転生者を騙す転生者の物語   作:立井須 カンナ

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恐怖と役得(?)

PM 9:15 機動六課隊舎

 

初日の訓練を終えたフォワード陣が自室に戻り、もうすぐ消灯時刻を迎えようとしている頃、

この日の教導を終えた筈の高町なのははオフィスに残っていた。

 

カタカタと端末を操作するタイプ音だけが響くオフィスのドアが開き、彼女がモニターに向けていた眼を扉の方へ移すと……

 

「なのは、まだ残ってたんだ。」

「あ、フェイトちゃん。うん、明日の訓練の事でちょっとね……

 会議(そっち)の方はどうだった?」

「一応、問題無し……かな。

 想像していたよりもすんなり受け入れて貰えたよ。

 やっぱり後ろ盾が大きいからかな、部隊が正式に稼働した以上は強く出られないみたい。」

「そっか、良かった。」

 

フェイトの報告を聞いたなのはは、思っていたよりは順調な滑り出しに表情を緩める。

その様子を見ながら、なのはのデスクに近付いたフェイトはモニターを覗き込み尋ねた。

 

「それよりも、ティアナの癖の原因の裏は取れた?」

「うん……やっぱり訓練校の時に、ちょっと事故があったみたい。

 幸いその怪我は後遺症も無く治ったんだけど、やっぱり恐怖心が残ってるのかな。

 模擬戦中にシャマル先生にそれとなく診て貰ってたんだけど、左脚を過剰に庇うみたい。

 その所為で避ける動作がどうしても大きくなっちゃうんだって。」

 

モニターに映っていたのは訓練校とのやり取りのログだった。

ティアナの()の原因を調べる為に彼女の訓練校時代の教官とコンタクトをとったなのはは、訓練校時代に起きた事故の話を聞かされたのだ。

その内容を思ってだろう、なのはの表情が再び曇る。

 

「……そうだったんだ。

 でも、()()()()()()()()()()は……」

「うん……『センターガード』。

 回避の度に大きく動くのは以ての外……特にティアナみたいな精密射撃型は。」

 

センターガードは戦場を俯瞰し、的確な援護と指示を両立させると言う、チームに於いて重要なポジションだ。

当然敵から狙われやすいポジションの一つであり、常に冷静な対応力を求められる。

そんな彼女が敵の弾に怯え、大きく動かされるような事があってはチーム全体の動きに影響してしまう。

 

それが今日の訓練で明らかとなり、フェイトはなのはに確認を取るように尋ねる。

 

「どうするの? ポジションを変えるか、対処法を変えるかそれとも……」

「それとも、強引に克服させるか……だよね。

 ティアナの事だから勿論本人にも相談はするけど、あの子がどの道を選んでも対応できるように、

 今からメニューを考えておくつもり。」

 

フェイトが言い淀んだ部分をなのはは補足するように答えた。

元々考えていた候補の一つであり、彼女が望むであろう選択肢だと思っていたからだ。

 

「初日から大変だね。

 明日は私も訓練を見られるし、その分メニューを組む時間も取れるから今日はそろそろ帰らない?

 教官が夜更かしで調子出ないんじゃカッコつかないでしょ?」

「あはは……うん、そうだね。

 私も今日は切り上げようかな。」

「送って行くよ、途中までは一緒だから。」

「うん、ありがとう。」

 

 

 


 

 

 

隊舎の自室。

 

訓練後半が仮想空間だった為か、体にそれほど疲れが溜まっていない事に気付いた俺は、

汗をかかない程度の軽いストレッチで体を解していた。

元々フロントアタッカーと言うポジションを目指して体を鍛えていた為、体力が有り余っているとなかなか寝付けないのだ。

 

「スバルー、そろそろ明かり消すわよー」

「うん。明日も早いし、ちゃんと休まなきゃだねー」

 

そんな事を考えていると、二段ベッドの下に既に入っていたティアナが声をかけてきた。

……まぁ、俺の場合はちょっとした体の事情もあり、ある程度は寝なくても良いのだが。

 

「それじゃおやすみ、ティア。」

「ええ、おやすみスバル。」

 

今日この後眠れるかはともかく、就寝の挨拶を済ませるとティアナの持っていたリモコンにより部屋の灯りが消され、程なくしてティアナの寝息が聞こえて来たのだった。

 

……うん、やっぱりちょっと眠れないかも。

 

 

 


 

 

 

街灯とビルから漏れる明かりが照らし出す高速道路を走る自動車の中、誰の耳も無い事を確認した二人は普段出来ない内容を含んだ会話をしていた。

 

「なのはの目から見てどう思った? フォワード陣の4人は。」

「エリオは分からないけど、少なくともキャロは転生者かなぁ……

 やっぱり今の時点でヴォルテールの力を制御できてるって言うのは、他の3人と違って本人が転生者じゃないと無理だと思う。

 ティアナやスバルに関しては、ティーダさんを助けたのは別の転生者だったみたいだし、クイントさんの場合は……」

 

そう言いながらなのはが車窓を見れば、『『ジェイルフォン』新型モデル来月発売決定! 予約受付中!』と言う広告が目に入った。

広告では、さわやかな笑みを浮かべたジェイル・スカリエッティがこれ見よがしにジェイルフォンを掲げている。

 

「……ね?」

「あはは……」

 

そんな会話をしている内、やがて話題は訓練の方針に関する物へと変わっていく。

 

「……じゃあ、なのははどっちかって言うと克服させてあげたいんだね。ティアナの恐怖心。」

「うん。

 ティアナがティーダさんに頼んだ訓練も聞いてみたけど、最初から『センターガード』になる事を目指しているみたいなメニューだったし……きっと『センターガード』に思い入れがあるんだと思う。」

 

なのははティアナやスバルの訓練を見る際、既にどんな訓練を積んでいるのかを彼女達の家族に聞いていた。

教えている内容が被らないように調整したり、既に判明している長所や短所を考慮した訓練にする為だ。

その話の中でティアナの兄であるティーダから聞いた内容は、まさになのはが教えようとしていたセンターガードの基礎訓練と非常に似通っていたのだ。

 

……実情は彼女自身がセンターガードに思い入れがあると言うよりは、ティアナの訓練メニューをなぞっていただけなのだが。

 

「トラウマか……難しいね、私達の専門は戦い方を教える事だし。」

 

そんな事を知らない二人は彼女の目標の前に立ちはだかる壁を思い、どうすれば力になれるか思考を巡らせる。

 

「うん……そう言えば、フェイトちゃんってもうSLBは平気になったんだよね?」

「いや、平気ではないんだけどね……受けたら絶対に耐えられないし……

 でも……確かに、もう見ただけでは問題ないかな。」

「私の勘違いじゃなかったら、以前は怖がってたよね? どうやって克服したの?」

「え……うーん……

 私の場合、なのはとの訓練の過程で慣れていったって言うしかないよ。

 仮想空間内の魔法戦ではダメージも抑えられてるし、

 最後はもう『怖がってる場合じゃない』って開き直れた感じ。ちょっとしたショック療法かな。」

「ショック療法……

 SLBなら恐怖も吹き飛ばせるのかなぁ……」

 

 

 


 

 

 

「――ッ!! ぅわあぁぁッ!!!???」

「ぃいっ!!? ど、どうしたのティア!?」

 

何とか眠れないか……そう考えて数え始めた羊が500匹を超えた頃、突如として部屋にティアナの悲鳴が響き渡った。

慌てて2段ベッドから飛び降りて彼女の様子を見ると、彼女は跳び起きたままの姿勢で体を抱きしめて震えていた。

 

「はぁ……はぁ……え、何今の……?」

「いや、あたしが聞いてるんだけど……

 もしかして、怖い夢でも見た?」

「わ、分からないけど……急に背中にドライアイス入れられたみたいな悪寒が……」

「それ悪寒じゃ済まないと思うけど……」

 

話を聞く限りだと本当に原因が分からないようで、特に訓練で何処かを痛めた訳でもないらしい。

 

「……熱も無いみたいだね。シャマル先生呼んで来ようか?」

「う、ううん。もう平気……だと思う。

 ……ホント、何だったのかしら……?」

 

震えも治まったのか不思議そうに首をかしげる彼女の様子に一抹の不安を感じながらも、これ以上俺に出来る事は無い。

 

「んー……まぁ、ティアが大丈夫って言うんだったら良いけど。

 なんかあったら呼んでよ。出来る事なら何でもするからさ。」

「あ……」

 

シャマルも呼ばなくて良いと言われた以上、本当に問題は無いのだろう。そう考えて再び二段目に昇ろうとするが、俺のパジャマの裾を引く感覚に気付き、彼女に目を向ける。

 

「ティア?」

「ね、ねぇ……い、今なんでもするって言ったわよね……?」

「えっ、い、言ったけど……」

 

そう言うティアナの顔は、明かりの消えた薄暗い室内でも分かるほど赤く染まっていて……

 

えっ、本当にあのセリフで『なんでも』って展開になる事あるの?

 

「じゃ、じゃあ……と……」

「……『と』?」

 

緊張半分、期待半分で彼女の言葉を待つ。

 

 

 

「と……隣で、寝てくれない……?

 今一人で寝るのは……その、アレなのよ……」

 

――神様、ありがとうございます。

 

「も、もぅしょうがないなぁティアはーあははー……!

 それくらいあたしは気にしないし、全然一緒に寝てあげるヨ!?」

「……ん。」

 

そう言うとティアナは少し体をずらし、俺が入るスペースを作ってくれる。

 

「え、えっとぉ……それじゃ、その……お、お邪魔します?」

「何よその挨拶……」

 

や、ヤバい……緊張が凄い事になって来た! これ心音聞こえてない!?

でもティアナの方から誘って来たし、俺も今はティアナと同性だし! なんならティアナは転生者の筈だし問題無い筈だし……!!

 

け、結論! これは役得! 問題無し! だって添い寝だもん! 同性の友人ならこれくらいは普通にするよね!

 

 

 


 

 

 

「流石にSLBをショック療法に使うのは拙いと思うよ……

 トラウマが上手く消えるなら良いけど、多分無駄にトラウマを一つ増やすだけだし……」

「……あ、もちろん冗談だよ!? 流石に本気でそんな事考えないよ。」

「あはは……ちょっと安心したよ。なのはならもしかしてって思っちゃったから。

 ……うん、姉さんも同じ意見だって。」

「二人して私の事なんだと思ってるの!?」

 

 

 


 

 

 

……あ、温かい。それにナニコレ、なんか良い匂いする……!

 

「……なんか、人肌って凄い安心感があるのね。

 この先暫くの不安とか、全部吹っ飛んだ気がするわ。」

「え、えぇ……あたしの方はそんな感じじゃないって言うか……

 緊張でそれどころじゃないって言うか……

「……ふふ、何でアンタがそんなに固くなってんのよ。」

「な、何でだろうねー……あはは……」

 

耳元でティアナの声がする……!

これダメだ! こんな状況、疲れに関係無く眠れる訳がない!!

戦闘機人で良かった! 一日や二日寝なくても問題ない体で本当に良かった!!

 

 

 


 

 

 

「……でも本当にSLBで恐怖が克服できるのなら、試してみるのも良いかもね。」

 

 

 


 

 

 

「いやあぁぁぁ!!」

「ぐえぇぇ……ッ!! き、急にどうしたのティア……ッ!!」

 

唐突な悲鳴と共にティアナに抱き枕のように抱きしめられたが……無意識で魔力を使って体を強化しているのだろう、ご褒美よりは拷問に近い圧迫感だ。

戦闘機人で頑丈な筈の体からミシミシと何かがきしむ音が聞こえる……!

 

「ま、またさっきのが! 背筋にドライアイスが!」

「背中には何もついてないってば……うぐぅっ……!

 待ってティア、ギブギブ……! シャマル先生呼んでくるから一旦離して……!」

「今一人にしないでぇ……ッ!」

 

こんなかわいいセリフでこんな危機的状況になる事ある!? ちょっと待ってティアナ、極まってる! 極まってるから!!?

 

 


 

 

 

「やめておいた方が良いよ。本格的に魔王って呼ばれちゃうよ?」

「もう、だから冗談だってば!」

「それなら良いけど。

 ……あと考えてみたんだけどさ、こう言うのってやっぱり専門の人の助けを借りた方が良いと思うんだ。」

「そうだね……明日シャマル先生に相談してみようかな。

 メニューは考えるつもりだけど、きっとそれが一番ティアナの希望に沿ってると思うし。」

 

 

 


 

 

 

「――スヤァ……」

「な、なんて安らかな寝顔……

 ティアってこんなに寝相悪かったっけなぁ……?」

 

緩急の差が激しい……!

急に全てに許されたかのように安心した表情になったティアナは、疲れも溜まっていたのだろう……急激に眠りに落ちた。

 

「さり気にガッチリロックされてるし……

 し、仕方ないよね……? 抜けられないし、動けないし……」

 

おかげで心身ともに緊張も解けた為、色々と楽にはなったけど……横を少し意識すればそこにはティアナがいる訳で……

 

「ぅ……

 ね、寝られるかなぁ……」

 

……無理だろうなぁ……




その頃のエリキャロ「スヤァ……」
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