転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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格闘戦

「オオォォオオォオオオッ!」

「くっ……ぬぅッ! ォオオッ!!」

「グゥッ……!」

 

ザフィーラのラッシュを両腕で防ぎつつ、隙を窺っては反撃を入れる。

互いの魔力と体力をひたすら削り合うような戦闘が始まって、まだ数分と経っていないのにも関わらず……既に互いの体は悲鳴を上げていた。

 

原因は言わずもがな、初っ端からかました俺の400倍速ラ〇ダーキックだ。あの一撃でザフィーラに与えたダメージは余程大きかったらしく、その影響はザフィーラの攻撃の威力にも如実に表れていた。

 

そしてそのダメージは……

 

――拙い、左脚の感覚が無い。

 

当然、俺にも及んでいた。

 

本来あの魔法によるラ〇ダーキックを使う時は、全身を包むバリアジャケットを更に魔法で強化する。自分の肉体へのダメージを防ぎ、敵へ与えるダメージを増やす為だ……その為の全身を包むヒーロースーツ(バリアジャケット)だ。何も趣味だけでこんな格好をしている訳じゃないのだ。

 

だが俺はザフィーラに衝突する直前、あの光の中に突っ込んでしまった。

魔法の大半が無効化され、慣性だけで突き進み、バリアジャケットがあるとはいえほぼ生身であんな特攻をかましてしまった。

大人でも間違いなくヤバいのに、小学生の身でそんなことやればそりゃあ骨の1本や2本は逝くだろう。

 

「グオオオオオォォォッ!」

「ちぃっ……! 自我がっ! 無いにしては……っく!

 随分、強いじゃねぇか……!」

 

そしてここでもう一つ俺にとって不幸な事がある。

――俺の魔法の()()()()に関してだ。

 

俺の魔法は『特定のポージングを取る』事で、体内の魔力回路を用いてミッド式ともベルカ式とも違う独自の魔法陣を描く。

当然、最大限のパフォーマンスを活かすには全身が自由に動かせないといけない。

中には足の部分が要らないポージングもあるが、使える手札の大半は失った。

 

こんな状態でザフィーラに勝てるだろうか……

 

「オォッ!!」

「しまっ……!?」

 

余計な事に思考を割いていたせいだろう。腕のガードをすり抜けた拳が、俺の腹を撃ち抜かんと迫る。

 

その瞬間、あの夜の戦闘の記憶が脳裏に鮮明に蘇った。

 

ザフィーラにカウンター気味に見舞われた一撃……俺の相棒(ボルケニオン)を貫いたあの拳……

 

「っ!!」

 

咄嗟の行動だった。

二度とボルケニオンを破壊させない……その時に考えてたのはそれだけだった。

 

「ォォオオオオッ!!」

 

飛翔魔法で後退、更に腰を下げ、唯一動く右足の膝をザフィーラの拳に合わせる。

直後、右膝に走る痛みと衝撃。

 

「っっ痛ぅ……ッ!!」

 

痛みに呻きながらも周囲の状況を確認し、好機と判断する。

今の一撃に吹っ飛ばされたことで、ザフィーラとの間に距離が出来た。

 

状況を変える魔法を使うには、ザフィーラの光に止められない今しかない。

博士の言う通り、エグゾーストの乗算があらゆる魔法に適用できるなら……!

 

「エイミィさん、これからザフィーラを倒します!

 俺がザフィーラを倒したら、すぐに俺の回収と治療をお願いします!」

『えっ、ちょ……紅蓮君!? 貴方まさか……!』

 

以前なのはが訓練中に話していた事があった。

アースラの船員には、『死の病からでも即座に救い出せるほどの癒し魔法の使い手』が居ると……そして、そいつは()()()()()()()だったと!

 

……こんな無茶な真似、転生者の魔法を当てにでもしないと絶対にやろうとも思わなかっただろうな。

 

兎にも角にも、躱されたら台無しだ。先ずはザフィーラが回避出来ない状況にしないとな。

バインドはかき消されるから、そうだな……

 

『いくら何でもそんな無茶な真似……』

「エグゾースト・フラッシュ! 3倍!」

「ぐぬっ!?」

『目がぁ!!?』

 

両腕を前で組み、その後伸ばした右手の指先から眩い光が放たれる。敵の隙を作る為の発光魔法だ。

エグゾーストの効果で3倍の光量となったそれが、ザフィーラの眼を焼いた。……ついでにエイミィもやられたようだが。

 

ともあれ……これで決着を付ける準備は整った!

 

必要なポージングを取り、魔力を流していく。

使用するのは『ジェットラッシュ』……400倍キックで酷い目に会った魔法だ。

そして当然、エグゾーストも使用する。

 

……我ながらバカな事を考えてると思う。あんな酷い目に会って(自爆をして)まだ懲りていないのかと。

だが今重要なのは、ザフィーラをここで『確実に』戦闘不能にすることだ。それに、治療の当てはある。

大丈夫だ、大丈夫。ザフィーラが光を発する前に蹴りが当たれば、反動のダメージも無い筈だから……

 

そんな風に覚悟を決めている間にポージングは完成し、準備が完了してしまう。

 

そして魔法が発動する前に、今度は右足を突き出すように姿勢を制御する。

これで後は魔法の効果が発動した瞬間、俺は再び発射されると言う訳だ。

 

「ぐっ……!!」

 

次の瞬間、目を瞑ったままのザフィーラの行動に俺は目を見開いた。

 

嘘だろ……ザフィーラが右に飛んだ!? 何をされるのか察して、身を躱そうって事か!?

 

拙い、予想が外れた……! 今のザフィーラにそこまでの判断力が残ってるとは思わなかった!

だけど魔法をキャンセルするにはもう遅い……魔力は消費されたし魔法も完成、俺は既に発射寸前の砲弾のような状態だ。発射後も多少は軌道をずらせるけど、この距離じゃそれもたかが知れてる!

 

失敗した……!

 

決着を焦った事への後悔と同時に、俺の背中から黄色の炎が噴き出し……

 

 

 

「っとに……世話の焼けるッ!!」

「がっ!?」

 

唐突に響く誰かの声。

その声の持ち主はいつの間にかザフィーラの側に現れ、ザフィーラを俺の攻撃の軌道上に蹴り飛ばした。

 

「お前は……!」

「……ホラ、さっさと決めちまいな。」

「リーゼ……」

 

名前を呼ぶよりも前に、体が高速ですっ飛ぶ。

 

「エエエェエェエエェェ!」

「くっ……!」

 

そして苦し紛れだろうか、ザフィーラは回避を諦めて再びあの光を放った。

当然俺はその光に突っ込む事になり、折角張った防御の魔法も全てかき消され……

 

「グアアアァァァアアッ!」

「脚があぁあああぁぁッ!」

 

戦場に二人分の悲鳴が響き渡った。

 

 

 


 

 

 

「何やってんだい、あのバカは……」

 

そんな様子をチラと見ながら、俺はシャマルに向き直る。

今の俺の体には青い雷が走っており、パフォーマンスとしては悪くない。どこぞのバカがザフィーラの光を強引に止めてくれたおかげだ。

……まぁ、そのバカはこっちが感謝を伝える前に転送されてしまったようだが。

 

「さて、こっちも決着を付けようじゃないか。

 ……シャマル。」

「……」

 

俺の魔力も残り少ない。維持にも攻撃にも魔力を使うから、持って2分って所か。

……これじゃ、フェイト達を助けに向かうのは無理そうだな。

 

「さっき言った通り、ここでアンタは倒すよ。

 ここまで来たら念話の回復なんて今更だけど、倒しておくに越した事は無いから……ねェッ!」

「……!」

 

空中を蹴って急接近する俺に対してシャマルが取った行動は、振り子状に伸びた両手のクラールヴィントを振りかぶると言う物だった。

 

「? ……はぁっ?!!」

 

一瞬何が目的かは分からなかったが、振り下ろされた振り子が突如巨大化した事で嫌でも察した。

帯電状態の俺に直接触れるリスクを避ける為に、攻撃の手法を変えたのだ。

 

「うおぉっ!?」

 

3m程の大きさになった振り子を避け、殴り、反発し、何とか躱しきる。

上手く捌けばワイヤー部分を絡ませられないかと試しても見たが、僅かに干渉したかと思うとすり抜けてしまった。どうやら物質化と魔力化を自在にできるらしい。

 

「今までやってこなかった理由はそれかい……!」

 

あのワイヤーが魔力だと言うのなら、多分あれもザフィーラの光でかき消されるのだろう。ザフィーラが倒された今、クラールヴィントの攻撃が解放されたのだ。

 

……しかしあの振り子、シンプル故に中々厄介だ。

俺の魔力は、同じく魔力で構成されたあのワイヤーを流れない。振り子を反発させてシャマルに飛ばそうとも別の振り子で防がれる。

一対一の状況下ではアレは攻撃用の振り子であるのと同時に、身を守る障壁だ。俺に砲撃を放つだけの魔力があれば対処も出来たが、今の魔力では無理。

更にその魔力も尽きかけ……か。

 

そして突破口を探る隙をシャマルが許すはずもなく、シャマルはその場で舞うように体を回転させた。

 

「くっ……!」

 

当然シャマルがそんな動きをすれば、振り子は多大な遠心力を伴ってこちらに襲い掛かる。

高さを変え、距離を変え、回転の方向も変え、中々接近を許してくれない。

 

こちらも一応回避の傍ら、振り子に魔力は流しておいたが、やはりシャマルにまでは流れて行かない。

 

「ちぃっ……ホントに厄介だねぇ!」

「手助けしようか?」

「ありがたいね、今は猫の手も借りた……い……?」

 

背後から突然声を掛けられ、弾かれたように振り返る。

そこに居たのは……

 

「丁度良かった。文字通り貸してあげるよ、()()()をね。」

「リーゼロッ……いや、あんたは……」

 

一瞬リーゼロッテに見えたが、よく見れば髪の長さが違う……とすると……

 

「リーゼロッテは私の妹。……そう言えば、こうして会うのは初めてか。

 ロッテの姉のリーゼアリアだよ。短い間だけど、よろしくね。」

「……で、手助けって、何が出来るのさ?」

 

色々言いたい事もあるけど、ここは飲み込む。優先順位はそっちじゃない。

 

「そうだね……例えば、こんな事とか。」

≪Long Range Bind.≫

 

言うが早いか、リーゼアリアが発動した拘束魔法がシャマルの体を捉え、その舞いを強制的に止めてみせた。

 

「ぅ……っ!?」

「……なるほどね。」

 

これは前世のアニメで見た事がある。ヴィータに対して長距離砲撃を撃とうとしたなのはを、今回同様に止めた魔法だ。

敵に回すと厄介だけど、味方だとこの魔法は本当に頼もしい。

 

「あまり長くは持たないよ。」

「奇遇だね、あたしもだよ……ッ!」

 

こんなチャンスはもう来ないだろう。

残り少ない魔力を使い急接近しようとするが、シャマルもそう簡単に近づけさせまいと指先だけで振り子をこちらに向けて来るが……

 

「どけぇ!!」

 

腕を前に突き出し、振り子に流れた魔力を利用して反発させて道を開く。

その隙に再び空中を蹴って速度を上げ、ついに至近距離にシャマルを捉えた。

 

「オラァ!」

「うっ……!」

 

接近の勢いそのままにシャマルに拳を突き入れ、魔力を流す。

その衝撃でバインドは壊れてしまったが、もう関係無い。

後ろに吹き飛ぼうとするシャマルに手を翳し、吸着の性質で引き寄せてもう一撃拳を突き入れる。

 

「カハッ……!」

 

拳から魔力を流し、更に蹴り飛ばし、()()()()()()()()()

吹き飛ぶシャマルを再び吸着。体に流れる魔力の量に比例して、その速度は増していた。

 

「これで、終わりだァッ!!」

 

止めとばかりに、一際多くの魔力を込めた拳がシャマルの腹部に突き刺さり……

 

「“スパーク・エンド”ッ!!」

 

コマンドワードを叫ぶとともに、シャマルに流れる魔力同士が反発。

その体内を暴れ回った挙句に、雷が落ちたような音と共に体外へ勢い良く放電した。

 

「……ッ……ハッ……!!」

 

流石にもう持たなかったのだろう。シャマルの体が透け始める。

一方で俺の方も限界だった。体を纏う雷は消え、底を尽きかけた魔力では空中に浮遊するのがやっとだ。

 

…………!」

「はぁっ、はぁっ、……ぅん……?」

 

ふと、消えていくシャマルの眼がこちらを見ている事に気付いた。

今さっき戦っていた時とは違う、意思の光がある目だった。

 

はやて、ちゃん…………」

「……はやて……あんたらの主かい?」

呼び……かけて、あげ……」

 

……自我が残っていたのか、それとも最後に取り戻したのか。

それだけ告げてシャマルは消えた。

 

「……あぁ、任せな。」

「……カッコつけてるところ悪いけどさ、あんたももう限界だろ?

 アースラで休んでなよ。」

 

カッコつけてって、お前なぁ……

まぁ、リーゼアリアの言う事も尤もだ。俺がここに留まっても足手纏いにしかならない。

 

「仕方ないねぇ……エイミィ、見てるんだろ? 頼むよ。」

≪フェイト、アリシア、なのは……そう言う事だから、後は頼んだよ。≫

≪うん!≫

≪はい!≫

 

復活した念話でさっきのメッセージを伝えた後、俺は転送の光に包まれてアースラに帰艦した。

 

 

 


 

 

 

「……そっちも終わったみたいだね、アリア。」

「まぁね、ロッテの方こそ怪我は大丈夫?」

 

アルフが転送されてすぐ、紅蓮とか言う子のフォローに行ったロッテが飛んできた。

ロッテの報告によればザフィーラは倒され、その後両足を負傷した紅蓮がアースラに転送されたという事だった。

 

「あたしはご覧の通り、すっかり元気だよ。何の後遺症も無いのが逆に怖いくらい。」

 

そう言って肩を回すロッテの姿は、少し前まで出血多量で生死の境をさ迷っていたとは思えない。

どうやらアースラの船医は相当優秀らしい。

 

「……じゃあ、残るは一人だけだね。」

「うん……」

 

そう言ってロッテが見つめる先には、シグナムと切り結ぶクロノの姿。

 

……今のシグナムは本領を発揮できていないとはいえ、それでも超一流の剣士だ。それに対して一歩も引かない接戦が出来るなんてね……私達が傍にいない間も鍛錬は欠かさなかったという事だろう。その成長が喜ばしく、そして同時に少しだけ寂しく感じる。

 

「はぁ、クロスケに顔合わせづらいなぁ……」

「元々覚悟は済んでたはずでしょ? 今更じゃないの。」

「分かってはいたけどさ……愛弟子に冷たい目で見られるかもって思うとね……」

 

ロッテの気持ちも分からないではないけどね。弟子が懸命に自分を鍛えている間、私達は管理局にバレたくないような後ろ暗い事をやってた訳だからね。でも……

 

「そんな愛弟子との()()()()()()()だよ。ほら、シャキッとしな。」

「……うん、そうだね。私達の時間もそう長い訳じゃ無いんだし、これが最後か……」

 

使い魔はその在り方の都合上、主より長生きする事は無い。

だからこれが正真正銘、弟子が最後に見る師匠の戦いだ……無様な物は見せられないね。

 

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