転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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幸福なはずの夢

「ん……うぅ……」

「……」

 

光の射さぬ一面の暗闇にて、私はただ目の前に眠る主の安息を願う。

彼女は歴代の主の中でも珍しく、ヴォルケンリッター達を本当の家族として見ていた。

管理外世界の住人にしては何故か魔法に詳しい所があるなどの疑問はあったが、それでもヴォルケンリッター達に求める物が力では無い事は彼女達の生活を見ているだけでも伝わった。

 

そんな彼女が覚醒の前に見た光景はあまりにも残酷で……だからこそ悲しみと怒りの感情に呑まれそうになりながらも最後に抱いたその願いは、私にはより尊い物として映った。

 

『出来る限り多くの人を助けてあげて欲しい』……その願いから考えれば、覚醒後どんな事が起こるかを理解していたのは明白だ。

それでも彼女は自分の身よりも周囲の人間の為に願いを使った。生涯で最後、たった一度きりの願いを。

 

だから私は全力で思いに応えよう。

防衛プログラムと守護騎士制御プログラムを止める事は叶わなくとも、せめてこの滅びゆく世界から一人でも多くの人間を幸せな夢の世界に掬い上げよう。

 

……その一心で動いていた。

 

なのに……

 

「ふぅ……ふぅ……」

 

もう一つの視点……私が居る夜天の書の内部ではなく、その外側の私が見ている光景には、金髪の魔導士の少女が肩で息をしながらも立ち塞がっていた。

 

何故邪魔をする……何故主の望みを叶えさせてくれない?

私が表に出てしまった時点で、この世界には滅びしかないのに……

お前達も幸せの夢に掬い上げる対象だと言うのに……

 

「はぁ……ふぅ……生憎だけど、私達の幸せは夢の中には無いの!

 折角助けられたんだから……もう、本当にあと少しで手が届くんだから……!」

 

私の問いに、力強い言葉が返って来る。

自分の戦う理由をしっかりと持っている為だろう。彼女のように目的のハッキリした者に説得が通じない事は、長い事生きた経験が知っている。

 

「ここで負けられる訳……無いッ!!」

≪Haken Slash.≫

 

少女の持つデバイスに水晶のように透明な刃が生じる。

 

――ならば仕方がない。彼女達には悪いが、多少過激な手段を用いてでも主の願いを叶えさせてもらおう。

 

「盾。」

≪Panzer Schild.≫

 

手始めとして、こちらもやや青みがかったその刃を受け止めるべく障壁を展開するが……

 

「む……?」

 

刃が障壁に触れるその瞬間、少女の姿が掻き消えた。

 

――否、あの一瞬で私の背後を取ったのか。

 

≪Panzer Schild.≫

「……!」

 

振り返る事無く背後に障壁を展開すると、動揺したのか微かに息を飲む声が聞こえる。振り返る事も無く対処されるとは思ってなかったらしい。

 

「闇に染まれ……デアボリック・エミッション。」

「く……っ!」

 

カウンターとして使用した魔法は、私を中心として発生する広域型の空間攻撃だ。今まで私の使用した魔法がブラッディダガーだけだった事もあり、油断していたのだろう。

範囲と射程に優れるこの魔法は、今の彼女の速度で躱しきれるものではない。

 

「バルディッシュ!」

≪sir, Defensor Plus.≫

 

想定通りに身を固めた少女に向き直り……魔力を込めた拳を、その障壁に叩きつけた。

 

「ぐぅっ!?」

「む……?」

 

今の一撃で破壊するつもりだったのだが、存外硬いな。拳から伝わる感覚で二種類の魔力が流れているのが分かるから、恐らくそこに何かしらの仕掛けがあったのだろう。

……だが、もうそんな事は関係ないのだ。

絶えず障壁を苛む魔力の波動の中では、もはや身動きは出来まい。

 

「さぁ、お前も我が内で眠れ。

 お前の望む幸福な夢の中で、永遠を過ごすと良い。」

「っ!」

 

彼女に向けて夜天の魔導書を開くと、その表情が青褪める。

だが何も恐れる事は無い。いずれ夢の中の永遠に身を委ねた時、彼女もきっと幸福を知るのだろうから。

 

Absor……(吸……)

「ディバインバスター!!」

「ッ!!?」

≪Panzer Schild.≫

 

近付く魔力に吸収を中断、即座に守りを固める。

直後障壁越しに伝わる凄まじい衝撃に、僅かばかりの緊張を感じる。この砲撃の直撃を受ければ、流石の私でも少なくないダメージを受ける事は間違いないと確信できたからだ。

 

「大丈夫!? アリシアちゃん!」

「なのはちゃん! ありがとう、助かったよ!」

 

……なのはと言ったか。我が主であるはやての友人の一人だ。

確かあの少女の相手はヴィータがしていた筈だが、それがここに居るという事は……

 

「ヴィータを破ったか。」

「……うん、倒したよ。」

「そうか。」

 

……正直驚いた。確かにヴィータは守護騎士制御プログラムによって最も実力を発揮出来なくなっていたとは言え、それでもザフィーラやシャマルとの連携で倒れる事は無いと思っていたからだ。

 

魔力を探知してみれば、なるほど確かに夜天の魔導書の中に帰っている。

それにザフィーラ、シャマル共に大きなダメージを負っているようだ。

どうやら少し()()()()()()()()らしい。いくら救済の対象とは言え、こうなっては手心を加える余裕は無いようだ。

 

「お前は確か、我が主の友人だったな。

 主と仲良くしてくれたお前に手荒な真似をするのは、私とて本意ではない。

 滅びゆく世界と心中するよりも、我が内で幸福な永遠を過ごしてくれまいか?」

 

……私を見る強い意志を湛えた眼が既に答えの様な物だが、それでも私は問いかける。

先ほど言った言葉は、紛れもなく私の本心なのだから。

 

「夢の中に永遠なんて無いよ。

 ……はやてちゃんの望みもきっと、夢の中になんて無い!

 だから……」

「……ならば私もここからは全力で行こう。

 主の願いを叶える為にも。」

 

言葉を遮るように我が意を告げる。

……本当は分かっている。主の本当の願いは、実際に外で生きなければ叶わないことくらい。

だが、それでも私にはもうこの方法しかないのだ。

 

ページが埋まり、私がこうして出てきてしまった以上、この世界に……そして私自身に残された時間は決して多くは無い。

だから夢の中に逃がしたのだ。我が主を……そして、主と仲良くしてくれたアリサ、すずか、なのは……彼女達も必ず、我が内に迎えなければ。

 

彼女達が居れば、きっと主は満足してくれる。

夢の中の幸福に納得してくれる……納得して欲しい。

 

「く……んぅ……!」

 

暗闇の世界で、幸福な夢を見ている筈なのにうなされる主の姿を見て、私はそう強く願った。

 

 

 


 

 

 

動揺と焦燥、困惑や恐怖……様々な表情の人達がいた。

その中に於いて子供たちの表情は比較的明るい。アニメや漫画のような状況である事に加え、最初に注目を集めたヒーロースーツの魔導士を見たからだろうか。

おかげで避難自体は比較的スムーズに行われていた。

 

「……なんか、大変な事になっちゃったね。」

「そうね……なのは達、大丈夫かしら。」

 

銀髪オッドアイ達の誘導に従い、すずかと一緒に避難場所へと向かう途中で海の方を振り返る。

先程大きな音と共に暗い球体が現れた。多分アレは闇の書の意思のデアボリック・エミッションだ。

 

もうなのは達は戦っているんだ。闇の書の意思と。

 

日付も違う、場所も違う……こんな状況で、あの奇跡が起きてくれるだろうか。

 

「アリサー! 皆の事が心配なのは分かるけど、危ないからあまり立ち止まらないようになー!」

「わ、分かってるわよ!」

 

指示を飛ばす銀髪オッドアイに従い、歩みを進める。

俺達が向かう先は私立聖祥大学付属小学校……今の俺達が通う学校の体育館が避難場所だ。

通い慣れた道だというのに、こうも景色が違って見えるとは……やっぱり災害は嫌だな。

 

……そんな事を考えている時、避難指示を飛ばす銀髪オッドアイの声に紛れて嫌な会話が聞こえてきた。

 

おいお前ら、機材は持ったか?

も、持ちましたけど……ホントにやるんすか?

 

慌てて振り向くと、避難場所に向かう人混みの隙間から、何処かで見たような顔の人達が路地裏の入り口辺りで話しているのが見えた。

その内の一人が肩に担いでいるのは……まさか、テレビカメラか!?

 

バカか! こんなスクープ、モノにしない手はないだろ!

 この映像を独占できれば間違いなく視聴率アップ、出世間違いなしだ!」

そ、そうは言っても……

 

微かに聞こえた会話で思い出す。今積極的に何かを話している方の男は、昼の情報番組に出ていたアナウンサーだと。

多分インタビューか何かで街に出てきて、たまたま巻き込まれたとかだろうか……いや、そんな事よりも……!

 

「ちょ、ちょっとあんた達……!」

 

こんな時に何を考えているのかと注意しようとするも、避難場所へ向かう人をかき分けて進む訳にも行かない。咄嗟に踏み出そうとした足をこらえる。

銀髪オッドアイ達に知らせようと空を見上げるが、タイミング悪く付近には見当たらない。

 

「くっ……! あんた達! 早く避難場所に向かいなさいよ!!」

 

大声を出して注意するも、届いたかどうかは分からない。

周囲の人が俺を、そして俺が叫んだ方角を順番に見るが、それだけだ。今の俺の身長では誰かがアクションを起こしてくれたのかもわからない。

 

そんな事を考える間にも人は進む。行列から抜け出す事は出来ない。俺には、せめて何か悪い事が起こらないように願う事しか出来なかった。

 

 

 

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