転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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あの人の登場回です。


マッドな科学者の平穏(?)な日々

夢があった。

それは俺が初めて胸に抱いた夢だった。

 

夢に破れた。

俺がそれを目指すには、何もかもが足りなかった。

 

夢が破れても現実は続く。

過去に望んだ形とは違っても、それでも人は何らかの目標を見つけて生きていく。

 

満足しているかと聞かれて、『はい』と笑顔で答えられない毎日は……夢が終わってからの色彩薄い毎日は、唐突に白に染められて終わりを迎えた。

 

――転生。

そんな選択肢を……これまでにない程大きな、そして自由な選択肢を掲げられた時に胸に去来したのは、かつて抱いた夢だった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……そんな夢を叶えるには人の手に余るほどの知識が、技術が、時間が、センスが、才能が、金が、力が、権力が、努力が、人望が……全てが必要だった。

大人になってから振り返れば、何て傲慢な夢だったのだろうと自嘲したものだ。

 

だが、娯楽と夢に溢れた世界に生まれた以上、自分でもそれらを作りたいと願うのはおかしな事では無いだろう。

 

『ゲームが好きだからゲームを作りたい』『アニメが好きだからアニメを作りたい』『漫画が好きだから漫画家になりたい』『音楽が好きだからアーティストになりたい』……そんな願いはありふれている。

そしてその全てに手を伸ばそうとして、自分の手が二本しかない事に気付くのだ。

 

あるアニメを見ていた時、とある登場人物を示す言葉が引っ掛かった事があった。

まるで昔の自分を表している様な言葉……『無限の欲望』。

 

俺はきっと彼に憧れていたのだろう。

だから願ったのだ。

 

『ジェイル・スカリエッティになりたい』『欲望の量・質を自分の物レベルにして欲しい』『自分の意思が言葉や仕草等以外で誘導、コントロールされないようにして欲しい』

 

転生の場で叶えられる願いには限りがある。ならば、転生した後に自分の願いを叶え続けようと心に決めて……

 

 

 


 

 

 

――マッドサイエンティストの朝は早い。

 

我が愛娘の声で起床し、モーニングルーティーンである高笑いを上げた後、服を着替えてから向かったリビングで朝のニュース番組を眺める。

 

暫くすると、既に台所に立っていた我が愛娘のヨヨが朝食を運んできてくれた。

今日の朝食は目玉焼きとトーストか。さわやかな朝にぴったりなメニューと言えるな。一緒に持って来てくれたコーヒーの芳ばしい香りが鼻腔をくすぐる。

 

そしてコトリと小さな音を立てて私の目の前に皿を置いてくれたヨヨが、その愛らしい口を開いた。

 

 

 

()()、そろそろ出社の時刻ですが……」

「ちょっと待ちたまえ。えっ、今何時?」

「もう直9:30になります。」

 

慌ててニュース番組の時刻を見るが、時刻の表示は7:13……? どういうことだ……?

 

「録画です。」

「何でそう言うことするの!?」

 

のんびり眺めている場合ではないではないか!!

急いで洗面所に向かい支度を始める。10時には出ないと拙いのだ! 今日は……今日だけは特に遅刻する訳には行かないというのに!!

 

歯磨きをしながら髪を整えていると、正面の鏡に映り込んだヨヨがこちらを窺うように話しかけて来るのが見えた。

 

「社長、朝食をとらないと活力が湧きませんよ。」

「じゃあもうちょっと早く起こしてくれても良いんじゃないの!?

 目覚ましが壊れてるならさ!」

「いえ、目覚ましは私が止めておきました。サプライズです。」

「この世で最も喜ばれないサプライズだよコレは!!」

 

変だと思った! あの目覚まし、無駄に頑丈な造りが売りだもの! そうそう壊れる筈がないもの!!

 

「社長の寝顔を少しでも長く見ていたかったのです……申し訳ありませんでした。」

んふぅ……! そう言われて悪い気はしないな、我が愛する娘よ。

 私も些か怒鳴り過ぎてしまった、許してくれるかな……?

「絶対嫌です。」

「ちっきしょー!!」

 

もう何この娘! デレてんの? 嫌ってんの? 我が娘ながら全然分からん!!

でも可愛いから許しちゃう! お父さんだもん!!

 

「朝食は良いから車の準備をしておいてくれ! 流石に今回はヤバい!!」

「承知しました。それと……」

「それと……なんだ!? 時間が無いんだ!」

「いえ……今日の朝ご飯は、特別愛情を込めて作ったので少し悲しいです。」

オーケー、車の中で食べようじゃないか。娘の愛があれば、お父さんは無敵なのだから……ね。

「はいはい。」

「ちょ……!?」

 

あれっ、キミ二重人格だっけ!? そんな風に造った記憶は無いんだけどなぁ!?

……いや、漫才をしている場合ではない!! ホントに拙いんだから!!

 

 

 

支度を終えてガレージを目指す途中、チラリと覗いた食卓からは朝食が消えていた。

ヨヨが持って行ってくれたのだろうか。

 

考えている時間も惜しい、さっさと車に乗り込もう!

 

 

 

「あっ! やっと来た! 社長、何やってるんですか! もう時間ギリギリですよ!?」

「君のサプライズの所為だよ!?」

 

何で君はそんな反応ができるんだ! 流石に怒るぞ、私も!!

 

「大体君は……!」

「はい、朝ご飯です。ちゃんと食べて、今日もお仕事頑張りましょうね。

 ……お父さん!」

いただきます。今日は良い朝だね。

 

やれやれ……娘が可愛くて朝が辛い!!

 

 

 

 

 

 

ヨヨが走らせる車内で朝食を食べたり、今日の予定を確認したりとする事数十分後。

壁面にでかでかと『J・C』のロゴが躍るビルに到着し、社員専用の地下駐車場から出社する。

 

「待たせたね、諸君! 我が愛娘達よ!!」

「社長! やっと来た……! 収録の時間が迫ってますから急いでください!」

「分かっているとも! スタジオは?」

「第3です! 既に撮影スタッフはあちらに!」

「撮影開始まで15分か……第3なら走らずとも間に合うな。生放送でなくて良かった……!」

 

出社の挨拶も待たずにスタジオに向かう。

我が社が()()()()でなければ面倒事が増える所だった。

 

スタジオに向かう途中、早歩きで私と並ぶようにやって来た娘達が、私が来る前に届いていたのであろう私宛の案件を伝えてくれる。

 

「社長、()()の方々から抗議が届いております。収録の後にでも……」

「ああ……まぁ、文句が出る事は予想の範疇だ。

 『私は自らの主義を曲げる気はない。()()で気に入らなければ諦めて貰う他はない。』と伝えておいてくれ。

 ……と、ミナにそれを頼むのは酷だね。交渉はドゥーエに頼もう。伝えておいてくれるかね?

 それにしても、いつまで彼等は自分達が上だと勘違いしているのやら……」

 

無駄にプライドが高い連中の事だ、大人しいミナに交渉を任せればつけあがりかねない。要求がエスカレートしていくような事があれば、私の研究に影響が出てしまう事も考えられる。

 

「はい、それでは私から伝えておきます。

 ……それと社長、くれぐれも外でその様な発言は……」

「分かっているとも。

 アレでも一応は()()()()()()()()()()()だ。

 肥大化したプライドを刺激しない程度には(へりくだ)るさ。」

 

そう言うと、ミナは一礼して去って行った。ドゥーエに連絡しに行ったのだろう。

 

しかし、最高評議会(上客)か……首輪も楔ももはや無いと言うのに、未だに彼等は脳の何処かで私が従順だと思い込んでいるのだろう。

最早私と彼等は完全に対等……ビジネスライクな関係でしかないと言うのに。

 

まぁ、私としても今はその方がやりやすい。おかげで管理局のセキュリティに手を加えると言う大役も任せて貰えた。

アレが無ければ、例の一件はもっと面倒な事になっていただろう。

 

「社長、こちらは()()()()からの……」

「あー……コレは収録後に対応するよ。

 慎重に対応しないと、()()面倒な事になりかねないからね。」

 

皆が去って行った後、一枚の書類をサンゴに手渡されたので内容を確認すると、新しい()()の要望だった。

以前一騒動あって管理局が動いてしまった為、出来れば避けたい案件だが……彼女の場合、研究費用や我がジェイル・コーポレーションの資本金も出して貰った正真正銘のお得意様だ。

最早今の私にとっての首輪や楔の持ち主は彼女の方かも知れないな。

 

そんな事情もあって、彼女の要望には逆らい難い。

違法な品を要求される事は無い為、問題点は輸送ルートのみなのが幸いか……

 

書類を預かり、後はこちらでやっておくと伝えると、サンゴは私に並ぶように歩いていたヨヨに声をかけた。

 

「ねぇ、ヨヨ……貴女のサプライズ好きも分かるけど、こう言う日の朝はやめておきなさい。」

「ミ=ゴ(ねぇ)……でも、社長は昨日も……」

「待って、その呼び名だけは訂正させて? 私は『サンゴ』! 誰が神話生物よ!」

 

サンゴにとってヨヨは年の近い妹のような存在だ。

特別目をかけている一方で、一部の妹からは若干舐められているところがある。

 

……まぁ、彼女達はなんやかんやで仲も良い。寧ろ私が仲裁に入れば拗れてしまうだろうし、ここは見守ろう。

 

「はぁ……で? 何でやったの? サプライズ。」

「社長、昨日夜遅くまで仕事してた。だから少しでも長く寝ていて貰おうと思って……」

 

なんて事だ、彼女は私を思ってサプライズを……!

感動的じゃないか。やり方はちょっとアレだったけど……

 

だが言われてみれば確かに彼女の言う通り、ここ最近は帰宅後も仕事の事にかかりきりになっていたな。彼女達にしてみれば貴重な機会を、私の都合で潰してしまったのか……

 

「あー……うん、まぁ……ほどほどにね。」

「大丈夫、社長も楽しんでた。」

「いや、楽しむ余裕は無かったがね?」

 

去り際のサンゴの注意に自信満々に答えるヨヨだが、これだけはちゃんと伝えておきたい。楽しむ余裕は無かった。断じて。

 

そうこうしている間に第三スタジオの扉の前まで来ていた。

本来ならばここでヨヨは別の仕事に向かうところだが、彼女との貴重な時間を仕事で潰してしまった負い目もある。ここは……

 

「ヨヨ、君も一緒に収録に出たまえ。

 今回の発表の内容とも丁度良いし、なにより今日は君がパートナーの日だろう?」

「行きます! ……あ、いえ、お邪魔でなければ。」

「なに、元々収録の内容は私が『お知らせ』に関して喋るだけの内容だ。台本の修正で困る者もいない。

 それに今まで私が淡々と喋るだけだった放送に、突然愛らしい登場人物が増えるのだ。

 中々視聴者の反応が楽しみな『サプライズ』だと思わないかね?」

「あ……はい! 任せて下さい!」

 

私がそう尋ねると、彼女は満面の笑みで答えた。

 

……うん! 娘が可愛くて、今日も仕事が楽しい!




先ずStS編(原作)が好きな方、特にガジェットドローンフェチの方、すみません。
この小説に於いてStS?編が原作のStS編の通りの展開になる事はありません。
ガジェットドローンに関しては存在が消滅しております。ですが戦闘機人の登場はありますのでお許しください。
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