もうちょっと上手く自然な会話に出来ればよかったのですが、まだまだ技量が足りなかった……
「……まったく、君は本当に無茶をするな。
あれだけの砲撃、君自身が反動で倒れてもおかしくなかったぞ。」
「あ、あはは……ごめんなさい。」
あれから直ぐにクロノ達と合流した後、俺はクロノから軽い注意を受けていた。
どうやら先程のSLBの余波を受けたクロノは、その威力に尋常ではない物を感じて心配してくれていたらしい。
実際撃ってみたから分かるが、あの時自分の身をプロテクションで守っていなかったら俺自身も少なくないダメージを受けていただろう。
いくら手加減はしないと決めたとはいえ、今回の事は俺のSLBに対する理解が浅かったのが原因だ。反省せねば。
それにしても、まさかSLBが集束できる魔力量に限界があったなんて思わなかった。
これから管理局に所属して戦闘が激化する事が想像できる以上、何かしらの改良が必要だという事なのかもしれない。
……そこまで考えて、ふと頭に一つの映像と可能性が浮かんだ。
――もしかして原作でなのはがヴィヴィオに撃ったSLB×5は、『そう言う事』だったのではないか?
一発一発に収束する魔力量を分散させて、暴発を抑える為に……そう考えると納得のいく部分はある。
そうなると、俺も複数のSLBを同時に制御する練習を……
「なのは……」
「? どうしたの、フェイトちゃん?」
俺がSLBの改良について考えていると、フェイトがおずおずと話しかけて来た。
「次からスターライトブレイカーを撃つ時は、チャージ前に言ってね?
急にチャージが始まると、その……びっくりしちゃうから。」
「ご、ごめんねフェイトちゃん。」
「本当に気を付けた方が良いと思うよ? この子、口ではこう言ってるけど実際あの時はあたしの服の裾掴んで震えてたんだから。」
「り、リーゼロッテ、それは黙っててって……」
「……本当にごめんなさい……!」
慌てて頭を下げる。
思えば確かに配慮が足りなかった。フェイトに関してはSLBに苦手意識を持っている節があったし、そうでなくともあの魔法の出力は異常だ。
あの時もしも神場が叫んでいなかったら、ちょっとしたパニックになっていたかもしれない。
……って、アレ?
「リーゼロッテさん!? ……と、えっと……」
「私はリーゼアリア。リーゼロッテの姉で、同じ主に仕える使い魔だよ。」
「あ、はい。私は……」
俺自身は勿論知っているが『高町なのは』が知らない以上、最低限のRPは必要だ。
そう考え、手短に自己紹介をしようとしたところで、リーゼアリア本人からストップがかかった。
「詳しい事情はロッテ達から聞いてるから良いよ、なのは。
……それよりもクロノ、ちゃんと気付いてるだろうね?」
「勿論だ。……こんな分かりやすい気配、気付かない訳がない。」
リーゼアリアから話を振られたクロノが、ある一方向をまるで睨むように見据える。
それはクロノだけではなく、リーゼロッテも、フェイトも、再び集まりつつある
海鳴臨海公園の中央広場よりもやや海よりの空中……まだ肉眼ではうっすらとしか確認できないが、魔導士であればそこに莫大な魔力が集まっているのが感覚として分かるだろう。
「まったく……結構長い事管理局で仕事してきたけどさ、ここまで嫌な魔力を感じるのは初めてだよ。」
「アリアも? 奇遇だね、あたしもだ。」
リーゼ姉妹が言うように、この魔力は非常に嫌な気配を纏っていた。
その魔力は、よく観察してみれば先程まで戦っていたヴォルケンリッターや闇の書の意思に近い物を感じるが、その魔力の放つ
何処までも陰湿で、何処までも浅ましく……そして何処までも醜悪な悪感情の塊とでも表現しようか。
そんな物が独りでに蠢き、のたうってる様な不快感。
……俺達が見据える先に、黒い
やがてそれは、まさに闇を思わせる漆黒の巨大な球体となった。
先程までの戦いが嘘のような静寂の中、俺達は誰もがその闇を見つめていた。この静寂が嵐の前の物であると分かっているからだ。
不意に、その静寂を破るように光が周囲を照らし、地と天を繋ぐように光の柱が再び突き立つ。
その光は
その光を守るように立つ影が4つ、何処からともなく現れた。
その内の1人が口を開き、静かに、だが力強い意志の下に言葉は紡がれる。
「我ら、夜天の主の下に集いし騎士――」
烈火の騎士が、
「主在る限り、我らの魂尽きる事無し――」
湖の騎士が、
「この身に命有る限り、我らは御身の
盾の守護獣が、
「我らが主……“夜天の王”、八神はやての名の下に――!」
鉄槌の騎士がそれぞれ発したそれらは、闇の軛から解き放たれ、自らを取り戻した今、改めて主と立てる誓いの言葉。
彼等の王の目覚めの儀式。
それはまるでさなぎが蝶へと羽化するように、卵からひな鳥が孵化するように、光の殻を内側から破り、“夜天の王”が顕現した。
「はやてちゃん!」
光の殻を破り最初に聞いたのは、私の友達であるなのはちゃんの声だった。
私は彼女を安心させるように微笑みを返し、強い意志を込めて杖を掲げる。
「夜天の光よ、我が手に集え! 祝福の光……『リインフォース』、セットアップ!」
杖から光が迸り、私の騎士甲冑に最後の仕上げを施していく。
私と融合したリインフォースが共鳴し、髪の色が変わる。私からは見えないが、多分目の色も変わっている事だろう。
最後に背中に3対の小さな黒い翼を携えて、私のセットアップは完了した。
「はやて、無事で何よりです。」
「ありがとうな、シグナム。
……そっちこそ、もう大丈夫やねんな?」
「はい、久方振りに清々しい心地です。」
「良かった……最後の大仕事、一緒に頑張ろうな。」
「はい。」
シグナムと言葉を交わし、私は討ち果たすべき
――漸く、この場所に辿り着いた。
私が夜天の主として、闇の書の呪いと決別できる唯一の場所に……
そんな感慨に耽っていると、一人の少年が近づいて来た。
「失礼……取り込み中悪いが、確認させてほしい。
君が『闇の』……いや、『夜天の魔導書』の主で相違ないな?」
クロノ・ハラオウン……時空管理局内においても執務官と言う高い地位についており、管理局の価値観で言えば辺境に当たる地球で起きたいくつかの事件に関わった妙な縁を持つ人物。
そして、私の持つ『夜天の魔導書』にも人一倍因縁が深い人物だ。
「あ、はい。そうです。
えっと……時空管理局ってとこの人ですよね? ウチの子達がえらいご迷惑を……」
「いや、その件に関しては今は良い。
勿論今回の事件に関してはいずれ話を聞かせてもらうが、それよりも今は……」
私の言葉を遮って、クロノは巨大なドーム状となった『闇』にその鋭い視線を向ける。
「――
「はい。私も皆も、アレにはずっと苦しめられてきましたので……寧ろ私達から協力を申し出たいくらいです。」
「そうか、協力に感謝する。
……ならば、僕達よりもアレに詳しいだろう君達にも知恵を貸して貰いたい。ついて来てくれるか?」
「分かりました。行くで、皆。」
クロノの言葉に了承を返し、ヴォルケンリッターの皆と一緒について行く。
目指す場所には既になのはちゃんとフェイトちゃん、それに何故かこの場に来ていたリーゼ姉妹と……20人近い数の銀髪オッドアイ達が居た。
……いや、ツッコミ所多いな。
まず何でここにリーゼ姉妹来とんねん。銀髪オッドアイどんだけ居るねん。こんなん思わず頭ん中でも関西弁になるわ。
「はやてちゃん! 無事で良かった!」
「うん、なのはちゃんも元気そうで何よりや。」
「えっとね……この子が前に話してたフェイトちゃん!」
「よろしく、はやてちゃん……で、良いのかな?」
「こちらこそよろしくな、フェイトちゃん!」
……うん、少し言葉を交わしただけで分かってしまった。
この子達……
え? なに? 銀髪オッドアイってそんなに良く居る顔なの? アニメや漫画でも1人か2人くらいじゃないの?
「クロノさん、現在戦闘行動が可能なのはこの場にいる23人です。」
「他は先程の戦闘で受けた魔力ダメージから復帰するのに時間がかかっており……」
「……わかった。この場にいるメンバーのみで対処する前提で作戦を組もう。
では先ず……シグナム、あの『闇』についての情報を貰えるだろうか?」
この場で最もナハトヴァールについての情報に詳しいと踏んだのだろう。ヴォルケンリッターを率いるシグナムに、クロノは白羽の矢を立てた。
説明を促されたシグナムは、自らの知っている情報を語り始める。
「あぁ、アレは『夜天の魔導書』が改竄される中で組み込まれた『自動防御プログラム』だ。
だが見ての通り暴走を繰り返し、もはや『夜天の魔導書』の制御すらも受け付けなくなっている。
直に魔力を糧に実体を構成して暴れまわるだろう……」
確かにシグナムの知っている情報ではその認識で間違いない。
だが、それが『最新の情報』ではないと言う事も、往々にしてあるのだ。だから……
「……割り込んですみませんが、その情報はちょっと古いです。」
「何……?」
「む? はやて、何を……?」
この中で唯一その情報を明かせる私が割り込んだ。
「えっと、クロノさん。シグナムを責めんとって下さい。
これはシグナムが知らんのも無理ない事情のある話なんや。」
「……事情については後で聞かせて貰うとして、君の知る情報を話して貰えるだろうか?」
「はい。
って言うても、途中まではシグナムの話と同じです。
『自動防御プログラム』が組み込まれ……ずっとそれが暴走した結果、
『夜天の魔導書』は『闇の書』と呼ばれるようになった。
……でも、今のアレはもう『自動防御プログラム』なんて
「!?」
「はっ……!?」
「自動防御プログラムじゃない……?」
「……今よりずっと昔、『闇の書』と呼ばれた『夜天の魔導書』の主に選ばれた男が居ました。
そいつは
その動機も自分勝手な物で、
私が話している途中で、その正体に気付いたのだろう。ヴォルケンリッター達が目を見開く。
「そしてよりにもよってある程度の腕を持った研究者でもあったそいつは、
『守護騎士制御プログラム』なんてもんを作ろうとして……シグナムの手でその野望は断たれた。」
「まさか、はやて……! アイツは、あの男は確かに……!」
「うん、その男は間違いなくシグナムが止めたで。ただ、最期の足掻きって言うんやろな……
アイツは自分の『人格データ』を夜天の魔導書に保存しとったんや。
そいつは自動防御プログラムの妨害を受けながらも、ずっと夜天の魔導書内で『守護騎士制御プログラム』を組み続けとったらしいわ。」
元々ユニゾンデバイスの融合事故を疑似的に再現する事で機能するそのプログラムの性質上、リインフォースはその根幹として必要だった……だが自らがその正式なマスターである『夜天の主』になる前に野望が断たれ、リインフォースに対するマスター権限は二度と手に入らなくなった。
だからそのプログラムのブレーンになる為に、あの男の人格データはリインフォースに根付いた『自動防御プログラム』に目を付けた。
『融合』ではなく『寄生』する形で干渉し、強引に『守護騎士制御プログラム』を起動させたのだ。
この悍ましい事実をリインフォースから聞かされた時、私は怒りで頭がどうにかなるんじゃないかと思った程だ。
そしてリインフォースからの情報である事を踏まえて私の知る全てを話し、いよいよ本格的に作戦について話そうとしたその時、アイツを取り巻く闇が心臓の鼓動のように脈打った。
――覚醒まで、もうそれほど時間は無いようだ。