瓦礫と罅に覆われた廃墟の街の中、所々が崩壊し列島となった高速道路の島の一つに銀髪の女性が一人立っていた。
『リイン、今最後のターゲットが破壊されたところや。
もう直二人共到着すると思うから、しっかりな!』
「心得ております、はやて。」
リインと呼ばれたその女性は空中のモニターに表示されたはやての言葉にそう答え、手元に表示されたタイマーに一度目を落とすと、再びはやてに目を向ける。
「――想定していたよりも、一分程早いですね。
途中経過は私も見ていましたが、優秀な人材のようです。」
『ああ、私もそう思っとる。
今はまだ連携に難ありってとこやけど、そこさえ克服すれば直ぐにでも次の段階に行けるはずや。』
「……既に彼女達の弱点に気付いておられたとは、流石です。はやて。」
『えっ? あぁ……うん、勿論や! は、はは!』
「はやて……?」
若干気まずそうに答えるはやての様子に首を傾げつつ、リインフォースは今回の受験者について考える。
――確か今回の受験者は訓練校に通っている頃から互いにチームを組み、
どちらもトップクラスの成績で卒業されたとか。
そうであるなら今回の成績にも頷ける点は多い。しかし……
手元にスバル・ナカジマとティアナ・ランスターの情報を表示させながら、リインフォースはいくつかの疑問点に辿り着く。
――成績が優秀な二人がチームを組む事は珍しくない。
互いに実力を惜しみなく発揮できれば、成長もまた著しい物となるからだ。
しかし、二人が優秀だからこそ、これだけの期間を共にしておきながら、
チームワークにまだ穴があるのには……何かしら普通ではない事情があるようにも思える。
彼女達の連携の改善……果たして一朝一夕で成るものだろうか。
そんな思考に浸るリインフォースを、はやての声が現実に引き戻す。
『なぁ、リイン? ところで、ツヴァイは今何処におるんや?』
「ツヴァイですか? 彼女なら……」
「はい! ツヴァイ、ただいま戻りましたです! はやて!」
はやての問いに答えようとしたリインフォースの真上から、妖精のように小さい少女が一人現れ、代わりに返答した。
自らを『ツヴァイ』と呼称した彼女……正式名称『リインフォース・
『あはは……受験者が気になるんは仕方ないけど、あまり持ち場を離れたらあかんよ?』
「誤解なのです! 私はデータをとる為に動いていただけなのです!」
「……こういう事なので、大丈夫ですはやて。私も許可を出しましたので。」
『そうか? まぁそう言う事ならええか。
ツヴァイも分かっとると思うけど、もう直受験生の子がそこに来るから最後までしっかりな。』
「はいです!」
そのやり取りを最後に通信が切られると、リインフォースはツヴァイに向き直り口を開く。
「それで、肝心のデータは取れましたか?」
「勿論ですよ! これなのです!」
そう言ってツヴァイが翳した手の平から、立方体のポリゴンが現れる。VR内でデータのやり取りを行う際に、分かりやすいように視覚化された物だ。
「拝見します。」
それを受け取り、早速情報に目を通しながらリインフォースは今回の試験の結果を導き出していく。
――魔力制御に問題は見られず、魔法に使用した魔力に無駄も特に無し。
身体制御は、ティアナ・ランスターに妙な癖がついている以外は問題無し。
ツヴァイの観測結果は……なるほど、やはり遠目では分かりにくい小さな癖ですね。
直接見て貰って正解でしたか。
しかし、仮想空間内でこの癖が出るという事は……いえ、今は良しとしましょう。
状況把握は共に概ね良し、連携は共に及第点と言ったところでしょうか。
作戦指揮、ティアナ・ランスター概ね良し。スバル・ナカジマ及第点。
さて……これで後は、時間制限に間に合うかどうかですが……
そこまで考えてタイマーに目を遣ると、残り時間は『3:52』と表示されていた。
そして、ほぼ同時に耳に届く小さな声――
「ティア、ここ!?」
「ええ、この真上よ!」
――どうやら、間に合ったようですね。
リインフォースの見つめる先、高速道路の下から螺旋階段のように伸びあがるウイングロードを見つめながら、リインフォースは最後のチェック項目を埋めたのだった。
「「――機動六課?」ですか?」
「そや。もうすぐ正式に稼働する、私の部隊や。
フェイトちゃんも、なのはちゃんもそこに所属する事が決まっとる。」
試験を終えた俺達は、結果が出るまでの間はやてとフェイト、そしてリインフォース達との面談を行っていた。
その中で『機動六課』の話題が上がったのだ。
正式名称『時空管理局本局 古代遺失物管理部 機動六課』。
登録は陸士部隊である事や、陸戦魔導士を主体としたロストロギアの関与事件が起きた際に稼働する部隊である事等、アニメでも語られた内容を、今まさにはやての口から聞いている訳だ。
正直、興奮と緊張で思考が纏まらない。
だってそうだろう。この世界に転生して『なのは達に会える』と思ってはいたし、アニメで見た場面をより近くで体感出来たらと期待もしていた。
だが、実際に転生したら俺はティアナ本人で、直接勧誘される立場になっていた。
そして今まさに俺は『アニメで見た場面』に居るのだ。ティアナとして。
別にこの光景が放送される訳でもないし、誰かに見られている訳でもないが、それはそれとして感情が定まらないのだ。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、これまで明るい調子で話していたはやての声が一転して真面目な物に切り替わる。
「さて……スバル・ナカジマ二等陸士、それにティアナ・ランスター二等陸士。」
「「は、はい!」」
先程との温度差もあって、思わず背筋が伸びる。
その様子を見て、はやては言葉を続けた。
「正直に言うと、私は二人を機動六課のフォワードとして迎え入れたいと考えとる。
ロストロギア関連の事件はどれも一筋縄ではいかんもんばかりで、きっと難しい任務になる。
せやけどその分経験は積めるし、昇進機会も多くなると思う……どないやろ?」
「魔法戦に関してはなのは……高町教導官に魔法戦を直接教われるし、ティアナは執務官志望だったよね?
私で良ければ教導の合間にアドバイスが出来ると思うんだけど……」
「え……っと……!」
はやての言葉に続いてフェイトが機動六課に入る利点をアピールする。
本心を言えば、機動六課に入りたいとは思っている。そうでなければこのタイミングで試験なんて受けない。
だけど言葉がのどに詰まって出て来ない……!
言い淀んでいるのを変に勘ぐられないだろうか、嫌だと思っているのではなんて誤解を生まないだろうか!?
「あ……あの、あたしは……!」
何とか言葉を捻り出そうとする俺の声を遮るように、大きな声が響いた。
「あ、あたしはお願いしたいです! ティアナも、だよね!?」
「スバル……は、はい! お願いしましゅ!!」
スバルの言葉に続けるように、何とか俺の考えを伝えられた。
……最後少し噛んでしまったけど。
「ふふ、こっちまで声が聞こえてたよ。
これからよろしくね。スバル、ティアナ。」
「えっ?」
「あ、なっ、なのはさん!?」
突然のなのはの声に思わず視線を向けてしまう俺と、急にどもり始めるスバル。
あー……スバルが先に答えを出せたのって、なのはが居なかったからかな。もしかして。
「ここ、座ってもいい?」
「勿論や。」
「とりあえず、試験の結果ね。
先に結果を伝えると、二人共課題はあるけど合格だよ。」
「「やっ……!」」
「喜ぶのはもうちょっと待ってね。」
突然の結果発表に思わず緩みかけた緊張を、なのはの一言で再び引き締め直す。
そうだ、先程なのはは『課題はある』と言っていたじゃないか。いくら何でも思考放棄し過ぎだぞ、俺!
そんな俺達の様子を見て、なのはは手元の資料を見ながら続けた。
「……二人共、魔法技術はほぼ問題なし。
状況把握能力も悪くないし、総合的に見ても十分な実力があると思う。
だけど……多分、二人共気付いてるよね? 連携には改善すべきところがあるよ。
二人が機動六課に入ったら、先ずはそこを直して行こうと思う。」
「「はい!」」
……やっぱり分かるよな。うん。
俺も色々と覚悟は決めておこう。
「あと……ティアナなんだけど……」
「あ、あたしですか?」
「うん。モニター越しには分からなかったんだけど、ツヴァイが脚に癖があるって。」
「ッ!!」
突然の事でついびっくりしてしまう。
まさかこんな早い段階で気付かれるとは思わなかった。……いや、違うか。
正直、もう克服したと思っていたのに、それがまだ残っている事に驚いたと言うべきか。
「その反応、気付いていた……のかな?」
「……はい。ただ、もう矯正できてたと思っていたのですが……」
「そっか。……うん、それじゃあ一緒に頑張ろう。
私も協力するよ!」
「あ、ありがとうございます。」
きっとなのはは原因に気付いていて、その上で意図的に話題を避けてくれたのだろう。
その配慮に内心で感謝していると、少し暗くなってしまった雰囲気を察したはやてが、パン! と手を叩き、明るい調子で話し始めた。
「さて、二人共。一先ずは試験お疲れさまや! 機動六課は二人を歓迎するで!
ほんでこの後は……ん?」
「「え?」」
はやてが何事か続けようとしたのも束の間、はやてが視線を向けた方を釣られて見てみると、この場に新たにもう一人の人物が現れていた。
「やほ~」
彼女の特徴としてまず目に入るのは、ポニーテールにした状態でも背中まで届く程長い、鮮やかなオレンジ色の髪だろうか。
そして眠そうな表情を絶やさない顔をよく見れば、それこそ隣に並ぶなのはに引けをとらないような美女であるのだが……
――表情で全部台無しだぁ……
何と言うか、『やる気がありません!』って全力でアピールしている感じだ。
こんな特徴的な女性なのに、少なくとも俺はアニメで見た記憶が無い。
「あ、朱莉ちゃんも来たんだ。」
なのはに『朱莉』と呼ばれた彼女があまり詳しく描かれなかっただけの職員なのか、俺達と同じ転生者なのかはともかく、この少女はなのは達と仲が良いようで、その事が気になった俺は思わず彼女を観察するように見てしまう。
俺の視線を感じたのか、女性はにへらっとした表情で手をフリフリと揺らす。
何か……気の抜ける女性だな。緊張感が無いと言うのもここまで極めればキャラになるって感じだ。
「なのはちゃんがどこかに行くのを見かけてね~
ついてきちゃった。」
「朱莉ちゃんか、丁度ええ所に来てくれたな!」
「う~ん、頼み事? ……最悪のタイミングの予感……」
「そない大変な事ちゃうよ。二人に設備を案内したって欲しいんや!
同じ六課に入る仲間なんやから、顔合わせも兼ねてお願いな!」
「え……」
「「「えぇ~!!?」」」
面談室に、3人の驚愕の声が響いた……3人?
おい、なんで
朱莉さんは当然機動六課に入ってます。既に転生者のバーゲンセール状態なので……