転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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全てを撃ち抜く光となれ

夢から覚めた私の目の前に、その子は居た。

誰よりも闇の書の闇に苦しめられ、誰よりも報われず、そして僅かばかりの幸せの後に全ての咎を背負うかのように消えてしまう女性。

 

夜天の魔導書の管制人格……私がこれから名前を付ける女性だ。

 

「主はやて……私は、間違っていたのでしょうか。」

 

彼女は不安に揺れる瞳で私を見つめながら問いかける。

 

私が寝ている間、彼女が何をしていたのかは目が覚めた時に理解した。

自分でも不思議な感覚だけど、まるでその場に自分が居合わせたようにしっかりと記憶されている。これまで夜天の書が集めてきた幾万の魔法の知識と共に。

 

「そうやな……少なくとも、私の願いと違う事しとったんは確かやな。」

「……」

 

……いや、正直私もあの願いであんな行動を起こすのは予想外だった。

彼女が表に出てから私が目覚めるまでの間に出てしまうであろう被害を少しでも減らせればいいなと思っての願いだったと言うのに、まさかそれが戦う動機になってしまうとは……

 

「でも、それは貴女だけが悪い訳やない。そう解釈してしまう願いをした私にも責任はある。」

「! そんな事は……」

「ある。私は貴女の保護者(マスター)やからな。

 ヴォルケンリッターの皆と一緒で、貴女も私の大切な家族なんやから。」

「家族……」

 

私の言った『家族』と言う言葉を繰り返す彼女に手を伸ばし、その頬に優しく触れる。

夜天の魔導書から与えられた知識に従ってプロセスを実行すると、私達の足元に三角形を基調としたベルカ式の魔法陣が浮かぶ。

 

「……ですが、私は私を家族と呼んでくれる貴女も殺してしまう……!

 今の私はそう言う存在なのです。皆が私をそう呼ぶように、不幸を振り撒く呪われた……」

「その先は言わせへん!」

 

彼女の言葉を遮って、叫ぶように告げる。

夜天の魔導書のマスターになったからだろうか、今の私には今まで彼女がどれだけ苦しんできたか……苦しめられてきたかが良く分かっていた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()まで全部……!

 

「私がマスターになった今から、誰にもその名で呼ばせへん。」

 

胸の内に湧き上がる怒りと悲しみを堪えながら、優しく言い聞かせるように言葉を紡ぐ。私は貴女の味方だと伝える為に。

今まで彼女を、私の家族を苦しめてきた存在を知った今、私のする事は決まっていた。

 

「……せやから、私を信じてくれへんか?」

「主はやて……」

 

彼女の目から伝う涙が頬に添えた私の手に触れ、私の意思をより強くする。

 

「『主』はいらん、『はやて』でええよ。ヴォルケンリッター達と一緒でな。」

「……分かりました。では私の事は……」

「“リインフォース”。夜天の主の名において、私が……『八神はやて』が貴女に送る名前はそれ一つや。

 “強く支える者”、“幸運の追い風”、“祝福のエール”……貴女はそう言う存在になるんや、これから。」

「ありがとうございます……はやて。」

「うん、じゃあ先ずは……」

 

頬に添えた手を通して処置を施すと、外に出ている自動防御プログラムと魔導書本体を切り離す。

 

「一緒に外に出ような。」

 

そして、私は外で戦う皆に念話を繋いだ。

 

 

 

 

 

 

……さて、あれから数十秒が経過しただろうか。

あれからいくつかのプロセスを実行した結果、私も晴れて外の光景を見る事が出来た。

 

奇妙に揺らぐ空、防御プログラムの体を縛る星座の魔法……

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

スターライトブレイカー……魔法を使った際に空気中に散らばる魔力を、敵味方問わず集束させて放つと言うなのはちゃんの必殺技だ。

その特性上、それまでに使用された魔力量が多ければ多い程にその威力を増すと言う性質があるのだが……

 

「はやて、やはり少々早まったのでは……?」

「奇遇やなぁリインフォース……今、私もそう思っとったところや。」

 

夜天の書の正式なマスターとして登録する過程で飛び込んできた外の光景に、私は先程なのはちゃんに伝えた言葉を訂正したい気持ちでいっぱいだった。

 

「やっぱり『とにかく一番強い攻撃を撃ち込んで!』……なんて、簡単に言うもんとちゃうなぁ……」

 

さっきまで漂っていた真面目な雰囲気も、この光景の前では霧散してしまうだろう。

 

……地上にもう一つ太陽が生まれたのではないかと錯覚せんばかりの輝きの前では……

 

「はやて、やはり迎撃か防御を……」

「む、むぅ……せやけどなぁ……」

 

生半可な攻撃では、一撃で防衛プログラムを止める事は出来ない。それに、既に覚醒から結構な時間が経過していて、本格的な暴走も目前の状態だった。だからこそ色々な過程をすっ飛ばしてなのはちゃんに最適解を伝えたのだ。

もしも万が一とんでもない奇跡が起こって、アレを防げてしまった場合のリスクは計り知れない。

 

そんな風に悩む私の目に、SLBの輝きから逃げるように海に向かう()が見えた。

リインフォースの目を通しているからだろうか、彼女の表情も良く見えた。

 

「……フェイトちゃんも大変な思いしたんやな。」

「?」

 

アニメ1期の頃の無表情はどこへやら、恐怖とも焦燥ともつかぬ表情で彼女は飛ぶ。

向かう先はきっと、クロノ君達の所かな。

 

……うん、彼女もきっとコレを受けたのだ。正式になのはちゃんの友達になる通過儀礼の様な物と割り切ろう。それに……

 

「アレを受ければ、この先何が出て来ても怖くないやろ?」

「はやて……」

 

 

 


 

 

 

数分間の飛翔を終え、漸く目的地である私立聖祥大学付属小学校に着いた私達は、恐らく皆が避難しているであろう体育館前に着地した。

 

「……ほら、避難所に着いたぞ。」

「あ、ありがとうございます。」

「約束通り、カメラからテープ出してくれ。あんま広がると拙いからよ。」

「あ、はい……じゃあカメラを……」

 

少し離れたところでは私同様にカメラマンを運んでいた……えっと、神楽坂君がバインドで縛っていたカメラマンを下ろし、早速もう一つの用事を片付けようとしていたのだが……

 

「ちょ、ちょっと君! 勝手に何やってるんだ!

 折角撮った映像……スクープだぞ!?」

「い、いやでも助けて貰いましたし……あれ見たでしょ?

 魔法って想像以上にやべーっすよ?」

「やべーから周知させる必要があるんだろーが!

 下手に魔法に関わる奴が出たらどうする!?」

 

そこで神田君が運んでいたアナウンサーの人が割り込んで言い争いを始めてしまう。

 

……うん、凄いブーメラン発言だ。まぁ、魔法の危険性を知らないから今回みたいな事になったって言う事情を考えると、彼の言う事にも一理あるとは思うのだけど……

 

「はぁ~……貴女も大変だね、上司があんな感じだと。」

「あ、あはは……あっ! さっきはありがとうございました。

 守っていただいたばかりか、ここまで運んでいただいて……」

「あー、良いって良いって。一応これも仕事みたいなものだしさ。

 それと一応ここも安全とは言えないし、守りやすいように体育館に避難しててね。

 集まってる方が守りやすいからさ。」

「はい!」

 

そう言って体育館に駆けて行く音声スタッフの子を見てつくづく思う……私の担当の子があの子で良かったと。

 

「どうだ、流れ弾はもう来ないか?」

「今んとこ問題無し。

 そっちこそさっきのブラッディダガー、どれだけ防げそうだ?」

「あれくらいなら全然余裕だ。日頃から障壁系を集中して鍛えてたからな。」

 

……さて、あの子にああ言った手前、私もここの守りに専念したいところなんだけど、私とトシ君の担当は別の避難場所だ。

本来ここは神谷君が巨大な障壁で守り、私達の担当場所はトシ君の予知と中規模の障壁で守ると言う方針がある以上、早めに戻る必要がある。

 

と言う訳で、トシ君に一緒に戻ろうと提案しようと振り返ったところで、それに気づいた。

 

「……うん? ちょっと待って、なんか公園の方光ってない?」

「え? あ、ホントだ。」

 

間違いなく魔法の光なんだろうけど、何だろう……凄い嫌な予感するなぁ……

 

「……あー、あの光は……間違いなくSLBだな……」

「SLB!? それにしても大きくない!?」

「考えてもみろよ、あの場所で戦ってる人数と保有魔力量を。

 それ一か所に集めてぶっ放すのがSLBなんだぞ? そりゃあ“ああ”なるだろうよ。」

「神谷……お前冷静だな。」

「慣れたんだよ。障壁の適性が高い所為で、なのはの訓練には良く付き合っていたからな……」

 

うわぁ……ヒロインと一緒に訓練してた事を語る表情じゃないよソレ……

 

「……って、大丈夫なの? アナウンサーの人もカメラマンの人も見ちゃうと思うんだけど……」

「はは……アレが見えない場所なんて、多分この街には無いからどうしようもないさ。」

 

か、神谷君……今度デバイスの調整してあげよう。念入りに。

 

 

 


 

 

 

……何か、誰か凄い失礼な事考えてる奴が居る気がする。

 

俺がSLBの発動準備に入った途端に神場が叫び、周りにいた皆が蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

振り返るとフェイトも雷の残滓を残して居なくなってた。

 

いや、お前ら前世でさんざん見てたし、神場に至ってはジュエルシード事件の時にもいたよな?

フェイトは、その……ゴメン。

 

……まぁ、長い事戦った上に、使用された魔力も多い所為で大変な事になってるから仕方ないのかも知れないな。

チャージ時点で俺の想定していた大きさは遥かに超えていたし、銀髪オッドアイの魔力が多い所為で何か銀色に近い色になってるし、球状に収まらなかった余剰魔力が周囲を煙のように漂ってるし……正直俺もちょっと戸惑ってる。

 

≪ねぇ、レイジングハート。これってちゃんと制御できてる?≫

≪……多分な。≫

 

多分かぁ……そっかぁ……

 

≪……もしかして、私も危なかったりする?≫

≪……下手すると。≫

 

下手すると俺も危ないと……なるほど、オッケー、オッケー……

 

「プロテクション!」

 

俺は直ぐに自分の周りに障壁を張って、レイジングハートを握る手に緊張からか力が籠もる。

 

≪逝くよ、レイジングハート。≫

≪覚悟を漢字にするのやめようぜ。≫

 

喰らえ、文字通りの全力全()

どうか俺もはやても無事でありますように!

 

「スターライトォ……」

 

そしてごめんなさい、海鳴臨海公園の管理人さん! 多分周囲の大地ちょっと抉ります!

 

「ブレイカアァァーーーーッッ!!」

 

――その日の正午は、一年を通して最も空が明るくなった瞬間だったと言う。




※神谷君はSLB以外のなのはさんの魔法を一通り受けた経験があります。

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