すみません。もう少しだけ続きます。
次こそは…きっと次こそは…
アルフが別の部屋を用意されてから数週間程経ったある日…
俺はいつものように魔法の訓練に精を出していた。
フェイトに元々魔法の才能があったのか、俺の魔法の実力はぐんぐんと伸びて行った。
特に飛翔魔法の成長は我が事ながら凄まじい。
リニスは普段から俺の魔法を良く褒めてくれるが、
飛翔魔法はプレシアにも劣らないと太鼓判を押してくれる程だ。
速度は勿論、高速を維持したまま鋭角に急転回なんて事さえ本能的に出来てしまう。
間違いなくこれが神様に貰った特典の効果なのだろう。
リニスが今日の訓練の終了を告げてくれたが、
体で直接風を切り、この身一つで空を舞うと言う感覚は何物にも代えがたい感動がある。
もはや趣味と化した飛翔魔法で空をジグザグに翔る。
こんな無茶な軌道は、飛行機では絶対に出来ない。
こんな体験は、前世では思い描く事さえ叶わない。
神様に感謝の念を抱いたのはこれで何度目だろうか。
俺の心は歓喜と興奮に満ち、速度もそれに応じるかのように上がっていく。
空に立体的な幾何学図形を描くように飛びまわり、
角を作る度に切り替わる光景の中で俺の視界はそれを捉えた。
魔法で空を自由自在に飛び回る俺をみて、
リニスが満足そうな顔をしたかと思ったら部屋へ戻っていくのが見えたのだ。
なんてこと無い光景の筈だった。
それでも…なんとなく、胸騒ぎがした。
これが所謂天啓と言うやつなのかも知れないと思い立ち、
慌ててリニスを追いかける。
「リニス!どこ行くの?」
「おや、フェイト。
見つかってしまいましたか…」
振り返ったリニスは何か困ったような、少し嬉しそうな、寂しい様な…そんな曖昧な笑顔だった。
リニスのこんな表情を見たのは初めてだった。
「実はあなたが一人前の魔導士になった時、
プレシアからあなたに贈るように頼まれたプレゼントがあるんです。」
そして、今から多分そう遠くないであろう未来を
≪アルフ、早く来て!≫
慌てて念話でアルフにこっちに来るように伝える。
アルフは何事か尋ねてきたが、とにかく急いでくるようにとだけ伝える。
もしかしたら…これが最後になるかもしれないのだから。
そう、俺はこの後『どうなるのか』を知っている。
リニスが
それを贈ると言う事は
…そうなればリニスは消えると言う事も。
「それって、もう…私が一人前になったって事…?」
胸が締め付けられるような悲しみを表に出さないように、
意識しながら問いかける。
「はい。もう私が教える事がないほどに。」
「母さんは、喜んでくれるかな…?」
「えぇ、きっと。立派になったと褒めていただけるでしょう。」
答えを聞いて確信した。間違いない。
リニスとプレシアの契約は、ほぼ完了してしまっている。
このままでは後数時間もしないうちにリニスは消えてしまうだろう。
…それがリニスとプレシアの間に結ばれた契約なのだから。
「プレゼント、持ってくるの…?」
「…いえ、少し準備が必要なものなので。
そうですね…30分後くらいに、私の部屋に取りに来てください。」
リニスを助ける手段を俺は持っていない。
ならば、せめて少しでも長くリニスと話していたい。
そんな思いが、まだ考えも纏まっていない俺に口を開かせて…
「あ、あのさ…あっ…」
目から涙が零れた。
慌てて拭っても、涙は次から次へと溢れ出てくる。
こんなところを
そう思っているのに涙が止まってくれる気配がない。
「…そうですか。
もう、バレてしまいましたか。」
リニスが観念した様に話し出す。
プレシアとの契約の殆どが完了した事、プレゼントである
もうすぐリニスが消滅する事まで、包み隠さず全て教えてくれた。
「あなたは最初から頭も良く、呑み込みも早かった…
立ち去る姿が見つかればきっと気付かれてしまう。そう思っていました…」
違う、俺は前世の記憶があるから…呑み込みが早いのだって、きっと転生の特典のおかげだ。
転生の事は話していない。
話している内容が、あの
そう自分に言い訳して、こんな最期まで話せなかった。
そう、ただの言い訳だ。
なんて事はない。
ただこんな異端な自分を認めて貰える自信が無くて怖かっただけだ。
…そうだ、言うチャンスなんて今までだって幾らでもあったんだ。
「リニス!私は…俺は…!」
俺はリニスに話した。
最期まで隠し通して、そのまま見送るなんて真似は出来なかった。
最期まで話せなかった事の後悔も全部。
前世の記憶、プレシアの研究…そして、プレシアの結末も物語で知っていることも。
神様の事以外はきっと、全部話したと思う。
「…フェイト、良く話してくれました。
あなたが何か隠している事は薄々気づいていましたが…
なるほど、道理で成長が早いはずです。」
視界が滲んで良く見えないが、それでもリニスは微笑んでくれている気がした。
リニスは俺の涙をその指で拭って…少し困ったように笑うと、
優しく、子供をあやす様な声色で語りかけてくれた。
「フェイト、ここは物語の世界ではありません。
あなたが生きて、私も生きた…『現実の世界』です。」
「うん…わかってる。」
もう知っている。
…いや、もしかしたらついさっき初めて知ったのかもしれない。
この世界が、『リリカルなのは』が今の俺の現実なのだと言う事を。
今までの俺は、なんやかんや言いつつも浮かれていた。
手にした魔法に酔っていた。
子供の頃から叶えたいと願っていた夢に溺れていた。
「これからプレシアがどうするのか、私には分かりません。
ですが、あなたは『物語』に縛られないでください。
あなたの好きなように、あなたの意思で生きてください。」
「…怒って、ないの…?」
俺は、言ってしまえば偽物だ。
本来ここに居るはずのフェイトを奪い…そこに割り込んだ異端者。
リニスももう理解しているはずなのだ。
「その考えこそが間違いなのですよ。『フェイト』。」
俺の心を見透かしたような眼で、
リニスは『フェイト』の名前を強調するかのように俺を呼ぶ。
「あなたがかつて見た物語にも、あなたとは違うフェイトが居たのでしょう。
だからこそ、あなたは間違えてしまう。」
「あなたはまだ、この世界を『物語』として見ている。
良いですか?
この世界に生きる者の中に『偽物』なんて居ないんです。」
言われて気付く。
自分が偽物と言う自意識が、本物のフェイトならと言う思考が、
俺から現実感を奪っていたのだと。
「あなたがこうしてフェイトとして
それが、物語ではないこの世界の『本当の現実』なのです。
いつかあなたがあなたとして生きて行けるように、
私の言葉を忘れないでください。」
最期の最期まで隠していたと言うのに、
リニスはそれでも笑顔で俺に最期の授業をしてくれた。
何とかしたい。でも、俺は既にアルフと契約している。
リニスほどの使い魔をさらに契約すれば魔力が持たない。
どうしようもない事だと分かっているが、それでも悲しい。
原作キャラだからじゃない。
今までの暮らしの中でリニスが居るのが普通になっていた。
もうリニスは俺にとっても本当の家族だった。
「フェイト、急にどうしたんだい!?
あの変な銀髪オッドアイに何かされたのかい!?」
慌てた様子でアルフもやってきた。
さっきの会話は、どうにか聞かれずに済んだようだ。
≪リニス、俺が転生者って事はアルフにはまだ伝えないでくれ。
いつか俺の口から話すから…≫
≪フェイト…そうですね。
あなたの意思に任せます。≫
リニスに黙って貰うようにお願いし、アルフに事情を伝える。
アルフは一通り動揺した後、リニスに詰め寄る。
「そんな…っ!どうにかならないのかい?
あのババアをなんとか騙くらかしてさ…!」
「アルフ、使い魔契約とは本来そう言うものです。
あなたも同じ使い魔なら解っているはずでしょう?」
「ぅぐ…っ!」
そう、本来使い魔は契約内容を完了させるまでの存在。
アルフの様にずっと使い魔でいる事の方が珍しいのだ。
ましてや、リニスは一度死んで使い魔になった。
リニスにとって『今』は偶然手に入れたおまけの様な人生で、
いつでも役目を終える覚悟があったのだろう。
「…そうですね、もうバレてしまったのです。
折角ですし一緒に取りに行きましょうか。
フェイト、あなたのデバイス…『バルディッシュ』を。」
「うん…」
せめて最期まで一緒に居たいと思っていた俺にとっては、願ってもない申し出だ。
最期なんだからと、せめて手を繋いだ。
「おや?…ふふっ。」
リニスがおかしそうに笑う。
わかってる。子供の様な事をしている自覚はある。
だがこんな状況でさえ恥ずかしがって、甘える事も出来ないよりマシだと思った。
「あらあら、アルフもですか?」
リニスを挟んで反対側、アルフも同じように手を繋いでいるようだ。
しばらく三人で親子の様に並んで歩いた。
アリシアの記憶では、この手の先にはプレシアが居た。
リニスにとって、俺の姿は…プレシアにとってのアリシアになれているだろうか。
リニスの部屋…そう言えばまじまじと見た事は無かったな。
今更になって俺はリニス自身の事をあまり多く知っていないんだと気づいた。
「彼があなたのデバイス…バルディッシュです。」
≪と、言っても既に『物語』で知っていましたか?…ふふっ。≫
「うん、ありがとう。リニス。」
≪リニス、からかわないでよ。≫
「ふふっ…」
≪すみません。ちょっとした
バルディッシュが漂う巨大なカプセルに触れる。
アニメで何度も見た…いや、初めて見る
「よろしくね。…バルディッシュ。」
≪Yes,sir.≫
リニスに取り出してもらい、セットアップして見せる。
「…最期なので話しますが、実は私、これでも結構プレシアに嫉妬していたのですよ。
フェイトが私の本当の娘だったら、もっと一緒に…普通の親子として過ごせたのにって。
でも、二人とも最期まで一緒に居てくれて…
フェイトの晴れ姿もこうして最初に見る事が出来た。
…現金なものですね、私も。
あまりの望外の幸福に…満足してしまいました。」
折角収まった涙がまた流れ出てきてしまう。
最期くらい笑顔で見送りたい…そう心に決めたのに。
どこかからすすり泣くような声も聞こえる。
アルフも俺と同じらしい。
「ありがとう、フェイト、アルフ…
あなた達に出会えて、あなた達とこうして最期まで過ごせて…
わたしは本当に幸せ者ですね。」
笑顔のリニスが光の粒子になって消えていく…
俺は思わず駆けだそうとして…
「お゙ぉっと!
妙に演技臭いセリフと涙声と共に、変なポーズで乱入してきた
…いや、すすり泣く声お前かよ!?
似非執事さん、漸くの出番。
フェイト(転生者)はこの世界を現実として初めて認識しました。
よって、フェイトの行動はなのはの行動と大きく変わっていきます。