転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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命知らず

瞬きすらも命取りになるような剣戟の最中……俺もシグナムも互いに隙を見つけられず、斬り合いの激しさとは裏腹に戦局は膠着状態が続いていた。

 

「シッ!」

「!」

 

そんな中、矢のように鋭く放たれた突きを、右に飛ぶことで辛うじて回避する。

今までの隙を晒さない事を徹底した斬撃とは違い、膠着を打ち破らんと深く踏み込みんで放たれた突きだ。

回避に成功した今、俺の目の前には無防備なシグナムの姿がある。

並大抵の相手ならば、この隙を突いて攻勢に転じるべきなのだが……

 

「ハァッ!」

「ぐっ……!」

 

ことシグナムの場合、回避された突きは直ぐに次の攻撃に繋がる。片腕で振るったとは思えない鋭さを持った右切り上げを障壁も用いてギリギリで躱し、シグナムから見えない体の陰にスティンガーを一つ待機状態で生成する。

 

レヴァンティンがカートリッジをロードしない等、全力を出せない状況にあってもシグナムの剣技は健在だ。

炎のような苛烈さと、流水の様な滑らかさを併せ持つ彼女の剣技……一度攻守の流れを作られてしまえば、覆すのは容易ではない。だからこそ……

 

「……今ッ!」

「ッ!」

 

――先ずはその()()を止める!

 

右切り上げから繋がった唐竹に、真横からスティンガーを当てる事で流れを崩す。

だがまだ攻撃に出るのは早い。既にシグナムは弾かれたレヴァンティンを握りなおし、右薙ぎの体勢に入っている。流れを覆すのには、一手では足りない……ならば!

 

「まだだ!」

「!?」

 

先程のスティンガーはまだ消えていない。俺の発動した「スティンガー・スナイプ」の光弾は、一発で複数の目標を撃ち抜く事を前提に構築された魔法だ。弾に込められた魔力が残っている限り、何度でも狙い打てる!

 

シグナムの上方から飛来したスティンガーは、今まさに振り抜かれようとしているレヴァンティンの腹を正確に打ち抜き、今度こそシグナムの流れを完全に止めた。

 

「そこだ!」

「ッ!」

 

この機を逃す訳には行かない!

確実に仕留める為、最小限の動きで振り抜いたフラッシュザンバーは……

 

「鞘……!」

 

魔力で強化された鞘を、その手から弾き飛ばすだけに終わった。

 

「くっ……だが、まだ……ッ!」

 

シグナムを仕留めきる事は叶わなかったが、体勢は崩せた。とてもレヴァンティンを振り抜ける姿勢ではない。

先程のスティンガーだって、まだ生きている。

このまま手を止めずに仕留めきって……

 

「うぐッ!」

 

追撃を仕掛けようとした矢先、腹部に重い衝撃。

腹を蹴られたのだと理解した時には既に、俺の体は後方に大きく吹っ飛ばされていた。

 

 

 

「……全く、どうしたのさクロスケ?

 以前あたし達と組手した時は、あれくらい見切ってたでしょ?」

 

体勢を立て直す前に、誰かに受け止められた。

いや……この声と口調、それに加えて俺を『クロスケ』等と呼ぶ奴は一人しか知らない。

 

「ロッテ……どうしてここに……!?」

 

振り返ればそこに居たのはロッテだけではなく……彼女の姉、リーゼアリアも一緒だった。

だが、詳しい事情を聴くよりも先に視線を前に戻す。既にシグナムが追撃を掛けんと迫って来ているからだ。

 

「今はのんびり話を出来る状況でもなさそうだし、戦いながら説明するよ!」

 

リーゼロッテはそう言うや否や、俺の前に飛び出した。

 

「なっ!? 危険だ、下がれ!」

 

直ぐにリーゼロッテの肩を掴もうと手を伸ばすが……

 

≪下がるのはアンタだよ、クロノ。さっきので腹、痛めたろ?≫

 

そう言って俺を強引に下がらせ、回復魔法をかけ始めるリーゼアリア。

しかし今の……念話!? という事は、シャマルは倒せたのか!

 

≪ロッテの心配はありがたいけどね、それは余計なお世話って奴だよ。

 ロッテの近接戦闘技術の高さは良く知ってるだろ?≫

≪アリア……!? しかし……≫

 

彼女の言葉に異論を唱えようとしたその時、鋭い金属音が響き渡った。

音の発生源を見れば、リーゼロッテの振り抜いた拳がシグナムのレヴァンティンを大きく弾いた瞬間だった。

 

≪こっちの心配は無用! こっちは師匠に任せて、クロスケは大人しく治療を受けておきなよ!≫

≪私の魔法の補助があってやっとだろうに……あまり大口叩くもんじゃないよ。≫

≪ちょっ……!? もうちょっと弟子の前でカッコつけさせてくれても良いじゃん!?≫

 

……そんな二人のやり取りに、どこか懐かしい感情を抱いた。

もう随分前になるだろうか、俺がまだ二人に稽古をつけて貰っていた頃を思い出す。

 

あの頃の俺はまだ二人には手も足も出ず、稽古と言ってもさんざん手加減された挙句に軽く転がされる……そんな日々だった。

そして俺は、自分の未来の事を思うと心に余裕が持てなかった。自分よりも遥かに強い彼女達が、遠くない未来に自分の敵として立ちはだかると知っていたからだ。

 

彼女達は詳しい事情こそ知らなくても、俺の焦りは察していたのだろう。訓練の合間に彼女達は今のようにおどけて見せて、俺の緊張をよく解してくれたものだ。

 

≪……感謝する、君達のおかげで少し冷静になれた。≫

 

今にして思えば、俺はずっと焦っていたのだろう。

さっきの蹴りを受けた時だってそうだ、冷静にシグナムの動きを観察していれば対応できた筈だった。

シグナムよりも鋭い蹴りは、あの時さんざん経験したのだから。

 

≪おぉ? 何か良く分からないけど、それなら良かった!

 じゃああたしはもう念話切るよ!

 流石にシグナム相手にそれほど余裕は無いからね!≫

 

そう言ってリーゼロッテはあのシグナム相手に一転、攻勢に出た。

残念な事にレヴァンティンで防がれてしまったが、先程俺が受けたよりも数段鋭い蹴りはシグナムを大きく吹き飛ばした。

追撃に飛んでいくその背中に頼もしい物を感じながら、俺はアリアに問いかける。

 

≪アリア……治療の間、状況の報告を頼めるか?≫

≪分かった。まぁ、私達がアースラに居た時の情報だけどね。≫

 

そう前置きして彼女は話し出した。

現在残っているヴォルケンリッターがシグナムのみである事、避難誘導は彼女の知る限りでは順調だったという事、そして……

 

≪なのは達が、押されている……!?≫

 

彼女達の魔力を知っている身としては、中々信じがたい戦況も。

 

≪私が知っている最新の状況だと、既に海鳴臨海公園の上空に居たよ。

 最初は海上で戦っていた事を考えると、街に侵入を許すのもそうかからないだろうね。≫

 

慌てて公園の方を見ると、確かに戦闘空域は既に公園の上空だ。幸いまだ町中には入っていないが……

 

≪他の管理局員は何をしている!? 街への侵入を許せば……≫

≪落ち着きなって、一応配置にはついてたよ。街への侵入を防ぐ最終防衛ラインって奴さ。

 私がアースラに居た時は闇の書の主がどこから侵入するか分からなかったから随分広く展開してたけど、今頃は公園の入り口辺りの地上で奇襲のチャンスを窺ってるんじゃないかね?

 ホラ、エイミィからの通信がしばらく入って無かったろ? そいつらにずっと指示飛ばしてたんだよ。≫

 

そうだったのか。やはりアースラの方も相当忙しくなってるようだな……

 

≪……そうだ、局員と言えば。

 クロノ、アンタ氷結の杖『デュランダル』はちゃんと受け取ったのかい?

 今使ってるのはS2Uの方みたいだけど……≫

≪ああ、ちゃんと二人から受け取ったとも。

 ただ軽く確認してみたが、アレはS2Uと比べて随分性能が高い……いや、()()()()

 一瞬の油断も許されない戦いの中で持ち替えるには少々リスキーだと判断した。≫

 

そう答えながら、バリアジャケットの中にしまっていたカード状のデバイスをリーゼアリアに見せる。

シグナムの戦闘が始まってしばらくした後……丁度射撃魔法でシグナムの足止めが成功していた時だった。恐らくそれまで様子を窺っていたのだろうあの二人がやって来て、直接届けてくれたのだ。

もっとも既に次の仕事を言い渡されていたらしく、直ぐに街の方へ飛んで行ってしまったが。

 

……いや、今彼等の話は良いか。

肝心なのはデュランダルの性能だ。S2Uよりも遥かに処理が早く、高性能と言う点では全く問題ない。()()()()()()()()()()()その性能をいかんなく発揮し、間違いなく俺の助けになってくれるだろう。

 

問題はシグナムとの戦闘中に『慣らし運転』なんてする余裕が殆ど無かった事だ。

シグナムの足止めをしている際に一度使ってみたが、性能の開きが大きすぎて自分のペースが保てなかった。

射撃魔法を撃つだけの状況でそれなのだ。近接戦闘に持ち込まれた後に使える訳もない。

 

≪成程ね……確かに慣れない武器で戦える相手じゃないか。

 だとしても、この後戦う事になるだろう相手にS2Uだと厳しいよ?≫

≪分かっている。ロッテが堪えてくれている間に対応して見せるさ。≫

 

そう言って俺はデュランダルを起動させ、魔力を通し始める。

……やはり魔力が通りやす過ぎるな。威力と範囲を重視する魔法ならばともかく、コントロールを重視する射撃魔法では過剰な魔力は足枷になる。

適量を直ぐに流せるようにならなければならない。その感覚を馴染ませなければ……

 

≪ああ、それでこそ私達の弟子だよ。

 まあ最悪の場合は私がその杖と役割を受け持つから、気軽にやりな。≫

 

リーゼアリアはそう言ったが、そんな最悪の場合は訪れない。

 

≪大丈夫……絶対に使いこなして見せるさ。≫

 

何としても使いこなせなきゃいけないのだ。

あの時はそう望んだ訳ではないとはいえ、俺はクロノ・ハラオウンとして生まれたのだから。

 

 

 


 

 

 

先程アルフから齎された情報を頭の中で反芻する。

 

ザフィーラが倒された事で光を警戒する必要がなくなり、シャマルが倒された事で念話が復旧した。

そして、シャマルが最後に残したという『はやてちゃんに呼び掛けて』と言う言葉……それはきっとこの状況を打破する切っ掛けになるのだろう。

 

しかし……

 

≪Protection Powered!≫

「ハァッ!」

「うっ! ……あぁッ!」

 

闇の書の意思の攻撃が強すぎる……!

魔力を込めた拳で俺のプロテクション・パワードに罅を入れ、更にその威力の重さに障壁ごと吹っ飛ばされる。

 

≪はやてちゃん! 私だよ! 高町なのは! 目を覚まして!≫

 

戦いの途中でも呼びかけてはいるが……

 

「無駄だ。我が主は今、深い眠りの中に居る。

 お前の声は届かない。」

 

無慈悲にそう告げる闇の書の意思は、追い打ちを掛けんと拳を振りかぶる。

 

≪Struggle Bind!≫

「無駄だ!」

 

フェイトが不意打ち気味に放ったストラグルバインドの拘束を、魔力の噴出だけで強引に引き千切りながら振り下ろされた拳は……

 

「うあぁっ!!」

「なのは!」

 

プロテクション・パワードを今度こそ破壊し、俺を地上まで叩き落した。

 

 

 

 

≪Axel Fin!≫

「ありがとう、レイジングハート!」

≪Don't worry.≫

≪ビー、ハッピー。≫

 

……後半は念話で俺だけに伝えてくれた物だ。

 

しかしレイジングハートが使用してくれた飛翔魔法のおかげで、何とか墜落は回避できたけど……中々に厳しいな。

 

さっきまでは公園の上空だったのに、まさか街中にまで吹っ飛ばされるとは……

 

……休日の昼間だって言うのに、静かだな。エイミィさんが言っていた避難誘導のおかげだろう。

 

空を見上げれば、フェイトが闇の書の意思に対して切りかかっているところだった。

だが速度でいくら圧倒しようとも、闇の書の意思にはディアボリック・エミッションを始めとした広域型の空間攻撃魔法がある。

あの距離を長く維持する事は出来ないだろう……俺も早い所戦闘に復帰しなければ!

 

「行くよ、レイジング――「おい、こっちだ! いたぞ!」――っ!?」

 

バカな!? 何でまだ人が……

 

「ご覧ください! 今まさに我々の目の前で、少女が浮いております!」

 

振り返ればそこに居たのはテレビカメラを抱えた男と、それに向けて熱弁するアナウンサーの姿だった。

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