転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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振り下ろされる鉄槌

その外見は何と形容すれば良いだろうか。

 

人間の特徴を多く残した灰色の上半身はあばら骨が浮き上がる程に痩せ細っている一方で、下半身の代わりに繋がっている黒い鱗に包まれた巨躯と酷く不釣り合いだ。

また下半身からは同じく黒い鱗に包まれた8つの触手が伸びており、その全長は5m程だろうか……巨大なタコのようにも見えるその体の表面を包む粘液が、その黒い鱗に不快な光沢を浮かばせている。

更に人間の上半身の背中から伸びた無数の触手の先には牙の様な鉤爪が生えており、その先端がこちらを向くと中心に口の様な穴が見えた。

 

「おのれ、闇の書め……! おのれ、ヴォルケンリッターめ……!」

 

正に『異形の怪物』と形容して然るべきそいつは、しかしその口から明確な悪の知性をのぞかせる。

 

「何故俺を拒む……何故認めない! 俺がお前達の主だろう!! 俺に従え! 俺に使われていろ!!」

 

何処までも利己的なその思想が反映されたのだろう。あまりにも醜いその姿を以て顕現した目の前のこの男が、この世界に於いて『夜天の書』を『闇の書』に貶めた原因の一人である事は明白だった。

 

「チッ……随分久しぶりに見たが、やっぱムカつく野郎だな。コイツは。」

「同感だ。叶う事ならば二度と拝みたくなかったが……」

「コピーされた人格データとは言っても、こうしてまた出会ってしまったなら……やる事は一つよね。

 ――今度はシグナム一人に手を汚させたりはしないわ。」

「シャマル……そうだな、今回は存分に力を借りるとしよう。」

 

直前にシグナム達が言っていたように、先陣を切るのはシグナム達ヴォルケンリッターだ。

敵の情報が不明だったが故に細かい作戦は立てられていないが、それでもヴォルケンリッター達の実力と連携の恐ろしさを身をもって知った俺達が彼女達を心配する事は無い。

 

「エイミィ、彼女達が戦っている間に敵の情報とコアの位置の特定を頼む。」

『了解!』

 

クロノの冷静な指示が飛び、エイミィが敵の解析に入る。

原作では物理・魔法の4層からなる障壁を破壊する必要があったが、今回も同様かは不明だ。

解析の結果によっては俺達の動きも随分変わって来るだろう。

 

「……へぇ、クロノもしっかり執務官やってるみたいだね。」

「いやぁ、あのクロスケがホント成長したもんだよ……」

 

リーゼ姉妹がしみじみと語り出し、クロノの額に青筋が浮かぶ。

そのままクロノが二人に怒りを吐き出そうとした瞬間……ガラスが割れるような音が立て続けに2回。

 

見れば、シグナムとザフィーラがデレックの障壁を1枚ずつ割ったところだった。

 

 

 


 

 

 

――漸くだ、漸くこの時が来た……!

 

「ヴィータ、落ち着け。どれほど強力な一撃も、当てて初めて意味がある。」

「あぁ、分かってる。」

 

シグナムの言葉に了解を返す。

だが内に秘めた歓喜が言葉に漏れ出していたのだろう。シグナム達はフッと笑うと、それぞれ顔を見合わせた。

 

「まったく……仕方ないな、奴の動きは私達で止めよう。」

「仕方ないな……シャマル、締めは頼めるか?」

「仕方ないわね、任せて頂戴。

 とどめはヴィータちゃん、お願いね?」

 

仕方ない言い過ぎだろ!? 良いじゃねぇか、ずっと我慢してたんだから!

 

「……ああ、任せろ!」

 

まぁ、とどめを任せてくれるってんなら文句は無ぇ、その役目はきっちり果たすさ。

 

 

 

「どれ……先ずは一太刀浴びせてみようか。ザフィーラ、アシストを頼む。」

「任された。」

「ぐっ……!?」

 

シグナムとザフィーラが言葉を交わした直後、奴の体を覆っていた障壁が2つ弾け飛んだ。

既に二人は奴を挟むように飛翔しており、接敵と同時に振るわれた剣閃と拳が1つずつ障壁を砕いたのだろう。

 

「クラールヴィント、久しぶりに()()よ。」

Ja.(了解)

 

その一方、あたしの側に滞空しているシャマルがペンダルフォルムのワイヤーに魔力を注いでいる。

『解禁』って事は使うのはアレだろう……昔人間相手に使った時のエグさから封印していた技を使う理由はシンプルに通常のバインドが意味を成さない時の保険なのだろうか、それとも冷静に見えるシャマルにも吐き出したい怒りがあるのだろうか。

 

そんな事を考えている間にもシグナムとザフィーラは奴を守る障壁に攻撃を叩き込み、何度も割っている。

割られた障壁の数は既に10枚を超えており、朧げな記憶が頼りにならない事を確信する。

 

≪シグナムだ。奴の障壁は魔法・物理混合で恐らく8枚。ただし、割られた側から高速で再生している。

 またその度に魔法・物理の障壁の順番が変化する。反面、対応していない属性に対する絶対的な優位性は無く、出力を上げれば魔法で物理の障壁を割る事も可能なようだ。≫

≪了解よ、シグナム。管理局の皆にも伝えておくわね。≫

 

既にその詳細はシグナムにより暴かれ、反撃で放っている砲撃も尽くが切り払われている。

時々あたし達の方にも流れ弾が飛んできているが、それはシャマルが片手間に旅の鏡で返しており、未だに被弾は0の状況だ。

 

しかし気になるのは、これほど一方的な状況にもかかわらず奴の表情に焦りが見えない事だ。

あたしが知っているアイツは自分の感情を隠すのが極端に苦手だった。多分ポーカーをやらせたら延々と毟り取られ続けるタイプだろう。

 

だと言うのに奴の表情は焦っているようには見えない……何かまだ隠し玉があると考えるのが妥当だ。

せめて先陣を切る以上、その隠し玉まで暴いておきたい……多分シグナムもそう考えたのだろう、切り札が一つ切られた。

 

「雲霞……滅却!」

 

街に被害が及ばないように威力と規模を絞った炎蛇の渦が、容赦なく奴を障壁ごと包む。

例え規模が半径5m程度と小さかろうと、あの渦の中は炎と連結刃で構成された地獄だ。魔力の炎と物理的な斬撃は、奴の障壁を一瞬で剥がした。

 

そして最後に音速を超えた突きが通り過ぎた時……

 

 

 

――全身が黒い鱗に覆われた奴の体に傷は無く、その身に炎を纏っていた。

 

いや、それどころか……

 

「シグナム、体に火が……!」

 

何故か攻撃を放った筈のシグナムの腕の一部が燃えている。

だがそんな状況でもシグナムは表情一つ変えず、状況の分析に勤めていた。

 

「……ほう、障壁頼りの木偶ではないか。」

「くくく……強がるなよシグナム、内心焦っているんだろう?

 この体の秘密に気付いたなら、その厄介さは分かるはずだ。」

 

体の秘密だと……? 待てよ、あの()()()って……まさか!

 

≪シグナムだ。奴の体を覆う鱗は刃を通さん、そして奴の表面は可燃性の粘液で覆われているらしい。

 近接での戦闘は不利だ。≫

≪シグナム、早くこっちに! 直ぐに回復魔法を……≫

≪いや、この身に付いた粘液が取れん……先ずは消火を優先すべきだ。

 幸いここには海もある。飛び込めば火を消す事は可能だろう。

 私が居ない間の作戦は当初の予定通り、奴の動きを止める事を優先してくれ。

 動きを止めた後、ヴィータの一撃でダメージを与えるのが効率としても最良だろう。≫

 

シグナムは念話でそう伝えると、直ぐに海に飛び込んだ。

 

「くッ……くくッ……! ははッ! ははははははッ!

 見たか!? あのシグナムの攻撃だって俺には通じない!

 これで分かっただろ! 俺に従え! 今なら頭を垂れれば家臣に加えてやらんでもないぞ!?」

「『鋼の(くびき)』ッ!」

 

シグナムの攻撃を防いで調子に乗ったのか、そんな戯言を抜かす奴に対してザフィーラが返答代わりの魔法を放つが……

 

「無駄だ、無駄だ、無駄だぁ! この鱗は魔法も刃も受け流す!

 攻撃自体が無駄なんだよォ!!」

 

地面から一瞬で伸びた拘束条は奴の鱗に触れると不自然に歪み、まるで意味を成さない。

更に奴は反撃として8つの触手をうねらせると、火の付いた粘液をザフィーラに向けて放った。

 

「チィッ!」

 

ザフィーラは身を捻って危なげなくこれを躱すも、ザフィーラが躱し際に放った雲散霧消の光を受けても消えない辺り、アレはやはり魔法ではなく実際に生成された粘液なのだろう。

 

『魔法も刃も通さない黒鱗』、『可燃性の粘液』……この二つには心当たりがある。

 

他ならぬあたし達が蒐集した無人世界の魔導生物の特徴だ。

 

古い前世の記憶にあるナハトヴァールにも、蒐集された魔導生物の一部と同じ特徴があった気がする。

恐らくは蒐集した魔法を再現するように、その身体的特徴の再現も可能なのだろう。

 

ならば蒐集した魔導生物と同じような……いや、それ以上の痛い目を見て貰おう。

 

Bereit stehen(準備完了).≫

 

丁度アイゼンの準備も整ったところだ。

 

≪シャマル、ザフィーラ! 準備が出来たぞ!≫

≪分かったわ!≫

≪了解した。≫

 

あたしの合図でザフィーラが拳を振るう。

既に修復されていた奴の障壁の一つが砕け散り、その下の層が露わになった。

 

「クラールヴィント!」

Ja.(了解)

 

シャマルが両腕を振るうと、クラールヴィントの振り子が奴の周囲を衛星のように駆け巡る。

 

そして……

 

「これで……終わりよ!」

 

シャマルが両腕を引くと、奴の障壁を象るように伸びたワイヤーが奴を縛り付けた。

そしてその上から障壁が再生され、ワイヤーが埋め込まれる事で拘束は完了した。

 

「はっ、こんな糸で俺の動きを封じたつもりか?

 こんなもの直ぐに断ち切ってやる!」

 

その言葉が示す通り奴の腕が肘を起点に長く伸び、まるで刀のように薄く鋭い刃を備える。

それをクラールヴィントのワイヤーに向けて振るうが……

 

「なッ!?」

 

その腕はあっさりと弾かれ、思惑は外れる。

当然だ。シャマルが殺傷力を求めなかったからあのワイヤーに攻撃性は無いものの、その分すこぶる頑丈に出来ている。

 

……まぁ、それが災いしてエグイ事になり、封印された訳だが。

 

 

 

――さて、次はいよいよあたしの番だ。

あたしはずっと待っていた……自分の本気を出せるこの機会を。

 

あたしの全力は基本的に人間相手には振るえない……威力が大きすぎて、非殺傷設定が仕事しないからだ。

 

故に過去に振るった記録もただの数十回……いずれも規模の大きな戦争でのことだった。

そしてその数十回であたしの『鉄槌の騎士』の名は轟いた。その力を向けられる事では無く、その力が()()()()()()()()()恐れられた。

 

「アイゼン!」

≪Explosion, Gigant raketen form.≫

 

あたしの合図で5つのカートリッジをロードしたアイゼンは、その姿を変えて行く……何処までも破壊を追求した、巨大なドリル付きハンマー(ラケーテンハンマー)の形へと。

 

「崩天爆災!」

≪Spiral schlag!≫

「オオオォォォォッッ!!」

 

この技が恐れられた理由は一つ。

 

 

 

――シンプルに威力が桁違いだからだ。

 

「なッ!? ……グゥオ!!」

 

ハンマーの後方に付いた推進機構から炎が噴き出し、その巨体からは想像が付かない速度で振り下ろされる。

その一撃の前には障壁が何枚あろうが関係なく、その尽くを砕き進み、ドリルの先端は奴の無駄にでかい下半身の鱗をもあっさりと貫いて……その巨体を海鳴臨海公園の地面に縫い付け、大規模なクレーターを生み出した。

 

「バカな、この鱗は……!」

「はん、そいつの持ち主が蒐集された意味くらい考えろバーカ。」

 

その鱗があたしに通用しなかったからお前が恩恵にあずかれてんだよ。

 

「さぁーてぇ……随分と生意気な事抜かしてくれたよなぁ、オイ……!」

「待っ……!」

 

ドリルってのは、回転してこそだよなァ!

 

「く、た、ば、れエエエェェェェェェ!!」

「グアアアアァァアァアァァァァ!!」

 

 

 


 

 

 

「く、た、ば、れエエエェェェェェェ!!」

「グアアアアァァアァアァァァァ!!」

 

ヴィータの怒声と共に巨大なドリルが回転を始め、異形の怪物が悲鳴を上げる。

既に地形は変わり、海鳴臨海公園に新しく出来た大穴には海水が流れ込んでいた。

 

シグナムの技が通用しなかったときはちょっと焦ったし、火の付いた彼女が海に飛び込んだ時は心配した物だが……

 

 

 

……うん、俺達が戦う分が残るかの心配をした方が良いかも知れない。

 




ヴォルケンリッターの妥当な怒りがデレックを襲う!



Spiral schlag(スパイラルシュラーク)

ギガントフォルムとラケーテンフォルムの両方の特徴を持った形態に移行したアイゼンで敵を押しつぶし、穿ち、掻きまわすえげつない技。インパクトの瞬間、大体震度4~5程の揺れが発生する。
その性質上どう足掻いても非殺傷設定には出来ず、人間相手には使わないと言う誓いを立てている。

『守護騎士制御プログラム』の支配下にあった時に使用しなかった理由は、シグナム同様グラーフアイゼンが拒否したため。



シャマルの禁じ手

敵をワイヤーで雁字搦めにして引く技。殺傷を嫌った為に首を始めとする急所にはワイヤーが巻き付けず、その分腕や脚を破壊する事に主眼を置いていた。
結果として使用された相手の四肢は在らぬ方向に捻(略)
気を失った後にしっかり治療もした為、誓って殺しはやっていないが、使用された者は漏れなくトラウマで再起不能となった。
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