――12月20日 17:40(日本時間)
次元空間航行艦船アースラは、艦長であるリンディ・ハラオウンの指示に従い、とある無人世界を目指していた。
「――各自、報告を。」
「えっと……航路は依然として安定。
魔力干渉等による影響や次元震等の異常も見られません。」
何処か焦りを滲ませた表情のリンディの指示に、どこか戸惑った様子で
彼の動揺は仕方ない事だ。何しろ彼からしてみれば……いや、この船に乗る誰一人として、リンディがここまで冷静さを欠いた様子を見るのは初めての事だったのだから。
「……艦長、先ずは冷静になりましょう。
今の指示も、もう何度目になるか……」
「分かってる……分かってるわ、クロノ。
でも、もし
リンディが発した『彼女』と言う言葉に、クロノは『闇の書事件』が解決した後の事を思い出していた。
「――では、グレアム提督。
これから裁判に向けての調書の作成に入ります。
黙秘の権利はありますが、嘘偽りを述べる事は……」
「ああ、大丈夫だよ、クロノ。
今更罪を免れよう等とは思わないさ。」
クロノは地球の衛星軌道上に停泊中のアースラの一室にて、ギル・グレアム提督の供述調書を作成する取り調べを行っていた。
別室では事件解決の際に意識を失ってしまったはやての検査が行われている。
彼女の体やリンカーコアに異常が確認できなければ、彼女達を地球へと帰し、早速管理局へ向かう予定なのだ。
――数十分後、ロックされていたドアが開き、取り調べを終えたクロノとグレアム提督が取り調べに使用していた部屋から出て来た。
「――では、これで取り調べは以上となります。
規則なので引き続き身柄を拘束させていただきますが……」
「ああ、構わない。
……ああ、そうだ。これはリンディ提督に話そうと思っていた事なのだが、今の君にならば……うん?」
「ん?」
話の途中でグレアム提督が何かに気付いた様子を見せる。
彼の見遣る方向にクロノが振り返ると、慌てた様子のシャマルが通路の奥から走って来るのが見えた。
「あ! すみません、今お時間よろしいでしょうか!?」
「君は、確かはやての……」
「はい、シャマルと言います!
クロノさんに伝えたい事があって、出来ればリンディさんと、あと……」
そう言って、シャマルはチラリとグレアム提督に視線を送る。
「……私もかね?」
「えっと、はい……大丈夫でしょうか。」
「今の私に決定権は無いが……どうする、クロノ?」
グレアム提督とシャマルの両名から視線を受け、少しの思考の後にクロノは答えを出した。
「……分かった。グレアム提督も含め、話を聞こう。」
「ありがとうございます!」
その後シャマルは「食堂で待っている」とだけ告げて足早に立ち去って行った。
クロノもグレアム提督もシャマルの話に心当たりが思い浮かばず、一先ずはリンディを呼んで彼女の話を聞こうと歩き始めるのだった。
――十数分後、食堂にはリンディ、クロノ、グレアム、リーゼ姉妹、シャマルを含むヴォルケンリッターの面々が集まっていた。
「それで、私達に話と言うのは何かしら?」
「先ずは前提として、私達の記憶について話しておきたい。
話の本題に……と言うより、今まで私達が話せなかった理由に関わるんだ。」
そう前置きして、シグナムが話し始める。
「皆も知っての通り、私達は『夜天の魔導書』の一部だ。
そしてこれも皆知っている事だが、先の戦いが終わるまで『夜天の魔導書』はデレックとその支配下にある自動防御プログラムの影響下にあった。
……何が言いたいかを簡潔に言うと、私達は先程まで自分の記憶の一部にプロテクトがかけられていたのだ。」
「プロテクトだと?」
「ああ……情報をすり合わせた限りでは、デレックにとって都合の悪い記憶がその中心のようだが、中には全く関係ない記憶も封印されていた。
今回の話も、その封印されていた記憶に関する事なんだ。」
「……デレックにとって都合の悪い記憶がそんなに重要なのかね?
デレックの反応が消滅した事は、アースラの計測器でも確認しているが……」
「いや、そちらではない。
貴殿達にとって重要なのは、関係無い筈なのに封印されていた記憶の方だ。
……では、シャマル。」
「ええ……」
「……最初に、今まで話す事が出来ずにすみません!」
「!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いてちょうだい!
いきなり謝られても、どう返せば良いのか分からないわ!」
突然頭を下げて謝罪を始めたシャマルに驚きながらもリンディが嗜めると、
やがてシャマルは恐る恐ると言った様子で口を開き始めた。
「今から話す事は、あくまでも『可能性』の話です。
私自身、それを確認している訳ではありません。
もしかしたら……悪戯に傷口を開き、傷付けるだけかもしれません。
それでも、貴方達には話しておかなければと思ったのです。」
そう言って彼女は旅の鏡を開き、中から一枚のカード状の物体を取り出すと、
震える手でクロノにそれを手渡した。
「……先ずは、コレを……」
「これは……古いタイプだが、管理局支給のデバイスか。」
手渡されたそれは、クロノの言う通り古いストレージタイプのデバイスだった。
基本的な魔法が入っており、癖が少なく扱いやすい事で当時は有名だったと記憶している。
一体これがどうしたのだろうか……そう思いながらも、手に取って観察してみる。
保存状態は良好なようで、魔力を通すと反応が返って来る事から今でも使用は可能だろう。
そう解析しながら、カード状の待機状態のデバイスを裏返したその瞬間、大きな反応を示す者が居た。
「ッ!!? クロノ! それを良く見せてくれ!」
「グレアム提督!? 何を……」
頼むような口調とは裏腹に、半ば引っ手繰るようにデバイスをクロノから奪い取ったグレアムは……そこに刻印されてあった番号を食い入るように見つめていた。
「……ま、間違いない……だが、どういう事だ……?
何故このデバイスを君が持っていたんだ! シャマル!」
「と、父さま! 落ち着いて!」
「グレアム提督……そこには一体何が?」
今にもシャマルに掴みかかろうかと言うグレアムの気迫に、思わずリーゼ姉妹が組み付いて止める。
グレアムの様子から、そこに書かれた何かに原因があると判断したリンディが尋ねると、彼はリンディに件のデバイスを手渡した。
「……これは、本来君の手にあるべき物だ。
そこに書かれているのは『局員管理番号』……そのデバイスの所持者を判別する番号だ。
そして……そこに刻まれた番号を持つ者は……」
グレアムは彼の番号を決して忘れまいと記憶に刻み付けていた。
それは彼なりの戒めの一つであり、自らが払った
そして、その番号はリンディも決して忘れまいとするそれと完全に符合していた。
「この、番号は……クライド……」
「なっ……!?」
「クライド君!?」
思わずと言った様子で呟かれた名前に、クロノとリーゼロッテが反応する。
見ればリンディはその眼から涙を流していた。
「シャマル……アンタ、今更こんな物返してどういうつもり?
事と次第によっては……!」
リーゼアリアが怒りを滲ませながら問い詰めると、シャマルはその視線を受け止めながら……再び爆弾発言を落とした。
「……か、彼は……クライド提督は……
生きている……可能性があります……」
当時を振り返り、クロノは思う。
――あの後は本当に大変だった、と。
クライドが生きている(可能性がある)と伝えられたリンディは、クロノが抑える間もなくシャマルの方を掴んで詰問していた。
『生きているってどういう事!?』『何処にいるの!?』『どうやって助けてくれたの!?』動揺している様に、怒っている様に、感謝している様に立て続けに質問をぶつけられたシャマルは、やがて『一つの座標』を示してこう付け加えた。
「私はエスティアにアルカンシェルが撃ち込まれる前に、クライド提督をその世界に避難させただけです。
なので……私には彼が今も生きているかは分かりません。
デバイスは……転送の後に落ちていたのを拾いました。彼の話をする時に必要だと思って。」
そこからのリンディ提督の行動は凄まじかった。
はやての容体の安定と後遺症が無い事を確認すると、はやてが目覚めるのも待たずに彼女の身柄をヴォルケンリッターに預けた。
本局に戻ってからも必要な手続きを過去最速で全て片付け、親友であるレティ提督
と話す前に再びアースラに乗り込んで今に至る。
……この場合『落ち着け』と嗜めるべきか、それでも仕事はしっかり済ませている事を称えるべきか非常に悩ましいが、ともかくこうして今彼女達はシャマルの示した座標へと向かっているのだ。
「――見えました! 目標の第217無人世界、『デマイン』です!」
シャマルがクライドのデバイスを隠していた場所は、旅の鏡を改良した魔法で作られた空間の内部です。
多分旅の鏡の術式の改造でこれくらいの事は出来るのでは? と思うのですが、『出来ねーよ!』って意見が多かったら書き直します。(書き直すと言っても多分デバイスが無くなって言葉のみでの説得と言う形になります)
-8/29 21:36 追記-
プロットメモ(と言うか話の流れメモ)が残ってたので修正しました!
ご報告いただいた方ありがとうございました!