機動戦士ガンダム 死のデスティニー   作:ひきがやもとまち

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久しぶりに更新です。遅れまくって申し訳ない…。
しかも出だしにつまづきまくって、正直いまだに納得できていないのですけど、時間あき過ぎちゃったのが気になるようになり、取りあえずは…と。
このため、後で書き足すこともあるかもしれません。その時はご容赦ください(陳謝)


PHASE-24

 ロード・ジブリールが宇宙への逃亡に成功!

 地球連合宇宙軍と合流した彼は、軌道上のザフト軍艦隊と戦闘を開始!

 その二つの凶報は、全ザフト軍兵士だけでなく地球の一般市民をも含めた、多くの者たちを驚愕させた。それはプラント評議会議長ギルバート・デュランダルでさえ例外ではない。

 

「私は過ぎてしまったことを問題視する程、狭量な人間にはなるまいと思っている。今回の件が君の責任によるものではないことも承知しているつもりだ。

 戦争なのだからね、敵も必死だ。そうそう私の思っている通りにはいかないのが現実だと、分かってもいる」

『は、はぁ・・・』

「だが事が事だ。事態すらよく分からんままでは対策の立てようがない。

 そのでの指揮を執っていた、君の口から状況を説明してくれ。ジブリールはどうして宇宙へ?」

『は、はい・・・それが、そのぉ・・・・・・』

 

 しどろもどろになりながら、顔中に汗を拭きだして蒼白になっている小太りの男が画面の向こう側で恐縮していた。

 チラリと頭を上げて、コチラの様子を伺ってくる。

 目つきと表情は鋭いが口元に優しげな笑みを浮かべているデュランダルは別として、彼の背後から睨むように見つめてくる黒服のザフト軍高官たちは嘘や言い逃れを許容する余裕があるようには見えない。正直に状況を説明して理解を求めるより他にない。

 

 彼は、ジブリールを宇宙へと逃亡させてしまった責任者だった。

 だが一方で、ジブリールが連合軍宇宙艦隊と密かに合流した可能性があるとザフト軍に急報をもたらしたのも、彼自身からの密告でもあった。

 

 彼が言うには、自分たちは知らぬまま、気づかぬ内にジブリールを宇宙へと上げてしまい、気づいたのは手遅れになった後だったというのである。

 

 

「では、ジブリールはそのシャトルに乗っていた可能性が高いと?」

『は、はい。確証とまではいきませんが、私はそうではないかと考えておりまして、その・・・・・・。

 む、無論のこと私どもは、デュランダル議長が公開されたロゴス構成員に利用される危険を避けるため警戒を強めておりましたッ。

 決して賄賂による買収や、武力による脅しに屈して逃亡に協力したわけではないのです! 我々は知らずに利用されただけなのです! そこはどうか、ご理解くださいッ!!』

「――ああ、君たちが彼らと共犯関係だった訳ではないことは理解しているよ。安心していい」

 

 片手を振って、相手に話の先を促すようジェスチャーするデュランダル。

 彼が面倒そうに相手をしている画面向こう側の人物は、ザフト軍の幹部ではなく、連合から寝返った元地球軍の軍人でもない。

 

 スーツを纏った商社マン風のナチュラルである。

 民間が経営するギガ・フロートのマスドライバー輸送企業の現経営者。

 それが男の身分だった。

 

 ――先の大戦初期において、当時のプラント議長シーゲル・クラインは地球軍からの核攻撃《血のバレンタイン》に対する報復として、地球各地に投下させた《ニュートロン・ジャマー》と、地球上のマスドライバー全てをザフト軍によって制圧させる《オペレーション・スピットブレイク》を実行させている。

 それによって地球軍の行動範囲を地球上に押さえ込み、物理的に宇宙には手を出せなくさせる『封じ込め』を狙ったのだ。

 

 これは講和を望むクラインにとって、必ずしも本意の戦略ではなかったが、核ミサイルを撃ち込まれるという《コロニー潰し》を実行されたコーディネイター市民たちの怒りは凄まじいものがあり、プラント議長としての立場上なんの対処もしない選択肢は選びようがなかった。

 

 開戦してから数ヶ月後、MSを擁するザフト軍に地上のマスドライバーを大部分奪取されていた連合軍は、宇宙軍への補給と制宙権を奪い返すためにも宇宙に兵力を上げる手段を必要としていた。

 そこで持ち上がったのが、人工島のギガ・フロートを建造して、その上に新たなマスドライバー施設を造るという計画だった。

 『民間用』という建前のもと計画は進められ、建設作業には業界内でも著名なジャンク屋に支援を依頼するまでして完璧な偽装が施された末、この施設は完成を見ることになる。

 しかし完成した頃には既に、戦局は最終局面へと至りつつあったことから戦時中に軍事面で有効活用されることは多くないまま終戦を迎えている。

 

 一説には、ことの真相を知ったザフト軍の一部が破壊目的での攻撃をしかけたものの、ジャンク屋たちが擁するMS部隊と、防衛のため雇われていた傭兵隊によって失敗したとも言われているが、真相は未だ闇のままだ。

 

 

 今回ジブリールが用いたのも、この戦後に民間へと所属が移っていた施設を利用してのものだった。

 そこまでは予想できる範疇だったが、彼らマスドライバー施設の職員たちがジブリールを彼とは知らぬまま宇宙への逃走を許してしまった原因は、デュランダルをして眉をひそめさせるものでもあった。

 

『私共もチェックを怠っていたわけではないのですッ! ですが、しかしその・・・・・・全ての乗客の身分を完全にというのは人員の関係上無理でもありまして・・・・・・な、何より警戒する範囲を集中させるため条件を絞ってもおりましたので・・・・・・』

「・・・・・・たしかに、ブルーコスモス盟主が単身で民間シャトルの乗客としてチケットを買って乗船する、というのは予測しづらい行動ではあるだろう。

 まして、『エコノミークラス』での一人旅ともなれば、君たちの警戒心が薄まってしまうのも無理はない」

 

 肩をすくめながらデュランダルは、不快さは消しきれない心情ではあったものの、相手の言い分を認めて一枚の写真を片手で目の高さまで持ち上げる。

 プリントアウトされたそれは相手の会社から送られてきた画像データを落としたもので、監視カメラによる宇宙港内のゲートを映しているものをズームアップしたものらしい。

 

 そこに映し出されている、二十代後半とおぼしき白人の男性。

 若く見えるが、おそらく実年齢は三十代後半ぐらいであろう人物が、一人で空港に入ってきてスタッフからチケットを確認されて素通りしている姿が映し出されている。

 

 問題なのは、その着ている服装と姿だった。

 

 

 銀髪を流した前髪を垂らし、四角い眼鏡をかけている若作りの青年。

 茶色の地味なスーツを着て、トランクを片手に持った姿で颯爽と通路を歩いている。

 

 

 一見するだけなら、身なりのいい真面目なビジネスマンにしか見えない、普通すぎる服装と姿で乗船していく写真に写った男性こそ、誰あろう現ブルーコスモス盟主ロード・ジブリールだったのである。

 

 ジブリールが、誰にも察知されることなく宇宙への逃亡に成功した方法は、至って単純なものだったのだ。

 『変装』した姿で、単身の『民間ビジネスマン』としてマスドライバーのシャトルに乗船する。・・・只それだけ。

 

 あまりにも当たり前すぎる手段だったが、ジブリールの性格とイメージとは懸け離れすぎた立場と服装が宇宙港職員たちの目をくらまされる要因となってしまっていたらしかった。

 オーブ攻めとジブラルタル攻撃への対処に、ザフト軍の意識が集中したことで監視の目が緩んでいたという事情もあっただろう。

 

 無論のこと周囲には、変装した部下たちが護衛として一般客に紛れていたのだろうが、それでもあの気位の高すぎる男が、『庶民』や『愚民』あるいは『惰民』とまで見下す普通の人々と同じ立場でシャトルに乗船するという可能性を、デュランダル自身も考えつくことが出来なくなったのは事実だった。

 そこを付け込まれた結果がコレだ。彼としては舌打ちを禁じ得ない想いである。

 

 

 ・・・てっきり、ジブリールらしい逃げ方として、大金と武力で職員たちを恫喝し、他の乗客たちが乗ったシャトルを後回しにさせ、自らの特別便を優先させると思っていたのだが・・・。

 

 

 そういう無意識下での見下しが、精神的な死角を生じさせ、敵に裏をかかれる理由に繋がる結果を招いてしまった。

 デュランダルとしては忸怩たるものを禁じざるをえない心境であり、相手だけを責める行為に羞恥心を感じて躊躇う一端にも繋がっていたようだ。

 

 

「そう気にしないで頂きたい、社長殿。そういう事情であれば、あなた方が見誤ってしまうのも無理はない。

 この作戦を立案した連合の将は、おそらく我らザフト軍でも手を焼いている人物です。最初から、あなた方の手には余る相手だったのでしょう。

 後はこちらで対処するので、社長殿にはその際に便宜を図って頂けるようお願いしたい」

『そ、それは無論、お約束いたしますとも! では私は、これで・・・・・・』

 

 聞けるだけの情報を引き出したデュランダルから、適当な締めくくりと微笑とを向けられて、安堵した内心を露骨に現しながら通信画面は灰色にもどる。

 さり気なく「役立たず扱い」された事にすら気づかず安心できる相手の対応に、天下りの腐臭を感じさせられ不快さを感じて微かに顔をしかめると、タイミングよく扉が開いて一人のザフト兵が入室してくる。

 

「議長閣下、プラントへ戻るためのシャトルの準備が整いました。いつでも発進可能とのことであります」

「よし。それで、護衛の方の手配はどうなっているか?」

「それが・・・各戦線から抽出した艦艇を回させることで、2隻までは確保できたとのことなのですが・・・・・・何分にも状況は混乱しており、万全を期すには今少し時間が必要かと・・・」

 

 その兵からの報告を聞き、デュランダルは内心で舌打ちの音を立てたが、表面的には表情をしかめるだけで不満を口に出すことはなく、むしろ労いの言葉をかけて『穏やかな平和論者』という世間からの評価に応えて見せる。

 

 連合宇宙軍とジブリールが合流してザフト宇宙軍への攻撃を開始した報を受けながら、デュランダル達がのんびりとマスドライバー輸送会社社長との会話に時間を割いていたのは、兵士からもたらされた報告が理由によるもので、プラント行きの便を確保する作業に時間がかかっていたのである。

 

 敵が宇宙に行っていたと知らされたからと言って、自分たちも即座に宇宙へ上がって敵を追えるという訳ではなく、燃料詰め込みや気象状況の確認など、旧世紀程ではなくとも地上から宇宙へ上がるときには乱雑な幾つかの行程をクリアーしていかねば難しい縛りが未だに存在し続けている時代が現代だった。

 

 連合軍とオーブが共同で開発した宇宙戦艦『アークエンジェル』は先の大戦末期に、マスドライバーを使わず独力で大気圏突破を成しているが、その時でさえオーブ軍から提供されたブースターと《ポジトロニック・インターフィアランス》による補助を必要としたし、その取り付け作業に数時間を必要としている。

 

 まして今回の宇宙行では、制宙権を奪い返すため各所で戦闘をしかけてきているらしい連合軍宇宙艦隊に、いつ発見されて攻撃を受けるか分からない。安全面を考慮するには護衛となる艦隊に迎えに来させるまで待機するのはやむを得ないだろう。

 

「こちらは予定を早めて《メサイア》に上がる。シャトルの準備を急がせてくれ、すぐにだ。月から発したという連合軍艦隊に宇宙へ戻る道を塞がれてしまってからでは目も当てられない――」

「しかし、議長。そこまで警戒する必要があるのでしょうか? たかがナチュラルたちの宇宙軍残党に背後を突かれた程度の問題で」

 

 矢継ぎ早に指示を下していくデュランダルの方針に対して、黒服の高官の一人がやや異論ありげな表情と口調で疑義を呈する声が室内に響く。

 偏見や固定概念が強く混じった声音での反論ではあったが、まるきり根拠がないという訳でもない確信を感じさせる言葉でもあったため、デュランダルは眉をひそめはしたものの否定することはなく、相手に意見の続きを述べるよう促す。

 

「確かに我が軍はヘブンズベース戦とオーブ海において、地球軍に思わぬ敗北を喫したのは事実です。

 それは小官も認めざるを得ないところではありますが、どちらも地上での戦闘で、なおかつ特殊条件に振り回された感が強すぎる内訳だったのも事実。

 我らコーディネイターにとってホームとも呼ぶべき宇宙空間での戦闘で、大気圏外を包囲するように展開している我がザフト軍宇宙艦隊に、ナチュラル共の艦隊が数だけで挑んできたところで恐れる程のものではないと、小官は愚考いたします」

 

 昂然と称して言い口調でザフト軍高官は言い切って見せたが、その主張は故なき大言というものではなく十分に根拠と実績があった上での意見でもあった。

 事実その主張と根拠の正しさを証明し続けてきたのが、前回とは異なる今次大戦での連合とザフト軍との戦局の推移だったからだ。

 

 もともと《血のバレンタイン》などの代表的惨劇を受けた被害者とはいえ、先の大戦でプラント本国が被った傷そのものは左程に大きなものではなく、翻って地球側は惑星全土が戦火に包まれる程の大被害を被っている。

 

 国そのものがボロボロの状態で、軍隊だけが精強というのは現実にあり得ない。

 ただでさえ連合のナチュラルたちは、能力差でコーディネイターに劣り、重力という枷のない宇宙空間での戦闘はパイロット同士の能力差が地上戦以上に勝敗へと現れやすいのだ。

 

 

 あくまで今次大戦で戦闘が長引いている理由は、デュランダル議長が『プラントに領土的野心はない』という方針のもと、むやみに戦火を拡大させない戦略をとり続けてきた事。

 

 そして、敗戦の責任を取らされたくないジブリールが強硬論を主張し続けて徹底抗戦を強要してきたことが大部分を占めており、見た目の悲惨さほど死者数は多くないという奇妙な状況に今日ではなっていた。

 ・・・・・・無論、大量殺戮兵器による戦闘とも呼べない、単なるテロ攻撃の虐殺犠牲者を勘案しなければの話ではあるが。

 

 特に宇宙空間での戦いでは、ガルナハン基地の《ローエングリン砲》のような地形を利用した特殊兵装に支援させることが出来ないことも有り、開戦直後におこなわれたピースメーカー隊の奇襲攻撃に失敗して以降は散発的な戦闘だけが続いているという有様で、それでさえザフト軍による連戦連勝が続いている。

 コーディネイターのパイロット達と、連合軍のナチュラルたちのパイロットには、それ程に能力差が大きいのだ。

 

「仮に制宙権を確保している我らの艦隊が、背後から突然の奇襲を受けさせられたとしても、敵が優位になれるのは一時だけで、一時の混乱さえ沈めてしまえば意味はありません。最終的な勝利は我らのものになるのは確実です。

 幾つかの部隊が敗退することはありましょうが、我が軍から制宙権を地球軍が奪還するなど夢のまた夢。それほど危険視して万全を期する必要はないと小官は予測しますが・・・」

「そうかね? 私の見解はいささか異なっているな」

 

 やや皮肉っぽい視線で見つめ返しながら、デュランダルは席を立って窓際へと歩み寄りながら、周囲に見せつけるように、見せつけるため、演出過剰を自覚しながら皆に向かって持論を解説し始める。

 

「もっとも、君の意見も一理ないわけではない。

 私自身、先日までであればジブリール氏が何かよからぬことを成すかもしれない危険性を重視はしても、戦闘の結果に関しては君と同じ見解を示していたかもしれないが・・・・・・今では状況が変わってしまっている。今までと同じ理屈のままでは通用しない可能性が高い」

「・・・と、仰いますと?」

「我々は先日、ヘブンズベースでの攻防戦で初めて相まみえた連合の新たな将に敗れている。

 そして今回のオーブ戦の指揮を執っていたのも、おそらく同一人物をみて間違いはないだろう。

 それらの経験から我らは、新たな敵将の存在を知っているが、宇宙に残っている者たちは未だ知らない。

 君は自分が軍を率いる身として、あの連合の将を知らぬまま戦場で遭遇し、初戦から勝ちを得られると自信を持って断言することができるかね?

 敵が如何なる策略を駆使してこようと、自らと部下達の力さえあれば確実にザフトを勝利せしめると。

 100パーセントの確信を持って、先ほどと同じ言葉を保証することが出来ると?」

「・・・・・・・・・・・・いいえ」

 

 不本意そうな表情ではあったが、ザフト軍の高官はハッキリと議長の言葉に否定を返す。

 勝てない、と。

 

 あの敵将は、そういう相手だった。

 自分たちが無意識に信じ込んでいる固定概念を利用して、こちらを踊らせることに長けている。

 ナチュラルに対する偏見と侮蔑感や悪感情を捨てきれずにいる彼のようなタイプは特に、あの敵将には利用しやすい駒と思われてしまうかもしれない程に。

 

 彼としては、憎むべきナチュラルの操り人形となって使い捨てられるのは御免被りたかった。

 それを避けられるなら、不快ではあっても相手の強さを認めてしまった方が賢明という場合も時にはある。

 

「ならば我らは、最悪を想定して急ぎプラントへ戻ることを優先すべきなのが今という事になるしかない。

 たとえ万が一の危険性に過ぎなかったとしても、制宙権を連合に奪い返されてしまえば、我が軍は地上に閉じ込められ宇宙へ戻る道が断たれてしまいかねん。そうなってはジブリールの思うつぼだ。

 ここは万難を排してでも宇宙へと戻り、メサイアと確実に合流するのを最重要課題とすべき問題だと私は考える」

「なるほど」

 

 反論してきた高官が納得して首肯して、それを見た周囲の者たちも一斉に頷きを返す。

 それらの姿を確認して、デュランダルは内心で会心の笑みを浮かべていたが、口に出して余計なことを言うことで、せっかくの空気を台無しにするような愚行を犯す気はもたなかった。

 

 ―――これでいい。とデュランダルは心で思う。

 

 いささか以上に予定は変わってしまったが、それを元に戻せる可能性が向こうから与えられようとしている状況下で、無粋な真似は必要ない。そのはずだと。

 

 

 実のところ、ジブリールの密かな宇宙への脱出と連合宇宙軍との合流は、当初からデュランダルの予定に組み込まれていた出来事の一つでしかなかった。

 彼に宇宙に上がって月基地と合流させ、“アレ”を手にして、一度は自主的に使用してもらう必要性が、デュランダルの計画表にとっても必須な要素だったからである。

 

 “アレ”が使われる前に奪取することは無論、可能だ。

 防げる被害を減らすという目的には、それが最も適した判断であり行動だったと断言することもできる。

 だが、“アレ”がジブリールの手によって使われる前に自分が奪取し、自分が初めて使用する者になった場合、おそらく民衆達は彼から離反する者を続出させるだろう。

 

 人という生き物は勝手なものだ。

 実際に使われて被害を受けさせられた後には、それを止めようとするための非常手段を「やむを得ない」として受け入れることが出来る者でも、使われることなく未遂で終わってしまった場合には、それを止めるために用いられた非常手段こそを「許されざる蛮行」として糾弾し始める。

 

 『可能性上の被害』に留まった場合には、多くの者は計上しないので考えることを良しと考えやすくなり。

 現実の被害者が出るのを防げなかった場合にのみ、その被害を『防げたかもしれない可能性』に高い評価と価値を認めやすくなる。

 

 それが大方の人々にとっての人間心理というものだと、デュランダルは考えている。

 その点で、“アレ”は些か問題点を抱えている代物だった。

 

“アレ”は元々、自分たちコーディネイターを倒すためにブルーコスモスが造らせた兵器。最初から『コロニー攻撃を視野に入れて』開発された存在。

 そんな危険すぎるモノを敵から奪って、自分たちの目的のため平和利用しようというのだ。

 

 ならば―――それを奪った側の指導者が、『本来の目的通りの使用法』に使うことはあり得ないと、一体誰に保証することができるのか・・・・・・?

 

 

 場合によっては、今は自分を支持しているザフト軍内部からの裏切りすら想定しておく必要がある代物だった。

 だから敢えて、ジブリールから先に使用させ、『危険な者に持たせてはいけない危ないモノ』として印象づけることがデュランダルの計画達成のため重要だったのである。

 

 それ故に実のところ、ジブリール逃亡を阻むために敷かれた包囲網には意図的に幾つかの抜け穴が用意されあり、その中には『ギガフロートの民間輸送会社』も有力候補の一つとして含まれていた。

 

 だが、それはあくまでデュランダルが状況を把握し、コントロール下の中で敵が動くことを前提としての『一時的な見逃し』であって、自分が用意していた予定にない行動を取るのに用いられたのでは本末転倒もいいところだ。

 

 

 ―――駒は、差し手の意のままに動く存在だからこそ、駒としての価値がある。

 差し手の思惑に従わず、自らの意思で動き出すようになった駒など、駒として生かしておく価値すらないのだが・・・・・・困った男だ、彼は。本当に―――

 

 

 

 

 

「――ところで議長、オーブとの一件と処置は如何がいたしましょう?」

 

 今はまだ他者に語れない部分も含めて、自らの思考に耽っていたデュランダルの鼓膜に軍高官の一人から問いかける声が届けられ、意識が現実に戻ってくる。

 周囲にいた他の高官たちはそろって、声を出した者を睨み付ける。

 

 『今はそれどころではないだろう』という思いが露骨な態度だったが、デュランダルだけは彼の意見に賛成だった。

 

「いや、君の判断と意見は適切だ。こういう状況になってしまったからには、オーブとの関係と対処には武力によらない、なにか別の交渉手段を考えるべきだろう」

 

 議長自らの賛成を口に出すことで周囲の反発を抑え込み、面目を施された相手から「ホッ」としている笑みと共に感謝の一礼を受け流しながら、デュランダルが内心で考えているのは別の案件。

 

 

 ――宇宙にいるラクス・クラインが、オーブと合流する前に滅ぼすための方策。

 それが今の彼が考えるべき、最たる優先事項の一つだった。

 

 

 

 現在のラクス・クライン率いる《クライン派》は、ザフト軍からの脱走兵たちと一部の軍事技術者たちからの支援を受け、装備の上では侮りがたいレベルに達している武力集団となっているが、組織としては『ラクス・クラインの私兵』でしかない。

 

 実のところ組織体系として見れば、《ユニウス・セブン》を地球に落とした《ザラ派》残党の脱走部隊と、特に変わるところがないのが彼女たち《クライン派》の現状における立場でもある。

 

 今の状態で、自分たちザフト正規軍に戦いを挑むことは敗滅を意味するだけの愚行にしかなりようがない。

 それを承知しているからこそ、クライン派は今の今まで所在を隠し、表向きは存在しない集団としてヒット&アウェイのゲリラ戦術で挑んでくるだけに徹してきたのだろう。

 

 だが、今のままの状態では彼女たちの目的は永遠に達することは出来ない。

 《クライン派》は、あくまでザフト軍内部からの脱走した兵たちの集団であり、元プラント議長を父に持つ忘れ形見の少女が率いている純然たる『プラント内部の分派勢力』だからだ。

 

 これでは、彼女を支持する者はプラント内のシンパだけで、地球側からの強力や賛同は得られようがない。

 地球の国々にとって、ラクスと自分との対立は、《クライン派》と《ザラ派》との対立抗争と特になにも変わるところがない、コーディネイター同士ザフト軍同士の啀み合いであり権力闘争―――そのようにしか映らないだろう。それでは孤立するしかない。

 

 ミーア・キャンベルの正体を知る『本物のラクス・クライン』という隠し球も、今の時点では死に駒だ。

 誰も『信じる訳がない』からだ。

 ザフト軍内部やプラント市民で信じる者は少数しか現れようがなく、地球市民たちにとっては最初から関係が薄い。

 

 むしろ『あちらこそがロゴスに与する偽物だ』と決めつけて糾弾すれば、以降は本物が出てきても偽物が現れても、見る側にとっては『どちらが本物か?』と議論する対象にしかなれないまでに【本物の価値】を下落させるのに役立つかもしれないほどだ。

 

 

 周囲の多数派から【本物だ】と認識してもらえない限り、本物は偽物となにも変わるところを持つことが出来ない―――それが人の社会が与える『ものの価値』

 

 

 いっそ、そんな愚行を早々に犯してくれた方が彼としては楽なのだが、流石に相手もバカではない。

 美味な餌を見せれば飛びつきたがるジブリールの愚物とは違う。その程度のことは承知している。

 

 だが、そんな彼女がオーブ国という【後方】を手に入れることは好ましいとは言いがたい。

 今までは流浪の私兵集団でしかなかった者達が、本国と拠点を得られるのは大きい。地球国家のオーブが【プラント正統政権】と承認すれば政治的価値も出てくる。

 そうなれば地球側の国々からも、オーブを介して協力者が増えていく危険性があった。

 

 下手に彼女とオーブで協調され、ブルーコスモスを始末して、地球側国家連合とプラントとの講和を提案されてこられでもすれば、予定が狂って仕方がない。

 

 

「仕方がない。今回もまた、彼女に説得役をお願いするとしよう。

 誰よりも平和を願ってやまない、心優しき平和の歌姫からの言葉であれば、きっとオーブの人々の心にも我々の真意と世界平和を望む心。

 そして何より、《ロゴス》と《ブルーコスモス》への怒りは全人類が共有しているものだという事実を分かってもらえるはず・・・・・・私はそう信じている」

 

 

 柔和な笑みすら浮かべて告げられたデュランダル議長の人選に、反対する者は誰もいない。

 それだけの地位と立場を既に彼は確立していたし、ヘブンズベース戦の後から地球側からの好意と支持が目減りこそすれ、プラント内からの支持と人気は未だ圧倒的で並ぶ者がない状態を維持している。

 

 開戦したばかりの頃とは違う。

 あの頃は、軍部も議会も自分からの支持と方針を、どこか「仕方なし」という風に受け入れている程度の賛成だったことは自覚していた。

 『他にもっと有効な案があれば確実にそちらを選ぶのだが・・・』と内心で考えているのが見え透いた表情と態度で、『妥協案としての議長の方針』を肩をすくめながら受け入れるだけの日々。

 

 その積み重ねの末に今の自分と、地位身分があった。

 今の自分であれば、たとえ今《ヘブンズベースやオーブ海戦で敗れた責任》を取るとして辞任し、内閣を総辞職したとしても次の選挙で必ず首班に返り咲けるだけの政治基盤を、今はもう手にすることが出来ていた。

 

 

 初手の失敗で追い詰められたジブリール率いる地球軍の、『暴虐極まる横暴に対処するためには――』という大義名分も今では必要不可欠ではなくなった。

 『アンチ・ブルーコスモス』とした人気を維持したザラ議長とは違う。『アンチ・ユニウス戦役』によって間を取った案だけを言い続けてきた今までの自分とも異なっている。

 

 

 

「宇宙行きのシャトルを護衛する艦隊がそろうまでの時間を使って、ラクス・クラインによるオーブ市民たちに向けた、我々の意思を示すための特別放送を準備してくれ。大至急だ。

 それで彼らにも伝わるはずだ。彼らにも、そして白い船のクルーたちにも・・・ね。

 本当に倒すべき相手が誰なのかという真実が―――」

 

 

 

 ―――折角ここまで来たのだ。私が世界を連れてきた。

 こんなところで小石につまずき、プラン実現への道を閉ざされては面倒だから――

 

 

 

 こうして、デュランダルが宇宙へと戻る前に、地球で行うプラント議長として最後の公務が決定された。

 そしてそれは、彼が地球で行った最期のイベントにもなる未来を、今を生きるギルバート・デュランダルはまだ知らない・・・・・・。

 

 

 

つづく

 

 

 

オマケ設定紹介

【今作版オーブの解釈】

 

 オーブ連合首長国は、プラント、大西洋連邦、ユーラシア連邦に続いて『量産型MS』の開発生産技術を確立させている国。

 現状の世界では四カ国だけしか存在しない、『MS開発技術保有国』の一角を占めていた軍需技術大国という解釈に基づいて、今作版のデュランダル他は対応している設定です。

 

 ユーラシアが大西洋連邦から量産型MS《ダガー・シリーズ》の供与を受ける条件で参加に加わっていたことを加味すれば、新たな戦場の主役となった機動兵器の開発技術を独占している、地球国家内では二国だけの片割れであることが、各国にオーブを特別扱いさせる理由の一つにもなっているほど。

 

 アズラエルが、ザフト決戦を前にしてオーブを味方にするより滅ぼすことを優先したのも、《ストライク・ダガー》が完成したことで自前の軍需コングロマリットによって開発生産を一手に引き受けることにより連合の主導権を握るのに成功したのに、《M1アストレイ》を量産できるオーブが連合入りしたら水の泡だったからと推測している。

 

 

 一方で、政治的評価は『連合がヒドすぎるから』という理由で、相対的に良く見られている部分が多いという解釈が成されている。

 

 ある者からは『平和国家』と称えられている反面。

 別の者からは『欺瞞国家』と揶揄されている。

 

 そういうMS開発可能な技術力を背景とした影響力と歪みを内包している国だったのではないか・・・・・・と、作者的には想像している国だった次第。

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