「はやて、大丈夫だったのか!?」
「はやてちゃん、怪我は!?」
「ヴィータ、シャマル……うん、大丈夫や。二人共、心配かけてゴメンな。」
まさに九死に一生と言った感じで生還したはやてに、ヴィータとシャマルが声をかける。
しかし、本当に何も問題が無いのだろう。至って平気そうに微笑むはやてに心底安堵した様子の二人とは裏腹に、俺の中では疑問符の嵐だ。
「ヴィータ、気を引き締めろ。奴が動くぞ。」
「シャマルもだ。いざと言う時、治療が遅れる事は許されんぞ。」
シグナムとザフィーラが二人にそう呼びかける。先程は二人も取り乱している様子だったが、もう意識を切り替えたのだろうか。
「いや、シグナムとザフィーラもさっき思念通話で……」
「「ヴィータ!!」」
……はい、よく見たらちょっと顔赤いですね。ご馳走様です。
≪はやてちゃん……無事で良かったけど、もうあまり無茶しちゃダメだよ。≫
≪なのはちゃんも心配かけてゴメンな。
うん、次からは気を付ける。もう絶対、さっきみたいな事は……≫
≪はやてちゃん……?≫
≪……いや、何でもあらへんよ。それより、動きがあったみたいや。≫
なにやらはぐらかされた気がするが、視線を向けてみると皆デレックの方を向いて杖を構えている様子だったので、俺もそれに倣う。
そして俺達が警戒する中、石像と化した体に走った罅の内側から溢れ出した黒い液状の何かがデレックの肉体を再構築すると、納得いかないと言う表情を隠す事もなくその口が開かれた。
「貴様、何をした……? あの状況で回避する方法なんて無かった筈だ。」
「……別に、何てことあらへん。ただ、
デレックの問いにそう返したはやての眉間には『何てことない』と言う言葉とは裏腹にうっすらと皺が寄っており、普段は穏やかな彼女がそこまでの強い感情を表に出すような何かがあった事は傍目から見ても明白だった。
「はやて……まさか……!」
「うん……シグナム達にも、後で絶対に話すから……
せやから、今はこいつをさっさと倒すで!」
何かを察した様子のシグナムに、そう一言だけ告げたはやてが手に持つ杖を天に掲げる。
すると、『さっさと倒す』と言う彼女の意思を表したかのような無数の光弾が、彼女の背後に群れを成して現れた。
「小娘の分際で生意気な口を……お前達の攻撃が僕に通用しない事を忘れたのかぁ?」
一つ一つに相当量の魔力が込められた光弾群を前にしても慌てる様子はなく、それどころか嘲るような表情でそう言い放つデレック……どうやら奴は
何故、はやてが先程デレックに打ち込む魔法に
「まだ気付いてへんみたいやな、自分の変化に……アンタは、もう終わりや。」
何処か冷たさを感じさせる声ではやてがそう告げ、杖を振り下ろすと、待機していた光弾がまるで流星群のようにデレックに降り注ぐ。
「バカが! この程度の魔力弾なんか、わざわざ防ぐ必要も……なッ!?」
余裕ぶっていたデレックの表情が驚愕に染まる。
反撃に何らかの魔法を撃ち込もうとしたのだろうか、はやての方に掲げた自らの腕の様子に今更になって気付いたらしい。
その腕は、もう絶対の守りを備えていない。
全身を覆っていた漆黒の鱗は見る影もなく、ただただ無機質な質感の灰色があるだけだった。
「なんだ、これは!? 僕の鱗はどこに行った!?」
デレックの視線が手から腕に、そして肩を伝い、胸部、腹部、足先へと移って行くが、奴が頼りにしている物はただの一片も存在していなかった。
「く、クソ! 一度鱗を剝がしたくらいで良い気に……ぐぁっ!!」
そして、光弾は決して奴の動揺が収まる事を待ちはしない。
迫る脅威から目を逸らした代償は大きく、奴はそのまま光弾の雨に呑まれた。
その寸前、俺に辛うじて見えたのは……奴が咄嗟に盾代わりにした腕が、脆く砕ける様子だった。
「グゥッ……バカな、何故鱗が出ない!? ウグァッ……!
小娘ェ……! 貴様、何をしやがったァ!?」
例え無敵性が失われても、デレックの不死性は健在らしい。
光弾に体を抉られながらも再生を繰り返し、はやてを睨みながらデレックはその口を開く。
「……ミストルティンは対象の
情報そのものを書き換えられた鱗をいくら再構成しようと、それはもうただの石ころ同然。
アンタにはもう勝ち目なんてあらへん……ええ加減、観念せえ!」
はやての言葉で再びデレックを観察してみると、確かにデレックの体そのものが灰色と言うより、デレックの体を覆っている鱗が灰色になっていると言う方が正しいようだ。
身体が抉られた際にちらりと見える内側は以前と変わらず真っ黒で、スライムのように蠢いては体を再構築している。
「生意気抜かすなよ小娘! 僕にはまだ、
そう言ってデレックが魔力を解き放つと、それはデレックの体を覆う無数の障壁と化した。
「は……ハハッ! そうだ! やっぱりこの障壁は貫けないじゃないか!
何が『勝ち目が無い』だ! 何が『観念しろ』だ!
例え鱗が無くなろうと何も変わらない! 僕は依然不死不滅だ!
先ずはこのまま魔力弾の中を突っ切って、生意気な口をきいたお前から殺してやる!」
「くっ……!」
言うが早いか、デレックは障壁を纏ったまま躊躇いなく光弾の雨に飛び込んでいく。
はやても魔力弾の密度を上げて抵抗するが、デレックのまったく衰えない速度を前に攻撃を断念。退避に転じた。
「逃がすか!」
光弾と障壁の衝突で生じた煙を突き破り、距離を取るべく動いたはやてを見つけたデレックは、右腕を弓を引くように引き絞った。
「はやてちゃん!」
≪Protection Powered!≫
その様子に嫌な予感がした俺は、はやてとデレックの間に素早く割り込み、障壁を張る。
次の瞬間、強い衝撃と共に聞こえた『ピシリ』と言う異音。
その正体を確かめようと異音の方角を見れば、俺の張ったプロテクション・パワードに罅が入っていた。
そして障壁の先に見えたのは、
いや、今ならばその正体が分かる。鋭い刃は金属製の爪……そして触手のように伸びているのは、奴の腕だ。
即ち今の攻撃は、プロテクション・パワードに罅を入れた一撃の正体は……体を変質させ、魔力で強引に威力と速度を底上げした
≪い、いくら魔力で底上げしてるって言っても、『貫き手』がここまでの威力になるの!?≫
≪なっちまってるもんは仕方ないって言うしかないだろ!
アレは絶対に障壁無しで受けるなよ! ユーノにどやされる事も出来なくなるぞ!≫
≪解ってるよ!≫
レイジングハートに確認を取ってみるも、信じがたい事実に変わりはなく、注意する以上の対策は取れそうもない。
……貫き手だと言うのならいっその事、突き指でもしてくれないだろうか。
「クソが……ッ! 無駄に硬い障壁張りやがって……仕留めそこなったじゃないか!」
奴の貫き手は俺の障壁に罅を入れたが、俺の障壁はそれでも奴の腕を大きく弾いた。
その所為で奴の体勢は後方に若干崩れている……今なら!
「レイジングハート!」
≪Divine Buster!≫
撃つのは普通のディバインバスター。
この距離なら
目論見は正しく、俺の放った砲撃は奴が体勢を立て直すよりも早く着弾した。
バリア貫通性能の高いディバインバスターなら、奴の障壁にも有効と踏んでのカウンターだったが……
「ふん……多少威力はあるようだが、全然足りないなァ!」
「ディバインバスターでも……!」
確かに直撃したディバインバスターだったが、俺が確認できた限り、奴の8枚の障壁の内の3枚を撃ち抜いた段階で止まってしまっていた。
そしてその破った3枚も既に再生が完了している……これは、やっぱり一人では限界があるか……?
そう思いデレックの方を見ると、その背後から憤怒の形相で斬りかかる影が見えた。
「『紫電一閃』ッ!!」
「ちっ、シグナムか……!」
鬼神を思わせる迫力で斬りかかった影の正体はシグナムだった。
以前に見た時よりも遥かに激しく燃え盛るレヴァンティンの様子から、相当量の威力を込めた一閃だった事がわかる。
切り裂いた障壁も驚きの6枚……だが、それよりもその表情に見える憤怒が気になる。
アレは奴がはやてを殺そうとした事だけではない、それ以上の何かに怒っていると何となく感じた。
「貴様……ッ! 貴様はどこまで私を侮辱するつもりだ!
さっきの攻撃は……! あの術式は……ッ!!」
「ふん……貴様等は所詮、闇の書の一部に過ぎん。
闇の書の主である僕が、
「殺す……! やはり貴様は! 私が直接! もう一度殺す!!」
シグナムの怒りようと、会話の内容から大体の想像は付くがまさか……
「今の攻撃……シグナムの『雲霞滅却』の最後の突きに似てるって思ったけど……
術式の一部をコピーされてたんだね……」
「フェイトちゃん!」
いつの間にかそばに来ていたフェイトが、俺の予想を補完するように教えてくれた。
俺達の中で唯一『雲霞滅却』を使われたフェイトが言うのなら、恐らくは彼女のいう事に間違いないのだろう。
「……主を守る為に鍛えた技を一部とは言え、よりにもよって主に向けられた。
騎士として、絶対に許せないんだと思う。」
「そうだったんだ……」
そうこうしている間にも、シグナムはその凄まじい剣技でデレックの障壁を斬り裂き続ける。
しかし偽物が張っていた障壁よりも再生が速いのか、後僅かに届かない。
俺も魔力弾や砲撃で支援をしたいのだが、肝心のシグナムは怒りのあまり周囲の状況が見えていないらしい。
剣の冴えは傍から見てもゾッとする程に鋭いのに、立ち回りが滅茶苦茶で……あれでは下手に撃てばシグナムに当たってしまう。
俺以外の皆も同様で、今はシグナムが冷静さを取り戻すのを待っているようだ。
「後1、2枚なんだよね。シグナムが斬り裂けていないのって。」
「フェイトちゃん……?」
「……私が、その最後の障壁を斬る。そしてシグナムを一時的に引き離す。」
「そんな、無茶だよ!」
フェイトの言葉の意味するところは、嵐の中に自ら飛び込むような物だ。守りの硬い俺でも飛び込むのを躊躇する嵐の中に、守りの薄いフェイトが飛び込めば無事で済む保証はない。
「大丈夫だよ。高速戦闘なら慣れてるし、それに私の目にはちゃんと動きが見えてる。」
「で、でも……」
「はやてとなのははその隙に障壁が再生するよりも早く、アイツにバインドを。
後はアイツがバインドから抜け出す前に、
皆の全力……となると、やっぱり
今の俺が全力でアレやると、何か酷い事になりそうだけど……それしかないなら仕方ない。
≪レイジングハート、スターライトブレイカーの集束容量を出来るだけ拡張して。≫
≪ちょ……急にそんな事言われても、そんなに簡単じゃないんだけど!?≫
≪お願い、ポンコツデバイス。≫
≪任せとけよ。≫
良し。
後は、今の内にクロノ達にも念話で知らせておこう。
……提案したのは俺じゃないけど、それでも怒られそうだなぁ……
「フェイトちゃん、危なくなったら直ぐに退避してね。
特に、あの貫き手は威力も速度も桁違いだから……」
「大丈夫。『雲霞滅却』より大分遅いし、多分もう見切ったから。」
「えっ」
それだけ言い残して、フェイトは迷わずシグナムとデレックの戦闘の中に身を投じた。
ミストルティンってそう言う魔法なの? と言う疑問が湧くと思いますが、これはA's本編での使用シーンの描写から勝手に解釈した物なので原作でもそう言う効果なのかは分かりません。
一応根拠としては、『石化後に再生した闇の書の闇の部位が、石化前の物よりも無機質(金属的?)な物になっていた』と言うところからの拡大解釈です。
生体細胞を変質→再生後の状態にも影響を与えている?→闇の書の闇が体を構築する際に使用している情報そのものが書き換えられた?
と言う感じです。
-10/05 追記-
フォント変更用の特殊タグが機能していない箇所を修正しました。
それと、フォントが対応していない文字に関してはこれから何かしらの対応をします。
-追記の追記-
フォントが対応していない文字があった為、フォントを変更しました。