――『強過ぎる力は争いを呼ぶ』。
そう言った類の言葉は、前世でも良く耳にした事がある。
もっとも、平和な現代日本の一般的な家庭に生まれた俺にとって、それはあくまで漫画やアニメ、ゲームと言った創作の中での言葉だったのだが。
そんな事を思い出しながら、目の前の老人の次の言葉を待つ。
「……済まない、『キャロ』。これもル・ルシエの為なのだ。」
創作の中の言葉が自分に向けられる日が来るなんて、あの時の俺が聞いたら絶対に信じないんだろうな。
だが今の俺の名は『キャロ・ル・ルシエ』。前世の一般人・オブ・一般人な俺とは違い、『強すぎる力』を持った召喚士であり魔導士……そして、『魔法少女リリカルなのは』と言う創作の中に生きる少女なのだ。
そう言う状況に立ってみれば、創作の言葉は現実の教訓に変わるのだ。
「クルル……?」
ふと聞こえた鳴き声に目を落とせば、俺の腕に抱かれながらこちらを不安気な目で見つめる小さな飛龍と目が合った。
「クルルルル……!」
安心させるように頭を優しく撫でてやると、嬉しそうに頭を擦り付けて来る。
……うん、可愛い。
そのままフリードを撫でながら、俺は長老に向き直りいつも通りの口調で返した。
「……長老、貴方の判断は、間違っていない。だから私の事は気にしないで。
フリードとヴォルテールも一緒にいてくれる。
……私は大丈夫だから。」
……片言のような口調だが、これでも少しでも女の子らしい口調にしようと結構頑張っているのだ。
結果として、『話すのが得意ではない』と言うイメージが定着してしまったようだが。
口調はともかく、俺の言葉を聞いた長老は初めてその表情を歪ませた。彼の額に寄った皺が、その内心を物語っている。
数年間「ル・ルシエ」と言う部族の中で過ごして来たからこそ、俺にもわかる。長老も部族の仲間も、誰一人としてこの結末を心から望んでいる訳ではないのだと。
「……今までありがとうございました。どうか、お体に気をつけて。」
最後にそれだけを告げて、俺はル・ルシエの里を後にした。
結末はやはり追放と言う形にはなってしまったが、最後の最後まで家族として見てくれている事が分かった。だから彼等に恨みは無い。
勿論こうなる事を知っていたからと言うのもあるだろうが、不思議と心は落ち着いていた。
――ル・ルシエの里に、サヨナラバイバイ。俺は
何処かでヴォルテールの咆哮が聞こえた気がした。大丈夫、お前も一緒だから。
……さて、現実逃避はやめてこれからの事を考えよう。
大前提として、今の俺には家が無い。今しがた家だった『ル・ルシエ』を追い出されたのだから当然だ。
キャロが辿ったように管理局に保護され、フェイトに保護され、機動六課へ……と言う流れに乗れれば一応の展望は開けるだろう。
少なくとも衣食住の確保が出来て、力も付けられるし就職も出来る。
幸いにして俺の居る『アルザス』は管理世界の一つだから、探せば管理局の支部くらいはあるだろう。一先ずはそこを目指すとしようか。
となると、やはり本来のキャロの様な大人しい少女の振りをするのが一番か。
……このまま原作通りに動くとすると俺はフェイトを騙す事になるのか。正直気は乗らないが、これも生きる為だ。それ以上の悪事は働かないので許して欲しい。
取りあえず、俺の召喚竜達には情報を共有しておこう。
そう考え、腕に抱いていたフリードを向き合うように正面に持ちあげる。
「……フリード、これから私は『か弱くて大人しい少女』。解った?」
「ク、クル……?」
いや、何だよその『出来るの?』みたいな顔は。舐めんな。
「ふりぃど、おねがい。きょーりょく、してね……?」
「……ハァ。」
おい、なんだよそのため息は。そこは俺を励ますように『クル!!』って鳴くところだろうがよ。
……いや、ぶっちゃけ我ながら『無いわ』って思ってたけどさ。
自然な子供らしい話し方とか練習しないとなぁ……
「取りあえず、そう言う事だから。ヴォルテールもそれでお願いね。」
《――承知した。》
しかし、『自分だけの特殊な召喚が出来る召喚士になりたい』って願った結果がこれか。確かに願いのイメージ元はキャロのヴォルテールではあったんだけど、そこまで神様に伝わっちゃったのかねぇ……?
――『天才』と言う言葉がある。
『天才』とは文字通り『天から与えられた才能』の事だ。そして『天才』となれる機会はたったの一度……つまり、『生まれた瞬間』のみ。
或いは自分を含めたあらゆる人間が何かの分野では『天才』と称される能力を持っているのかも知れないし、俗に言う『天才』とはその才能を自覚し、実際にその分野で才能を活かしている者を言うのかも知れない。
恵まれた体格を持って生まれた人がスポーツ選手を目指すように。
だから俺はこう思う……転生とはきっと、あらゆる意味で『天才になる事が出来る唯一の後天的好機』なのだと。
そして俺はどんな『天才』になりたいかを考え、神様に願ったのだ。
『エリオ・モンディアルの様な、『何でも身に付けられる天才』になりたい』と。
そうして転生を果たした俺には、ある4文字が常について回った。
――『違法研究』。
そう言った類の言葉は、前世でも良く耳にした事がある。
もっとも、平和な現代日本の一般的な家庭に生まれた俺にとって、それはあくまで漫画やアニメ、ゲームと言った創作の中での言葉だったのだが。
だがこの言葉、こうしてみると今生の俺にとってはつくづく縁深い言葉らしい。
この世界に於いて俺は違法研究によって生まれ落ち、違法研究者に半ば強引に連れ去られ、違法研究のモルモットにされていた。
今生での俺の名はエリオ・モンディアル。揉んでやるじゃなく、モンディアルだ。
――そう、俺はあの願いによって『エリオ・モンディアル』本人として生を受けたらしい。
いや、『本人』と言うのは語弊があるか。
モンディアル家の一子が亡くなり、モンディアル家の跡取りとしての代替を求めたのか、亡くなった子供が戻ってくると信じたかったのか……どちらにしても、俺は両親と『プロジェクトF』によって生み出された『エリオ・モンディアルのクローン』なのだから。
そんな俺に対する違法研究者からの扱いは、お世辞にも良いものとは言えなかった。
牢獄の様な何もない狭い個室に押し込められ、最低限の食料と睡眠時間。それ以外は妙な器具を付けられたり、血を採られたりとまさに実験動物だ。
普通の生まれではないからなのだろう、俺は文字通り「モルモット」の様な扱いを受けた。
だが俺はアニメのエリオの様な外見に釣り合った中身をしている訳ではない。神様から貰った特典に加え、自らの内にある魔法の力も自覚し、制御する事も出来ていた。
そしてダメ押しに、この施設に居る者の大半は非戦闘員だ。研究の事しか考えておらず、魔法で戦う事を知識でしか知らない者ばかり……まぁ、実戦経験が無いって点では俺も似たようなものなのだが。
兎も角、ここに連れられてきて2日目。流石の俺も我慢の限界が来て、行動に移した訳だ。
2日目でキレるのは早いなんて思わない。一日あんな扱いされて眠るまで我慢できたことを寧ろ評価して欲しいくらいだ。……寝て起きた時、牢獄の天井を目にして最初に思ったのが『やるか』だったのは、流石にちょっとアレかもしれないが。
だが仕方のない事だと思う。いきなり平穏な生活を取り上げられ、何も無い牢獄のような部屋に押し込められ、更には人でなし共から人では無いモノのように見られる……我慢が出来る方がどうかしている。
で、実際に何をしたかを言うと、『魔法で暴れた』。これに尽きる。
迸る雷の魔力を暴れさせ、いくつもの機材をダメにしてやった。
魔力をぶつけて研究者を失神させ、研究資料の紙も雷で燃やした。
そうしたら食事量を減らしてこちらの憔悴を測って来た為、扉を破壊して強引に食料を奪った。
魔法で牽制しながらコンロで肉を焼いた経験は無かったが、まぁやって見れば何とかなるものだ。
調理後の肉をしたり顔で食ってやったら悔し気に睨まれた。凄く気分が良かった。
そんな感じで色々とやった結果、今では俺の扱いも『籠の中のモルモット』から『柵の中のライオン』レベルには上がっている。
正直ここまでやれば逆に研究施設から俺を追い出す方が良いと思えるくらいには暴れたつもりだったが、どうにもこう言うマッドサイエンティストは自身の安全よりも研究を優先する生き物らしい。
今でも奴らは研究を続けたり施設の補強をしたり、罠を張ったりと無駄な抵抗を続けているし、それに対抗するように俺も研究を邪魔したり施設を壊したり、罠を壊したり掛かったりと言った日々を過ごしている。
正直この不毛な争いをもうやめたいのだが、管理局が来るまでもうちょっとかかる筈だ。
この日々ももうしばらくは続くだろう。どちらかが折れない限り。
・キャロ
転生者。
キャロに生まれた日から既に覚悟はしていたので、割とあっさりル・ルシエを出る。
転生時の願いのイメージとしてキャロとヴォルテールを思い浮かべていた為、キャロに生まれた。
フリードは勿論、既にヴォルテールの力も完全に制御できており、遠隔での意思疎通も可能。
演技は苦手。
・エリオ
転生者。
エリオの事情や攫われる事等を知っていた為、原作のエリオよりも精神的なショックは遥かに少ない。
エリオの『何でもモノにする才能』に憧れた結果、エリオに生まれた。
現状は原作エリオよりも魔力が多く、魔力のコントロールが少し上手いくらいの差異しかない。