一つ一つの戦いが長過ぎて申し訳ございません。次のからは今少しだけでも簡略化できるよう努力します。
他の更新止まってる作品、特に【ISドライロッド】なども執筆急ぎますので、良ければお楽しみに。
オーブ周辺の海域において繰り広げられていた戦闘は、終局を迎えつつあった。
だが一方で、連合・ザフト・オーブ軍による戦いは、既に終結した後になっていたことも事実ではある。
ザフト軍の目的は、ロゴスがオーブ軍と合流して復活することを防ぐため、ロゴスの傀儡政権でしかない代表首長セイラン家の拘禁だった。――それはカガリの復権と政権奪還によって達成されている。
連合軍艦隊の目的は、本命はどうあれ同盟相手であるオーブ・セイラン政権を支援するための援軍だった。――これはセイラン家の失脚によって失敗し、ユウナ・ロマ・セイランを救出したことで得られるものは確保できた。
オーブ軍に至っては、もともと自分たちが求める目的達成のため起こした戦いだった訳ではない。しいて言えば亡国を回避し、祖国の存続をプラント側に許されることが彼らに望める最大限の戦略目標だったと言える。――これも再びカガリが政権を取り戻したことで達成できる条件は整いつつある。
それぞれが違う目標達成のための手段として、同じ一つの国を巡って戦闘を繰り広げるというのも考えてみれば奇妙なことだったかもしれないが、それでも尚すべての勢力の思惑と戦闘目的は成し遂げられ、今となっては戦い続けるべき理由は三勢力のどれにも残されていない。
にも関わらず彼らの戦いが最終局面に至っただけで、未だに終わることが出来ていないのは、北方海域からオーブに向かって直進してきている三機の《X-1デストロイ》小隊の存在と、その部隊全機がオーバーロード寸前の暴走状態にあることが、原因の全てだったと言っていい。
言い換えれば、オーブ軍とザフト艦隊の両軍は、『戦い終わった連合の遺産』を処理するため、置き土産にされた危険物処置のためだけの作業を押しつけられていたようなものだったのだ。
彼らとしては迷惑極まりない限りだったに違いない。
その構図は、勝利のため後先考えず《核兵器》を多用したがる地球連合軍という存在を象徴しているものでもあった。
だが、そうであるが故に《X-1デストロイ》という【核兵器】を、都市部に入る前に撃破して止めようとする者達は真剣だった。
北方から近づきつつある悪魔たちを阻止するため、二方向から彼らに向かって急速接近してくる赤と青の機体に、それを追撃する灰色と無機質な色のMS達。
オーブ北方の海での激突は、既に始まる寸前だった―――。
「くそッ! アイツら、まだあんなもんを・・・ッ!!」
『チィッ! コイツ――いい加減に落ちなさイッ!!』
ザフト軍艦隊から発して、デストロイ小隊に向かって直進してくるのは、ザフト軍の新型MS《デスティニー》を操る赤服パイロットの、シン・アスカ。
その彼を全速力で追撃してくる連合軍の新型《カミナシ》を駆る、雇われ傭兵にしてスーパーコーディネイターのなり損ない、キョウヤ・ヒグチ。
「く・・・ッ! また連合にオーブを討たせる訳には・・・!!」
『お前を行かせる訳にはいかない、アスラン! 今度こそケリをつけさせてもらうッ!!』
突如オーブ島より現れたアークエンジェルからデストロイ小隊へと突き進む、クライン派の後継機《インフィニット・ジャスティス》と、それを追撃するザフト軍のMS《レジェンド》そのパイロットはレイ・ザ・バレル。
地球連合軍がオーブを滅ぼすため引き起こされた戦闘の中で、オーブを存続させるため2機のザフト製の核エンジン搭載MSが、同じ一つの単一目標を目指して直進し、その背後からオーブの存続阻止を望む者たち配下の兵が追撃をかけるという構図は、先の大戦におけるオーブ海戦における配置図を皮肉な形で組み直したものになってしまっていたことに彼らは誰も気付いていない。
だが、先の大戦での戦いとは配役が違うだけとは言え、その程度の違いであろうと違いは違い。同じ様なものであっても、決して同じものではない。その小さな違いから生じる大きな条件変更は、確実に物理的な影響を及ぼすことになる。
『ひゃーッハハHHaッ♪♪ 来やがったな強いヤツ★ 行ッくぜぇぇぇEEEEッッ!!!』
『何も持たない難民でしかない死に損ない風情が、この私の邪魔をしてはイケナイ!
死になさい! ブラックジョーカー・ボ~イッッ♪♪」
「ちぃっ! コイツら・・・またっ!!」
共にオーブを滅ぼす側に立つ味方同士として、正面から接近してくるデストロイとキョウヤは、巧みに連携しながら距離の近いデスティニーへと攻撃を集中させてくる。
単独で相手取るなら、回避しながら接近し続ける荒技をやってのける技量がシンにはあるが、優先事項がある状況下で同時にではない攻撃を完全に回避するのは容易ではない。
デストロイの巨砲から放たれたビーム砲撃を回避した直後に、狙い澄ました背後からの一撃がシンを襲う。
特に、バーニアばかりを狙い続けるキョウヤの攻撃は、イヤらしいの一言に尽きていた。
分身能力を発揮するほどの高機動力こそが、デスティニー最大の持ち味であることを見抜いた故での攻撃である。一撃受けただけで動きが止まるまではいかずとも、速度が落ちただけでも大きく長所を削がれてしまう。
それを分かった上で、敢えて一撃必殺を狙わずチマチマと嫌がらせじみた攻撃に徹してくる性悪さこそがキョウヤの特徴だった。
優れた敵でありながら、敬意ではなく憎しみのみを向けられる対象になりやすい理由は、そこにある。
攻撃回避に手間と意識を持って行かれるシンは、思うほどにデストロイとの距離を縮めることが出来ないでいる。
『あなたは絶対にオーブを討たせないため、アレを狙うことを優先する!
だが、それは弱さだッ。それでは何も守れはしない! 自分自身の命さえも! だから、ここで終わらせる・・・ッ!』
「レイか!? レイだったら辞めろ! こんな戦闘、なんの意味があると言うんだッ!?」
アスランのジャスティスもまた、背後からの追撃によって直進を阻まれ続けていた。
敵の意図を読んで、的確にそれを阻害する攻撃を効率よく放ってくるレジェンドからの攻撃にアスランは手を焼く。
反撃はしているが、相手が読んだとおりジャスティスの攻撃は意図的にコクピットを外したものばかりで最初から致命傷とはならないことがレイには分かっている。
たとえ卑怯と誹られようとも、目的達成のためやらねばならぬ行為であれば躊躇わずやる。それが強さであり覚悟だと、“彼は”“教えてくれた”のだ。
ならそれを成すのが自分の役目、自分の義務、自分が果たすべく与えられた役割だ。それを果たすために生を受けたのが自分である以上、それは絶対に成し遂げねばならない。
そうじゃないと―――自分の【死】が、何の意味もない無駄死になってしまうから・・・・・・ッ!!
『もう人は本当に変わらなければならないんだ! 生まれ変わる、この世界のためにもっ!
その為に戦うのが俺の運命! その為に俺の命はあったなら――死の恐怖や苦しみも価値があった!!!』
「レイッ! いい加減に辞めるんだ! こんな事は、もう・・・ッ!!」
『たかが一軍人の分際で私の行動を妨げることは許されなイ! このキョウヤ・ヒグチが全ての金を得て渇きを癒やすための行動ヲぉぉ~~~~ッッ!!!』
「クソゥッ! 何なんだよコイツはぁ! アンタはいったい何なんだーっ!!」
擦れ違うことすら出来ず、ただただ一方的に放ち合うだけの思いと想い。欲望と激情。渇望と切望。
それのみを持って戦略的意味を失った戦場で、敵を倒すためだけにビームを放って敵を追う者と、追われる者。
それは数年前にも同じ場所で起きていたことではあったが、その時に追う者だった連合軍機のパイロットたちには『モルゲンレーテの工場を狙ってはいけない』『マスドライバーを壊してはいけない』という枷が、お仕置きという命令違反への罰則によって強制されていた縛りがあった。
だが今の追撃者達には、それが無い。
それが過去と現在の敵味方で、最も大きな小さな違いの部分。
敵を撃ち落とすため、外れるリスクを躊躇う理由を持たない者達の攻撃は苛烈を極め、さしものエースたちの進撃をも遅れさせる威力を有していた。
だが、それでも彼らの足を完全に止めるまでには至らない。
《カミナシ》は所詮、衰退した連合軍が開発した新型特機でしかなく、《レジェンド》は空間戦闘でこそ本領を発揮するドラグーン装備の機体であり、《デスティニー》と《インフィニット・ジャスティス》は汎用型の超高性能MS。
機体性能においてもパイロットの技量でも、互いは互いの追跡者たちより一日の長で優っていた!!
「届いたッ! ゴールだっ! これ以上はやらせるもんかァァァッ!!!」
『ハッ♪ 来たキタKITA来やがったァ!! 邪魔すんじゃネェよ!
ウオラァァァァァッaaaaaッッ!!!!』
キョウヤの追撃を振り切ることが出来ぬまま、それでもシンは遂にデストロイ小隊を射程距離に収める位置まで接近することに成功する。
察知したスティングは、MA形態のデストロイ上部に設置された巨砲《高プラズマ複合砲ネフェルテム503》の斜角をわずかに調整することで、急速接近してくるデスティニーへと狙いを定めて発砲する。
この距離にまで接近することが出来た時点で、デストロイの攻撃精度は大幅に低下していた。
火力・防御力ともに抜きん出た性能を誇るデストロイだが、その性質は拠点攻撃・対艦兵器としてこそ高い適性を有している。巨体故に低くなる機動力は、対MS戦闘に向いているとは到底言えない。
敵との距離がある間は強力だが、一度でも間合いに入られてしまうと従来の量産型MSの攻撃さえ防ぎきるのは難しくなるのが、この超弩級MSが構造的に有する欠点だった。
だからこそキョウヤは火力支援を活かした戦い方で、シンの接近を阻害し続けるのに徹してきたのである。
その距離の防壁は遂に、シンによって突破された。もはやデスティニーとデストロイとの間を遮るものはなにもない。この程度の距離など彼らにとっては無きに等しい。
――だが、その欠点はデストロイが近づくことさえ出来れば、量産型MSでも勝てる相手だということにはなれない。
デストロイの有する、分厚くて頑丈な巨体と《トランス・フェイズ装甲》
その巨大さとエネルギー供給を支える為の《Nジャマー・キャンセラー》と核エンジン。
これらの組み合わせが、デストロイへの通常攻撃をほとんど無力化し、たとえ接近できた者でも量産型MS程度が有する小型火器の火力では有効なダメージを与えることはほぼ不可能。
たとえ距離の防壁を踏破できても尚、デストロイは特別な機体のみが持つ、特殊装備が無いと倒すことが極めて難しい難敵であることに変わりは無い。
その巨大なる魔王を倒すことができる聖剣が、シンのデスティニーにはある。
“デュランダルによって”選ばれた勇者にだけ与えられる、魔王を倒すことを目的として造られたようにすら見える巨大すぎる長刀を、シンは議長から託され与えられているのだから。
その聖剣《MMI-714アロンダイト対艦刀》を、デストロイからの迎撃を受けたシンは―――使わない。
「チィっ! こんなものぉ―――ッ!!!」
超高速で真っ正面から迫り来る、巨大すぎるビームの束をシンは紙一重で回避し切って機体をひねり、敵の攻撃を躱しつつ空中を錐もみ状に飛行しながら接近していく道を選択する。
アロンダイトの切っ先を前方に突き出して、敵のビームを弾きながら前進していく突撃方法は、デストロイからのビームは防げても足は鈍り、背後がガラ空きになってしまう。
後ろからキョウヤに追われながら攻撃する立ち位置で仕える手段ではない。一時的でもキョウヤを退場させない限り、デストロイ撃破に有効な手出しは打ちづらい。
そう考え、ビームを発射した敵巨体機の下方へと機体を寄せさせ、更には左側面へと回り込み、防御手段も火器もない方向から一気に下から斬り上げて倒す位置まで一瞬のうちに移動させる。
デスティニーが持つ、粒子を撒き散らしながらの分身機動だからこそ可能な神業をシンはやってのけたが―――腕だけなら、この男とて負けてはいない。心理戦での読み合いならば部分的に優ってすらいる程に。
『ふふふッ! 分かっていましたよ、アナタならそう来ることは予測済みデス! アナタのデータは既に揃っている! アナタが次になるにをしようとも、今の私には遅すぎるッ!』
再びシンの行動を先読みすることで、機動力の劣る《カミナシ》で、シンの機動をショートカットで先回りした位置につける。
だが、シンとて若いながらも超一流のパイロットだ。敵の動きをデータから分析する技術も出来ない訳ではない。今までの戦闘でキョウヤの癖を理解したのはシンも同じ条件を有している。
――グリンッ!!
背後へと《カミナシ》に回り込まれた瞬間、ディスティニーは空中で緊急停止して、機体を後ろを振り返らせる。
そして、ガキン!と金属音を響かせながら背面にマウントしていた《M2000GX高エネルギー長射程砲》を左手に構えて前方に突き出させ、右手には《MA-BAR73/S高エネルギービームライフル》を向けて、キョウヤのカミナシを狙い澄まして射線を合わせる!
『なん・・・だとッ!? グワッ!!』
そして発射されたビームは狙い違わず、キョウヤの乗るカミナシの『足下の海面』を直撃して、水飛沫を周囲に飛び散らせる。
この一撃で倒せるものなら倒したい思いがシンには当然あったが、それを許すほどキョウヤが甘い相手ではないことも理解してもいる。
何より今はデストロイを落とすことが最優先事項だった。その為に邪魔者でしかないキョウヤの目を一時的に潰せるなら、それで充分。
目視とレーダーの二つを同時に潰した直後にシンは現在地を移動して、再び狙いを定めさせる。
ビームライフルと長射程砲で狙うのは、デストロイの砲口。正確には、デストロイが自分を攻撃するためビームを放ってくる瞬間の砲口だ。
頑丈すぎる機体表面とトランスフェイズ装甲によって、ビーム射撃武装での攻撃は効きづらいデストロイだが、たった一つだけ例外がある。
自分自身がビームを放つ寸前の砲口にビーム攻撃を受ければ、内部機構に引火して内側から崩壊するという流れを生む切っ掛けにすることが出来るのである。
既にデストロイは臨界寸前に達しており、いつ爆発するか知れたものではない状況に陥って久しい。この状態では超高速での分身機動を持つデスティニーと言えど、アロンダイトの接近攻撃で倒すのはリスクが高い。
だが、距離を置いてのビーム射撃で一機だけでも倒せたなら、残り2機も核爆発に巻き込まれて消滅する結果に繋がってくれる。
今までは、遙か前方から三機編隊での火力支援という形での脅威だった編隊飛行だが、接近して倒す段になれば事情が変わり条件も変化する。
編隊飛行をするため、ある程度の距離を保って近づいてきているデストロイ小隊は、今ではスティング以外の二機も似たような状態に陥っている。一機が倒され核爆発が起きてしまえば、巻き込まれて連鎖的に倒されることしか出来なくなっているのが彼らの置かれた状況だったのである。
「ステラ・・・ごめん。――だけどッ!!」
こちらに向けられた砲口の中心部に光が凝縮されていく光景を視認した瞬間。
シンの脳裏に、自分が救おうとして救えなかった少女の姿が映り込む。
―――かつて彼女と出会った、あの砂浜。
あの時、夜の海辺まで迎えに来てくれた2人の少年達。
―――もしかしたら彼らはステラの仲間で、同僚だったのかも知れない。
あのとき出会ったどちらかの少年が、ステラを心配して迎えに来てくれていた2人のどちらかが・・・・・・この機体に乗せられているのかもしれない。
ブルーコスモスに浚われて改造されたステラと同類の、戦いたくなくても戦うしか生きることを許されなくなった哀れな被害者でしかないのかも知れない。
「クッ!――けどッ! 俺はもう、迷わないッ!!」
そう叫ぶと同時にシンは引き金を引いて、迷いと後悔を振り払う。
だってステラは死んでしまったのだから。戦争なんか嫌いな、戦いたくなんてない心の優しい女の子の彼女を死なせてまで、こんな戦争は続いてしまったままなんだから。
これで戦争が終わって平和にならなかったら、ステラの死は無駄になってしまう。
彼女だけじゃない。“あの人”だって自分は殺した。戦争を終わらせて平和な世界にするために自分は、彼を殺したんだ。メイリンと一緒にアスランをッ!
ここで自分が辞めてしまったら、彼女たちは一体なんのために死んだことになる?
何のために自分は、彼らを殺したことになってしまうのか?
これだけの犠牲を払ったのだ、平和な世界を築くために。
これほど多くの犠牲を払わせてでも、議長が目指す誰もが平等で平和に暮らせる社会を欲しいと願って戦ってきたのだ。
なら、せめてそれだけでも実現しなければいけない義務が自分にはある。
死んでしまった彼女たちを無駄死ににしないためにも、絶対に―――だからこそ自分はもう、躊躇わない! そう誓った!!
そんなシンの祈りが籠もったビームの閃光は、狙い違わず発射寸前にあったデストロイの砲口へと飛来していって、そして―――
スティング・オークレーの、調整しすぎて過敏になるまで至っていた感覚は、正確に目前の機体が放ってきたビームの矛先が、自機の砲口へと吸い込まれるように近づいてきていることを認識することが可能になっていた。
その結果も含めて、彼の研ぎ澄まされた感覚は予測できた。理解していた。――このままだと、自分は死ぬということに。
だが既に遅い。鈍重なデストロイの機動では、今からだとどうすることも出来はしない。
自分は死に、機体は倒され、この最高のオモチャは炎に包まれて自分の手の中から消えていってしまうしかない・・・・・・
「・・・俺の・・・・・・オレの・・・モノ・・・・・・」
何も出来ず、何をしても無駄になり、死を待つだけになった彼は呆然と呟いていた。
あるいは、呟いたと思っただけかも知れない。
思考が一瞬にして駆け巡り、死を目の前にした最後の瞬間を、彼の内部に無数の混乱として植え付けさせる。
かつてあった記憶すらも曖昧で、心の中には空白しかなくなって、可愛いバケモノへの執着だけが新たに強く深く与えられただけになっていたスティングの心理。
ブルーコスモス特務部隊の兵士でありながら、今の彼にはコーディネイターへの憎しみはなく、同胞たるナチュラルへの愛着も服従心も、敵に対する種族的優越感すら『余計なモノ』として切り捨てられて、ただただ目前の敵を倒して、目先の危機を回避することだけに特化させて調整された今の彼の心には、本当に他には何もなくなっていたのである。
何も、ナニも。
自分の中では、コーディネイターもナチュラルも無くなって、ただデストロイへの愛着だけを胸に抱きしめながら、『コレだけ守れればそれでいい』と、穿たれた心の空白だけを友として。
そんな彼の心は強く願い、想う。――イヤだ!と。
コレは、誰にも渡さない! もう誰にも決して渡さない! 奪わせない!!――と。
自分にはもう、コレしか無いのだから!――と。
他にはナニも、自分にはもう残っていないのだから――コレだけは絶対に、二度と奪わせはしない!
絶対に―――守り通してみせる!!――そう強く想ったのだ。願ったのだ。
コーディネイターやナチュラルといった種族の違いを超えて、ただ純粋に『守りたい』とだけ想い願った気持ち。
その瞬間―――スティングは頭の中で、ナニカが弾けるイメージを幻視する。
――ドォォッン!!
と、連続的に発生させた爆発に包まれる音を聞きながら、自機を急速離脱させるためタイミングを計っていたシンは、モニターに映し出されるデストロイの巨体を信じられない思いで見つめている。
そして呟く。叫ぶように。
「外れた!? なんで・・・っ!!」
自分が放った一撃が命中したと思った瞬間、ほんの僅かに敵機が高度を落としたことを、コンピューターでは分からぬ誤差のレベルでシンの優れた五感は察知していた。
それによってギリギリの所で、攻撃が当たるポイントを微かに上へとズラされてしまったのだ。ダメージは与えたが、狙っていた誘爆を引き起こすことが出来なかった以上、デストロイの巨体相手には然程の意味ある打撃にはなり得ない。
シンの初撃は失敗したのである。
いや、初撃だけではない。
続く2撃目、3撃目でも、デストロイたちの先頭に立って率いる1号機に対しての攻撃はダメージを与えただけで爆発させて撃破に至ることが出来ず仕舞い。
「クソッ! なんなんだよコイツ!? 急に動きが・・・っ」
敵機の機動が急激に良くなった謎の現象を前にして、シンは不審と苛立ちに耐えきれず声を荒げる。
その現象は自分自身にも起き続けてきたことであったし、彼が怨敵と見なしていた《フリーダム》と戦った際にも幾度か経験がある出来事。
だが、自分が意識している宿敵や自分自身にはあり得ることでも、連合軍のエクステンデッドに『自分たちと同じ現象』が起きるとは、人はあまり考えたがらないものでもある。
――あんな酷いことをする、連合みたいに身勝手でバカな連中に、自分たちと同じようなことが起こせる力なんてある訳がない!!
シンとしては、そう思う。
彼は知能は高かったが、感性や価値観には多分に幼児性の部分を残している少年で、『勧善懲悪』などの単純明快なものを好んで、複雑なものを嫌うところがあって、【ヒドいことをする悪】が【正義と同じように強くなる】という状況を受け入れることを、精神の面で拒んでしまう悪弊があったのだ。
「チィッ! ビームが効かないんだったら、コイツで!!」
その悪弊によってシンは、射撃武装で距離を置いて倒すという道を捨て、アロンダイトを構えて接近戦でトドメを刺すという積極策を選択することになる。
リスクは上がるが、確実に敵を仕留められるという点では、これ以上のものがデスティニーには無いのも事実。
直後の爆発に巻き込まれる危険はあるが、デストロイの機動力とわずかな角度の調整だけで、アロンダイトの正面突撃を回避しきることは絶対に不可能。
これで止めを刺し―――この戦闘を終わらせる。
今度こそ自分は、連合軍の砲火から故郷のオーブを・・・・・・マユたちが眠る地を守ってみせる!!
「もう二度と、お前らなんかの為に、マユやステラを死なせるもんかァァッ!!」
叫んで機体を突貫させるシン!
その超スピードは、巨体故に鈍重なデストロイに対応できる限界を超えており、小隊全機の3機揃って周囲にビームを撒き散らしながら迎撃しようとはするものの、その程度の雑な攻撃でシンの突撃を阻めるほど易いものでは決してない。
瞬時の内に距離を詰め、三機の中で均等の位置にある真ん中の機体を正面モニターにドアップで映り込むまで接近することにも成功し、刃の切っ先が敵の装甲を食い込むまで、ほんの僅かな時間と距離しか残っていない―――その瞬間。
ザパァァーン!!
水飛沫を上げながら、シンの行く手に立ち塞がるデストロイの前に、連合軍の特機が姿を浮上させたのは!!
シンの一撃によって不意を突かれ、一時動きを止められていたのを逆用し、海中でタイミングと出るべきポイントを見計らっていたキョウヤの《カミナシ》という異なる脅威の存在を、勧善懲悪の単純思考に意識を持って行かれてしまっていたシンは不覚にも失念してしまっていた自分に気付くが―――もう手遅れだ。
『ざぁんねんデシたッ♪ 終わりデス★』
「ッ!! しまっ・・・!?」
予測していなかった敵機の再登場に、シンは先程から復活してこようとしなかった相手の狙いを思い知らされ、後悔と共に慌てて分身機動による超回避を試みようとするが―――無理だ。タイミングと位置が悪すぎる。
既にキョウヤの機体が装備した接近戦用の不意打ち射撃武装からは、ビームが発射される寸前にあり、一撃で落とされることはなくても部位の幾つかは損失することは避けられない大ダメージは確実。
こんなところで・・・・・・一体どうすればいいッ!?
スティングと同じく、シンの頭の中でもナニカが弾けるイメージが現れてはいたものの、デストロイとて同様の状態にあるのだ。
キョウヤを支援するため動いたことで、シンの動きは牽制されてしまい、今からではノーダメージで済ませる手段などどこにも・・・・・・その時だった。
『シィィィィィィィィッン!!!!』
『なに!? コイツ―――ぐわっ!!』
「っ!? その声・・・・・・アスラン!?」
突如として猛スピードで横から突っ込んできた真紅のMSが、カミナシに全速力での体当たりを食らわせてシンの機体から敵を遠ざける!
それはレイの追撃を受けながらも回避し続け、ようやく戦場に辿り着くことが出来たアスランが、シンの窮地を視認した瞬間に思わず反射的に体が動いてしまった結果であった。
シンが不意を突かれるほどの敵に、生中な攻撃では阻止できないと瞬時に考えたアスランは、スロットルを全開にして形振り構わず、後先考えない体当たり攻撃を断行。見事キョウヤによるシンのデスティニー大破を阻止することに成功する。
だがこの体当たりは、される者より、する者の方が遙かにダメージと損害が大きいリスクリターンに見合ったものとは到底言えない一撃だったのも事実である。
『ぐぅぅっ!! コイツ、余計な邪魔ヲぉぉ・・・!!』
『ぐっ!? うぁ、あぁぁぁぁぁぁ・・・ッッ!!』
体当たりの衝撃で揺れ動かされる機体のコクピット内で、両者の悲鳴が木霊していた。
片方は肉体的苦痛よりも精神的苦痛で遙かにイラ立ち、傷つけられたプライドの痛みに怨嗟の声を上げ。
片方は、純粋に肉体が上げる痛みの悲鳴で脳まで埋め尽くされ、他のことを考えている余裕はない。
ただでさえシンとの戦闘で受けた負傷は治りきっていない体で、無理を押しての出撃だったのだ。そこに更なる無茶をプラスすれば傷口が開いて、多量の出血が再び始まるのは自明の結末でしかない。
そして、そこに遅れて到着してきたジャスティスを追うレジェンドと―――《タンホイザー》の射程にデストロイ小隊を収めたミネルバが、距離を置いて同時に同じ戦場へと到達する。
「タンホイザー起動! 照準、敵MS隊の先頭機! 撃てぇーッ!!!」
タリアの指令と発砲音が、ミネルバ搭乗員達の鼓膜と心を覆い尽くした瞬間だった。
真っ直ぐに自分たちの部隊へ向かって飛来してくる、他のMSたちとは比べものにならないビームの束。
それを視認しながらスティングは、この期に及んで尚も機体を奪わせないことを最後まで諦めることなくコントロールスティックを操作。
鈍重なデストロイの機体で、超高速で迫る巨大すぎる艦砲ビームの回避などできる訳もない荒技を――――遂に、彼はやってのける!!
「っ!? 180度回頭、全速離脱ッ!!」
『ヒャはぁッ♪ より取り見取りってヤツだなオイッ! 綺麗なモンを見せてくれよ! キレイなんだからよォォッ★★』
そして、敵艦からのビーム砲撃を完全回避するのに成功したスティングは、勢いのまま機首の向きをミネルバがいる方角へと向け直し、一番大きくて当てやすい獲物を目掛けて背中の巨砲で狙いを定めると、そして―――!!!
『オレの勝ちだぁぁぁぁaaaaaaァァァァァッ!!!!♥★♪★♪♥!!!!』
・・・・・・彼の機体の斜め後ろにいた、《X-1デストロイ》三番機にタンホイザーが命中。
臨界寸前だった核エンジンへと誘爆。―――一瞬にして光に包まれ、スティングの一号機も巻き込んで蒸発し、光と共に消滅していった。
ナニカが弾けて覚醒したスティング・オークレーほどの精神を、他の二機に乗る最終調整されたエクステンデッドたちは持ち合わせることが出来なかった故での結果だった。
その爆発を遠目に視認したオペレーターから報告受けた連合軍司令セレニアは、全艦およびジブラルタル基地を攻撃させた分艦隊に向けて全速力での撤退を命令。
また爆風に紛れる形で、オーブ島から飛び立ったウナト・エマ・セイランを乗せた機も、オーブ軍のムラサメ隊による追撃をからくも振り切って脱出に成功。
オーブにとっては災厄でしかない、長く苦しい戦いであったが・・・・・・それでも戦いはようやく終わりを迎えることが出来るのだった。
―――だが、しかし。
今回の戦いは本命は、ここから始まりを迎えることになる。
彼らは知る由もなかったが・・・・・・戦いが始まる前にセレニアが語った一言。
『派手なだけで、ついでの作戦』
という言葉の意味を、彼らは戦い終わった直後に、ようやく知ることになる。
―――月基地との合流に成功したロード・ジブリールが艦隊を発進させ、ザフト軍宇宙艦隊に背後から襲いかかったという凶報によって。
地球軍が制宙権をザフト軍から奪い返すのは時間の問題だろうという凶報と共に。
オーブへの援軍とデストロイ部隊という、『陽動』によって密かにジブリールだけを宇宙に上げて宇宙軍を動かさせるセレニアの計略の成功により、戦いの舞台は再び宇宙へと戻ることになる。
オーブを巡る戦いは終結した後も、地球圏とプラントとの戦いは未だ終わる影さえ見出すことが出来ていない・・・・・・
続く
*今話で明かされたセレニア策の解説(念のために)
ローエングリン砲の時に言ってた通り、現在の戦闘で敵地上軍を制圧するにはグングニールなどで大気圏外から降下部隊を下すのが一番手っ取り早いのがSEEDの戦争。
それをしなかったのは、『侵略』に該当する行為だったからで、ヘブンズベースでやった後の今では陸の領土を幾ら取り戻しても意味がない。セレニアが領土奪還に動かなかった理由の一つがそれ。
どのみちザフト軍に勝つためには宇宙に上がる必要があるため、制宙権を取り戻す必要があり、デスティニー時の戦闘は主に地上戦が舞台で、ザフト宇宙軍は序盤にちょっと戦っただけでセレニアの存在も詳しくは知らない。
ジブリールの存在は、敵軍内にいるか否かの情報だけで敵を惑わす効果がある反面、敵側の作戦指揮に彼の不在が影響することは少なく、軍の動きからジブリールの存在の有無は分かりにくい。
反面、セレニア独裁体制を敷いたことで連合軍の戦術レベルでの判断は、彼女の不在が影響しやすくなっている。
またセレニアは元々、ジブリールから指揮権を与えられただけの新参な小娘でしかないため、実績のない宇宙軍相手には命令違反する恐れがあり、MAパルティアンショットなどの作戦案を伝えるだけならジブリールだけでも問題はない。
これらの事情から、自分を囮にしてジブリールを密かに宇宙に上げて、議長のいないザフト宇宙軍を背後から突かせた方が良いと判断したのがセレニアです。
多数派勢力とは呼べないザフト軍は、ロゴス退治のため講和路線を捨てて地上全体に戦線を拡大しすぎてしまっており、ヘブンズベース戦で大量の人員を失った直後でもあることから宇宙軍は数が足りておらず、指導者も不在の状況。
イザーク達など一部の艦隊は勝っていますけど、他が敗れたら彼らも退くしかない。
地上と宇宙で分断された状態を逆用しての包囲戦を展開するのに利用したかった。
それがセレニアの、オーブ戦を目くらましに用いた作戦だった次第です。