突き抜けなくて何が悪い   作:鈴漉

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とある選手の逃走日

 

 

 引退した日より一ヶ月ほど経ちました。

 何と言いますか、とりあえず暇です。

 ものごっつ暇です。

 

 体育館に顔を出そうかなとも考えたのですが、先生から

 

 「勉強の息抜きに偶に来るのは許可する(意訳:てめーら邪魔だ)」

 

 とのお言葉を頂いたので、大人しくしています。

 まぁ、引退した奴らがいつまでも我が物顔でのさばってたら後輩君らは嫌だよね普通。

 ただ、ウチのエースくんはスポ薦(スポーツ推薦)がほぼ確実なので、練習参加が許されています。

 某はと言うと、ちょっと後で話します。

 

 

 

 話題を替えますが、総体の結果をお伝えしましょう。

 我々内島に勝った大貫がやはり決勝戦も勝利し夏の全国総体出場を決めたのでした。

 うん、大貫のエースくんがやっぱりえぐかったdeth

 当然彼が大会最優秀選手に選ばれました。妥当も妥当デスネ。

 

 で、ウチはその決勝戦前に三位決定戦なるものをやらされました。

 負けてモチベ下がった所に普通やるか?と思わなくはないですが、決勝前の前座なんで仕方なく。

 勿論、味方も相手もがっくりきてる中での試合でしたので、中々の泥仕あ、接戦となりました。

 

 両チームエースが今一つパッとしない中、なんと某が両チーム最多得点を取る活躍。

 これには本人も吃驚の様子。

 試合には惜しくも敗れましたがね。

 勝ったんじゃないのかって?そんな甘くないんだ、これが。

 

 まぁ、それでもブロックアウト狙って決められたし、ブロックも決めてやったりと攻守で伸び伸びと出来たので拙は満足でした。

 

 対戦校の顧問先生にもお褒めの言葉を頂き、光栄の至り。

 観に来てたオカンにも大変褒められました。その日の夜は焼肉でした。ひゃっふぅ!

 その日は文字通り兄弟と仁義なき骨肉の争いとなりましたことを報告させていただきます。

 赤身、赤身ぃぃ!脂身は燃やせー!!

 

 その日親父が「財布が軽くなった・・・」と嘆いていたことを私たちは知らない(ふり)

 そっとがま口から100円玉を渡した我が弟の優しさはプライスレス。

 その帰りに更にアイスを奢らせた我が兄と某の鬼畜さは天井知らず。

 ついでにと日用品を買っていた母のナチュラル殿上人駄目押しムーブに我々は戦慄。

 

 敢え無く、父は真っ白に燃え尽きていた。

 合掌。

 

 因みにアイスは高い奴でした。

 

 

 

 

 ☆三

 

 

 

 

 

 「で、千賀よ。また向こうさんから熱烈なラブコールが来てるんだが、そこんとこどうよ?」

 

 

 

 現在、某は職員室にて顧問先生と1on1中です。

 センセイからは逃げられない!

 

 

 「えーっと、先生にはご迷惑掛けますが、お断りさせていただきたく」

 

 

 ならば直球最速最短で終わらせるまでよ!

 男は黙って爆・速・散!

 

 

 「千賀よ、お前がテキトー野郎で小心者でチキって及び腰なのはよく分かっているとも。仮にも一年から見てるからな」

 

 「先生、この世にはオブラートに包むという表現があってですね。日本人という生物は本音と建て前を使い分けてこの息苦しい世の中を生き抜いている訳ですよ。つまり、不良教師は止めましょうねってことです」

 

 

 スラっとした細身ながら身長はそこそこ高く、鋭い眼付きにも関わらず眼鏡を掛けることにより知性高めに見えるという相乗効果。

 顔のパーツに不自然な点はなく、寧ろ揃いすぎてて目を引くレベル。

 こんな見た目はインテリイケメン、しかし中身は極悪非道な先生。

 けれども女子生徒からの人気は高く、休み時間や放課後も廊下で捕まっているのをよく見る。

 何なら部活終わりに押しかけてる輩もいるぐらい。

 そんな我らがバレー部顧問である。

 歳は今年29になるって女子が言ってた気がする。

 

 

 「品行方正が必ずしも正しい訳じゃねーの。俺は俺のやり方でこの職を全うするさ」

 

 フッと笑うのがスゲー様になってて、男の某でも格好良いと思ってしまう。

 くっ、なんだこの込み上げる気持ち・・・

 これが

 

 「敗北感?」

 

 「何言ってんだ?」

 

 呆れている姿一つ切り取ってもイケメンとかマジ滅びろ。

 あー、どっかに可愛い幼馴染いねーかな~。

 

 「まぁ、いい。で、水卜(みうら)清松(せいしょう)さんから練習会に来ませんかと催促が止まねーんだよ。俺も千賀の意思は伝えてるけど、奴さんなまじ名門だから押しが強くてなぁ」

 

 うげ。

 そういう所は個人的に一番遠慮したいんだよなぁと思ったり。

 

 水卜清松は県内において一二を争うバレーの強豪校である。

 外部から監督とコーチを呼び、県内外問わず有望な選手を引っ張って来ては猛練習で扱き倒し、過去にはプロ選手を輩出しており、基本ミーハーな某でも知っているほどの名門である。

 ただ、全国で見ると“それなり”の評価に落ち着くというのがシビアな評価ではあるが。

 それでも全国でそれなりに戦えるだけでも十分に凄いと思いますまる

 

 

 そんな強豪さんに声を掛けてもらえて嬉しくないと言ったら嘘になるけれど、でも声を大にして言いたい。

 

 ス ゲ ー 尻 込 み す る ん だ よ !

 

 

 ワタシ、県内ではそこそこの選手かもしれないけど、ウメー奴らに囲まれて三年間バレー漬けとかマジでゾッとしない。

 監督も鬼怖いので有名だし、そんな所でびくびくしながらバレーしても絶対途中でリタイアする自信がある。というか、その自信しかない。

 

 「その表情で、オメーの考えてることは分かる。で、そんなオメーに朗報?若しくは悲報を伝える」

 

 え、なんすか?

 凄い聞きたくないんですが。

 拙の拒否権は・・・ないですよねー。分かってました。

 

 「またしても、千賀くんを是非ともウチにという学校が現れました」

 

 パチパチとやる気のない拍手がイラッと来るがここは耐えろ!

 よし、この顧問を柔道部顧問のガチムチ学年主任で掛け算して・・・おええええ自爆で瀕死のダメージぃぃぃ

 

 「おい、スゲーげんなりしてるな。でもまぁ、聞くだけ聞いとけ。」

 

 くっ、一瞬地獄の釜蓋開いちまったぜ。

 学年主任は封印だッ!

 しかしっ、尾を引くこの大ダメージ!

 尋常じゃない吐き気が未だ私を責める・・・

 で、その学校とは?

 

 「千寿学園」

 

 「?」

 

 「千寿学園」

 

 「県内にそんな学校ありましたっけ?」

 

 「ノー、県外」

 

 県外?

 

 せんじゅ?

 

 センジュ?

 

 

 「はて、何処の学校ですか?」

 

 「東京だとさ」

 

 

 返事は決まっている。

 のーせんきゅーで。

 

 

 

 

 ☆三

 

 

 

 

 

 僕は今東京にいます。

 東京は今日も晴れです。

 アッハッハッハ。アーッハッハッハッハ・・・・はぁぁ

 

 

 東京マジ半端ないっす。

 なんで駅がこんな広いの?

 なんでこんなホームが多いの?

 なんでこんな迷路みたく道がごっちゃなの?

 なんでこんなに人が多いの?

 

 早くも都会の洗礼を受け心が折れそうです。

 ああ、早く我が故郷に戻りたい。

 たんぼぉぉ、はたけぇぇぇ。

 

 地図みるとあんなちっせーのに実際は北海道位面積あるんじゃないかと錯覚を起こすほどの広大さだぜ。

 で、外に出てみりゃなんだあのデケェ建物群は。

 

 我が故郷の駅ビルもそこそこデカいと思っていたけど、これを見ると調子乗ってすみませんでしたとしか言えませんわ。

 いやー、凄いなマジで。

 

 うおっ、マブイちゃんねーがゴロゴロいるぞ!

 ていうか私服のスマートさが尋常ではない。

 上下ジャージなんて何処にもいやしない。

 

 オカンが服買っとけつったのも納得ですん。

 いやー、上下ジャージで来ようとした俺を力尽くで止めてくれた愚兄と母に感謝感謝。

 

 

 

 

 さて、なーぜ某が折角の休日に態々東京まで足を運んでいるかと言いますと、それにはジェンガより高く子供用プールより深い理由があるのです。

 

 

 ダラダラと話すのもアレなので簡潔に申しますと

 クソ顧問が親に密告したから来る羽目になりました。

 

 某、出不精に若干の引きこもり適正がある為、あまり外に出ません。

 家族曰く貴様は出ようとしていないだけだ、とのこと。

 そんな某に県内外の学校から誘いが。

 勿論私黙ってました。

 

 しかし、事もあろうにあの不良教師そのことをうちの両親にチクりやがったのです。

 で、何も知らずに帰宅した某、飯も貰えずに家族会議と言う名の家庭内裁判に拘束され、結果「一度は外を見て来なさい」ということで、誘って下さった東京の学校の試合を観に行くことになったのです。

 

 

 「えーつと、ここで良かったのかな」

 

 あっちへふらふらこっちへふらふらしながら、目的地の学校に着きました。

 いやー、東京と言う街は強敵でした。

 最終奥義、“ヘイタクシー”を使ってしまったがMP()はまだ残っている!

 

 

 出入りは自由らしく堂々と侵入。

 気分はMIP。我は凄腕スパイなり。

 おっと

 

 「すみません」

 

 「・・・ごめんなさい」

 

 黒髪長髪の少年とぶつかりそうに。

 ってスマホゲームしながら歩いちゃいかんよチミィ。

 まぁ、拙は彼のママンじゃないから注意なんかしないけど。

 

 『自らの行動は自らの意思にて、その結果も全ては自らに』

 

 不良先生が偶に使うフレーズで某が気に入っているやつである。

 要は「全て自己責任で( `・∀・´)ノヨロシク!」的な感じで、先生の恩師がよく使ってたらしい。

 深そうで深くないこの丁度いい感じ。すき。

 

 てなことを愚考していると、ホイッスルが鳴る。

 おっと、試合を観にゃあいかんわな。

 ほいほい階段を登り、上から試合を観戦。

 

 試合してるのは千寿と音駒という学校らしい。

 センジュとオトコマで良いのだろうか。

 漢字は好きじゃないのだ。

 

 

 サッコーイ!

 もういっぽぉぉぉん!

 

 うん、皆さん元気な様で何よりです。

 センジュがサーブを、とんでもスパイクサーブじゃん!

 と思ったらオトコマが難なくそれを上げる。

 センジュがレフトからこれまた強烈なスパイク。

 と、これをオトコマのリベロが綺麗に上げる。鳥肌もんだわ。

 

 何度もセンジュが強打を仕掛けるもオトコマが拾い、長いラリーが続く。

 うへーとガムをくちゃっていると隣に人の気配が。

 

 「お、ゲームは一段落したんかね?」

 

 「っ!!」

 

 ゲーム小僧が何時の間にか観戦していた。

 しかし、声を掛けると吃驚して距離を取られた。

 どうやら警戒しているらしい。なんかねこっぽい。

 

 「ゲームボーイ、暇なら一緒に試合みよーぜ」

 

 「・・・・・・」

 

 ジト目で睨まれる。無言だ。

 体つきは華奢でスモールサイズ。

 恐らく運動神経抜群とは言えない部類の人間だろう。

 雰囲気は良く言えば物静か、悪く言えば非社交的。

 何となく知力高そうだからポジションならセッターあたりが最適だろうか。

 ・・・・うん、しっくりくるかも。

 などと勝手に決めつける拙。

 

 

 この少年、非運動部かの如くゲーマーな香りを漂わせるが何故かオトコマのバレーによく馴染みそうな気がする。まぁ、単純に体育会系の色合いが濃そうなセンジュとは相性が著しく悪そうという勝手な推測である。

 まぁ、ただの勘ではあるのだが、結構当たるのよね。

 

 

 「なーなー、このセンジュとオトコマってどっちが強いか知ってる?」

 

 「・・・音駒(ねこま)

 

 ネコマ?

 あー、オトコマじゃなくてネコマね。

 それにしても猫か。つくづくこのボーイにぴったりんりんだな。

 

 「ネコマのが強いんか。へー、まぁ、センジュと相性は良さそうだもんなぁ」

 

 攻撃的チームのセンジュと守備的チームのネコマ。

 それぞれのチームコンセプトの優劣を決めるならネコマの守備に軍配が上がる気がする。

 レシーブだけじゃなく、ブロッカーも嫌らしいリードブロックで要所を抑えているし。

 

 ただ、時折長身ブロッカーと小柄なリベロが言い合いしてる?

 うん、またしてる。

 

 「あのブロッカーとリベロ仲悪くね?」

 

 「・・・クロは負けず嫌いだから」

 

 ??

 選手の御兄弟?

 いや、言い回し的にどっちかっつうと知り合いって感じか。

 外見からして黒髪長身の方か?

 

 「知り合いなんけ?」

 

 「・・・幼馴染」

 

 へー幼馴染の部活の試合観に来るなんて仲良いんだなぁ。

 おっと、軽く自己紹介でもしとくべきか?

 いやしかしこれっきりになるだろう相手に必要か?

 けれども、袖振り合うも他生の縁っちゅう言葉もありはするし。

 悩んでても始まらんか、即断即決!

 

 「オレ、千賀(せんが)(しゅう)。中三です」

 

 「・・・いきなり自己紹介」

 

 「ディスコミニュケーションはいただけないな。ほれテルミーテルミー!」

 

 「・・・・・・・・・・・・弧爪(こづめ)研磨(けんま)。中三」

 

 ものっそい嫌な顔で溜めに溜めてボソッと呟かれました。

 そして驚愕の事実、まさかのタメ!

 

 

 「タメだったのね。よろよろ」

 

 「・・・この軽いノリ無理」

 

 ひでー。

 無理扱いはショックですがなにヵ?

 

 

 「危ないッ!」

 

 あら、強烈ホームランサーブがこちらに。。。

 とんでもねえな。

 

 「ほっ」

 

 いつも通り。

 姿勢は大事よー。

 凶器が向かって来る訳じゃないんだから怖くなんてないさ。

 ボールは唯受けるのではない。

 迎え入れるのだ!

 タイミングはもーまんたい。

 

 勢いを殺し切ったボールが弧を描き、()()()()へと返る。

 うむ、もーまんたい。

 

 

 ふと、気付くと何やらいくつもの視線が某に・・・

 目立っちった?

 

 「さらば、研磨少年!」

 

 三十六計逃げるに如かず!

 

 

 

 

 ☆三

 

 

 

 

 千寿学園と音駒高校の練習試合も一段落着いた所で、老監督は話を振った。

 

 「尾野田くん、さっきの少年知っているかい?」

 

 「あちゃー! もしかして、猫又監督も興味持たれました?」

 

 千寿学園監督、尾野田(おのだ) (はじめ)は額に手を置き天を仰ぐ仕草を見せる。

 

 「彼はですね、ウチが引っ張ろうとしている有望株なんですよ!」 

 

 

 浅黒い肌に鍛えられた上腕は、彼がスポーツマンであることを十二分に示していた。

 

 

 「ほう、確かにあのレシーブにはハッとさせられたな」

 

 「でもですね、彼はそれだけじゃないんですよ!」

 

 隠すかと思いきや、嬉しそうに喋り出す若者に好々爺は相槌を返す。

 

 「サーブ、スパイク、ブロック、終いにはトスまで熟す稀に見ないユータリティプレイヤーなんですから!」

 

 そんな情報垂れ流しの監督に千寿のコーチは大きな溜息をつくほかなかった。

 そして音駒高校コーチ直井もそんな相手校の苦労人を労わっていた。

 

 「で、その水準がどれも高いんですよ!し・か・も、試合で十全にそれを発揮できるってエグイでしょ?!」

 

 「そんな選手がねぇ。でも、その話聞く限りじゃ引く手数多じゃないか、彼」

 

 通常、そのような選手が本当に居たならば、強豪私立による熾烈な奪い合いが考えられる。

 

 「そうなんですよぉ。彼、全国経験はないんで知名度は高くないんですけど、彼の地元の水ト清松とかは凄い熱心に誘ってるって噂ですし」

 

 「それはまた、ご愁傷さまだねぇ」

 

 全国常連の強豪からの誘い、普通ならそちらに傾くのは想像に難くない。

 バレーと言う競技が国内で広がりを見せる現在、それでも各都道府県では、一強若しくは特定の学校が幅を利かせる所は少なくない。と言うより大多数がそうなのである。

 

 「ただ、彼自身は乗り気じゃないようなんですよね。顧問の先生も「かなり気まぐれですので」って仰ってまして。なのでウチにもチャンスがあるかと思って声を掛けさせてもらっているんですが、どうにも暖簾に腕押しで」

 

 「ふむ、押して駄目なら引いてみるかい?」

 

 「ああ、それは顧問の先生に止められました。「引いたらその隙に逃げますよ」って」

 

 猫又は思った。

 それはどうしようもないのではないかと。

 しかし、それを口に出すほど軽率ではなかった。

 

 





この主人公何処に突っ込みましょうかね。
思いついたら続きます。
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