毎度遅い上に、あんま話進まず申し訳ない…。
「・・・・・・う・・・、ぁ・・・」
うめき声と共に覚醒したとき、視界に映ったのは見知らぬ天井だった。
そのことに彼、アスラン・ザラは内心でかすかに苦笑を浮かべる。
視界に映る天井を『見慣れない』と感じた自分の感覚は、今いる場所と別の同じ場所とを見分けられる程度には『慣れた自分』を意味するものだと自覚させられたからである。
その場所は、旧“地球連合軍からの脱走艦”アークエンジェルにある医務室の中だった。
先の大戦では『キラ・ヤマト』や『ディアッカ・エルスマン』等、コーディネイターのパイロットたちが療養したという実績をもつ場所で、今次大戦では先日まで『ネオ・ロアノーク連合軍大佐』を収容する部屋としても用いられている。
そして今度は、ザフト軍のエース『アスラン・ザラ』が病床から起き上がった即日に出戻ってくる始末。
味方の兵より敵兵の方が利用者が多かったという特殊な来歴をもった病室で覚醒したばかりのアスランは、「自分はどれくらい気を失っていたのだろう・・・?」とボンヤリ考えていた。
そんな彼に気付いたのか、赤髪の少女が声をかけて駆け寄ってきてくれる姿が見える。
「アスランッ! 気がついたんですねッ、よかったぁ・・・・・・」
「・・・メイ・・・・・・リン、か・・・」
引き攣ったようにしか動かぬ唇をなんとか動かし、少女の名を呼びかける。
負傷による四肢への痛みもあったが、おそらく痛み止めの麻酔で思うように身体が動かなかったが、急速に意識と感覚が戻ってくるのを感じ取る。
アスランが再び負傷して、病室への出戻りとなったオーブ海での戦いが終結してから丸一日半が過ぎていた。
この部屋からは見えないが、艦の外はすでに暗がりが広がる時刻となり、平和な時代であれば子供たちが家で家族の団らんを共に過ごし、優しい夜のとばりの中で眠りにつく者もいたであろう。そんな時間。
だが危機を乗り切ったとは言え、オーブは今尚危機的状況に陥り続けていることに変わりはなかった。
何とかプラントに兵を退かせることに成功し、停戦交渉の段階まで持ち込むことが出来たとは言え、セイラン家がオーブ政府の決定としてロゴスの存在暴露後も彼らの側に与し続けていたのは事実であり。
オーブ軍を動員してまで、ジブリールの地球からの脱出と宇宙軍との合流を支援してしまったことも、結果論とは言え他人たちから見れば意図的にしか見えない現状でもある。
地球各国からも、プラントからも、更に今となってはロゴスからさえ孤立して、『人類社会全体の孤島』となりつつある現状を打開するため、オーブには早急に何らかの手を打たなければならない窮状に陥っているままだったのだ。
その為の切り札を、カガリ・ユラ・アスハは昨日の内には手にしていた。
それを用いる寸前にアスラン・ザラは、意識を取り戻すことになった訳なのだが。
歴史の皮肉か否か、これから開始されるオーブの一大イベントに彼の覚醒は必要性がまったくない、余談にしかなりようがない些事でしかなかった。
戦闘が終わった今の時点で重要なのは彼ではなく、『彼女』の方だったから―――
「傷、痛みませんか? 大じょ――」
「――『大丈夫ですか』って、言わない方がいいと思うよ? アスランにはね」
痛みを堪えて上半身を起こそうとした自分を気遣い、声をかけてきてくれたメイ・リンの言葉に被せるようにして、“らしくないセリフ”を聞き慣れた声で言いながら入室してくる若い男の言葉に鼓膜を叩かれる。
「ぜったい『大丈夫』って言うのが彼だから」
――キラだった。
幼い頃の親友で、一度は敵対して絆を取り戻し、再び敵になってしまっていた幼馴染みのキラ・ヤマトが、笑みを含んだ声音と表情で言いながら扉を開けて医務室の中へ入ってきた直後だった。
隣にはラクスも寄り添うように付いてきている。
何かの会見にでも臨もうとしている寸前に立ち寄ったのか、先日の再会より綺麗にメイクされた美貌が、場の無骨さに花を添えている。
思わずキラの評価に、「そんなことはない」と反駁する声を上げかけたアスランだったが、反射的に踏みとどまって過去の記憶や言動の数々を思い出し。
「そうかもしれない・・・」と自分でも思わざるを得ない、素直さや正直さに欠けたところのある己の言動に口をへの字に歪めさせられることになる。
どうにも自分には、自身の過去の行動が絡んでいる問題ほど、言葉として素直な思いを表さずに黙って耐える道を選ぶことが多すぎる悪癖があるようだった。
シンを殴ってしまった時もそうだった。
言うべきことを言わず、最小限度の叱責だけを告げての鉄拳制裁――相手が不快に思うのは当然の対応だったと自分でも反省はするのだが・・・・・・どうにも大事な場面で言葉足らずになるのは前大戦から続く欠点だと彼自身でも感じざるを得ない。
あの時も、ちゃんと相手に伝えるべきだったのだ。
『卑怯な・・・・・・救助した民間人を人質に取る―――そんな卑怯者とともに戦うのが、お前の正義か!? キラ!!』
そう叫んで糾弾し、一方的に民間人を救う正義の騎士のつもりで戦っていた当時の自分自身。
相手と同じように『ザラ国防委員長』の言葉を信じて疑わなかった時期が、自分にもあったことを。
ナチュラルの地球軍は愚かだから愚かな行為を犯しているだけなんだと、信じ込んだまま戦っていた当時の経験を、シンに向かって拳ではなく言葉で思いを伝えていれば、あるいは・・・・・・。
――だが、それはそれとして。
自分の過ちと欠点は自身が是正するしかないとしても、言われた内容と相手の組合せに「カチン」とくるところが無い訳ではない。
「返す言葉もないな・・・・・・だが、それはお互い様なんじゃないか? キラ。
お前が俺と違って、大丈夫じゃない時にも『大丈夫だ』と言わない性格とは、俺には思えない」
「・・・・・・え?」
「まぁ」
思わず予想していなかった切り返しにキラは一瞬呆気にとられ、返事が思いつかないでいる間に隣に佇んでいたラクスは、アスランの返しに思わず我が意を得たりとばかりに両手を打ち合わせ、
「本当にそうですわね。あの時もアスランの言う通り、そうでしたわ。ね? キラ」
「・・・・・・参ったな・・・」
自分の『そういう姿と弱音』を知っている唯一の相手からも言われてしまっては、キラとしても頭をかいて誤魔化す以外にできる反応が何もなくなるしかない。
実際アスランの言う通りであり、キラもまた自分が苦しい時ほど、周囲の他人たちに気を使わせまいと「大丈夫」と笑って答えて誤魔化す道を選んでしまうタイプの人間だった。
先の大戦に参加させられたばかりの頃は、特にそうだった。「自分が守らないと」「何とかしないと」と背負い込みすぎて泣きそうになっても平気な顔をし続けて―――それが結果として一人の女の子を不幸にさせてしまう遠因にもなってしまった過去の自分。
「――まっ、そこら辺は、お互い様ってことなんだろうね」
「そうなんだろうな・・・・・・だから俺たちは再び、こうして話せる日が来ることができたのも事実だ・・・」
2人の少年たちは、そういう理解で矛を収め合い、双方共に『似たもの同士でダメな部分』を受け入れ合って苦笑を浮かべ合う。
確かにアスランもキラの性格も、表面的な個性は違っていても根底にある、そういう頑固さは兄弟のように酷似している部分が似通っている者達同士だった。
「平和なときには出来るのが当たり前に感じて、すぐ後回しにして忘れちゃうけど、そういう事ができる関係でいられるのは、本当はとても幸せなことだって、失わずに済んだ今だからすごく・・・・・・よく分かる気がする」
「・・・・・・・・・」
キラの言葉が、今のアスランには酷く胸に痛い。
平時であれば、素直になれずケンカ別れしてしまっても明日には謝って仲直りすることが可能かも知れない。
けれど戦争で明日には敵味方に別れて、住む場所そのものが敵国と味方の基地とに変わってしまったら? 戦場で撃ち合う関係としてしか再会することが出来なくなってしまったら?
いつも、何時でも、素直に伝えられなかった想いと言葉が『遅すぎることはない』・・・・・・などという幸福な結末が与えてもらえるとは限らない。
言えなかった今日が、相手か自分にとっての『死ぬ1日前』ではないという保証など誰にもできないのが戦争という状況なのだから。
そう考えて、やはり彼とは―――シン・アスカとは、拳よりも言葉での分かり合いを徹底すべきだったのではと、悔やむ気持ちに苛まれ始めるアスラン。
だが幸いと言うべきかは微妙だが、今夜はそれ以上の時間が与えられることはなかったようだった。
「――キラ、そろそろ」
「あ、そっか。ごめん、アスラン。テレビ付けていいかな?」
「え、あ、ああ・・・・・・」
「ありがとう。正直に言うと、コレの前に君の顔を見に寄っただけのつもりだったから、予定より話し込んじゃって。君が目を覚ましてるって思わなかったからさ」
時計を見やりながらラクスに言われた言葉で、思い出したようにキラが一言アスランに断りを入れてから備え付けのテレビモニターのスイッチを入れて話は一時中断することになる。
別に中継を見ながら続けることができない話題と内容でもなかったが、その映像に映し出された人物の姿が視界に映った瞬間、アスランの方が意識と心を『彼女』の方へと傾けさせてしまって、それどころではなくなってしまったからだ。
「カガリが声明を出すんだ。
とりあえず、“意思を示す”あとは、それからだって」
モニター画面上に映し出された、意志の強そうな金髪の少女。
久しぶりに見ることができ、生存を確認することができた相手。
そして、自分がプロポーズした女の子――カガリ・ユラ・アスハ。
そんな相手の姿を久しぶりに・・・・・・だが画面越しに見ることになってしまった現在を、アスランは仕方がないことと分かってはいながらも寂しさの痛みを微かに、だが確実に感じてしまっている自分を自覚せざるを得ない。
それでも彼にとって、一度は生きて再会できないのでは?と不安に襲われていた愛しい少女の姿と言葉である。
痛みを抱きながらであっても、一元一句聞き逃すまい、見逃すまいとテレビ画面を食い入るように見つめようとしていた矢先のこと。
「ではキラ、わたくし達もそろそろ」
「うん。そうだね」
「・・・・・・え?」
突如として、キラとラクスが身を翻して医務室の扉へ向かって歩き出すのを、アスランはやや呆然と見つめることになる。
彼としては当然の反応だったろう。なにしろテレビを付けて、カガリの声明を見たいと言ってきたのはキラの方なのだから。
オーブで護衛役をしていた時に聞かされたトーヨーの諺にある、キツネに化かされたとかいう心地だ。
それとも彼らは彼らで、今回の声明に関連して何か役割を担ってでもいるのだろうか? 最初に入室してきた時にもそれらしいことを言っていた記憶もある。
だが―――。
疑問とともに見つめてくる視線を背中に感じたらしいラクスが最後に振り向くと、
「わたくしラクス・クラインが平和の歌を歌う、という事ですわ。
果たすべき役割を果たすことから、もう逃げるのは止めようと」
そして、オーブ軍港に入港中のアークエンジェル内にある医務室で、オーブ元首による声明発表にまつわる話を聞かされて、ザフト軍人だった過去を持つ少年が驚きの反応を返していたのと同じ頃。
彼と同じ報告を聞かされ、同じように意外そうな反応を返していた人物が敵側にも存在していたことを、対局の陣営に立つ彼らは互いに知る由もない。
「―――オーブの元首に復帰した金ピカのお姫様が、各国へ向けて声明を発表ですか?
このクソ忙しいときに余計な手間を・・・・・・」
思わず溜息を吐かされ、生まれはともかく前線暮らしが長い軍事指揮官らしいスラング交じりの愚痴を呟いてしまいながら。
連合軍新総司令官にして《ロゴス》の一家の当主として正式に襲名することが決定するとお達しを受けたばかりのセレニアは、部下から報告を聞かされて、同時に首をかしげて見せていた。
オーブ海での戦闘を終えた彼女は、ジブラルタル基地を攻撃させていた陽動艦隊を合流させ、敵から追撃されたときの備えと、艦隊の再編作業と被害報告と敵情についての情報分析とを同時進行で進ませながら、自らもまた艦内を駆けずり回らされる羽目になってしまっていた。
本来は総司令官という役職が担うような雑務ではないのだが、ロゴスの存在暴露によって地球軍は組織の土台が崩壊してしまい裏切りと離反者が相次ぐこととなり、その逆にプラント側へ回った地球国家から離脱してヘブンズベースまで合流しにきた小部隊も存在するなど混乱が続いたままになっている。
家族の安全を図るため、自らの保身のため、勝ち馬に乗るため、生活のため、最初から国家意識など持っていなかった故のため―――様々な理由で地球軍に属していた兵士達や司令官らはプラント連合を天秤に乗せて仰ぐ旗色に別れている現状に今ではある。
オーブ援軍に用いたダーレス提督にしろ、ジブラルタルへの陽動を任せた代理司令にしろ、自らが率いている艦隊は掌握できてはいるものの一定の離反者が出るのは避けようがなく、新たに加わった新規兵力も加えて正式に一個艦隊としての体裁を整えて先の会戦には臨ませていた。
結局のところ、各国から家出してきた脱走兵たちによる寄せ集め集団でしかないのが、現在の地球連合軍もしくは地球連合残党軍とでも呼ぶべき、自分たち勢力の実体なのだろうな――とセレニアは密かに内心で、そう酷評していた。
ごった煮でしかない数合わせの寄せ集め集団を、曲がりなりにも機能させるには全体を把握している人間がどうしても必要とならざるを得ない。だから自分が自ら出向く必要があった。そういうことだ。
戦い終わった後の組織再編というものは、基本的に敗軍の将こそ追うべき負担であって、勝利者を率いる英雄が担うことは滅多にない。
にも関わらず今回の海戦では、ザフト軍の侵攻を退けて母国を守り抜いたオーブのカガリ元首や連合軍艦隊を率いたセレニア新総司令に事後処理として背負わされ、制圧に失敗したはずのザフト軍を擁するデュランダル議長だけが優雅にソファで身を傾ける贅沢を味わう―――そんな皮肉極まる結末を勝者と敗者が晒しあう妙なエンドロールになってしまっていた。
なんでもそうだが、事後処理が一番大変というのは世の真理なのだと、セレニア等はつくづく思う。
そこにきて新たに、この報告だ。流石の彼女も、今日は厄日かと嘆きたくもなる。
「はい、司令。代表に復帰したカガリ・アスハ氏直々によって、全世界のメディアに向けて公式声明を発表するための会見を急きょ執り行う、と。
まぁ、あの国も先の戦闘ではザフトの侵攻を退けることができたとはいえ被害は小さくなかったでしょうし、セイラン家の没落と前後して彼らに買収されていた閣僚たちの多くが逮捕されたと聞き及んでいます。
復興を急ぐためにも、当然の政治的措置というものではないかと愚考いたしますが」
「そんな事ぐらいは、さすがに私でも分かってますよ」
素っ気ない口調で、報告をもってきた部下に彼女は答えてから艦橋へ続く道を戻るため、今いる場所に背を向ける。
何とか侵攻を阻止して、ザフト軍による本土占領を免れ、オーブの近海からもザフト艦隊を撤退させることに成功したとは言え、今回の戦いでオーブ連合首長国は大損害を被ったのは間違いなく事実だった。
敵軍に勝って退けるのに成功したものの、あくまで侵攻を失敗させただけで、遠征軍を敗退せしめただけでしかないオーブ軍は、別にプラントが確保した陸地の領土も賠償金も何一つとして得られた訳ではない。
彼らが先の戦いの勝利によって得たものがあるとするなら、それは無人の廃墟と瓦礫と化した愛する国土の一部地域と、一時の平穏。その程度に過ぎない。
そんな状況下でザフト軍から、再度の侵攻を受けては一溜まりもないだろうし、復興のためにもロゴスとの関係を絶たなかった理由はセイラン家の独断であって自分の本意ではなかったことを発表し、早急にプラントや他国との国交を回復する必要性がオーブには絶対的に存在している状態にあった。そうせざるを得ないのが彼らの置かれた窮状だったからだ。
だから元首の地位に復帰した『オーブのお姫様』が、一刻も早く自国の国際的立場を表明したいと願うのは、セレニアにも理解できる。
現在のオーブの所属する陣営が、今まで通り連合なのか? デュランダル率いるプラントなのか? どちらに与するか意思を決めかねている地球各国と同様に曖昧に徹するか?
それにより復興の協力を求めるべき握手する相手の旗色と国旗も変わってくるというものでもある。
そこまでは分かる。
分かるのだが、しかし―――
「私が気になったのは、規模の方です。
幾らなんでも大々的すぎやしませんか? “全世界のメディアを通じて”なんて。
正直あの国が今更なに言ったところで、大した好意や友情を買い直せる立場にあるとは到底思えんのですけどねぇ・・・」
首をかしげながら皮肉そうに言い切ったセレニアの評価こそが、彼女がカガリの行動に疑問を感じさせられた、その理由だったもの。
『世界に向けて何を言ったところで大して結果が変わるわけでもない』――そういう立場に陥っているのが現状のオーブなのだと正確に理解できていたので、カガリの選んだ発表相手の数と規模に意外性を感じずにはいられなかった。只それだけだったのである。
実際のところオーブ内で起きていたらしい内輪のゴタゴタと、オーブが国として置かれている国際的立場の悪さは、あまり関係のない別次元の話ではあるのだ。
なるほど確かにカガリとオーブが置かれた立場には、同情の余地が些か以上に存在してはいる。
連合と正式に同盟してザフト軍と敵対したのは、国を私物化していた奸臣セイラン家が独断で勝手にやったこと、という言い分には一理もあれば証拠がそろってもいる。
なにしろ『ダーダネルスの海戦』時には、『入り婿でしかない立場のユウナ・セイラン』がオーブ軍司令として、カガリと名乗って乱入した機体を撃てと命じた記録が残っているのだから。
これは立派に、本家の跡継ぎを抹殺して古典的な『お家乗っ取り』を謀った奸臣による謀反と断じてしまえる十分な証拠と呼べるものだろうし、『命を狙われた本家の姫君』が身を隠す必要性があったという主張にも整合性ぐらいは取れる信憑性が存在している。
―――だが、それらはどこまで行ってもオーブ国が、その政策を採った理由でしかない。
オーブ国内の権力闘争でしかなかったのが、セイラン家とアスハ家後継者カガリによる問題だったのだ。
言い換えれば、オーブ国内での『内輪の問題』でしかない。
セイラン一族がオーブの簒奪者だろうと、彼らが正式にオーブ代表の権限をもって地球連合軍に協力していたことは事実であり。
他に候補がいなかったとしても、オーブ正規軍が彼らの指揮下でブルーコスモスの同盟国として地球軍の敵を攻撃し続けたのも事実でしかない。
そんな風に地球連合や大西洋連邦から被害を押しつけられてきた人々にとって、『オーブのお家問題』でしかない『動機』の部分は、それほど重要視される要素とも思えなかった。
よくて同情心から、賠償金を減額させてもらえる程度が、せいぜいと言ったところではないだろうか?
その程度が限界の内輪事情についての説明を、『全世界のメディアを通じて』世界中に聞こえるよう行う、というのだ。
セレニアとしては首をかしげざるを得ない。
・・・てっきり、ダメージと国の恥をさらす相手を最小限に抑えるため、プラントと内々に交渉締結まで持って行ってから、相手国からの発表に合わせる形で合同声明とでもして誤魔化す方針でも選ぶかと予想していたのだが・・・。
そこまで素直に平凡な手を取ってくるほど、誠実な国とも代表たちとも思っていた訳ではなかったものの、現実問題として他に選択肢が彼女自身にも思いつけない。
『オーブ連合首長国代表首長カガリ・ユラ・アスハです。
今日、私は全世界のメディアを通じて先日、ロード・ジブリールと結託していた我が国の重鎮ユウナ・ロマ・セイランとウナト・エマ・セイランの引き渡し要求とともに我が国に侵攻し、また再び和を結ぶ機会を与えてくださったプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダル氏にメッセージを送りたいと思います。
過日、さまざまな情報とともに送られた内容は、たしかに衝撃的なものでした―――』
そうして案の定と言うべきなのか、ブリッジまで戻ってきて艦隊首脳陣と同席しながら拝聴することになった『オーブから世界に向けてのメッセージ放送』は、特に面白みもなければ意外性も何もない、平々凡々ないつも通りのオーブ節で進められていくだけ。
やれ、「デュランダルの話は衝撃的だったが」
やれ、「ロゴズに関する話は政治家として魅力的ではあったが」
相変わらず自国の意思をハッキリと示したがらず、抽象的で半端な言い方ばかりを多用したがる悪癖はまったく治っていないらしい元首一族殿による、どっちつかずで解釈次第な内容が無意味にブリッジ内へと空気のように流れゆく。
「なんと言うべきか・・・・・・つくづく東洋人の典型のような国ですな。
裏に何を抱え込んでいるのか、型通りな表面からは何も見えてこん」
「・・・・・・・・・確かに、その通りですね」
先の大戦時にもオーブから似たような回答をもらっていた記憶があるダーレス司令が、野太い息を吐き出しつつ、呆れたようにカガリの声明をそう評する。
先々代の元首もそうだった。
アズラエルの側で相手からの返答を聞かされながら、鬱陶しいオブザーバーに追従を言ってやらねばならなかった時にも、相手にはまんまと宇宙に戦力を脱出させるための用意と、マスドライバーを自爆させるための準備時間を与えてしまう羽目になったものだ。
せめてウズミ・ナラ・アスハだけでも降伏させ、身柄を拘束することが出来ていたなら脱出した娘に人質として機能したかもしれないが、目標だったマスドライバーと軍事工廠には自爆され、攻撃で瓦礫と化した国土だけを占領することになった自分たちこそいい面の皮というべきだった。つくづく小憎らしい国だと思う。
前回してやられた経験のあるダーレスは、オーブからの声明を不快に感じながらも重視するものを感じることはなかった訳だが、セレニアは話が進むにしたがい違和感を抱かされ初めてきてもいた。
彼女にはカガリの冗長すぎる話し方が、『牛歩戦術』をとっている政治家のように感じられていたのである。
不本意な議案の採択を阻止するため、議会の運行を遅らせるため、あえて動く速度を遅くするなどして時間かせぎを謀るという例の政治手法。
それと同じものを、カガリの無意味に長い演説からは感じられたのだが・・・・・・仮にそうだとして、いったい何故? なんの目的でそれをやる?
今のオーブが置かれた立場で、時間かせぎをして得する要素は何一つなかったはずなのに―――そう思っていた時だった。
オーブ国旗を背後に掲げた、礼服姿のカガリが映し出されていたテレビ画面の映像が急に乱れはじめて、電波状態が悪いときのように画面が波打つのを少しだけ眺めさせれた後。
異常が収まったモニターの中央に映っている美しい姫君は、凜々しい男装のオーブ代表首長殿ではなくなっていた。
別の国の国旗と軍旗を左右に掲げ、オーブとは異なる色の髪と、オーブとは異なる衣装を身にまとった美しい姫君が、強い眼差しで見つめながら自分たちの視線を真っ向からぶつかり合っている。
ピンク色の髪、豊満なバストサイズ、先の大戦時に纏っていた衣装をデザインし直したらしきセクシーアピールに満たされたコスチューム。
今となっては、連合軍の兵士たちの間でも隠れファンが多くなっていると噂されている、ここ一年近くで見慣れてしまった娼婦のようにもアイドルのようにも見える少女。
『わたくしは―――ラクス・クラインです』
プラントの、そしてザフト軍の姫君ラクス・クライン。
デュランダル議長のスポークスマンとして著名になったお姫様が、電波ジャックによってオーブの回線に割り込んだ後、テレビ画面の中で豊満な胸を反らした姿を晒していた。
『過日、行われたオーブでの戦闘は、もう皆さんもご存じのことと思われます。
プラントと親しい関係にあった彼のオーブ国が、ジブリール氏と結託するなどという愚かな選択をしたセイラン家の一族を自ら放逐し、再び手を携えることができるようになったこと、わたくしも喜びにたえない想いです』
プラントの“元”歌姫、あるいはデュランダル議長のマイクとでも言えそうな少女。
数年ほど前までは、自身も一勢力を率いる最高権力者の娘でありながら、今では新たな権力者の元で娼婦のように露出度の高い衣装をまとって人前で肌をさらすのが役目となった女の子。
『ブルーコスモスの盟主――プラントに核を放たせ、巨大破壊兵器で街を焼き、子供たちを戦いの道具として改造することを厭わぬ人間たち・・・・・・そんな一部の矮小なる者達と決別し、オーブ国の多くの人々が本道へと回帰してくれましたこと、わたくしはプラントを代表してお礼を申し上げます。これは議長も同じ思いです。
わたくしたちと共に戦いましょう、ロゴスと。全ての人が平和に幸せに生きられる世界を築くために』
オーブを戦渦に巻き込んだセイラン家に与する者達を、悪の元凶として断罪する免罪符を与え、プラント共に歩む道を批判する者はオーブに戦火をもたらす一部の例外なのだと煽り立てる。
『わたくしたちの世界に、誘惑は数多くあります。よりよきものを、多くのものをと望むことは、むろん悪いことではありません。
ですが、賢明なる選択をされた方々には、すでにお分かりのはずです。だからこそ選ばれたはずです。
真の平和とは、戦争のない誰もが平和に生きられる社会とは、小さな個人の欲望を捨てて他者と手を取り合い、協力し合ってこそ手にすることが出来るという真実を。
だからこそ、ロゴスは倒さなければならないのです!』
あからさまな扇動。個人の幸福と平和を謳うフリをする全体主義への誘導。
だが人々は気付かない。聞いている者達の大半は気付いていない。
今までに『敵である悪のロゴス』がやってきたことが酷すぎるものばかりだったから。
今度もまた、オーブに対して核攻撃を行う寸前までいった連中だったから。
敵の『悪さ』が、悪を糾弾して断罪せよと呼びかける者の言葉に説得力を付与してくれる。『悪の悪さ』で『悪を倒す正義の味方』に信頼と賛成が集まりやすくなる。
全てが全て、デュランダル議長の思惑通り。
彼が描いたシナリオ通りに、開戦から戦争が進んで今に至った当然の結果。
・・・・・・まぁ、もっとも。
安易に餌に釣られて、敵のシナリオ通りに踊り狂った安物で血まみれのマリオネットの盟主殿が情けなさ過ぎたのも事実ではあるが。
艦橋内にいる何人かが怒りを露わにモニター画面を睨み付けている。
ダーレス司令官が、白っぽい視線のまま画面を無言で眺めやっていた。
そして、トップに立つセレニア自身はと言うと。
『何故なら、ロゴスだけは別だからですっ。
あれは、有ってはならないもの。この人の世に不要で、邪悪なものです』
「―――たしかに。そりゃ正論だ」
小さな声でポツリと。
上司に密告されて処刑されないよう、誰にも聞こえない声量で敵の歌姫に小さく賛意を表しておくのみに止めおくのみ。
『人類全体に平和をもたらすためにも、わたくしたちは、それ――ヲ――――・・・・・・』
「・・・・・・??」
再び画像が乱れ始めた光景を目の当たりにして、セレニアを含めた艦橋内にいる連合軍人たち全員が不思議そうな顔でテレビ画面に視線を集中させていく。
今までの記憶には確かなかった初めての出来事。ザフト軍がコーディネイターの技術を用いて行っているであろうハッキングによる放送への割り込み。
だが、それを今されているのはザフトの歌姫その人のはずだった。
では一体誰が? 何のために?
セレニアでさえ正答がまったく考えつくことが出来ない疑問を抱えたまま数舜の時間が過ぎてから、画面は正常な状態を回復して先程までとも、最初とも異なる別のものを映し出した画面に切り替わっていて、それで―――
「・・・・・・な・・・っ」
「なんだとぉッ!?」
セレニアが思わず小さな悲鳴を漏らした横で、ダーレスが驚愕を怒号のような叫びで現す。
他の者達も同様だった。画面に映され直した最初のオーブ代表首長が映っている方の中継映像。
だが、先ほど消える前とは明らかに異なる異分子が新たに入り込んでしまっていた衝撃映像。
今はまだ半ば敵のザフト軍が基地施設内から送っていたであろう途中から割り込んできていた映像と、先日に激しい戦闘が繰り広げられた島国にある代表首長からメッセージを発信している一室の中。
その場所に―――今。
ザフト軍基地の放送施設にいるべき人物が、カガリ・ユラ・アスハの傍らで穏やかに微笑みながらコチラを見つめていた。
『その方の姿に、惑わされないでください。
わたくしは―――ラクス・クラインです』
最初に聞かされた言葉と、同じ声での同じ発言。
その異なる二つが、同時に左右に並んだ別々の画面に映った人物たちとして、いま世界は初めて“彼女たち”の姿を見せつけられる。
二人のラクスが同時に一つの画面で、異なる存在として誰の目にも見える場面。
まさに、この時こそラクス・クラインが本当の自分を世間に向かって明かすため待ち続けていたタイミングが訪れた、それらの条件が整えられた瞬間だったのだ。
『わたくしと同じ顔、同じ声、同じ名の方が、デュランダル議長とともにいらっしゃることは知っています』
『あ・・・・・・!』
まっすぐに画面の向こう側から、狼狽えざまを晒しているであろう多くの視聴者たちを見つめながら穏やかな声で言ってのけたラクスからの言葉に対して反応するように、視線を右往左往させているラクス・クラインが怯えたような声で呟くのが漏れ聞こえてくる。
台本にない事態の急展開を前にして、ザフトの歌姫ラクスことミーア・キャンベルは、自分がどう反応したらよいのか、どう反応“しても”いいのかを判断することが出来ぬまま、本物の言葉になにも言い返せず狼狽え続けることしか出来なくなっていた。
彼女はデュランダル議長のスポークスマンとして、彼の意向を受けて彼の望む通りの方向へと世論を誘導する、その役割を果たすために地位を与えられて今日の地位を過ごしてきた職人芸の持ち主だ。
この様な事態になった際、どういう反応が『議長の意向に背くことになるか?』を自己判断して動けるような能力が育つ立場にミーアは立ってきていなかったのである。
むしろ、デュランダルの望む通りのラクスを演じる技術が高まれば高まるほど、自分で判断して自分で動く思考と能力は減少していく一方だったのが、ミーアが有する気付きにくく大きすぎる欠点の最たるものに今日ではなっていた。
自分の「ロボットになること」をデュランダルは彼女に求めて、彼女は相手の期待に応えるよう努力し続けた。その結果がコレという訳だった。
ファンたちの前でのサイン会程度なら、ミーア独自の判断で動き、発言することも出来たかも知れないが、声明発表の会見場という『政治の場』での発言や行動には逐一デュランダルからのチェックが入るのが今日まで恒例のパターンになっていた部分。
だが今回に限っては、アクシデントへの対処法用意が後手に回っている。
予定外のフリーダム復活と介入。予定外の敗北。そして―――宇宙に行って地上にはいないはずのラクス・クライン。
ここまで予定外が続けば、流石のデュランダルも完璧な台本を用意できなくなるのは避けられない。
世論操作でオーブ市民たちをプラント貴下に納めさせ、アークエンジェルやエターナルが自分の元に下る道を選ぶならよし、面従腹背の危険性が高いと判断したなら対処法はいくらでもある。自分たちの勢力圏内に入った後なら尚更に・・・・・・そう考えていた予定が全て狂わされてしまった今がある。
『ですが、わたくしはシーゲル・クラインの娘であり、先の大戦ではアークエンジェルとともに戦った仲間として、今もあの時と同じように彼の船と、オーブのアスハ代表のもとにおります』
『あ・・・・・・えっと・・・あの・・・・・・』
毅然とした態度でまっすぐに前を見つめながら話しかけ続けるラクスの画面の隣で、オロオロと狼狽えながら何度も台本を見下ろし、書いてあるはずもない今の状況を切り抜けられるセリフを探そうとするミーアを映す別の画面。
どちらのラクスが本物で、どちらが偽物なのかという対比が、これ以上なく分かりやすく図示されてしまっているコメディー劇じみた二つの状況。
だが実のところ、片側に映っている映像内のラクスが『本物のラクス・クライン』であることは、現在の状況にとって差して重要な要素ではない。
本物だろうと偽物だろうと、結局は『信じるか否か?』という一事に尽きてしまうのが、この手の問題の根幹を成す要素だからだ。
『わたくしは、デュランダル議長の言葉と行動を支持しておりません』
『え・・・・・・ええっ・・・!?』
たとえ本物だろうと、周囲から偽物としか思う者が一人も現れることなく、『間違いなく偽物だ』と認定されて社会の多数派がその評価をこそ正しいと受け入れたなら、それこそが偽物となり、偽物こそが本物となる。
それが真贋の世界というものだった。
嘘は必ず暴かれる等という、超自然的な世界の理によって価値を認めてもらえるに違いないと信じる者は、余程の『幸運』に真実恵まれてでもいない限り、『他力本願』という本当の姿こそが己自身だと知らされるだけで、それ以上の願いが叶うことは極希でしかない。
本当に本物であることと、『世間の多数派から本物だと信じられること』は別なのだ。
そして社会的動物である人間にとって、往々にして価値があるのは後者の方の本物になりやすい。
その点でラクスは、今以外のタイミングで自分こそが本物だとして、今と同じように人々の前で正体を明かして姿を現しても、今と同じような意味や効果が得られることは恐らくはなかったはずである。
ラクスこそが本物のラクスだと信じて、ミーアこそが偽物のラクスだと信じられるナニカを、本物の側には示す手段が存在していなかったからだ。
『戦う者は悪くない。戦わない者も悪くはない・・・・・・悪いのは全て戦わせようとする者だけ。
死の商人「ロゴス」のみ。――議長の仰るそれは本当でしょうか? それが真実なのでしょうか?
わたくしには、そうは思えません』
単に印象だけでは、声と顔が同じというだけでは、大方の人たちの目と耳に本物のラクスを見分けられる鑑定能力は宿っていない。
だからこそ、今この場で大勢の視聴者が見ている前に姿を見せつけて語る必要性が彼女には絶対的に存在していた。
先の大戦でともに戦った『戦友でもあるオーブ元首の傍ら』に立ち、宇宙から戻っていないはずの『自分が登壇した場合への対策』を用意する必要性がなく、自分と相手が異なる方針を述べ合い『互いの違いが対比となって比べ見られる』・・・・・・そんな状況の到来を、ラクス・クラインは待ち望んでいたのだ。
真実とは、『それこそが正しい真実だ』と大多数の人々から承認されたモノを差す言葉だったから。
『それは間違っている偽りだ』と大多数の人たちから否定されている『本当にあったこと』が、賛成多数を得られない時点で真実になれたことは一度もない。
それが『人の世にとっての真実の真実』というモノなのだから――。
『悪いのはナチュラルでもない。けれどコーディネイターでもない。
悪いのは“彼ら”だけ。彼らが支配する今の世界のみ。
“悪い彼らを退治しているだけの自分たち自身”には、なにも悪いことなどないのだと。
“あなた方”が、彼らを殺すのは悪くないのだという言葉の罠に、どうか陥らないでください』
一度でも人前に自分の存在をさらしてしまえば、二度目からは同じ手は使えない。
ラクスと同じ姿と声をもつ存在が2人いる事実を見せつけることは『ラクス・クラインは創り出せる』という認識を世間にもたせてしまう側面をもつ。
既に2人いたのだ。今テレビに姿を晒した本物が『3人目』ではないと誰が保証できるというのか? 保証する者がいたとして、その人物の証言が正しいとする証明は?
見る側のインパクトは薄くなり、話題性は乏しくなる一方にもなっていく。
それが本物だろうと偽物だろうと、ラクス・クラインへの注目度と話題性が低下することは、相対的にデュランダルへの評価を高めてくれる効果をもつ。
彼にとって、どちらだろうと損は少ない。
ラクスは彼にとって『政敵』でしかないのだから。
『我々はもっと知らねばなりません。考えなければならないのです。
デュランダル議長の真の目的を』
その『敵』が、「自身の敵」と認識した存在に向かって言葉の槍を、テレビ画面を通して初めて突き刺す。
『無論わたくしは、ジブリール氏をかばう者でもありません。
ですが、デュランダル議長を信じる者でもない。
わたくしたちは―――』
「世界の敵ロゴス」と戦うことを、求め続ける彼の目指すところがナニカを、彼女は考えるよう人々に求める。
そのような手を用いる人が、なにを目的としているのかという事を、ロゴスや連合と同じように『デュランダルにも同じ疑う心を持つべきだ』と訴えかける。
「な、なんなんだよ!? コレは、いったい・・・ッ!!」
その全世界に向けて発せられた映像を見せつけられ、最も激しい反応を返した者の1人にシン・アスカという名の少年兵がいた。
議長の目的? 真の目的だって!? ――バカバカしい!!
戦争のない世界を目指すと、議長はすでに自分たちには言ってくれている。
自分が求める、優しくて暖かい世界の到来という夢を、もう二度とマユやステラのような可哀想な子供たちが犠牲になることのない平和な世界という目標を、議長と自分たちは共に目指しているのだと彼は既に知っているのだ。語ってくれたのだ、自分たちに直接。
だからこそ、自分たちは・・・・・・!!
シンは目を剥いて、モニターに映し出される歌姫の顔を睨み続け、そして――
『わたくした――は――――』
そして・・・・・・再び画面にノイズが走り始める。
また何かあったのか?と、見ている者達の誰もが興奮と共に、だが一方で、冷や水をかけられた気分もかすかに感じさせられながら。
そんな中。
画像が回復したモニターに映し出された人物の姿にシンは一瞬「え・・・」と、キョトンとした顔をする。
「・・・・・・議長・・・?」
そう。
そこに新たに姿を現した第四の人物は、彼のよく知る人。
今ラクス自身によって糾弾されていた、その人自身の姿。
『私は、現プラント評議会議長ギルバート・デュランダルです。
皆さん、突然の無礼を許していただきたい。
ですが、どうしても申し上げずにはいられなかったのです。
此度の出来事、その結末を。その真相を。
そして――私が隠し続けることになってしまった、彼女“たちの”真実を。
私は今ここで、全ての真相を全世界の人々に知っていただくために―――』
カガリ・ユラ・アスハ、ミーア・キャンベル、ラクス・クライン。
3人の少女達に続いて現れた、『第四の男』として【真実を決めるための戦い】で勝利者となるために。
真摯さに憂いを込めた素顔の下で、会心の笑みを隠しながら。
小賢しい『ロゴスの小娘』に、横やりを入れてきた時のため備えていた自分が、予想外の人物によって壇上へと引き釣り上げられた不快感を憂いの中に紛らせながら。
仮面とは、目に見えて分かりやすく顔の表面につける物だけを差す言葉ではない――その真実の一つを体現した存在として、世界を次のステージへと導く階段を築くために・・・・・・。
つづく