何度も書き直して、ようやく完成です…長かった…。(疲)
プラント議長デュランダルの調略によって、オーブ国から要請を受けたアークエンジェルが、ザフト戦艦ミネルバとの間で語り合う機会は失われることになる。
それは、一つの未来へ繋がる可能性が断たれた瞬間でもあった。
最終的に破断することになるとしても、ミネルバとアークエンジェルが地球連合の援軍に抗するため同盟することは、このとき不可能ではなかったからだ。
「もし、その可能性が実現されていたことで、未来が今より良いものとなっていたか悪しきものへと堕していたかは、今を生きる我々が知ることは永遠に出来ることはない。
だが少なくとも、その選択の先に待つ未来は、我々が知るCEの歴史とは違う形になっていた可能性はあったと私は信じる。
しかし、そうであるが故にデュランダルには『未来の可能性』を抹殺する必要性があったのだろう。
自分以外すべての可能性を殺し尽くすことで、生き残った一つの可能性だけが現実となって未来を形作っていく事実を彼は知っていた。
彼は賢明な指導者だった。あくまで彼の信じる可能性が実現された未来での基準において、彼の判断は正しく賢明なものであったのだ・・・・・・」
――その様に表現し、このとき失われた可能性上の未来を惜しむ歴史家も後世には存在することになる。
しかし人の価値基準とは個々人で違うものらしく、後世の歴史家を嘆かせた可能性の一つの死を祝福と捉える人間がデュランダルと同時代を生きる別の者に一人いた。
その人物はデュランダルと同じ種族に属しながらも、彼と同じ旗の色を仰いでいる人間ではなく、むしろ正反対の陣営に立ち、「敵の喜びが味方の不幸」にしかなれないはずの立ち位置にいた人物。
ロゴス側に雇われたコーディネイター傭兵『キョウヤ・ヒグチ』というのが、彼の名だった。
「あはッ☆ 理由はよく分かりませんが、どうやら決裂したご様子デ」
レーダーに映し出されていた赤い光点の動きを見下ろしながら、連合軍に雇われたスーパーコーディネイターのなり損ない傭兵『キョウヤ・ヒグチ』は、蛇のような目と口をいっぱいに開きながら嬉しそうに声を上げる。
途中から新たに加わった2つの赤い点は、2つ共が同じ場所に留まったまま動こうとせず、最初に映し出された1つだけが、停止する前と同じ方角に向かって急スピードで前進を再開させている。
表示されているコードから、《ヘブンズベース戦》で仕留め損ねた2機の内の1機と見て間違いあるまい。
戦闘終了後に内通者からもたらされた情報によれば、たしか機体名は《デスティニー》
そうなると、後から追いついてきた方は《レジェンド》だろうか? もう一つの方はデータにない新型のようだが、どちらにせよデストロイ部隊の進行方向に向かって移動しているのは1機だけ――凄まじいスピードだ。まもなく目視でも確認することができる程に。
「3機まとめてでは流石に勝ち目がないかと思っていましたが、どうやら決裂したようですし当初の依頼通りの作戦を遂行して、提示された報酬を受け取りに戻るとしましょう。
アナタの首にかけれている賞金、是非とも私のモノにしたいと願ってましたのでねェ~、くふッ♪」
平然とうそぶいて、加えていた機械タバコを「プッ」と吐き捨てると、ハッチを開けたままになっていた機体に飛び乗りエンジンを急速に起動させ始める。
彼が今いるのは、オーブから北方に向かった方角に浮かんでいる小島の一つで、この他にも幾つかの島々が点在している海域の一つである。
先の大戦の最中には、連合軍に残った最後の《Gシリーズ》である《GATーX105ストライク》と、ザフト軍に奪取された《GATーX303イージス》とが互いにぶつかり合って互いに果てたという由来を持つ名もなき島がある一帯にも近い海域。
そんな場所に彼が隠れ潜んでいたのは無論のこと、《デストロイ小隊》迎撃のため進発してくるであろう敵部隊を迎撃して守ってやるという依頼を受けた結果であった。
そのために彼は、カーペンタリア基地に発見されてデュランダルへと報告がもたらされていた先行して潜入していた艦隊から密かに機体を発進させ、海中をサブユニットを使って移動させてもらい、適当な小島に上陸してからもエンジンを切って岩陰に機体を隠し、持ち込んだ機材のレーダーを使って周囲の状況を観察しながら、予測されていた敵迎撃部隊の到着に備えていたのだが・・・・・・途中でアクシデントが発生してしまったため、出撃すべきか否か判断に迷って決めかねていたのである。
――まさか、大気圏を突破してモビルスーツ単独で降下してくるなどという力業をやってのける者がオーブ側にいるとは彼にとっても、彼を派遣していたセレニアにとっても完全に予想外の出来事だったことが、そのアクシデントの内訳であった。
さすがに彼女も戦闘が始まるより大分前の段階で、アークエンジェル隊のキラ・ヤマトが、窮地に陥っているラクス・クラインを救い出すため旧式の《ストライク・ルージュ》で強引に大気圏を突破させ、宇宙で秘密裏に開発が進められていた新型機を受領し、再びモビルスーツ単独で地上へ舞い戻ってくる―――などというド派手な再登場の仕方でオーブ海戦に乱入してくるのを予測しきることは、神ならぬ人の身では不可能だったのである。
「裏切るのをギリギリまで待った甲斐がありましたァ。
傭兵たる者、クライアントからの要望が何より優先すべきものですからネぇ~」
正直そんな危なっかしい相手に、命令遵守でチョッカイを出したせいで死んでしまったりしては元も子もない。
せっかくの大金も報酬も、生きていてこそ使うことが出来るものであって、死んだら金は使えないし贅沢もできなくなってしまう。
死ぬ危険が高い仕事だからこそ報酬も高いのは事実だが・・・・・・キョウヤが引き受けたがるのは『死ぬ危険が高い“だけ”の仕事』であって、『勝って帰れる自信がある仕事だけ』なのだ。
『命をかけて依頼人の仕事を全うするプロのこだわり』などというものは、キョウヤという利己的な快楽主義者には無縁な発想であり、物好きな趣味人の享楽としか思ったことは一度もない。
勝てそうもない戦いだったら、依頼人ごと見捨てて、敵に鞍替えして生き延びる。
それがキョウヤ・ヒグチという傭兵の生き方だった。
別に彼だけが卑劣な人格の所有者だからという訳ではなく、『傭兵』という職業を選ぶ者は一般的にそういう方針で生きるのが当たり前の者達だというだけである。
雇い主であるセレニアも、そこら辺の機微は良く理解した上で彼らを雇っていたため、キョウヤたち傭兵隊に過剰な期待も信頼感も抱いてはいなかったとはいえ、キラの乱入の仕方を予期していなかったが故に生じてしまった『デスティニーとフリーダムが協力し合って連合の援軍を倒す』という選択肢を選ばれてしまった場合には、最悪キョウヤの離反までもを覚悟しなければならなくなっていたところであったが・・・・・・どうやら、その危機だけは免れることができたようだった。
「では、仰せつかった任務を全うして提示された報酬を受け取りに戻りましょうか、ネっ!」
コクピットの中では、あまり意味のない掛け声とともに機体の上半身を大きく、捻るように動かしながら構えさせるキョウヤ・ヒグチ。
その彼が与えられた愛機に構えさせた武装は、かなり奇妙な代物だった。
一見しただけなら、装甲の飾り部分が異様に突出しすぎた肩アーマーを片手で持ち、それを子供がやる「石投げ」の如く投げつけようと、投球モーションをしている。そのような風に見える武器。
あるいは、巨大なブーメランを投擲するため、片手で持った腕を大きく後ろへ回して下がらせている、という見方も出来なくはない。そんな武装。
《試作型ビームブーメラン発射装置マイダスメッサー・ランチャー》
それが、この特殊武装に与えられた名称だった。
先の大戦時にXー105ストライクの支援パッケージとして使用されていた《ストライカーパック》の装備ビームブーメラン《マイダスメッサー》を、機体と切り離して他のMSでも使用できるよう、使い捨てのビームブーメラン発射装置として改良したマイナーチェンジ武装でもある。
携行可能なよう、機体ではなく発射装置そのものからエネルギー供給を受けるよう再設計し直されている武装で、そのぶん戻ってきた物を再利用することは大本の原典よりも難しくなってしまっていた。
それでも尚、相手に軌道を読ませない低エネルギー消費のビーム兵器として開発だけはされていた武器だったのだが、コーディネイターの敵パイロットを相手に軌道をあらかじめ読んだ上で投擲するブーメランという武装は、つかいこなすには難易度が高すぎてしまい、長らくお蔵入りするしかなかったものを、キョウヤ・ヒグチの雇用によって日の目を見る舞台に舞い戻ってくることが可能になった装備でもある。
そんな装備を左手に持って構えさせながら、右肩には通常のミサイルポッドを追加装備としてジョイントし、右手にはビームライフルを持たせてトランスフェイズ装甲さえ切った状態で、上半身だけを大きく捻らせている姿は他人たちの目にはヒドく滑稽に思えたことだろう。
いったい彼は、何をしようとしているのか・・・?
その答えは、ディスティニーが《カミナシ》の攻撃射程圏内に入る、その数テンポ前に明らかとなる。
「よい、しょっトッ☆」
出さなくてもよい無意味な掛け声と共にコントロールレバーを大きく引きく機体を動かし、捻らせていた体勢だった《カミナシ》の上半身だけを大きく半回転させながら《マイダスメッサー・ランチャー》を投擲。
それが終わるのとほぼ同時に、コンマ数秒のタイムラグを経てからミサイルポッドを全弾発射し、更にはトランスフェイズ装甲を完全起動。
エネルギーを流している状態になったことが表示された瞬間には、僅かな狂いもなく手に持ったビームライフルを三点バーストで連射する!!
狙った対象から大分離れた位置へと放たれた金属片は、グルグルと回転しながら曲線を描く軌道を取って徐々にディスティニーの進行方向左側背へと接近しはじめ、やがて一定距離まで達したところでビームの刃と翼を展開。
一挙に速度を増して、ディスティニーへと迫りはじめる!!
「なにッ!? 反応――後ろと側面からかッ!」
コクピット内に突如響きはじめた緊急事態を告げるアラートの不快な音の連鎖に、シン・アスカは即座に反応してレーダーを見直し、先程まで表示されていなかった三つの光点が出現しているのを視認する。
反応は現在地から見て、左前方に1つ、左後方から1つ、そして左前方からカーブを描きながら接近してくる光が6つ。
今の速度で進めば自機が到達するころには、最初の光点が真横になって、左前方から飛来する6つは前方からに変わり、左後方から接近してくる光は退路を断つ距離にまで近づいてきて、デスティニーは挟み撃ちされた形となる。
反応の速度と数から見て、最初の場所から動いていない光はモビルスーツで、6つの小さな光点はミサイル、背後から接近中のものはビームブーメランと同じ投擲ビーム兵器と見ていい。
予測発射ポイントに止まっているモビルスーツと思しき光点も含めて、デストロイ部隊の侵攻を阻止するのを妨げるため連合軍が伏せていた迎撃妨害用の部隊だろう。
――ミサイルを避けるか防ぐかすれば、一時だけでも機体が止まる!
逆に背後からのビーム兵器は、フェイズシフトでも打撃で動きが止められることになる・・・・・・そこを本体が狙うつもりか!!
瞬時にしてシンは、目にした情報から戦場の状況を正確に認識して、自分が選ぶべき対応を決断して動き出す。
その動きには、悩んでいる時間があったなどと余人には思えないほど素早すぎる反応と思考。
「ならばぁッ!!」
前へと進むデスティニーを更に加速させ、赤い粒子を纏わせながら残像を発生させながらッ。
ミサイルやビームブーメランなどの誘導兵器に対して、デスティニーの残像は絶大な威力を発揮する。一瞬にして目標を見失ったミサイル群と、飛んでくるビームブーメランの刃とがぶつかり合って音と爆発光を乱舞させる。
残像を発生させながらの超速機動で、機体を退避させることに成功したシン・アスカ。
だが、なり損ないとは言えキョウヤもまたスーパーコーディネイターだった。
時間差を付けて撃っておいた三本のビームの内、一本は爆発の中へ飛び込んでいったものの、発射による反動を利用して銃口の角度を上げさせてから撃った二発目は、回避に成功したデスティニーが移動直後の空間へと正確に襲いかかる!
予測射撃だった。
キョウヤは自分が生まれ持ったスペックの高さと豊富な戦闘経験にくわえ、先の戦闘後に得られたデスティニーの情報から、シンが自分の初撃を回避してくることを最初から予測し、避けられる前提での二撃目を始まりの時点で既に撃ち終えていたのだ。
さしものシンも、過去の時点で終わっていた攻撃に自分から飛び込んでしまっただけという状況では為す術がない。残像機能を使って回避に成功した直後というタイミングの悪さもある。
本物のスーパーコーディネイターを一度は倒して見せたエースも、先制攻撃は敵に譲らざるを得ない状況へと追い込まれた―――そう見えたが、しかし。
「チィッ!! こんなもんにぃ――ッ!!!」
シンは現状に対する危機感などまるで感じた様子もなく、スロットルペダルを踏み込む。
いや、回避に成功したと思った直後には、既に次の機動へと繋げるための動きを身体にさせはじめていたのである。
彼は、ヘブンズベースの戦いでレイと渡り合った連合軍の新型を忘れていない。
一機だけで迎撃部隊の阻止を狙うなら、精鋭を当ててくるはず・・・・・・レイを相手に互角に戦えてた奴なら、自分が最初の不意打ちを避けることぐらい読まれていたところで不思議はない!!
そう考えていたからこそ、最初から回避直後におこなう二度目の残像回避を前提とした行動に移ることが可能だったのだ。
『敵が自分に攻撃を回避されることを予測していることを予測した』二段回避行動。
キラ・ヤマトの撃墜に成功した二人目のザフト軍パイロットの名は伊達ではない。
精神的にはどれほど幼く未熟な面を持っていようとも、シン・アスカのパイロットとしての実力が超一流であることを証明するに達る見事な回避と、そして読み。
――だが流石のシンも、『敵が自分に攻撃を回避されることを予測していることを予測した回避を、更に予測した攻撃』までは読み切ることはできなかった。
ビーッ! ビーッ! ビーッ!!
「なんだとっ!? ビームが、まるで曲がるみたいに――うわぁっ!?」
二度目の残像回避をおこなってる最中に襲いかかる強い衝撃。
移動中の機体から見れば、三度目の予測射撃はまるでビームが曲がったから避けきれなかったかのように思えるほど予測しがたい不可避の痛撃として、デスティニーの機体に刻み込まれる。
受けさせられる側にしてみれば、予知能力を持ってでもいるかのような先読みに基づく攻撃だったが、撃った本人であるキョウヤとしては、差して奇をてらった攻撃方だったという訳でもない。
ただ、どうせ察知された直後の先制攻撃を奇襲によって放つのであれば、予測できる限りの数を撃っておいた方が当たりやすいだろうと考えて実行しただけに過ぎなかったからである。
無駄撃ちに終わるなら終わるで、それは仕方のないこと。
どのみち自分がミサイルポッドを捨てて身軽になった機体で高速接近し、白兵戦を仕掛けるまでの時間稼ぎにさえなれれば最低限の目的は達成できる程度のことに過ぎないのだから!!
『ひゃはッ☆』
「くっ! あの連合のモビルスーツ・・・ッ!?」
ダメージを受けて体勢を崩されたところへ、狙い澄ましたタイミングで急加速をかけながらサーベルを片手に突っ込んでくる《カミナシ》
デスティニーも即座に迎撃のためアロンダイトを構えさせるが、長すぎる刃渡りの長刀故に動きと反応が一瞬遅れる。
振り下ろしてきた光刃は躱し、突き出した刃は微かに装甲に触れただけで回避され、両者の機体は擦れ違う!
「なんだ!? コイツ、大した性能もないはずなのに妙に腕が・・・ッ」
『ほお!? この私の攻撃も、こうも容易く防ぎ切るとは!
使い捨てのように突出してくる一般兵風情が隊長機でもないでしょうが、大した腕です!』
コクピット内で互いのパイロット同士が敵手の腕を、対極の立場で褒め称え合うが聞こえるはずもない。
刃を躱し合った両軍のエース2機は、擦れ違いながらビームライフルを撃ち合い、光の弾丸も互いの機体を掠るだけで通り過ぎる。
短い時間ながらも強者同士で交わされ合う、一般兵では入り込む余地すら見出せない超絶の攻防。
通常の兵であれば、ナチュラルはおろかコーディネイターでさえ途中で撃墜されていたことは確実だろう攻撃を互いに放ち合い、互いに交わし合う。
――だが、少なくともシンにとってキョウヤは自分とデスティニーが『倒すべき敵』とは認識していない。
「クソッ! こんなことしてる間にも、オーブは・・・ッ」
今の彼にとって、デストロイ部隊の迎撃と撃破こそが、自分の果たなさければいけない使命だった。
このまま進めば、あの機体たちはオーブ本島やザフト艦隊の近くまで到達して核爆発を起こすだろう。
来る途中で補充要員のアビーから受けた解析によれば、あの三機編隊はギリギリの距離でオーブ本島をかすめて移動しており、カーペンタリアへの進路を取っており、仮に途中で暴発してもオーブに住んでいる者たちに犠牲者は出ない可能性が高くはあるらしい。
だが、1人の犠牲者も出さずに済んだとしても、連合が再び『侵攻のため核爆発を起こさせた』という事実は世界は大きく揺らがしかねない。
今次大戦が開戦した直後に連合軍がおこなって失敗した、『核ミサイル部隊による奇襲攻撃』がそうだったように、戦争が再び激化させられる危険性を孕んだ行為なのだ。
――まさに、それこそデュランダルの望み求めている結果だったのだが、そうとは知らぬシンにとって、仮に連合が更なる不利になるとしても、あの混沌とした状況にまた世界を戻させる訳にはいかない。
「チィッ! 何で墜ちないんだよ、コイツ!!」
だが、キョウヤも並の敵手ではなく、シンの腕前を持ってしても片手間で相手取って落とせるほど弱くない。
それどころか、無防備な背中を晒してデストロイ撃破に向かうことさえ危険度が高すぎるほどの脅威・・・・・・無意味と承知で撃墜するため本気で向き合わざるを得なくされる。
――なんでロゴスなんかを守ってやるため戦っているのか!? 自分たちは戦争を終わらすため戦っているのに、何故それを邪魔しようとするのか!?
ロゴスみたいな連中が生き残ってしまえば、またステラみたいな被害者の子供をいっぱい作り出すだけに決まってるのに・・・・・・なんでそんな当たり前のことが分からない!!
それがシンには理解できない。したくもない。
ただ――何も分かってない癖に、ジブリールなんかに従うから!!――と、ブルーコスモスの言いなりになっている連合の兵たちへの怒りが心の中でさらに燃えさかるだけ。
そんな彼だからこそ、叫ぶのだ。
戦争への憤りと、戦争を起こす者たちへの怒りを込めて。
アロンダイトの切っ先を真っ直ぐ相手に向けて突き進みながら、自分には理解できない相手の行動への否定と非難の代弁者となる意思を持って全速力で加速させながら!!
――しかし。
「なんでこんな無駄なことを・・・っ!!
まだ戦争を続けたいのか!? アンタたちはぁ――――ッ!!!」
『はいッ☆ モチロン♪』
「な、なに・・・っ!?」
予想していなかった返答が、急速接近しながら叫んだ言葉に返されて、シンの意識は一瞬だけ戦いを忘れてしまうことになる。
空白となった意識のまま、機体だけは定められた通りの動きを続けながらも、スーパーコーディネイターのなり損ないは、それを隙と見なさず反撃の好機を見出せぬほど弱くない。
『ひはッ☆』
腰部の後ろにマウントしてあったビームランチャーを前に出し、大火力・超銃身の銃口が至近距離からデスティニーへ向けて発砲されるッ。
常のシンであれば当てられるはずもない、性能差のある相手から超銃身での攻撃。
だが、キョウヤを相手に意識の隙はあまりにも大きい。
瞬時の判断によって、避けようとして失敗するより消耗してでも防ぐことを選んだ彼は、ビームシールドを最大出力で広げて機体前面を覆い尽くさせ、かろうじて機体ダメージそのものは無傷で受け止めることに成功する。
お返しとばかりに撃ち返すため、背面のビーム砲を跳ね上げて相手を狙おうとするも、そのときには既に相手は距離をとって再び高速機動戦闘を再開する流れを作られてしまっており、主導権を奪われてしまった状態からの遅れを取り戻すことは出来そうにない。
そんなシンへと当て付けるかのように、誇示するように、相手パイロットは全方位チャンネルで通信を開くと、これ見よがしに愉悦混じりの口調で“演説”する声を響かせてくる。
『戦争とは常に、権力者たちによって引き起こされるものデス。そして私たち傭兵にとって戦争とは飯の種であり、金の成る木でもある。
私にとって、豊かで実りある生活を続けさせてくれる戦争には、是非とも長く続いて欲しいものデスからねェ~。
――まっ、もッとも。戦争がなくなったら無くなったで、今度は内乱が、反乱が起き、それを鎮圧するための粛正やら暗殺やらの副業である汚れ仕事が増えるだけデスでしょうけどネ。
平和な時代でも、存外に腕のいい傭兵というのは食いっぱぐれる心配のないものでして。どんな世の中だろうとも、権力者がいる限り、汚れ仕事がなくなることもなし。それはデュランダル議長が世界覇権を握った後でも特に変わることはないでショウ』
「なんだと貴様っ! 議長をバカにするのか!?」
『当たり前でしょう? 私にとっては、“敵国の独裁者”でしかない男なんですから』
ごくごく当たり前の話をするように、キョウヤは偏見と決めつけだけを根拠として平然とデュランダルを罵倒してみせ、その理由を「敵だからバカにする」という、あまりにも普通すぎて逆に否定することが難しい原始的すぎる理屈を持ち出し、シンは再び絶句させられることになる。
「そ、そんな子供じみた理屈で・・・! アンタ本当に分かってるのかよ!? ロゴスは自分たちが儲けるためだけに戦争を始めさせるような連中なんだぞ! そんな連中を守ってやるために、アンタは――ッ!」
『物覚えの悪いお子様ですネェ。私にとっては、どうでもいい話だと言ったでしょう?
――それにもともと戦争とは、得が出来るからこそ起き続ける行為のことなのデスよ。
考えても見なさい。世間で言われるように、戦争が本当に【誰にとっても損にしかなれない過ち】でしかないとしたら、デスよ?
そんな社会上の欠陥でしかないシステムが、存続できているはずが無いではないデスか』
「勝手な理屈を! それが、お前たちのために大勢の人達が死んでいい理由になると思ってるのか!?」
『それは仕方がありません。ブタは人間が食べるために飼ってあげている家畜です。間違ってもブタに人間が食べられるため餌をやっているワケではないのデスから。それが大袈裟に言えば宇宙の真理というモノなのですよ、ザフトの少年パイロットくん』
「ふざけるな貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
『いえいえ、本気デスよ? ヒャハハハハッ!!』
あまりにも正直すぎる、己の欲望のためだけに人を殺して平然としているキョウヤの悪性に、シンは思わず目眩すら覚えるほどの怒りに駆られ、強引にでも相手の懐に入り込んで怒りの一撃を叩き込もうと機体を加速させ続ける!!
その動きは鋭く、速く、相手が構えた超銃身ライフルは両断され、即座に捨て去って小爆発を起こした光球から飛び出すようにシンのデスティニーは、キョウヤが駆るカミナシに迫る!
だが、この敵は今まで戦ってきた如何なる敵とも異なっていた。
怒りが沸点を突破しかけた心とは真逆に、頭は冴え渡って全てを冷静に数値化して分析できるようになったかのような例の状態へと覚醒したシンの動きに、驚き戸惑うことなく冷静に対処法を変えてきて、尚も通信回線を開き続けて話し合いを続けてくる声には、緊張感はあっても焦りというモノが全く見出せない。
『ほほぉ!? 怒ったのですか!? 怒ったのですね! 人をブタ扱いして、自己の目的のため殺し続ける私の行いを聞かされて義憤に駆られ!
ですが、それはデュランダル議長も同じ事! そして、アナタもまた同様だ! 違いマスかッ!?』
「ふざけるな! 俺がお前なんかと同じであって堪るものか! 議長だって――!」
『いいえ同じデス! 私とアナタは同類デスとも!!
アナタは自分が望み求めている、【戦争のない世界】を手にするため軍人になった!
敵を殺して屍の山を築いた報酬として、アナタは平和な世界を力づくで奪おうと願って戦っているのデスよ!!
アナタは、その手に“自分が望む世界”を欲して敵を殺す野心家の一人でしかない!!』
「なっ!? ・・・・・・に、ぃ・・・!?」
その指摘に思わず、シンの身体は止まらぬまま表情が引きつり、心が一歩退かされる。
ヘブンズベース戦で出会った、『フェイ・ウォン』と名乗るパイロットの言葉が記憶の底から呼び起こされる。
――自分がデスティニーを与えてもらえるまでに、殺し続けてきた敵軍の兵士たちと、その家族。
デスティニーに殺されたステラの仲間だって、自分が平和な世界が欲しくて殺した者の一人であり、ユニウス・セブンを落としたテロリストたちだって自分と同じ家族を連合に殺された人達で・・・・・・そして、アスランさえも・・・ッ!
「う・・・、あ・・・・・・っ」
『おやァ? 動きが鈍りましたねェ。ひょっとして傷つけてしまいましたか? それは失礼をいたしました~。
・・・・・・ですが実のところ、アナタが傷つく必要は無いのですよ少年。だって、デュランダル議長はアナタ以上の人なのですから』
「え・・・? いったい、なに・・・を・・・・・・」
『何故なら、彼は―――』
会話を交わし合いながらも機体は留まることなく動き続け、顔の見えない声だけが聞こえてくる向こう側から静かな感情が伝わってくる。
そして、声を送り届けられてくる向こう側に座る男の顔が―――愉悦の形に歪んで嗤う。
『この戦争が起きて、最も得をして利益を得られた人物なのですからネェ~ッ☆
戦争で多くの人が死に続けた今の世界で、最も地位が上がった人間は誰でショウ!?
屋敷を暴徒に襲われ逃げ出した、ロゴスではない!
各国に離反され、大統領は月へ夜逃げした、大西洋連邦でもない!!
ザフト軍に攻め込まれている真っ最中だったオーブも損、大勢の民が戦場に連れ出されて戦死させられたプラントも大損!!
では誰か? この戦争で得をしている人物は一体だれ?
―――ギルバート・デュランダル議長しかいるはずないじゃありませんか~~~ッ♪♪
彼は自分が世界の頂点に君臨するとき、ライバルとなり得る者を一人残らず殺し尽くしたくて戦争を始めさせたのですヨ! 欲望のために! 得を得るための戦争を!!
だから彼の手下でしかないアナタが気にする必要なんてないのですよ! アハハハハ~~☆☆』
「~~~~~ッッ!!!! アンタっていう奴はァァァァァァァァッ!!!!」
挑発に乗って激発し、それでも冷静な判断力が損なわれることのない特殊能力によってキョウヤと互角以上の戦いを繰り広げ“続ける”シン・アスカの操るデスティニー・ガンダム。
それはキョウヤにとって、願ったり叶ったりの状況になった言って良かった。
彼の任務はあくまで『デストロイ核弾頭部隊』のお守りであり、シンのような強敵と命懸けで勝敗を競い合うことは今回の依頼内容に含まれていない。
無論、できるなら仕留めたいと思っているのが本心ではあったが、子供たちのお守りをしてやりながら片手間で相手取れるほどデスティニーという新型機もパイロットも易い相手ではなく、残念ながら決着は次の機会まで持ち越すしかなさそうだと早めに見切りを付けた結果としての対応だったのである。
『そうです! その怒りです! その悲しみです!
その悲しみを忘れることなく、怒りへと変えて兵士となったアナタのような少年こそが、次の戦争を起こすメギドの火となるのデス!
さぁ、開きましょう! 再び戦争を激化させた世界へと続く扉を!!
でないとアナタの大切な人達は無駄死になってしまいマスよ~? 私たちロゴスの身勝手でバカな欲望を満たすための生贄でしかないブタだったという事でネェ~あははは♪♪』
「黙れぇぇぇぇぇぇぇッ!!! お前だけは! コイツだけはぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
だからこその安っぽい挑発セリフを使い回し、自分を絶対に倒したい殺意に駆られさせての『覚醒』だった。
原理までは全く分かっていないものの、シン・アスカには戦闘中に突如として別人のように強い状態へと切り替わる奇妙な特殊能力を有していることが、今までの戦闘データから確実視されるように今日の連合軍ではなっていた。
このため、今まで戦ったシン・アスカの戦闘データを基にして、新司令官直々に指揮を執っての戦闘シミュレーション・プログラムの作成が急ピッチで行われており、キョウヤは今日まで過ごす間の時間を『シンのデスティニーを墜とすための戦闘シミュレーション』に没頭しながら日々を送ってきていたのである。
先程の彼がシンの激変に驚かなかったのも、それが原因によるものだった。
突然に激変されるよりは、想定内のパワーアップの方が遥かにマシだと計算した結果だったのである。
要するに、シン自身とレイが共同で『フリーダムを墜とすため』に行い続けていた作業と同じことを、連合もまたシンを倒すために行ってきたという、只それだけの事ではあったのだ。
現時点において、『ザフト軍で一番強い機体とパイロット』はシン・アスカと認識されているのだから、連合軍としてはシンを墜とすためにシンと同じ事をする者が現れたとしても不思議さなど何もない当たり前の流れではあった。
・・・・・・ただ、そんな『敵にとっての当たり前』を、「当たり前の対応でしかない」と思うことが出来ず、思いたくないという感情を現実だと信じてしまうようになっていたのが、今現在のシンが置かれていた心理状態でもあった。
だからこそ、こうしてキョウヤの策略に引っかかってしまい、遅滞戦闘へと自ら進んで飛び込んでしまっていく現状だったのだが・・・・・・しかし。
どうやら、予想外の事態というのは、どのような戦いでも起きうるものらしい。
それはシンにとってだけでなく、キョウヤにとってさえ予想していなかった、『守るべき背後』で発生してしまっていた、想定外のトラブルから生じる厄介な事態―――。
その前兆は、デスティニーを先行させ、自分たちも後から到着しつつあった母艦ミネルバの艦橋から始まりを見せつつあった出来事。
「アビー! デスティニーはまだ敵を突破できないでいるの!? レイは!?」
艦長席に座って額に冷や汗を浮かべながら、タリア・グラディスは焦りを押さえた口調で通信管制担当者の少女に質問を発し、
「確認しました! デスティニーは以前ヘブンズベースで確認された新型機と交戦中の模様っ。
レジェンドからは『フリーダムとアークエンジェルを警戒する必要性有り』との返信が繰り返されているだけです!」
「く・・・っ! こんな時に、おのれロゴスめッ!」
敵の悪辣さに歯ぎしりせんばかりの怒りを、タリアは艦長席の肘掛けに叩きつけて思案を巡らせ始める。
――先行させたデスティニーに追いつく寸前の距離まで到達したとは言え、あのシンを相手に互角の戦いを続ける敵に、ルナマリア1人を代わりとして当てるのは危険極まりない。
かと言ってレイの言い分も分からない訳ではない。
感情的には複雑ではあるものの、アークエンジェルとフリーダムの力は絶大だ。状況が予断を許さず、どう転ぶかさえ分かったものではない混沌とした様相を呈してきている現状において、無警戒で前へ進める自信はタリアにもないほどの強敵である大天使。
だが、そうなると現行で使える戦力が限られすぎてしまう。
インパルスでは、あの連合軍の巨大兵器を倒すことは出来るかもしれないが、核爆発から逃れられるかが至難の業にならざるを得ない。
斯くなる上は・・・・・・タリアは決断を下した表情を浮かべ、決然と顔を上げる。
「取り舵30、《タンホイザー》の射線軸をとるッ!
波しぶきをシールドにしながら敵機へと接近した後、射程内に入った瞬間に発射するッ。
目標“敵巨大MS部隊隊長機”ッ!!」
「は、はいッ! 《タンホイザー》、軸線合わせますっ」
アーサーが復唱して、ミネルバ最高火力を持つ陽電子砲の発射準備を進めはじめる。
・・・そんな彼には悪いかもしれないと思いながら、タリアにとってもコレは賭けだった。
確かにミネルバが有する《陽電子砲:QZX-1タンホイザー》の威力は絶大だ。
あの防御に特化した連合の巨大MAが護衛として追従してなければ、『ベルリンの悪魔』とて一撃で墜とすことが出来るか、最低でも足を止めることは可能なだけの超射程のビーム砲でもある。
・・・・・・ただ、もし防御されてしまった時には、あるいは無効化できる武装をもっていた場合には、あの機体の圧倒的火力がミネルバに向けられるのは避けられない。
今までの戦いでイヤというほど見せつけられてきた、巨体から発射される超射程・長高火力のビーム砲でなぎ払われてしまうかもしれぬ恐怖感・・・・・・それはタリアでさえ選ぶためには決断を必要とするほどの胆力が要る作戦だったが、選んだからには彼女に迷う気はなかった。
「タンホイザー発射完了と同時に、本艦は急速離脱を図るッ。
命中して倒せた結果としての核爆発だろうと、倒せなくて撃ってくる反撃だろうと、撃った直後に逃げ切れなければ相打ちになると覚悟しなさい! その心構えで準備急げ!」
「は、はいっ!? で、ですが艦長、向こうから先に撃ってくる可能性もあるのでは・・・」
いきなり告げられた生きるか死ぬかの攻撃命令に、小心者の副長は思わずビクッと背中を震わせたものの臆した訳ではなく、ただの条件反射のようなものであったらしく、返ってきた返答は具体的な脅威の可能性を示すものだったが、これにタリアは首を振る。
縦に、ではなく、横にである。
「その可能性も0ではないでしょう。けど、今までの戦闘データから割り出された敵の射程距離はミネルバほどには長くないわ。
仮に撃ってこられたとしても、そう簡単に当てられる距離じゃない。向こうもそれは知っているはずだし、よしんば撃ってきたとしても戦艦だろうと避けることは可能な距離よ。恐れず進みなさい、それが今は生き延びるための唯一の道よ」
「そ、そうですよねッ。敵だってバカじゃないんです、この距離で当てられるなんて思ってないでしょうし、撃ってきたところで我が艦の操艦能力を持ってすれば避けるぐらい訳ありません!」
「そうね。・・・・・・・・・そうだと良いのだけれど・・・」
最後の一言だけ小声で、副長には聞こえぬよう配慮してタリアは呟く。
今までの連合軍がとってきた行動の多くが、自分には理解しがたい愚かとしか思えぬものも多数含まれていた過去の事例を思いだした故での言葉だった。
現在の連合軍を率いるようになったと思しき新司令官は、たしかにバカではない。むしろ有能で統率力のある人物のようにタリアにも感じられる。――決して慈愛に満ちた敵将とは思えないのも確かだが、少なくとも判断力の乏しい無能ではない。
もし“彼”だったなら、その様な選択肢は選ばず、確実にミネルバへと打撃を与えてくる手を考え出して実行してくる可能性の方が高いだろうと予想されるが、一方で彼は『指揮官』であって『パイロット』ではない。
今の巨大MS部隊を率いている人物が、果たしてどのような人格と価値観で行動し、判断して自分たちが行く道を選んでくるのか・・・・・・タリアには、それが不安だったのである。
とは言え、不安ではあったが深刻な危機感や恐怖を抱いていたかと言えば、そういう訳ではなかったのも事実ではあった。
敵との距離がありすぎる時点なのは確かだったし、前回と前前回の戦いの中でパイロットの性格故なのかバカスカ攻撃を撃ちまくってくれたおかげで最大射程などを測定するデータには事欠かなくなっていたのが、ザフト軍内部にとっての連合軍巨大可変MA《X-1デストロイ》への認識だった。
正体不明の不安はあっても、現実的思考はGOサインを出している攻撃作戦を実行に移させるため、ミネルバは波を蹴立てながらデストロイへと向かって足を速めていき、タンホイザーの発射シークエンスを着々と完了させて行きつつある。
・・・・・・だが、このとき問題が起きていたのはミネルバの前面に立ちはだかるデストロイ部隊そのものではなく、むしろコクピットの中でこそ異常事態は発生しつつある状況にあったのだった。
「――あァん? 前方に反応・・・高出力エネルギーの高まりだァ?」
レーダーに突如として映し出された、遙か前方の海域に発生し始めたエネルギー反応を示す光点。
その小っこい点を見下ろしながら、スティング・オークレーは出撃前より落ちくぼんだ瞳にギラギラした光を灯らせながら睨み付け。
痩せ衰えた頬肉をピクピクと震わせながら、痙攣したような笑いを浮かべる。
「オモシレぇ・・・このオレと戦ろうってのかよ・・・。このオレからコイツを奪い取るために。
オレから最高のオモチャを奪うために、わざわざゲームの獲物になりに来やがったってコトなんだよなァ? あァ~ン?」
既に現在のスティングは、人間と呼びうる存在を辞めつつある状態へと陥りかけていた。
いや、ヘブンズベースの時には人間を“辞めさせられる事”は確定されてしまっていたのが彼という被害者が人間だったときの最後の記録だった。
『今日ここから攻める』と強気な発言を述べてはいたが、現実には各地を追われた生き残りだけがヘブンズベースまで逃げ延びてきた窮状に陥っていたのが当時のロード・ジブリールが置かれていた客観的な立ち位置だった。
ここで負ければ、少なくとも地上戦では後がない。
まだ戦力を残しているパナマ基地やビクトリア基地などに逃げ込むことは出来るだろうが、最大の拠点であるヘブンズベースで勝てなかった敵に拠点より劣る要塞の戦力なら勝てると信じれるほどにはジブリールは味方を信じれる性格の人物ではない。
残された道は、どうにか宇宙へと逃げ延びて『アレ』を確保する事だ。それ以外に自分が勝者となって生き残れる道は他になくなってしまうしかない・・・・・・。
そこまで追い詰められつつあったのが当時の彼である。後先など考えて手段など選んでいられる余裕は少しもなかったのだ。
少しでも勝率を上げるため、生き延びていた実戦経験済みのエクステンデッド最後の一人を限界まで強化させ、完全に人間を超えたレベルにまで数値を引き上げさせた状態で、『この戦いに勝利さえ出来ればいい』という方針のもと、文字通りの使い捨てになって構わないという最終調整がおこなわれてしまっていたスティングの身体は、もはや放っておいても長くない姿に変わり果ててしまっている。
「・・・渡さねぇ・・・これはオレのもんだ。この最高のオモチャは、オレだけのものなんだよ!
誰にも渡さねぇ! 最っ高に愉しいゲームを味わえる最ッ高のオモチャを、オレ以外の奴に渡して堪るかってんだよ! ひゃあははは!
ヒャーッハハハはははHAHAHAハハははHAァっッ!!!!」
その様な状態になってしまった今の彼を支えているのは、痛みも苦しみも感じられなくしてくれた薬物の効果と、自分に与えられた機体《デストロイ》への強すぎる愛情だけ。
敵にとって、向かってくる巨大なデストロイは倒すべき敵であり、敵が攻撃してくる存在が自分にとって何より大事だと感じる守るべき対象であったなら、効率よく矛盾もなく敵と戦い滅ぼし尽くすまで自主的に戦ってくれるようになる。
『自分が大切だと感じる存在を守るために』
もともと『自分が守ってやるべき二人』にそういう感情を持っていた彼にとって、矛盾なく誘導して調整するのに利用しやすかったという事情もある。
彼にとって、もはや自分が守るべき大切なデストロイを奪いに来る奴らや、自分がデストロイを使って愉しめる最高のゲームを終わらせに来るような奴らは全て滅ぼすべき敵であり、殺し尽くさなければ奪われてしまう略奪者の一匹でしかない。
絶対的なプロテクト以外の部分では、そういう風にしか感じないよう調整されていたのが現在の最終調整CPUスティングと呼ぶべき存在だったが―――やはり調整しすぎてしまったらしい。
「ひゃアHAァっ!★♪ こんっナ愉しいゲームを辞めさせられて堪っかヨ! コイツは最高だぜ!最高!サイコーッ!! 最っッ高!★!
サイっコウの戦争ゲームを楽しませてくれる最ッ高のオモチャをオレから奪うヤツは、みんな死ねェ★ ゴミみてェに潰れて虫ケラみてェに弾けて死ね死ねシネ死にまくっちまえよっ!!!
そして、悪魔は解き放たれ、最後の瞬間まで地獄の業火と化して踊り狂う。
すでに限界が近くなった肉体はコントロールを半ば無視して感情の赴くまま暴走し始め、その一方でエクステンデットとして限界値まで高められた能力は有したまま、機体とパイロットが完全に矛盾なく人機一体と化した歪すぎる完成形へと至らせた事により、スティングの能力は限界を超えてフル稼働し始めるっ。
「みんなみんなプチッと潰れて虫虫虫ムシっ!! プチプチプチプチぷちぷちぷちィィィィィィッ!!!
ひャっHAァァァァァァァァッっ!☆★♪ 最ッKOだぜコイツaaaaaaaaッッ♪♪♪」
そう。全ては道ずれを欲するために――ではなく。
最後の瞬間まで最高のゲームを楽しませてくれるゲーム相手を求めるために。
――――死ぬまでサイコーの戦争ゲームを愉しむためにッ!!!
只それだけのために、オーブ攻防戦最後にして最大の、想定外なジョーカーが今、爆走を開始する!!
つづく
*知ってる方も多いと思われますが、最後辺りでスティングがなってる状態は『スーパーロボット大戦OG』の敵キャラ「テンザン・ナカジマ」がモデルになってます。
割と、ああいう設定のキャラが好きな作者でして。
強く描きたかった願望あり♪
*念のための追加補足となりますが、今話の中でキョウヤとシンとの戦いは互角の競い合いにはなれていません。
精神面でシンを翻弄したり、不意打ちで機先を制したりしながらも、キョウヤの斬撃はシンに当たらず、シンの攻撃は掠るだけでも当てているなど、機体性能差を加味してもシンの方が微かでも確実に上回っているよう演出に気を使った次第。
完全な互角を期待していた方がいらした場合には、期待に添えず申し訳ございません(陳謝)