とある次元世界の片隅に、ひっそりと隠れるように存在するとある研究施設。
その中では毎日のように違法な研究が行われていた。
……当然、この日も。
「チッ、無駄に頑丈な造りしやがって!」
苛立ちを隠そうともせずに吐き捨てた赤髪の少年は、この研究所で造られた巨大な魔導人形の拳を左の方向へ飛び込むように回避し、お返しとばかりに振り抜いた拳から雷撃を放つ。
――勝った!
確実に命中する軌道で放たれた雷撃に、内心で勝利を確信するエリオ。
しかし、機械人形の腕に命中した雷撃は、次の瞬間『パチン』と言う音と共に弾け、霧散してしまった。
術式の組み方を学んでおらず、デバイスのサポートも受けていないエリオの放った魔力任せの攻撃は、機械人形の腕に当たったところで何のダメージにもならなかったのだ。
「なに!? 今までの奴らならこれで……!」
驚愕に目を見開くエリオだが、無理もない。
これまでにも研究所の作った機械人形と戦う事は幾度もあったが、その度にエリオの雷撃は機械人形の内部構造をショートさせる事でエリオに勝利を齎して来たのだ。
その自慢の一撃が通用しなかったと言う動揺は大きく――
「――しまっ……! ぐぅ!?」
機械人形が振り回した腕の一撃を受けてしまう。咄嗟に魔力で身を守ったものの、やはり正しく魔法を学んでいないエリオではその衝撃を打ち消すには至らず、大きく吹っ飛ばされてしまった。
「く……っそ……!」
『ハァーッハッハッハッハァ!! バカめ! その機械人形『クソガキワカラセンダー
過去の
どこからか響く研究者の声が告げたように、彼等の戦いは今回が初めてではない。
それは今から数ヶ月前のこと。
エリオをこの研究所に連れて来たまでは良いものの、碌なデータが取れぬまま食料だけが奪われ続ける日々に、研究者達は考えた。
――そうだ。『食料を守る方法』と『研究データを取る方法』を一つにしてしまおう……と。
かくして、エリオとクソガキワカラセンダー達の戦いは始まったのだ。
そして数ヶ月が経った今……研究の成果はついにエリオを捕らえてしまった。
別室でその様子を窺っていた研究者達は、データを取る事も忘れてモニター越しのクソガキワカラセンダーEXVの雄姿に拍手喝采している。どうやら連日の徹夜が祟って色々と高ぶっているようだ。
そんな事を知らないエリオは、ガンガンと痛む頭で必死に思考する。
――くそ、さっさとこの人形を始末して食い物を強奪しねぇと、またデータが取られる……!
そうなればコイツを倒しても今度はもっと強い人形が作られちまう……何とかしねぇと!
正に絶体絶命のピンチだ。眼前に立ちはだかる威容を前に、まさか研究者がデータを取っていない等、思い至るはずもない。
全身を苛む鈍い痛みにふらふらになりながらも立ち上がり、クソガキワカラセンダーEXVを睨み……
そして次の瞬間、クソガキワカラセンダーEXVは眩い光と轟音を伴って……粉々になった。
『「――は?」』
それは誰の声だったのだろう。眼前の脅威が唐突に消滅したエリオの物だったのか、それとも研究の成果であり希望の戦士でもあった切り札を突然失った研究者の誰かの物だったのか……
いずれにせよ、その小さな声に対する返答は
「――時空管理局執務官、フェイト・テスタロッサです。
違法研究及び、未成年者略取等の罪で、貴方達を拘束します。」
天井を高速で突き破ったのだろう、パラパラと舞い散る破片と差し込む陽光を浴びながら、自らを脅かす存在だった物のスクラップの上に佇むその姿はエリオの目に鮮烈に焼き付き……
――これが、フェイト・テスタロッサ……
それは『エリオ・モンディアル』が抱いた憧れとは違う形で、しかし確かに彼の心に刻まれた。
――カッコ良過ぎるだろ……
意識を失う寸全、彼は確かに自らの目指す理想の姿を見た。
「キャロちゃん……だよね? 僕はエリオ・モンディアルって言います。
これからよろしくね。」
ル・ルシエの里を出て数ヶ月後のある日、なんやかんやあって無事に管理局本局の保護施設に入る事になった俺の元に、その少年は突然やって来た。
彼の表情は年のわりにやけにしっかりとしたもので、一端の大人の様な責任感すら感じさせる頼もしさすらあった。
「あ……私はキャロ・ル・ルシエ……です。
えっと、よろしくお願いします。」
一方で俺の方は急に話しかけられたため、こう返すのが精一杯だった。
何せこちとらまだ女の子らしい口調の習得も出来ておらず、一言一言に気を遣う状態が続いていたからだ。
その上、話しかけて来たのがよりにもよってエリオだ。他の人よりもより一層言葉遣いには気を遣わざるを得ない。変な話し方であらぬ印象を与えてしまっては、この先にどんな悪影響があるか分かったものではないのだ。
そう言った想定外な事態が重なった事もあり、握手に応じる事も忘れた俺の態度を緊張と捉えたのか、エリオは申し訳なさげに笑顔を作り、差し出していた手を引っ込める。
「ゴメンね、急に来られても困るよね。
……正直に言うと、施設の人に頼まれたんだ。
『キャロちゃんが皆と距離を取ってるみたいだから』って……」
そう言って俺の後ろの方を見るエリオの視線を辿ると、建物の影に慌てて隠れる職員の姿が一瞬見えた。
今ので大体の事情を察した俺は、エリオに向き直り小さく頭を下げた。
「……私の方こそ、すみません。
エリオ君にも迷惑をおかけしてしまって……」
この施設に来て早数日経つが、俺の評価は既にル・ルシエの里と同じものになっていた。
即ち、『話すのが苦手な大人しい子』……だ。
話す相手も遊ぶ相手も現在はフリードオンリーと言う現状をどうにかしたいと思った職員が、同年齢のエリオに頼んだのだろう。
「いや、迷惑って程ではないよ。
ここにくる子は皆訳ありだからね、今のキャロちゃんみたいになっちゃう子も多いんだ。
今じゃ皆と一緒になって遊んでいるクレイ君も、最初はキャロちゃんと同じ感じだったよ。」
「そう……なんですか。少し意外です。」
「うん。キャロちゃんの悩みだとか、辛さだとか共有できる子もここには多い筈なんだ。
だから悩みを克服する意味でも、一度勇気を出して話してみて欲しいかなって。」
……少なくともクレイ君の悩みと俺の悩みは違うと思うけど、そう考えるとどうやら俺の様子は傍から見ればそれほど特殊ではないのだろう。エリオの話し方がやけに慣れている様子なのも、俺以外にもこういう事を頼まれていたのではと考えると納得がいった。
「……エリオ君は、凄いですね。
私と同じくらいの年齢なのに、大人と話している様な……」
「えっ!? そ、そうかな……?」
何故か急にそわそわしだしたエリオの様子は気になるが、彼の言う通りなのも事実だ。
誰とも話さない状況が続いても、俺の悩みが晴れる事は無い。誰かと話さなければ、話し方の改善なんて夢のまた夢なのだ。
「……それでは、これからお友達として、よろしくお願いします。エリオ君。」
「! うん。僕からもよろしくね。キャロちゃん。」
その日、この世界で初めて友人が出来た。
性別も年齢も偽っている俺が本当の意味で全てを打ち明けられる日は来ないと思うが、それでも少しだけ近い何かを感じる友人が。
それから数年後、新暦75年4月――
二人は、とある空港に居た。
「……今日から同僚になるんだね。私達。」
「うん。『時空管理局本局 古代遺失物管理部 機動六課』……僕達の目標がいる場所。」
「頑張ろうね、エリオ。」
「うん。一緒に強くなろう、キャロ。」
機動六課の稼働まで、後僅か。
以下、キャロがエリオと同じ保護施設に入る事になった原因
最初に保護された場所が原作と違う保護施設
↓
本局にパイプを持つ職員がキャロに将来の目標を聞く
↓
キャロ、『時空管理局に入りたい』と答える
↓
職員(なら本局の保護施設の方が環境的にも都合が良いか)
↓
職員「行く?」
↓
キャロ「行く!」
という感じです。
因みにその関係で自然保護隊には所属していませんし、フェイトにも会っていません。