転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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戦いのその裏で

『皆、ゴメン! 結界の制御が、拠点ごと取られた!!』

「なんだって……!?」

 

エイミィからの通信にクロノが目を見開いたのが見える。

良く見てみれば画面に映るエイミィの背後の景色はアースラのブリッジだ。拠点が使えなくなった為にアースラに移ったのだろう。

 

『今結界の規模と対象が操作されて、町全体をすっぽり覆ってる! それも、住民全員を巻き込んで!!』

「えっ……!?」

 

言われて公園の方に目を遣れば、確かに多くの人がこちらを見ている。中にはカメラを構えている者も……

 

「み、皆さん!! 危ないですから、急いで離れて……ッ!?」

「よそ見してて良いのかよ?」

 

注意喚起をしようとするも、それはヴィータの鉄球に阻まれた。

 

「ヴィータちゃん……! 目を覚まして!

 はやてちゃん、言ってたよ!? ヴィータちゃんは素直じゃないけど、優しい子だって!!」

「そうか。」

≪Protection Powered. Barrier Burst!≫

 

返答代わりのグラーフアイゼンの攻撃に合わせて、カウンターのバリアバーストで距離を取る。

……しかし、さっきの言葉の返事がアレか。やっぱりもうヴィータの意思は無いのだろうな。

残念に思いつつも煙の中にアクセルシューターを4つ飛び込ませ、再び拘束しようとした俺の視界の端に……それは映った。

 

「ッ!?」

 

黒い3対の翼を広げ、公園の人だかりに向けて飛翔するその影は間違いなく……

 

「闇の書の……!」

 

拙い! アクセルシューターを操作中の俺は自由に動けない!

 

「“バスター”!!」

 

仕方なく先程ヴィータに向けて放ったアクセルシューターを使い、砲撃を放つが……

 

「『盾』」

≪Panzer Schild.≫

 

当然簡単にかき消され、その速度を落とす事さえ敵わない。

だが、その砲撃で気付いてくれたらしい。

 

「バルディッシュ……!」

≪Haken Slash.≫

 

流石はフェイトだ。闇の書の主とは数十m離れていたにも拘らず、一瞬でその前に立ち塞がった。

俺も直ぐに駆け付けたいが……

 

≪Protection Powered.≫

「くっ……!」

 

俺の速度じゃヴィータを引き離すのは厳しそうだ……!

 

 

 


 

 

 

「ハァッ!!」

 

正面に回ると同時に、民間人から引き離すべく全力で振るったバルディッシュの光刃は……

 

「『盾』」

≪Panzer Schild.≫

「つッ……!」

 

あっさりと障壁で止められてしまった。それに……動きを止める事は出来たけど、まったく突飛ばせない。寧ろ攻撃した私の腕の方が痺れる程に頑丈な守りだった。

 

「刃以て、血に染めよ」

「!」

 

私の周囲に……!

 

「穿て、ブラッディダガー。」

≪Blutiger Dolch.≫

「バルディッシュ!」

<姉さん!>

≪Defensor Plus.≫

<ディフェンサー!>

 

一瞬迷ったが、防御を選ぶ。民間人の方にブラッディダガーが向かう可能性を無くす為にはこうするしかなかった。

 

周囲に響く爆音、軋む障壁。

防御を二重にしたおかげで直接的なダメージこそ避けられたが、体力は結構持って行かれてしまった。

 

「はぁ……はぁ……、っく!」

 

闇の書の意思が動く気配を感じ、煙を突き破って再び立ちはだかる。先程のやり取りで危険性が伝わったのだろう、見物していた一般人は我先にと逃げ出していた。

 

「ヤァッ!」

「『盾』」

≪Panzer Schild.≫

「痛ッ……!」

 

まるで最初に戻ったようなやり取り。だが、数秒前と比べても明らかに私は消耗させられていた。

 

「……何故、邪魔をする。」

「何故って……それが、私達の役目だから……ッ! なんで、魔力も持たない民間人を襲おうとしたの!?」

 

気付けば私は問いただしていた。

敵対している訳でも無く、蒐集の対象にもなり得ない民間人に真っ先に向かったその理由を……

ヴォルケンリッターでさえ言葉が通じないこの状況で、闇の書の意思と会話が成立するかは賭けだったが、彼女はその問いに答えた。

 

()()()()()()()()()()()()。私はそれを叶える為に、今ここに居る。」

 

 

 


 

 

 

リビングの机を挟んで反対側、印刷された紙をこちらに見えないように持った神谷が口を開く。

 

「じゃあ、次の問題出すぞー。

 『市街地での飛翔魔法の使用が禁止されている理由について、簡潔に述べよ』。」

 

今やっているのは管理局に入局する為の勉強会。

やった内容をちゃんと覚えているか確認する為のクイズを出し合っているところだった。

 

『Ah~……僕等の運命はァ~……』

「……待てよ、思い出すから。」

 

余計な情報を耳に入れないように意識しながら、確かに覚えた筈の記憶を探る。

 

『あの日ィ~交ぃわったァ~……』

「これアニメでもやってたぞー。」

『体をォ貫くゥ~衝撃はァ~……』

「マジで……? やっぱりもう結構忘れてるな……」

 

周りで様子を見ていた神崎が発した言葉に、アニメの記憶が曖昧になっている事を自覚する。

だが、確かにStSでそんな内容があったような気も……

 

『正にィ~……交通事故ォ! Yeah!』

「ああ、アレだ! 『事故を防ぐため』!」

「……流石にもう少し詳しく答えないと正解にはならないだろ。」

「そうだよなぁ……って言うか……」

 

示し合わせたように全員がある方向を見る。……正確には、窓の外に見える家を。

 

『あの日見た君の横顔ォ! 僕はァ! 忘れなっ()ィィ!!』

「隣人うるっせぇなオイ……」

 

勉強会を始めて少し経った頃からずっとあの変な歌が聞こえるのだが、近隣住民は誰も文句を言わないのだろうか。

 

「何で最初バラードっぽかったのに急にロックっぽくなるんだよ……」

「なんかクリスマスにあの歌で告白するらしいぞ?」

「マジで? めちゃめちゃロックじゃん。」

「……良く聞いたら曲は良いな。歌詞はゴミだけど。」

「すげぇだろ? 重厚なメロディから繰り出されるクソみてぇな歌詞。」

 

あぁ、おかげで全然集中出来ん。偶には神崎の家で集まろうと言ったのが間違いだった。

 

そんな事を考えていた時だった。

 

「……!? 何だ、今の感覚は……?」

 

元々結界魔法の訓練に精を出していたからだろう、神谷がいち早く異変を察知した。

 

「これ……まさか結界か!?」

 

今まで訓練で何度も経験した事のある感覚だった為、俺達もすぐに結界が展開された事に気付く。しかし……

 

「どういう事だ? 今日の訓練って海鳴臨海公園でやるって言ってなかったか?」

「その筈なんだけどな……まぁ、元々リーゼロッテの提案だったから変な感じはしてたけど。」

『こォのォ世ォにィ舞い降りたァ~! 唯~一~神ンンン!!』

「……その提案ってアレだろ? 『結界魔法の訓練をしよう』ってやつ。

 だったらこれも訓練なんじゃねぇか? 範囲を広げるとかさ。」

「それもそうか。」

 

事前に連絡は無かったけど、結界魔法張っただけで民間人に影響が出るはずもない。寧ろ悪影響って言うならこの酷い歌の方が問題だ。

何で俺達も結界の中に入れたのかとかは気になるが、今はとりあえず向こうの常識を詰め込むのが優先か……と、再び机に向かおうとした時、神原が突然手を突き出して口を開いた。

 

「待て……あの歌、何かおかしくないか?」

「……? そりゃおかしいだろ。訳分からん内容だし。」

 

何言ってんだこいつ。今までちょっとでもいい歌だと思ってたのか?

 

「じゃなくて! 何で結界内なのに一般人の歌声が聞こえるんだよ!?」

「「「「「確かに!!」」」」」

 

え、なんで一般人が結界内に居るんだ!? あいつ等なんつーミスしてんだ!

急いで訓練中の奴らに念話を繋げようとした瞬間、目の前に通信用のウィンドウが現れた。

 

『皆、聞いて!』

『今こそ僕の全てを捧げよう! 血! 肉ゥ! 骨ェェ!!』

『うわ、何この酷い歌……』

 

映ったのはエイミィだ。歌の酷さはともかく、こうして向こうからコンタクトして来るという事は、やはり何かしらの緊急事態という事だろう。

 

「アレは無視しても良いから、今何が起きてるのか教えてくれ。」

『う、うん! 実は……』

『人生ェェエアアア!!』

 

 

 

「……なるほど、つまり俺らのやるべき事は……」

『うん! 出来る限り民間人に被害が出ないように避難誘導をお願い!』

 

……大変な事になってるな。闇の書の意思が街一つ結界に包み込んだって事は、狙いはこの街に住む民間人って可能性が高い。

しかも原作と明らかに行動が変わってるって事は、この変化の原因が俺達(転生者)にあるのは明白だ。何が原因だったのかは分からないが、それで被害が出たら悔やんでも悔やみきれん。

 

「うし……じゃあ、行くかぁ!」

「一応聞くけど、魔法は使っても良いんだよな?」

『……うん、こうなったらもう隠し通すのは無理だと思う。誘導の為の飛翔魔法、民間人を守る為の防御魔法が得意な人は特に積極的に動いて! それと……』

「聞いた話じゃ、もう蒐集は終わったんだよな?

 じゃあ、俺が動いても良いって訳だ。」

『うん……ッ! 今、闇の書の主が動き出した! やっぱり、市街地を目指してるみたい!

 闇の書の主を足止め出来そうな人はそっちもお願い!』

「了解! ……って、もう切れちまったか。」

 

エイミィの方も相当忙しいのだろう、こちらの返事も聞かずに通信が切れてしまった。

ともあれ、こうなっては勉強会どころじゃない。まるで示し合わせたかのように一斉に立ち上がった面々を見て、神谷が口を開いた。

 

「……で、お前らはどっちに行くんだ?」

 

『どっち』とは言うまでも無く『避難誘導側』か『闇の書の主の足止め』かの2択の事だろう。

 

「俺は当然、闇の書の主! ……って言いたい気持ちは山々だけど、避難誘導に回るわ。

 近所の八百屋のおばちゃんが最近足痛めちまっててよ……そっちが心配だ。

 そう言う神谷はどっち行くんだよ?」

「当然避難誘導だ。元々戦闘は得意じゃないし、結界とか障壁を張るのも得意だしな。

 闇の書の主の魔法が飛んできても1回か2回くらいなら防げるかもしれん。」

「じゃあ俺も避難誘導にしておくわ。実際闇の書の主に勝つどころか、足止めも出来るか分からねぇし。……神場は?」

「ん~……やっぱ闇の書の主かな俺は。

 足止め用の魔法を創造すれば多少は時間稼げるだろうし、多分エイミィもそのつもりで話してたと思う。」

「エイミィの意思を汲み取るなら、俺も避難誘導だな。多分こん中で対応できそうな神場以外は避難誘導に行く方が良いんじゃねぇかな。」

「……まぁ、そうだよな。現実問題人手が要るのも避難誘導側な訳だし。」

「そう落ち込むなって。敵を倒すのがなのは達なら、人を守るのが俺達ってだけだ。

 どっちも大切な役割だぞ。」

「分かってるって……訓練の成果が出せないのがちょっと残念なだけだ。」

 

……正直、神無月の気持ちも分からなくはないけどな。俺だって折角手に入れた魔法で派手に戦いたいって願望は……まぁ、ちょっとくらいはあるし。

でもそれはこんな状況で優先する感情じゃない。神無月もそれは分かってるだろう。

 

『Ah~僕らを繋ぐぅ~』

「あいつの間奏も終わったみたいだしさっさと行こうぜ。」

「告白用のラブソングにギターソロの間奏があるってどうなんだろう?」

「俺が知るかよ……」

 

どうか決戦の舞台がこの近くになりませんように! あんな歌をバックに戦う絵面とか嫌だぞ俺は!

 

 

 


 

 

 

『……って訳だからお願い!』

「えっ、あの、俺障壁とか適性が……! って、切れちゃったか……」

 

参ったな……

 

「あはは、災難だねトシ君。」

「木之元お前、他人事(ひとごと)みたいに……」

 

……こいつは良いよなぁ。適性に癖がないオールラウンダーで、その上デバイスを自作できるもんだから必要とあれば特化型にもなれるし……

 

「大丈夫、言ったでしょ? そのデバイスの機能を使えばトシ君の特典も活かせるよ。」

「……別に疑ってる訳じゃねぇよ。……サンキューな。」

「! よ、よぉし! それじゃ張り切って避難誘導に行こうか!」

「ちょっ!? 待っ、引っ張るな!」

 

 

 


 

 

 

『……そう言う訳で、今丁度君達が居るところを避難場所の一つにする感じでお願い!』

ちょっ、そんないきなり言われても……!

 

……切れちまった。声、聞こえなかったのかな……

 

どうする? いきなり過ぎる話だけど……

……まぁ、人が大勢入れてある程度頑丈ってなるとなぁ。

そりゃはやてが来ない訳だ。こんな事になってたなんてな。

それで避難所にするって、俺達は結局何すればいいんだ?

……司書さんに伝えるとか?

俺らの言う事聞いてくれるかな……多分俺ら相当に問題児扱いされてるぞ?

「自覚があるなら、動きも静かに……ね?」

「「「「「「ヒュッ……!?」」」」」」

 

唐突に背後から聞こえた声に、思わず息が漏れる。

振り返るとそこには案の定、いつも俺らを注意しに来る司書さんがいた。

 

あ、あの司書さん!? 実はですね……

今外で……

「……大丈夫よ、さっきの会話も見ていたから理解してるわ。」

し、司書さん……!

 

なんて話が早いんだ! 

でも、まさかさっきの通信を見られていたなんてな……人に見られないように移動したのに。

そんな疑問が表情に出ていたのか司書さんが突然、ふっ……と笑みを浮かべる。

 

「貴方達みたいな問題児から一時も目が離せるわけないじゃない。」

「「「「「「毎日お手数おかけして申し訳ありませんでした……っ!」」」」」」

 

 

 


 

 

 

『……じゃあ、お願いね!』

「ああ、任せろ!」

 

避難誘導と戦闘……か。

威勢よく返事をしたは良いが、俺の心はまだどっちに行くべきか決めかねていた。

どちらも重要な役割である事に加え、俺自身の願いが更に迷いを大きくしていたのだ。

 

「……取りあえずは、外に出て様子を見ようか。」

 

セットアップを済ませ、外に飛び出す。空は妖しく揺らめき、その色を変化させている。間違いなく結界が張られており……

 

「どうなってんだ!? 電話が通じないぞ!?」

「こ、こう言う時って家に居れば良いのか? どっかに集まるのか?」

「あたしが知るわけないでしょ!? アンタって本当に肝心な時に頼りにならないんだから!」

 

……街はやっぱりパニックのようだ。無理もない。地震や津波の警報とは訳が違うからな。

道路は人で埋まり、自動車が通れず渋滞を作り、人をどかそうとするクラクションの音が絶えない。

 

「ママー!!」

 

親とはぐれた子ども達が泣くのも仕方ない光景だった。

そんな状況を前にすれば嫌が応にも心は決まると言う物だ。俺は息を大きく吸い込み、魔法の力も使って全力で叫んだ。

 

「この街の危機に!! 俺、参上オオォォォッ!!」

 

全身に炎を纏いながら空に立つ人影がバカみたいな大声で叫んだのだ。一瞬だけクラクションも鳴き声も消え、静寂が訪れる。

 

「俺の仲間達がこの異常事態に既に対応を開始している!! 焦らずに聞いてくれ!!

 俺の仲間達がこの異常事態に既に対応を開始している!!」

 

やがて静寂はどよめきに変わり、こちらの言葉を待つ環境が作られた。

先程のエイミィの会話を思い出しながら周囲を見渡す。避難誘導の場所としてここから近いのは……風芽丘図書館だな。

それを確認すると、俺はポーズを決め(魔法を発動し)、炎の翼を大きく広げる。

 

「風芽丘図書館を始めとして、複数の施設を避難場所として俺の仲間が守っている!!」

 

こんな大声で話し続けたからだろう、方々から見知った顔が飛んでくるのが見えた。丁度いいタイミングだ。

 

「君達の身の安全は俺と、俺の仲間が守る!! だから落ち着いて避難誘導に従って欲しい!!」

 

それだけ告げると拡声の魔法を解除し、皆と小声で言葉を交わす。

 

「そう言う訳だ、それぞれ別の避難場所に誘導しよう。」

「おう! しっかし、派手にやるなぁ紅蓮!」

「この格好が役に立った。おかげで子供も泣き止んでくれたらしい。」

「あぁ、あの様子なら指示に従ってくれるだろう。

 ここの皆は俺らに任せて、後5か所ほどでさっきのと同じ奴を頼むわ。」

 

聞けばここに来る途中でも似たような状況を見たらしい。

 

ま、マジで……? アレ結構喉に来るんだけど……

 

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