転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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今の時系列は原作アニメで言う所の第2話辺りです。

そうです、まだ第2話です。


フェイトの新しい日常

『フェイト、明日『第97管理外世界』に向かいなさい。

 そしてジュエルシードと呼ばれるロストロギアを集めて来なさい。』

 

()()()は突然そんなことを俺に告げると、再び研究室へ戻ってしまった。

どうやらユーノの輸送船は既に攻撃されてしまったようだ。

 

『…結局、あの似非執事の言うとおりになっちまったねぇ…』

 

アルフがそう呟く。

 

俺は輸送船への攻撃を止めようとした。

もちろん直接そんな事を本人に言える訳も無く、

それと無く『無茶をしないで』と言う程度に留める他無かったのだが…

 

『アルフ、行こっか…』

 

…何も、教えてはくれなかったな。

 

輸送船への攻撃も、ジュエルシードを集める理由も…

 

言えるはずの無い事柄なのは知っている。

それでも悲しい。

 

それは俺がプレシアの心を開けなかった証明だからだ。

 

結局俺ではアリシアの代わりになれなかった。…そう言う事だからだ。

 

 

 

 

 

 

目を開けると、最近になって見慣れるようになった天井が見えた。

 

…少し前、実際にあった事を夢に見た。

あの後、俺とアルフはリニスと合流し『第97管理外世界』にやってきた。

 

住居は執事が用意してくれていた。

…海鳴市のマンションの一室だ。

 

なかなか良い部屋を借りてくれたようで住み心地は悪くない。

 

ふと、美味しそうな匂いがして一気に目が覚める。

 

「おはよう…リニス」

「はい、おはようございます。フェイト。」

「アルフもおはよう…」

「あぁ、おはようフェイト!…はは、なんかまだ眠そうだねぇ…」

「遅くまで起きてるからですよ!

 あなたも女の子なんですから、早く寝ないと。

 夜更かしは美容の敵です!」

「アッハハ!まるで母親みたいじゃないか!」

「ふふ、少し憧れていたんですよ。こう言うの。」

 

リニスが朝食を並べてくれている食卓に着く。

地球に来てリニスは先生から母親にクラスチェンジしていた。

 

本人が楽しそうなのは何よりなのだが、お小言が増えた気がする…

 

「…夜は、ジュエルシード、集めないといけないし…」

「何言ってるんですか、そっちは7時前には終えて戻って来ているでしょう…」

「ぅぐぅ…」

「別に漫画を読んじゃダメとは言いませんけど、夜はしっかり眠らないと翌日体が持ちませんよ。」

「はい…」

 

そう、俺は地球に来て漫画にハマってしまった。

時の庭園では娯楽と言えば飛翔魔法くらいで、他に娯楽らしい娯楽が無かった。

 

一応昔アリシアが使っていたのであろう遊具はあるのだが…対象年齢が低いのだ。

 

その点こちらはサブカルに溢れている。

前世でリリカルなのはが好きだった事から分かるように、

()()()()()の趣味も当然持ち合わせている俺は完全にこちらの漫画にハマってしまったのだ。

 

有名な週刊誌一つ見ても前世に無かった物に溢れ、中には俺の趣味に合う漫画も有ったりして…

 

…まぁ、仕方なかったのだ。

 

だがこれでも()()はしっかりしている。…一応。

それを示すように、バルディッシュからジュエルシードを出してリニスに見せる。

 

3()()…ペースとしてはなかなか順調と言ったところでしょうか。」

 

そう、順調なのだ。

…ただし、あまり歓迎できない理由もあるが…

 

 

 

あれは、三日程前…

どこかの学校で大量の銀髪オッドアイ(似非執事もどき)がジュエルシードの暴走体と戦っていた時の事だ…

 

 

 


 

 

 

夜の海鳴市、俺とアルフは魔力の反応を追ってどこかの学校に来ていた。

 

屋上に降り立ち、戦闘の様子を見つめると異様な光景が広がっていた。

 

「うわ…なんだいありゃあ…」

 

アルフが思わずと言った感じで口に出す。

俺も同じ気持ちだ。

 

暴走体に魔力刃を飛ばす銀髪オッドアイ。

躱された魔力刃から校舎を守る銀髪オッドアイ。

暴走体の攻撃にやられたのだろう、倒れ伏す銀髪(目を閉じているが多分オッドアイだろう)。

そしてそれを治療する銀髪オッドアイ。

空中でそれらを俯瞰しながら封印魔法を撃ち続ける高町なのはと、その周りを飛翔する銀髪オッドアイ。

 

何なのだコレは、何が起こっているのだ!?

はっきり言って異常な光景に高町なのはが完全に浮いてしまっている。

 

「あいつら、あの似非執事の子供だったりしないよねぇ…?」

 

どんだけ恐ろしい優性遺伝子だよ。

子々孫々に代々受け継がれる呪いか何かか?

 

「多分、違う…と思う。」

 

否定しきれないのが辛いところだ。

でも…

 

「アレはきっと分身魔法じゃないかな…?

 魔力の色も同じみたいだし…」

「ん?…あぁ、本当だ。

 まったく…一瞬驚いちまったじゃないか。」

「でも…敵に回すと厄介だよね。」

「そうだねぇ…あの数、捌ききるのは難しそうだ。」

「ううん、そうじゃなくて…本物を見つけるのが手間なだけ。」

「あぁ、フェイトの速度なら確かに問題はなさそうだ…

 あたしが足引っ張らないようにしないとねぇ…」

 

未知の敵である銀髪オッドアイの評価を終えて見に徹する。

 

魔法戦に限らず、全ての戦いで相手の情報を知っていると言うのは大きなアドバンテージだ。

相手の情報は多い方が良い。

 

何せ向こうはこっちの手札を殆ど知っている。前世の物語で見たからだ。

だがあいつはフェイト()の事を知らない。…フェイト()の速度を知らない。

 

間違った情報はこちらのアドバンテージ。

戦いになれば『()()』を思い知らせてやるとしよう…

 

そうこうしている内に戦況が変わったようだ。

銀髪オッドアイの一人が切り札を使うらしい。

 

…なんであいつはわざわざ声に出して指示したんだろう?

自分の分身ならば普通に意思疎通できるだろうに…

 

 

 

そして銀の奔流がジュエルシードの暴走体を呑み込んだ。

凄まじい光景だった。

絶え間なく続く攻撃は正に濁流を思わせる。

 

だがその後の様子をよく見ると、あの技には予め魔法を保存して置く必要があるようだ。

そして予想するにあいつが『()()』だ。

 

指示を出していた事に加え、他の分身の役割を本体がこなすにしては危険が大きい事。

今の様に空間の揺らぎを発生させているのがあいつ以外に居ない事を考えれば辻褄も合う。

 

あの技の()()()()()()()()()()が見えてきた…

それは()()でないと使えない為、

使用すれば()()が誰か相手にもバレてしまう事。

 

この情報は有用だ。

アルフとも情報を共有しておこう。

 

 

 

「見たよね?」

「あぁ、見たけど…随分と妙な事になってるんじゃないかい?」

「この世界は魔法なんてない世界だって母さんも言ってたのに…」

「…あんまりあのババアの事を信用しない方が良いと思うよ?」

「…大丈夫。アルフが言うほど、母さんは悪い人じゃないよ。」

「フン、どうだかね。まぁ…どっちにしても、あいつ等は数が多い。

 今は一旦退こうか…フェイト」

 

あいつの切り札…確かに強力な魔法だけど、あの速度なら避けられる。

問題はやはり分身魔法だ。

 

分身で逃げ場を塞がれたうえでアレを撃たれたら躱しきれるかどうか…

アルフの言う通り撤退しようとした時だった。

 

 

 

「フェイト!?もうこっちに来てたのか!」

 

 

 

背後から声に呼び止められた。

振り向くと、今まさに見ていたような銀髪オッドアイ。

 

―ッ!回り込まれた!いつの間に!?

 

すぐに戦闘態勢に移るが…

 

「待て!待って!渡す物があるんだって!」

 

…渡す物?まさか…

 

「ほら、ジュエルシード!お前に渡そうと思って取って置いたんだよ!俺が!

 だからバルディッシュを下ろしてくれ!なっ!?」

 

そう言って差し出されるジュエルシード。

…コレは、どこから…

 

≪フェイト、油断するんじゃないよ…≫

≪解ってる。≫

 

わざわざ探したジュエルシードを分身に運ばせた。

そして今俺の立っているこの場所は、丁度この分身と向こうの本体に挟まれた位置。

 

武装解除を待っているのか?…いや、少しでも気が緩めば十分と言う事か。

 

「…その手には乗らない。」

「…へっ?」

 

一瞬。

それで()()は終わった。

 

最高速度で脇をすり抜け、バルディッシュによる一閃。

それだけであっけなく分身は倒れ伏した。

 

ジュエルシードはありがたく頂いておこう。

 

「アルフ」

「あぁ、コイツ。まだ意識があるね…」

「バレたかな?」

「だろうね…分身が見たものを本体が見れない道理はないよ。」

「そうだよね…せっかくだし伝言くらい残しておこうかな。」

 

そう言って銀髪オッドアイの近くにしゃがみ込み伝言を残す。

 

「私は分身にやられるほど弱いつもりはない。

 今度は本体が来て。ジュエルシードを賭けた勝負なら、受けてあげる。」

「だってさ、挟み撃ちでもしようとしたんだろうけど当てが外れたね。」

 

そう言い残し、飛翔魔法で飛び去る。

後ろを見るとどうやら他の銀髪オッドアイ達に介抱されているようだ。

 

…変だな。分身なら解除すれば良いだけだろうに。

 

「ねぇ…アルフ?」

「あ、あぁ…なんだい?」

「もしかして私達ってさ…勘違いしてたかな?」

「…そう、かも知れないねぇ…」

 

呼び起される記憶は3つ。

 

『倒れた銀髪オッドアイを他の銀髪オッドアイがわざわざ治療してた事』

『わざわざ大声で他の銀髪オッドアイ達に指示を飛ばしていた事』

『今さっきの銀髪オッドアイを介抱している銀髪オッドアイが、こちらに一切気付いていなかった事』

 

「…そんな事って、あるかな?」

「…ある、んだろうね…」

 

とすると、あの転生者は単純にフェイトに恩を売ろうとしただけだったのか?

それとも何か別の目的でもあったのだろうか…

 

「悪いことしちゃったかな?」

「…まぁ、そこは気にしなくても良いんじゃないかい?」

「?」

「…フェイトが聞こえてなかったんならそれで良いよ。」

 

 

 


 

 

 

そんな感じで俺にジュエルシードを持ってくる奴が居た訳だ。

その人数なんと3人。

 

そう、俺はただの1度も自分でジュエルシードを探し出せていないのだ。

 

因みにその3人に対してだが、全てバルディッシュの一閃で応えている。

 

…仕方が無いだろう。

夜に会ったときは気づかなかったが、あいつ等の目が怖いのだ。

 

前世、男の時には感じた事のない視線だった…

あいつ等に()()を作るのが怖かったんだ。

 

アルフもあいつ等に気を許すなって言ってるし、

それには全面的に同意だ。

 

 

 

…っと、もうこんな時間か。

 

一旦捜索は切り上げて、家でリニスとお昼にしよう。

 

≪アルフ、帰るよ。≫

≪あいよ。…しっかし、全然見つからないね…≫

 

そう、結局今日も成果無しだった。

 

≪多分あの銀髪オッドアイの人達が集めてるんだよ。≫

≪あー、あたしらもあいつ等みたいに人海戦術が出来れば手っ取り早いんだけどねぇ…≫

≪手分けしてもこちらは二人。仕方ないよ。≫

 

すずかの家らしき猫屋敷にも無かったし、プールに行ってみたけどそこも外れ。

いったいこの街に後どれだけジュエルシードが残っているのやら…

 




『なのはが何かを感じて振り返った』シーンで感じていたのは、
バルディッシュ一閃時の魔力です。

その後、様子を見に来た銀髪オッドアイ達が見たものは…

…どこか満足げに倒れた見知らぬ(顔は鏡で見た事がある)銀髪オッドアイの姿だった…!


補足:『…フェイトが聞こえてなかったんならそれで良いよ。』

以下当時の再現

「…その手には乗らない。」
「…へっ?」

バチィッ!!(バルディッシュ一閃の感電音)
「あひぃ!」(かき消される悦びの声)

「…」(狼の五感ですべて聞こえたアルフ)

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