転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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悪化する運命

地形を変える程の鉄槌がデレックに振り下ろされた頃、その遥か上空の衛星軌道上にて待機中であるアースラでは『自動防御プログラム』の核の解析が進められていた。

 

「うへぇ……ヴィータの攻撃えげつねぇ……」

「今までずっと手加減されてたんだな、俺ら……」

 

映像を見て無駄口を叩いているだけのように見えても彼等の手はパネルの操作を続けており、その進捗に影響が出ていない事が傍目からも分かる。

 

しかし……

 

「――エイミィ、どういう事? ()()()()()()()()なんて……」

「艦長、それが……」

 

解析は終始順調に進んでいた。

既にデレックの魔力波動から内在する魔力量の凡その数値、体を構築している魔導生物の特徴までも丸裸にされており、この段階まで解析が進んでいるのであれば通常は魔力の流れや密度等の要素から核の在り処を特定できているのが自然だ。

 

だが今回の相手にはそれらの常識が当てはまらなかった。

 

「――対象の魔力の流れ、密度共に不自然な程に一定なんです。

 生物でもプログラムでも、エネルギーの流れには必ずある『始点』が無いと言うか……」

 

例えるならば『血流はある』のに『心臓が無い』ような、『電流がある』のに『電圧が無い』ような、そんな不自然。

あり得ない状況を強引に成り立たせて存在している……それがあのデレックの核が見当たらない原因だった。

 

「どういう事……? そんな状態では普通は直ぐに存在が保てなくなる筈よ……」

「そうなんです。まるで死体が動いて生者のふりをしている様な不気味さで――っ!」

 

そこまで言いかけて、エイミィが弾かれたようにモニターに食らいつく。

 

思い返せば違和感は最初からあった。

ヴォルケンリッターの話によれば、彼は戦闘に関してはずぶの素人と言う事だったが、デレックは戦闘の大半を障壁に頼っていたとは言えシグナムに反撃し、背後のザフィーラに対して放った攻撃の狙いは正確だった。……もっとも、これは躱されていたが。

 

果たして素人がそんな真似が出来るだろうか。いくら障壁と鱗の守りがあっても、それだけで刃の前にその身を晒して戦えるだろうか。

 

――正直、そうは思えない。

 

それがエイミィの抱いた最初の違和感だったのだ。

 

 

 

「――やっぱり! あのデレックは違います!

 あれは生物でも、プログラムでもありません! ――()()()()!」

「魔法ですって……!?」

 

告げられたリンディがエイミィの手元のモニターに顔を近づける。

あの見た目と自分の意思で動くように見える様子からすっかり騙されていたが、その魔力の流れは確かに生物よりは魔力弾等の魔法により近かった。

 

「でも、そうだとしてもやっぱり変よ。ヴィータさんの攻撃で今も彼の体と魔力は掻き回されている……なのにいまだに消える事なく存在できているなんて……」

「……いえ、似たような魔法が一つだけあります。

 神場君の作った銀色の玉です。」

 

エイミィの言葉にリンディは思い出す。あの玉は確かに物理的に破壊しても、溶けたように崩れるだけで消える事は無かった。

魔法によってそう言う物質を作り出す事が不可能ではないと言う証明だ。

 

「だとするとアレはダミー……一体何時から……いえ、考えるまでもないわね。」

「――当然、最初からでしょうね。最初からアイツは自分で戦うつもりなんて無かったんです。」

 

ダミーを出し、身を隠せるタイミングは一つしかない……闇色の膜を破り、咆哮と共に姿を現したあのタイミングだ。

あのグロテスクな見た目と方向で視線を集め、その隙に本体は臨海公園の何処かに身を潜めた……大方そんなところだろう。

 

「直ぐにクロノに伝えましょう。そして一刻も早く本体の捜索を……本体を見つけられなければ、最悪の場合……」

 

そう……もしも本体を見失ってしまった場合、リンディは管理局員として『最悪の決断』を迫られる事になる。

闇の書の脅威は放置できない、しかし何処にいるかもわからない……ならば、どうすれば確実にデレックを排除できるだろうか? 答えは一つしかない。

 

「――なのはちゃんの世界にアルカンシェルを向ける訳には行かないわ!

 何としても見つけ出すのよ!」

 

『一つの世界』と『全次元世界の未来』が今、秤に乗せられた。

 

 

 


 

 

 

「なっ……! アレがダミーだと!?」

『そうだよ! 逃げられたら排除の為に最悪の手段を取る事になるかも……!』

 

最悪の手段……世界一つを巻き添えに、確実に闇の書の脅威を排除するつもりか!

 

「待て! 例えここで奴を見失ったとして、アルカンシェルを向ける程では……!」

『残念ながら……そうはいかないのだ、クロノ。』

「! グレアム提督……!」

 

俺の言葉を遮るようにモニターに映し出されたのは、アースラにて拘束中のグレアム提督だった。

 

『以前話した事があっただろう。

 『闇の書が管理局のシステム全てを掌握してしまう可能性』の話だ。

 今のデレックはいわば、意思を持った防御プログラム。ここで見失い、結界の解除後に転移でもされたらどうなる?

 いずれ奴は転移して()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうなれば、奴の望み通り全次元世界が奴の手に落ちるだろう。

 ……一つの世界の為に見過ごすには、大きすぎる脅威だ。』

「……くっ……!」

 

彼の言葉に反論できない。彼の告げる予想はまさに最悪の未来であり、その可能性の前では俺がこの世界を守りたいと言う思いはエゴにしかならないからだ。

 

『この世界を守りたければ、何が何でも奴を見つける事だ。

 それが私達の計画を阻止して見せた君が、この世界を守る為に果たさなければならない使命だ。』

「分かり……ました……!」

 

通信が途切れて振り返ると、不安げな表情のなのは達が居た。

 

「そんな……このままじゃ地球が……皆が……!」

「なのは……」

「私の所為……やな。私が生きたいって思ったばかりに、こんな……」

「――違うッ!!」

 

はやての言葉に声を張り上げたのが自分だったと気付いたのは、彼女達の視線が自分に集まってからだった。

 

「違うんだ……君の責任じゃない。……原因は僕にある。」

 

そうだ……ジュエルシード事件の時に、多少強引にでも解決に動いていれば……そうすればはやては家族こそ得られなかったとしても、こんな事で悩む必要は無かった。

 

「クロノ君……原因って一体……」

「済まない、それについては今話す事は出来ない……だが、必ず奴を見つけ出す。

 何が何でもこの世界を守る!

 だから、最後に力を貸してくれ……頼む!」

 

我ながら無茶苦茶な事を言っていると思う。だが彼女達にどうして伝えられる? ここが作られた世界だと。君たちの過去も運命も、その指先までも他者にデザインされたものなのだと……

 

もしも俺が彼女達の立場なら、到底受け入れられるものではない。もしも彼女達に理由を説明する時が来ても、これだけは話せない。

きっとその時、俺はまた嘘を重ねる事になるだろう。

だが、例えいくら嘘に塗れても……いくら罪を背負っても、俺がする事は変わらない。

 

今この時地球に迫った危機から、この世界を守る。例えその為に罪を犯す事になっても……!

 

 

 

「……」

「……」

 

この時、何か言いたげに向けられた二人の視線に、俺が気付く事はなかった。

 

 

 


 

 

 

≪どうするアリア? クロスケの奴、完全に『どんな手を使っても』って目をしてるけど。≫

≪どうするもこうするも無いでしょ。弟子が何かやらかす前に、私達で対処するよ。

 ……じゃないと、頑張った意味もなくなっちゃうじゃないか。≫

≪だよねー。

 ……で、実際問題どうするのさ? 捜索範囲、戦闘開始からの時間も考えると結構広いけど?≫

≪決まってるじゃないか。それこそ『何でもやる』んだよ。

 私達はもう十分手を汚して来たからね。きれいな愛弟子の手の為にもういっちょ汚してやろうじゃないか。≫

≪ひゅ~! イッケメェン!≫

≪煩い。≫




「君達はこの世界を外から見る人達の目を楽しませる為にその姿と運命を背負って生まれたんだ」なんて言われて受け止められる人ってかなり鋼の精神持ってると思うのです。
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