機動戦士ガンダム 死のデスティニー   作:ひきがやもとまち

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ようやく完成。やっと更新です。原作準拠ルート版としての28話目。
しょうじき話数わかり辛くなってるのは自覚してますので、まとめた方が良いか悩んでます。


【PHASE-28 原作準拠ルート】

 

『コロニー護衛艦隊より通信、《グノー》が予定されていた定位置まで到達することができたとのこと』

『最終セーフティ解除、全ジェネレーター臨界へ』

『尚、護衛艦隊は射線上より待避するため一旦、後方へ下がります』

 

 せわしない報告と応答の声が飛び交う連合軍の月面基地《ダイダロス》

 その基地内にある司令ブースからオペレーションルームを見渡していたロード・ジブリールは、遂に訪れた至福の瞬間の到来を前にして目を輝かせ、浮き立つ心を抑えるのに苦労するほどだった。

 ようやくリングコロニー《グノー》が、予定していたポイントまで到達することができたことを、モニター上の表示は示すものだったからである。

 

 ――待ちに待った刻まで、ついに来ることができたのだ。

 今まで払ってきた犠牲が無駄ではなかったという事実が証明される、天の裁きが下されるまで、あと僅かのところへとようやく――

 

「照準はどこに?」

「アプリリウスだ。決まっているだろう? これは警告ではない」

「ハッ、承知しました。照準、プラント首都アプリリウス」

 

 傍らから追従するように、わざわざ分かりきっている解答を確認してくる“お世辞”でさえ、今この時には心地よく感じられ、心からなる祝福に思えてしまうほどに――至福の時。

 この戦いが始まった時とは、地上と月面との違いこそあれ、同じように地下深くにある施設内から宇宙に浮かぶバカで無様な砂時計を殲滅するための裁きを放たせるという愉悦。

 

 実のところ、その最初におこなった判断の失敗と大被害に振り回され、補いをつけるため足掻きと誤魔化しとを繰り返した結果として、地上を捨てて宇宙の深淵まで遙々やってくる羽目になる始まりとなっていたのが、地球軍から見た今次大戦における経緯だったのが・・・・・・そういった部分は考えないのがジブリールらしい思考法というもの。

 

 

 ――だからこそ、周囲の誰もが気付かなかった。

 基地司令と主君との間で交わされ合ったやり取りに、僅かながら生じた不自然さに。

 

 ぎこちない、と言うではないが、どこかしら抑制されて落ち着きすぎた声音での応答。

 

 もしプラント議長デュランダルが、この場に居合わせることが出来ていたら、その微細な違和感を察することができたかもしれない。

 察した違和感から、その裏にある真意まで見抜くことが可能だった可能性も0ではなかった。

 

 だが、神ならぬ人の身でプラント国内にいながら、プラントを狙う者達の拠点にも同時に存在して話を聞けた可能性を求めるのは、人間には諦めるしかない可能性でしかない。

 だからこそ

 

『目標点入力、アプリリウス。ファーストムーブメント、準備よろし』

『レクイエムシステム、発射準備完了。シアー解放、カウントダウン開始』

『発射まで、Tマイナス35。

 トリガーは、どうされましょう?』

 

 

「こちらへ回してください。私の元へね」

 

 

 ――その静かな声音が司令ブース内に響いた瞬間。

 

 ギラリと、危険な光が愉悦の笑みを浮かべていたジブリールの瞳に浮かび上がり。

 チラリと、その姿を横目で見つめた基地司令の眼に妖しい光が宿りはじめる。

 

 彼女は失敗したのである。思い上がったのだ。

 確かにヘブンズベース以来、今日に至るまでの結果へと導いてきたのは彼女が記したシナリオに沿った結果ではあった。それは事実だ。

 

 だが物語の決着をつける寸前で、クライマックスを告げる鐘まで鳴らす役を奪うべきではなかった。

 必勝を期すため、自らタイミングを測れる立場に立つことによって、より確実性を高めようとしたのだろうが・・・・・・愚かなことだ。

 

 地球軍においては、どれほどの実績や能力をもった士官や指揮官であろうと、彼らの意向に逆らうが如き行動をおこなった者は例外なく死ぬ運命にあった。

 

 故ハルバートン中将がそうだった。アークエンジェルも同様だ。 

 当時の連合軍内では最も高い戦果を出し続けてはいた新造戦艦のクルーたちと、《Xナンバー》のMS群を生み出した産みの親と呼べるかもしれない連合軍初のMS開発計画責任者だった将校。

 

 どちらも共に問題こそ多い者達だったが、力と実績はあった。だが上に従順ではなく、反発してきた。だから殺される役に選ばれることになる。

 結果として、どちらも連合の手によって殺されることはなかったものの、それらは所詮結果論。あのまま残り続けたところで殺される未来は確定していた者達だった。

 

 その一員に、新たな子供が加わっただけのこと。

 年老いて、多くの若者たちの死を見届けながら自分は生き続けてきた基地司令にとって、それは珍重すべきほど珍しいことではなく平凡な日常。

 まして、ライバルの同僚が失言問題で失脚するというなら、喜んでみて見ぬフリをするのが連合軍将校としての常識的な処世術というものでもある。

 

 そんな上司と同僚からの、毒と針に満ちた視線を向けられながら、自身の前にあるコンソールが開いて中から迫り上がるように出てきた、拳銃の取っ手のような形状をした発射装置を掴み取ると、無表情に無感動に効率だけを優先した理屈だけで物事を捉えて思考するタイプと、周囲から酷評されている少女指揮官らしい行動として

 

 

「―――どうぞ、ジブリールさん。

 そのお手で、長年の因縁に決着をつけられますよう。ご存分に」

 

 

 スッと、冷たい床に片膝をついて頭を深く垂れ。

 神への供物だけを捧げるかのように、発射装置を両掌の上に置いて、ジブリールの前に跪きながら。

 

 古臭い時代における、『臣下の礼』を完璧にとって見せたポーズによってセレニアは。

 機械から取り出したのではなく、自分が直接その手でジブリールへと発射装置を差し出す役目を担うことになる。

 

 

「ふふふ・・・・・・セレニアくん、つくづく君は悪い子だな。大人をからかうのは良くない趣味だよ」

 

 

 その仕草と言い分を聞かされたことによって、完全にジブリールと基地司令の表情は真逆のモノへと反転したものに変わってしまっていた。

 基地司令は、陰気そうな顔立ちにムッツリとした不機嫌そうな表情を貼り付けたまま黙り込み、ジブリールは愉快そうな笑みを顔中に浮かべて満悦を口に述べる。

 

 その表情は基地司令の本音を言葉より雄弁に「おべっかで媚びを売る色ガキめが」と罵ってきていたが、ジブリールの解釈はそれとは些か異なるものだった。

 陰気な顔の基地司令には意外なことだったがジブリールは、セレニアの見え透いた“ご機嫌取り”を喜んでいるわけでは必ずしも無かったからだ。

 

 実のところロゴス軍内部におけるセレニアの地位は、今の段階に至ってなお決して高いものにはなれていない。

 確かにヘブンスベース戦以降におけるロゴス側の勝利は、彼女の手腕によるところが大きかったのは事実だが、逆に言えばヘブンズベース戦までセレニアは、無名の中級指揮官の一人に過ぎない存在でもあったのだ。

 

 ・・・・・・そんな人間が、組織が没落していく中で一人だけ地位と名声を上げていったなら、他の者達からはどう見えるか? どういう人間だと思われているか?

 ――それを少しでも考えさえすれば、自分の立場が如何に危ういものであるかぐらい、即座に解ろうというもの。

 

 だからこそセレニアは、他の者達にも見られる場所と状況でジブリールに対して、分かりやすく“ご機嫌取り”をすることで“命乞い”をして見せたのである。

 

 ――自分自身の命を守るためには、あなたの助力と庇護が必要です――と。

 

 それらの狙いを見抜いたからこそ、ジブリールは相手の『保身』に満足したのだ。

 ジブリールは元々、そういう人間観をもつ人物だった。

 

 

 所詮、誰でも自分の身が一番かわいいものなのだ。

 世界平和だなんだと言いながらも、本心では自身の安泰が重要な者ばかりなのが現実。

 忠誠だ義務だと声高に唱える者でも、危なくなって自分だけは助かると言われたら喜色を見せる。

 

 どいつもこいつも全く同じ、目先の利益しか考えていない。世界の行く末を心から憂えているのは自分だけ・・・・・・。

 だからこそ自分だけは何としても生き延びて、バケモノたちから世界を守るため戦い続けなければならないのだ、と。

 そういった独善的な価値観でしか他人たちを見ようとしないのが、彼という人間の特徴だったのである。

 

 当然こういう人間には、無私の忠誠心だの無償の優しさだのと言った自己犠牲的な行動動機などを存在自体を認めることなく、むしろ本心では「なにを企んでいるのか?」と疑いを強める理由にしかならないことの方が非常に多い。

 

 自分の価値観から見て理解できない思考法をする存在は、存在すること自体を認めないのが、彼らのような人間がもちやすい心理面での共通点。

 そういう人物だったからこそ、露骨に『生への欲望』を示してきたセレニアの行動を、逆に信用する理由になっていたのだ。

 

 自身が生き続けるためには、この自分の力が必要であることを正しく理解していることを示してきたセレニアの行動は、利害損得と生への欲求を優先する俗っぽさがジブリールの人間観を肯定するものでもある。

 

 また、軍事的な才能と実績で自身を上回っている相手から独善的な本心を見せつけられるのは、『自分一人だけが無私の想いで世界全体のために戦っている』と信じ切っている独善的なジブリールの優越感とプライドを満たすものでもあった。

 

 

「では、君には悪いが獲物の最も美味しいところは、私が頂かせてもらうとしよう。

 ありがたく奏でさせてもらうよ、宇宙のバケモノ共を弔うためのレムイエムをッ!!」

「はい、この一撃によって世界すべての者達が思い知ることとなるでしょう。

 自分たちが犯した罪の重さを。自分たちが誰に、どんな罪を犯してしまったかという罪深さを」

 

 

 渡されたトリガーを握って、紅潮した頬と興奮しはじめた口調で語りかけてくる主君から一歩後ろへ退いた位置から追従する言葉を、冷淡な口調で白々とした表情を見られない場所で合わせつつ。

 

 

(こういう時には、分かりやすくご褒美を要求する人になった方が“この程度の奴”と見下して侮ってもらえるから楽でいいんですよねぇー・・・・・・)

 

 

 などという無礼な本心を腹心から抱かれていたことなど、欠片ほども疑いを抱く気持ちのないままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その攻撃が連合軍基地から放たれた瞬間。

 イザーク・ジュールが部下たちに向かって、新たな命を下していた理由は、ただの“勘”にすぎぬものでしかなかった。

 

「――全機に通達! ただちに戦場を離脱して退避行動をとれッ!!」

『ああァッ!?』

 

 白服をまとう隊長からの指示を聞かされた最下級のグリーンをまとっているディアッカ・エルスマンが、思わず柄の悪い口調で返してしまったのも当然の反応だった。

 現状の彼らは堅牢な敵の守りを遂に突破し、攻撃目標だった接近中のコロニーへと肉薄している最中にあったのだから。

 

 そこに突然の退避命令とくれば、たとえ上官からの命令とあっても部下から真意を問う声ぐらい上がるのは当然の反応だろう。

 

『おいイザーク、いきなり待避命令って、なにか重要な急報でも入ったのかヨ!?』

「知るか! とにかく持ち場を離れて総員を離脱させろ! 味方に構うな、全力で逃げろッ!!」

『逃げろってお前―――ああ、もうッ!!』

 

 訳の分からぬ隊長からの命令と、説明になっていない説明を聞かされるだけとくれば、付き合いの長いディアッカでさえ苛立ちの声を上げずにはいられない。

 だが幸か不幸かジュール隊の面々は今までの経験から、人付き合いが不得手な隊長からの言葉不足な指示や命令には慣れがあった。

 

 またイザークには、どうにも獣じみた本能的な危機感知能力とでも呼べるものが備わってでもいるらしいのか、これまでに同じような理由説明で発せられた同じような命令をくだされた時には、窮地を脱することができたことが一再ではない実績があったのだ。

 

 だからジュール隊の隊員たちは、口でこそ不平不満を零しながら、肉体は忠実に隊長からの待避命令を即座に実行に移しはじめていたため、後退そのものは迅速に秩序を保って行うことが出来たといっていい。

 

 だが、それはあくまでイザークとの付き合いが長いジュール隊だからこそ通用する理屈である。

 彼との付き合いがさほどある訳でもない他部隊にとって、イザークから突然の退避命令は越権行為であるばかりか単なる迷惑でしかないものだった。

 

「待避だとバカめ! 敵が正面にいるんだぞ! イザーク・ジュールの若造は気でも狂ったか!?」

 

 ナスカ級の艦橋に立つ白服をまとった小太りの隊長も、僚友からの指示内容にいきりたって声を荒げた一人だった。

 同じ戦場で同じ作戦に従事していた《チュニス隊》を率いている隊長こそが彼だった。

 イザークのように自らMSを駆って最前線でも部下を戦いながら指揮したがるタイプの隊長と違って、母艦から隊全体を指揮するタイプの指揮艦だった彼にとって、僚艦から唐突に伝えられた待避指示は迷惑を超えて利敵行為に近いものとすら思えてならない。

 

 目前に広がる戦場では、頑健にコロニーを守り続けていた敵艦隊が遂に諦めたのか後退する素振りを見せてはいたが、散を乱して逃げ散っているというわけではないのだ。

 整然と後退したまま、集団としての秩序を未だ保っている。

 

 このような敵部隊を前にして、ただ無秩序に背中を見せて逃げる等という行動は追撃される危険を買うだけで何の意味もない愚行としか受け取りようがない。

 まして自分とイザークは同格の隊長同士であり、年齢でも自分の方が上なのだから、居丈高に押しつけがましい命令を聞いてやる義理などあるわけがなかった。

 

「やはり、あんな男を信用すべきではなかったのだ!

 あんな出戻りの裏切り者を徴用し続ける男などを信用すべきでは・・・っ」

 

 加えて私事ながら彼には、イザークに対して個人的な遺恨が存在していた。

 正確にはイザークとの遺恨ではなく、彼が副官のように徴用している《バスター》のパイロットだったディアッカ・エルスマンに遺恨があるのである。

 

 ――先の大戦終盤の戦場で、彼は自分の部下を《足つき》と共に行動するようになっていた《バスター》によって撃墜され、戦死させられている。

 ディアッカは出来うる限りザフト軍機を落とさぬよう意識して戦ってはいたものの、目指す目標がザフト軍の拠点《ヤキン・ドゥーエ》の破壊とあっては、一機の味方機も落とさず目的を達成することなど不可能だったのだ。

 

 隊長自身としては、戦争の中で起こった出来事だったと受け入れて、軍人として国が無罪を言い渡した判決には従うのが筋だと思ってもいる。だからこそ今日まで過去の遺恨で相手と揉めることなく、同じ作戦にも従事することができてもいる。

 

 だが、ここに来て切っ掛けを得てしまった、彼の感情と過去の恨み言は、彼らの行動と運命とを激しく揺り動かす理由に結果としてなってしまう。

 

「隊長ッ。アザルト3より、ジュール隊の後退によって陣形に穴が開き、増援なしでの修復は難しいと連絡がッ」

「ええい、仕方あるまい! 他の者を回して穴を埋めさせろ! イザーク・ジュールめ、味方殺しのエルスマンめ! 子供の身勝手でこちらが迷惑させられる――」

「た、隊長ぉぉぉぉっ!?」

「今度はなんだッ!?」

 

 艦橋前方に席をもつ操舵担当のクルーから悲鳴じみた叫びが聞こえ、苛立ちと共に正面へと向き直った彼が目にしたものは。

 

 

 ―――無限の闇を切り裂くように、凄まじい速度で迫りつつある膨大な量の光の束。

 

 

 その光の本流に、彼ら自身が飲み込まれ、艦を含めた隊全体が包み込まれた瞬間には。

 すでにチュニスと、彼の部下たちの肉体は原子レベルにまで蒸発させられ、魂すらも焼き尽くされず残っていたのかどうか・・・・・・確かめる術は人の身で叶うことは、もう二度と無い――

 

 

 

 

「な、なんなんだ、この光は・・・? ビームが・・・・・・曲がっている、だと・・・?」

 

 

 目の前で展開されている信じられない光景を前にして、イザークはただ驚きを口にすることしか出来なくなっていた。

 彼の呟いたとおり、チュニスたちを飲み込み一瞬にして殺してしまったらしい敵の攻撃は巨大なビームによるもので、それは自分たちの眼前で緩やかなカーブを描きながら、凄まじい速度と量を維持したまま、自分たちの後方へと急速に向かって飛翔していき、

 

 

「――あっ!? しまっ」

『イザーク! 敵がッ』

「なにっ!?」

 

 ディアッカに言われて慌てて目をやると、たしかに一度は退いていた敵艦隊が再び反転攻勢の構えを見せつつあった。

 先程までより戦力が減少させられ、心理的衝撃が大きい自分たちの隊だけでも生かして返してやろうという慈悲の心は、どうやらこの敵たちには期待できそうにないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、イザークが目撃させられ危機の到来を確信せざるを得なかった光の本流は、チュニス隊を飲み込み終えたすぐ直後に、プラント本国まで到達し。

 宇宙要塞メサイアの司令室から状況を眺めていたギルバート・デュランダルの目にも見える距離へと至っていた。

 

「あ・・・・・・ああ・・・あ・・・ッ!」

「これは・・・一体、なにが・・・・・・ッ」

「こ、こんな・・・・・・! 馬鹿なっ・・・・・・」

 

 正面の巨大モニターに全景が映し出されている信じられない光景を前にして、集まっていた誰もが顔色を失って意識と心が凍り付くような恐怖に襲われていた。

 整然と回転を続けている巨大な砂時計にも仁多百数十基の宇宙プラント――そこに向かった恐るべき早さで接近してくる一条の歪んだカーブを描く禍々しい光の渦。

 

 それは、デュランダルとて例外ではなかった。

 

 異変はすぐに起きた。

 宇宙空間を走り抜けてきた光条が、巨大な砂時計を“守るように立ち塞がっていた艦艇たち”を飲み込み続け、宇宙の塵へと次々と還してしまっていく。

 

 状況変化によって本国防衛のため後方へと下がった位置で展開されていた、ザフト軍のプラント防衛艦隊が光の渦に狙い澄ましたように飲み込まれ、一方的に多くの船が一瞬にして破壊されてしまっていたのである。

 

 それだけではない。

 未だ勢いを衰える距離にない光の渦は、プラント防衛のためという目的から最も外縁部に位置して、他のコロニーと異なりL5ではなくL4に設置されていた、兵器工廠を兼ねる新造のコロニー《アーモリーワン》を貫き通して崩壊させ―――ようやく、限界の時を迎えて消滅していく・・・・・・。

 

 

「なにが・・・どういう事だこれは!? どこからの攻撃だ! 一体なにが起きたというのだ!?」

 

 叫ぶように確認を命じたデュランダルの声にさえ、冷静さに刃毀れが生じているように周囲の側近たちには感じられるほどだった。

 事実デュランダルは予想外の事態を前にさせられ、動揺を身体の奥に押さえつけようと努力するのに必死にならざるを得なくなっていた。

 

―――アーモリーワンが撃たれただと!? 一体何故! どうしてこんな事に!?―――

 

 まず浮かんだのは、そんな疑問ばかりだった。

 彼の予想では敵の狙いは、一撃で戦争に決着がつけられると確信しているであろう場所、プラント評議国の政治中枢を担うコロニー《アプリリウス》の破壊を目指して確実に撃てる不意打ちの第一射目を放ってくるのは確実と読んでいた。

 

 だからこそ自身は万が一のため、アプリリウスを離れて安全な宇宙要塞メサイアから状況を見守る算段で到着していたし、またダイダロス内部に手駒として確保している者達からも「予定に変更はない」と報告を受けてもいた。

 

 万が一にも計算違いなど有り得ない状況を作り上げていたはずなのに・・・・・・それなのに何故!? どうして!?

 

 やがて“現時点での”正確な被害が確認され、国家元首としてデュランダルの元へ報告がもたらされる。

 

「ほ、報告いたします。敵の攻撃は月の裏側から発射された巨大ビーム砲によるものであることが判明いたしました。

 それにより襲撃の被害から復旧しつつあった《アーモリーワン》は、直撃によって完全に消滅。

 第二、第三兵器工廠として建設途上にあった《アーモリーツー》と《スリー》も、《アーモリーワン》の衝突によって土台部分が完全に崩壊させられたと、作業現場で生き残った者達から確認が取れた模様です・・・・・・」

「月の裏側からだと!? どういうことだ! そんな所から撃てるわけがあるまい!?」

「おそらく敵は、廃棄コロニーに超大型の《ゲシュマイディッヒパンツァー》を搭載させ、ビームを数回に屈曲させたものと推測されるとのこと・・・。

 このシステムであれば、最初の発射ポイントが何処にある砲だろうと、屈曲点の数と位置次第ではプラントを狙い撃ちすることも理論上は可能であるとの参謀本部からの推察が出されており・・・・・・」

「なんと言うことだ・・・ダイダロスにこんな施設があったとは・・・・・・我が軍がいつも通り、月の正面にあるアルザッヘルを警戒していたことが裏目に出たか・・・・・・」

「悪魔だ・・・こんなもの、悪魔の業としか思えない・・・・・・ッ」

 

 自身にとっては既知の、だが周囲に他人たちにとっては初めて聞かされる情報に恐れおののき旋律しているザフト軍の高官たちとプラント評議会の議員たち。

 だが既に知っている情報のやり取りでしかないデュランダルにとって、それらは重要事項ではない。知っている情報だからこそ重要さを感じることは出来なかった。

 

 今この場で唯一、敵の兵器の詳しい詳細を知っている彼にとって重要視すべきだった案件は只一つだけ。

 

 

 ――チャージ時間の長い一撃必殺の兵器と知りながら、敵が千載一遇のチャンスをドブに捨ててまで敵はなにを成そうとしているのか?――その一点だけが重要だったのである。

 

 

 やがて、その答えも部下たちの中からもたらす者が現れるようになる。

 

「ぎ、議長! 大変です。どうやら現在プラント内のネットワークを通じて、民間の報道機関によりロード・ジブリールからの犯行声明が公開されているらしいのですが・・・」

「なんだと? 民間の報道機関が? どういうことか」

「まさか先日のようにロゴスのれん中に買収されていた者が混じっていたというのか!?」

「い、いえ、そうではありません。

 どうやら民間からの情報提供という体を取って、事件発生よりかなり前の段階から送りつけられていたものが、条件指定で開封される作りになっていたということでして・・・・・・」

「また、どうやら同じ内容のものが民間用の個人端末にも、トロイ型ウィルスによって散布されていたらしく、既に相当数のものが開封されたらしく、今から主要な報道機関のみを規制したところで、拡散を止める術はおそらく・・・・・・」

「全ては計算通りという事か―――おのれロゴスめ! いつもいつも小賢しい真似を!!」

 

 怒りながらも今更どうこうできるという問題ではない以上、彼らとしても既に出回ってしまっているというブルーコスモス盟主からの犯行声明を聞いた上で対応を決めるより他に未知もない。

 

 やがて映像はモニターに映し出されて、プラント政治を代表する面々の前に、豪奢な椅子に座って優雅な姿勢でくつろぎながら、膝の上にのせた猫の背中を優しく撫でている紳士風の優男の姿が、全体を映すアングルによって映し出されることになる。

 

 

『初めましてと言うべきかな。プラントの国民たちとザフト軍の兵士諸君。

 私の名はロード・ジブリール。

 地球に産まれた全ての人々を導くため、地球圏の頂点に立つべき使命を背負い産まれてきた、正当なる地球圏の支配権をもった唯一の存在だよ』

 

 

 そんな出だしから始められた演説調の犯行声明は、プラントで生まれ育った者達にとっては最初の第一声を聞かされただけで反吐が出る思いに駆られるほどのものだったが、その感想は早計だった。

 

 

『存在することすら許されない、愚かで野蛮で無知蒙昧な邪悪なる種族コーディネイターの諸君に申し上げたい。

 私は君達の生きる権利を持った対等な人間だ、などと認める気持ちは一切持ち合わせていない。君達は滅びるべき種族であり、生きる資格を持たぬ虫ケラの集まりだと私は心から断じているものである。

 君達はテロリストだ。社会に害をなし、破壊と殺戮をもたらすだけで、人々の暮らしにはなんの貢献もなすこなく、ただ自分たちのエゴと欲望を満たすためだけに愚かな争いを続けさせる許されざる罪深き者達。

 そんな存在たちとの共存など有り得ず、どちらかが滅びるまで戦い続けるより他に道はないのが、我々“人類”と諸君らコーディネイターであると、固く信仰するところでもある。それが嘘偽りのない私の本心だ』

 

 

 あまりの身勝手な言いように、額に青筋を浮かべて拳を握る者を無数に生み出しながら、ジブリールは前置きを止めて、ようやく本題に入るようだった。

 

 

『本来であれば諸君らのような者達と、どのような譲歩も交渉すらも有り得ない。テロリスト如きに話が通じる訳がないからね。

 ――だが、遺憾ながら今回ばかりは我々も傷つきすぎた。帰るべき家を失った状態では、戦争に勝ったところで明日がないのでは流石に困る。

 そこで私はプラントに対して、【一時的な停戦】を提案したい』

「停戦だと!? ブルーコスモスの盟主が我々にか!?」

 

 信じがたい言葉を聞かされて、プラント評議会議員の一人が思わず映像に向かって声を上げていた。

 他の者達は同調しなかったが、しかし想いは彼と同じである。今までろくに話し合いの余地すらなかった者達の親玉が、今更になってなにを言い出してくるのか?

 誰もが相手の真意を測りかね、疑いの眼差しと表情だけで優男の顔を睨み付けるように意識と視線を集中させている。

 

 

『誤解されては困るのだが、なにも永遠に仲良くしようなどという愚かな提案をする気は私にはない。

 ただ我々にも君達を滅ぼすため、次なる戦争を行うための準備期間が必要な状態に我らはある。というだけのことだ。

 だからこそ、艦隊戦力と軍事工廠でもある《アーモリーワン》だけを狙って攻撃させた。

 撃とうと思えば、《ヤヌアリウス》や《ディセンデル》辺りは確実に崩壊させることができた一射目だったものを、わざと外させてやった。私がね? この事実について、よく考えた上で判断してほしい』

 

 

 その部分の発言を聞かされ、名の上げられたコロニーで暮らしていた者達は近くにいる者同士で互いを抱きしめ合い、恐怖と旋律に震え竦む。

 

 

『次なる戦争のための平和。破壊のための再生。

 それを愚かなことと、今この時での決着を望むというなら是非もなし。

 だが覚悟してもらおう。次の一撃では容赦はしないことを。

 そして、その一撃は“君達自身が選んだ選択の結果”として“自分たちは撃たれたのだ”という事実をね・・・・・・。

 では、理性的な種族だと称するコーディネイター市民諸君の賢明な判断を期待させてもらうよ――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プラント国内において最大級の議論を巻き起こすであろう、情報の爆弾がセットされた起爆時間を迎えているであろうことを確認しつつ。

 

「やれやれ、これでは道化だな。つくづく主君使いの荒い部下だと、キミも思わないかね? セレニアくん。

 いっその事そんな部下は、粛正してしまった方が主君のためではないかと思うときもあるだろうに。フフフ」

「お手間をおかけしてしまって申し訳ありませんでした、ジブリールさん。ですがおかげで作戦は完全に予定通り遂行できましたよ。貴方の協力あってこその成果でした。

 本当に感謝に堪えません。我らがマイ・ロードよ・・・・・・」

 

 恭しく頭を下げて“見せながら”ダイダロス基地内にある司令ブース内にいたセレニアは、“演技”に付き合わせていた上司から、肩をグルグル回しながら苦情めいたことを言われるのを軽くいなしていた。

 

 彼女が今回使った戦法は単純なものだった。

 ただ囮として使った“グノー”よりも更に後方の位置から、最終中継点“フォーレ”を使ってダイダロスから発射させたビームを屈曲させ、敵本国を守っている戦力だけを目標とする一撃を放たせる。

 

 その為のコントロール役として、一部のスタッフだけが別の任務を遂行させながら、他の者達には事前に通達してあった通りの作業を実行させて騙していた。それだけである。

 

 この場合、敵軍の配置は『接近してくるコロニーから守れるような陣形』に組まれることになるのは確実なのだから、コロニーを操作している側が敵軍の配置と陣形とを想定するのは容易となる。

 

 囮として接近しつつあった“グノー”でさえ、防衛警戒エリア外だったザフト軍にとってみれば、その更に外側から本命が近づきつつあるというのは完全に予想外でもあったことだろう。

 

「・・・・・・ですが本当に、これで敵が乗ってきてくれますかな? 我々からの停戦という提案に」

「まさか。そんなもの言われて、謀略だと気付かない平和ボケしすぎたアホ指導者なんて、現実にいる訳ありますまい?

 どーせ何言っても殺しにかかってくるに決まってますよ。考えるまでもないことです」

 

 陰気な表情のまま、下手くそな演技に付き合わされた基地司令から、恨みでも籠もっているのか嫌味っぽい口調で問われた疑問に対して、セレニアは自分から提案した内容であるにも関わらず平然と肩をすくめて言い切ってみせる。

 

 もともとセレニアには、当初に予定されていた『レクイエムを用いての不意打ちでプラント首都アプリリウスを壊滅させ』政治的中枢をいきなり奪い取ることで『戦争そのものを終結させる』という計画には反対だった。

 と言うより、「現実味がない」という理由から、賛成反対以前の問題だと内心では端から切り捨てていたのである。

 

 アプリリウスは確かにプラントの政治的中枢コロニーであるとはいえ、政治中枢は政治中枢でしかなく、ザフト軍の戦力がそれで大打撃を被って継戦不能に陥るというものでもない。

 首都を破壊されて、主要な政治家たちと住人を皆殺しにされたからといって、一国家と軍隊が戦争まで止めてくれる、などという保証はどこにもないのだ。

 

 むしろ首都と首都住人を奪われた敵軍の兵士たちが怒り狂って、自分たちを殲滅するまで戦いを止めなくなるだけではないのか?

 そもそも、首都を壊したり占領するだけで戦争終結まで直結できる、などという時代錯誤な発想はいったいどこから来たものなのか・・・・・・

 

 馬に乗った騎士たちが覇権争いをしていた時代の戦争ならまだしも、近代戦の指揮官としては、今少し現代でも通用しそうな戦略構想でもって敵に挑まざるを得ない。

 

 

 

「私たち自身が自分たちをどう思っていようと、向こうさんにとって私たちはテロリストに過ぎません。

 テロリストが大量破壊兵器をもって、自分たちを狙い撃ちできる位置に拠点を構えているのです。

 この状況下では、講話だの交渉だのを提案されようとされまいと、政府としては必ず殺しにくるしかない。そうしてもらうために行った作戦です。

 歓迎してあげようじゃないですか。決戦は月で、と洒落込みながら――――ね」

 

 

 

 

つづく

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