転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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エルトリア復興録は今回で完結です。
ちょっと急ぎ足な展開ですが、ご容赦ください。
次回からはStS?編に向けての短編を2、3話書いた後にStS?編に入ります!


エルトリア復興録 4

どれくらいの時が経っただろうか。

 

転生者三人とマテリアル達は、死蝕に立ち向かう闘いの日々の中で、やがて互いに互いの得意分野を把握していった。

 

そして、より一層の効率強化を図る為、それぞれの得意分野を活かした『チーム分け』がなされた。

 

各地の情報を持ち帰る事に特化した『レヴィ&アミタ&相神』のチーム、

持ち帰られた情報を元に対策を考え、機材を作り出す『シュテル&グランツ&上神』のチーム、

そして作り出された機材を死蝕地帯に設置する『ディアーチェ&ユーリ&キリエ&池神』のチームの3つだ。

 

この役割分担が本格的に稼働し始めてからと言う物、死蝕に対する理解と対策は著しい速度で進んでいた。

 

 

 

――そんなある日のこと。

 

「皆、ちょっと研究室まで来てくれ!」

 

やや興奮した様子でグランツが全員を研究室に集めた。

 

中に入る機会があまりなかった相神と池神がキョロキョロと物珍し気に見回す中、コホンと小さく咳払いをしたグランツが全員を集めた理由を話し始めた。

 

「急な呼び出しで済まない。だけど、これに関しては早い段階で共有しておくべきだと思ってね……」

 

そう言ってグランツが何やら端末を操作すると、グランツの隣に惑星エルトリアを模した立体映像が浮かび上がった。

グランツは説明を続ける。

 

「コレは見ての通り、惑星エルトリアのホログラムだ。

 そして、見せたいものは……っと、これだ。」

 

再びグランツが端末を操作すると、今度はホログラムのエルトリアに幾つかの線が浮かび上がった。

線は惑星の表面を赤い川のように走り、周囲には薄く赤い靄がかかっている。

そして無数の線が合流する中心部……真っ赤な靄の中で赤く点滅する一際大きい点が、その場に居た全員の目を引いた。

 

「結論から言おう。

 この赤い点、この位置が……『死蝕の発生座標』だ。」

「「「!!?」」」

「ほぉ……」「……」

「なるほど。」

「?」

 

博士の思わぬ一言に驚きを隠せない銀髪オッドアイ達と、それぞれの反応を示すマテリアル達。

そして、そんな反応を見て何処か得意げに胸を張るフローリアン姉妹。どうやら彼女達もこの発見に一役かっていたらしい。

 

「相神君が持ち帰ってくれた様々な地点の汚染状況や年代、加えて池神君が僕の体を蝕んでいた死蝕の情報を解析してくれたからこの地点に絞り込めた。

 感謝するよ。」

 

博士が言うには、その情報を得てからは一日の作業を終えた後に、一人でひっそりと相神が持ってきた情報を読み解いてすり合わせる作業をしていたらしい。

ある時キリエに見つかってからは、睡眠時間の確保の為に3人で分担して作業を続けていたそうだ。

 

「さて、君達にも以前話した通りだが……『死蝕』とは『変質した魔力素』が原因となった災害だ。

 何らかの理由で変質した魔力素が周囲の魔力素を汚染し、変質させる……この連鎖が続く限り『死蝕』は無くならない。」

 

これに関しては池神がグランツの治療を済ませた段階で判明していた。

グランツのリンカーコアが死にかけていたのも、変質した魔力素を取り込んでしまった事に起因する。ディアーチェが感じ取った違和感や、生成される魔力に混じる『腐毒の様な物』の正体こそ、この『変質した魔力素』だったのだ。

 

「変質した魔力素そのものの浄化方法は既にシュテル君が確立し、九朗君のレアスキルによって形になっている。

 今でも多くの汚染地域に設置された浄化装置が死蝕の影響を取り除き続けているのは、皆も知っての通りだ。

 今の作業を続けていくだけでも死蝕の被害は食い止められるし、人の生活圏の大多数を取り戻す事は可能だろう。だけど……」

 

グランツが言うように、死蝕の影響を取り除くだけならばもう問題無い所まで来ている。だが、この段階に来たからこそグランツは全員を呼んだのだ。

 

「――だけど、僕はもう少し欲を出したい!

 今でも十分に死蝕と渡り合えている……いや、死蝕を追い詰めてさえいる今だからこそ!

 『死蝕と闘える皆がいる現在(いま)』だからこそ! 僕はこの星から完全に死蝕を消し去りたい!」

 

それはグランツの背負う使命であり、一族の悲願であり、この星に住む全ての生命の希望だった。

故に彼の言葉に込められた思いは何よりも強く、皆の心に響いた。

 

「……ふん、何を言い出すかと思えば……我は元よりそのつもりよ!

 我の住む世界にあの様な不快な物が在るなど、到底許されぬ事!

 誰に言われずともこの星から消し去っておったわ!」

「私もディアーチェと同意見です。

 個人的にもここで研究を停滞させるのは本意ではありません。」

「ボクはどっちにしてもやる事は変わらないけど……

 何かそっちの方が面白そうだし手伝うよ!」

「ディアーチェが決めた事なら、私はついて行きます。……どこまでも。」

 

最初にディアーチェが意思を示し、シュテル、レヴィ、ユーリがそれに続くように協力を申し出る。

するとその流れに乗じて銀髪オッドアイ達も口を開いた。

 

「俺も行くよ!

 俺に出来る事なんて過去の情報を取り出すことくらいだけど……何かの役に立てるかもしれねぇしな!」

「死蝕に近付く事を考えると、いざと言う時に治せる俺がついて行かなきゃな!

 安心しな……俺がついて行けば、お前らの誰一人として死なねぇよ!」

「だ……だったら俺も行くぞ!

 何か必要になるものが出てきた時、俺なら何でも用意出来るから役に立つはずだ! ……多分!」

 

まさか全員が自分の思いに応えてくれるとは思っていなかったグランツは、彼等の言葉にしばし唖然とした表情を見せた後、確認を取るように改めて尋ねる。

 

「……本当に、良いのかい?

 死蝕の根源に近付くという事は、これまで以上の危険を伴う闘いになるんだよ?」

「ふん、真の王は言葉を翻さぬ。」

 

窺うようなグランツの目を真っ直ぐ見つめ返すディアーチェの目には、些かの動揺も無かった。

それが覚悟を決めた目なのか、高慢から来る根拠の無い自信なのか……グランツはそれを確かめる為に再び問いかける。

 

「根源に何があるかもわからないし……それに、根源をどうにかしなければ周囲の死蝕は晴れない可能性が高い。

 ……死蝕の中に自ら飛び込んでの闘いになるんだよ?」

「だろうな。

 その程度の事を理解しておらぬ者はこの場に居らぬわ。」

「「「えっ」」」

 

小さく漏れた声の出所をフローリアン姉妹がジトッとした目で見つめるが、ディアーチェの答えに集中していたグランツの耳に彼等の声は届かなかったらしい。

 

ディアーチェの澱みない返答を聞いて、もしかして彼女は自らに影響を与えない死蝕を甘く考えてしまっているのではないか……そう考えたグランツは三度尋ねた。

 

「いくらマテリアルの君達だって、高濃度の死蝕の中でも平気なんて保証は……!」

「ええい、くどいぞ貴様! 貴様は何のためにこの研究室に我らを集めた!

 『我等が揃えば死蝕と闘える』! 先程貴様もそう言ったではないか!

 それをアレやコレやと濁すでない! 今更臆病風に吹かれたならば、改めて我が言ってやろう!

 『我等が揃えば()()()()()』!

 貴様が不安ならば信じよ、この我を! このロード・ディアーチェの言葉を!

 闇の王は、たかだか『死蝕』程度に屈する程、脆くはないぞ!」

 

自らの言葉を遮り堂々と名乗るディアーチェの姿を見たグランツの脳裏に、彼女と初めて出会った日の光景が蘇る。

そして気付いた。彼女は死蝕を甘く考えている訳ではないし、ましてや高慢でもない。

彼女は自分に出来ない事があると知っている。自分が敵わない相手が居る事も知っている。

だが、それと同時に彼女はもう一つ知っているだけなのだ。

 

『ここに居るものが揃った時、不可能という言葉はこの世から無くなるのだ』という事を。

 

そしてグランツは彼女の自信に溢れた目に教えられた。彼女の自信の根拠こそ、他でもない自分達なのだという事を。

 

思わず涙がこみ上げる。彼女は最初から自分たちの力を信じていたのだと知った今、彼女の言葉を自分達が信じない訳には行かない。

グランツはディアーチェの中に希望の光を見出していた。

 

「皆……ありがとう!

 もう何度君達にこう思ったか分からないけど……君達がこの星に来てくれた事に、改めて心から感謝するよ!」

 

信じるものがあれば人はどこまでも進んで行ける。どんな困難にも立ち向かえる。

例えどんな死地にあろうと、『乗り越えた先の希望』を見据えられる。

 

きっと、だからこそディアーチェ()は迷わないのだろう。

 

 

 


 

 

 

――あれから数ヶ月後、必要な準備を終えた俺達は決戦の地を睨むように全員揃って『境界線』の前に居た。

 

付近にはシュテルが設計し、上神が作り出した浄化装置がある。

だというのに、目の前に広がる死蝕の壁はまるで揺らがない。

ここから先は根源の領域……そう言う意味も込めて、俺達はこの場所を境界線と呼んでいた。

 

「――ついに来ちまったな。この時が。」

「――ああ、ついでとばかりに来ちまったよ、この場所にまでな。」

「――ここで全てが始まったんだな。……そして今、『終わり』を迎えるんだ。」

 

万感の思いがこみ上げる。ここから先はどうなるか分からない。

上神が言った『終わり』が死蝕の物になるか、俺達の物になるか……どちらにしても、ここで俺達の戦いが終わる事に間違いはない。

 

そんな俺達に向けて、ディアーチェが声を張り上げた。

 

「貴様等! ()()()()()()()()()()()()

 直に作戦開始の時刻だ! さっさと来ぬか!!」

「はい! 今行きます!!」

 

……仕方ないじゃん。怖いもん。決戦前にイキる時くらい遠くに居させてよ。

 

「……じゃあ、行くか。」

「お前ら、覚えてるよな? 昨日決めた約束の事。」

「昨日決めたのに忘れる訳無いだろ。『絶対全員で生還する』ぞ!」

 

三人で見つめ合い、一つ頷く。

作戦前日に決めた約束……誰一人見捨てない、紳士の誓いだ。

池神は死蝕を治すことで、上神は状況に合わせた錬金術で……そして俺は、未踏の地であらゆる情報を引き出し、共有する事で事故を防ぐ。

 

根源の正体も分からない現状、俺の能力は必ずしも役に立たない訳ではない……筈!

正直戦力になれるかどうかは不安だが、やれるだけはやろう。

 

 

 

 

 

 

「まったく、貴様等はこんな時に何をやっているのだ……」

「すみません、王様! ちょっと感慨深くなってしまって!」

 

少し離れたところでディアーチェにジト目で叱られる池神の姿が見える。

ひたすらに謝る姿は上司と部下のようにも見えるが……池神の奴、なんか喜んでないか?

ユーリはディアーチェの隣にピッタリと引っ付いて、池神を威嚇するように睨んでいる。……どうやらユーリからは何故か嫌われてしまっているようだな。

 

「……よし、じゃあ最後の調整をしよう。」

「グランツさん、昨日のミーティングの後に気付いた事があるのですが良いでしょうか?」

「勿論だよ。突入後は落ち着いて話せないかもしれないからね。」

「ありがとうございます。……クロウ、貴方にも関わる事なので聞いていてください。」

「えっ!? あ、はい!!」

 

上神の方は突入後の作戦に関する最終打ち合わせをしているようだ。

場合によってはあの三人が一番重要な役割になるからなぁ……

あと上神はシュテルに名前を呼ばれて嬉しそうだが、多分研究者仲間としか思われてないなアレは。……いや、仲間と思われるくらいに成長したと言う事でもあるか。

 

「どしたの、アキらん?」

「え、あぁ……なんか落ち着かなくてさ。

 多分緊張してんだ。」

 

キョロキョロと落ち着いてない俺の様子が気になったのだろう、レヴィが話しかけて来た。

……因みに『アキらん』とはレヴィが俺に付けた渾名だ。最初は落ち着かなかったが、最近はこの呼び方にも慣れてしまった。

 

「緊張? 何で?」

「何でって、そりゃ……生きて帰れる保証がある訳でもないしな……」

「ふーん……不安?」

「……悪いか。」

 

表情に出ていたのだろう。俺の心を見透かした様なレヴィの言葉に、思わず目を逸らしてしまった。

……実際の所、滅茶苦茶怖いのだ。

今までの調査の中で命の危機を感じた事は1度や2度ではない。

ある時は狂暴生物に襲われて、またある時は突然流れてきた死蝕に触れて……汚染された植物や、空中で死蝕が溶け込んだ雨に打たれた時もあったっけ。

 

……駄目だな。心に余裕がないからか、ネガティブな事ばかり思い返してしまう。

不安な気持ちが嫌な思い出を想起させ、それがまた不安を煽る……そんな負のループに入りかけていた俺の耳に、レヴィの声が聞こえた。

 

「じゃあ今回もボクの傍に居なよ。守ってあげるからさ。」

「!」

 

彼女のその言葉で俺は思い出した。ネガティブな記憶のその先を。

狂暴生物はレヴィによって倒され、俺が死蝕に触れてしまった時はレヴィは自分の楽しみを中断しても帰る事を選んでくれた。

 

命の危機に陥る度に、俺はレヴィに命を救われた。

……そうだ。そんな彼女の強さと優しさに俺は惹かれて行ったんだ。

 

「……悪い、今回も頼む。」

「ん、オッケー!」

 

そう言ってニカッと笑う彼女に、また惹かれるのを感じた。

……強くならなきゃな。

 

『男が女を守る』なんて古臭い価値観を持ち出す訳ではないが、それでもせめて彼女と並んだ時に凭れる事なく立っていられる程度には強くなりたい。

 

「――時間だ! 覚悟は良いな貴様等!」

 

俺達よりも数歩分前……境界線の一歩手前に立ったディアーチェが、俺達を鼓舞する。

 

「ここから先はまごう事なき死地である! だが、貴様等の隣に居並ぶ者を見よ!

 貴様の隣に居る者は! 貴様の敵を葬る者だ!

 貴様の隣に並ぶ者は! 貴様が守るべき者だ!

 互いを頼り、互いを守れ! そうすれば、誰も貴様等を脅かせぬ!!」

 

ディアーチェの言葉に、ついとレヴィの方を見る。

いや、なんだよその頼りなさげな目は。気持ちは分かるけどさ!

 

……そうだ。この作戦が無事に終わったら、彼女に稽古をつけて貰うのもいいかもしれない。

今までは死蝕の対応に追われて、碌に鍛錬も出来ていなかったからな。一段落したらいよいよ本格的に鍛えるとしよう。

 

「行くぞ! 作戦開始だ!!」

 

ディアーチェの号令に思考を切り替え……意を決して死蝕の中に飛び込んだ。

 

 

 

……この死地を越えた先にきっと、レヴィとの明るい未来が待っていると信じて!

 




――★ご愛読ありがとうございました!(打ち切り漫画ネタ)

それぞれの狙いのマテリアル事情

相神:ディアーチェ→レヴィ(命を救われて)
池神:レヴィ→ディアーチェ(近距離ジト目即落ち)→ユーリ?(金的でMの扉が開きかけた)
上神:シュテル(研究所に殆ど籠っていた為ブレず)

以下この小説での死蝕設定。(大半が捏造です)
※前提として『魔力素』はリンカーコアを持たない生命も呼吸のように体内に取り込み、排出している。空気中の窒素の様な物で、自分の魔力として使う術がないだけ。
魔力素の濃度が程良く高い場所だと、少し元気になったり(空気の良い環境で病が治るのも一例)、濃度が高すぎると軽度の『魔力酔い』を引き起こすなどの影響はでる。

・死蝕の正体
死蝕の正体は変質した『魔力素』。このことに関しては実は早期に発覚していた。シュテルの設計図に『魔力素分散機構』なるものがあったのはその為。
変質した魔力素は周囲の魔力素を汚染し、同様の魔力素に変質させる。この連鎖が続き、星を覆い尽くす勢いで進行している。
この魔力素を取り込んだ生物はリンカーコアが変質もしくは壊死し、生成する魔力が汚染される。様々な症状を発症し、やがて死に至る。
リンカーコアを持たない生物の場合影響がないように思えるが、実際はむしろ逆。自分の魔力というフィルターが無い分、直接的に体を汚染され即死に至る。
魔力素は自然界に普遍的に存在し、水の中も例外ではない。水中の生物が汚染され死に絶えた後、その死骸が水場を直接汚染した。

・死蝕の原因
昔、ある研究所が狂暴生物避けとして開発した装置の暴走。
本来は空気中の魔力素を取り込み、狂暴生物が嫌う魔力を散布するだけの筈だったが、エネルギー源としていたロストロギアの影響で魔力素そのものが汚染されて散布されてしまった。
研究者は当然死蝕に蝕まれて即死。ロストロギアのエネルギー量が無駄に多いせいで、装置は止まることなくずっと暴走し続けている。

・根源と顛末(長くなりすぎて収まらなかった)
暴走し続けていた装置の元に辿り着いた相神が周囲から情報を吸い出し、破壊する事で起き得る現象を看破。
シュテルとグランツ、上神が対策を施した後に、レヴィが破壊。(ディアーチェでは破壊範囲が広すぎた為)
池神とディアーチェは主に死蝕の定期的な治療でサポートした。
フローリアン姉妹は死蝕の影響が0だった為、斥候のような形でそれぞれ活躍した。
死蝕の根源となった装置を破壊した後は、その場に浄化装置を設置。死蝕の濃度が下がり始めた事を確認し、撤退した。
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