転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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天と地に穴を穿つ

それは、闇の書の意思の元へ向かう途中の事だった。

 

闇の書の意思が浮遊するその真下――海鳴臨海公園の林に突如として眩く輝く巨大な光球が発生し、同行していたリーゼ姉妹に警戒を促した直後……

 

「――クロノ!」

「フェイト、あの光は……ッ!?」

 

こちらに向かって高速で飛んできたフェイトに事情を聴こうとしたが、その表情と汗に思わず言葉を失う。

 

「クロノ! 衝撃に備えて!」

「いきなり何を……いや、分かった。」

 

事情も分からず備えろと言われ、それでもなお了承を返す。

フェイトがこれほどの焦燥を表情に出すとなると、相当の緊急事態だと予想が出来たからだ。

そして俺が了承を返し、障壁を張る為にデュランダルを構えた途端、フェイトは一瞬で俺の背後に避難した。

 

「うわゎっ!? フェイトちゃん、ちょっと怯え過ぎじゃない!?」

 

背後でロッテが何やら騒いでいるな。接触しそうにでもなったのだろうか?

 

……それにしても、フェイトがこれ程怯えるとなると相当な衝撃が予想されるな。

 

「デュランダル。」

≪OK, Boss. Wide Area Protection.≫

 

デュランダルの補助も借りて、可能な限り強力な防御で備える。

こう言う時はデュランダルの性能が実に頼もしいな。

……そんな風に考え、手元を見たまさにその瞬間――

 

 

 

爆発を思わせる轟音と共に、眼を焼かんばかりの閃光。思わず眼前に翳した手の指の隙間から見えたのは、眩い光の柱が天を穿ったかのような光景だった。

 

そして一瞬遅れて届く衝撃波が、今しがた張ったばかりの障壁に届く。

その圧力に、杖を構える手が震える。ビリビリとした衝撃が腕を伝わり、心臓さえも打ち据えるような感覚。

 

「――ッ!」

 

余波でありながらこの威力。

障壁を苛む濃密な魔力波動を全身で感じながら、俺はただ耐える事しか出来なかった。

 

 

 

やがて光は薄れ、衝撃は消えて行った。

恐らく数秒程しか経過していないにもかかわらずこの疲労感……街の方は大丈夫だろうかと不安に駆られつつ顔を上げると、雲に穿たれた大穴の中心……明るい未来を示すような蒼天の中心に、救い出された少女を包む白く輝く光が見えた。

 

……どうやら、はやての救出には成功したらしい。

 

一先ずの安堵の後に目線を下に移すと、薙ぎ倒された木々の中心……綺麗なすり鉢状に抉れた地面の中心に、今の光景を作り出した張本人の姿があった。

 

……どうやら、やっぱり彼女の仕業だったらしい。

 

「そうか、今の魔法はなのはの……」

「……うん。スターライトブレイカー……」

 

……そっかぁ。

 

うん、そりゃあフェイトも怯えるよな。うん。

 

「……いや、『そうか』じゃないよね!? あれが個人の魔法っておかしいでしょ!?」

「クロノ、世の中には慣れちゃいけない物もあるんだよ?」

 

リーゼ姉妹が何か言ってるがこればかりはどうしようもない。最終的にはアレを5本同時に撃つのが高町なのはなのだから。

 

 

 


 

 

 

――あれ、私……どうしたんだっけ。

 

「お目覚めになりましたか、はやて。」

「リイン、フォース……?」

 

お目覚めにって事は……私、寝てたのかな。

 

ぼんやりとした意識のまま辺りを見回すと、さっきまでの様な真っ暗な空間はどこへやら、まるで真逆のファンシーな空間に漂っているのが分かった。

何処か肌寒さを感じた闇の中とは違い、今いる場所は何と言うか……すごく落ち着く空間だ。

 

そんな場所に居るからだろうか。中々に奇妙な状態にありながらも、私は至極冷静に現状を把握するべく記憶を遡る。

 

――えっと、確か私は夢から覚めてリインフォースに名前をあげて……そうだ、なのはちゃんにお願いして防御プログラムを……ッ!!

 

「リインフォース! 私、もしかして……!」

 

状況を理解した私はバッと身を起こし、直ぐにリインフォースに確認する。

私は今まであの時のSLBで意識を……! 夜天の書の内部空間でもあんなショックを受けるって……なのはちゃんの魔法の威力おかしくない!?

 

「ご安心ください、はやて。気を失っていたのは、現実世界の時間ではほんの数秒です。

 ……()()はまだ完全な覚醒に至っては居ません。」

「! そうか、良かった。」

 

リインフォースの表情からそれが私を安心させる為の嘘ではないと理解し、少し安心する。

この最終決戦だけは、絶対に寝過ごす訳には行かないのだ。

 

「しかし、はやて。今の貴女は魔法の知識こそ持っていますが、こと戦闘に関しては……」

「……うん、分かってる。」

 

私は戦闘経験はおろか、実際に魔法を使った事も無い初心者中の初心者だ。

こんな土壇場で戦いに割り込めば、身の安全は保障できない。

だけど……

 

「せやけど、()()は元々リインフォース達の……そして、今は私が引き継いだ因縁や。

 家族をずっと苦しませて来た相手は、私にとってももう無関係やない。」

 

あんな事を知った今、危険だからって傍観に徹する事は出来ない。

それに……動けないのも、動かないのももうたくさんだ。

 

「……遠くから眺めるだけなんて、もう嫌なんや。」

「……分かりました、はやて。

 貴女に足りない経験は私と守護騎士が補いましょう。今度こそ、貴女の願いを正しく叶える為に。」

「ありがとうな、リインフォース。……それとごめんな、我が儘言って。」

「いえ、問題ありません。……私も貴女の……家族ですから。」

 

そう言うと、リインフォースは言葉を返す前にそそくさと私の体に溶け込むように消えてしまった。

直前にちらりと見えたその表情は、私の見間違いでなければちょっと赤かったように思う。多分、自分で言ってちょっと照れ臭かったのだろう。

 

そしてリインフォースと交代するように、4色のリンカーコアが私の周囲に現れた。

 

「……おかえり、皆。

 やっと私も一緒に戦えるようになったで……最後の一仕事、手伝わせてな。」

 

リインフォースとユニゾンし、ヴォルケンリッター(私の家族)も戻って来た今、後は戦って勝つだけだ。

そしてその時は、この空間を破ればすぐに訪れる。

 

深呼吸を一つ、心を落ち着かせ、目の前に浮かぶ『夜天の魔導書』を胸に抱く。気付けば私は、アニメで見たはやてのバリアジャケット(甲冑)に身を包んでいた。

 

「……さぁ、行こか。きっちり私達の手で決着つけようやないか!」

 

気合を入れて、私は殻を破るべく、目の前に現れた杖に手を伸ばした。

 

 

 


 

 

 

……やっちゃったなぁ。

 

真っ先に思い浮かんだのはそんな言葉だった。

 

SLBを撃った瞬間、周囲を煙状になって漂っていた魔力が暴発。SLBの反動も合わさって、俺の全身を途轍もない衝撃が通り過ぎた。

 

……この辺りまではまぁ、想定の範囲内だった。

 

だがこの暴発と言う物が思ったよりも強力で……その、なんだ? しゃぶしゃぶ用の鍋って言えば分かるだろうか。

 

何の話かって? 俺の周りの地形の話をしてるんだけど……

 

≪……よぉ、無事か? 戦闘民族(なのは)。≫

≪大丈夫、無事だよ。マゾヒスティック(レイジング)ケーン(ハート)。≫

≪ありがとうございます!≫

 

互いに念話で軽口をたたきながら身を起こす。

周囲の地形はもはやちょっとしたクレーターとなっており、少なくない木が根っこからひっくり返されている。

 

≪……はやてちゃん、大丈夫かな?≫

≪フェイト同様のトラウマ抱えてないと良いけどな。≫

 

……大丈夫だと良いな。

そんな願いを込めつつ、遮る物の無くなった上空を仰げば……雲の無くなった蒼天の中心に、白く輝く球体が見えた。

 

≪うん……とりあえず、自動防御プログラムとの分離は出来たみたいだね。≫

≪これで残るは闇の書の闇だけだな。クロノ達も来たみたいだし、早いとこ合流しようぜ。≫

 

レイジングハートの言葉に目線を映せば、確かにこちらに駆けつけるクロノ達の姿が……そしてその手に握られたデュランダルもバッチリと確認できた。

 

「レイジングハート!」

≪Axel fin!≫

 

アースラ、デュランダル、夜天の主となった八神はやて……これで諸々の準備は整った。

有効な作戦に関しても、銀髪オッドアイの誰かが提示するだろうし問題無いだろう。

 

頭の中でこれからの流れを整理しながら飛翔していると、視界の端に黒い靄が集まっているのが見えた。

恐らくはアレこそが分離された闇の書の闇、自動防御プログラム(ナハトヴァール)なのだろう。

 

……最終決戦まで、後数分ってところか。

 

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