転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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妄執の怪物

闇の書の闇を取り巻く球体が心臓のように脈打ち、その魔力がまるでさざ波のように広がる。

魔力は空気を緩やかに押し出し、まるでそよ風のように俺の髪を揺らした。

 

だがその時感じた魔力の醜さに、そよ風の心地良さとはまるで真逆の不快感が全身を包む。

思わず顔を顰める面々の中、クロノは冷静に状況把握に努めているのが見えた。

 

「……今の魔力の波動は……エイミィ、解析の結果は出たか?」

『うん、球体の中で魔力の密度が上昇中! 魔力が安定して動き出すまでの予測時間は……約5分30秒!』

「――と言う訳だ。時間も無い。この場に居る者のみで作戦を組み立てよう。」

 

この場にいる者……その言葉で周りを見回し、戦力を改めて確認する。

フェイト、はやて、ヴォルケンリッター、クロノ、リーゼ姉妹、神場、管理局の銀髪オッドアイが約20名……

 

……うん、相手がナハトヴァールなら間違いなく過剰戦力だ。

もっともアルフやユーノが居ないので、バインドや転送魔法に関してはやや不安ではあるが……

 

「先ず、僕達が管理局として用意できる解決策を二つ用意してある。

 その後に意見があれば遠慮なく発言してくれ。」

 

その言葉でこの場にいた全員の視線を集めたクロノは、現在管理局の持つ手札として『アルカンシェル』と『デュランダル』の情報を共有すると、更にこう続けた。

 

「正直、『アルカンシェル』は出来る事なら最後の手段にしたい。

 アレは着弾地点を中心とした半径百数十kmの範囲で空間歪曲を引き起こす……これでは対象の殲滅は出来たとしても、間違いなくこの星ごと滅ぼす事になる。」

 

クロノの言葉を聞き終えた後、シャマルがおずおずと手を挙げる。

 

「あの……『凍結魔法』に関してなんですが、多分難しいかと。

 切り離された『防御プログラム』は実体化こそしても、その正体はあくまで魔力の塊です。

 はやてちゃんが言うように『あの男』……『デレック』の人格データがそれを支配していたとしても、きっとその点に変わりはない筈なので。」

 

内容は殆ど原作知識のものと同様だ。凍結魔法で封印できず、そしてアルカンシェルは地上に打ち込む訳には行かない。だからこそ『闇の書の闇』……シャマルが言う『デレック』を宇宙空間に転送する必要があるのだ。

 

――さて、原作通りの展開であれば『アルフの一言』から宇宙空間に転送する事を閃く流れなんだが……

 

「クロノさん! 宇宙空間に転送すればアルカンシェル撃てますよ!」

 

いや、早いな。

諸々の流れを全部無視して解決案を出したのは一人の銀髪オッドアイだった。

 

誰かが言う可能性はそれなりにあるとは思ってたけど、まさかノータイムで食い気味に行くとは流石に予想外だ。

なのは()達に良い所を見せたかったのか、純粋に地球の事を思ってなのか……動機が何にせよ、結果として相談の後に原作でも実行されたその案が採用となった。

 

だが肝心なのはここからだった。

 

「――ダニーが出した作戦の実行に際し、僕達は先ず対象物である『防御プログラム』のコアを露出させる必要がある。

 奴の体を構成しているのが実体化した魔力である事から、これは魔力ダメージで突破が可能だと推測できるが……奴の能力は未知数だ。こればかりはぶっつけ本番で対処するしかない。」

 

クロノの言う通り、今回の敵の厄介な所はそこだ。

どの程度の魔法を撃ち込めば良いのか、敵の攻撃はどんなものなのか……敵が『人間の魔導士』じゃない分、能力の上限が見えない。

 

その事を踏まえていくつかの状況を想定し、立ち回りを決めていく中でクロノがはやてに向き直り口を開いた。

 

「それと八神はやて、『夜天の主』である君に一つ確認しておきたい事がある。」

「ええで、私に答えられる事なら何でも聞いてや?」

「先程話に出た研究者の人格データだが、そいつの元となった人間が『守護騎士制御プログラム』を作った……そして現在は『自動防御プログラム』に取り憑き、そのブレーンとなっている。

 そうだな?」

「はい、その認識で間違いないです。」

「ならば戦ってる途中で、ヴォルケンリッターが再び敵に回る可能性は無いだろうか?」

「……あぁ!? どういう意味だそりゃあ!」

 

クロノがはやてに確認した事については、実は俺も少し気になってはいた。

『守護騎士制御プログラム』が実際どんなものなのか詳しい事は分からないが、その名前と今までのヴォルケンリッターの様子からして大体の想像は付く。

多分さっきまでのヴォルケンリッターもそのプログラムの影響下にあったのだろう。そうなると戦闘中にヴォルケンリッターが再び操られないとも言い切れないのだ。

 

だがヴィータにとってその言葉は侮辱されたように映ったのだろう、クロノを睨むその眼光は以前戦った時に俺に向けられたそれよりも鋭く見えた。

 

「あたし達はもう二度とあんな奴に縛られねぇ! もしもまたあたし達があいつに操られるような事があったら……!」

「ヴィータ、先ずは落ち着きぃ。

 クロノさん、その事ならもう問題無いで。実はな、さっき『自動防御プログラム』を切り離したとき、一緒に『守護騎士制御プログラム』も切り離したんや。

 あのプログラムはリインフォースが居らんと使えんから、切り離された側からはどうしようもないはずやで。」

「そうか、分かった。

 ……君達を疑うような真似をした事については謝罪する。

 だが、これも万全を期すためだ……どうか理解してくれ。」

「……ふん。」

 

クロノの謝罪に対して、ヴィータはそっぽを向き鼻を鳴らす。

だが内心理解しているのだろう、それ以上突っかかる事は無かった。

 

「……クロノと言ったな。此度の戦い、我らヴォルケンリッターに一番槍を任せて貰えないだろうか?」

「何……?」

 

ヴィータの代わりと言う訳ではないだろうが、シグナムがクロノに声をかけた。

 

「先程の貴殿の言葉は確かに当然の心配だ……逆の立場ならば私も確認しただろう。

 件の忌々しいプログラムに何度も煮え湯を飲まされたこの身をお前達の背に置くのは得策ではない。

 故の一番槍だ。名誉を願っての物ではない。」

 

そう告げるシグナムの言葉は至って冷静な物だが、反面その口調には有無を言わせぬ迫力があった。

 

「いや……敵の戦力が不明な現状、それは君達を危険に晒す事になる。

 君達の主である八神はやてだって、それは望まないだろう。

 先ほどの言葉を気にしているのならば取り消そう。だから……」

「貴殿が我らに気を遣う必要は無い。先ほども言ったが、それは当然の心配だ。

 ……それに、我らにあの様な屈辱を味わわせた奴に()()の一つもくれてやらんようでは、我らの気が済まぬ。」

「いや、これは気の済む、済まないの問題では……」

 

睨み合う様に意見をぶつけるシグナムとクロノにはそれぞれ矜持があるのだろう、互いに譲る気配が無い。

そんな中、シグナムの意見を肯定するようにしてヴィータが割り込んだ。

 

「へっ……良いじゃねぇか、一番槍。

 任せてくれるってんならさっきの言葉、許してやってもいいぜ。あたしもあの陰険野郎に全力のアイゼンを叩き込みたかった事だしな。

 それにあたし達はお前らと違って簡単に死ぬようには出来てねぇ……管理局としてもその方がありがたいんじゃねぇのか?」

「だからと言って……」

 

『簡単に死ぬようには出来てねぇ』……実際、彼女達は限定的ではあるが不老不死だ。

例えその身が両断されようと死ぬ事は無く、『夜天の書』の中に戻るだけ……

『犠牲を出さない』と言う意味では合理的な意見にも思えるが、クロノの重視する点はそこじゃないのだろう。

 

「……私からもお願いします。」

 

否定しようとしたクロノの言葉にさらに割り込んだのは、俺にしてみれば少し意外にも思える人物だった。

 

「八神はやて、何を……」

「本来なら私は保護者として、皆を止めるべきなのかも知れんけど……でももう私も色々知ってしまったんや。

 知ってしまった以上、皆の主としては応援したい。

 ……何かあった時の責任は私が負います。だから、任せてやってくれませんか?」

 

そう言って真っ直ぐにクロノを見るはやての様子から、こちらもやはり一切譲る気が無い事が伺える。

数十秒程の沈黙の後、折れたのはクロノの方だった。

 

「……ふぅ、分かった。だが危険だと判断した場合は、有無を言わさず退がらせる。

 君達がプログラムかどうか関係無い、誰かを使い捨てるような戦いは絶対にさせない……それで良いな?」

「! ありがとう、クロノさん!」

「……それと、管理局内に於いて何の立場も持たない()()君に背負える責任は無い。

 意見を譲った事も含めて僕の判断だ。僕に責任を負わせたくなかったら、くれぐれも無茶はするな。」

「う……分かりました。」

 

まぁ、確かに今のはやてって別に管理局に所属している訳じゃないしなぁ……

 

ともかくこれで作戦も纏まって……

 

 

 

……うん? 今、なんかクロノの言葉が心に引っかかったような気が……?

 

『皆、聞いて! 対象の魔力反応増大! もう間もなく来るよ!』

 

エイミィから入った緊急の連絡でその場の空気が変わる。

何か気になった事があったはずだが、今はそれどころじゃないようだ。

 

「総員、配置に付け!

 街を背にしろ! 攻撃の一つとして街に向かわせるな!」

 

クロノの指示が飛び、

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「応ッ!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

銀髪オッドアイ達が気合を入れ、

 

「うるさ……!」

 

ヴィータが顔を顰め、

 

「ヴィータちゃん。」

 

シャマルが宥める。

 

「……」

 

ザフィーラが無言で両手のガントレットを打ち鳴らした音が響く。

 

「父さま、見ててね。」

「今ここで、きっと終わらせるから……!」

 

リーゼ姉妹の言葉が聞こえた。

 

「……!」

 

視界の隅でフェイトが気合を入れるのが見えた。

 

「……やっと、ここまで来たんやな。」

 

はやてが何かを呟いた気がした。

 

「……ふぅ、行くよ。レイジングハート……!」

≪Yes, my master.≫

 

俺の言葉にレイジングハートが答える。

 

そして俺達の準備が整うと同時に……

 

「オォオオオォオォォオオォオォォッッッ!!」

 

人とも獣とも知れぬ咆哮と共に……

 

「……夢で会って以来だな――デレック……!」

 

痩せ細った男の上半身を持つ異形の怪物が、昏い淀みを裂いて現れた。

 




誰 得 ヌ ー ド
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