――闇の書事件の解決から時は流れて、6年後。
第97管理外世界『地球』は、闇の書事件をきっかけに『管理外世界』でありながら『時空管理局の支部』が置かれる事になった。
時空を超える術を持たない管理外世界でありながら『魔法』の存在を知覚し、『管理世界』になる可能性を持ったが為の特例処置である。
しかし『時空管理局の支部』とは言っても、管理局が直接地球の文化や技術の発展に関わる事は無い。
今の地球は自らの力で『管理世界』へ至る可能性がどれほどのあるかと言う観察期間であり、『管理世界』へ至る過程で道を踏み外す事が無いか、『質量兵器』を捨て去る事が出来るかと言う見極めの時期なのだ。
そして今、観察と言う目的の為地球に派遣された局員は、今日もこの海鳴市で正体を隠しながら
「――うん、これで良し!」
その局員の名は『リンディ・ハラオウン』。6年前に地球で起きた2つの事件に関わり、共に解決へ導いた時空管理局の提督兼、次元空間航行艦船アースラの元艦長である。
あの事件の後リンディ・ハラオウンは艦長職を退き、この支部の担当を自ら買って出た。
彼女のその行動は『闇の書事件』の解決を切っ掛けとするところが大きかったが、それ以上に……
「はい、コレ今日のお弁当。お仕事頑張ってね。」
「ありがとう――行ってきます、リンディ。」
夫であるクライドの帰りを、家で待ちたかったからと言うのが大きいのだろう。
「行ってらっしゃい、あなた!」
アパートに据え付けられた転送装置に飛び込み、時空管理局へ向かう
あの事件の後、とある奇跡によって返って来た幸せを噛み締めながら。
――時を同じくして、リンディが住むアパートの隣の一室。
「はいフェイト、アルフ、お弁当ですよ。」
「ありがとう、リニス。」
「サンキュー!」
中学三年生になったフェイトとその使い魔のアルフに、弁当を手渡すリニスの姿があった。
そしてその傍らに浮かぶモニターには……
『行ってらっしゃい、フェイト、アリシア。
気を付けてね。』
「はい、行ってきます。母さん。……フェイトの事は任せてよ、ママ!」
『ふふ……ええ、お願いねアリシア。』
二人の母であるプレシア・テスタロッサが映っていた。
彼女はフェイトがあの事件で得た恩赦に加えて、彼女自身の技術的貢献や『ある事件』に関する情報提供等の貢献の積み重ねにより、約一年前に釈放されていた。
流石にまだ観察期間が続いており、次元世界間を自由に行き来する事は許されていないが、それも時間の問題だろう。
『じゃあマリーも呼んでいる事だし、私はそろそろ仕事に戻るわね。
またバルディッシュの整備がしたかったら気軽に来て頂戴。待ってるわ。』
そう言ってプレシアの通信は切れた。
彼女の言葉からも分かるように、プレシアは現在時空管理局の技術部に所属している。
元々魔導工学部門の研究者だったプレシアの技術力は現在の管理局でも十分通用し、マリーことマリエル・アテンザからは結構頼られているようだ。
フェイトもバルディッシュの整備等の際に技術部の仕事を見る機会があったが、どちらが上司か分からなかったと言う。
「……じゃあリニス、アルフ、また後でね。行ってきます。」
「はい、行ってらっしゃい。」
「先に本局で待ってるよ!」
学校へと向かったフェイトを見送ったアルフは、リニスから貰った弁当を手に自らもアパートの奥に据え付けられた転送装置へと向かう。
アルフはあの後時空管理局に入局し、現在は執務官となったフェイトの補佐を務めている。
「先に行ってるよ、リニス!」
「はい。私も支度をしたら直ぐに行きますから、いつも通り準備運動でもして待っていてください。」
「あいよ!」
そんなアルフの鍛錬を指導しているのがリニスだ。
リニスもまたあれから管理局に正式に入局し、教育隊に所属している。
『プレシアから貰った知識』と『フェイトを育てた経験』を活かして士官学校で魔導理論を教えたり、望む者には『セバスチャンから提供される莫大な魔力』を活かして実戦形式で戦技教導をしたりしている。
「……さて、プレシアの弁当も出来ましたし、そろそろ行きましょうか。」
こうして今日も、テスタロッサ家の平穏な一日が始まるのだった。
そして、そんな日々はここでも……
「ほなシグナム、シャマル、グレアムおじさんに小包送っといてな。」
「はい、お気を付けて。」
「行ってらっしゃい、はやてちゃん!」
「行ってきます!」
シグナム、シャマルにそう挨拶して家を出るはやて。
その脚は既に完治しており、しっかりと自分の脚で地面を蹴っている。
「お、はやて! 行ってらっしゃい!」
「行ってきます、ヴィータ!」
通学の途中でヴィータとすれ違った。
彼女は闇の書事件で思う事があったのか、最近は今までと違う戦い方を身に付けるための鍛錬の日々だ。
豪快な一撃ばかりに頼らずコンパクトな連撃を活かした戦法の開発には、シャマルを一流のインファイターにまで育て上げたザフィーラの指導が最適であり、今朝の鍛錬もザフィーラを連れ出していたらしい。
「ザフィーラも、行ってきます。」
≪ああ、気を付けてな。≫
……尤も、行きかえりで毎回子犬の姿にならなければならない事にザフィーラはやや不満気ではあったが。
――次元空間航行艦船アースラ
「今日の任務はあの時のメンバーが勢揃いか……懐かしいな。」
アースラの艦長席に座るクロノが過去を懐かしむ。
多くの因縁が複雑に絡んだ『闇の書事件』も、事件後にクライドが帰って来た事でこうして懐かしむ事が出来るようになったのだ。
「ここ最近はずっと忙しかったからね~。まぁ、私達の仕事は無くならない訳なんだけど……」
無くなる事が無い次元犯罪と、依然としてブラックな職場に対する不満を隠そうともせずにエイミィが言葉に出すと、クロノは苦笑しながら宥めるようにエイミィに返答する。
「はは、まぁ今回の任務は久しぶりに平和な任務だ。
同窓会だと思って羽根を伸ばそうじゃないか。」
「賛成!」
クロノとエイミィ、それぞれ『時空管理局提督 アースラ艦長』『時空管理局管制司令』に昇進して尚も二人のコンビは健在だった。
クロノの声が変わった時は少なくないショックを受けたエイミィではあったが、
なんやかんやで二人の仲は良く、エイミィの性癖を知る友人達の間では『進展するかしないか』で賭けが行われているとかいないとか。
「……そう言う訳だ、ユーノもどうだ? 久しぶりに。」
この間繋がりっぱなしだった通信先に、クロノが尋ねる。
相手は彼が今しがた名前を出したように、ユーノ・スクライアだ。
今回の任務にも、その知識を役立てる為に参加する事になっている。
『うん、それじゃあ時間通りに……』
「ところでユーノ君、なのはちゃんとは最近どう? 関係は進んだ?」
『いえ、時々会う事はありますけど、進展とかは別に……』
「え~、まだ~?」
ユーノは度々エイミィからこのような質問をされているが、その度に曖昧に返すだけに留めている。
と言うのもユーノは肉体こそ男性だが精神面は女性の転生者であり、
なのはも同様に肉体は女性だが精神面が男性の転生者だ。
二人の仲は良好ではあるが、互いに『友人』と言う認識が強く正直進展する気配は無いのだ。
そもそも思春期を迎えた今も、性の対象に悩む二人の事。
或いは周囲からの声を誤魔化す為に互いを利用する時も来るのかも知れない。
「エイミィ、仕事中だぞ。」
「あはは、ゴメンゴメン……」
『はは……』
桜の花びらが舞う通学路に、髪をサイドテールに纏めた女性が立っていた。
花も恥じらう可憐な容姿とは裏腹に、時空管理局にこの人ありと次元犯罪者から恐れられる
「オッスなのは!」
「あ、神田君、おはよう!」
隣を駆け抜けて学校へ向かう銀髪オッドアイのクラスメイトに、名前を間違えることなく挨拶を返す。
「なのは、おはよう。そっちは今日任務だっけ?」
「おはよう神原君! うん、フェイトちゃんとはやてちゃんも一緒だし、今回はあまり危険は無さそうかな。」
「……なのは達が危険を感じる任務っつったら相当だけど、まぁそれは良かった。」
その後も多くの銀髪オッドアイが彼女に挨拶をして過ぎ去っていくが、彼女はそんな彼ら一人一人に名前を呼んで送り出す。
そう、彼女はとうとう銀髪オッドアイ達の名前を間違えなくなったのだ。
やがて……
「なのはー! お待たせ!」
「あ! アリサちゃん、すずかちゃんおはよう!」
「「おはよう!」」
彼女の待ち人であるアリサとすずかが到着し、三人並んで歩き始める。
「なのはちゃん、今日はお仕事の日なんだよね?」
「うん、久しぶりに全員集合。ユーノ君も来るんだって。」
「何時から? やっぱり午後?」
「そう、だから……」
「分かってるわよ、ノートでしょ?
いつも通り、アンタ達が写しやすいように綺麗に纏めてあげるわ。」
「あはは、ありがとう。アリサちゃん。」
気配りを強調して茶化すアリサに、礼を言うなのは。
彼女のノートだが、実は転生者であるなのは達にとっても割と本気に生命線なのだ。
元々唯一勉強が必要だった『社会』が、『地理』と『歴史』に分かれてパワーアップ。
前世と異なる情報が前世で身に付けた知識と喧嘩し合ってただ暗記するだけでも一苦労なうえに、
地球を離れている間の時事問題もテストに出るのだからたまったものではない。
社会の勉強から逃れるために、中学生に上がる前に管理局に入局しようとした転生者もいたほどだ。
なお、彼等は今も元気に中学生をやっているが……
そんな事を思い出しながら通学路を歩いていると、目の前に二人の人影が見えた。
「あ、フェイトちゃん、アリシアちゃん、はやてちゃん!」
「おはよう、なのはちゃん!」
「なのは、おはよう。……おはよう!」
「やっぱりシュールね……」
「アリサちゃん……」
その後、任務の事や授業の事、今度の休日の予定等を話し合いながら通学路を歩く三人。
彼女達の日常が今日も始まる。
――なのは達が生活する日本から遠く離れたイギリスのどこか。
ここにも、あの事件の後に生活を大きく変えた者が居た。
彼の名はギル・グレアム。元時空管理局の提督だった人物だ。
あの事件の後、彼は管理外世界に魔法の情報を広める原因を作った責任を取る形で管理局を辞した。
今は使い魔であるリーゼ共々生まれ故郷であるイギリスに帰り、海鳴市で生活するはやての援助をするなどして自分なりの贖罪を続ける毎日だ。
そんな彼の元に届いた小包。
それは八神はやてからの物で、手紙のほかにいくつかの写真が入っていた。
手紙は先日打ち明けた事件の真実に対し、
『今の家族があるのはグレアムおじさんのおかげでもある』として
罪を許すという旨の内容が少女らしい文字で書かれていた。
……そして、これから目指す夢についても。
少女のやさしさに手紙の文字が滲む。
手紙から目を離し、これから自らの夢の為に過酷な戦いの中に飛び込もうとする少女の力になるべく、傍らに立つリーゼ姉妹に声をかけた。
「リーゼ、紙と筆を持って来てくれ。
それと……あのリストもね。」
「うん、わかったよ。父さま。」
彼の平穏な贖罪の日々は続く。
私立聖祥大付属中学校の屋上。
午前の授業を終えた
言わずもがな、管理局の任務の為である。
「フェイトちゃん、はやてちゃん、準備は良い?」
「うん。」
「勿論や!」
二人に確認を取ると、私達はデバイスを取り出し、手のひらの上に浮かべる。
「レイジングハート。」
≪Yes, My master.≫
「バルディッシュ。」
≪Yes, sir.≫
私とフェイトの声に、レイジングハートとバルディッシュがそれぞれ了承の返事を返す。
そして……
「リインフォース。」
≪はい、はやて。≫
『闇の書事件』の後リインフォースが眠りに就いた剣十字を模したデバイス『シュベルトクロイツ』からは、長い銀髪の女性の姿が浮かび上がり、はやてに答える。
その姿はまさにあの時眠りに就いたリインフォースの生き写しだった。
そう、あれからはやてはマリーさんやプレシアの助けを借りて、無事に眠っているリインフォースの意識を核に新たなユニゾンデバイスの作成に成功していた。
プログラムの枷から外れた『剥き出しの意識』と言う、まさに『魂』としか表現できないそれを核に新たなユニゾンデバイスを作り出すという作業は困難を極めたが、彼女は乗り越えたのだ。
引き継ぐ事が出来たのはあくまでも意識だけであり当時の様な絶対的な力は持っていないが、はやてはそんな事を一切気にしていなかった。
彼女にとっては家族を取り戻せればそれで充分だったので、当たり前ではあるのだが。
何はともあれ、こうして私達の日常は続いて行く。
ここに居る全員が、今まで多くの苦難を乗り越えて来た。
これからも多くの困難が、悲劇が目の前に横たわるだろう。
だけど私達ならきっと乗り越えていける。
≪Stand by Ready.≫
「「「セットアップ!」」」
何故なら、私達のこの胸には
この回をエピローグとして空白期に突入しますが、
飛ばされた間に起きた事の一部(クライド関連等)は短編で投稿する予定なのでご了承ください!