転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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前回の後書きで転生者の名前を間違えていたので修正しました。
『池上 万』ではなく『池神 万』です。まぁ、別に伏線とかではないのでどちらでも良いのですが。


エルトリア復興録 2

死蝕の影響が少ない荒野にぽつんと存在する建物……フローリアン家の一室に、ベッドに横たわる男性と、その傍らに6人の少女の姿があった。

 

「……どう? 博士の病気、治せそう?」

「むぅ……

 我の知る病の中にもコレと近い症状が出るものはいくつかあるが、そもそも我は医者ではない。

 故に治せるか等と聞かれても保証は出来ん。」

 

博士と呼ばれた男性……グランツ・フローリアンの容体を確認していたディアーチェは、キリエの問いに対して何一つ隠す事なく答えた。

 

「そう……やっぱり王様でも、ダメなんだ……」

 

ディアーチェの言葉に落ち込んだ様子のキリエ。多くの知識と魔力を扱えるディアーチェならばもしかしたら……そんな希望が幻だったと、本人から告げられたのだから無理もないだろう。

 

だが、そんなキリエの様子にディアーチェは相も変わらず毅然とした態度で鼻を鳴らす。

 

「……ふん、我は保証が出来ぬと言っただけよ。

 手を打つ前から諦める者があるか。」

「王様……じゃあ……!」

「我は医者ではなくとも、癒しの魔法は我の持つ紫天の書が五万と識っておる!

 ユーリの力を借り、紫天の知識を受け、我が振るえば万の医者がここに居るも同然よ!」

 

自信満々と言った様子で放たれた言葉と、堂々たるその態度が諦念に沈みそうだったキリエの心を引き留めた。

そして「これより施術を行う」とグランツに向き直ったディアーチェに、頭を下げた。

 

「ユーリ、王様……博士をお願いします!」

「任せておくがいい! ……あぁ、そうだ、桃色よ。」

「はい?」

 

髪の色に因んだ渾名を呼ばれたキリエが顔を上げると、ディアーチェはこちらに視線だけを向けてこう告げた。

 

「レヴィがそろそろ我慢の限界を迎える頃だ。例の狂暴生物でも遺跡でも良い、案内してやれ。」

「え? 別にボクはまだ「レヴィ、狂暴生物の方は頼んだぞ。」……ん-、分かった!

 じゃあ案内お願いするね! キリエ!」

「えっ、あ、うん。別に良いけど……」

 

レヴィの言葉を遮るように強引に話を進めるディアーチェの様子に何かを察したレヴィは、キリエの手を取り足早に部屋を出て行った。

 

その様子を見ていたシュテルは、ディアーチェの思惑を汲み取り、アミティエに向き直ると口を開く。

 

「……それでは、私もアミティエさんにお願いが。」

「私ですか?」

「はい、ここの研究室を案内していただけますか?

 『理』を司るマテリアルとして、何か力になれる事があるかもしれません。」

 

シュテルの頼みに、アミティエは少しばかり考えると笑顔を見せて答えた。

 

「……そうですね、そう言う事であればご案内しましょう! ついて来て下さい!」

「はい。 ……では、ディアーチェ。」

「うむ、任せたぞ。」

「お任せを。」

 

そして二人もまた連れ立って部屋を出ていく。

アミティエの物だろう、軽快な足音が遠ざかって行き……やがて聞こえなくなった頃……レヴィとシュテルによって人払いを済ませたディアーチェは、眠っているグランツに語り掛けるように言葉を発した。

 

「さて……と、これでここに居るのは我ら3人だけだ。狸寝入りを続ける理由もあるまい。」

 

ディアーチェの言葉が部屋に小さく響き……数秒の後、諦めたようにグランツはその両目を開いた。

 

「……まさか、あの二人が私の研究を使い、過去の時代から医者を連れて来るとはね……」

「先ほど言ったように、厳密には医者ではないがな。」

「はは、そうだったね。 ……何で気付いたんだい? 二人にはバレた事が無かったんだけど。」

「あまり我を舐めるなよ。

 我の声が聞こえた瞬間、貴様が微かに動揺した事などとうに気付いておったわ。」

「……そうか、あの時か。」

 

グランツが言うには、フローリアン姉妹を心配させ過ぎないように規則正しく眠っているふりをしていたという事らしい。

実際は体に走る痛みで眠れない事も多いのだが、何とか誤魔化して来たのだと言う。

 

「……さて、稼いだ時間もそうある訳ではない。本題に入ろうか。」

「ああ……とは言っても、ずっと前から覚悟はしていたんだけどね。」

「そうか……では単刀直入に言おう。

 貴様の病は我にも治せぬ。

 そして、このままでは貴様は一年も経たぬうちに死ぬ。」

「……」

 

先程キリエを慰めるように放った言葉は一見自信に溢れたものではあったが、その実情はなんて事はない。ただの気休めだ。

落ち込んだキリエの様子を見て、咄嗟に放った慰めの言葉でしかない。

 

とは言え、嘘を吐いた訳ではない。

『万の医者にも治せない病』を「治せる」と言った訳ではないのだから。

 

内心でそんな言い訳をしながら、ディアーチェは言葉を続ける。

それはグランツを蝕む病の症状の根幹の話であり、ディアーチェにしても初めて目の当たりにした現象だった。

 

「コレが死蝕と言う物の影響なのか、それとも貴様自身の体質か、はたまた別の病なのかは分からぬが……リンカーコアが死にかけておる。

 そして死にかけたリンカーコアから生成される魔力に腐毒とも言えるモノが混じり、貴様の全身を血のように巡っておる。貴様の身に起きる症状はそれが原因だ。

 だから、いくらその症状を改善させようと貴様の命を救う事は出来ん。リンカーコアの死を止められぬ限りな。」

「……うん。分かってはいたけど、改めて言われるとなかなか堪える物があるね。」

 

リンカーコアの死と言う、ディアーチェにしても聞いた覚えのない現象を告げられてもなお、グランツは諦めたように、何処か納得したように頷いた。

 

そんなグランツの様子に、自らの身に起きた現象に何か心当たりがあると踏んだディアーチェは、続けて問いかける。

 

「……貴様の身に何があった? このような症状、紫天の書も記憶しておらぬ。」

「二人から聞いていないのかい? ……これが『死蝕』だよ。永年、僕の一族が先祖代々戦ってきた『蝕む死』だ。」

「……『死』そのものが伝染するとでも?」

「……正直なところ、長年の調査でも分かっていない事が多くてね。確証は無いんだが、現象を纏めるとそうなるかな。」

 

そう答えたグランツは、部屋の出口を見遣ると言葉を続けた。

 

「さっき君の仲間(レヴィ)が出て行ったが、死蝕には近付かない方が良い。

 まぁ、それは案内するキリエも理解しているから、今回は心配は要らないだろうけどね。」

 

その言葉を聞きながらディアーチェは考える。

果たして死蝕とは如何なる現象なのか、そしてそれは彼女たち自身にとっても脅威足りえるのか……と。

 

――死蝕、か。こやつの言う通り『死』が伝播する等と言う現象が起こり得るものなのか?

  もしもそうであるならば、『死』の概念が無い我等には無害なのか?

  ならば我等であれば死蝕に関するより深い調査が……いや、行動に移すには早計か。

 

内心そう結論付けた時、ディアーチェは自らの裾を引く手の感覚と声に気付いた。

 

「ディアーチェ。」

「む? ……ああ、そうだな、ユーリ。手早く済ませるとしよう。」

 

ユーリの声にそう答えると、ディアーチェはグランツの体に手を翳す。

そして紫天の書を開き、術式を構築しながらグランツにこう告げた。

 

「先ほど言ったように、我にも貴様の病は治せぬ。

 出来て延命が精々よ……だが、桃色と赤毛が貴様の生存を望むのであれば、やれる事はやろうぞ。」

 

そして構築された術式から放たれた柔らかな光が、グランツの身を包む。

遥か昔から夜天の魔導書に蓄積されてきた数多の魔法……それを写し取った紫天の書もまた、膨大な数の術式を記録している。

その中からグランツの病に対抗し得るものを選び、数百の術式を並列起動して発動しているのだ。

流石のディアーチェもこのような芸当を一人でこなす事は出来ない。ユーリの持つ無限の魔力の補助があってようやく出来るごり押しだった。

 

だが、光が放たれて1分が経過しようかと言う頃、ディアーチェが異変に気付いた。

 

「……む、この感覚は……?」

 

何かが魔力を伝って体に触れているような感覚……言いようのない不快感に顔を顰めると、その様子を見たグランツが声を張り上げる。

 

「!? 拙い……直ぐに術式を解除するんだ! 君にまで死蝕が……っ! ゴホッ、ゴホッ!!」

 

急に声を張ったせいか、はたまた病の所為か、血の混じった咳に呻くグランツに対し、ディアーチェは冷静に言葉を返した。

 

「……ふん、なるほどな。コレが死蝕とやらか……中々に不快な感覚だ。

 だが案ずるな、我等はそもそもが『不滅』の身。『死』とやらには縁遠い存在よ。

 今は落ち着いて我が魔力に身を委ねよ。」

「……! 君は、一体……」

 

彼女の言葉が嘘や強がりではないと分かったのだろう、グランツが目を見開き、初めて唖然とした様子で尋ねると、ディアーチェは口の端を吊り上げるように笑いながら名乗りを上げた。

 

「ふ……我が名はロード・ディアーチェ! 紫天の主にして、闇統べる王である!

 たかだか『死』程度の物に屈する程、脆くはないわ!」

 

 

 

 

 

 

それからしばらくの時が経過し、光が収まる頃にはグランツは穏やかな寝息を立てていた。

それは先程の様な狸寝入りではなく、久方振りの安寧が彼に訪れた事の証明だった。

 

「……寝入ったか。」

「ディアーチェ、死蝕は……?」

 

そう尋ねるユーリを連れ立って部屋を出ると、ディアーチェは彼女の問いに答えた。

 

「表に出ている症状は粗方抑えた。

 リンカーコアの状態も、快復とまでは行かぬが幾らか改善した。これならばあと数年は持つだろう。」

「彼の事ではありません、貴女の事です。先程貴女に触れた死蝕はどうなったのですか……?」

 

そう問いかけるユーリの不安気に揺れる瞳を、ディアーチェは真っ直ぐ見つめ返すと安心させるように答えた。

 

「案ずるな。あのような物、我にとっては風が肌を撫でたようなものだ。

 もっとも、些か不快な感覚ではあったがな。」

「そうですか……良かった。」

 

彼女の言葉に嘘は無い。術式を発動している間感じていた感覚は最後まで体内に入って来る事はなく、施術の完了と共に消え失せていた。

自らの体を探査しても影響は無く、やはり原則不滅であるマテリアル達にとって死蝕は何の影響もない事を彼女は確信していた。

 

――と、なればだ。やはり死蝕の本格的な調査には我らが赴くのが得策か。

  レヴィやシュテルにもコレは伝えておくとして……む?

 

ディアーチェが今後の行動に関しての思考を纏めつつ通路を歩いていると、向こう側から少年が一人走って来るのが見えた。

その銀色の髪の色を確認した途端、ディアーチェはげんなりした様子で注意する。

 

「おい貴様、このような狭い通路で何を騒いでいる。せめて……」

「あっ、王様! レヴィ見ませんでした!? ちょっと探してるんですけど……」

「静かにしろと言っているのだ戯けが。折角寝入った患者の目が覚めてしまうだろうが……!」

「はいッ! ……って、患者?」

 

ディアーチェが殺気を込めて睨むと、走って来た銀髪オッドアイ……池神(いけがみ) (ばん)が背筋をピンと伸ばし、ふと抱いた疑問について聞き返した。

 

「……はぁ……今しがた桃色と赤毛の生みの親である博士とやらの容体を見ていたのだ。

 完治こそさせられなかったが、苦痛は取り除けたようで今は眠っている。

 ……この先にはその部屋しかない。貴様も疾く、静かに引き返す事だ……って、おい! 貴様何処に行くつもりだ!」

 

ディアーチェが話し終えるのを待たずして池神は走り出した……ディアーチェが歩いてきた方向に。

 

「我の話を聞いていなかったのか、貴様! この先には……!」

「博士が居るんだろ? 大丈夫大丈夫、()()()()()()()()()()()!」

「は……?」

 

 

 


 

 

 

「おい、貴様! 聞いているのか!? あの男の病は……!」

「魔法で治せなかったんだろ? 大丈夫だって、俺のは特て……レアスキルだから!」

 

あぶねぇ、思わず特典って言いかけた!

いかん……想定以上に好都合な展開にちょっと興奮しているらしい。

レヴィと合流できていないのはちょっと残念ではあるが、ここに来た時のレヴィの様子からして恐らく狂暴生物狩りかダンジョン探索に出てしまったんだろう。だからこそ、今の内に博士の様子を見れるのが好都合!

 

俺の特典が『死蝕』に効くのか、レヴィの狂暴生物狩りについて行く前に安全な場所で確かめられる絶好の機会だ!

 

 

 

暫く歩くと突き当りに扉が見えた。

歩いていたのは「せめて静かにしろ」とディアーチェに怒られたからだ……エルニシアダガー(射撃魔法)付きで……

 

「おい、青緑(あおみどり)。何度も言うが、貴様のレアスキルが効くかどうかはともかく、静かにしろ。」

「はい……」

 

いや、青緑って……それ俺の目の色じゃん。名前で呼ばれるとかは期待してなかったけどさぁ……

 

ともかく、ディアーチェの言う通りに出来る限り静かに部屋に入ると、ベッドの上で一人の男が寝息を立てていた。

……これがグランツ博士か。なんて言うか、見た感じだと病弱な優男って感じだ。白髪交じりの髪と頬のこけ方から病の苦しさが伺える。

 

≪おい、やるならばさっさとやれ。≫

≪あっ、はい。≫

 

急かすような念話に慌てて手を翳すと、グランツの体に起きている異常の情報が直接脳裏に流れ込んで来る。

 

……えっ、ナニコレ……

 

≪あの、ディアーチェさん? リンカーコアのこれって、元からですか?≫

≪……ああそうだ、ただ欠けているのとは訳が違う。

 リンカーコアの一部が死に、死んだが故に欠けていく。

 さらにそれがじわじわと広がっている……そして原因は不明だ。≫

 

こ、怖ぇ……死蝕怖ぇ……! え、コレ特典で治せるか? 治せるよな?

 

≪治せぬのならば言え、さっさと出るぞ。≫

≪ちょ、ちょっとお待ちを……もっと詳しく調べるので……!≫

 

特典を使えば原因とかもパッとわかるかなと思ったけど、ちょっとこれは予想以上だ。

特典の効果で詳しい情報をモニターのように眼前に表示すると、リンカーコアの放つ魔力波動が歪んでいるのが分かった。

 

≪……ほぉ、治すと豪語するだけはある。大層なレアスキルだ。≫

≪あ……お、お褒めにあずかり光栄です。≫

 

ディアーチェが興味を示したのか、表示されたモニターを覗き込んでいる……のだが……

 

……きょ、距離が近い。

 

右を向けばすぐ傍にディアーチェの顔がある。え、睫毛長っ! 肌めっちゃキレイ……! えっ、天使……?

 

……いや、待て待て俺!!? 俺の最も愛する娘が誰かを思い出せ!!

レヴィ・ザ・スラッシャーだろう! どこまでも真っ直ぐで快活なボクっ子! ちょっと抜けているがアホではない……いや、アホの子ではあるのか? ……あるか!

それはともかく!

 

いくらディアーチェが可愛くとも、俺らは互いに交わした約束がある! 紳士(?)の絆が、誓いがある!

ここで絆されるのはその誓いを裏切る行為だぞ!

 

≪……どうした、続きをするのではないのか?≫

≪あっ……≫

 

えっ、この距離でジト目向けられるってこんな感じなんだ。あ、ふーん……

……えっ、何この感覚。いかん! 扉が開く!? こんな一瞬で落されるのか俺!? 我ながらチョロ過ぎるだろ!?

 

……ん? あれ、何この感覚。背後から殺気?

 

「てい。」

「おぐっ!? ふぅ……!! ぁあ……ッ! ……ッ!!」

 

下腹部に走る鋭い鈍痛……! そして痛みが鈍い新鮮味を維持しながら腹部を上ってくるこの感覚……! 何とは言わないが男の魂が叫んでいる!! 主に黄金の双玉が!

 

堪らずひざを折り、急所を押えて蹲る。

涙で滲む視界を背後に向けると、そこには俺を見下ろすユーリの姿があった……!

 

「ん? どうしたのだ、ユーリ。そんなところに立って……」

「何でもありません、ディアーチェ。」

 

こ、この幼女……やりやがった……! ディアーチェに気取られる事無く背後に回り込み、足で俺の(たま)を……!

ディアーチェの事が好きなのはわかるけどいきなりここまでする!? もうちょっとあるじゃん! 「さっさとやって」って言えば俺だってやったよ? せめて殺気をぶつけるだけで良いじゃん! 蹴らなくたって!

 

……でも、ああ言うのも……

 

……ハッ!? いかん、扉が開く!?(二回目) いや拙いって! その(へき)だけは拙いって!!

 

≪おい、青緑。そのまま蹲るのであれば引き摺ってでも部屋を出るぞ?≫

 

惨い! だ、だが俺の特典は癒し特化型だ……! これしきの事……!

 

「……ふぅ」

 

何とか痛みが治まった……

立ち上がって軽く体を上下にゆするが痛みは無い。……うん、大丈夫。

 

≪じゃあ治しちゃいますね。≫

≪ああ、疾くやれ。≫

 

はい。

再び表示されたモニターの情報とにらめっこしながら、特典の効果を絞って行き……

 

 

 

……数十分後、博士の病状は快復したのだった。




一応エルトリア復興録のプロットは軽く作ってあります。死蝕に関する設定も作ってあります。だけど全部やるのには時間が足らないので、次回時間が数か月後に飛ぶと思います。

池神 万の特典『医神の目と杖』

病や怪我の原因を探る『目』と、原因を理解した病や怪我を治す『杖』の二つの能力がセットになっている。
『目』によって得た情報を正しく咀嚼し、理解しなければ『杖』の効果も半減する為、未知の病にどれほど効果があるかは本人の理解力次第。
今回はディアーチェのサポートがあった為に快復に至った。
因みに理解すれば治療は一瞬で終わるので、博士の治療にかかった数十分は丸々理解にかかった時間である。
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