転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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はやての為に

「あぁ、もう! 人手が足りない!」

 

目の前のモニターに映し出されている幾つもの情報に目を遣りながらも、パネルを叩く指は止まらない。

止めていられるような暇がないのだ。

 

ヴィータ&ザフィーラと戦っている皆のサポートだけでも結構大変だと言うのに、民間人の魔導士の退避も急がないといけない。その為の結界の調整に、転送術式の構築と彼等の結界の術式に対する割込み……

 

その上、突然の仲間割れによるエール(リーゼアリア)の行動も追わないといけないし……明らかに一人の人間に任せるタスクの数じゃないよね!?

 

「ホント猫の手も……いや、しばらくは猫の手はいいや。何かもっと大変な事になりそうだし……」

 

流石にリーゼロッテ()に色々やられた後だと『猫の手も借りたい』なんていう気にはなれないなぁ……

 

なんて事を考えていると、手元のモニターに通信が入った事を知らせる通知が表示される。

こんな忙しい時に誰が……

 

「発信元は……アースラ! クロノ君、ナイスタイミング!」

 

即繋ぐ。クロノ君の顔が見たいし声も聞きたい!

でも今はそれ以上に手伝って欲しい!!

 

「クロノ君! ヘルプ!!」

『うわっ!? い、いきなりどうしたんだ、エイミィ!?』

 

おぉふ……驚いたクロノ君も可愛い……じゃなくて!

 

「実は今、海鳴臨海公園で……」

 

現状を一通り説明し、手が足りない事を伝えるとクロノ君はしばらく目を瞑り判断を下す。

 

「……状況はおおよそ把握した。こちらも急いでそちらに向かっているが、まだしばらくはかかりそうだ。

 転送可能域に入り次第こちらからも増援を出すから、エイミィは結界の構築と民間人の転送準備を最優先に頼む。

 局員のサポートも大事だが、手が足りない以上はある程度現場の判断に委ねても良い。彼等も普段の言動こそ()()だが、何度も修羅場は潜り抜けている。数的有利を確保できている状況なら、しばらくはヴォルケンリッター相手でも持ちこたえられるはずだ。

 それと……逃走したエールに関してだが、既に行先はこちらで判明させているので対処は任せて欲しい。……出来るか?」

「まっかせて!」

 

クロノ君の声を摂取出来た時点で活力が漲ってるからね!

タスクも減らしてくれたし、これで期待に応えられなければ補佐官の名が泣くってもんだよ!

 

「そう言えば、クロノ君の方の用事は何だったの?」

「用事の幾つかは先程話した事に含まれているが……いや、今は良い。

 君は自分の作業に集中してくれ。」

「……? うん、分かった!」

 

 

 


 

 

 

「良かったの? 話さなくても。」

 

エイミィとのやり取りを終えて通信を切ると、その様子を見ていた母さんが確認を取るように話しかけてきた。

 

「はい。今のエイミィに過度に情報を与えれば気が散ってしまうでしょうから。」

「そうね。彼女なら大丈夫とは思うけれど、万が一を回避すると言う意味では間違ってないわ。」

 

グレアム提督の計画、リーゼ姉妹の行動、エールの正体に闇の書の現状……一度に与えるには情報が多すぎる。

普段のエイミィなら何の問題もないだろうが、今はタイミングも重なってしまっている。

それに既に状況が動いているとあっては、寧ろこちらの情報の方が古い可能性もあるのだ。

 

「オペレーター、もっと速度は出せないか?」

「これが限界です!」

「クロノ、焦る気持ちも分かるけど先ずは落ち着きなさい。

 指揮官でもある貴方がそんな調子だと、皆にもその焦りが伝わってしまうわよ。」

「……申し訳ありません、艦長。」

 

母さんの言葉で、今自分が焦っている事を自覚する。

グレアム提督の『八神はやては今日、闇の書の主に覚醒する』と言う言葉が頭の中をグルグルと回っている。

勿論その言葉を鵜吞みにした訳ではないが、あの時のグレアム提督の眼を思うと少なくとも彼がそう確信しているのは事実だ。

 

彼はその後もいくつかの情報を話してくれたが、その中には闇の書のページがもう600ページ以上埋まっていると言う物もあった。

それにエイミィから聞いた状況を合わせて考えると、彼の計画はもう最終段階に入っている……思い返せば、焦るなと言う方が無理な話だったのだ。

 

「……今一度確認させていただきます。

 今回の事件に……いえ、闇の書の存在に貴方は以前から気付いていたと言うのは、本当ですか?

 ()()()()()()?」

「……そうだね。間違いないよ。」

 

母さんの言葉に、現在このアースラに同乗しているグレアム提督は素直に返答する。

制服こそそのままだが体の前で組まれた腕には枷が嵌められており、デバイスも当然ながらこちらで預かっている。彼がこの船に乗っているのは、現在も地球で計画の為に暗躍しているリーゼ達の説得に使えると考えたからだ。

 

「貴方達の計画の仔細についてはクロノから聞きました。

 その計画の為に犠牲にしようとしている者についても。」

「……」

「……何故、管理局に連絡しなかったのですか?

 早期に連絡していれば、起動前の闇の書の確保は容易だった筈です。」

 

現在グレアム提督に向けられている母さんの言葉は、そのまま俺自身にも当て嵌まる。

ジュエルシード事件の時に俺の持っている情報を利用すれば、闇の書の確保は容易だった。情報をどこで得たかなんて後でどうとでも言えたし、結果は過程を肯定するからだ。

それをせずに闇の書を見逃した点に於いて、俺とグレアム提督は同罪なのだ。

 

「闇の書の確保は容易……本当にそう思うかね?」

「え……?」

「考えてもみたまえ。そもそも我々は一度、()()()()()()()()()()()()()だろう。

 忘れもしない11年前……あの事件の時に。」

「……ッ!」

 

母さんの表情が僅かに歪む……多分、俺の表情も同様に歪んでいる事だろう。

俺達家族にとって、それはあまりにも苦い記憶なのだから。

 

「……思い出させるような事を言って、済まない。

 だが、その結果起きたあの事件が私に教えてくれたのだ。

 『闇の書を主から引き離し、確保する事自体が間違い』だとね。」

 

そのまま彼は話をつづけた。闇の書の確保の果てに起こり得る最悪の事態……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を。

 

「その時に心に決めたのだ。例え如何なる規約に背こうと……例え悪魔の囁きに身を任せてでも、次に起きた闇の書事件は現地で解決させようと。」

 

……考えもしなかった、闇の書の確保の末の可能性。

言われてみればその可能性は確かにゼロじゃない。そして、もしそれが現実のものとなれば、それは次元世界全体の脅威となる……誰にも止められない、最大最悪の脅威に……

 

「……グレアム提督の意見は分かりました。

 しかし、それだけでは管理局の本部に連絡を入れなかった理由にはなりません。

 なぜ独断で動いたのですか? 管理局総出で事に当たれば、犠牲を生まずに封印する道もあったはずです。」

「……それについてはクロノにも言った通りだ。

 闇の書の主に選ばれたあの子を知った時に、私は彼女と私自身の運命を見たと錯覚してしまった。

 管理局に連絡すればその手段はとれない……だから連絡しなかったのだ。」

 

……何と無くその言葉に違和感を感じた。

嘘を言っている訳では無いが、それが全てではないような……

 

「グレアム提督、貴方は……」

「艦長! 第97管理外世界、転送可能域に入りました!」

「ッ! 分かりました! クロノ、至急現地に向かい指揮を執りなさい!

 私は引き続きこのアースラに残り、現地に向かいます!」

「はい!」

 

……聞ける空気ではなくなってしまったか。

優先順位は明白だ。何時か聞けるときになった時まで、この疑問は心にとどめておこう。

 

「このアースラには最低限の人員を残し、出撃可能な者はクロノの指示に従うように!」

「「「「「はい!」」」」」

「転送ポート、繋げました!

 座標は『海鳴臨海公園』に張られた結界内です!」

「エイミィの報告にあった交戦現場ね。

 各員、転送後すぐに戦闘が始まる物と心得なさい!

 ……出撃!」

 

艦長の号令に合わせて、転送ポートに駆け出す。

八神はやての未来を、俺のよく知る幸福な未来にするために。

 

 

 


 

 

 

「ちっ……! ちょこまかと鬱陶しい!

 アイゼン!」

≪Eisen geheul!≫

 

叩いた鉄球から閃光が迸り、管理局員共の視界を奪う。

その隙に局員の包囲を抜け出し、ザフィーラと合流する。

 

「……あの魔法を使うなら予め言え。俺まで影響を受けかねん。」

「悪かったって。……それより、どうする?」

「そうだな……今が潮時だろう。」

 

口数は最小限に、ザフィーラとこの後の動きに関して調整する。

閃光で目を晦ませた今ならば、容易に結界の端まで行けるだろう。そうなればザフィーラの魔法で結界に穴を空けて抜け出せる。

 

ザフィーラも同じ考えだったようで、陸地側の方向を見ている。

結界の端までの距離はそう遠くないし、管理局員もそっちの方向にはそれほど多く居ない。

どうやらこれで切り抜けられそうだ。

 

実際結構ヤバい状況だったが、何とか切り抜けられる事にあたしは安堵して……

 

 

 

「ッ!? 何をやっているッ!! ヴィータァッ!!!」

「え……? ……ッ! これ……って……」

 

ザフィーラの声が妙に遠い。見ていた風景が変わっていた。

あたしが見ていたのは陸地側だったはずなのに、今見えるのは一面の水平線。

そして……

 

 

 

気付けばあたしの左手には煌々と輝く闇の書……そして、()()()()()()()()()()()右手の先には……

 

蒐集完了(Sammlung abgeschlossen)

 

弱弱しく銀色に輝くリンカーコアがあった。

 

 

 

「闇の書……ッ! チクショウ、油断した……」

 

また闇の書に体の制御を奪われていたらしい。蒐集により意識を失った武装局員が、海に落ちていく寸前で何とかその手を握る。

 

このまま海に落ちれば最悪溺死しかねない。周囲に目を遣り、一番近い所に居た局員めがけて気絶した局員を放り投げる。

 

 

途端、内側から感じる違和感。

 

自分が誰だったのか、なぜここに居るのか、そもそもここが何処なのか……あらゆる認識が急速に遠のく感覚。

 

この世界で過ごした日々が……

 

何百年と身を置いた戦いの記憶が……

 

それよりも以前……とっくに忘れていたとさえ思っていた前世の記憶が、脳裏に瞬いては消えていく。

 

「うっ……ぐぅッ! やめろ……消すな……ッ!」

 

激しい頭痛と不快感に頭を押さえるが、抵抗も空しくあらゆる記憶が消えていく……

痛みと悔しさ、寂しさ、悲しさ……激しい負の感情に目から涙が零れ落ちて……

 

 

 

そうしてその涙の意味も分からなくなった時……妙にすっきりした頭に最後に残ったのは、たった一つの使命だけだった。

 

「……主の元に向かわねば。」

 

闇の書はたった今完成した。

行こう、主を真に闇の書の主とする為に。

あたし達の使命を果たす為に。




最後に蒐集された銀髪オッドアイ(武装局員)のページ数は15~20ページくらいを想定してます。
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