転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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StS?編突入です。


StS?編
Bランク昇格試験


――新暦75年 4月 時空管理局地上本部 仮想試験場

 

多数のモニターと、人一人が入れるカプセルがズラリと並ぶ部屋にて、

『使用中』と表示されている2台のカプセルの前に立ち、彼女達はモニターに表示される映像を見つめていた。

 

「……どう思う? はやて。」

「うん……二人共あの年齢とは思えんくらい仕上がっとる。

 魔法術式のランク自体もB+くらいはあると思うけど、実戦形式なら二人共魔導士ランクは更に上やろうな。」

 

今しがた名前を呼ばれた女性の名は、『八神はやて』。

少女時代に巻き込まれた『闇の書事件』をきっかけとして管理局に入局し、ギル・グレアムの影ながらの支援もあって管理局内に多くの味方(コネクション)を持つに至った女性である。

 

「二人はどう思う?」

 

そしてはやてはもう一人の女性と、その傍らに浮かんだスイカ大のドローンに声を投げかけた。

 

「はやてと同意見かな……二人共既に『自分の戦い方』を持ってる。

 だからあと伸ばせるのは魔力量と、実戦での立ち回りくらいだと思う。」

『私もフェイトと殆ど同じ意見だけど……ただ、ちょっと連携の練度が甘いかな。

 二人共、お互いに変な距離があるみたい。』

 

はやての問いに答えたのは今しがた『フェイト』と呼ばれた女性と、ドローン……ではなく、そのドローンに備え付けられたモニターに映る人物、『フェイト・テスタロッサ』の姉である『アリシア・テスタロッサ』である。

 

二人は『ジュエルシード事件』と呼ばれる事件を引き起こしたプレシア・テスタロッサの娘であり、一つの体を共有する姉妹だ。

その事件の裁判で保護観察処分になった事をきっかけとして管理局に入局し、その後は高い実力とたゆまぬ努力で執務官にまで上り詰めたと言う優秀な経歴を持つ管理局員でもある。

 

「……言われてみれば、姉さんの言う通りかも。

 二人共、どこかお互いに遠慮してる様な……」

「そうなんか……? 私にはよぉ分からんけど……」

『まぁ私達は普段から連携して戦ってる様な物だからねー、

 そう言うところには敏感なんだ。』

「うーん、二人がそう言うんやったら間違いないんやろな……

 リインなら分かるんやろか……?」

 

今は現地の『ゴール地点』で待つ自身の相棒の姿を思い浮かべながら、モニターに視線を送るはやて。

映像の戦いは、まさに最終局面へと向かっていた……

 

 

 


 

 

 

「『ディバイン……バスター』!!」

 

拳を振り抜くと同時に、その軌道上に一瞬だけ展開した術式を打つ事で発動した砲撃魔法は、()自身の拳の推進力をも威力に変えて一直線に突き進む。

 

狙うは隊列を組んで眼前へと迫る標的用ドローンの群れ。そのど真ん中を穿つように放たれた『ディバイン・バスター』は、多くのドローンを巻き込むようにして爆発した。

 

「っし! 作戦成功!」

 

それを確認し、小さくガッツポーズをとる。

すると俺の上空から声が響いた。

 

「まだよ! 『クロスファイアー・シュート』!」

 

叫ぶように術式を発動したのはティアナ・ランスターだ。

彼女は助走をつけて跳びあがり、空中で逆さまになった状態のまま姿勢を制御。先程俺がディバイン・バスターを撃ち込んだ地点にデバイスの銃口を向けると、その先から幾つもの魔力弾が発射された。

巻き上がる煙と粉塵の中に彼女の発動した魔法が雨のように降り注ぐと、煙の中から先程俺が撃ち漏らした個体の物であろう破砕音と爆発音が幾つも響く。

 

「一度上手く行ったからって油断しないの! アンタの悪い癖よ!

 それに、一人で突っ走り過ぎ! コンビネーションの事も考えなさい!」

「ご、ごめん、ティア……」

 

危なげなく着地したティアナは、ずんずんと俺の方に詰め寄ると人差し指を突きつけて叱る。

 

……ティアナの言う事は尤もだ。さっきの俺の行動は、お世辞にも連携に向いた動きとは言えない物だった。

ティアナの方が上手く合わせてくれたから何とかなったものの、もしもこれが実戦だったなら、あの隙に反撃を貰う事も十分考えられたのだ。

 

だけど、こればかりはまだどうにも()()()()()()()()()

 

コンビネーションを重視するという事は、必然的に互いに意思疎通をする事になるのだが……そうすれば、ティアナに俺の正体……転生者である事がバレてしまうかもしれない。何故ならば、彼女も俺と同じ転生者である可能性が高い……いや、ほぼ確実だからだ。

俺が転生者である事が彼女にバレてしまえば、ティアナとの距離はもっと広がってしまうかもしれない。そうなってしまえばもはや連携どころではないし……正直、ティアナに嫌われるのは結構堪える。

 

彼女の事は嫌いではないのだ。あの時訓練校でティアナが転生者であると気付いてからも、それは変わらなかった。彼女自身の人柄とか、面倒見の良さに嘘は感じられなかったし……それに、結構趣味も合うし……とにかく、そんな彼女に嫌われるのが怖くて一定以上に距離を詰められないのだ。

 

まったく……結果として却って彼女に迷惑をかけてしまっているのに、それでも踏ん切りが付かないなんて、つくづくダメだな俺も……鍛えてくれた母さんにも申し訳ない。

 

「っ! ……はぁ、反省したならもう良いわよ。

 いつもの事だし、今は試験が優先だもの。反省会はまた後でやるわよ。」

「あ、うん……」

 

結局やるんだ、反省会……

 

「……何?」

「い、いや何も!」

 

じろりと睨まれて、半ば反射的に答えを返す。

反省会の時のティアナって結構容赦ないからなぁ……いや、兎にも角にも今はこの試験に合格する事を考えよう!

 

残ったターゲットは、既にティアナが広域探査で見つけてくれている!

だったら今の俺に出来る事は……!

 

「『ウイング・ロード』!」

 

地面を拳で殴りつけ、何も無い空中へと道を伸ばす。目指すは1つ残った群れの座標! 攻略まで後少し!

 

 

 


 

 

 

「行くよ、ティア!」

「……ええ!」

 

――またやってしまった。

そんな反省を胸に、スバルの開いた道(ウイングロード)を進む。

 

先程の連携の遅れに関しては、実のところ()にも反省すべき点はあった。

確かにスバルの初動は予め決めていた合図よりも僅かに早かったが、普段からスバルと組んでいる俺ならば……彼女の癖を知っている俺ならば、その時点で彼女に合わせられたはずなのだ。

 

それが出来なかったのは、(ひとえ)に俺の恐れの所為だ。

彼女に正体がバレるのが怖い、転生者だと知られたくない……そんな恐れが俺の脚を一瞬止めてしまったのだ。

 

……あれは訓練校のとある授業での事だ。

ほんのちょっとした切っ掛けで、俺は彼女が転生者であると確信してしまったのだ。

 

当時から兄のティーダに直々に鍛えて貰っていた俺の実力は、同じ訓練校の生徒の中でも上位にあった。

機動六課に入る為に実力は隠していたが、それでも培われた観察眼はスバルの動きにある違和感を目敏く捉えていた。

 

組手や模擬戦等の実技指導の度に見受けられた、不自然なぎこちなさ……

俺も最初はスバルの体の秘密が原因ではないかと考えていたが、ある事故をきっかけにそうではなかったのだと理解した。

スバルの動きの違和感の原因は確かに力を抑えていたからではあったが、それは彼女が戦闘機人の能力の所為で周りが傷つくことを恐れた故の物では無かったのだと。

 

……あの時スバルが全力の片鱗を見せてくれたおかげで、俺は彼女が転生者なのだと確信できたのだ。

 

……正直、俺はそれでもよかった。

彼女の雰囲気はスバル本人とはきっと違うにしても、一緒に居て心地良いと感じる物だったし、何より彼女の優しさは間違いなく演技ではなく本心から来る物だと確信している。

 

なにより、あの時彼女が全力を出してくれていなかったら、俺は今ここに居たかどうかも分からない。

 

だけど、スバルの方はそう思っていなかったら……?

もしも俺が転生者だとバレてしまったら、彼女は今と同じように俺とチームを組んでくれるだろうか?

 

……いや、きっと彼女はそんな事で俺を拒絶する事は無いだろうとは思う。

そう信じる一方で、知られてしまえば俺達の関係は今よりもぎこちない物になってしまうのではないか……そんな不安から一歩踏み出せない。

 

彼女に対して一方的に『反省会だ』等と言っておいて、結局自分自身はその反省点をずっと抱えてここまで来てしまった。

今更自分から打ち明けるような勇気は持てず、心の何処かが彼女に気付いてほしいと叫んでいるのに、それでもバレるのが怖くて距離を詰められない。

 

我ながらめんどくさい奴だと思う。それでも……

 

「――居たよ、ティア!」

「っ! ええ、最後までしっかりやるわよ、スバル!」

 

それでもこうして彼女と一緒に居たい。一緒に試験に合格し、これからも一緒に居る為に俺は……!

 

 

 

 

 

 

「あはは、今度はティアがちょっと早かったねー……」

「……ええ、後で一緒に反省会ね。」

 

危険の無い範囲で、気付かれない程度に……今の関係が変わらないように、互いに気にし過ぎないように。

 

今の関係が……不完全なままの連携が心地良い。

きっとこれも、機動六課に入ったら直されるのだろう。きっといつかは正体も気付かれるだろう。

だけど、それならばせめて今だけは不完全なままで……

 

 

 

……あ、でも()()()()事になるのだけは嫌だから、その時はもうバレるのとか気にせずちゃんとやろう。知っててあんなの喰らいに行くとか流石に正気じゃないし。

 

 

 


 

 

 

「――っくしゅん!」

 

……うーん、誰か私の噂でもしてたのかな。

 

Thank you for a good sneeze(くしゃみ助かる).≫

≪君、本当に欲を隠さなくなったよね。≫

 

周りに人影が無いからってこのポンコツは本当に……まぁ、叱っても悦ぶだけだからそれは置いておくとして……

 

「この子達が新人のティアナとスバルか……どう思う?」

 

手元の端末から浮かび上がった映像の二人を指し、意見を求める。

 

Both of them already have sufficient ability(二人共既に十分な実力を備えています).

 However, the roughness of cooperation is conspicuous(しかし、連携の粗さが目立ちます).≫

「うん、私もそう思う。

 訓練校でも連携の大切さは教えてたはずだけど……()の連携に目が慣れちゃったからかな?」

 

皆の……海鳴市の銀髪オッドアイの連携練度の高さは、管理局全体でも随一とされている。

 

ほぼ毎日のように一緒に魔法の訓練をし、魔力弾スーパーボールをし、組手をし続けた彼等は、互いの魔力波動を意識せずとも感知できるようになった。

更には組手で互いの手の内や癖を知り尽くしている為、突然乱戦になっても念話の一つも使用せずに即興劇のように連携が出来るのだ。

 

今更一般的な連携を叩き込むのは却って非効率という事で、彼等はその類の教育を受けることなく全員同じ班に割り振られた程だ。

 

そんな精度の連携を何度も見て来たからか、流石に私の感覚がずれてしまったのかと思ったのだけど……

 

I think that is also a factor(それも一因とは思います). but……(ですが……)

「……うん、そうだね。それ以上に、やっぱり二人共何処かお互いに距離があるみたい。」

 

やっぱり最初に抱いた違和感が正しいと肯定され、再び映像に目を向ける。

映像は丁度、最後の標的の一団……その中でも一際大きい個体を、スバルが砲撃で撃ち抜いたところだった。

これで後は予め決めていたゴール地点に向かうだけ。

残り時間も十分にあるし、文句なしの合格だ。

 

「……そろそろ私達も行こうか、レイジングハート。」

≪Yes, my master.≫

 

記念すべき二人との()()()()()なのに、遅刻するのはカッコ悪いしね。




現状明かせる情報(=一部を除いて本編では詳しく書かない予定の設定群)

・スバル
 転生者。
 ティアナが転生者である事に気付いているが、ティアナに転生者バレしている事に気付いていない。
 姉のギンガと共に母のクイント・ナカジマに直々に鍛えられており、
 姉との実力差も既にほとんどないが、機動六課に入る為にランクを調整していた。
 訓練校時代のある出来事から、ティアナが転生者であると確信している。

・ティアナ
 転生者。
 スバルが転生者である事に気付いているが、スバルに転生者バレしている事に気付いていない。
 兄のティーダ・ランスターに直々に鍛えられており、この時点で一通りの訓練を済ませているが、
 機動六課に入る為にランクを調整していた。
 訓練校時代のある出来事から、スバルが転生者であると確信している。

・クイント・ナカジマ
 スカさんが戦闘機人事件を起こしていないので普通に生きている。
 スバルとギンガはとある通報(by天使)により保護した。
 二人が訓練校に入学する際、自身のリボルバーナックルと同タイプのデバイスを
 スバルとギンガにプレゼントしている。
 その為、スバルもギンガも両手にリボルバーナックルを嵌めている。

・ティーダ・ランスター
 死ぬはずだった任務で、同じ作戦行動をしていた銀髪オッドアイにより命を救われる。
 以降その銀髪オッドアイとは友人関係となり、自身の鍛錬の相手もしてもらっている。
 ティアナには自分と同じ轍を踏ませないようしっかりと稽古をつけていたが、
 それでも予想していたほどにはティアナの実力が伸びなかった(ティアナが実力を隠していた)為、
 ティアナを試験に送り出してからずっとそわそわしていた。
 今は地上本部でハラハラしながら合否の報告を待っている。

・海鳴市の銀髪オッドアイ達
 連携の都合などから全員が同じ部隊となった。
 当然多くの銀髪オッドアイが機動六課に入る事を狙っていたのだが、
 この関係で全員の六課入りが不可能となった。(そもそも戦力オーバーになるので入れても1人か2人)
 現状は試験運転という事で地上本部勤務だが、
 活躍が認められれば『海』に行く事になるかもしれない。

・空港火災事故
 そんなものはない。
 何故か異常な数の銀髪オッドアイが集まっていたが、彼等が驚くほど何も起きなかった。
 スバル達は初対面同年代の銀髪オッドアイにやたらと囲まれていた。

・時空管理局地上本部 仮想試験場
 ジェイル・スカリエッティの全面協力により、VR技術で作られた試験場。
 スバル達の試験も仮想空間内で行われている。
 本人達の実力を過不足無く発揮できる上、いくら暴れても問題無い親切設計。
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