その後何話か(多くて2、3話)仕込みとなる短編を書いた後、StS?編に入ります。
『無限の剣製』……それは前世に蔓延った数多の転生モノ(二次創作)小説で多くの転生者が手にしてきた能力だ。
自らが理解した『剣』を刹那の間すらおかずに投影し、本来の担い手のように扱えると言う反則じみた能力……何故か転生者本人は理解どころか、直接見た事すら無い筈の宝具を扱ってたりする事もあるという謎の多い能力でもある。
さて……何故俺がこんな事を考えているのかと言うと、俺自身の能力がそれを基にした物だからだ。
と言っても、当然ながら原典そのままと言う訳にはいかなかった。
魔力を使うとは言え、『無から有を生み出す』と言う性質が特にアウトだったのだろう。俺の特典は神様との話し合いでナーフにナーフを重ね、やがて一つの形となった。
作ろうとする対象の構造を『設計図レベルで理解し』、作ろうとする対象の『素材を必要とする』……流石にこれを『無限の剣製』と言い張る気にもなれず、俺は呼称を『錬金術』と改めた。元ネタは勿論、『鋼』のアレである。
最初の想定と比べてかなり弱体化させられたが、不便かと聞かれれば決してそうでは無く、寧ろ汎用性で見れば高い方の能力だ。
――そう、この世界が『リリカルなのは』の世界でさえなければ。
原因は管理局法で定められた規則の一つ……『質量兵器に関する禁止事項』だ。
……絶望だったよね、あの時は。
多分『無限の剣製』の原典だったなら『非殺傷の魔力で投影する』とかの方法ですり抜けられたのだろう。だがいかんせん俺のは実質『錬金術』だ。完全な物質なのだ。
いくら魔力に非殺傷を付与しようと、出来上がる物質がその性質を帯びる訳ではない。俺の容量の大部分を占めた特典は、この世界……特に管理世界で振るおうとした時点で死にスキルと化すのだ。
だが、そんな俺の『錬金術』……十全に活かす方法はあった。
前線に出る事にさえ拘らなければ、活躍する場は多いのだ。例えばマリーの様なメカニックになるとかな。
そして、そんな数多い活躍の場の中から俺が選んだのは……
「――以上の対策を長期的に継続する事で、死蝕による汚染を除去できるかと思います。」
思考に耽りながら、俺が選んだ『活躍の場』の中心人物……シュテル・ザ・デストラクターを見ると、どうやら俺が現実逃避をする原因となった会議は終わったらしい。
空中に投影されたモニターには、いくつかの図や写真と、膨大な数の文字が躍っていた。
どうやら死蝕の影響で汚染されてしまった水場を蘇らせる為の計画や、それに必要となる機材の詳細を纏めたもののようだが……如何せん俺の頭はそれを完全に理解できる領域に到達していなかった。
その事に関して申し訳なく思うが、そもそも彼女が会議をしていた相手は俺ではない。
この場に居た
「ふむ……確かに試す価値はあるね。
この方法だと死蝕を完全に克服するのに時間はかかるけど、成果は早い段階で確認できる……!
この星に残り、生きる事を選んだ者達の希望にもなる筈だ。……良し、早速とりかかろう!」
その男の名はグランツ・フローリアン……ディアーチェと池神が協力して完治させたフローリアン姉妹の生みの親であり、現役バリバリの研究者だ。
彼の病が治った時はキリエもアミタも大泣きして、それはもう凄かった。
あれからしばらくはお祭り騒ぎで食事もやたらと豪勢に……そう言えば、その話を聞いた相神はどことなく不機嫌そうだったっけ。博士の命を救う為だったと言う事で頭の方は理解はしたが、感情が納得しなかったのだとか。
いや、あれに関しては「近くで見たディアーチェの顔めっちゃキレイだった」とか煽った池神も悪いか。
まぁそんな事は良いのだ。シュテル狙いの俺には関係ないしな。
「了解です。
既に必要となる機材の
「素晴らしい! 君達にはいくら感謝してもし足りないよ!」
「いえ、これもココに蓄えられた数々の試行錯誤の記録や、長年にわたる死蝕の研究資料があればこそです。
人の持つ『継承』と言う力の強さを見せつけられました。」
「はは……ありがとう、ご先祖様達もきっと喜んでくれているよ。
彼等のしてきた事は無駄じゃなかったんだって、僕達の力で証明しよう!」
「はい。」
……いや、さっきの『俺には関係ない』と言う考えはちょっと違うな。正確には『それどころじゃない』だ。
気合を入れるように拳を握ったグランツ博士の言葉に返事をするシュテルだが……口の端が若干上がっている。
そう、笑顔を見せているのだ! 表情があまり変化しない彼女がだ!
……いや、まさかグランツ博士がライバルになるとは思わないじゃん。
もしかして『理』のマテリアルと研究者って割と相性が良かったりするのだろうか?
時々ディスカッションでバッチバチにやり合ってる時も楽しそうだしなぁ……俺? 言ったじゃん。二人の言ってる事なんてほとんどわからないよ。レベルが違うもん。
「……じゃあ、お願いしても良いかい? 九朗君。」
「あっ、はい。じゃあ、設計図を……」
グランツ博士が手渡してくれた設計図に目を通すが……うん、ダメだ。当然の事だが、さっぱり分からん。
いや、厳密には分かる箇所が無い訳ではない。タービンやスクリューと言ったような、見知ったものも当然ある。
だが『見た事ある』だけではダメなのだ。俺の『錬金術』は、その『見た事あるモノ』が、『どんな目的で組み込まれ』、『どんな動きをするのか』まで理解する必要がある。
より正確に言えば『構造に対する理解』を深める事で、歯車の経や歯数等と言った細かい所に『目的通りに動くように』補正がかかるのだ。
勿論理解せずに『錬金術』を使用しても作る事が出来るのだが……それには
……とは言え中には『魔力素分散機構』や『循環式ろ過機構』と言った最近作った物もあるから、そう言う意味では最初より理解にかかる時間は短いだろう。
だがやはり遠い……! シュテルの隣に立つ為には最低でもこの内容を一目見ただけで理解できるようになる必要があると考えると、正直グランツ博士に勝てるビジョンが見えない……!
「……どうだい?
今回は前回と比べると、結構シンプルな構造の筈なんだけど。」
「えっ、あ……うん、シンプル……シンプル? うん……」
グランツ博士はこう言うが……正直ここまでくると、前のと比べてシンプルなのか複雑なのかはもう分からん。
どっちも十二分に複雑な精密機械なのだから、見分けなんて付くはずもない。
……なんて事を考えながら設計図とにらめっこしていると、いつの間にか俺の隣に来て居たグランツ博士が励ましの言葉をくれた。
「大丈夫、直ぐに出来なければ世界が滅ぶと言う訳ではないんだ。
僕が教えるから、一つずつ理解していこう。」
くっ……グランツ博士の優しさが辛い……! こんな所でも差を見せつけられるとは……!
「……すみません。」
だが、その差を埋める為には誰かに教えを乞うてでも自分が成長するしかないのだ。
特にグランツ博士は『これを作ってくれさえすればいい』と言う教え方はせず、俺が本当の意味でシュテルの理論を理解できるように教えてくれる。
シュテルの隣に立ちたい俺としては、俺を成長させようとしてくれる博士の教え方は本当にありがたい物なのだ。
……シュテルの教え方はどちらかと言えば『作ってくれればいい』って感じだったけど。
「グランツさん、時間がかかりそうなので私は少しフィールドワークに出てきます。」
「あ、あぁ、気を付けてね。
……と言っても君達程の実力者だと、心配する方が却って失礼だったりするのかな?」
「いえ……私自身意外ですが、不思議と悪くはありません。行ってきます。」
「うん、行ってらっしゃい。」
……あれ、これもう負けてない? 博士もう好感度イベント5つぐらい進んでない?
シュテルが『行ってきます』って言ったって事は、そこは所謂『帰る場所』な訳で……うん? あれっ、家族?
「ぐふっ……!」
「だ、大丈夫かい!? 九朗君!」
「し、心配には及びません……足を引っ張っている無力感が大きくて……!」
くっ……悪態をつく気にもなれん!
だってこの博士めっちゃ良い人だもん! そりゃフローリアン姉妹があれだけ頑張って助けようとする訳だよ!
「……やっぱり、彼女の事かい?」
「えっ、なんで……」
「普段の君の様子を見て、もしかして……ってね。」
そ、そんなに分かりやすかったのだろうか……? えっ、もしかしてシュテルにもバレてる?
「大丈夫、シュテルちゃんは多分気付いてはいないと思うよ。
……多分だけど、彼女達マテリアルはそう言った感情の機微には疎いんじゃないかな?」
あぁ、そう言えばシュテル達って厳密にはプログラムだからな……生殖と言う行為を必要としない分、そう言う事に鈍感でもおかしくないか。
あれ、でも……
「でも、さっきシュテルは博士に笑顔を……」
それに『行ってきます』って、何の感情も抱いてない相手に言う言葉じゃ……
「ん? あぁ、あれは多分……
そうだな、僕の事を『友人』のように思ってくれているのだと思うよ。」
「えっ、『友人』……?」
「うん。彼女としては少し違うのかも知れないけど、僕が彼女から感じる雰囲気はそれが一番近いように思う。
多分、僕の事を信頼してくれているんだと思う。」
「な、なるほど……?」
本当にそうなのか……? でも……だとしたら、俺にもまだチャンスはあるのか?
「彼女がこれから先、恋愛と言う物に興味を示すかは分からないけど……
僕としては、君を応援したいと思っている。
仮に僕がそう言う感情を向けられる事があるとしても、僕には……妻がいるからね。
それに……」
「それに……?」
「彼女の理想を実現させる為に頑張る君なら、きっとうまくやって行けると思うんだ。」
「は、博士……!!」
くっ……! なんてこった! ライバルだと思っていた相手が最大の味方だったなんて……それに今更気付くなんて……!
くそ、視界が滲んできやがった……!
「さぁ、
「博士ッ……!」
博士……俺、頑張るよ!
「……あれ、シュテるん? 一人でどしたの?」
「おや、レヴィ? 今日は帰りが少し早いのですね。」
シュテルが建物の外に出ると、示し合わせたようなタイミングでレヴィが帰って来た。
その様子を一目見たシュテルはこう続ける。
「私はこれからフィールドワークに出ようと思っていたのですが、貴女は……なるほど、今日は遺跡に行ってきたのですね。」
「うん! だけど、良く分かったね!」
「ええ……まぁ、
「……おぉ、なるほど!」
そう言って手を打つレヴィの背後には、何やらびっしりと文字が書き込まれた紙束を抱える銀髪オッドアイ……相神 明が疲労困憊と言った様子で立っていた。
何故ディアーチェが狙いと公言する相神がレヴィと行動を共にしているのか……その理由は彼の特典と、その理由にあった。
前世の頃からアニメやゲーム等に登場する独自設定の考察が趣味だった彼が望んだ特典……それは『物体の過去の記録や情報を文章にする』と言う物だった。
なのはの世界でもある意味で最も謎に包まれている『死蝕』……リリカルなのはのファンとして当然彼もあれやこれやと考察を繰り返していたのだが、いかんせん情報が少な過ぎた。
そこで彼はこの特典を用い、『死蝕』に留まらずあらゆるロストロギアや世界観の考察を楽しもうと考えたのだ。
彼がレヴィと行動している理由の大部分もそれだ。
彼の狙いがディアーチェである事に変わりはないが、遺跡や死蝕の浸食地帯に出向く機会が多いのは圧倒的にレヴィなのだ。
寧ろディアーチェはユーリと常に一緒にいる為か、そう言った危険が伴う場所に出かける機会は彼の想像よりも少なかった。
その為、彼は自らの知識欲を満たすと同時に彼女達の目的である『エルトリア復興』に自らの能力を役立てる為、レヴィに同行していたのだ。
……因みにその過程でレヴィに何度も命を救われている彼は少しずつレヴィに惹かれていっているのだが、その事を池神が知るのはもう少し後の話である。
「それにしても……今回はいつもより紙の量が多いですね。
一体幾つの遺跡を回ったのですか?」
「いやぁ……実は一つだけなんだよね。
何かアキらんがレアスキルを使ったら、いきなり紙がブワーッ! って出て来てさー……
凄い量になっちゃったから、一度戻って来る事にしたんだ。」
「め、面目ない……」
レヴィの向ける視線に思わず謝る相神だが、シュテルは彼の持つ紙束を興味深げに眺めながら思考する。
――確か、彼のレアスキルは引き出す情報にある種のフィルターを掛けられる……
これまでそうしてきたように、今回も死蝕に関する情報に限定したはずだ。
なのにこれだけの情報量を持っていたという事は……
……より死蝕の根源に近い情報がある……?
「アイガミさん。失礼ですが、その紙を見せて貰ってもいいでしょうか?」
「えっ、あ、はい。どうぞ。」
「感謝します。」
シュテルが相神から受け取った紙束に目を通すと、早速一つの違和感を覚えた。
「……失礼ですが、この紙束の順番はこれであっているのでしょうか?」
「えっ? ……あー、ごめん。多分順番はバラバラになってると思う。
いつもと違って一気に紙が溢れ出して来てさ……回収するのに必死だったんだ。」
「ブワーッ! って出て来たからね! ブワーッ! って!」
相神の言葉を補足するように、レヴィが両手を広げるジェスチャーを交えて補足する。
そしてその様子をじっと眺めて目を細める相神……はたして彼等の『約束』は守られるのだろうか。
そんな二人の様子には目もくれず、次々と紙束を捲りながら情報に目を通していたシュテルは、やがて何かを見つけたように一つの紙に目を止めた。
「そうですか……ふむ……」
「どったのシュテるん? 難しい顔して。」
「いえ、時系列がバラバラではありますが……中々興味深い記録です。
どうやらその遺跡、かつて死蝕の研究をしていた施設だったようですよ。」
「えっ!? マジか!?」
シュテルが紙束から読み解いた内容に、大きな反応を示す相神。
その反応を受けてシュテルは再びパラパラと紙を捲り、やがて一つの文面を見つけ出した。
「はい。
……あぁ、コレがきっともっとも新しい記録ですね。
『死蝕の影響が迫って来た為、研究資料だけを持って施設を放棄した』と言う文言があります。」
「へぇー……あの施設の年代から考えて、グランツ博士の大先輩って所か。」
「そうですね。
人の研究は継承されて行くものですが、この研究成果は……」
そう言いかけて、僅かに表情を曇らせるシュテル。
彼女が目を通した資料群の中に、この研究所の持っていたデータは無かった。
それはつまり彼等の継承が途絶えてしまった事を示す物であり、シュテルは彼等の無念に思いを馳せた。
しかし……
――ですが、彼等の受け継ぎたかったものは今、時を越えて確かにここにある。
アイガミのレアスキルは、過去の思いさえも組み上げるのですね。
意図せずしてシュテルからの好感度が上昇する相神であった。
そんなシュテルの様子を知ってか知らずか、レヴィがこう話を持ち掛けた。
「ふーん……ボクとしてはあまり興味がわかないけど、どーする? シュテるんもついて来る?」
「……そうですね、一度近辺の記録を一通り見ておきたいですね。
この記録によれば、付近に死蝕の観測所があったようです。そちらの記録も組み上げておきましょう。」
「オッケー! じゃあ早速……」
「あ、ちょっと待って。自動筆記用の紙とインクを補充しないと足りなくなりそう……」
「えー……」
「……まぁ、そうでなくとも、この資料をグランツさんに届けなくてはいけませんし、少し待っていてください。」
「うー……分かったよ……」
彼女達がエルトリアにやって来てそろそろ半年になるだろうか……
三人のマテリアルと三人の転生者によって、死蝕の根源への調査は急速な進展を見せていた。
上神 九朗の特典『錬金術』
設計図レベルで『理解』した物を、構成する素材と魔力を元に作り出す能力。
ハガレンのアレ。
手を合わせたり錬成陣を書く必要は無いが、作るモノの規模に比例して魔力を使う為、
大きい物を作るとめっちゃ疲れる。
理論上デバイスも作れるが、本職のデバイスマイスター並みの知識と技術を身に着ける必要があるため、今の上神には作れない。
当然ながら生き物も錬成できない。
相神 明の特典『サルベージ』
『物体の過去の記録や情報を文章にする』と言う能力。
紙とペンがあればそれを使う事も出来るが、予め特典とセットになっている収納空間に紙とインクを入れておく事で自動筆記した物を『召喚』する事が出来る。
(物を書く環境が必ずしも整っている訳ではない事を考慮して付けて貰った機能)
その際、空中に空いた穴から紙が出て来るのだが、
筆記した情報量があまりにも多い場合は「ブワーッ!」となる事がある。
今回の遺跡でサルベージした紙束は合計320ページにも及ぶ為、紙とインクのストックを著しく消耗した。