転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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……はい。(タイトル)
文章が思ったよりも伸びました。
いっそ倍くらいの文字数になっても3話で終わらせようと思ったのに……


もう一つの奇跡・転

全天を覆うどんよりとした黒雲……

この無人世界ではこの雲が完全に晴れる事は無く、日の光が差し込む事も2、3日に1度程度の物だ。

 

天候は雨が多く、落雷や暴風に見舞われる事も少なくない。

気温が特に低い日には雹が降り、この世界の過酷さを更に際立たせる。

 

それでもこの世界には数多の動植物が独自の進化を遂げて生息していた。

 

植物は僅かな光合成でも生きていけるように進化し、些細な気温の変化で花開かせ、実をつけ、紅葉し、実を落とす。

 

動物は体毛が固く鎧のように進化し、更に肉食の物はその表皮を喰い破れるようにより鋭い牙や爪を備えた。

リンカーコアを持つ魔導生物も多く、曇天が殆どのこの世界が晴れる原因の大半は彼等の縄張り争いの余波だ。

 

そんな過酷も過酷な世界に11年もの間、たった一人で生きる男がいた。

 

「“スティンガー”!」

 

彼の指先から放たれた光が、今まさに襲い掛からんとする獣の頭を穿つ。

そうして狩った獣の頭部をこれまた指先から伸ばした魔法の刃で切り落とし、蔦状の植物を撚り合わせた即席のロープで木に吊るしたところで男は漸く一息ついた。

 

「アレからどれほどの時間が流れたのだろうか。

 彼女の言う“その時”はまだなのか、それとも……」

 

長い間一人で居た為かすっかり独り言が増えてしまった彼は、血抜きの最中に匂いに釣られて獣が来ないか警戒しながらこれからの事を考える。

 

「彼女の言う事を信じるのなら、こうして生き延びる事が最善だ。

 しかし、もしも彼女の身に何かが起きた場合……いや、そもそも彼女の気が変わっている可能性もあるか。

 あまり日が見えないから正確な時間は分からないが、アレから間違いなく5年以上は経っている。気が変わるには十分な時間か……」

 

あの時に落としてしまったデバイスの補助があれば、付近の次元世界を探知して転送魔法で管理局に向かえたかもしれない。しかし、無い物ねだりをしても意味は無い。

だが果たしてここで生き延びているだけで彼の悲願は叶うのか……

 

「……一か八か、デバイスの補助無しの転送魔法に賭けてみるべきなのかもしれないな。」

 

そんな事を考えながら、彼は血抜きを終えた肉を抱えて飛び去って行った。

彼の遥か上空……分厚い黒雲を隔てた先に、懐かしい顔ぶれの迎えが近づいているとも知らずに。

 

 

 


 

 

 

「エイミィ、映像を!」

「はい!」

 

リンディの指示により、モニターに目標の無人世界『デマイン』の地上の様子が映し出される。

 

「……薄暗い世界だな。日の光が入ってないのか。」

 

映し出された光景に、誰かの声が漏れた。

その声が示す通り映像は全体的に暗く、更に降り続ける雨によりさらに視界は悪くなっていた。

 

「これじゃ、良く分からないな……直接降りるしかないか。」

「そうね、せめて雲が晴れてくれればいいのだけど……!?」

 

クロノの言葉にリンディがそう呟いた丁度その時、彼女の頼みを聞くかのように激しい閃光がモニター一面に広がった。

 

「今の光は……?」

「わ、分かりませんが、魔力波動を検知しました!

 特徴から考えて、恐らくは何らかの魔導生物の物と思われます!」

 

やがて光が収まり、復旧した映像には……先程の光が原因だろう、雲にぽっかりと空いた大穴から差し込む日光により、幾分か見やすくなった『デマイン』の光景が映し出されていた。

 

「……どうやら安全とは言い難い世界の様ね。」

 

リンディのその呟きが、先程の映像の衝撃に静まり返ったブリッジに響く。

やがてリンディは静寂を打ち破るように指示を飛ばす。

 

「急いで捜索隊を編成します!

 直接降りる部隊はA班とB班の二つ、それぞれの指揮は私とクロノ!

 エイミィは私達の部隊に負傷者が出た場合の回収と連絡を!」

 

指示が飛ぶと同時に、皆一様に姿勢を正す。

例え問題が多いと指摘される銀髪オッドアイだろうと、数年間管理局で働いてきた経歴は本物だ。リンディの指示が飛んだ瞬間、その意識は切り替わっていた。

 

「捜索対象は……11年前、この無人世界に流れ着いたと思われる時空管理局提督……

 ――クライド・ハラオウン!」

 

……クライドの名が出た直後、小さく「えっ!?」と言う声が響いたが、意識は切り替わっているのだ。気が抜けやすいだけで。

 

「彼の状況は生死を含めて全て不明!

 その為、何かしらの痕跡を発見次第、情報の共有を行う事!」

 

しかしリンディも慣れたもので、『いつもの事』だと気にせずに指示を飛ばす。

あんな様子でもなんやかんやでしっかり仕事は果たしてくれるのも『いつもの事』だからだ。

 

 

 


 

 

 

「ここがデマインか……

 分かっていたが、酷い天気だ。」

 

捜索の為に第217無人世界『デマイン』に降り立った俺を待っていたのは、この無人世界の天候と言う手荒い歓迎だった。

 

空が一面の雲に覆われ、絶えず雨の降り続く無人世界か……

元々気温が低いと言うのに、雨の所為で更に体温が奪われる。情報で聞くよりも遥かに過酷な環境だ。

 

11年前、今生の父であるクライド提督はここに来たのか。デバイスも無しに……

 

……良くない可能性について考えるのは止そう。

既に捜索隊のメンバーは、ここに降り立った際に決めた方針に従って捜索を開始している。

俺も動かなければ……

 

 

 

 

 

 

≪クロノさん! ちょっとこちらに来てください! 座標は……≫

 

それはデマインに降り立ち、捜索開始から約1時間後の事だった。

散開して周囲を捜索していた局員の一人から、有力な痕跡が見つかったと言う情報を得て向かってみると……

 

「どうっすかコレ! 少なくとも『人間』かそれと同レベルの知的生命体が居るって痕跡でしょ!?」

 

興奮気味に話す局員は頻りに地面と()()()を指差しており、そこには……

 

「……なるほど。

 木の枝には何か細い物で付けられた傷、そしてその真下の地面には……微かな出血の痕跡か。

 雨で随分と流れてなお目視が可能な痕跡があるという事は、相当な出血量が予想される。

 位置と血の枝につけられた傷の形状を踏まえて考えると……確かに『血抜き』の線が濃厚だな。

 付近に戦闘の痕跡は?」

「そっちはまだ分かんないっスね。

 でももしもココで獣を狩ったのが魔導士なら多分魔力を使ったと思うんで、

 今エイミィさんに魔力反応を調べて貰ってるところっス!」

「ふむ、分かった……確かに有力な痕跡だ。

 本来デマインが無人世界である以上、この痕跡は捜索対象が残した物である可能性は高い。

 エイミィの報告を待つ間、少しこの周囲を念入りに調べるとしよう。」

 

そう指示を出しながら彼の方を見ると、何処か複雑そうな表情でこちらを見ていた。

 

「なんだ、その表情は?」

「いや……何と言うか、落ち着いてるなって。

 クライドさんって言えば、クロノさんの……」

 

そう言いかけて口を噤んだ様子を見て、彼の言わんとした事を察する。

報告時の彼の興奮は、てっきり自らの功績に関する物だとばかり思っていたが……もしかしたらもっと単純な理由だった(ただ僕を喜ばせたかっただけな)のかもしれないな。

 

そんな彼の努力に対する報いになるかは分からないが、俺は自分の胸の内を少しだけ明かす事にした。

 

「……僕はただ()()()()()()()()()()()()()だ。

 それも『任務だから』と言う理由ではなく……下手な希望を持って、それが否定されるのが怖いってだけの理由でな。」

「クロノさん……」

 

そこまで言って、分厚い雲に覆われた空を見上げる。

デマインに到着するまでに調べた情報によれば、この無人世界ではこの黒雲が晴れる事自体が稀だと言う。

その為デマインは常に気温が低く、降り続く雨が絶えずあらゆる生物の体温を奪う。

 

爬虫類の様な変温動物ならばまだしも、人間の様な恒温動物には生き辛い環境と言えた。

 

「……11年だ。

 シャマルの言葉が真実だとして、この過酷な無人世界に11年。

 正直、『ここ』に来るまでは諦めの方が()()()()よ。」

 

血抜きの痕跡を見つけた今だからこそ『もしかしたら父は生き残っているかもしれない』と思えるが……正直な所、それまでは『こんな環境で11年も生きる事など不可能だ』とさえ思っていた。

 

捜索隊を指揮する者が捜索対象の生存を絶望視していたなんて、大っぴらに言える筈もない。

だから本来この事は誰にも言わず、隠しておくつもりだったのだが……

 

「……きっと大丈夫っス。

 クライドさんも管理局の提督まで上り詰めた魔導士っスから、きっと生きてますよ。」

「ああ、僕もそう願っている。」

 

……どうやら俺は存外、こいつらの事を信用していたらしい。

彼の言葉で少しだけ湧き上がってしまった期待の気持ちを自覚して、そう思った。

 

 

 

 

 

 

『クロノ君! 聞こえる!? クロノ君!!』

「……うるさいぞエイミィ、聞こえているから落ち着いて話せ。」

『あっと、ゴメンねつい……』

「いや、良い。それよりも、魔力の反応を調べていたのだろう。結果が出たのか?」

『そう! そうなんだよ! えっとね……!』

 

周囲の情報を集め始めてから数分後、興奮冷めやらぬと言った様子のエイミィから通信が届いた。

その様子に冷静な返答を心がけつつも、ついつい期待してしまう。

 

『検査結果だけど、確かにその地点で数回魔法が使われてるよ!

 時間経過で反応が弱くて魔力波動の検査は出来なかったけど、使用された時間は“3時間以内”!

 まだそう遠くには行ってないと思う!』

「分かった。B班のメンバーをこちらに集めてくれ。

 それと母さ……A班の方にも情報の共有を。こちらに合流するか否かは艦長の判断に任せる。」

『うん!』

 

通信が途切れた事を確認後、痕跡の発見者である彼と合流して他のメンバーの到着を待つ事にした。

転送の術式がある以上それほど時間が空く訳ではないが、何もしないと言うのは心が落ち着かない。

この間に得た情報を整理するとしよう。

 

先ず戦闘の痕跡かは不明だが、少し離れたところに四足獣の足跡があった。

野生動物の痕跡としてはありふれたものだが、足跡の付き方に特徴があり、足の先端側が特に深く抉れていた。恐らくは跳躍したか突進したか。

いずれにせよ、『何者かに襲い掛かった際の動作』として考えられるものだ。

 

そしてその数m先の地面には、恐らくは先の動作の途中で狩られたのだろう。その四足獣が跳躍か突進の勢いそのままに地面を滑った跡があった。

血の痕跡は残念ながら流されてしまったようだが、ここで『狩り』があった事はもはや明白だった。

 

この無人世界の天候を状況を合わせて考えれば、恐らくはここからそう遠くない所に拠点を構えている筈……

 

そこまで考えたところで、転送の反応を感知したので思考を切り替える。

『今までの事』から『これからの事』へと。

 

「エイミィから凡その事は聞き及んでいると思うので、簡略化して説明する。

 ここで魔法を使用した『狩り』の痕跡があった。エイミィが調べた結果、約3時間前との事だ。

 そして付近の木に血抜きの痕跡があった事から、魔法の使用者は『魔導生物』ではなく『魔導士』である可能性が高い。

 因ってこれからはこの地点を中心に捜索をしようと思う。

 ……ここまででなにか意見や質問がある者は?」

 

そう言って見回すと、一人手を挙げた者が居たので発言を促した。

 

「捜索範囲はどの程度を?」

「想定しているのは1㎞以内だ。

 狩った獲物を運び去っている事から、拠点がある事は明白。そして……」

「血抜きに使用されたと思われる木の傷や、狩りの際に出来たであろう痕跡から、獲物は相当の重量があった事が想定される。

 それだけの獲物を全て持ち去った事から、手間をかけて重量を減らす事よりも血の臭いが肉食獣を引き付けるリスクを避けた事が分かるわ。

 よって拠点はここからそう離れてはいない……そうよね、クロノ?」

 

声に振り返ると、母さんが来ていた。

その方向と口ぶりからして、恐らくは自分の目で痕跡を確認してきたのだろう。

 

「艦長……はい、その通りです。」

「例の痕跡に目を通して来たわ。

 少なくとも私達の調査した場所よりも、こちらの方が可能性が高いようね。

 私達も捜索に合流させてもらうわ。」

「分かりました。それでは総指揮を艦長に……」

 

受け渡しますと続けようとしたところで、母さんに手で制された。

 

「いえ、総指揮は貴方が執りなさい。クロノ。

 貴方の部隊が見つけた痕跡である以上、それが道理と言う物よ。」

「……分かりました。」

 

そう言う母さんの表情を見て、続けようとした言葉を飲み込む。

 

本当は誰よりも早く探しに生きたいのは母さんだ。

自分の手で見つけたい……誰よりもそう願っているのも、母さんだ。

 

それでも指揮を俺に任せるという事は……見極めの時期という事なのだろう。

 

――アースラの艦長となるに相応しいかどうかの。

 

幼い頃から前世の知識や特典のおかげで“神童”と呼ばれた俺の執務官昇進には、期待の声と同じくらいにやっかみの声もあった。

それは『リンディ・ハラオウンは身内贔屓をしている』といった言いがかりに近い物から、『実力に経験が伴っていない』といった『一理ある』と言える物まで様々だ。

 

だからこそ、母さんは今回の捜索を見極めの機会の一つに選んだ。

『逸る感情に流されない冷静な判断を』……そう期待する母の目に応える為にも、俺はここで示さなければならない。

『特典』や『前世の知識』ではどうにもならない……『俺自身の素質』を。

 

 

 

 

 

 

周辺の調査の結果、拠点と思しきものはなかなか見つからなかった。

狂暴な魔導生物の存在も複数確認できたことを踏まえて考えると、雨風だけではなくそう言った外敵から身を隠す構造になっているのだろうと想像は付く。

問題はそれが原因でこちらの捜索も困難になっているところか……

 

「落ち着け……焦るな……

 こう言う時、もしも僕がこの世界に迷い込んだらどこに拠点を置く……?」

 

思い通りに行かずに焦り出す心を落ち着ける為、敢えて小さく呟くようにして思考を纏める。

 

「これだけの雨だ、飲み水は困らない。寧ろ洪水等の危険を避ける為に川の周辺は避ける……

 一方で体温を奪われない環境が欲しいな。

 理想的なのはやはり洞窟だが……付近の岩壁にはそれらしい物は確認できていない。」

 

呟きながら今しがた調べ終わった岩壁を撫でる。

今俺がいる場所は例の痕跡があった場所から北西に数百メートルの所にある断崖の麓だ。

雨風を凌げる環境と聞いて真っ先に思い浮かぶのは洞窟……故にこうしてもっとも近場にあった断崖に洞窟が確認できないか、捜索隊を総動員して調べているのだ。

 

だがそもそもそれでは『外敵を避ける』と言う目的にはそぐわない。

地面に近ければ近い程、魔導生物が迷いこむ可能性が……

 

……待てよ?

洞窟と言う環境はこの無人世界に於いて『地上の魔導生物に見つかりやすい』と言う点さえ除けばかなり理想的な拠点だ。

もしも俺がこの無人世界に来たなら……もしも俺がこの環境で拠点を築くとしたなら……!

 

その可能性に思い至り、俺は頭上を見上げた。

雨の所為で数十m先も霞んでしまい、この位置からは何があるかもわからない……だからこそ、地上の魔導生物から見つかる可能性も極めて低い……!

 

何となくだが確信した。

『俺がこの無人世界にたった一人迷い込んだなら』……

 

「岩壁に魔法で穴をあけて拠点とする……!」

 

そうだ、何も前世の思考で考えなくても良いのだ。

 

魔法があるから穴を掘るのに道具は要らない。

魔法があるから地上付近の洞窟に拘る理由も無い。

気付いてしまえばなんと簡単な事だったのか……

 

「……『実力に経験が伴っていない』か……確かにそうだったな。」

 

俺には『この世界の経験』が全く伴っていなかった……!

 

「さて、そうなれば話は早い……早速皆に指示を出すとしようか。」

 

 




違うんですよ。再会のシーンに一定以上の文字数は割きたいじゃないですか。
だけど捜索シーンあっさり目にすると、今までの流れとか壊しちゃうじゃないですか。
それは何かやだなって……
なので元々いつもの倍くらいにはなるかもなって思ってたんですけど、予想外に伸びちゃって……(言い訳)

今度こそ次回で終わるので……(終わらなかったら多分タイトルの後ろに『①』みたいな数字が付きます)
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