転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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靄に沈む未来

――新暦72年、ミッドチルダ。

 

時空管理局の運営に最も大きな影響力を持つとされる、『第1管理世界』。

俺達は時空管理局の入局試験を受ける為、ミッドチルダの首都『クラナガン』を訪れていた。

 

 

 

「しっかし、こうしてみると……第1管理世界って言っても、必要な物は管理外世界とあまり変わらないのかもな。」

「自動車、信号、ヘリコプターか……まぁ、魔力持たない人も普通にいるらしいからな。」

 

街中を散策しながら、一緒に試験を受ける事になった神無月と感想を言い合う。

 

「俺らからすればこっちは異世界だけど、もうなのは達は本格的にこっちに住んでんだよなぁ……」

「転生者の多くもこっちに引っ越して来てるって話だし、完全に出遅れたよな。」

 

俺も神無月も親がいるタイプの転生者だ。魔法や管理局の事を明かした後でも『せめて中学校を出るまでは』と言う両親の意向に従った結果、親無し勢やなのは達に大きく差をつけられてしまったと言う訳だ。

 

「それにしても、アイツ等が『先輩』かぁ……」

「実感わかねぇよなー……この間まで中学も一緒に通ってたんだぜ?」

「それなー。

 まぁ、アイツ等のおかげで試験勉強はかなりいい感じに仕上がったと思うけど。」

「おかげで大分余裕はあるよな、俺ら。」

「中学の丸々3年間、殆どそっちの勉強やってたからな。流石に落ちないだろ!」

 

そんな事を話しながらも散策の足は止めず、前世よりも幾分か近未来な街並みを見回しながらのんびりと進む。

 

こうしてのんびりと散歩に興じている理由だが……恥ずかしながら、試験日特有の緊張で落ち着かず、予定時刻よりも大分早くにこっちに来てしまったのだ。3年間勉強して、余裕がある筈なのにな。

送り出してくれたリンディさんも、ちょっと苦笑いしてたっけ……

 

「……なんか腹減って来たな。(すめらぎ)、今何時だ?」

「えっと……しまった、周囲に時計が無いな。」

「ばっかお前、さっき買ったろ? こっちの携帯端末。」

「お、おお。そうだったな!」

 

一瞬焦ったが、さっき買った端末を指摘されて思い出した。

さっき立ち寄った店で、リンディさんに両替して貰った金で買ったんだった。

慌てて服のポケットから携帯端末を取り出して、時刻を確認する。

 

「今は、午前11時だな……って言うか、お前もこれ買ってたろ。自分の見れば良いじゃんか。」

「まぁ細かい事は良いじゃねぇか。

 ……しっかし、何度見てもスマホだよなぁ……この端末。名前なんて言ったっけ?」

「商品名はミッド語でぶっちゃけ読めなかったな。店員さんはゼールホンとか言ってた気はする。」

「ゼールねぇ……会社名か?」

「そんなとこだろ。知らんけど。……それより昼何処で食う?」

「そうだなぁ……街ももうちょい見て回りたいし、軽く食えるものが良いんだが……」

 

そう言って見回すも、看板ではどんなものが出て来るかが分からないな。

……お、あれなんか良いんじゃないか?

 

「なぁ、あの屋台のあれとかどうだ?」

「ん……? お、見た目殆どたこ焼きだな。匂いからしても美味そうだし、あれにするか。」

 

そう言って俺達は屋台の前に並んだ行列の最後尾に着くのだった。

 

 

 

「……美味いなコレ。思ってた味とは違うけど。」

「地球でやっても売れそうだな、この味。」

 

たこ焼きっぽい何かを頬張りながら街を歩く。

ゼールホンを確認すると、今の時刻はまだ12時を回ったところだった。

 

「まだ12時か……試験の時刻が遠いな。」

「って言っても、あと3時間だろ。散策してたらあっと言う間よ。」

 

神無月はこう言うが、やっぱ15時の試験を受けるのに8時にこっち来るのはやっぱ早すぎたよなぁ……

 

「……っと、腹も程良く膨れたし、次はどこ行く?」

「そうだなぁ……」

 

と、次の行き先を考える俺の耳に、昔何処かで聞いた声が聞こえて来た。

 

『レディース! アンド、ジェントルメーン! ご機嫌いかがかな?

 本日は素晴らしいお知らせを諸君等にお届けするべく、こうして昼下がりの街頭モニターをジャックさせていただいたぞ!』

 

「っ!?」

「モニタージャック!? ちょっと穏やかじゃないな……!」

 

突如響いた声に弾かれたように周囲を見回すと、街を歩いていた人々は皆同じ方向を向いて足を止めていた。

俺達も皆と同じ方向を見上げると、そこにあった巨大なモニターに映し出されていたのは……!

 

「ジェイル・スカリエッティ……だと!?」

「バカな、早すぎる……」

 

しかも直接顔を出して犯行声明なんて……! 一体このクラナガンで何が起きてるんだ!?

 

 

 

『……()()、誤解を生みかねない発言は控えて下さい。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()のでしょう?』

『ちょっ……! こう言うのは雰囲気が大事だというのに……!』

『では『JCダイレクト』始まります。』

『待ちたまえ! そのセリフは私の……』

 

……なんだか良く分からない美女と良く分からない漫才のようなやり取りが為された後、画面が切り替わり『JCDirect』というロゴが表示される。いや、あれって……

 

「……ニ〇テ〇ドーダイレクト?」

「だよなぁ、やっぱり……」

 

そっかぁ……スカさん転生者かぁ……

 

 

 

「「ぅええぇえぇぇぇぇぇぇぇえええッッ!?」」

 

街中に、俺達の驚愕の声が響いた。

 

 

 


 

 

 

「はっはっはっは! やっぱ驚いたか!? その反応が見たくて黙ってたんだよ!」

『いや、言えよ! なんだよJCDirectって!? あいつ何やってんだよ!?』

 

カタカタとパネルを叩いて仕事をこなす傍ら、卓上に置いた通信端末()()()()()()()から浮かび上がった友人の表情を楽しむ。

先程スカさんが街頭モニターを使って新コンテンツの発表をしていると聞いて、休憩中の楽しみが増えたと思ったんだが、どうやらスカさんはもう一つ楽しみを増やしてくれていたらしい。

 

「スカさんって言えば、()()()()じゃ凄い有名人だぞ。

 魔力を使えない一般人が使う端末としては最高クラスの『ジェイルフォン』を作って広めたのを皮切りに、フルダイブ型VRヘッドギア『ジェイルギア』の開発等で次々利益を上げている『(J)ェイル・(C)ーポレーション』の創設者だからな。」

『な、なんか頭痛くなってきた。

 ……つまり俗に言う『ゆりかご』とかの事件は……』

「起きない! 多分な!」

『えぇ……』

 

いやー、懐かしいなこの反応! 俺らも最初あれ見た時は愕然としたもんだ!

……うん、全員で口裏合わせて隠して正解だった!

 

『……って言うか、さっきフルダイブVRって言ったか!?

 え、あんの!?』

「あるぞー。おかげでこっちでもバーチャル空間で訓練できるし、何なら魔力を持たない子供でも魔導士体験が自然とできるレベルの完成度だ。

 そして当然……ゲームもある。」

『神じゃん』

「だろ? そう言う意味でも有名人な訳だ。」

 

まぁタイトルは『ベルカの伝説』みたいなどこかで聞いたタイトルがあったりするんだが、多分アレは『自分は転生者です』ってアピールしてんだろうな。

そうでもしないと『なのはの撃墜事件を起こさせない!』だとか『ヴィヴィオを酷い目に会わせない!』だとかの理由で襲撃されかねんし。

 

……って、そう言えば……

 

「なぁ、皇。そう言えばお前らJCDirect見てたんだよな?

 ……新情報、なんて言ってた?」

『あん? 何て言ってたっけな……

 殆ど忘れちまったけど……ああ、そうだ。

 何か『アビス・ナンバーズ44』の実装がどうのって言ってた。』

アビス・ナンバーズ44(ヨヨちゃん)実装!? いつ!?」

『いや、殆ど忘れちまったって……多分そう遠くないんじゃないの?』

 

マジか……マジか……! いや敵として登場した美少女キャラがなんやかんやで仲間になる法則は確かにソシャゲじゃ鉄板だが……よりにもよってアビス・ナンバーズでそれやるのか! って言うか出来るのか!?

しかもヨヨ(44)の結末でそれ出来るんだったらヒナ(17)ミツ(32)も出来るじゃん!? 人気からして絶対やるじゃん!?

 

「ありがとう……スカ様……!」

『いやなに拝んでんだよ。怖えーよ。』

「お前もナンバーズ・クロニクルやれば分かるって……

 って言うか、お前も今ジェイル・フォン持ってるんだよな!?」

『えっ……うん。』

「ナンバーズ・クロニクルってソシャゲに興味……って、切られちまったか。」

 

 

 


 

 

 

話の流れでさらっと布教しようとしてきたので通話を切る。

JCDirectは今も開発中のゲームの発表を続けており、周囲の人々の中には映像をスマホの……いや、ジェイルフォンだっけか? で撮影している者もいる。恐らくはこの後SNSにでもあげるのだろう。

 

「ったく、今はソシャゲどころじゃないってのによ……」

「にしても、スカさんがゲーム会社の社長ねぇ……

 発表中のタイトルからしても間違いなく同郷(転生者)の仲間か。」

「事実上のStS消滅か……」

 

大きな事件が幾つか起きなくなったって言うのは喜ばしい事なんだが……一切未来が分からなくなったな。コレ。

いや、未来がアニメ通りにはいかないってのは既に痛感しているんだが……今回のは飛び切りだ。

 

StSの事件ってなんやかんやで殆どジェイル・スカリエッティが絡んでいたからな……もうヴィヴィオが登場するのかも怪しい。

 

「……さて、どうする? この後。」

「まだ試験まで時間があるし……買いに行くか、ジェイル・ギア!」

「だよなぁ!」

 

まさかミッドでフルダイブVRが出来るなんて思わなかったぜ!

やってくれたなジェイル・スカリエッティ(転生者)! ありがとう! ホントありがとう!!

 

 

 

……なお、ジェイル・ギアを買うには手持ちの金が足りなかった。

俺達は「もっと金持ってくるんだった」と後悔しながら、時間ギリギリまでジェイル・ギアの試遊を続けるのであった。

 




この後普通に試験は受かった。

因みに2話前でスカさん達が収録していたのが、今回のJCDirectです。
そして次回からいよいよStS?編に入ります。
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