ほぼ完全なオリジナル展開ルートは難しいッス…。
尚、今話ラストで「彼」が登場。似てなくても苦情は受け付けれませんので、ご容赦を。
オーブ連合首長国というのは、不思議な国だ。
“不吉な国”、といった方が正しいかもしれぬほどに。
南海に浮かぶ島国であり、軍事技術に優れてはいても小国。
その程度でありながら、世界中がオーブを無視できない理由の一つは、その不吉さにあったのかもしれない。
オーブという国は敵対し、攻め込んで勝利した勢力の方が、逆に滅びの道へ進ませる奇妙なジンクスをもっている勢力だからである。
先の戦争時終盤、連合の主導権を握った《ブルーコスモス》盟主ムルタ・アズラエルは、《マスドライバー・カグヤ》の接収のためという名目でオーブへと侵攻して制圧。
元首ウズミの娘カガリがわずかな部下を伴って宇宙へと脱出したものの、このとき国としてのオーブは一度滅亡させられた存在だった。
だが結局、この戦いで勝利したアズラエルは死に、ブルーコスモスは勢力を減退させ、戦後にオーブは再興を果たしている。
その流れは、今次大戦でも変わっていない。
一度はオーブ権力の頂点を極めたかに見えたセイラン家は、国外逃亡して行方知れずとなった現国家代表カガリを“偽物”と断じ、連合を牛耳るロゴスと誼まで通じたが・・・・・・その支配が永続することはなく、国家主権もカガリのもとへ戻ってしまった。
さらに此度の戦いでは、ザフト軍だ。
圧倒的数の差に加え、政治的にも孤立していたはずのオーブ軍が、またしてもドンデン返しの大逆転勝利に終わり、侵攻してきた側のザフト軍が撤退へと追い込まれる羽目になっている。
挙げ句、オーブへの侵攻に失敗した直後に『本物のラクス・クライン』が、現プラント議長デュランダルの欺瞞を暴露するという大スキャンダルときた。
攻め込んだ格上の勢力たちにこそ、悉く不幸と混沌をもたらし続けてきた伝統を持つ島国こそが、オーブ連合首長国の歩んできた近代史だった。
迷信じみている、とは思っていても不吉な印象までは拭いきれない、『他国にとっての負の実績』に満ちているのがオーブという国の存在なのである。
まるで、『手を出した者すべてに“呪い”を与える』古代王の霊が眠る王墓のように、禁忌の印象と実績を抱かせる歴史をもった、忌まわしき伝統と呪いに守護された国――オーブ。
そんな伝統を有する国だったからこそ“彼”もまた、呪いによる加護を受けていたのかもしれない。
『プラント・地球を問わず全世界に生きる全ての皆さん。そして無論、ボクの愛する祖国オーブの守るべき国民たち。
今更言うまでもないでしょうが・・・・・・ボクの名は、ユウナ・ロマ・セイラン。
【オーブ愛国平和義勇軍】の司令官として、種族の別なく平和に生きられる世界実現のために戦うことを誓った贖罪の戦士――』
ザフト軍からの侵攻を退け、その直後にカガリ元首からの公式発表への横やりを逆用するのにも成功した後。
少しずつ半信半疑ではあるものの、スカンジナビア王国をはじめとする連合参加に非好意的だった国々との外交と交渉が行えるようになってきた矢先に、街頭モニターの大画面にデカデカと姿を現して語り始めたオーブ軍の“前”最高司令官による蕩々とした演説。
それはオーブ国民達にとって見れば、甚だ不快な映像であり言い分だった。
大西洋連邦を裏から主導する《ロゴス》と誼を通じて、自国とは直接的な利害関係のないプラントとの戦争に積極介入し、泥沼の勢力争いにオーブを巻き込んでいく道を選んだのは、彼らセイラン家の選択だった。
その理由が、国力で勝る連合の勝利を確信したが故の、取り分に預かるための“先物買い”にあったことも、今の国民達は知っている。
それだけではない。
連合・オーブ同盟艦隊が《ミネルバ》がぶつかり合った《黒海の海戦》において、『行方不明だったオーブ代表首長カガリ』の名を出して行われたオーブ軍への攻撃中止命令を、『代表首長カガリの“夫”』であり『オーブ軍最高司令官“代理”として』命令を出したカガリを『偽物だ』と断言して、撃墜許可まで出してしまったのである。
それを連合艦隊司令であるネオ・ロアノークたちに聞かれて、録音されてしまったのだ。
俗っぽい言い方を用いるなら、この時ユウナがおこなった行動は、『遺産目的で新妻を殺した入り婿による計画犯罪』であり『セイラン家によるアスハ家のお家乗っ取り』に当たる行為だった。
ユウナ自身の主観では、そこまで計算して語った発言でもなければ、そういった計算が瞬時に浮かぶ頭もない。
あくまで状況と立場から反射的に言ってしまっただけの言葉ではあったのだが、世間からは今どのように彼の言動が見られているか。それが彼の姿が映ったモニターを見上げる市民たちの瞳と表情には露骨に現れている。
『ボクは――いや、ボクたちセイラン家は今までオーブ宰相として、軍の最高司令官としておこなってきたことが誤りであったと認める。国民達には、心より謝罪する。
それらはボク達なりに、国と民達にとってよかれと思っておこなった選択だったとはいえ、誤りは誤りであり、結果として人々に被害のみをもたらし、自分たち自身だけがのうのうと生き恥をさらし続けているのが今のボク達一族なのだ・・・と。
そして、この罪が、ただボク達が死ぬだけで償えるほど軽いものでは決してないことも―――今では理解して、認めることが出来るようになったんだ・・・・・・』
沈痛な想いで片手を握りしめながら、切々と語られる美男子による告解と、自ら犯した罪への謝罪。後悔の念の吐露。
それらは見方によって、あるいは見る者の立場や場所次第では、それなりに涙を誘う内容のものだったかもしれない。
語る者のおこなってきた過去次第でも、聞く者達の心に響くものがある内容だったのかもしれない。
国を戦渦に巻き込んでしまった責任と、よかれと思った行動で多くの人命を無為に失わせてしまった罪への贖罪。
それらはただ責任者が命を捨てることで償い得るほど軽いものではなく、今も苦しみ続けている人々を救済し、責任を背負って生き続け、人々のために尽くし続けるため使ってこそ『真の償い』―――言っている理屈にも一定の理を認める者も0ではあるまい。
だが、しかし――
「ユウナ・・・・・・お前は、まだそんな戯言を・・・っ」
その映像をオーブ市庁舎で見ていた、一時期は相手の妻になる“寸前”の関係だったカガリ・ユラ・アスハの目と心には、かつての婚約者の“落ちぶれた姿”と“身勝手すぎる言い分”は見苦しい足掻きとしか映るものでは全くなれない。
「死ぬより生きることでの償い」だのという、かつての自分を彷彿とさせる表現などは余計に、そういう気持ちを強めさせ、 彼女としては情けない気持ちすら沸いてくる程に。
何故なら、どれだけ小綺麗な言葉で語ろうと、今のセイラン家が勢力としてオーブを支援できるとしたら、その金と力の出所は《ロゴス》から借り受ける以外になくなってしまった後なのが現在の彼らだったからだ。
どころか今の流されている映像でさえ、ロゴスの所有する施設とネットワークを使っておこなう以外に、没落したセイラン家が世界中に意思を示せる手段など持っている訳もない。
『ボクたちセイラン家は、残された力と財産のすべてを費やし、微力ながらオーブの国と民達と――そして愛した女性を守るため投げ出す覚悟を固めた。
それこそがボク達が本来果たすべきだった責任であり、最大限の謝罪であり、償うべき罪の重さだったという事実に・・・・・・今になってようやく、ボク達は気づくことができたんだ・・・』
「もう・・・辞めてくれユウナ・・・ッ! これ以上はもう、お前達が穢れていくだけだから・・・っ」
画面の向こう側から蕩々とした瞳で語りかける婚約者だった男と、画面のこちら側から唇を噛みしめて睨むように相手の暴走を止めたいと願う少女。
両者の歪な関係が、極端なほど現れてしまった姿がそこにはあった。
――そんな姿になるぐらいなら、もういっそ死んでくれた方が――
そう思っている本心を、立場で声には出せないカガリとしては尚更に。
だが正直に言ってしまうなら、それこそが嘘偽らざるカガリの本心でもあった。
もしもユウナに本心からオーブの国と民にしてしまったことで、償いたいと思う気持ちが残っているのなら、彼が『死ぬ』という形でしかありえない。
プラントへと投降し、オーブから正式に同盟の破棄き宣戦布告とを宣言するより前の時点で寄港していた『ミネルバ』を連合に売り飛ばし、ロゴスに協力するため同盟国を裏切った咎で戦犯として処刑される。
その際の苦しみを少しでも和らげるため、せめて自決して亡骸のみをザフトへと差し出す。
――それだけがユウナ達セイラン家にできる、オーブの国と民にこれ以上の迷惑をかけずに済む償いの仕方になってしまっているのが現在の彼らなのだ。それ以外には彼らに償える手段は残っていない。
カガリとて、彼らを殺したいとまでは思っていないし、今では当時の自分自身が『幼さ故の過ち』を犯していたことが彼らの行動に拍車をかけてしまっていた部分を理解できるようにもなっている。
だが・・・・・・これ以上、今の彼らが生き続けたところで、憎しみと怒りと失望を買い続けるだけでしか無い・・・。
そうとまで思い、苦しさに胸を押さずにいられない。
―――だが、そんなカガリでさえ彼の続く言葉は予想外なものとなる。
『そのために今できる一助として、世界中の市民達が求めている情報をボクは示す。
ボクは、ボクの知る秘密を今明かそう。
――皆さんは、先日の放送について疑問を抱いたのではないだろうか?
カガリ代表の傍らに立ち、彼女の語る言葉の正しさを保証したプラントの歌姫が――“ラクス・クライン”は本物だったのか? 偽物だったのか?・・・と。
その疑問の答えをボクは知っている。ボクはその真実を今、語ろう』
「なん・・・・・・だと?」
その発言にカガリは思わずキョトンとした表情を浮かべさせられ、ポカンとさせられてしまった。
彼女の心理を有り体に言ってしまえば、こういう表現が適切になるのだろう。
即ち。
・・・なに言ってるんだ? コイツ・・・である。
あまりに場違いな感想だったが、カガリとしてはそう思わざるを得ない。
キラとラクスの存在は、確かに前大戦が終結してからオーブ国内で匿っていたし、その存在については立場上ユウナたちも承知してはいる。
――だが、それだけだ。
たったそれだけの情報しか持たない彼の話に、今更なんの価値や意味があるというのだろう? カガリには予測も理解もできずに首をかしげる事しかできない。
ところが、だ。
『保証しよう。彼女は本物だ。本当にプラントの歌姫ラクス・クラインこそが彼女なんだ。
証拠もある。今それを見せようと思う。これがボクにできる誠意だと信じて・・・』
そう言って、画面上にズームで示された画像を見せつけられた瞬間、カガリは愕然とさせられることになる。
それは一枚の写真だった。少しだけ端が日焼けしているが、画像自体は鮮明な写真。
・・・・・・そこに映っているのは、夕日をバックにした砂浜の風景。
丘の上に瀟洒な洋館がそびえ立つ小さな砂浜で、幼い子供達が水遊びで戯れながら、離れた位置から中年の男女2人が世話をしている。
そして、それら全てを眺めて肩を寄せ合う、若い男女の二人組。
栗色の短い髪をした端正な少年と、特徴的なピンク色の長い髪をもつ美しい少女。
その姿は、光景は。
紛れもなくキラとラクスたちが戦後に暮らしていた、カガリが用意したオーブ国内にある洋館の光景だったのだ。
――存在を秘匿するため、人気のない国有地に建てたはずの館の写真がなぜ!?
困惑するカガリを置き去りにして、ユウナの演説は続く。
曰く、「戦い疲れた英雄たちに普通の恋人として過ごせる場所を与えたかった優しさ」だの。
「敵味方に別れて結ばれることが出来ない現代のロミオとジュリエット」だの。
「理想を超えた幻想的なまでの恋人たち」「愛する者達としての理想的関係」だの。
『実は一度だけだけど、ボクも見たことがあるんだ。
・・・砂浜を歩きながら、俯きがちに歩いている彼女の肩に、そっと片手を置こうとした寸前で、躊躇っている影を秘めた横顔の少年を・・・・・・。
夕日の中、傷ついたような表情で座り込んでいる少年に、優しい眼差しを送りながら「夕食ができましたよ」と、優しくて静かな声で話しかけ、少年の笑顔を微笑みと共に見守っていた少女を――ボクは見たんだ。
そして憧れた。嫉妬すら覚えるほどに。これこそが恋人達のあるべき姿なんだと。
心から強く想わされて、求めずにはいられなかった・・・・・・』
『結果として、ボクとカガリは彼らのような関係になれなかったのは残念だったけど・・・それでも彼らの姿こそが、ボクの望み求め続けた理想的な恋人だという想いだけは変わっていない。多分、これからも永遠に・・・・・・ね』
歯の浮くような言い回しに、カガリは頭を抱え込みたい衝動に駆られさせられる。
ユウナがキラたちのことを察知していたことは、本人の口から聞かされているため今さら驚く理由はなかったものの、当人達のことを彼がそこまで意識していたなどという話がデマカセなのは確実だろう。
彼女の近くに控える護衛役のキサカも、さすがに表情が苦々しいものを浮かべていた。
普段は鉄面皮の彼が、わかりやすく表情を歪めることは珍しいことだが、その理由は状況の不味さよりも、単に聞くに堪えない美辞麗句の嵐に気色悪さを感じているだけのようにカガリには思わずにいられない。
見ている方が、聞かされている方が恥ずかしさを強く感じさせられ、大勢の耳目を前に語り聞かせている側が平然としているという滑稽すぎる状況。
先の大戦中に、アジ演説のテレビ放送で何度も見せつけられた光景とはいえ・・・・・・まさか自分の身内が、しかも一時とはいえ婚約者だった相手に、その姿を見せつけられる側になるとは想像もしていなかった。
モニター画面に映るユウナの瞳には、明らかに自己陶酔の色があった。
初めのうちは冷静さを残していたように見えた彼だったが、徐々に語っているうちに普段の調子を取り戻してきてしまったのだろう。
“台本”にない身振り手振りやセリフなどが多く使われるようになっていき、撮影している側が自分たちの今いる場所を、軍事基地内部にあるプロパガンダ映像製作用の撮影室なのか、それとも大衆向けで数を稼ぐのに必死な三流トレンディードラマの撮影所だったか。
瞬時には錯覚してしまいそうになるほどに、ユウナの演技には情熱と自己満足に満ちあふれたものへと安っぽく昇華されてゆく。
「・・・適当な人材がいなかったので、とりあえず“前座”を任せてみただけだったんですが・・・・・・」
その光景を、スタジオの後方から見学しながら、いざという時のため控えていたセレニアが苦笑とともに見物しつつ、近くに立っていた広報担当の少佐に向き直り。
「意外と掘り出し物だったんですね、あの人って。使い道が偏りすぎてる人材なのが難すぎますが、使える場面では確かに使える。
殺さなくて良かったです」
最後の一言を聞かされた瞬間に、相手の少佐が唇の端をヒクつかせて肩を震わせられてしまった小さな被害をもたらしながら、ユウナの演説はクライマックスへと突き進んでいく。
ユウナの演説に満ち満ちた自己陶酔は、客観視点と冷静さを保った者たちに対しては興醒めと白けた気分を助長させるだけの役にしか立たぬものではあったが、反面。
映像を目撃していた大衆達のなかで多くの者が、客観的に物事を捉えて感情に流されない冷静な判断力を有している人々だけで構成されているわけではない。
そんな人々に対しては、むしろ今のユウナのような存在の言葉の方が影響を及ぼしやすいことを、セレニアは知っている人間だった。だから彼の演説を放置し続けたのだ。
自らの幻想に酔っている者は、嘘を吐く必要がない。
本人の中では、本当に真実だったのでは?と信じ込むようになっているのが、今のユウナのような状態に陥ってしまった人間だからだ。
民衆たちというカテゴリーに当てはめられた人間は、上に立つ者達の言葉に『嘘を見いだそう』という思考を抱きやすい。
その結果、相手自身の言葉に『嘘はなかった』と感じると戸惑いを覚え、相手の真意がいずこにあっての発言だったのかと疑問を呈するようになっていく。
嘘で騙そうとしているか? 本心からの言葉なのか?・・・という基準で相手の発言意図を考えることに市民たちは慣れすぎている。
一方で、『自ら語っている言葉だから自分自身が信じるようになっていく』という行為には、慣れがない。
それがユウナの演説を聴かされているオーブ市民たちに、少しづつ戸惑いを与え始めていた。
語られる話の内容が、逃亡したセイラン家やロゴスに直接的な利益をもたらすものではなかったことも無関係ではなかったろう。
よく言われる話だが、他人を説得するには、まず己が自分の言葉を信じなければならない。
ユウナは比較的それが得意な人間だった。
話しているうちに、自分の語っている言葉が正論のように思えてきてしまうタイプの人間だったのだ。
権威の側近くに仕えている者には、程度の差こそあれ割とありがちな人間のタイプだったのだが、庶民の暮らしの中で多く出会う類いの人種ではないのも事実だろう。
だから話を聞かされている者たちには、誰も気づく者はいなかった。
『ボクは願う・・・。彼ら恋人達が、幸せに暮らせる世界になることを。
互いを想い合い、愛し合う彼らの関係が、種族によって結ばれることなく終わる悲恋の物語にならない未来の到来を。
彼らの愛が、報われる未来を。
愛は、地球を救えないかもしれない。
愛で、争いを終わらせることは出来ないかもしれない。
いつの世も、困難にある人を救うのは、その人自身・・・・・・だけど、その人が動こうと想うことが出来たのは、救いたい誰かを愛する想いだとボクは信じる。
そして思うんだ。今になって初めて、思えるようになった。
愛とは、自分の力だけで得るものなんじゃなく、贈るものなんだ――と。
世界中の人達が、ほんの少しずつでいい。別の誰かへの愛を贈り合えるようになった世界こそが、平和な世界なんだ――と』
中身はシュークリームのように軟弱であり、定まった形というものを持つことができず。
表層さえも、見た目だけが堅さを感じさせるだけで薄っぺらい。
『ボクとカガリは、もうこの世界では結ばれることが出来ないかもしれない。彼らの愛が報われる世界が来ても、ボクたちの愛が再び結ばれる日は2度と訪れないかもしれない。
それでもボクは戦う。報われなくても、カガリへの愛を贈るために。
国を追われ、残された僅かな財力と戦力だけでボクたちセイラン家ができることなんて、ちっぽけな事だけなのかもしれない・・・・・・。
それでもボクは、自分たちに何もできる力がないとは思わない。
全てを失ったボクにも、最後の武器が一つだけ残っている』
そんな、『甘さ“だけ”』は、言葉でもマスクでも一級品の素養を生まれ持っていたユウナの語るキラとラクス、【戦禍によって引き裂かれた悲劇の恋人達】というラブロマンスは、少なくとも見栄えだけは悪い話には聞こえない。
『それは――カガリへの愛。
人の力は強さなんかじゃなく、誰かを愛する想いの力なんだという事実を―――今のボクは知っているから・・・・・・』
――その言葉を最後に、ユウナの演説は終わりを告げる。
国を捨てて逃亡した国事犯にして前オーブ軍最高司令官ユウナ・ロマ・セイランによる全地球向けのアジ演説が流されてから丁度1時間後。
オーブ代表首長に復帰したカガリ・ユラ・アスハを中心とする、臨時のオーブ政権での中心人物たちは会議場に参集して話し合いが行われていた。
「つくづく厄介なことをしてくれるものですな・・・・・・前宰相のご子息殿は」
現オーブ元首の“元婚約者”が放った問題発言への対策会議を、である。
語っている本人にとってどうかは知らないが、ユウナからの声明発表はカガリを首班とする新たなオーブ政権にとっては迷惑極まりないものだった。
美辞麗句で過剰に飾られすぎた言い様ではあっても、語っていた内容は『プラント議長が本人自身だ』と喧伝してきた政府のスポークスマンを『偽物だったことを示す証拠』を世間に向かって盛大に暴露するという行為だったのだから、彼らとしては堪ったものではない。
ましてユウナたちセイラン家は、今どのような状態にあるかは把握しようがないとは言え、悪名高い《ロゴス》と結託していた一族だったことは、今では多くの者に知られてしまっている事実なのである。
今回の一件で、ロゴスと彼ら一族と『オーブとの関係』について疑問の声を上げてくる者が出てくるのは避けられないだろう。
「まったく! あの疫病神の売国奴共めが! なにが“オーブのために今の自分たちに出来ることをする”だ、そんなに役立ちたければザフトへ投降すればいいだけではないか!?」
「自分たちが死なずに済ませるだけのことを、よくもあれだけ大仰なストーリーに仕立て上げることができたものです。
厚顔無恥さだけでよいのなら、過去の英雄にも劣らぬのでしょうが・・・」
口々にユウナへの悪口雑言を並べ立てずにはいられない、新たに招集された新生オーブの閣僚達。
彼らの怒りは尤もだと思うし、ユニウスセブンの時の自分が示した不甲斐なさは自覚しているが、それでも今の状況はユウナの方が全面的に悪いと、カガリでさえ思わずにはいられないほどに・・・・・・酷すぎる。
もはやカガリ自身にさえ、彼らを庇いたい思いが薄れていくのを自覚せずにはいられなくなりつある。
プラントとオーブ関係の改善のため、戦犯として被害者たちに引き渡して殺させてしまうことには未だ抵抗がある。
だが、こんなことが続くのでは彼らに『断罪の念』を抱くことはなかったとしても、『愛する国民を死なせる一族』として憎んでしまいそうだった。
(ウナト・・・ユウナ・・・いっそ、せめて“死んで”くれれば・・・っ)
そうとまで思う。
オーブを取り戻したときには、罪悪感と贖罪の念も手伝って、なんとか生かせる道はないかと願っていた直近の過去を忘れたわけではなかったものの、もはや彼らを生かし続けられる道はオーブにもなく、せめて『苦しまぬ死』だけが彼らに与えられる最大限の配慮にまで成り果ててしまっている現状に彼らはある。
それら全てが、彼ら自身の行動と判断の結果によって―――
「いずれにしろ、我らにはプラントからの反応を見た上で対応するしかありません。
今回の一件と我が国とが無関係なこと、現在のセイラン家が我らの制御下にはないこと、ロゴスによる何らかの策略の一環として利用されている危険性があるため注意されたし、などのことは先程コチラから説明しております。
あとは、待つより他に出来ることはありません・・・・・・」
外交担当の大臣代理が沈鬱な口調と表情で述べた言葉が、全体の空気をさらに重いものにする。
自分たちに出来ることは全て行ったが、外交とは相手あってこそのもの。自分たちの都合や努力だけでは如何ともしがたい部分は確実にある。
相手国が、ユウナたちの行動をどう捉えるのか? 自分たちの説明をどう解釈するのか?
それら他人たちの判断に、自分たちの国と民と多くの者たちの安全まで委ねざるを得ない立場と関係性に胃の痛い思いを味あわされながら、オーブ臨時首長会議の面々は判決を待たされる死刑囚のような心地でザフト軍からの公式発表を会議室で待ち続けることになる・・・・・・。
だが、オーブ重鎮たちの心労に満たされた待ち時間は、幸か不幸かは別として思いのほかに終わることになる。
ユウナからのゲリラ放送が行われて1時間もたたぬ内に、会議室の壁面に取りつけられている巨大モニターの画面いっぱいに、緑色の軍服をまとったザフト軍人の姿が、いかめしい顔つきで映し出されたのだ。
『地球連合軍、ならびにザフト軍の戦士たちに告げる。
我々の名は《サトー・フリート》
《ユニウスセブン》を地球へと落下させ、あの場所で無惨に散った命の嘆き忘れ、偽りの世界で嗤う撃った者らに正義の断罪を与えたサトー隊長の遺志を継ぐ者。
サトー隊長と、今は亡き我らの同志たちは、愛する祖国プラントの人々と永遠の平和を守らんがため、その尊き命を捧げたのだ』
左頬に銃創を負った壮年のザフト軍人が、怒りと義憤に燃える想いを両眼に込めながら、画面の向こう側にいる全ての者達に向けて己が思いの丈を語りかけてくる。
地球に大打撃をもたらした《ユニウスセブン落下事件》の首謀者の部下と称する男からのメッセージに地球上で暮らすほとんどの者達は息をのまされ、その一言一句、一挙手一投足まで見逃すまいとするかのように画面内の映像に注目させられる。
『所謂《ユニウス条約》と呼ばれる先のプラント独立戦争後に結ばれた終戦協定は、偽りのものであることは誰の目にも明らかである!
何故なら条約は、売国奴カナーバらクーデター政権によって結ばれたものだからだ! 非合法な手段で成立した政権が交わした密約に正当性があろうか!?』
『隊長の遺言に従い、我らは待った。
目先の利益に惑わされることなくプラントの未来を担う若者たちが目覚めてくれるのを。
ナチュラルどもの暴虐から同胞たちを解放し、理不尽や非道が専横する世界を変えるため立ち上がってくれることを。
愚かな旧世界の者達が、自らの行いで散っていった死者たちの涙を理解し、あの場所が墓標となった幼き命たちに頭を垂れて悔い改め、パトリック・ザラが示した道こそ唯一無二の正しき世界へと繋がる道であったのだと理解できる日の到来を―――だが!!』
そこまで語り、「クワッ」と眼を見開いた彼の瞳には、嘘偽りなき怒りと憎悪と恨みとが煮えたぎった負の感情で満たされたもの。
たとえその主張が、あまりに『殺された側だけの主観』で作られたものであろうとも、『ユニウスセブンを落とされた側の遺族たち』にとってはコーディネイターの傲慢さと上から目線での見下しを象徴してしまうものになっていたとしても。
語っている者達自身が、自らの語る正義と正しさと、自分たちが「された事への恨み」と「被った被害への怒り」とを心の底から信じて語ってきていることは間違いない・・・・・・ッ!
聞いている者達に、そう感じさせるに十分過ぎるものが込められていたのが、彼の演説だった。
少なくとも、演説を聴いている者の多くには、そう信じられるに充分だったのである。
『だが、愚かなる旧世界の者どもは何も変わらなかった! 隊長たちが命を捨てて行った抗議を受けて尚、地球は何も変わらなかったのだ!!
その事実を、先のふざけた演説は証明している!!
オーブのセイラン家は、ブルーコスモスと結託した地球連合と盟約を結び、あの悪名高き《ロゴス》を宇宙へ逃亡させることに加担した者達であることは誰もが知っている事実でしかない!
ならば奴らの言い分が、嘘偽りに満ちたものであることは誰の目にも明白なはず!
当然、その事実をオーブが知らぬはずがない! 奴らはオーブの重鎮であり、代表だった過去をもつ者達! にも関わらず今では関係がないなどという逃げ口上が通用するとでも思うのか!?』
『忘れてはならない! 奴らが《ヘリオポリス》で行っていた行為を!
奴らが連合と結託して生み出した《ストライク》によって、どれほど多くの者達の父が! 兄が! 息子たちが殺されたのかという事実をッ!!
彼らの怒りを! 恨みを! 涙をッ!! 我らは決して忘れてはならないッ!!
だというのにオーブは再び、それをやった! 《ヘリオポリスの過ち》を奴らは再び犯して連合と手を結び、また我らの父と子を殺そうとしているのだ!
自分たちの国だけが生き延びるために! 只それだけのために我らコーディネイターを生贄とすることで!!』
傲然と決めつけて、その軍人は演説のラストをこう結ぶ。
『もはや我らが軍団に、躊躇いの吐息を漏らす者はいない。
軟弱なカナーバの後継として指名されたデュランダルらに騙されることなく、プラントとコーディネイターの未来と、真の平和を得んがため。
プラントに徒なす卑劣なブルーコスモスの共犯者どもに正統なる裁きを与えるために。
我々《サトー・フリート》は、パトリック・ザラの志を継ぐ正統なるザフト軍として、ここに改めて地球連合の愚者共と、その共犯者たるオーブ首長国連合に対して宣戦を布告するものである!
繰り返し心に聞こえてくる、《ユニウスセブン》で散っていった者達の嘆きと涙を胸に。
愛する祖国プラントと、守るべき同胞たるコーディネイターに永遠の未来と平和へと続く聖なる防衛戦争を信じて・・・・・・。
プラントよ! コーディネイターよ永遠なれ!! 我らザフトに勝利と栄光をッ!!!
ジーク・コーディネイターッ!! ジーク・プラントッ!!! 正しき未来と新世界を創るためにッッ!!!」
そう告げて灰色の画面に戻った、無言の漆黒しか写さなくなったモニターを前に。
オーブの臨時首脳陣となった者達は、頭を抱えることしかできなかった。
先の演説と内容が、地球上の国々からプラントとオーブへの悪感情と対応と評価とを良い方向にもたらしてくれるものだとは誰にも思うことが出来るはずがなかったからだ。
核ミサイル奇襲から始まった戦争の拡大と、デュランダルの戦略方針、そして何より《ロゴス》の存在暴露によって多くの人々の記憶から忘れられつつあった――いや、忘れようと努力していた『ユニウスセブン落下の惨劇と被害』を、先の映像は思い起こさせてしまったであろうことは確実だ。
ならば、その一員として名が上がり、現実にロゴスを宇宙へ逃がすことに手を貸してしまっていたオーブにも非難と疑惑の目が向けられるのは避けようがない。
「・・・・・・こうなってしまっては、やむを得ないだろう・・・」
会議室内に、カガリから発された重苦しい声が響く。
「オーブ艦隊を宇宙へと派遣して、ユウナたち―――セイラン家を討つ。
もはやオーブが世界に対し、プラントに対して、ロゴスとの絶縁と誠意を信じてもらうための手段は他にない」
「マリュー艦長たちにも連絡してくれ。今回の戦い、オーブ軍でないとは言えアークエンジェルにも参戦してもらいたい、と―――」
地球上の一部で一人の少女が重く暗い決断を下さなければならなくなったのと同時刻。
その原因となった映像と演説への対応を巡り、周囲が燦々囂々の激論を戦わせ合っている騒がしい空間となった場所の中。
中心に座す、一人の男だけが静かな沈黙の中で思考の海に浸っていた。
―――厄介なことにされたものだ。
と彼、プラント議長ギルバート・デュランダルは心の中だけでそう思った。
今回の“バカ騒ぎ”でプラント内の世論とザフト軍内部は揉めるだろう。
今までは勢力の弱体化と市民たちからの支持が薄れたことで影響力が低下していた《ザラ派》の残党たちが再び息を吹き返すことは明白だ。
今頃はすでにプラント市民たちの戦意を煽るため、盛大にプロパガンダ付きでの扇動演説でもやり始めているかもしれない。
大方、音頭取りを指揮しているのは、あの男か。
『ハリ・ジャガンナート』辺りだろう。
今も健在なザラ派の幹部たちの中でも、特にタカ派の急先鋒でもある時代錯誤で大時代的な考え方をもつ彼のことだ。
先の演説の内容を聞かされて、触発されない人格の持ち主とは到底思えない。
映像の中で『ユニウスセブン落下の主犯サトーの部下だった』と称していた男が偽物であることを、デュランダルは疑っていない。
何しろ、彼自身が知らない相手なのだから。
影のスポンサーが自分であることを、サトーたちが知っていたはずがないとは言え、自分の方は事を起こさせるメンバーを調べ上げた上で選別し、揃いの機体を横流ししてやった身なのだ。そんな自分が知らぬ存在がサトーたち実行犯の中にいるわけがない。
だが一方で、彼らの存在と所属や階級そのものは真実を語っていたのだろう。その程度の単純すぎる策略を弄してくる相手とは思えない。バレたとしても問題ない程度の人選を用意した上での作戦だったはずである。
もともと宇宙戦争が主流となった現代の戦争では、パイロットの死体が発見されて死亡が確認できることは数少なく、行方不明者などは『MIA』として『戦死と同義で扱う』ことが多いのだ。
その中からサトーの部下だった者を見つけて、容姿が似ている者に整形手術でも行ってやれば、無名の一軍人が実は生還していたことにするのは大して難しい作業でもない。
あるいは整形する際には、コーディネイターの技術が用いられたかもしれない。プラントの技術は優秀だ。
金さえ積めば“そういう仕事”でも担ってくれる業者には、デュランダル自身も過去に一度世話になってもいる。
今回の一件を、そういった過去の実在するデータを証拠として否定したところで、信じて受け入れてくれる者は、最初からの自分の支持者たちに留まるだろう。結果が分かっているのなら余計なことは言わない方が賢明というものだった。
―――まぁいい。そう悪い結果というわけでもない。
そして今度は気分を変えて、そう思い直して内心だけで笑みを浮かべる。
確かに計画は大きく狂わされ、予定の大幅な変更を余儀なくされたのは事実であったが、今回の一件で確実にオーブと“彼ら”は宇宙へ上がってこざるを得なくなるだろう。
正直なところ、先日の一件でオーブには更に手を出しづらくなってしまっていたのは事実だったため、ホームである宇宙空間での戦闘で彼らを討ち果たせる機会が得られるのはデュランダルにとって悪くない条件だった。
あるいは、戦場へと到着する前の時点で、彼らを始末する機会が得られるかもしれない。
世界全体のため、人類のための大目標を叶えるためだ。
やり方が多少、卑劣や非道な手を用いたとしても必要悪として割り切れる。既に一度は手を染めている道だ、今さら心に痛みなど感じるほどの事とは彼には思えない。
それに――――頼りになる味方も増えたことでもある。
「議長、予約されていたお客様が到着されたと報告がありました。ご指示通り、執務室の方へすでにご案内しているとのことですが・・・」
「そうか。ではすまないが、一時だけ席を空けさせてもらおう。ザフト軍にとって強力な味方が地球にもいるのだという事実を、私も直に目で見ておきたいのでね」
優しい笑顔と口調でそう告げて、秘書官を下がらせて一人で執務室へと続く廊下を歩んでいったデュランダルは、やがて一つの扉の前で立ち止まり、その部屋の中へ入っていくと―――視界の先で跪く、一人の麗しい容貌をもった銀髪の少年と向かい合う。
「お久しぶりでございます。世界を統べる資格を持った、力ある御方。
この《ブラックナイツ》の隊長格、近衛師団長『シュラ・サーペンタイン』
母上からの指名により、援兵として罷り越しました。
あなた様の指揮で戦えるのは光栄の極み。どうか、我らにご指示を。ギルバート・デュランダル閣下。
我ら全ての《アコード》にとって、父とも呼ぶべき偉大なる御方よ―――」
つづく