宇宙世紀の小道具使用ふたたび回。
前触れこそあったとはいえ、予想外の位置にある月の裏側からの砲撃は、プラント市民たちの心を深く激しく動揺させずにはいられない衝撃的な出来事だった。
敵の都合によって被害は外縁部の軍事鉱床コロニーだけで済んだとはいえ、もしビームが直撃していたときには甚大な被害は免れなかったほどのもの。
彼らの恐怖と激しい怒りは、当然の反応だったろう。
「落ち着いてください! どうか慌てずに、避難誘導の指示に従って冷静な移動を!」
「バカを言うな! まだ奴らの攻撃が終わったという保証はないんだぞ!?」
各所で係員に食ってかかる者が続出し、シェルターへの避難誘導は遅々として進まないほどの混乱ぶり。
それも無理はない反応だった。
予測によれば、先のビーム攻撃がプラントを直撃した場合、最低でもプラントを形成するコロニーは4基から6基が崩壊させられ、その際に生じる余波だけでも2基から3基が破損し、生存者は絶望的になるという試算が既に出されている。
それほどの威力の巨大ビーム砲を前にして、コロニー内部に用意されているシェルター如きが、一体何の役に立つというのか?
また多くの者たちが、第一射目による直接的な被害を避けられてしまったことも、市民たちの感情を悪い方向に向かわせずにはいられない悪条件になってもいる。
破滅的な威力を持った兵器で首都が狙われていると示されながら、実際の被害そのものは被っていない状況に陥った市民たちの反応は、ナチュラル・コーディネイターの別なく確定してしまっているからだ。
「いきなり撃ってくるなんて・・・・・・評議会はいったい、何をやっていたの!?」
「ああ、そうだよ!その通りだ! プラントを狙える位置に、あんなもの造ってたことにも気づかないなんて、これは今までノタクタやってた、あんたたち評議会の怠慢だよ!!」
即ち――政府は何とかしろ!と、叫び求めることである。
対策の責任と糾弾とで怒鳴り声を張り上げさせ、評議会ビル正面入り口前へと大勢で押しかけ、自分たち市民の安全確保と有効な対策を講じる義務が国家と政府にはあるのだと主張して弾劾した。
先日までは諸手を挙げて絶賛していたデュランダル政権に対して、「無能!」「非能率!」「お役所仕事!」という定番の三拍子を連呼しながら、議長に政治責任の如何を問いかけるテレビ電話は鳴り止む気配がまるでない。
「わかっている! だが、それを収めるのが君たちの仕事だろう、泣き言を言うな!」
押しかけてきた市民たちの対応に当たらせていた議員からの悲鳴じみた報告――あるいは文字通りの泣き言と言うべきか――に対して、声を荒げながら叱咤するデュランダルの内心は、表面以上に苦々しい。
厄介な事態になってしまった・・・と、この状況に陥らせる相手の策を読み切れなかった自身の甘さが今更ながら忌まわしい。
自覚はなかったが、やはり自分にも焦りがあったのだろう。一発逆転を可能にしてくれる状況を前にして、自分が当初考えたシナリオに固執してしまった。痛恨の凡ミスだったと彼としては忸怩たるものを覚えずにはいられない。
この流れになってしまった場合に、このような状態に陥ることは分かり切っていた。
市民たちからの評価というものは、たとえ同じ『大量破壊兵器を用いたテロ』であっても、
【実際に使用されて、多くの者が被害を被った後】
――そして、
【使用される前に阻止され、犠牲者は出ることなく終わった事件】
――という2つでは、明らかに対応と反応には大きな違いが生じるのが世の常だ。
だからこそデュランダルは今まで常に、『被害者が出た後にだけ』阻止命令や作戦を断行するよう、シンたちのミネルバ隊に指令を下し続けていた。
それはシン自身の目的やザフト軍への志望動機とは真逆の性質をもつ方針だったが、そのシン自身でさえ『オーブ滅亡時の脱出行』を経験するまで祖国の理念を純粋に信じる、普通の少年でしかなかったのも事実だ。
もし先の大戦末期に、連合軍が亡きウズミ代表首長との交渉によって戦禍を免れていたときには、シンは未だにオーブに留まったままカガリの理想に共鳴し続けていたかもしれない。
たとえ条件は現在と何も変わるところが無かったとしても、『被害を防げず犠牲者が出たか?』『事前に防がれ何事もなく終わったか?』という【結果の違い】で人の解釈と結論には大きな格差が発生してしまうもの。
それを愚かな感情論だと、彼ならば思うことが出来るが他の多くの者たちは、ちっぽけな感傷や感情と知りつつも容易に切り捨てることはできぬもの。
「所詮は自分たちも人間だから」と理屈を並べて、変わることを拒む己たち自身を理論武装して正当化する。そして繰り返す。
そして、それこそデュランダルが敵の超兵器《レクイエム》の存在を知りながら、先に撃たれてからの奪取を望み、自分から先に奪いに行くのを自制し続けてきた理由でもある。
(やはり手薄なダイダロスを占拠させ、力ずくでもプラン実現に使うべきだったか・・・・・・いや、それを先に行っていればプラントの市民からも《レクイエム》の使用に反対する者が少なくなかったはず。
強引に断行すれば、シンの離反を招く恐れもある。やむを得なかったと思いたいところだが、しかし・・・・・・)
そこまで考え、デュランダルは頭を振った。
今は過去に『選び得たかもしれない可能性』について考えるより、今の自分が『選びうる可能性』を実現するための行動こそ重視すべき時だった。
「すぐにも出られる艦隊をすべて発進させろッ。プラントの目前まで侵入された《グノー》を全力で破壊させるんだッ!
その間に他の艦隊はダイダロス攻略のため、準備を整ったものから出撃させる! 大至急だッ!!」
「えっ!? 《グノー》を、でありますか? ですが既にイザーク隊への増援は派遣させましたし、我が軍本体はダイダロス攻略と、あの兵器の破壊に全力を傾けるべきでは・・・・・・」
「馬鹿なことを言うな!」
思わぬ命令をされたという感も露骨に、補佐官の一人が間の抜けた応対を返してくるのをデュランダルは鋭く声量を抑えた声で叱責しながら、相手の愚鈍さに苛立ちを押さえることに苦心させられる。
彼の中ではプラント近くまで迫りつつあるリング型コロニー《グノー》は、ロゴスの超兵器を放つための最終中継点として、第二射での被害を防ぐためにも破壊しなければならない存在ではあっても、逆に言えば最終的な中継点としか思っていないのだろう。
確かにプラントを攻撃するには中継点が不可欠だが、中継点は中継点でしかない。第二射のビームそのものが照射されない限りは、ただの巨大な旧式コロニーでしかないのが《グノー》だ。
いつ二射目が放たれるか確実なことは“プラント住人たちの”誰にも分からないからこそ、再使用を不可能にするため直ぐにも破壊する必要があったが、あれほどの威力とエネルギー量を誇るビーム砲だ。再充填までには相応の時間が必須のはず。
今すぐに第二射が放たれる危険性は、ほぼ無いと見ていいだろう。イザーク隊への援軍派遣と今すぐのコロニー破壊も、プラント防衛のためと言うより、ただ『壊さないと不安だから』というだけが理由の全て――そんなところが本心での行動なのだろう。
だがデュランダルは、そこまで楽観的に現状を考えてはいない。
敵の司令官が、その程度の反応さえ予測できない程度の間抜けだったなら、ここまで苦労させられる必要はなかった。
「あれほどの威力と射程を付与されたビーム砲だ。第二射照射までには相応の時間が必要になり、我々にそれを黙って待っていてやる義理がある訳がない。
その程度のこと、敵の司令官にも分かり切っているだろう。むざむざ威嚇のためだけに、あれほどの代物を艦隊ごと使い捨ててくると思うのかね?」
「・・・ッ! あ、あのコロニーに第二の目的が付与されている、と・・・? ですが碌な武装もない旧式コロニーだけで、いったい何を――」
「コロニーは、その質量と巨大さだけで脅威となり得るものさ」
ハッキリと言い切られ、疑問への答えを与えられた補佐官だけでなく周囲にいた他の者たちまでもが愕然とさせられる。
誰かが始めにモニターへと視線を戻し、他の者たちも追随してコロニーとプラントとの位置関係を確認すると真っ青な顔で悲鳴じみた報告を轟かせる。
「ぐ、《グノー》が移動を開始しました! 真っ直ぐアプリリウスへ向かって直進してきますッ!!」
「破壊させろ! 全艦隊から砲撃を集中させて完全破壊するんだッ!! 『イザーク隊』にも連絡して挟撃させるのだッ!」
「《メテオブレイカー》を持っている部隊にも出撃命令を出させるんだ! いや、コロニー内部に侵入してコントロールルームを占拠させるよう指示を出せ! そうすれば――」
「――もう、遅い」
静かに押さえた声音でデュランダルが、無意味な攻撃指示に待ったをかけさせる。
確実な破壊手段としては、先の大戦時に使ったモノを復活させた《例の兵器》があるが、それを今の時点で敵に存在を察知させるのは危険だった。
「おそらくイザーク隊が一時後退させられていた間に、推進部とコントロールルームは破壊されているだろう。
宇宙では一度進み始めた巨大物体は、何かにぶつからない限り止まることはない。ならば止められぬようにした上で部下たちを脱出させた方が、敵に対する目くらましになる」
その指摘に、補佐官たちは二度目の自失とヒビ割れた沈黙とを味あわされることになる。
あまりにも用意周到な敵司令の悪辣さに、口元を引きつらせながら破壊命令を徹底させるため怒号を交わし合い始める彼らの背を向けて、デュランダル自身は数人の側近だけを連れてダイダロス攻略部隊の編成という自己の役割を果たすため動き出す。
「《グノー》の破壊は彼らに任せ、我々はダイダロスの攻略と、“あの兵器”の第二射照射阻止に専念する。プラントからも艦隊の出撃準備を急がせろ。
《ゴンドワナ》を中心とする月軌道艦隊に、砲の第一中継点を攻撃させて敵の注意を引きつけ、その隙に敵の兵器を破壊ないし奪取するのだ」
「はい、早速に。とはいえプラント防衛も疎かにする訳にはいきません。コロニー破壊の手段として、推進剤に引火させるという手段もあり得ますが・・・」
「どうかな? 片道切符のコロニーを使い捨てることになると分かっていながら、わざわざ燃料に余裕分を残しておくとは思えない。アレへの対処は正攻法でいくしかなかろう。
――《コペルニクス》で待機させている《ミネルバ》にも指示を出せ。特命コードでだ。この作戦で最も重要な役目は彼らにやってもらうことになる」
「は、ハッ! 承知いたしました」
「頼む。――ああ、それとだが」
思い出したような口調で、デュランダルは“その人材”についての話題を持ちだした。
本来の予定では今少し確認と性能チェックを行ってから用いるつもりでいたが、余裕がなくなった。
着いた早々になってしまったが、機体と共に実戦での性能テストということになるのだろう。
「出航前の何時でもいいので、“客人”を私の私室へ。新たな同胞として、彼がどういう人物なのか知っておきたいのだ。その上で配属先を考えよう。
場合によっては、シンたちとも共同戦線を張れる能力を有しているという話だが、相性というものもあるからな。不確定要素は可能な限り取りのぞいてから決戦に望みたいのさ」
それ次第で、彼に与えられた役割と運命も決まってくるだろう。
それが彼らの想った結果であり、躊躇うことは何もなかった。
世界に望まれて、彼らは生まれた。
世界はやがて、彼らのものとなり、彼らは、世界のもの。
それは彼らが、新たな世界を動かすため、最も重要な“パーツ”として生まれた存在だということ。
世界のためのパーツである以上、新たな世界を創るための生け贄となったとしても、それは世界が彼に求めた運命という名の結果なのだから―――
ロゴスから放たれた《レクイエム》と『停戦の提案』という二つの衝撃は、プラント勢力圏内になる全ての地域で混乱と困惑を撒き散らし、それはプラントから遠く、ジブリ―ルたちのこもるダイダロスにこそ近い、月面都市《コペルニクス》でも同様だった。
「月からプラントが攻撃を受けただって!? ――そんな、馬鹿な・・・!」
コペルニクスの港湾施設内で、出撃命令を待っていた《ミネルバ》艦内のレクルームで、本国から通信映像と共に届けられた情報によって、最も感情を刺激され憤ったのはクルーたち全員の予想通りシン・アスカだった。
「一体どうやって・・・なんで!? 《アルザッヘル》からの攻撃は本国だって予測できてたはずだろ!? 本国の連中はなにやってたんだよ!」
「ジブリールだな・・・」
詳しい詳細までは語られているはずもない報道の内容だけを聞かされたシンには、わけの分からない現状に感情をあらぶらせて叫ぶことしかできなかったが、“その兵器の情報”を前もって知らされていたレイ・ザ・バレルにとっては驚くべきほどの衝撃はない。
いつも通り冷戦沈着に、感情を交じらせない声で状況分析を語ってくる様子もまた、他のクルーたちの目には普段通りの彼らしい行動だとしか思われなかったのは、レイにとって行幸だった。
「ジブリールって・・・なんで!? だってアイツは今、ダイダロスに逃げ込んでるはずでしょ? 月の裏側からプラントを撃つなんて無理じゃない!」
「おそらくヤツらは廃棄コロニーに超大型の《ゲシュマイディッヒ・パンツァー》を搭載させ、ビームを数回にわたって屈曲させたんだ。
このシステムを構築することさえできれば、どこに砲があろうと屈曲点の数と位置次第でどこでも自在に狙える」
「そんな・・・そんなことを・・・・・・ッ!」
コンピューターを使ってレイが図示して見せた現在の状況と敵の作戦を説明されて、ルナマリアが打ちひしがれたように沈黙させられる。
『ユニウスセブン落としの報復』として開戦直後に連合軍は、いきなり核攻撃による奇襲を行ったが、それをNスタンピライザーによって防がれたことで完全に手詰まりとなり、それ以降は専ら地上が主戦場となってきたのが今次大戦の流れだった。
ただでさえ前大戦時におこなってきた数々の悪行――サイクロプス自爆での自作自演による謀略など――が露呈したことで人気を落とした大西洋連邦に『地球連合』という枠組みを維持することはできず、口実によって急遽結び治された条約も綻びだらけの形ばかりな形式的なもの。
更には、そこに隕石落下による被害が追加された状態での開戦など、最初から無理があったのだ。
ただ地球各国がザフト軍の地上侵攻作戦で負ったダメージによって、開戦前よりも弱体化した国々ばかりとなってしまい、相対的にMSの戦力化に成功した大西洋ユーラシアの両連邦が最強国家となったことで主導権を握れるようになった――その程度でしかなかったのが今次大戦開戦時における地球上のミリタリーバランス。
奇襲での早期決着に失敗しただけで早々に防戦一方へと陥ってしまい、相手側のテリトリー内である宇宙空間での戦闘がおざなりになるのは、当然の結果だったと言うしかなかった。
だからこそ、ザフト側にも油断が生じるようになっていたことは否めない。
無論ザフト軍とて、アルザッヘルを始めとして地球軍の宇宙拠点への監視や対処に手を抜いていた、という訳ではない。
ジブリールが地球を脱してダイダロスへ逃げ込んだのを察知してからは、月軌道艦隊による監視を徹底させてきた。
もしもダイダロス基地が大規模な改修工事をおこなって、一大拠点へと変貌しようとしていたら、直ぐにも本国へと報告が送られて艦隊が攻撃を開始していただろう。
だが、“防衛施設の強化以外の工事”にまでは意識を向けなくなっていた。
それが今回の事態を招く遠因となることになる。――もっとも、『そうなるよう仕向けた人物』についてまで、レイに語る意思はない。誰に対しても、である。例外はない。
「まさに、悪魔の業だな。――ジブリールを逃がした、俺たちの責任だ」
「ジブリールを逃がしたって、・・・・・・でもそれはオーブが! それに奴はあの時にはもう――」
「何であれ、俺たちが討てなければならなかったんだ。
それが出来なかったからこそ、この事態を防げなかった今があるのだから」
そう言ってレイは、静かにシンに向かって現実を突きつける。
あるいは、『現実の一部だけ』を。
もしブルーコスモス軍と化した今の地球軍総帥ロード・ジブリールを逃したことが、今日の《レクイエムによるプラント照射》という事態を招いた遠因となったもので、彼を捕まえられずに逃してしまった者に責任があるとすれば、その責任を負うべき第一位は『ギルバート・デュランダル』ということになるだろう。
当然だ。彼はプラント評議国の評議会議長という最高責任者なのだから。
戦争中に起きた全ての事柄に対する責任は、最高責任者がとるべきなのは国家として当然のことだ。
それだけではない。
ジブリール捕縛のための作戦決定も、ヘブンズ・ベース攻略戦で先制攻撃をさせずに降伏勧告するよう命令したのも、全て彼だった。
ギルバート・デュランダル議長が決定し、軍を動かし、作戦を指示させ、兵たちを指揮して軍勢を率い戦争を開始したのも、全て彼が決めて事を進めてきた結果でしかない。
ならば、ロード・ジブリール捕縛“作戦”の失敗も当然、責任を負うべきなのは責任者たちであって、シン・アスカやレイ・ザ・バレルのような現場の『一パイロット如き』に負わせるようなものでは全くなかったし、負わせていいものでは絶対にない。
下位にある兵士たちに命令を下した上層部が責任を問われることなく、失敗した現場の実行者たちに責任を押しつけるのは衆愚政治か、あるいは腐敗した独裁政治の典型例だろう。
たとえば前大戦時に、ムルタ・アズラエルが率いた大西洋連邦のように――。
だがレイは、その事は言わない。
彼にとってデュランダルという人物は神にも等しい存在で、彼自身は信者だからだ。
信者にとって神とは、神聖不可侵のものだ。信者が神の責任を問うことは決してない。
人の世で起こる全ての災厄は、全て人が責を負うべきもので、この世の理を統べる神に責任を押しつけるべきものではない。
「二射目があったら今度こそプラントは終わる。もはや、あれを堕とす以外に我々が生き延びる道はない。
トリガーを握っているのが、そういうヤツだと言うことは知っているだろう」
「けど・・・・・・」
と、レイがそこまで言ったときだった。
艦内のレクルーム故に集っていた他のクルーたちの一人である、グリーンの軍服を着た少女兵士がポツリと、椅子に座って俯きがちに小さな声で呟くように言う。
「・・・・・・私のお母さん、ヤヌアリウスにいるの・・・。
もしロゴスのこと暴露したのを恨まれていたら、お母さんたちは殺されちゃってたかもしれない・・・・・・」
だが彼女の発言は、それ以上を語られることはなかった。
周囲にいたクルーたちが、ロゴス擁護とも取れる発言に殺気だった目を向けて彼女を黙らせてしまっていたからだ。
そんな視線を向ける者たちの一人に、レイもいた。
彼の視線は他の者たちほど激しくはなかったが、あるいは他の誰より深く憎しみに満ちたものだったかもしれない。
声に出してはこういった。
「――どれだけ嘆こうとも、時は戻らない。アレのパワーチャージサイクルが分からない以上、問題は時間ということになる。
第二射までに月艦隊が第一中継点を落とせれば、かろうじてプラントは撃たれない。だが奴らのチャージの方が早ければ、艦隊もろとも薙ぎ払われる。
またアレを撃たれるなど、もう絶対にあってはならないことだ。俺たちがやるんだ。今度こそ、同じ轍を踏まないためにも俺たちの手で・・・ッ!」
そう告げて、『それが出来る力を持って生まれた者の責任』を強く強調し、『強く生まれたシン』に責任“感”の共感を求めて、力強い頷きを得る。
その直後のことだ。
プラント本国からミネルバへと、情報漏洩を避けるための特命コードで出撃命令と作戦参加が同時に通達され、現在地であるコペルニクスから低空飛行でダイダロスへと接近して奇襲をかけ、謎のビーム砲を破壊するという重要な役割を与えられることになる。
『貴官らを宇宙へと帰還させながら、本国艦隊と合流することなくコペルニクスでの待機命令を出していたのは、降伏勧告を拒否され攻略作戦実施となった際、横合いからの一撃で敵司令部を電撃的に強襲させることを目的としてのものだった。
ジブリールさえ倒すか捕縛さえすれば、この戦いは勝ちになる。
本来の作戦とは状況が変わってしまったが、大凡において貴官らの果たすべき役割に変化はない。
敵艦隊の注意は、本国より発した討伐艦隊と月艦隊とが引き受ける。
ミネルバは、単艦にて敵司令部へと接近して本部施設を奇襲し、敵秘匿兵器ないし動力装置を破壊せよ。
貴艦の働きにプラント住人全ての生命と未来がかかっていることを忘れないでほしい。
貴官らの善戦と、祖国への貢献に期待するところ切である。ザフトのためにッ』
こうして開始されたプラント・ザフト軍艦隊による、敵月基地ダイダロスでの決戦を想定した総攻撃。
ザフト軍は、プラントを砲撃するための中継点《グノー》への破砕作業と同時並行して、位置的に発射地点から最も近い第二の中継点を叩くための艦隊を発進させ、月艦隊には発射施設の直情にある第一中継点を向かわせていく。
地球軍からはプラント攻撃のための最前線アルザッヘル基地の艦隊が防衛のため出撃させた。両者の激突は時間の問題といっていい。
また、プラント本国からも艦隊が出撃して月へと向かっていることが確認されている。
迎撃のため出撃した地球軍宇宙艦隊と、月面上空での大規模な宇宙艦隊戦が展開されることは確実だった。
それら大兵力同士がぶつかり合う、昔ながらの正面決戦を陽動としてミネルバは単身、敵司令部を目指して孤独な奇襲任務を実行するため監視網をすり抜けながら密かに接近しつつある。
だが―――ザフト軍にとって予想外なこととして。
そして――デュランダルにとって最悪の予測が的中してしまった結果として。
敵が自分たちの立案した作戦通りに動いてくれると決まっているなら、苦労はない。
このオーソドックス過ぎる作戦は、敵連合軍司令セレニアによって看破されていたのである。
「地球軍艦隊補足! 我が艦隊の右翼左翼前方に展開中、その背後にあるコロニーを全方位から守る布陣となっている模様ッ!」
「本国より通信! イザーク隊が、プラントへと急速接近中だった中継点コロニーの破壊に成功! 作業に当たっていた他の艦隊と我らに合流するため向かっているとのこと!」
「よし! 間に合ったぞ! 守り通せよ、我らの大地を!!」
新たなプラント攻撃用の最終中継点とするため移動中だったリングコロニーとは別に、第一中継点としてダイダロスに近い宙域に浮かぶ《フォーレ》を破壊するため派遣されてきた、ザフト月軌道艦隊の司令官は部下たちから上がってきた報告に鼻息荒く檄を飛ばす。
彼は彼なりに燃えていた。
もともとナチュラルへの憎悪がないわけでなくとも強い方ではなかった彼は、純粋に『ロゴスの暴挙』と『デュランダル議長からの慈悲に対する非礼過ぎる返答』に怒りと憤りを抱かされていたのだ。
また何より彼には、プラントで待つ家族がいる。
愛する妻と子供たちが、あのような非人道兵器で何時でも焼き殺せてしまえる権利と資格を、ブルーコスモスの主義者共に握られたままで平気でいられる訳がない。
「何としても落とすのだ! この戦いを制しなければ我らコーディネイターに次はないと思え! 最悪、艦をぶつけても構わん!!」
「司令、艦隊の進路上に反応を確認。デブリが集まっているようです」
「・・・・・・デブリだと? 石っころか?」
「いえ。石っころもですが、地球軍との戦闘で破壊された艦やMSの残骸が集中して漂っている模様です。
どうやら敵はデブリが、川のようになっている宙域の向こう岸に布陣したようです」
「川だと・・・? 小賢しいロゴスどもめ、厄介な場所を」
月艦隊司令は不機嫌そうに舌打ちしながら、内心で敵への評価に上方修正を加えていく。
どうやら敵は、自分たちが阻止のため派遣されてくることを最初から想定し、コロニーの移動ルートと目標地点とを計算尽くで選定していたらしいと察したからだ。
無重力の宇宙を漂う小惑星や隕石群、過去の戦闘で完全に消滅することなく撃沈されただけで残骸が残り続けてしまった戦闘艦やMS“だったモノ”は、その後も漂い続けて宇宙ゴミとなる。
地球上の大洋で沈んだ兵器類と同じで、勝手に自然へと還ってくれることはないのだ。
これら宇宙ゴミは残骸でしかないとはいえ、元が巨大物質であることや、超高速で宇宙空間を疾駆しながら戦闘機動をおこなうのがMSや宇宙戦艦であることなどが理由となり、決して侮っていいものではなく、コーディネイターをはじめとする宇宙船乗りたちにとって最も身近な危険として知られている。
普段であれば、たとえ危険性は低いと判断されている場合であってさえ、好きこのんで通り抜けたい場所ではない。
だが今は時間がなかった。それを狙って敵がルートを選んだとするなら、敵の作戦を成功させてやり時間を稼がれることにもなる。
だからこそ厄介な敵であり、侮れないと再認識したわけでもあるが、それで状況と条件が変わるというわけでもない。
「敵との戦闘を前に消耗は避けるべきだが・・・・・・やむを得まい。全艦直進して、デブリ帯の中を突破して敵目標を目指せ。
艦砲とミサイルで艦の進行方向上にある障害物を退かしながら渡河するのだ」
進路上にある石ころはビームで破壊し、各艦に近づいてくる漂流物にはミサイルを当てて進行方向を変更させる。
多少の手間と注意と精神、なにより物資を消耗するのが厄介ではあるが、今は時間の方が希少だった。
少なくとも司令はそう感じていたし、多少の損害はプラントを崩壊させられる危険と比べれば大したことではない。
そう思っていた。
しかし―――
「本艦の右前方より急速接近中の漂流物1、その背後の空域から左前方に向かう反応がありますが、衝突コースからは外れると予測」
「右前方の反応にミサイルを、右斜め40度の角度で発射せよ。軌道変更の後に味方艦に当てさせるなよ、注意して放て」
「了解」
淡々とした口調でのやり取りを交わし合いながら、反面それを行う者たちの頬には冷や汗が伝って緊張の度合いを現しているザフト艦隊の一隻では、司令から命じられた渡河作戦を実行するためコンピューターとの睨めっこが途切れることなく続けられていた。
艦砲射撃で破壊する場合は良いのだが、ミサイルによる軌道変更は変化させた後の軌道上に味方艦がいたのでは意味がない。
観測を担う者たちには、プラント製の高性能なコンピューターを用いて高度な演算と予測が終始求められ続けることとなったが、元々コーディネイターはこの手の作業が得意とする種族。
司令の決定もそれを踏まえたモノと思えば、そう間違ったものではない。ないはずだった。
「続いて反応、左前方。本艦に向かって直進コース」
「艦砲を発射せよ、目標正め――」
「・・・え? ま、待ってください! 反応が速度が上昇! 本艦に向かって加速してきます!!」
「なんだと? バカを言うな、宇宙を漂うだけのゴミが加速するはずがないだろうが」
一体こんな時に、どこの何を見ているのかと、艦長が部下を怒鳴りつけようとした。その瞬間の出来事だった。
彼が部下たちと共に見ていた正面モニター全面を埋め尽くすまでに巨大化した光景として、急速接近してくる隕石に正面衝突された艦橋が押しつぶされる羽目になったのは。
「ローラシア級《ヴァゴン》中破! 急速接近してきたデブリの衝突で艦橋が潰された模様!」
「な、なんだ!? 何が起きた!? 一体なにが!」
「分かりません! コンディションレッドを発動し戦闘ブリッジに移行していたため、ヴァゴン乗員達は無事なようですが、彼らも状況を把握していないらしく―――本艦の右前方に反応! 急速に加速! 接近中ッ!!」
そんな叫び声とも悲鳴ともつかぬ報告が飛び交う中で、すでに状況は一変してしまった後になっていた。
ザフト艦隊がデブリ帯へと突入を開始した、その時を見計らったかのようなタイミングで宇宙空間を漂っていた様々な残骸の幾つかが、急速に速度を増して移動し始め、ザフト戦艦へと体当たりしてくる石っころが大量発生する危険地帯へと化してしまったのである。
それは単純な仕掛けによるものと言うより、ただ『材料』を変えて地上で使った作戦を採用し続けただけの代物だった。
過去の戦闘で破壊された戦艦の残骸や、外宇宙から流れてきた適当な隕石などの中から、ある程度の大きさを保っていたものの背部に推進剤を取り付けさせ、それを遠隔操作で起動させただけのもの。
あり合わせの材料を使えば造ることのできる、安上がりな使い捨て衛星ミサイルだった。
特に炸薬が詰まっているわけでもなく、レーダーも搭載されてないため誘導機能もない、本当にただ当てずっぽうで巨大な投石を投げつけた程度の代物のため、現代の戦闘では主流になった『戦闘ブリッジ』を常備している宇宙戦艦相手には致命傷にはなり得ないものの、ただの『川を越えるだけの移動』で負わされる損害としては決して軽視できるものでは全くない。
「しまった、謀られたか!? 私としたことが、こんな単純な罠を読めなかったとは・・・!」
今さらながら司令官は歯がみして、自分の下した安易な方針と決定を心の底から後悔させられる。
だが今となっては今更だった。この段階から方針と進行方向を変えても、無駄な人命と時間が減らされるばかりで罠を破ることにはならないだろう。
第一、ここ以外の道には罠が仕掛けられていないという保証があるわけでもないのだ。ここは無理を通してでも力づくで突破し、コロニーへと肉薄する道を確保することが後から来る援軍のために、そして何よりプラントとザフト軍全体のためにもなる!!
「――構わん! 全艦直進して、デブリ帯突破のため全力を尽くせ! 犠牲に構うな! 全速力でコロニーを目指して進み続けるのだッ!!」
「で、ですが司令! それでは――ッ」
「わかっている! わかっているが・・・・・・我々が届かねばプラントが終わる。ここで勝たねば我らコーディネイターは潰されるのだ!!」
「し、司令・・・・・・それは・・・」
「すまんが―――お前達の命、俺にくれッ!!」
「――――了解ッ! 全艦直進、犠牲を無視して渡河を成功させよ!!」
司令官の心意気と覚悟のほど、そして何より自分たちの祖国が陥っている危険すぎる状況を実感させられ共感したクルー達は、一丸となって艦隊を衛生ミサイルの雨あられの中を直進させていく。
彼らの軍人としての心意気は見事なものだった。
見事なものだったが・・・・・・残念ながら、心意気だけで勝てるほど戦争は甘いものではない。
健気な自己犠牲だけでは国どころか、女性の涙すらも守れないことが往々にしてあるのが戦争の現実というものなのだから―――
「MS隊を発進させろ! カタパルトを使わずに発艦させ、そのままコロニー攻撃に向かわせるのだ! この位置まで来れば帰りを考えなければ届くはずだ!!」
司令官自身と幾人かの艦長達が異口同音に、同じ命令を下す。
それは使い捨て衛生ミサイルによる攻撃が、当てずっぽうの無人自動兵器を用いた投石のようなものでしかなく、当たり判定を大きくするため一定以上のサイズを持った石ころだけが選ばれた対艦攻撃用のものだと看破したからだった。
対艦攻撃用のミサイルである以上、小回りの利くMSには滅多に当たるものではない。
宇宙ゴミがあちらこちらに漂うデブリ帯に、MSだけで出撃させるのは危険極まりない行為だったが、このまま戦艦の腹の中で誘爆に巻き込まれるなら同じことだ。
「各艦は可能な限り、艦載MSの進路確保を優先せよ! 我らの後ろには守るべきプラント市民達がいることを忘れるな! 後が無いと思え!!」
司令官からの無茶ぶりとも言える指示内容に、ザフト軍パイロット達はよく答えた。
一つには、彼らの使っている機体がパッケージ換装が可能な《ザク》や、空中での白兵戦を想定された《グフ》であったことが、彼らの技量を最大限に生かさせて戦場との相性をよいものにした結果だったのだろう。
これらの機動性重視の兵装はコロニー破壊任務には相性がいいとは言えなかったが、今の戦場にはマッチしているものだった。
《ガナー・ウィザード》等の重武装パッケージは、渡河し終わってから無事な艦で換装作業をすればいいと司令官が割り切った判断の結果でもある。
だがザフト軍パイロット達にとって不幸だった理由は、それら場に応じた臨機応変な対応もまた、敵司令官にとって想定の範囲内だったことにある。
「いいか!? 密集して飛ぶな! できるだけ互いに距離を置き、全員バラバラに飛ぶんだ! 結果的に目標地点まで到達できればそれでいい!」
『『『了解ッ!』』』
小気味いい部下達からの返事をコクピット内に響かせながら、不適な表情に冷や汗を張り付かせたザフト軍のMS隊小隊長は、愛機である《グフ・イグナイテッド》を小刻みに操り機動させながら、それでも極度の緊張を強いられる空間から脱出するため必死でもあった。
「クソッ! よりにもよって、こんな戦場を選びやがってロゴスめ!! こんな状態が続けば、議長の言っているとおり奴らが全ての争いの元凶だって話も信じたくなりもする!!」
罵りつつも、罵り文句を放つことでストレスを緩和し、極度の集中を維持しながらデブリ帯の中を彼は愛機を疾駆させ続けていく。
それは彼の操縦技能が隊長として相応しい域に達している証左であり、エースとしての実力を雄弁に示すもの。
危なげなく、部下達の誰よりも速い速度で進み続けることで味方を鼓舞し、他をエスコートしていく技量を持った彼は、その高い技量を持っているが故に―――死ぬことになる。
「・・・ん? なんだ、アレは」
彼の優れた動体視力は一瞬だけ、モニターの端になにかが映ったように感じられた。
そのナニカが、背後に続く部下達にとっては脅威となり得る新たな罠の類いかもしれぬと思ってモニターを操作し、画面を拡大させて映し出されたそれを見て、
「・・・・・・光、だと?」
訝しげに、そう呟き。
その時には彼は光に包まれ、意識と共に肉体は永遠にこの宙域から強制脱出させられることになる。
『た、隊長ッ!?』
『どうしたんだ! 一体、なにがあった!?』
『分からん! 隊長はなにもない空間を選んで見事に飛翔されていたように見えたが・・・なら何故!?』
先導役だった自分たちの隊長の後に続いて飛行していた部下達は、驚き慌てて状況を把握しようと通信を送り合っていたが、その間も謎の爆発は続いて、1機2機と続けて両機が爆発四散されてゆく。
その爆発が、たまたま宇宙ゴミが漂う危険宙域の中で、危険から身を守ろうと二機編隊でタッグを組んでしまう素人臭い機動をとっていた新兵達だったことから近い場所で爆発が連鎖し、隣り合って発光した二つの爆発を見たからこそ、生き残った他の同僚は偶然にも“ソレ”を肉眼で目視するのに成功した。
『わ、ワイヤー・・・なのか?』
目の錯覚かと、己の視覚を疑った彼の見たものこそ、まさしく自分たちを襲う怪現象の正体だった。
それは読んで字のごとく、ワイヤーそのものだった。それが小さめの隕石と隕石とを繋ぐようにして彼らの進路上に張られている。
ワイヤーといっても、一本ずつが体格のいい人間の男性の胴回りほどの太さを持った鋼鉄の固まりを束ねたものだ。
だが戦闘機動で飛行中のMSから見れば、細く光る一本の糸ぐらいにしか見えようがない。
そんなものが張られている場所へと、ブースターで加速しながら自分から突っ込んでいったしまえばどうなるか・・・?
バイクで地上を走るライダー達の首がある高さに、ワイヤーを進路上にある電信柱の間に張ってみたことがある者なら、結果は言うまでもない。
隕石に似せた形のバルーンを大量に造らせ、その中にワイヤーを発射させる人工物を内部に潜ませて互いに連結させあったものを宙域内の各所に配置させて対MS用の網とする。
それが連合軍司令セレニアが今回用いてきた手品のタネであった。
明かされてしまえば、どうということのない子供だましな代物でしかないものだが、真相とか真実などと言うものは、明かされて周知されるようになった後では大抵そういう扱いを受けるものでもある。
「いや、相変わらず凄いものだね、セレニア君。君のアイデアは大したものだ。君が敵でなくて良かったと言うべきところなのだろうね、君もそう思うだろう?」
《フォーレ》から時間差を置いて届けられた戦況報告を受け取って、ジブリールは機嫌よさげに腹心の部下の知謀を褒め称え、賛同を求めるように含みを持たせた視線と言葉を基地司令にも水を向ける。
当の相手は陰気な顔に、嫉妬と悪意と、そして多少の焦りが混じるようになった色を複雑に浮かべながらオベッカを口にして追従する。
「え、ええ・・・当然の評価でしょうな。我ら連合軍の将来を担うべき人材を得られたことを、私も嬉しく思いますよ」
注意深く軍帽をかぶり直して表情を隠し、基地司令は内心で感じ始めた焦りを覆い隠す。
今回セレニアが使った戦術は、宇宙空間での防衛戦で威力を発揮するものばかりだった。
それを月面基地の“防衛司令も兼ねている自分”は今まで全く思いつくことが出来たことがない。
先程のジブリールから求められた賛同の意味を考えれば、彼が首の後ろに寒いものを感じさせられ焦りを抱くようになったとしても、差して不思議なことでもない。
無論それらの事情を、褒め言葉で煽てられた側が頓着すべき理由は特にあるわけでもなかたっが。
「お褒め預かり恐縮ですが、地球上の大海原で一度使ったものを、星の海でまた使っただけですからねぇ。
ロマンチシズム的には夢があっていい表現なのかもしれませんけど、軍事ロマンチシズム的には微妙かと。
まぁ、時間も物もない中で用意した代物ですから、芸がなかった点はご勘弁のほどを」
肩をすくめながら、特に大したことは何も出来てないと本気で思っているらしき口調と表情で柔らかく断言され、基地司令の焦りは寄り強いものへと変化せざるを得ない。
折良く部下から報告があがったのを活用して、自分自身も優れた意見具申により役立つ存在であることをアピールしようと、陰気な顔に久方ぶりの意気込みが宿り始めた――ように見えないこともなかったかもしれない。
「アルザッヘルから第八機動艦隊が発進中との報告が入りました。こちらも第三艦隊を上げさせ、フォーレの守りを更に強化いたしましょう。
今までの流れがどうあれ、フォーレさえ守り切れば我らの勝利なのですから」
「いえ、それでしたらフォーレには、こちらの第三艦隊だけ上げさせて、アルザッヘルから発した艦隊にはプラント本国へ向かって攻撃をかける動きを示すよう通達してください。
先に用意しておくよう連絡しておいた、核ミサイル装備の《ピースメーカー隊》を搭載している艦隊が本国を襲おうとしていると知れば、本物かどうかに関係なく無視するのは難しいはずですから。
その方が戦力分散させるのには有効ですよ、多分ですけどね」
平然と、前大戦時の悪夢が色濃く残っているであろうプラント市民達の感情をも利用して、自分たちの作戦に組み込んでくる年下の少女司令に、基地司令も今となっては声もない。
「あれらの策が少しでも効果を発揮してくれていたなら、多少は時間が稼げるはずです。
ソレで稼いだ時間を使って、こちらはプラントから遙々お越しくださる本体の相手をする準備を整えるとしましょう。
・・・・・・もっとも、敵拠点の正面から大軍をひきつれて威風堂々と決戦して攻め落とそうなんて、犠牲だけが大きく時代錯誤な攻城戦をやりたがるほど、デュランダルって人が素直で正直な人格の持ち主とも思えませんが・・・。
私と同じで、ひねくれ者っぽい性格してる人ですからねぇ~。何を企んでいるのやら」
つづく