転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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書いているうちに文章量が膨れ上がったので分割です。

多分3話くらいに分けると思います。


-12/10追記-

気付いたら滅茶苦茶溜まってた誤字報告…
気付くのが遅れました!
報告してくれた皆様ごめんなさい!ありがとうございます!

文章を書く事もそうだけど、ハーメルンの機能にも慣れないといけませんねー…
以後、気を付けます!


少し昔の物語 その1

それは俺が飛行機を操縦している時、突然起こった。

 

はるか遠くの水平線が光ったと思ったら、その光の壁は俺のすぐ目の前にあった。

驚愕、恐怖、疑問、焦燥、一瞬であらゆる感情が過ぎ去って…

俺は神様の前に居た。

 

転生と聞いた時、正直わくわくした。

元々空を飛びたくてパイロットになった俺だ。

魔法で空を飛ぶ体験が出来るのなら前世に未練は無かった。

 

俺は『飛行魔法の才能』『高速に対応できる瞬発力と判断力』『高い魔力』を願った。

 

全ては、自由に空を飛ぶために。

 

 

 

今になって思う。

二つ目の願いがこの事態を引き起こしたのだろうか。と…

 

 

 


 

 

 

目が覚めた時、目の前にプレシアが居た。

 

神様の次は無印ラスボス!?

 

驚いた点はそれだけではない。

 

目が覚めた時点で俺はプレシアに一瞬『母さん』と呼びそうになった。

慌てて過去を思い出そうとすると、どうにも()()()2()()()()

 

一つは俺の前世の記憶だ。

俺自身としてもなじみ深い『俺自身の記憶』。

 

もう一つはプレシアと言う母に育てられた記憶。

…記憶の光景を見る限り、恐らくこれは『アリシアの記憶』だろう。

 

俺は驚愕のあまり硬直し、結果としてそれは正解だった。

 

プレシアは俺をまだアリシアだと思っているようで、

身体を拭き、服を着せ、部屋まで案内してくれた。

 

俺も現状を理解し、どうやらフェイトになってしまったらしい事を自覚した。

 

プレシアは原作で『プロジェクトF.A.T.E』の技術を用いてアリシアのクローンを作り出し、

アリシアの記憶を埋め込んだ。

俺がアリシアの記憶を持っているのはその為だろう。

 

こうなるとこれからとる行動は決まってくる。

プレシアに『アリシアの体』の中に居るのが『誰とも知れない男』であるとバレる事だけは阻止しないといけない。

先ず原作のフェイトの時以上にプレシアは壊れてしまうだろう。

更に言うと、激情したプレシアに殺されてしまうかもしれない。

 

幸い俺には『本物のアリシアの記憶』もある。

ここからはアリシアの記憶に基づいて行動しよう。

…上手く行けば、プレシアの結末も変えられるかもしれないしな。

 

その後俺はプレシアと庭園を散歩した。

 

散歩しながらいくつかの質問に答え、

俺がアリシアの記憶を持っていることを確認した時は、

涙すら流しそうな程歓喜していた。

 

騙しているようで罪悪感がすごい…

いや、実際に騙しているのだから心が痛む。

 

俺はせめてプレシアの結末を良い方向に変える事で報いたいと思った。

 

それはこの罪悪感から逃れて生きる為の方便かもしれない。

 

あるいは、フェイトとしてこの世界に生を受けてしまった事には意味がある。

…そう思いたかっただけなのかもしれない。

 

 

 

その日の夕食の事だ。

 

食器を持つ俺を見てプレシアが目を見開いた。

 

前世でも右利きだった俺は、自然と右手でご飯を口に運んでいた。

 

プレシアの顔が青ざめるのを見て、俺は思いだした。

 

…あぁ、そう言えばアリシアは『左利き』だったな。と。

 

夕食後、プレシアは魔力の素質や利き腕等から俺がアリシアじゃない事に気付いた。

原作でも確かそんな感じで気づかれてたように思う。

 

プレシアは取り乱し、何かの資料を憑りつかれた様に漁り始めた。

 

俺はその光景をただ茫然と眺める事しかできなかった。

 

 

 

やがて俺に振り返ったプレシアが、先ほどの夕食時には見せなかった表情で言い放つ。

 

「あなたは『失敗』だった…」

 

流石にショックを受けた。

 

成功失敗以前に、そもそも俺は別人だ。

 

そんな俺でも衝撃を受けたこの言葉は、いったいどれほどフェイトを追い詰めたのだろう。

 

プレシアはやり場の無い感情をぶつけるように俺に暴言を浴びせた。

左利きじゃない事に文句を言われたのは、流石に前世含めて初めてだった。

 

しかし、最後には俺の肩を掴んでただ涙を流すようになって、

俺は何も言えなかった。

 

 

 

泣き止んでからのプレシアの行動は速かった。

 

その日のうちに俺にリニスと言う教育係がつけられ、プレシアは研究に没頭しだした。

研究室に鍵をかけ、滅多に顔を出さなくなった。

 

そしてその日から…いや、俺自身にとってはまだ一回しか経験していないが、

プレシアは俺と一緒に食事をとらなくなった。

 

結末を知っている俺は、何とかプレシアを止めようとした。

 

プレシアの事を「母さん」と呼び、出来る限り望むアリシアであろうとした。

研究室に向かうプレシアを、何とか呼び止めようとした。

プレシアが見てくれるように、魔法の練習に力を入れた。

 

しかしどれも成果は見込めなかった。

 

プレシアが俺の言葉に耳を貸さないのも原因の一つだったが、もう一つの原因の方が厄介だった。

 

 

 

プレシアの執事である。

 

名前はセバスチャン。見た感じは20代前半といったところだろうか。

 

 

 

…いや、誰だよ。お前原作に居なかったよな?

 

「プレシア様、おいたわしや…」じゃねぇんだよ!

何なんだその銀髪とオッドアイは!?

ベッタベタな転生者じゃねぇか!どうやって取り入ったんだ教えてくれよ!?

 

いや、ホントにこいつが問題だった。

なにせ俺がプレシアを止めようとすると必ずコイツもいるのだ。

ナンデ!?ナンデお前いるの!?

 

原作を知っているコイツがプレシアの研究にどういう見解を持っているのか分からない以上、

転生者であることがバレるリスクは避けたい。

もしかしたら敵対する事にすらなりかねないからだ。

 

俺に出来るのはプレシアが研究室から出てきている僅かな時間、

プレシアに良く懐く事だけだった。

 

 

 

そしてもう一人、俺の知らない奴がいる。

食事を作り、プレシアや俺に持ってくる謎のメイドだ。

コイツも転生者なのか?いったい何人この世界に転生したんだ?

 

名前はアンジュとか言ってたな…料理は美味いし、態度もまさにメイドと言った感じで堂に入っている。

某カフェの様にサブカルめいたメイドではなく、本物のメイドと言った感じだ。

 

こんな人いたっけ…?いや、居なかったよなぁ…?

原作を見たのも随分前だ。細かいところなんて忘れている。

 

 

 

「アンジュ殿の料理はやはり格別でございますな。

 プレシア様も一緒に召し上がればよろしいのに…」

 

でもお前が居なかったのは分かってんだよ似非執事…!

 

くそっ、変な丁寧語使いやがって…こいつが居ると何時も調子を狂わされる…!

 

 

 

そんな感じでここで暮らすこと数ヶ月…

 

リニスに指導してもらい、魔法を練習している時の事だ。

アンジュがどこからか子犬を拾ってきた。

 

どうやら死病に罹っているようだ。

アンジュがどうにか助けてやれないかとリニスに話しかけている。

 

もしかしてこの子犬…いや、狼がアルフなのだろうか。

そう言えばアルフは元々病で死にそうになっていたところを、

フェイトが使い魔契約で助けた…

 

確かそんな感じだったはず。

 

リニスに使い魔契約で助けられないかと聞いたら、

 

「ふむ、それではプレシアに聞いてみましょう。」

 

と言って屋敷に戻って行ってしまった。

 

取り残されたアンジュと俺、そして今にも死んでしまいそうなアルフ。

 

既に使い魔契約の魔法を習っていた俺は、

これ幸いとアンジュに自分が契約すると伝えて使い魔契約の術式をアルフにかける。

使い魔契約の内容は「ずっと一緒にいる事」。原作の契約内容も確かこうだった。

 

契約を受諾したのだろう。

術式がアルフに入り込み、使い魔に作り替えていく。

 

アルフを包む光が消えると、そこには今の俺とそう変わらない年齢の女の子が気絶していた。

外見の特徴を見る限りではアルフと一致する。

 

助けられて良かった。

 

本来なら俺が自分で見つけなくてはならなかったのだが、時期も場所も分からなかったのだ。

 

アンジュのおかげでこうして巡り合えたのは…

もしかしてこれが『歴史の修正力』とか言うものなのだろうか?

 

そうなるとプレシアは救う事が出来ないのか…?

 

しばらくそんなことを考えていると、リニスが戻ってきた。

 

プレシアは研究室に籠りっきりで返事もしてくれなかったらしい。

 

そして既に使い魔契約をした俺とアルフを見つけると、

困ったような安心したような笑顔を見せる。

 

「まさかあなたが契約するなんて…契約の内容はなんですか?」

 

契約内容を答えるとリニスは驚いていた。

 

使い魔は本来、契約内容を完了させるまでの存在だ。

 

『ずっと一緒に居る』と言う願いはつまり

『死ぬまで常に魔力を供給し続ける』か、さもなくば『主が自分の意思で使い魔契約を断ち切る時が来る』と言う事。

 

リニスはその事を俺に説明すると、

 

「その覚悟が無いのならば、この子が目を覚ます前に契約を解除しなさい。

 それが、やさしさと言うものです。」

 

と、俺の目をじっと見つめながら選択を迫る。

 

答えなんて決まっている。

 

「もちろん最期まで一緒に居る。私が死ぬまで面倒を見る。」

 

リニスの目を真っすぐ見つめ返し断言する俺にリニスは納得したのか、

表情を緩めて俺の決断を応援してくれた。

 

そして、アルフが目覚めるのを()()で待つのだった…

 

 

 

しかし、リニスも大変だったな…

何時になく強く訴えかけるアンジュに戸惑っていた。

 

アンジュがあんなに自分の頼みを言う事なんて今までなかった。

アリシアの記憶でもあんなアンジュは見た事が無い。

 

…そう言えば、アリシアの記憶にアンジュは居るがあの似非執事は居ない。

昔から執事じゃなかったのか。

どうやって取り入ったのか調べるべきか…?

 

何か企んでる可能性もあるし…

 

気になると言えば、アンジュもそうだ。

見た感じでは20歳か…もう少し若い年齢に見えるが、

アリシアの記憶の姿と外見が変わっていない。

 

この年齢で数年間、容姿が変わらないなんてことがあるのだろうか…?

 

一度はそう考えたが、それを言うならプレシアも年齢を感じさせない程若く見える。

この世界では実年齢よりも若く見える外見と言うのは珍しくないのかもしれないな。

魔法がすごいのか二次元がすごいのか…は、別にどうでもいいか。

 

今はアルフが目覚めるのを待とう。

 

 

 

やがて、アルフが目覚めると今日の訓練は中止として屋敷を案内する事になった。

 

アルフがどこで生活するかと言う話になると、

契約の内容とアルフの強い希望で俺の部屋で生活する事になった。

 

そしてアルフを加えた新しい生活が始まった。

 

ただ、このアルフ。ちょっと変だった。

妙に距離が近いのだ。

 

普段からやたらと傍に居たがるのは実に子供らしくて微笑ましいのだが、

風呂場でも寝る時でも…何というか年相応の好意以上のものを感じる時がある。

 

原作でも仲良しだったしこの年齢(人で言うと5歳頃)ならこんなもんなのか?

 

 

 

ベッドでアルフに抱き枕の様に抱きしめられながら、俺は一人考えるのだった。




読んでいてなんとなく察しているかと思いますが、
カット出来るところはバッサリカットしていきます。

なお、カットしていても分割される模様。

プレシアの言動で察しているかと思いますが、
『本人』です。

この世界において非常に珍しい『原作キャラご本人』です。
アリシアも本人です。(死んでしまっていますが)

この二人は原作キャラじゃないと原作が始まらないからね。
しょうがないね。

アンジュさんは名前の通りです。天使です。

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