転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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機動六課、稼働

新暦75年 4月

 

この日、正式稼働が始まった機動六課の部隊長である八神はやての挨拶が、機動六課隊舎にて行われていた。

壇上に登りスピーチを続けるはやての正面には、自ら才能を見出しスカウトしたフォワード陣を含めて数十名の局員がずらりと並んでいる。

 

「――では長い挨拶は嫌われるんで、以上ここまで。

 機動六課課長及び部隊長、八神はやてでした。」

 

挨拶をそう締めくくったはやてに拍手が送られ、この瞬間より機動六課は動きだした。

管理局全体でも一部の者を除いて知らされていない、機動六課の()()()()の為に。

 

 

 

数分後、挨拶を終えたはやてとフェイトと別れたなのはは、フォワード陣の面々を引き連れて隊舎の通路を歩いていた。

その途中、ふと思い出したようになのはが立ち止まり、後ろをついて来ていたフォワード陣に振り返るとフォワード陣の4人に尋ねた。

 

「そう言えば、皆はもうお互いに自己紹介とかはした?」

「あ、はい。昨日の内に一通りは。」

 

ティアナが答えたように、既にお互いの得意な距離や魔法を始めとした諸々の情報共有は前日に済ませていた。

と言っても、互いが知らないだけで全員が転生者である為、コールサインの確認以外は殆どおさらいの様な物だったが。

 

「そっか。それじゃあ早速訓練に入りたいんだけど、大丈夫そうかな?」

「「「「! ……はい!」」」」

 

続くなのはの提案に、フォワード陣は背筋を伸ばす。

なのはは彼女達の緊張に固まる表情を見て、安心させるように微笑むと柔らかい口調で語りかける。

 

「そんなに緊張しなくても良いよ。

 最初の訓練だし、今の皆がどれだけ動けるかの確認がメインだからね。」

「「「「はい!」」」」

「あはは……」

 

落ち着けようとしても一向に緊張が抜けない彼女達の様子に、なのはは困ったように笑うのだった。

 

 

 


 

 

 

時を同じくして、はやてとフェイト、そしてシグナムは屋上のヘリポートに続く通路を歩いていた。

今日新たに稼働を始めた機動六課の代表として、遺失物対策部隊の会議に出席する為だ。

 

「さっきも行ったけど、今日の会議は遺失物対策部隊の代表だけや。

 フェイトちゃん達は出席の必要はあらへんけど、ホンマにええんか?」

「うん、ついて行くよ。心配だから。」

『はやてに当たりが強い人も未だに居るからねー』

「フェイトちゃん、アリシアちゃん……ありがとうな。

 二人がいてくれると心強いわ。」

 

『闇の書事件』の恒久的な解決が為され、自らの部隊を持つ事を認められる程度の信頼を得ても、『夜天の主』と言うだけではやてに対して良くない印象を抱く者は未だにいる。

それほど闇の書事件の影響が大きかったのも一つの要因だが、若くして地位と権力を得た八神はやて個人に対する嫉妬もあるのだろう。

 

「済まないな、フェイト、アリシア……

 私がついて行ければ良かったのだが……」

「ううん、シグナムが護衛についてたら多分もっとややこしい事になると思う。

 私達もはやてには色々助けて貰ってるし、丁度良かったよ。」

『困ったときはお互い様だよ!』

「……感謝する。」

 

そう言ってフェイト達に頭を下げるシグナムだったが、その表情には悔しさが滲んでいた。

家族を守れる力があるのに、家族を守る事が出来ない歯痒さと言うものなのだろう。体の影に隠すように握られた拳からも、それがありありと見て取れた。

 

 

 

はやて達が屋上に出ると、高速回転するヘリコプターのローターが巻き起こす風とモーター音が彼女達を出迎えた。

風と音の発生源である機体の傍にはパイロットらしき青年が一人立っており、はやて達に気付くと振り返って口を開いた。

 

「……おっ! 来なすったな。」

「ヴァイス君、準備できてるか?」

「勿論、いつでも出れますぜ!

 最新式の機体を操作できる日が待ち遠しくて、暇があれば整備してましたからね!」

 

そう言ってヴァイスと呼ばれた青年、『ヴァイス・グランセニック』はヘリコプターの機体を愛おしそうに撫でる。その様子からはヘリコプターに対する思いが見て取れた。

 

「……っと、今は話しこんでる場合じゃないか。

 それじゃあ皆さん好きに乗り込んじゃってくださいよ!

 行先はクラナガンっすよね?」

「うん、お願いな。」

「へへ、大船に乗ったつもりでどうぞ! 豪華客船にだって負けない乗り心地を保証しますよ!」

 

そう自信満々に胸を叩くヴァイスだったが、ふとフェイトの傍らに浮遊するドローンを見て思い出したように言う。

 

「ところでそのドローンはどうするんです?

 確かまだ試作段階で外部に持ち出すのは厳禁って聞きましたけど。」

「ああ、それならば私が木之元の所に持って行こう。

 彼女もそろそろ試運転のデータが欲しい頃合いだろうからな。」

「えっ、シグナム姐さんは乗らないんで……あぁ、成程。

 すみません、配慮が足りず。」

「気にするな。誰が悪い訳でもないのだからな。」

 

シグナムはそう言って、アリシアの操縦するドローンに近付くと両手で抱えるように持った。

 

『じゃあ後は任せるね、シグナム!』

「ああ。

 ……お前達も、はやてを頼む。」

『大丈夫大丈夫、私とフェイトがいれば無敵だからね!』

「ふっ……そうだな。

 私に二つ目の黒星を付けたお前達ならば、私も何の憂いも無く任せられる。」

『うんうん……あれ、私達で二つ目なの? やっぱり一つ目はなのはちゃん?』

「……いや、ずっと昔の事だ。今となっては再戦も叶わぬ相手だからな、これ以上話す必要もあるまい。」

『ふぅん……?』

 

シグナムの返答に首を傾げるアリシアに、既にヘリに乗り込んだはやてから声がかかる。

 

「アリシアちゃん! そろそろ出発するし、ドローンの通信切っときー!」

『はーい! じゃあ、行って来るね!』

「ああ。」

 

その会話を最後にアリシアがドローンの操作をやめると、表示されていたアリシアの姿が消え、代わりに『No Signal.』と言う文字がミッド語で表示された。

それを確認し、はやてがシグナムに言葉を投げかける。

 

「シグナム、今はココを守るんがシグナムの仕事や。

 ここは私達にとって2つ目の家みたいなもんやからな、しっかり頼むで?」

「はい、お任せを。」

 

そしてシグナムの見送る中、ヘリはクラナガンへと飛び去るのだった。

 

 

 


 

 

 

隊舎の傍にある林の中に作られた広場……なのはが訓練の為にフォワード陣を連れて行ったその場所では、まさに死屍累々と言った表現が似つかわしい光景が広がっていた。

 

「――はぁっ、はぁっ!!」

「も、もう……動けない……」

 

へたり込んだような姿勢のまま、汗だくで荒い呼吸を繰り返すティアナと、その傍で俯せに倒れこんだスバル……

彼女達は既に体が出来上がっている為、エリオやキャロよりも厳しいメニューを受けていた事もあり、もう立ち上がる事も困難なところまで追い詰められていた。

 

「はっ……! はっ……! キャロ……! 大丈夫……?」

「うん、なんとか……」

「キュー……」

 

未成年である為に訓練メニューがやや軽くなっているエリオとキャロも、立っている事がやっとと言った様子だ。

ついでとばかりに絞られたフリードリヒに至っては、地面に羽を広げて目を回している。

 

「……うん、じゃあここで10分間休憩!

 皆が今どれだけ動けるかも分かったし、一息ついたら場所を変えて次の訓練に入るからね!」

「「「「ヒィ……!」」」」

 

そんな中で唯一立っている人物、高町なのはは明るい笑顔でそう宣告した。

フォワード陣の体に溜まった疲労は10分間で回復するほど軽い物では無く、彼女達はなのはの笑顔の背景に鬼を見た。

 

「あはは、心配しなくても大丈夫だよ。だって次の訓練は……」

 

 

 

休憩時間を終えて更に十数分後、彼女達は先程とは違う平原に居た。

 

「わぁ! 凄い、()()()()!」

「成程、VRシステムを実践訓練に使う事で体も休められるって事ね……」

 

ティアナが言うように、ここは仮想空間内の訓練場だ。

肉体に蓄積された疲労から解放され、興奮した様子で跳ね回るスバルを見ながら彼女はなのはの訓練メニューに納得した。

 

「そう言う事。ただその分、筋肉をつける為に現実での訓練は()()厳しくなっちゃうんだけどね。」

「「「「少し……?」」」」

 

いや、やはり完全に納得した訳ではないらしく、なのはの言葉には他のフォワード陣と同様に首を傾げていた。

その様子を見たなのはは「ふふ」と小さく笑うと、セットアップしてレイジングハートを構える。

 

「それじゃあここからは対人戦を想定した模擬戦だよ!

 折角の仮想空間なんだから、皆遠慮なく全力を出してね!」

 

突然のセットアップにフォワード陣が戸惑っている間にも、なのはは模擬戦のルールを説明していく。

 

「皆は4人で1チーム! そして相手は私、高町なのは一人!

 ここではあまり意味は無いけど、非殺傷設定は厳守だよ。実戦で『うっかり』って言うのを無くす為にもね。

 それ以外の魔法の制限は皆には無し。

 私は飛翔魔法の高度を5メートル以内に加えて、簡単な誘導弾以外の攻撃魔法の使用を禁止。バインドも使わない。

 ……こんな所かな?」

 

なのはの告げたルールはあまりにもフォワード陣にとって有利過ぎる不公平なルールだ。

なのはが一つ条件を付け加える毎に、フォワード陣の表情が強張って行く。

 

「そんな条件で……?」

 

『勝てるつもりなのか』と言う言葉をティアナは飲み込んだ。

何せ彼女は転生者であり、更にはティーダ直々の訓練を受けている事はなのはも知っている筈なのだ。

他のフォワード陣もそれぞれ似たような思いを募らせていく。

 

そして……

 

「私に攻撃を直撃(クリーンヒット)させる事が出来たら、そうだなぁ……

 明日の訓練がその分軽くなります!」

「「「「!!」」」」

 

なのはが最後に告げた破格の条件を聞いて、彼女達の目の色は変わった。

それは報酬に目が眩んだからではなく……

 

――舐められている。

 

と、皆が思ったからだ。

この世界に来て魔法の力を手にし、各々がそれぞれの訓練に時間を費やし、力を蓄えて来たと言う自負があるからだ。

 

そのプライドを傷付けられ、彼女達の心はこれまで以上に一つになるのだった。

 

……なのはの狙い通りに。

 

 

 

数分後、仮想空間の草原に立っていたのはただ一人だけ……

 

「それじゃあ、ここで10分間の休憩!

 その後はこのまま仮想空間内で、それぞれのポジションに合わせた立ち回りの訓練だよ。

 私はちょっと他の教官のみんなを連れて来るから、一旦現実に戻るね。」

 

そう言って模擬戦の勝者であるなのはの姿が消えると、ティアナが全員の気持ちを代弁するように叫んだ。

 

 

 

「何よ、あの()()()()()()()!!!!」

 

それは世の理不尽を嘆く、魂の叫びだった。




希望をぶら下げて煽り、その後全てを打ちのめす鬼教官。

仮想空間内の設定としては、魔力量や身体能力、体力に加えて使用可能な魔法まで現実のものと限りなく同じになっています。
『訓練中』と『休憩中』の設定があり、休憩中の時は疲れや消費した魔力が急速に回復するようになる為、回復魔法を得意とする魔導士がいなくても安全かつ短期間に濃密な戦闘訓練が可能となります。(感覚が狂うので基本的に訓練は『訓練中』の設定で行う)

尚、市販されているゲームの場合はプレイヤーの素質や身体能力を無視して色々な魔法が使える為、魔力を持つ持たないに関わらず大人気のコンテンツとなっています。

会議の内容ですが、原作とは違いジェイル・スカリエッティによるレリック関係の事件が起きていない為、はやての出席した会議の内容は当然原作とは違います。しかし、特に伏線を挟む余地はないので会議内容はスキップする事になるかと思います。
他にもヴァイス君が機動六課に入る切っ掛けとかも細かい所で違ったりするのですが、それは後々書く事になるかと思います。

以下なのはの訓練内容設定です
(この日ははやての挨拶とかもあり、微妙にメニューが違う)
原作との相違点として、『ガジェットドローンとの戦闘を想定した訓練』はしておらず、『対人戦を想定した訓練』がメインとなっております。

07:30~朝食後、訓練開始/肉体のトレーニングが中心。魔力操作の訓練も。
11:30~昼休憩
12:30~休憩後、訓練開始/肉体のトレーニングと魔法の訓練(魔力操作ではない)。
16:00~小休憩と移動→『機動六課隊舎 仮想訓練所』
16:30~仮想空間内にて対人戦を想定した模擬戦や訓練。
19:00 訓練終了。(軽いストレッチと、魔力操作で経験を馴染ませれば終わり)

……メニュー軽くね? と思った方は感想欄等で指摘していただければ、それに伴いメニューが厳しくなるかもしれません。
(実際肉体的には十分な休憩をとっているのですが)
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