転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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フェイトさん視点です


フルドライブ

<――フェイト!>

<うん、アシストお願い!>

 

姉さんの言葉で気を引き締める。

なのはに半ば一方的に作戦を告げた直後、私達は既にシグナム達の交戦区域に入っていた。

 

まだクロスレンジに入ってはいないけど、シグナムが結界を斬る音が良く聞こえ、デレックの攻撃の流れ弾がこちらに幾つも飛んでくる。

 

「はぁっ!」

 

その尽くを躱して、私はシグナムが斬った直後の結界にバルディッシュの光刃を突き立てるが……

 

「っ! ……思ったよりも固い。」

 

やはり速度重視の攻撃では結界はビクともしない。

昔のなのはのプロテクション程ではないけど、それでも魔法のアシスト無しに割れるとは思えない強度を感じた。

 

「おい小娘、それで攻撃のつもりかぁ?」

 

デレックが腕を振りかぶる。

この魔力の動きは例の貫き手じゃない……魔力任せに振るわれる砲撃だ。

そう判断して飛翔魔法を操作して回避すると、私の予想通りの砲撃が何もない空間を抉った。

 

やはり、デレックは戦闘慣れしている訳ではない……これなら十分近接でやり合えると確信した。

 

「チッ、無駄に速度だけはありやがる……」

「何をしに来た、テスタロッサ!」

 

シグナムから拒絶の感情が込められた言葉が向けられる。その様子からは普段の冷静さは欠片も感じられなかった。

 

「……貴女の援護に来た。」

 

こういう状態の相手に『止めに来た』『連れ戻しに来た』と言ったところで解決はしない。

激しい感情に呑まれているせいで『目的を達する(デレックを斬る)』事しか考えられなくなっているからだ。

 

「援護は不要だ! この下衆は私が斬る!

 結界の後1、2枚くらい、もっと深く踏み込めば……!」

「落ち着いて! 深く踏み込めばそれが隙になる!

 デレックの狙いはそこかも知れない!」

 

シグナムとの会話で、やっぱりここに来て正解だったと確信する。

 

今のシグナムは私が思っていた以上に視野が狭くなっている。

この状態を放置すれば危険だ……!

 

≪私が先ずデレックの結界を数枚斬って見せる!

 だからシグナムはその直後に止めを!≫

≪……良いだろう。≫

 

出来るだけシグナムの要望に沿う提案を心がける。

これから私が使用する魔法は少しだけプロセスが多く、シグナムのアシストが欲しいからだ。

 

≪バルディッシュ!≫

≪sir.≫

<姉さん!>

<オッケー!>

 

念話で二人に合図を送り、息を整える。

そして、私と姉さんが同時に同じ言葉を口にした。

 

「<ザンバーフォーム、起動!>」

≪Zanber form.≫

 

カートリッジを2つ使用し、バルディッシュの形が変わっていく。

以前、エイミィさんから使用を控えるように釘を刺されたバルディッシュのフルドライブモードへと……

 

「待ってやるとでも思ったのか、小娘!」

 

変形の隙を突いてデレックが先程の砲撃を放つが……

 

「チッ、早くしろテスタロッサ!」

「くっ、またも邪魔を……!」

 

それは割り込んだシグナムの一閃で真っ二つに切り裂かれ、私に届く事は無い。

 

その間にもバルディッシュは金属でありながら流体のように姿を変え、刀身を持たない大剣のような形を取った。

 

そして、私()の魔力がその刃を形成する。

 

先ず現れたのは青い水晶のような刃……アリシアの魔力が形成する、物理的な干渉が可能な刃だ。

そしてその周囲を覆うように雷が奔ると、水晶の刃の外側にもう一つの刃……私の魔力が形成する、雷の性質変換の刃が生成された。

 

All processes are completed.(全工程が完了。) I confirmed the stability.(安定を確認しました。)

「ありがとう、バルディッシュ。」

 

確認作業の報告をしてくれたバルディッシュにお礼を言う。

私と姉さんの魔力を全く同じ量、且つ同時に流す事で移行可能なこの形態は、繊細な魔力コントロールが求められる上にバルディッシュに多大な負荷がかかる。

それに耐えてくれている事も含めた感謝だ。

 

「姉さん……行くよ!」

<うん!>

「させるか!」

 

反撃に放たれた特大サイズの魔力弾を事も無げに躱し、一瞬でデレックの背後に回り込む。

 

先程何のダメージも与えられなかった一撃は、私の魔力のみで展開された刃だった。

だけどフルドライブ状態に移行したバルディッシュの、それも私達二人の魔力が込められた『魔力と物理の同時(紫電一閃と同じ)攻撃』なら……!

 

「ハァッ!」

「クッ!? この威力、さっきとは……」

 

振り抜いた斬撃は予想通り、デレックの張った結界を2枚程切り裂いて制止した。

なのはの砲撃と比べて1枚少ないが、これは想定の範囲内。何故ならこれは『ザンバーフォーム』で切りつけただけ……魔法を使っていない一振りの成果なのだから。

 

それに、2()()()()()()()()()なのだ。

何故なら……

 

「『紫電』……」

 

残り6枚を確実に切り裂ける者がここに居るのだから。

 

「しまっ……!」

「『一閃』!」

 

デレックの顔に焦りの表情が浮かぶ。

そして距離を取ろうとするデレックに、それ以上の速度で接近したシグナムの一撃が全ての結界を切り裂いた。

 

……しかし、

 

「くっ、結界の再生が早い……!」

「はぁっ……! はぁっ……!」

 

シグナムの言うように、結界の再生が早すぎる。

折角すべての結界を破ったとしても、今のように逃げられれば再生までの時間が容易に稼がれてしまうのだ。

 

と、なると……方法は一つだ。

しかし、今のシグナムが同意してくれるだろうか。

 

≪シグナム……デレックの結界を破壊し、動きを止める方法が一つだけある。≫

≪……聞こう。≫

≪シグナムが結界を6枚以上割って、私がそこに攻撃を合わせる。

 後は武器のリーチと、私の魔力の性質で多分デレックを感電させられる……どう?≫

 

先程の作戦とは違い、この方法ではデレックを斬るのはシグナムではなく私になる。

デレックを斬る事に執着しているシグナムにとっては、少々都合の悪い作戦だ。

 

≪分かった、その案に乗るとしよう。≫

≪えっ?≫

 

だが、意外な事に返って来たのは了承の言葉。

思わずシグナムの顔を窺うと、少々居心地の悪そうな表情でシグナムは言葉を続けた。

 

≪……あの状況で追撃が通らないとなれば、流石に考えを改めざるを得ない。

 私一人では、奴を斬る事は……出来んようだ。≫

 

どうやらさっきのやり取りで幾分か冷静さを取り戻せたらしい。

先程までの自分の行動を省みているようだ。

……この分だと、こちらの本当の狙いを話しても大丈夫だと判断した。

 

≪実はシグナム、この後は……≫

 

先程なのはに話したのと同じ内容を伝える。

私達で結界を破り、一瞬の隙を突いて行動を封じ、バインドで縛り付ける作戦だ。

 

≪了解した。……済まない、手間を掛けさせたな。≫

≪気にしないで。シグナムの攻撃の威力を見て思いついた作戦だから。≫

≪だが……いや、感謝する。≫

 

その言葉を最後に念話が切られた。

シグナムを見ると、準備は出来たと言わんばかりの表情でこちらを見つめ返してくれた。

互いに頷き、デレックを見ると、その表情には怒りと焦り……そして僅かな恐怖が見て取れた。

結界が破られた事実を受けて、どうやらもう奴にも精神的な余裕は無くなったようだ。

 

「い、いい気になりやがって! こうなったら……!」

 

そう言ってデレックが腕を掲げると、その先の上空に直径数十mはあろうかと言う巨大な魔力弾が生み出される。

膨大な魔力量に任せただけの、構成すらも無茶苦茶な魔力弾だが、それでもあの大きさとなれば脅威だ。

……普通ならば。

 

「こいつで貴様ら全員、この街ごと消し飛ばして……!」

「無駄だ……ザフィーラ!」

「承った。」

 

しかし折角生み出された魔力弾も、その魔力自体を霧散させられれば意味は無い。

ザフィーラが放った光にかき消された魔力弾の残滓を見て、今度こそデレックの表情に絶望の色が浮かんだ。

 

「く……クソッ! クソッ! クソがッ!!

 お前達はいつもいつも僕の邪魔ばかり……ッ!」

 

やがて癇癪を起こした子供のように喚きながら、今度は数えるのも馬鹿らしくなる程の大量の魔力弾をばら撒くように乱射し始める。

だがその程度の攻撃が通用する相手など、シグナムに限らずともここにはいない。

 

「『いつもいつも邪魔ばかり』か……当然だろう。

 貴様の行動はいつだって、碌でもない理念の元に在ったのだから。」

 

そう、邪魔されるのには必ず理由がある。

そして……それが分からないから何度も何度も同じ相手(シグナム)に邪魔されるのだ。

 

「『紫電一閃』!」

「グゥッ……!」

 

シグナムの紫電一閃が結界の大半を一太刀の元に砕く。

 

「行け、テスタロッサ!」

「うん!」

 

シグナムの合図で飛び出す。

対してデレックは、この土壇場で最適解に限りなく近い行動を取った。

 

「ああぁッ! く、来るな! 来るなァッ!!」

 

腕を弓のように引き絞り、魔力が込められる……奴の最速の攻撃である、貫き手の予備動作だ。

 

だけど……!

 

「ほぅ……」

 

シグナムの感心するような声がかすかに聞こえた。

 

「ば……ばかな、シグナムの技だぞ! 躱せるわけが……」

 

皮肉な事に……デレックが最も信頼を置いていた力は、自分を最も邪魔してきたシグナムの技だったらしい。

しかし、こんなものではないのだ。本当のシグナムの一撃は。

 

「姉さん、バルディッシュ!」

<うん!>

≪sir.≫

 

バルディッシュの大剣が激しく放電を始める。

その輝きの所為か、それとも恐怖の為か、デレックの目が固く閉じられた。

 

「<スプライト・ザンバー!>」

≪Sprite Zamber.≫

 

そして振り下ろされたバルディッシュの水晶の刃が弾け、無数に別れた斬撃と雷がデレックの結界を消し飛ばし……

 

「シグナム、ここを離れよう。」

「あぁ……漸く、終わるのだな。」

 

残されたのは数十もの水晶と雷の槍で磔にされたデレックだった。

 




なんで暴走中のシグナムさん雲霞滅却使わなかったの? と言う疑問を抱く方も居るかも知れないので補足します。(本編に書くと長くなるうえに説明臭くなってしまう為、書けませんでした)

先ず雲霞滅却の発動プロセスは

1.溜め:レヴァンティンを鞘に納めて魔力の圧縮を行う。
2.解放:『1』の段階で圧縮した魔力を用いて、シュランゲフォルムに移行。炎を纏った連結刃で周囲を飲み込む。(範囲は使用した魔力量依存)
3.締め:『2』の段階で作り出した渦の中に留めた魔力の噴出と、『特殊な術式』を用いて音速を超えた突きを放つ。(射程は使用した魔力量依存)

となっており、『1』の段階が僅かな隙となっています。
隙と言ってもほんの1、2秒ほどで、距離があれば攻撃を届かせるよりも先に『2』の段階に移行する為問題無いのですが、
デレックの場合シグナムからパクった術式(『3』の段階の『特殊な術式』)を使った貫き手が間に合ってしまうので、隙を晒す訳にも行かず使えなかったと言う訳です。


-10/05 追記-
フォント変更用の特殊タグが機能していない箇所を修正しました。
それと、フォントが対応していない文字に関してはこれから何かしらの対応をします。

-追記の追記-
フォントが対応していない文字があった為、フォントを変更しました。
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