよう再現された、新時代の宇宙艦隊戦術の応用戦法。
それでも効果があったことまでは否定できず、前大戦と異なる大型化したMAが登場した当初はザフト軍も相当に痛手を被らされた戦法ではあり、今でもMA相手にMS単機で挑んで勝利を得られるパイロットは多数派になるには至っていない。
だが戦いが始まって半年以上が過ぎ、大型MAが戦場に初めて現れてから一定の時間が経過した今となっては、ザフト軍のパイロット達も敵の攻撃に慣れさせられ、取り乱すことなく冷静に対処できるようになっていた。
また、そうなっていく過程で幾つかの弱点も巨大MAには見いだしてもいる。
要は、火力と装甲に優れたMAの突撃を、正面から受け止めなければいいのである。
突撃してきたところを散開して躱し、側面や背後から集中攻撃を加えて落とす。それがザフト軍一般兵たちによる対MA戦での必勝戦法として今では定着するようになっていた。
もちろん連合軍とて一方的にやられっ放しという訳ではなく、それらに対処するためMS対を護衛機として随行させているわけだが、一般兵の乗る量産機の攻撃をザフト軍の一般兵が受け止めている隙を突いて突撃し、エースが操る必殺の一撃をお見舞いしてやれば、性能でもここの実力でも劣るナチュラルたちの軍隊・地球連合軍の陣容では防ぎきれるものではない。
「この段に至って、まだ同じ戦法をくり返してくるとはな! やっぱり間抜けなもんだ、ナチュラルって連中は!!」
『敵ビーム攻撃の回避に成功! 我が隊の損害軽微、続いて大型MAの突撃きますッ!!』
「よしッ!」
加速力は高くとも、直線機動故に小回りが効きづらい大型MAは、大推力での突撃直後に大きな隙が生じやすい。
そこを狙って痛撃を加えるのが、彼らが編み出した連合製の大型MAに対処する際の必勝パターンであった。
随行してきている、護衛のMS部隊の相手を飛行支援ユニット《グゥル》に乗った《ZGMF-1000ザク・ウォーリア》の部隊に任せ、自身を含めた赤服のエースたちによる側面からの反撃に《ガナーザクウォーリア》からの砲撃支援を命じて、接近戦を挑もうとする。
もともと知能や判断能力に生まれつき優れたコーディネイターは、ナチュラルのように上意下達の組織体系が必須ではない。大人数が組織だって動くための役割分担として色分けによる区別は必要だったが、厳密には隊長や部下といった階級差はザフト軍には乏しい。
それは必ずしも彼らに、良い結果ばかりをもたらしてくれる条件にはなれなかったが、異なる隊の者と即席の隊伍を組んで効率よくチームプレイを行う今回のような戦いでは敵にはないメリットとなっていた。
幸いにも敵軍は二派に別れた分艦隊のため、大型MAの総数はそれほどでもない。
最初の一撃で敵にとっての鬼札を大きく削り取れば、全体の勝利も得やすくなる――そう思った矢先のことだった。
コクピット内に緑服から、切羽詰まった声での報告が届けられる。
『!! 敵大型機の背後から敵MS隊が、我が方に向かって急速に接近!』
「なんだとッ!?」
赤服のエースは一瞬だけ虚を突かれてしまい、大型MA《ゲルズゲー》の突撃に反撃する機会を逸してしまったが、どのみち彼らはそれどころではない状況へと陥りつつあった。
(今までの動きじゃない・・・ッ!?)
意外性に頭を打たれながらも、彼は冷静さまで放棄する愚は犯さなかった。
レーダーを見れば、確かに敵陣の配置には今までと異なる多く見られ、突撃してきたゲルズゲーと、後続のMS隊の間には距離が開きすぎていて『随伴させている』とは表現できない陣形となっていた。
――だが、それだけだ。
今までのやり方を変えてきた意外性こそあったものの、たかがナチュラルが操るナチュラル用のOSを積んだ連合の主力量産型MS《ウィンダム》が数を頼んでMS同士での戦いを挑んできたところで、自分たちが操るコーディネイター用のMS隊に太刀打ちできる訳がない。
まして、自分たちエースだけに与えられた少数生産の新型機《ZGMF-2000グフ・イグナイテッド》なら尚更だ。
《グフ・イグナイテッド》は、ザフト軍が新たに開発を進めていた《ニューミレニアムシリーズ》と呼ばれる次期主力MS群の一機として造られた機体で、先行ロールアウトされていた試作機だけしかなかった機体が正式に量産されるようになってから間もない接近戦向きの機体である。
性能的には、あらゆる面でザクを上回る機体として完成されたのだが、武装面での火力不足と射程の短さが一般兵たちには不評であり、未だ一部のエースクラスにしか配備されていないままのMSだったが・・・・・・対MA戦に用いるなら抜群の性能を発揮する機体でもある。
装甲が分厚く、加速力があり、《陽電子リフレクタービームシールド》を装備した連合の大型MAには、ザクウォーリアやガナーザクウォーリアよりも、グフ・イグナイテッドによる接近戦での強力な一撃こそが効果的だからだ。
そしてこの理屈は、連合軍のMS隊に対しても『敵から攻めてくる場合』には適用される理論にもなり得る。
「乱戦に持ち込みさえすれば、俺たちコーディネイターと操縦技術の差を埋められると考えついたところまでは間違っていない・・・・・・だがそれも、この機体が開発されるまでの話だったがな!
グフ・イグナイテッドにとって、乱戦はむしろ望むところ! 戦士の戦い方というものを、地ベタにへばり付いてる奴らに教えてやる!」
そう叫んで赤服のエースは、距離が開けられてしまったゲルズゲーへの反撃を諦め、正面から接近中の連合軍MS隊へと的を絞って先に対処することを決心する。
どのみちMAを倒す際にも、随行する護衛がいなくなっている方が楽にはなるのだ。
また、自分たちの陣を突破できたとは言えジブラルタル基地の防御力は、たかがMA数機だけで打ち砕けるほど脆くはない。
突破に成功した数だけでは、何発かビーム攻撃ができるだけで、しばらくして後退するしかなくなるだろう。そこを討てば先ほど襲うより楽に倒せるかも知れない。
慢心は禁物だが、そう悪い状況に変わった訳でもない。少なくとも彼自身は現在の状況を、そう分析していた。
「応戦しろ! 時代錯誤な連中に思い切り熱いのぶちかましてやれ! ザフトに勝利を!」
『ザフトに勝利を!』
叫んで唱和し、喜び勇んで敵MS隊へと機体を突進させていくパイロット達。
先日に敗れたヘブンズベースでの屈辱が晴らせるという喜びによって、彼らの士気は普段よりも高まっているようだった。
あの時は、味方の寝返り部隊が足手まといとなり、満足に敵と打ち合うことすらできないまま撤退するしかなかった者が、今この基地には大勢存在していたのである。
そんな彼らにとって、まともに敵と戦えるなら願ってもない行幸と言えた。
コーディネイターである自分たちが、ナチュラルと正面切って戦えば、決して敗れることはない!!―――彼らはそう思っているし、それはまた事実でもある。
彼らは特に、ナチュラルへの差別的感情をもつザラ派のような右翼でも、コーディネイターを新人類として絶対視している選民思想の持ち主でもなかったものの、一般的なコーディネイターの感覚としてナチュラルが自分たちより性能面で劣っていることは紛れもない事実だと広く認識されていたのだ。
だが、それ故にこそ『弱い者が強い相手に真っ向勝負を挑んでくると考えるのはバカだ』とする考えを「常識だ」と信じている銀髪の少女の発想は、彼らには受け入れがたい部分を有していたらしい。
互いに突撃し合って距離が縮まった敵MS部隊が、自分たちへ向けて銃口を構えてきた武装を目にした瞬間。赤服のエースが瞳を「カッ」と限界まで見開かされることになる。
(ビームライフルじゃ――ないッ!?)
彼がそう思った次の瞬間に、両部隊は正面から激突して激しい乱戦が展開され始める。
そして、この戦いで彼は今まで連合軍MS隊と戦ってきた戦闘の中で、『最も少ない犠牲』と『最も多くの被害』とを双方同時に仲間たち共々こうむらされる結果となってしまう羽目になる。
がががががががッ!!
ビシューン! ビシューッン!!
両軍の機体が互いの持った重火器から発射される火線と、発砲音とが響き合う。
その中に、ザフト軍兵士達の戸惑ったような通信が同時に飛び交っていた。
『よし! 回避に成功ッ! 反撃に移――うっ!?』
『チッ! ナチュラルが造ったMSモドキのブリキ人形風情にな――なに!? お、俺の腕が・・・!?』
『こちらチャーリー1、小破させられたときに武器を失った。誰か、換えのライフルを返してくれ! 早くッ!!』
混乱するあまり、無秩序に無分別に通信を入り乱れさせるコーディネイターの一般兵たち。
普段は理性的な彼らの混乱ぶりは、敵の新武装もさることながら、予想外に大きな痛手を受けたことで浮き足立たされたことが最も大きかった。
それは連合軍が自分たちナチュラル用のMSを完成させてから、初めて実装された新装備が、今の戦場に使われたからこそ可能になった事態でもあった。
【マシンガン】である。
おそらくザフト軍が先の大戦で使用した人類初のMS《ジン》が使っていた《76MM重突撃機銃》をもとにマイナーチェンジを行った改造銃なのだろう。形状が酷似している。
その装備を連合軍MS隊は、突入してきた機体全てにビームライフルの替わりとして持たせていたのだ。
それは驚くべき事態だった。今まで連合製のMSは、ナチュラル達がプラントに先んじて実用化に成功した【ビーム兵器】を主力武装として、ほぼ全ての機体に配備し続けてきた伝統があった。
実際、ビームライフルの威力は凄まじく、実弾兵器で射程も短いジンの突撃機銃は、この兵器の登場以降は急速に主力兵器の座を追われていく憂き目に遭っている。
だが一方で、威力はともかく【命中率の高さ】という点では、一発屋のビームライフルよりも未だにマシンガンの方が上回っている事実までは代えようのない、構造が有する特徴であり続けている。
今次大戦までは、重力のない宇宙空間での戦いならともかく、MSと言えど地面を歩いて移動せざるを得ない機体が多数派だった地上戦での戦いにおいて、ビーム兵器の有無は圧倒的な戦力差となって勝敗を左右する決め手となり続けてきたものだった。
先の大戦終盤における連合軍の巻き返しは、《サイクロプス》の自爆によってザフト地上部隊の大半を損失させられたこともあるが、この新型装備《ビームライフル》の量産化に成功されてしまったことで、旧式の実弾装備がメインだったザフト軍MS隊が武装面で劣るようになったことも大きく影響した結果でもある。
だが今次大戦において、ザフト連合両軍の主力MSたちは、空を飛んで戦い合うのが一般的になりつつある時代に変わってしまっている。
縦横無尽に機動力を生かして四次元機動を実現させたMSを使っての空間戦闘は、コーディネイターの性能を遺憾なく発揮させ、ナチュラル用に調整された故にパターン化された機動をしやすい連合製MSにとっては不利になってしまっていたのである。
そこでセレニアは、当たればデカいが外れれば何の被害も与えられない一発屋の《ビームライフル》ではなく、数撃つことで避けにくくなり、紛れ当たりを増やすことが可能な《マシンガン》へと連合軍MS《GAT-04ウィンダム》の装備を一変させる案をジブリールに許可させて実行に移し終えたばかりとなっていたのだ。
無論《ビームライフル》を装備した機体を全て撤去した訳ではなく、常に一定数は配備され続けているものの、マシンガンに換装された中距離戦闘用のウィンダム隊より後方の位置から援護射撃のみを行う役に徹したまま前に出ようとしてこない。
これが従来の戦い方しか連合軍MS隊はしてこないという前提で突入してしまったザフト軍MS隊が、混乱に陥っていた最大の理由である。
命中率は高くとも射程の短い敵に向かって、自分たちの方から得意なレンジの内側へと入り込んでしまったのだから、被害が想定より大きくなるのは自明でしかない。
更に追い打ちをかけるように、味方を救うため孤軍奮闘していたグフ・イグナイテッドを駆る赤服のエースのもとに、緑服の同僚から再び悲鳴のような声での報告がもたらされたのは、その時だった。
『ま、マズい! 敵が・・・敵が戻ってくる! さっき通り過ぎた連合の大型機がコッチの背後から!』
「なにッ!?」
慌てて機体は背後を映し出すモニターとレーダーに視線を向けた彼だったが、その反応は遅きに失した。
タイミングを見計らって、一斉に高速で来た道を舞い戻ってきた《ゲズルゲー》の突撃は、ただ機体のサイズと速度だけでも脅威足りる。
予め予定されていた通りのタイムスケジュールをなぞっただけの連合と事なり、全てが全て予定した内容を裏切られ続けたザフト軍部隊にとって、乱戦を行っていた所に後ろから突入してきた大型機での体当たり攻撃は少なからず損害を被らされる結果となる。
MA隊が無事に戻ってきたことで、彼らの背後を討たれるのを阻止するためのMS隊の役目を終わったのだろう。背中から撃たれるのを守るための陣形を組みながら、母艦が待つ艦隊へと後退していこうとする連合軍MS隊の後ろ姿―――
「・・・自分たちだけ上手くいって逃げられると思うなよ! ロゴスに媚びうる人でなし共が!!」
だが無論、やられっぱなしで脱帽し、勝利して退いていく敵の後ろ姿を黙って見送ってやる義理や理由など、コーディネイター達には全くない。
勝ったつもりで背中を晒して退いていく敵軍を追撃して食らいつき、今度は自分たちが肉薄して敵陣を切り裂いてやるつもりで、全速力で敵の背中を追いかけさせる。
確かに一杯食わされたとはいえ、MAが背中を襲われるのが弱いという事実まで変わった訳ではない。
背中を守らせるため味方のMS隊で陣形を敷いてしまっているのも、ザフト軍側には有利に作用する要素になる。
味方ごと撃たなければ、後ろから食らいつく自分たちの追撃は阻止できない!
ロゴスならやりかねない行為ではあるが、この状況下でそれを行えば兵たちの士気は下がるだろうし、もしやられたとしても自分たちだけの被害で済むなら全体としては兵たちのモラール分だけプラスに転じることが可能となる。
損傷した機体こそ多いものの、戦闘不能状態に陥った機体や撃墜されたMSがほとんどなかったことも、赤服エースの指示に他の者達も同調した理由になっていた事だろう。
「第二戦闘速度だ! 急げ! なんとしても敵大型機が艦隊に帰還する前に追いついて、何機か撃墜してやらなければ気が済ま――」
『た、隊長! 隊長ぉぉぉぉぉ!? アレをッ!!』
「今度は何だ!?」
あまりにもあまりな展開の連続に、さしもの赤服のエースも怒りが頂点に達して同僚からの報告に怒鳴り返す。
感情的になりすぎるあまり、相手が自分を呼ぶのに《隊長》という白服を示す呼称を使ってしまっていた誤りにすら気づけなくなっていた彼は、それでも叫び声で報告してきた機体のいる方角を映し出すべくモニターに目を向けた―――その瞬間。
光が――――彼の視界と、機体全体とを覆い尽くす。
「う―――わ―――」
それが彼が、この世で感じ取れた最後の意識で発した言葉となる。
一瞬にして率いていたグゥルに跨がるザク部隊共々、愛機と一緒に1ミクロン以下の粒子にまで蒸発させられてしまった敵機の最期を見届けてから、連合軍分艦隊旗艦のブリッジにおいて、艦長から司令官に『敵の追撃部隊を撃退した』という報告がもたらされていた。
「司令官代理、陣形の斜め横に移動させていた《ザムザザー》からの一斉砲撃によって、後退してくる味方を追尾してきた敵部隊の掃討に成功しました。こちらの損害は軽微」
「そうか。司令から聞かされたときには有効か否か判断がつかなかったが・・・なるほどな。
“ノスタルジーもたまには悪いものではない”と仰られた理由がようやく分かった気がする。確かにこの戦法は有効だ。もっとも、使いどころが限定されるのも事実だろうが・・・」
セレニアから離れて分艦隊として行動する際、連合軍の通常部隊は幾つかの策を新装備とともに与えられており、その一つを司令官は上手く活かすことで今回の戦いの序盤だけは制することができたようだった。
「たしか、《パルティアン・ショット》でしたか? 古代の地球で遊牧民族がローマ帝国の大軍相手に用いて、司令が応用して考案したという戦法の名前は」
「ああ。“高速の一撃離脱で突撃した後、逃げようとする背中を追ってきた敵に逃げつつ振り返って後方斉射する”・・・・・・私は知らなかったが、遊牧民族では基本戦術として用いられていたらしいな。
あまりに対応の難しさから、当時のヨーロッパ人が「負け惜しみ」や「捨て台詞」といった意味で使うようになった言葉が現代では主流になってしまったと説明を受けたが、成る程な。
この戦法でしてやられた方にしてみれば、ただ相手が「卑怯なだけ」と罵りたくなる気持ちも分からんでもない」
改めて納得して、今までのような数任せの力押しではない、頭と工夫でザフト軍相手に戦っていく戦法について、司令自身も初めて深く考え始めたのは、この瞬間からのことでもあった。
ビーム兵器と比べれば威力は遙かに目減りするため、敵機の撃墜数は大きく下がるだろうが、当てられもせずにノーダメージで倒されるだけよりはマシ。
旧式兵器のデチューンに過ぎない代物のため、格安での開発と生産が可能なことも、懐事情が厳しくなりつつあるロゴス軍にとっては有り難い要素でもある。
また、ザフト軍に比べて戦死者数の多い連合軍側には、必然的に経験豊富な生き残りパイロットが多くはなく、未熟な兵でもコーディネイターが操る機体に当てさせることを考えれば、威力の高いビームライフルよりも、撃った弾をランダムでバラ撒くマシンガンの方が現実的と言うべきなのかも知れない。
この戦闘が終結して以降、古代地球から復活した《ネオ・パルティアンショット戦術》は大型MAを擁する連合軍全体にとっての十八番戦術として定着していき、様々に応用されながらザフト軍を大いに苦しめることになるのだが・・・・・・それは現段階では過程の未来における可能性の一つに過ぎない。
「――だが、次からは同じ戦法に引っかかってくれるとは思えない。上手く釣り上げるため、こちらも上手く動くとしよう。とにかく時間を稼いでオーブでの作戦終了まで保たせるのだ。
我らに天の加護を! 蒼き正常なる世界のために、連合軍に勝利を!!」
『我らに勝利を! 蒼き正常なる世界のためにッ!!』
意気上がる敵旗艦ブリッジ内での連合兵とは裏腹に、激しく息巻いた結果として最初の攻撃で敗北を喫したジブラルタル基地司令室では、怒りのあまり感情的になりそうになる己を制して、シンに勲章を授与したばかりの基地司令官は部下たちに向かって重々しい口調で断言していた。
「敵の戦法に乗せられるな! あの策は派手な見た目の割に損害が少ない、誘いに乗せられなければ我が方を破れるほどの威力はない戦法に過ぎない! それに敵とて損害0という訳ではないのだ!
我らは守る側だ。損害を最小限に抑えて基地を守り切れれば、我らが勝って、退いた敵は敗れる。
オーブでの決着さえつけば、自ずと分艦隊に過ぎぬ奴らも結果的に敗北となる!!
我らに天の加護を! この戦いの勝利がデュランダル議長に率いられた我らコーディネイターの、新たな創世に続く光とならんことを!! ザフトのために!!!」
『ザフトのために!!
この戦いがデュランダル議長に率いられた我らコーディネイターの、新たな創世に続く光とならんことを!!』
・・・・・・歴史には名が残ろうとも、大きな戦いを支える小さな戦いとしてしか記憶されることなき戦闘での勝利を得るため、小さな名もなき人々にとっての戦いと死は、この時点ではまだ始まっていたばかりでしかない。
彼らの戦いは、オーブでの決着がつくまで続けさせる為にこそ、払わされている犠牲なのだから・・・・・・
つづく