転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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覚悟とは

ロッテがシグナムを引き付けてそろそろ5分が経っただろうか。

長年の経験から頃合いだと判断し、クロノの腹部に使用していた回復魔法を中止して確認する。

 

「……これでどう? 粗方の負傷は治せたと思うけど?」

 

クロノが受けたダメージは結構な物だった。切れていた血管は数知れず、内臓の幾つかも損傷……これでまだ戦おうとしていたと言うのだから、感心を通り越して呆れる他無いね。

或いはそれがクロノの覚悟って奴なのかもしれないけどさ。

 

「ああ、痛みは消えたし、動きにも問題無い。感謝する、アリア。」

「感謝は別に良いよ、あんた達には迷惑もかけたしね。

 ところで、デュランダルは使いこなせそうかい?」

「……そうだな、魔力の流れやすさやちょっとした癖にはもう慣れた。

 これ以上は実戦で慣らすしかないだろう。」

 

その返答には正直驚いた。

私達が闇の書対策の為に出来る限りの全技術を用いて生み出したデバイスの性能は、現行のデバイスとは大きな開きがあった。特に魔力伝達の速度と魔法の構築速度はずば抜けており、下手に扱えば自分の魔法に振り回される。

 

当時の作戦の都合上、私もデュランダルを扱えるように慣らし運転はしたけど、その時だって10分以上はかかったものだ。

……まぁ、ちょっと悔しい気持ちもあるからクロノには言わないけどね。

 

「ふぅん? ま、アンタがそう言うなら問題は無さそうだね。

 じゃあさっさと行こうか。ロッテが墜とされる前にね。」

「分かった。……行くぞ、デュランダル。」

≪OK, Boss.≫

 

ロッテの戦場に目を遣れば、ロッテは未だにシグナムの攻撃を躱し続けていた。

 

≪ロッテ、待たせたね。≫

≪アリア! まぁっ……ねっ! っと!≫

≪任せた私が言うのもなんだけど、結構余裕ありそうじゃない?≫

≪余裕って程ではないけど……うん、対処は出来るね。アリアの魔法の補助もあるし、何よりカートリッジが使えないってのが一番ありがたいかも!≫

 

これくらいの余裕があれば、直ぐにでも実行に移せそうかな。

クロノを見遣ると、こちらも気力十分と言った様子だ。魔力は淀みなく流れているし、『もう慣れた』という言葉にも誇張無しという事だろう。

 

≪クロノの方も準備が出来たよ。こっちの合図で距離を取ってくれる?≫

≪まっかせて!≫

 

二人が戦う場に向けて手を翳す。砲撃さえも切り裂くシグナムには、この魔法も対して効果は無いだろう。

それでも、距離を取るロッテへの追撃は防げるはずだ。

 

≪今!≫

「はいよ!」

 

ロッテが私の合図でレヴァンティンの横薙ぎを回避し、シグナムに蹴りを放つ。攻撃はレヴァンティンによって防がれたが、それを読んでいたロッテは攻撃の反動を利用して距離を取る事に成功した。

 

ロッテとシグナムの距離はざっと3mは離れたか……良し。

 

≪クロノ、合わせな。≫

≪ああ。≫

 

クロノに一言告げ、構築を終えていた魔法を起動する。

 

≪Long Range Bind.≫

 

シグナムの周囲に二つの環状魔法陣が展開され、収縮していく。

 

「! ハァッ!」

 

私の予想通り、バインドはシグナムの体を拘束する前に切り払われ霧散した。

だけど……

 

≪Blaze Cannon.≫

 

クロノの砲撃がレヴァンティンを振り抜いたシグナムに迫る。速度も魔力量もS2Uの頃とは比べ物にならないそれに対応する事は、鞘を失った今のシグナムでは難しいだろう。

 

「くっ……!」

 

辛うじてと言った様子で回避したシグナム。しかし、そこに居るのは……

 

「隙あり!!」

「ぐぁっ!」

 

ロッテの放った拳がシグナムの背中を捉える。シグナムの体は一瞬硬直し、それが新たな隙を生む。

 

≪Stinger Ray.≫

≪Stinger Snipe.≫

 

私が放ったのは速度に優れた射撃魔法。クロノが放ったのは操作性に優れた射撃魔法。そしてその狙いは……

 

「ぐっ!?」

 

私のスティンガーがシグナムの右手の付け根に直撃し、シグナムの手の握りが緩む……そしてクロノのスティンガーが、その手からレヴァンティンを弾き飛ばした。

 

≪ロッテ、クロノ! ここで決めな!≫

≪うん!≫

≪ああ!≫

 

無手となった剣士が戦うにはあの二人は分が悪い。

シグナムはそれからも2分近く徒手空拳で応戦したが、やがてロッテの攻撃で怯んだ隙を突いて放たれたクロノのフラッシュザンバーによって消滅した。

 

 

 

「……反応は完全に消滅。ま、闇の書の中に帰っただけだろうけどね。」

「ああ……」

 

周囲に軽く魔力探査を行い結果を告げても、クロノは何処か呆然とした様子だった。

 

「……どうしたんだい?」

「いや、思っていたより随分呆気ない物だと思ってな。」

 

あれほど手を焼いたシグナムの呆気ない最後に、クロノはどうも釈然としない様子だが……

 

「いや、一応3対1だからね!? それもあたしとアリアとクロスケの!

 対応するだけでも結構凄いと思うよ!?」

 

ロッテの言う通り3対1の状態で勝つと言うのは、実力に余程明確な開きがないと不可能だ。

これで返り討ちに会おうものなら、いよいよ誰が対処出来るのかと言う問題になって来るだろう。

 

「分かっているさ、勿論。

 ……そうだ、さっき弾き飛ばしたレヴァンティンは?」

「見当たらないね。アレも言ってみれば守護騎士システムの……シグナムの一部だ。

 一緒に闇の書に帰ったんだろうさ。」

 

まぁ、何はともあれ……だ。

 

「ヴォルケンリッターは全員倒したとはいえ、まだまだ一番ヤバい本丸が残ってるだろ?

 感傷に浸るのは全部終えた後だよ。」

「ああ、直ぐに僕達も向かおう。」

 

次の相手はいよいよ闇の書の主、そして氷結の杖の使い方はクロノに委ねられた。

これがどんな結末を生むのか……私達の計画よりも良い結末を迎えられると良いんだけど。

 

 

 


 

 

 

なのは達と交戦中の闇の書の意思の元へ向かいながら、すっかり手に馴染んだデュランダルを見て思い出す。

先程の一戦……恐らくはリーゼ達からは見る事の出来なかったであろう、シグナムの表情を。

 

最後の瞬間、俺のフラッシュザンバーに斬られたシグナムは確かに笑っていた。

そして声に出さずに口の動きだけで確かに告げたのだ。

 

『主を頼む』……と。

 

何時から正気に戻っていたのか分からない。もしかすると消滅の瞬間だけ、意識を取り戻したのかも知れない。

だけどあの呆気ない最後を思うと、もしかしたら……

 

いや、アリアが言っていた通り、今はそんな事を考えている場合ではない。

先ずは闇の書事件を解決しよう。俺の知っている結末に辿り着く事が出来れば、その時にでも真相は確かめられるのだから。

 

 

 


 

 

 

飛翔魔法で空を駆けて1分程だろうか、一直線に飛んで来た事もあって私達は目標地点に辿り着いた。

 

「見つけたぞ! バカウンサー!!」

「バカメラマンにアホ音声!!」

「知ってるぞお前の顔ォ! 海鳴テレビの(モン)だよなァ!!」

「てめぇ視聴率下げてやろうかオォン!? 銀髪オッドアイがこの街にどんだけいると思ってんだァ!!」

 

一緒に来ていた銀髪オッドアイの転生者の……確か神楽坂君と神田君だったかな?

二人が見た目の年齢相応の罵声を浴びせながらテレビマン達に詰め寄る。

 

「く、クロー……いや、魔法使いの皆さん!?」

「てめぇ今俺達の顔見てなんつったァ!?」

 

アナウンサーの人は慌てて誤魔化そうとしたけど、残念な事に彼等は()()()()()()()には特に敏感だ。

更にヒートアップしだした二人を眺めながらトシ君と言葉を交わす。

 

「あ、あはは……凄いね、皆の気迫……」

「常々思うけど、俺普通の顔に生まれて良かったよ。」

「聞こえてっからなトシィ!!」

 

 

 

……それからテレビマンの3人に事情を説明し、避難場所に向かおうと提案してみたけど……

 

「君達はまだ子供だから分からないと思うけど、おじさん達には真実を伝える使命があるんだ。」

 

等と言って聞いてくれない。彼ら……と言うよりアナウンサーの人曰く『覚悟はしている』との事だったけど、私達が言いたいのはそう言う事じゃないんだよね……

 

「お前らが避難してくれないとなの……皆が全力で戦えないんだよ!」

「身を守る魔法も使えない一般人は邪魔なんだって!」

「言っておくけど、魔法って本当に危ないからな?

 ビルの一本や二本程度なら簡単に消し飛ばせるんだぞ?」

 

あの手この手で説得を試みたけど、反応はまるで芳しくない。

特にあのアナウンサーの人が厄介だ。あの中で一番地位が高そうなあの人の目……前世で見たものとはちょっと違うけど、随分と欲に濁っている。

多分まともな事言っても意味は無いだろう。

 

「……神谷君って確か前回の事件の時も色々やってたんだよね?」

「ん? ……まぁ、最後の方はあまり活躍は出来なかったけどな。」

「ああいう人達の対処ってどうしてた?」

 

ここはこう言う事の経験がありそうな神谷君の意見を聞きたかったのだけど……

 

「……基本的にこっちの意見を聞いて貰える方が少ない。

 ネット掲示板の話はしただろ? 大体があんな感じだった。」

「そっか……」

 

ここに来るまでの間に話を聞かせて貰ったけど、掲示板では結局魔法の石を狙うライバルとしてしか認識されなかったらしい。

それを考えると、この説得が成功する確率も知れて来ると言う物。

 

「とは言っても、今回はあの時とは事情が違う。

 魔法の事を隠す事はもう出来ないし、許可も出たからな。」

 

そう言って神谷君はテレビマンと言い争う二人に向かって告げた。

 

「おーい! あんま時間も無ぇし、バインドで縛って飛翔魔法で運ぶぞ!」

「「アイアイサー!!」」

 

 

 

 

 

 

「ヒィ!? 空、空を飛んで……あ、危ッ……!」

「あー、大丈夫ですよ。絶対に落としたりはしないので……」

 

特典や能力を考えた結果、運搬役は私と神楽坂君と神田君の三人。護衛役に神谷君とトシ君の二人が割り振られた。

私は性別の事もあって音声スタッフの女性を……まぁ、ちょっと心苦しいけどバインドで縛って運んでいた。下手に動かれると危ないからこっちの方が安全なのだ。

 

その事に付いて話したら分かってくれたし、元々あんな行動を取る事にあまり乗り気ではなかったのか大人しくしてくれて助かっている。

……特にあの二人を見ると。

 

 

 

「ご覧ください! 今私はこうして実際に空を飛んでおります! 魔法は! 魔法は確かにあったのです!!」

「うるっせぇ!! カメラ回ってねぇんだから静かにしろ! してください!!」

 

「た、頼むからカメラ落とさないでくれよ? それ結構、いやかなり高いんだから……」

「いや、気を付けるけどさ……なに、こう言うのって壊したら自腹なの?」

「ば、場合によってはね……特にウチの場合はローカルだから……」

「ふぅん? まぁその辺の事情については良く知らねえけどさ……ところで、これってテープってどうやって取り出すんだ?

 あんま魔法に関する映像を広められるのって、こっちにとっても都合が悪いって言うかさぁ……」

「あ、後で渡すから! 俺がちゃんと取り出して、ちゃんと手渡すから!」

「あぁ、おい! あんま暴れんなよ!」

 

 

 

こっちの子は静かで助かるよホント……

 

≪トシ君、攻撃とかは飛んでこない?≫

≪今のところは大丈夫そうだ。()()にも反応は無いし。≫

≪ありがと! あ、()()出来たらちゃんと神谷君に言うんだよ?

 自分だけで対処しようとしないでね?≫

≪解ってるって!≫

 

トシ君が護衛に回された理由、そして障壁の適性が低くて実力を発揮できなかった理由がこの特典だ。

 

『攻撃の予知』……攻撃されるタイミング、場所、種類を予め知る事が出来る特典。

攻撃と言う対象に絞った為かその精度は高く、()()()()()()()()傷を負わずに勝つ事も難しくない。

 

……そう、ここで響いたのが『障壁魔法の適性』だった。

構造を理解し、十分な魔力を注いでも障壁が展開されない……適性が低いどころではなく、適性が()()と言われる程に向いてなかった。

 

だけどそこはデバイスマイスターである私の領分。クロノ君がデュランダルで氷結魔法の適性を補ったように、私が自作のデバイスでトシ君の障壁適性を補ったのだ!

そのおかげで、今のトシ君はなんと『手の平サイズの障壁』の展開が可能になっている!

射撃魔法はこれで十分に防げるのだ! ……うん、頑張らないとな私。管理局に入っていろいろな素材を自由に使えるようになれば、もっと性能は上げられるし。

 

……っと、思考が逸れちゃったな。

 

そろそろこの人達が向かうはずだった学校に着くし、向こうに連絡でも……

 

「神谷! ブラッディダガーの流れ弾! 5発だ! 来るぞ!!」

「ッ! 分かった!」

 

トシ君が焦った声を出し、神谷君が障壁を展開する。

直後、高速で飛来したブラッディダガーの内直撃コースだった3発は神谷君の障壁で防がれ、残りの二発は……

 

「ヒェ……」

 

一つがビルの壁面を抉り、もう一つは大型スーパーの看板に直撃……爆発を伴って破壊した。

それを見てしまった音声の子から小さな悲鳴が聞こえ、他の二人も言葉を無くし、目を見開いているのが確認できた。

 

……いや、アナウンサーの人脂汗凄いな。『覚悟はしている』なんて言ってたくせに……

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