闇の書事件の解決から一週間が経った。
世間はすっかりクリスマスムード一色で、皆闇の書事件のあれやこれやを早く忘れようと言わんばかりだ。
……あの後当然のように民間人の方でもう一騒動起きたりしたのだが、今に限ってはそれを忘れて楽しむとしよう。何せ今日は……
「「「「「メリークリスマス!」」」」」
俺達にとっても楽しい楽しいクリスマス会の日なのだから。
クリスマス会と言っても、すずかの家で行うクリスマス会は一味違う。
大きなクリスマスツリーが会場の中央に配置され、食事は小規模とは言えビュッフェ形式。
参加者は俺達とその身内だけだというのに、一見すればちょっとした立食パーティーのような雰囲気さえ感じられる。
そんな会場の中で俺達……
その様子を少し離れたところで何処か遠慮がちに見守っていたシグナムが、恐る恐ると言った様子で尋ねた。
「本当によろしかったのでしょうか、我々もお呼ばれしてしまって……」
「はい、勿論! はやてちゃんのご家族ですから!」
そう言ってすずかが手に持ったグラスをシグナムの方に向けると、シグナムもその手に持ったグラスを重ね……
「む……では、ありがたく。…………メリークリスマス。」
「はい! メリークリスマス!」
……やはりまだ完全には打ち解けていないという事なのか、それとも照れくさいのか、シグナムが複雑そうな表情を浮かべている。
その後、ヴィータと目配せをすると幾分か表情が柔らかくなったようだが……何か念話でもしていたのだろうか。
「なのは、また難しい顔してるわよ。」
「あ、アリサちゃん。……私今そんな顔してた?」
「してた。……事件も解決したんでしょ? 楽しむべき時には楽しみなさいよ。
……ほら、アリシアみたいに。」
そう言ってアリサが見た方に目を向けると……
「アルフ、リニス! アレ見て、アレ! 七面鳥! 初めて見た!」
「ちょっ……! 落ち着きなよ、誰も取ったりしないから!」
「!? あれ、ローストビーフじゃない!? ローストビーフよね!?」
「あ、アリシア! 走ると危ないですよ!」
「生 ハ ム メ ロ ン!! 美味しそう!!」
「フェイトー! 今だけで良いから表に出ておくれー!!」
……シグナムやリニス達もお誘いする上で本格的なビュッフェ形式にしたのが災いしたのだろう。
いつの間に交代したのやら食欲に任せて暴走するアリシアと、料理を取りながらも追いかけるアルフの姿が見えた。
アルフの訴えに反して、フェイトは多分楽しそうなアリシアを止める事は無いだろう。最近になって気付いたのだが、ああ見えて結構な姉馬鹿なのだ。
止められるものが静観を決め込んだ今、アリシアを止められる者はいない。
この場に部外者がいないのを良い事に会場中を駆け回る彼女の表情は、非常に輝いていた。
……いやぁ、流石にあんな大はしゃぎは転生者的に難しいかなって。
アレは精神が本当の子供の内にしか出来ない全力の大はしゃぎだ。俺には出来ない。
でもそんなアリシアの姿を見ていると、確かに既に解決した事件に引きずられているのがバカらしくなるのも事実。
シグナムの様子については、まぁ今は良いとしよう。考えてみれば、彼女達も今更何か行動を起こす筈もないのだし。
「はやてちゃん、なにか食べたいものはありますか?」
「シャマル? そない気にせんでもええよ。シャマルも食べたいもんとかあるやろ?」
「でも、このままだとアリシアちゃんが全部食べちゃうような気がして……」
「さ、流石にそこまで食べへんとは思うけど……取りあえずローストビーフは確保しておいてくれるか?」
「はい!」
シャマルの方はこうして平常運転だしな。
そう思いながらはやてを見ていると、首元に煌めく剣十字が目についた。
「はやてちゃん、そのペンダントって……」
「あ、なのはちゃん! うん、リインフォースが眠る剣十字や。
リインフォースには今度会った時に思い出を話すって言うたけど、
やっぱりその思い出の中にはこの剣十字も一緒が良えからな。」
そう言ってはやては剣十字のペンダントを優しく撫でる。
心なしか、彼女に応えるように剣十字が輝いたように見えた。
「うん……リインフォースさんも、きっと喜んでくれてると思う。」
「ありがとな、なのはちゃん。けど、そんな言い方したらあかんよ?
「えっ?」
「えっ?」
「――えぇっ!? リインフォースさんって、本当にその中に眠ってるの!?」
「えっ? うん、そう言ってたやんか。」
微妙に話がかみ合っていない気がしたのでもしかしてと思い、なのはちゃんに事情を伝えると凄い驚かれた。
たまたま近くに来ていたアリシアちゃんも驚いた様子だったので、多分フェイトちゃんの方も知らなかったのだろう。
「何で教えてくれなかったの!?」
「ご、ゴメンな……てっきり私が寝てる間にリインが皆にも話してると思って……」
本当に隠そうとしていた訳じゃないんだけど、やっぱり不味かったりするのだろうか……
「だ、だって……あんなにお別れの空気出して……!
さよならみたいな雰囲気で……!」
「あー……アイツ昔から心配性な奴でさ。身内の事となると特にそれが顕著になるって言うか……」
「えぇっ!?」
ヴィータの入れた補足に大きなリアクションで驚き続けるなのはちゃんを余所に、アリシアちゃんが私の肩越しに剣十字を覗き込んできた。
「これがさっき言ってた神尾って人の魔法?」
「うん。『Spirit Evacuation』って言って、
「ず、随分ピンポイントな魔法なんだね……」
うん、私もそう思う。
だけど私がリインフォースにこの魔法を使うようにお願いした時は、このピンポイントさが却って役に立った。
何故なら彼女は『蒐集で数多の不幸を生み出した私が、蒐集で得た魔法で助かって良いのか』と悩んでいたからだ。
そんな彼女の説得の決め手になったのがこの魔法のピンポイントさだった。
『多分神尾君は元々リインフォースを助ける為にこの魔法を会得したんや。そうでないとこんなピンポイントな魔法、ある訳ないやろ?』私がそう話してようやく彼女は『蒐集で得たこの魔法』を使う事に納得してくれたのだ。
ところで……
「あれ、そう言えばアリシアちゃんもうご飯はええんか?」
見たところもう何か食べている様子はないけど……
「あはは、流石にもうお腹いっぱいかな。
それにあまり食べ過ぎるとフェイトにも悪いしね。」
「えっ、もうそんなに食べてもうたんか?」
私の記憶が正しければ、最初にすずかちゃんが言ってた分だと……
「確かこの後、特製のクリスマスケーキが出て来るって……」
「ちょっと全力で体動かして来る!!」
「ちょ……! アリシアちゃん!?」
い、行ってしまった……凄いスピードで……
その後、落ち着きを取り戻したなのはちゃんと談笑していると、なのはちゃんの向こう側からアルフさんが駆け寄って来た。
「おーい、なのは……おっと、確かはやてって言ったっけ?」
「あ、アルフさん。その節はご迷惑をおかけしまして……」
「あっはっは、良いんだよ! あたし達も半年前は似たようなもんさ。」
そう言ってからからと朗らかに笑うアルフさん。
姉御肌って言うのだろうか、話していて気持ちの良い人といった印象を受けた。
「ところでさ、アリシア見なかったかい? 探してんだけど……」
「さっき体動かして来るって外に……」
「アリシアアアァァァ!!」
い、行ってしまった……凄いスピードで……
どうやら竹を割ったような性格の彼女も、アリシアちゃんを前にすると苦労人ポジになってしまうらしい。
「アルフさん、大変そうだね……」
「せやなぁ……うん? あの人って……」
「え?」
なのはちゃんが振り向いた方向には、誰かを探すような素振りをしながらこちらに近付いて来るリニスさんが見えた。
そして、私達に気付くと……
「なのはさん、はやてさん、少しお尋ねしたいのですが……」
そう言ってこちらに向かって歩いて来るリニスさんの様子に、思わずなのはちゃんと目が合い、笑い合う。
私達の予想通り、凄いスピードで駆けだしたリニスさんを見て、平和が戻って来たんだなと実感した。
次回にアニメでもあった「6年後」の描写を入れてA's編のエピローグとさせていただきます。
(空白期の短編は時間を巻き戻したりして補完します)
以下神尾の魔法が具体的過ぎる理由。
神尾は元々リインフォースを救うための特典を貰うつもりだった。
しかし、『物体を過去の状態にする魔法(能力)』は規制に引っかかって不可能とされた。能力の対象を『闇の書(夜天の魔導書)』に絞っても不可能。
『壊れたものを治す魔法』も考えたが、原作で夜天の魔導書の在り方が歪められた結果、『自動防御プログラムが存在するのが正しい状態になっている』事を思い出して断念。
『能力の“対象者”の意思だけを別の物体に宿す“能力”』は可能かと確認したが、『他者の意思を歪める能力』である為不可能と返答される。
考えた末、『能力』ではなく『魔法』ならば『蒐集』によって譲渡できることに気付く。
『魔法の“使用者”の意思だけを別の物体に宿す“魔法”』は大丈夫かと確認すると、可能との返答。
神自身の手で術式が構築され、神尾自身に付与された。
(この為、『Spirit Evacuation』はベルカ式でもミッド式でもない独自の魔法体系の術式となっている。)
過去話の冒頭に消し忘れたプロットメモの一部が残っていたので修正しました。
過去一恥ずかしい修正作業でした。
次からもし(あれ、これって本文じゃなくね?)ってのを見かけたらなるべく早めに教えてください!お願いします!