転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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セーフ! ギリセーフ!


時空管理局最高評議会

時空管理局……それは次元世界全体の安全と安寧の維持を掲げる警察組織であるが、その歴史は設立から100年も経っておらず、意外と浅い。

 

そんな組織のトップと言えるのが、『時空管理局最高評議会』だ。

 

時空管理局最高評議会とは、『旧暦』と呼ばれる時代に活躍した3人を指す。

嘗ては彼等も純粋に平和の為に戦う青年であり、多くの仲間を犠牲にしつつも次元世界を平定する程の実力を持った勇士であった。

 

しかし次元世界を平定しても、『英雄』となった彼等の前に広がった世界は平和には程遠かった。

次元犯罪は無くならず、危険な質量兵器はいくら呼び掛けようと手放さない者も多かった。……戦争を終わらせた後も彼等の戦いが終わる事は無かった。

 

やがて質量兵器に変わる力として『魔力』を用いた『管理局システム』が作られ、時空管理局と言う組織が設立された事で質量兵器の禁止と言う目標は達成される事となる。

しかし、それでもまだ平和には至らない。いくら規制しようとも……いや、規制したからこそ犯罪者は『そこ』に価値を見出した。

陰で取引される質量兵器の数々、それらを用いてまだ規模の小さい内に時空管理局を潰してしまおうと考える過激な犯罪者……

 

彼等の悪意に対応するには、英雄は年をとり過ぎた。

設立したばかりの時空管理局の中から、特に実力のある三名……後に『伝説の三提督』と呼ばれる『レオーネ』『ラルゴ』『ミゼット』に後継を託し、英雄は表舞台から姿を消したのだ。

 

……そんな歴史の影に消えた三人の英雄は、今も時空管理局の影で()()()()()

人の肉体を捨て、脳髄だけとなってなお、生命維持ポットの中で生きていた。

 

表舞台から姿を消した彼等だが、管理局上層の一部の者には存在が知られており、彼等を通して今も強大な発言力を有している。

 

時空管理局地上本部……通称『(おか)』のトップ、レジアス・ゲイズ中将もまた彼の存在を知る一人である。

 

 

 

「――では、例の事件は……?」

『忘れよ。』

「…………御意に。」

 

時空管理局最高評議会の中央会議室。

眼前に浮かぶ3つのモニターから響く言葉に、頭を下げて了解を示す強面の男こそ、レジアス・ゲイズ中将である。

 

嘗ては地上部隊の戦力不足に悩まされ、自らの信じる正義の為に一度は道を外れかけた男である。

そして今はなんやかんやあって比較的潤沢となった地上部隊の戦力と引き換えに、胃痛に悩まされる男でもある。

 

……話を戻そう。

彼が現在最高評議会に問い合わせていたのは、『ある事件』に関する事だ。

 

『生死体事件』と一部の者の間で呼ばれているこの事件は、発覚したのが他でもない『第一管理世界 ミッドチルダ』であった。

 

ミッドチルダ東部に広がる森林地帯の中に、まるで忘れられたかのようにひっそりと捨てられていた生体ポッド……その中から発見された少女が、本事件の被害者とされている。

少女の体に外傷はなく、検査の結果は()()()。リンカーコアも検出されており、魔力が生成されている事から彼女は生きているとされた。

しかし彼女はその一方であらゆる物に反応を示さず、閉じられた目が開かれる事は無い。

公共放送を通して少女を知る者が居ないかと民間からの情報提供を促しても、報告はただの一つも上がらなかった。

そして最終手段としてプレシア・テスタロッサの立ち合いの下、本人の記憶を複製・抽出すると言う手法も取ったが……結果的にこの手法が捜査に止めを刺した。

 

――彼女には、()()()()()()()()()()のだ。

 

プレシアによれば、例え記憶喪失になったとしても、本当の意味で記憶が無くなる訳ではないと言う。

思い出し方を忘れている様な物で、彼女の術式にかかればそんな忘れられた記憶さえも掬い上げられる。多くの局員は知らない事だが、現に彼女はその術式によって『死体からの記憶抽出』を成功させているのだ。

 

しかしそんな彼女の術式により取り出された記憶は、完全に『無』だった。

死んでいないのにも関わらず、一切の記憶がないと言うのは考えられないと彼女は言い……やがて一つの答えに行き着いた。

『この子は、()()()()()()()()()()()だ』と、肉体が生きている少女にそう結論付けたのだ。

 

その報告を最高評議会に上げたところ、たった今捜査本部は解体される事になった。

捜査が完全な手詰まりになったとしても、本来ならばこれほど早く捜査本部が解体される事は異例の一言に尽きる。

 

当然レジアス・ゲイズは納得していなかった。

他ならぬ地上で起きた事件であり、更には彼の忌み嫌う『犯罪者』の力まで借りたのにも関わらず『未解決』のまま手を引くなんて事があってはならない。

 

……だが、最高評議会の判断は絶対だ。

彼は事件の報告を彼等に上げた事を後悔し、下げた頭の下でひっそりと唇を噛み締める……そんな誰に届く訳でもない小さな反抗が、彼の出来る唯一の事だった。

 

『……不満か。』

 

しかしそんな彼に再び声がかけられた。

 

「い、いえまさかそのような事は……!」

『誤魔化さずともよい。貴様の性格は我等も良く知るところだ。』

「は……はっ! 申し訳ございません!」

『謝る必要も無い。我等はそう言う貴様の頑固さをも買っているのだからな。』

 

最高評議会議長のその言葉にホッと胸をなでおろすレジアスだったが、続けて最高評議会評議員の言葉には反応せずにはいられなかった。

 

『だが今回の件はそもそも気にする必要が無いのだ。

 我等には()()()()()()()()()()……その上で事件性は無いと判断した故、忘れよと言ったのだ。

 良いな?』

「なんと……! そ、その全貌とは一体……」

『言ったはずだ、忘れよ……とな。』

 

思わず零れ出た問いを遮るように下された言葉に、レジアスは再び頭を下げた。

 

「! ……過ぎた事を申しました事を、ご容赦ください。」

『それで良い、何も問題は無いのだからな。』

 

こうしてレジアスの胸中にモヤモヤしたものを残したまま、通信は途切れた。

最高評議会の判断が如何なる根拠を持って下されたのか……それを知るのは、本人達ばかりである。

 

 

 


 

――同刻 時空管理局 『???』

 

 

薄暗い室内に、鈴を転がした様な声が響く。

 

「ふん……レジアスめ、余計な事を気にしおって。」

「これもスカリエッティの所の部下が犯した失態によるものか。」

 

場違いな声を響かせているのは、3人の少女だ。

それぞれその愛らしい顔を忌々し気に歪め、さながら老人のような口調で話し合っている。

そして赤と青の髪をもつ二人の少女の言葉を受けて、残った黄色の髪を持つ少女が口を開いた。

 

「……今回の失態を理由に、我等の新たな体を作らせると言うのはどうだろうか。」

 

黄色の少女の言葉に、赤と青の少女の顔に笑みが浮かぶ。

 

「それは良い。今度こそ奴には我等の望み通りの体を作らせよう。」

「然り、こんななりでは視察にも行けぬ。」

「奴め、『私は美少女以外作りたくない』等と下らぬ事に拘りおって……!

 約束が違うではないか!」

 

――そう、彼女達こそ、先程レジアスと話していた最高評議会その人である。

 

彼等が生み出した『無限の欲望』が早々に制御を外れ、自由を求めた彼に持ち掛けられた契約内容に記された『自由に動き回れる身体』を求めたものの、彼の主義(作りたいものだけ作る)により美少女にされた最高評議会の三人である。

 

因みに外見年齢は12歳頃。彼等としてはもっと威厳のある体が良かった。せめて管理局内で直々に指揮をとれるような……更に言えば再び最前線に立ち、皆を率いる事が出来るような青年の姿が理想だったのだ。

 

「早速抗議文を送ろうではないか、せめて男の体にしろとな。」

「うむ、善は急げだ。」

「渾身の文書を頼むぞ。」

 

……なおこの渾身の抗議文がスタジオに向かう片手間に処理され、更にはにべもなく断られるなど、今の彼女達が知る由も無いのであった。




前話にて
『私は自らの主義を曲げる気はない。()()で気に入らなければ諦めて貰う他はない。』
と返されていたのが今回の抗議文です。

最高評議会の体ですが、生体パーツで構築されたアンドロイドの様な物です。
戦闘機人やクローンの様な物ではありません。法的にも倫理的にもセーフな設計です。

・最高評議会 書記
青い髪に青い眼の美少女。
抗議文を書いた本人。文面を考える事数十分、書き上げるのに数分とかけた抗議文は、数秒で雑に処理された。

・最高評議会 評議員
黄色い髪に黄色い眼の美少女。
今の体の方がかつての自分よりも上手く魔力を扱える事に複雑な心境を抱いている。

・最高評議会 議長
赤い髪に赤い眼の美少女。
肉体を得て久しぶりに空腹を感じ、数十年ぶりの食事を堪能したところ、
「一人で来たの? 偉いね!」とサービスでおやつが付けられて驚き、
渋々食べたそのおやつの甘さに喜びを感じる舌にもう一度驚いた。

-追記-

レジアス・ゲイズの名前を間違えていたので修正しました。ごめんよ中将。

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